不動産協会・FRKが新年賀詞交歓会 上げ潮ムード一色
不動産協会・不動産流通経営協会(FRK) 合同新年賀詞交歓会(ホテルオークラ東京で)
木村氏 竹井氏
不動産協会と不動産流通経営協会(FRK)は1月8日、恒例の合同新年賀詞交歓会を開いた。アベノミクス効果で経済が上げ潮にあることから参加者からは威勢のいい声ばかりで、消費税率のアップを懸念する声はほとんど聞かれなかった。
冒頭挨拶に立った不動産協会理事長・木村惠司氏(三菱地所会長)は、「アベノミクス効果は雇用や株価、経済に波及し順調に推移している。消費税率が8%に上昇することは多少の懸念材料ではあるが、デフレを脱却し成長軌道を描く成長戦略を築かなければならない。マンション市況は好調だし、オフィスの空室率も下げ基調に向かう。建築費の上昇問題はあるが、ことに当たっては時に大胆に時に慎重に対応し、国民生活の向上と経済成長に貢献しよう」と呼びかけた。
乾杯の音頭を取った不動産流通経営協会理事長・竹井英久氏(三井不動産リアルティ社長)は、「買い取り再販事業やローン減税など流通市場の活性化に力強い支援策が講じられた。今年は景気回復が実感できる年にしたい」「高度化、多様化、複雑化しているお客様のニーズに対応する流通システムを構築し、流通市場活性化政策に応え内需拡大につなげよう」と挨拶した。
来賓としてあいさつした太田昭宏国交相は、「今年は心のデフレを打ち破り、景気回復が実感できる年にするとともに、2020年ではなくさらに先の2050年の未来を指向して街づくりを進める。皆さんと一緒になってそのエンジン役を果たしていく」と語った。
左から木村氏、岩沙弘道会長(右端が杉山氏)、
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以下、今年の抱負などについて参加者の声を紹介する。(順不同)
三菱地所社長・杉山博孝氏 年末年始の商業施設は大変な賑わいを見せた。今年は一言でいえば「イノベーション」。今までの停滞していた流れを突き破る勢いのある年にする
コスモスイニシア社長・高木嘉幸氏 生活者が経済成長を実感できる年にしなければならないし、持続可能な企業としての足がかりの年にしたい
ナイス社長・平田恒一郎氏 建築費の上昇、職人不足の問題はあるが、わくわくするような活気ある年にしたい
ナイス・平田氏(左)とコスモスイニシア・高木氏
三井不動産顧問・松本光弘氏 失われた20年を取戻し、向こう20年に向けた成長戦略を描くためにも今年はもっとも重要な年になる
野村不動産ホールディングス社長・中井加明三氏 マーケットがよくなるのは間違いない。一方で建築費の上昇をどう抑え、企業努力で吸収するかが大きな課題だが、それを行うのが私に与えられたミッションだと思う
野村不動産ホールディングス副社長・松本聖二氏 ことしもガンガン行きますよ(松本氏が弱音を吐いたのを聞いたことがない)
総合地所専務・長谷川治氏 わが社の持ち味である商品企画力を生かし、大手のすき間を狙っていく
日神不動産会長(全国住宅産業協会理事長)・神山和郎氏 4月以降よくなるとみている。経団連もサラリーマンのベースアップを後押ししているように、所得が上がるとみているからだ。当社? 検討中だ(リーマンショック後、会員会社の破たんが相次ぎ、いつも慎重な構えの神山氏が久々に前向き発言をした)
三井不動産取締役・飯野健司氏 アップワード(upward)、つまり上昇あるのみ
三井不・飯野氏
明和地所専務・藤縄利勝氏 前進あるのみ。マンションの売れ行きはいい。建築費の上昇懸念はあるが、ゼネコンと仲良くなるのがヒント
オープンハウス社長・荒井正昭氏 さらに成長する年にする。可能性? もちろん十分ある(東証上場2年目。真価が問われる)
オープンハウス・ディベロップメント社長・福岡良介氏 マンション、戸建てとも量的拡大を目指す。マンションは建築費の上昇で仕入れが難しくなってきたが、1~3月で巻き返す
山万常務・林新二郎氏 オリンピック開催の2020年に向け、日本の街づくりのプロトタイプを世界向け発信していくた第一歩としたい。今年は大学の誘致も実現しそう(ご存じ「ユーカリが丘」で〝奇跡の街〟を造りつつあるデベロッパー)
山万・林氏
安田不動産常務・岡光真従氏 賃貸事業では賃料上昇に期待したいが、テナントさんに無理強いするようなことは避けなければならない。建築費は10年タームで考えることも必要
オークラヤ住宅会長・上田順三氏 リーマンショック後、かなりプレイヤーが減少したが戻りつつある。景気上昇の波に乗り裾野を広げたい。長期スパンで体制づくりを進める必要もある
住友林業執行役員・町野良治氏 今年は国産材の活用を図るのが喫緊の課題だし、森林・林業の再生のためにリーダーシップを取る。それが我々の使命だ。中長期的には世界に視野を広げて山林所有を増やし、わが国の山林王になるのが夢(わが国4番目の山持ち企業。トップの王子製紙の760万haに対して同社は約4.2万ha。かなり水をあけられているが目標は大きい)
住林・町野氏
大京社長・山口陽氏 50周年を迎える今年は感謝の気持ちと誇りを胸に「お客さま第一主義」の精神を再認識し、様々な場面や事業で選び続けていただける「新しい大京グループ」をつくりあげていく
長谷工コーポレーション社長・大栗育夫氏 建築費? 上がますよ。施主さんと造り方などをよく相談して工事費を抑制するよう考えていきたい
長谷工コーポレーション副社長・辻範明氏 第一次取得層向けの低価格マンションの供給が難しくなってきた。地価と建築費が上昇し、売り値も上がってきた。(記者の出身県、三重の三交不動産さんをよろしく)うん、三交さんはずっと以前からのお付き合い(これからデベロッパーの長谷工詣でが激化するはず)
長谷工・大栗氏
ケン・コーポレーション田中健介会長が死去
ケン・コーポレーションの創業者で代表取締役会長・田中健介氏が昨年12月25日、死去した。享年74歳。
故人の遺志により通夜、葬儀は近親者のみで執り行われた。後日、「お別れの会」を行う予定。
田中氏は1939年生まれ。愛媛県出身。1964年早稲田大学卒。1972年12月、ケン・コーポレーション設立。2013年9月、代表取締役会長就任。
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田中氏はRBA野球大会の顧問を第1回大会から務められていた関係で、記者も20年間ぐらいお付き合いさせていただいてきた。「民間外交の役割を果たしてきたRBAは100人分ぐらいの外交官の価値がある」と話されたのが忘れられない。
また、第13回大会の決勝戦で三井不動産に敗れたとき、自ら率先して「三井さん、ありがとう」とスタンドからエールを送られ、ドーム全体が大合唱に包まれたのも強烈な印象として残っている。礼儀正しい方だった。茶目っ気もあり、時には英語を流暢に操りいつも周囲の人を笑わせていた。
本業については平成18年3月に取材したとき、次のように語った。
「私は創業以来、信用、信頼、コンプライアンスを最重要視してきた。信用は無限の資本金だ。今日のグループ企業の発展やJリートへの参入、ホテル事業など多角的なビジネスが実現できたのもまさに信用のお蔭。規模でナンバーワンになるより、信用でのオンリーワンだよ」「KENのDNAはしっかりプリントされている。後継者に心配はない」
今だから書くが、こんなエピソードもある。取材を終えてからゴルフ談義になり、社長室で田中氏はピッチングを持ち出し、6メートルぐらい離れた小さな的に当てるゲームを始めた。10打のうち半分ぐらいは的中しただろうか。田中社長は「普段はもっと入るんだ」と悔しがった。そんな姿を見て記者は「社長業は孤独なもんだなあ」と思った。
心からご冥福をお祈りいたします。合掌
三菱地所 年末年始の商業施設 記録的な賑わい
丸の内オアゾ/鏡割り
三菱地所の年末年始の商業施設がどこも記録的な賑わいとなった。
「プレミアム・アウトレット」は、元日休業の仙台泉、昨年4月開業の酒々井を除く御殿場・りんくうをはじめ7施設の元日の売上げが歴代日商1位を記録。12/21~1/3までの年末年始の売上高は、2012年12月に増床を行った神戸三田を除き、前年比でおおむね二ケタ増。店舗の入れ替え効果が奏功した御殿場は前年比3割増。国内客の来場増に加え、インバウンド客としてインドネシア・タイ・中国からも多数来場した。
丸ビル、新丸ビルなど5つの「丸の内」ビルは東京駅改装効果もあった前年を上回る売上げを記録。年始の2日の売上は新丸ビルで歴代2位、丸ビルが歴代4位となった。また、みなとみらいエリアの「MARK IS みなとみらい」の2日の初売りは開店待ちで約1500人が並び、グランドオープン翌日の6月22日に次ぐ開業来2番目の売上を記録した。
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記者の年末年始は寝正月だったため街の賑わいは実感できなかったが、ここ5年間、渋谷オーチャードホールのニューイヤーコンサートを聴きにいっているわが社の女性社員は「全席満席だったため初めて大入り袋をもらった。新しい5円玉が入っていた。とてもうれしかった」と話していた。
都市再生機構 行革の基本方針は示されたが前途は多難
独立行政法人のあり方について検討を重ねてきた行政改革推進本部が12月20日、基本方針をまとめた。都市再生機構については、東京都心部の約13,000戸あるタワーマンションなどの高額賃貸住は平成26年度からサブリース契約により運営を民間に委ね、財務構造の健全化に道筋をつた後は売却すべきとしている。
賃貸住宅については、定期借家契約の活用などにより収益性が低い団地は統廃合を加速させるべきとし、急速な高齢化が見込まれる団地については、医療福祉施設を誘致すべきとした。
また、ストックの老朽化などにより住宅管理コストは今後増加が見込まれるとし、確実にコストを下げる仕組みを構築すべきとした。
さらに、適切な家賃収入の確保を図るため家賃の引き下げや引き上げを機動的に行い、低所得の高齢者に対する家賃減額措置は、他の供給主体の住宅との衡平性を考慮してコストは公費で負担すべきとしている。
一方、都市再生事業については、開発型SPC(特別目的会社)の活用など民間との連携手法を多様化することで、リスクにみあった適正な収益の確保を促進すべきとした。
ニュータウン事業は平成30年度までの土地の供給・処分完了に向けた取り組みを促進すべきとしている。
人員規模については、東日本大震災に係る体制強化の必要性もあることから現在の水準を維持すべきとしながらも、関係会社は平成30年度までに数を半減すべきとしている。
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方向は示されたが、前途は多難と言わざるを得ない。平成24年度末で資産が14兆4,624億円に対して有利子負債は12兆7,068億円だ。
賃貸住宅の経営も苦しい。約75万戸ある賃貸住宅の空き家率は平成21年度に10%を超え、その後も上昇傾向にある。建物の老朽化にともなう維持・管理費コストが上昇すると思われるが、その一方で賃借人の高齢化・世帯収入減少の問題がある。家賃収入は平成20年度以降漸減を続けている。家賃を上げようにも、セーフティネットの一端を担うべきとする法律などが壁となっている。低所得者などを対象とした家賃の減額措置は約85,300世帯、減額総額は約156億円(うち国費85億円)にのほる。
都市再生事業は黒字体制にはあるが、民間や地方自治体が行う都市再生や活性化事業を支援・補完することを目的とされており、時間とコストが掛かる地権者の権利調整などを担わされているのも収益確保の足かせとなっている。
ニュータウン事業は、極めて厳しいと言わざるを得ない。大規模開発は地価が右肩上がりに推移するのを前提とした事業であり、バブル崩壊によって事業環環境が逆転した以降も開発を続けてきたのが今日の苦境をもたらした。新機構になった平成16年から土地の供給・処分を進めてきたが、いまなお3,000haを超える土地を抱えている。同機構がかかわった「多摩ニュータウン」(約1,400ha)と「つくばエクスプレスタウン」(約1,600ha)の合計以上だ。
これを平成30年度までに完了するのは至難の技だろう。繰越欠損金は2,000億円を超える。今後の地価動向にもよるが、さらに膨らむ可能性もある。
また、東日本大震災による復興市街地整備事業にも機構は全体59地区のうち27地区に関わっているが、この規模も1,000haは超えるはずだ。これも大丈夫かと疑問を挟まざるを得ない。
国策に沿って進めてきた事業ではあるが、バブルが崩壊してもだらだらと事業を進めてきた罪は重い。
大和ハウスグループ 情報の非対称性の解消目指すWeb「中古マンSHOW」開始
大和ハウス工業グループの大和ホームズオンラインは12月18日、中古マンション売買のWeb サイト“住まいのバトン”をリニューアルした情報サイト「中古マンSHOW」を2013 年12 月19日から開始すると発表した。
売り手と買い手の情報量に圧倒的な差がある『情報の非対称性』を解消し、不動産に係わる情報や生活関連情報を誰もが容易に入手できるようなサイト運営を目指す。同社は「市場の信頼性が増し、参加者が拡大し、中古流通市場の活性化に貢献したい」としている。
物件数はオープン時の物件数は約3,400 棟の既存マンションだが、月に約1,000 棟ずつ増やしていく。
「中古マンSHOW」サイトは:https://www.sumainobaton.jp/library/
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挑戦的で盛りたくさんなサイトだ。現行の仲介市場は、会員登録した仲介業者しか指定流通機構(レインズ)の不動産情報システムを利用できない情報の非対称性に問題があるとし、同サイトは「不動産業者に頼らざるを得ない」現状を打破するとしている。
物件情報は、従来の一般的なサイトに掲載されている情報のほか、標準住戸の図面、相場・賃料相場・表面利回りなども提示する。施工会社で検索できることもできるようにした。地域の公共料金、各種助成、街の発展性、安心・安全の情報も盛り込む。
さらに、駅ごとの新築価格・中古価格・家賃(70 ㎡換算過去3 年の平均)がわかるようにし、それらが上昇傾向なのか下降傾向なのかも表示する。あわせて、購入したマンションを賃貸に出した時、何年で元が取れるかを表した数値PERを表示する。
また、最終的には首都圏約500 駅の物件を掲載する最大規模の中古マンション図書館(データサイト)を目指し、『このマンションから売りに出たら紹介して欲しい』など、販売中でない物件にもオファーを入れることができるようにするという。
同業他社も中古マンションのWebには力を入れており、同社が挑戦的なWebを開設したことで競争は益々激化する。
「日土地虎ノ門ビル」竣工 浮利を追わず、環境にかける同社の矜持を見た
「日土地虎ノ門ビル」
日本土地建物が10月末に竣工した「日土地虎ノ門ビル」を見学した。同社の環境フラッグシップビルと位置づけ、国内の環境評価システムの最高ランクであるCASBEEの「S」、PAL:26%・ERR:43%により東京都の建築物環境計画書制度において、最高ランクの「段階3」、さらに国際的な環境評価であるLEED-CSの「ゴールド」を取得。同社の矜持が込められたビルだ。
物件は、東京メトロ銀座線虎ノ門駅から徒歩3分、港区虎ノ門一丁目に位置する敷地面積約1,536.83 ㎡の鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造地下1階、地上11階建て、延べ床面積11,507. 82㎡。設計・監理は日本土地建物(設計統括)、日建設計(構造)、清水建設(設備)。施工は清水・坂田・日土地建設共同企業体。
すべては紹介しきれないのでいくつかを紹介するが、おそらくこの中規模のビルでは最新の技術を導入したビルであることは間違いない。
まず、屋上の太陽光パネルと屋上緑化。太陽光パネルは96枚を設置し、年間使用電力量の1%、20kwを出力。共用部の照明などに用いる。屋上緑化では11階ガーデンテラスにオリーブなどを植樹して日射負荷の低減を目指す。
各フロアの共用部分には港区のみなとモデル二酸化炭素固定認証制度の認証取得を目指すため床には厚さ15ミリのクリ無垢材と厚さ12ミリの下地合板にはスギ材を、壁には再生土を含有させたタイルを採用している。
窓にはエアフローウィンドウを採用。電動ブラインドは太陽光追尾センサーを設けることで昼光制御を行い、カーテンウォールに換気口を設置して、中間期の省エネと自然の風をビル内に取り込む。さらに、ゾーン別の空調、照明もワンタッチで調整できるようにしている。
雨水の再利用では、雨水を地下のタンクに貯留し、ろ過した水を再生水として屋上・壁面緑化の自動灌水やトイレの洗浄水に使用する。トイレは断水した時でも利用できるトイレを一部に設置する。
エネルギーの見える化では、1階のエレベータホールにデジタルサイネージを設けたり、入居者がパソコンで使用量を把握できるようにしており、省エネ対策に利用する。デジタルサイネージではニュース、天気予報なども見える。
外構・壁面の緑化では、南側の壁面にプランター方式の緑化を図っている。プランターは各フロアで維持管理がしやすいよう工夫している。メイン道路に面した建物はピロティ方式とし、空地にはシマトネリコを植樹、ドライミストも設置する。
太陽光パネル 共用部分
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記者はビルが専門ではないが、同社の矜持をみたような気がした。壁面緑化は今のビルやマンションでは当たり前と言えるかもしれないが、プランター方式にしていたのには驚いた。同じようなものは、森ビルの「元麻布ヒルズ」がマンションのバルコニーに自動灌水方式のプランターを設置していたのを見たことがある。
階段室の照明にも驚いた。普段、照明はついていないが、ドアを開けると人の動きをセンターが感知してLEDの光を灯し、階段ステップには光を蓄える性能がある素材が採用されていた。
トイレの水も手洗い水と洗浄を使い分け、断水のときでも手動で利用できるようにしている心配りが憎いではないか。
CASBEE、LEEDについては省略するが、「S」ランクはまたまだ少ないし、LEEDはわが国でも認証を取得しているところが増えているが、「ゴールド」のもう一つランクが上の「プラチナ」は数えるほどしかない。
敷地内緑化と壁面緑化
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このような最先端の技術を採用したのが銀行系のデベロッパーというのも感慨深いものがある。バブル崩壊後、〝長銀系の優等生〟と呼ばれた日本ランディックを筆頭にたくさんの銀行・証券系と呼ばれたデベロッパーが破たんし、または会社清算などで市場から姿を消してしまったからなおさらだ。
姿を消したデベロッパーをいくつか紹介する。ランディックとは対照的に〝長銀の劣等生〟と言われたエルカクエイ、三和銀行系の東洋不動産、三菱信託系の菱進不動産、日債銀系のアサヒ都市開発、東京相和系の朝日建物(朝日建物を銀行系にするには異論があるかもしれない)、大和証券系の大和土地建物、日興証券系の日興不動産などだ。
金融系で生き延びたのは第一勧銀系の日本土地建物のほか、興銀系の興和不動産(現新日鉄興和不動産)と常和ホールディングス、富士銀行系のヒューリックぐらいしかない。
日土地がバブルを乗り切ったのは、浮利を追わなかったのがその理由の一つだろうと思う。記者は「横浜白山」(430区画)「横浜あずま野」(547戸)「横浜戸塚台」(298戸)などの大型戸建て団地を取材してきたが、売れるからといってバブル期に大量供給することなく、そしてバブル後の苦しいときも街をつくりコンスタントに供給してきた。
そして1999年。バブル崩壊後のどん底の経済状況の中からようやく立ち直りを見せたときだ。同社は法人営業部を立ち上げ、CRE(Corporate Real Estate=企業不動産)戦略支援ビジネスを始めた。「不動産は問題解決業」という視点だ。これが今日の伸張に繋がったのではないか。
環境不動産のトップランナーだ。
ドライミスト
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のサービス料を考える
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の「サービス」とは何か、その「お・も・て・な・し」を金額に換算したらいくらかについて考えてみた。
そもそも、高齢者福祉行政については「特別擁護老人ホーム」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」にも共通するように「特別」「有料」「サービス付き」などといった文言が枕詞として使用されているのかよく分からない。これは基本的には行政が高齢者の福祉や居住について「公的責任」を負い、行政の権限で「特別」に措置したり「有料」で住宅を供給したり、あるいは「サービス」を提供したりという権能を持つという意味が込められているように感じるのだが、この点はさて置くとする。
サ高住の入居費用は「家賃」「共益費」「サービス費」の3つで構成されている。家賃は、一般的な賃貸住宅と同じようにいわゆる相場が基本となり、広さや設備仕様などによって異なってくる。高齢者住宅財団(財団)の調査研究によると、全国の全住戸(65,647 戸)の平均家賃額は64,178 円となっている。
共益費は、主に賃貸住宅の食堂、ラウンジ、浴室など共用部分の維持・管理に充てられる費用で、財団によれば全国平均では18,470 円となっている。
さて問題の「サービス」。サ高住について定めた「高齢者の居住の安定確保に関する法律」によれば、サ高住は、①状況把握サービス(入居者の心身の状況を把握し、その状況に応じた一時的な便宜を供与するサービス)②生活相談サービス(入居者が日常生活を支障なく営むことができるようにするために入居者からの相談に応じ必要な助言を行うサービス)③その他の高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスを提供する-ことが必須要件となっている。
財団によれば、状況把握・生活相談費用の全国平均額は19,479 円(0円を除く)で、「兼務が多く有資格も様々であるうえに、単体で収益をみるのではなく家賃や介護保険事業などを組み合わせて収益のバランスをとる場合があり、その費用の根拠は利用者からみると分かりにくいとの指摘がある」「費用が『0円』という物件も地方に行くに従い多くなる傾向がみられた」とある。
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記者が注目したのは財団が指摘している「費用の根拠は利用者からみると分かりにくい」という一点だ。ホテル・旅館、飲食店などで「サービス料」として一律に10%徴収するのもよく分からないし、サービスが必須のサ高住でサービス料がゼロ円というのも解せない。
サ高住における基礎的なサービスとは、状況把握・生活相談のほか、緊急時対応、アクティビティ、健康管理、フロントサービス、服薬管理、シャトル便・送迎、入浴、介護、洗濯・掃除、付き添い、配膳など多岐にわたっており、オプションとして食事、掃除・洗濯、付き添い、健康管理、買い物の代行、介護サービス保険外の自費支援サービスなどとしているところが多い。付き添いや健康管理などは基礎的サービスに含めたりオプションにしたりと事業主によりまちまちである実態も分かる。
つまり、サービスとは何かを明快に示しているものはないということが分かる。
しかし、それでいいのだろうか。例えが適当かどうか分からないが、「サービス」「ホスピタリティ」「おもてなし」の単語に記者はリッツ・カールトンに反応する。2007年3月30日に「東京ミッドタウン」に開業した「ザ・リッツ・カールトン東京」で究極の「おもてなし」を体験したからだ。
宿泊体験記には次のように書いた。「翌日昼ごろにも、感動的なもてなしを受けた。タバコを吸いたくなったので、ロビーで『タバコを吸う場所は外しかありませんか』と聞いたところ、『バーなら結構ですので、よろしかったらどうぞ』とスタッフが応えた。内心、真っ昼間から1杯2000円以上もするワインを飲まなきゃならないのかと思ったが、飲み物はオーダーしなくてもいいと言われた。こんなサービスをするホテル・旅館は日本中のどこを捜してもないだろうと思った(中略)ロビーからは生演奏のクラシック音楽が流れてきた」
これが本物のおもてなしだ。富裕層なら間違いなくバーラウンジでビールなりワインなり飲んだはずだ。ホテルマンはプロだ。記者が富裕層でないのは一見して分かる。お金持ちにも貧乏人にも平等に対応してくれたスタッフに感動したのだ。タバコ1本吸うのに記者は数千円(もっとかも)の価値を見いだした。
ホテルでは、リッツと対抗するマンダリン東京でも驚くべき対応を経験している。リッツが開業する約1カ月前だった。そのときの記事にはこう書いた。「宴もたけなわのころ、記者はワインを注文しようとカウンターに近寄った。そのとき、グラスが倒れ、ワインが記者のスーツにかかった。スタッフがすっ飛んできて『大丈夫ですか、失礼しました』とタオルでぬぐってくれた。むっとした記者は『大丈夫じゃない』と応えた。しかし、怒りは数秒で収まった。
(中略)瞬時に考えたのは『マンダリンはこういうときどういう対応をするのだろうか』だった。ホスピタリティではリッツ・カールトンがライバルという同社の対応を体験するには絶好の機会だと思ったのだ。
(中略)バンケットオペレーションズマネージャー氏がすぐ駆けつけてきて、丁重にお詫びを言ってくれた。ここまではどこのホテルでもやることだろう。次の言葉には、記者も驚いた。『「別室で着替えていただいても結構なのですが、着替えをお持ちでないでしょうから、ご自宅までうかがいます。クリーニングさせていただきます』とマネージャー氏が言ったのだ」
この2つの世界的なホテルは、ホスピタリティはどうあるべきかを教えてくれる。サ高住だって基本的には同じだ。入居者が感動するようなザ―ビスを提供すれば、トラブルなど発生しないはずだし、室の高さは瞬く間に広がるはずだ。そうなれば高額のサービス料金も可能になる。
質の高いサービスを提供するには大きな課題もあるように思う。サ高住を含めた医療・介護従事者の待遇改善だ。リッツ・カールトンは宿泊客を「淑女・紳士」と呼ぶ一方で、スタッフも「淑女・紳士」として処遇するようクレドで謳っている。医療・介護に従事するスタッフもまたそのように遇されないと高いホスピタリティは実現しないのではないか。現場のスタッフが「これは基礎のサービス」「これはオプション」などと説明することは大事だが、本来はそのような区別なしに入居者のために働くのがサービスではないか。
サ高住の退去理由の4分の1は「入居者の死亡」だという。終の棲家で最高の「お・も・て・な・し」を受けられるようなサ高住を願うばかりだ。〝地獄の沙汰も金次第〟にならないよう国も支援すべきだ。
比類なきホスピタリティの高さリッツ・カールトン 記者も初体験(2007/4/2)
積水ハウス 住宅メーカーにこだわり医療・介護事業を強化
「シノン青葉台」
積水ハウスは12月12日、医療・介護事業報告会&「シノン青葉台」見学会を報道陣向けに行った。当日は同社専務取締役執行役員東京支店長兼コーポレート・コミュニケーション部長・平林文明氏ほか執行役員東京シャーメゾン事業本部長・堀内容介氏をはじめ医療・介護事業を担当する関係会社の幹部全員が揃い、同事業にかける意気込みを示した。報道陣も約40人が参加した。
冒頭に挨拶した平林氏は、「医療・介護事業は、皆さん(報道陣)にはあまり認識されていないが、当社は大きな事業として位置づけ全国的にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を展開している。施設としてではなくあくまでもメーカーとしての住宅を深耕する方針、思いを見ていただきたい」と語った。
同社は2011年11月にサ高住の登録が始まって以降、これまで東京、大阪圏を中心に全国で6,605戸(うち1,669戸が東京)の登録を行っている。主に自立型のアッパーを対象とした「グランドマスト」と、自立から要介護まで幅広い層を対象とした「Cアミーユ」で展開。住戸面積は全国の約7割が25㎡以下であるのに対し同社は25㎡以上を基本とし、施設ではなく住宅の延長として捉え、今後もグループ会社の積和不動産などと連携し、専用部材の開発、ユニバーサルデザインの深化などを進め他社との差別化を図っていく。年間売上高は250~300億円で、地方展開も視野に入れ近い将来1,000億円にする目標。
ラウンジ
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同社のサ高住を見学するのは昨年竣工した「マストライフ古河庭園」以来だが、今回の「シノン青葉台」(74戸)も募集開始2カ月で広い住居を中心に約5割の契約率というからかなり人気になっているようだ。
注目したのは手すりだ。手すりは途切れないから機能が果たせるのだが、実際はほとんどの施設・住宅もそうはなっていない。今回の物件もすべてがつながっているわけではないが、機械室や防火扉、メーターボックスにも手すりがついていた。浴室には6カ所ぐらいについていた。どこよりも早くメーターモジュールを採用し、ユニバーサルデザインに取り組んできた同社だからできることだ。
サ高住は今後も伸長が期待できる。全国に約215万戸もの住宅を建設してきた同社の実績がものをいうのだろう。
物件は、東急田園都市線青葉台駅からバス7分徒歩6分の横浜市青葉区桂台2丁目に位置する3階建て。居室面積は27.28~62.20㎡。健常棟と介護棟に分かれているのが特徴で、将来的には介護棟は有料老人ホームとして利用できるようにしている。
手すり(他社の物件ではこの消火設備の部分の手すりが途切れているものが多い)
ナイス ワンストップ店舗の「ナイス住まいの情報館 住まいるCafe鶴見東」見学
、「住まいるCafe鶴見東」店舗内
ナイスが東京都・神奈川県の17カ所で展開する「ナイス住まいの情報館~住まいるCafe~」の一つ、「住まいるCafe鶴見東」を見学した。
「住まいるCafé」は、土地や中古マンション・戸建ての売買仲介にとどまらず、マンション・一戸建て、新築・中古、購入・売却・賃貸、住宅建築・リフォームなどあらゆる住まいに関してワンストップで対応するソリューション型店舗で、2010年から展開しているもの。店舗の外観には「レイヤードブラウン様式」を採用し、木質内装材を取り入れたサロン風の内装に仕上げ、無料でコーヒーを提供するなど気軽に入れるよう工夫を凝らしている。
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記者はアポなしで訪ねたが、スタッフに「どうぞ、どうぞ」と気軽に応じてもらい店舗のつくりなどを見学した。貰ったチラシには中古マンション・戸建ての情報だけでなく、同社グループ以外の物件を含めた新築物件、賃貸物件も紹介されており、エリアの飲食店紹介、イベント情報も盛り込まれていた。
約6畳大のサロンは無料で市民に提供されており、クリスマスツリーづくり教室、陶器キャンドル入れづくり、地震体験車体験会、出張サンタなどのイベントが予定されていた。無料の工具貸し出しサービスも開始していた。
スタッフは「毎日、コーヒーだけを飲みにいらっしゃるのも大歓迎です」と笑った。
イベントコーナー
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一度は何らかの形で同社と取引した顧客でないとコーヒーだけを飲みに立ち寄るのは難しいと思ったが、CSR活動の一環と考えればこの取り組みは評価できる。さらに進めて生活相談・子育て・税金相談なども可能ではないか。「不動産仲介」のイメージを一変させるはずだ。
かつて同社・平田恒一郎社長が「闇雲に首都圏全域で事業展開するつもりはない。地域のお客さんに評価される地域ナンバーワン企業を目指す」と語ったのを記憶している。本拠のある鶴見を中心に川崎エリアのマンション市場占有率は3割を越えないはずだ。地域の実情、顧客の志向を熟知しているからこそ、70㎡台で4LDKのプランが生まれる。当面は供給を増やしている戸建て事業に注目だ。
コーヒーコーナー
再生建築学の設置を 青木茂氏が三井不動産のセミナーで語る
リファイニングについて講演する青木氏(ミッドタウン東京で)
三井不動産と三井不動産レジデンシャルが12月8日に行なった「マンション再生セミナー」を取材した。セミナーでは、老朽化マンションの課題である①耐震性②設備の老朽化③設備・間取りの陳腐化に対して生命の危機、資産の危機をどう克服するかについてリファイニングによる長寿命化と建て替えによる再生の2通りの将来設計のプランを示した。リファイニングについては、青木茂建築工房・青木茂主宰(首都大学東京特任教授)が、建て替えの留意点についてはアークブレイン・田村誠邦社長(明治大学特任教授)がそれぞれ講演した。
まず、青木氏の講演を紹介する。田村氏の講演は改めて紹介する。
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青木氏は、リファイニング建築とは躯体構造を基本的にはいじらないリノベーションやリフォームとは異なり、徹底して耐震性、施工精度、コンクリートの中性化などを精査し、一度スケルトンに戻してから、用途に応じデザインや機能を一新することで新築並みの価値のある建築物に蘇らせるものと説明した。
青木氏は建築確認書類や検査済証など一切ない建物の再生や、入居率の悪い賃貸住宅を居ながらにして再生して利回りの高いものに再生した事例、屋外廊下や階段室を室内化した事例、賃貸を分譲にした事例などを紹介。
リファイニングに当たっては①建築確認を取得すること②検査済証を取得すること③家歴書を作成すること④コンクリートの中性化を確認すること-の4点が重要であることを説明した。また、既存-現在-将来の120年ぐらいの時間をどうデザインするかが重要で、それぞれ構造、意匠、用途について30~40年に1回ぐらい見直すべきと強調した。
また、今後の課題として、①建築技術の伝承②雇用の促進③耐震診断のデータベース化④法の整備-の4点について話した。耐震診断をデータベース化すれば、診断スピードが飛躍的に高まり、再生しやすいよう条例の整備も必要と語った。また、建築物の再生に関する教育も必要とし、国交省や文科省には「再生建築学」の専門のコースを設置すべきと提案している。
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青木氏は、「プランについてはいつも所員とけんかしている。ピンクや赤の壁などを提案する所員にグリーンを主張した私はことごとく敗れている」と会場を笑わし、「これまで500件以上の案件を手がけてきたが、実ったのは50件くらい。リファイニングがなかなか進まないのは、私の社会的評価が低いのだと判断して、思い切って築40年の古いビルを買ってリファイニングした。港区のYSビルがそれで、1、2階は賃貸とし、3~4階は自宅にした。『Y』は女房の『S』は私の名前」などと、自らが人体実験したことを紹介した。
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黒川記章氏や磯崎新氏などが設計した建築物を青木氏が再生したのはリリースなどで知っていたが、これまでどのような仕事をされてきたのかよく分からなかった。そして驚いたのが、別掲の「千駄ヶ谷」の賃貸マンションを分譲に再生するプロジェクトの見学会だった。何と300人も見学者が集まった。「只者」ではないと思い、青木氏に失礼だとは思ったが、「失礼ですが、その道では知られた方なのでしょうか」とお聞きしたところ、「自分では判断に困ります」と返された。
そこで青木氏の事務所のホームページをみた。「日経アーキテクチュア」(2013/10/10)の「発注したい設計者・施工者ランキング」の設計者好感度ランキングで何と17位にランクされているではないか。トップは日建設計、2位は日本設計、3位は三菱地所設計、4位は隈研吾氏、5位は伊藤豊雄氏、6位は山本理顕氏…11位に安藤忠雄氏と磯崎新氏、13位がNTTファシリティーズ、14位が久米設計…そして17位が青木氏だ。そのあとにはプランテック、松田平田、山下設計、石本建築設計、梓設計、アール・アイ・エー、東急設計など錚々たる建築家・設計会社が続く。
ものを知らないことがこれほど恥ずかしいことだと改めて思い知らされた。取材をお願いしたのは、青木氏についてもっと知るためだった。「YSビル」の取材はさせていただけないだろうか。
「マンション再生セミナー」