
重水氏(左)と井上氏(神保町三井ビルディングで)
法改正により建替え決議が4倍増-旭化成ホームズは9月7日、「第12回 高経年マンション再生問題 メディア懇談会」を開催し、同社マンション建替え研究所長・重水丈人氏は、今年度のマンション再生決議が過去10年平均の約4倍の13件に達する見込みであることを明らかにした。
13件の決議を種類別にみると、建替え決議が8件、建物敷地売却決議が5件で、議決要件別では5分の4(80%)が3件、4分の3(75%)が10件となっている。
個数別では、建替え決議の3件は100戸以上、2件が50戸以上100戸未満、、3件が50戸未満で、建物敷地売却は2件が50戸以上100戸未満、3件が50戸未満となっており、敷地売却はマンション再生に対応しやすいことがうかがわれる。同社のこれまでの58件の議決事例の29件(50%)が50戸未満であることから、要件緩和は小規模マンションに有効であることが分かった。
また、同社の48事例の建替えによる「住戸再取得率」は約60%で、「調布富士見住宅」が建替えられた2015年の約85%をピークに年々低下しており、敷地売却決議はこの点でも有効であることがうかがわれる。
激増したのは、2026年4月に施行された区分所有法、マンション再生円滑法改正により、従前は建替え決議は区分所有者と議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成が必要だったのが、新法では所在等不明区分所有者を決議の分母から除外でき、耐震性の不足、火災による安全性の不足、外壁などの剥離による周辺へ危害を与える可能性、給排水管の腐朽により衛生上有害となる恐れ、バリアフリー基準への不適合の「客観的事由」が証明されれば、4分の3以上の賛成で再生決議ができるように緩和されたのが大きな要因とみられる。
また、建替え決議が成立した場合、専有部に居住する賃借人に対して賃貸借契約の終了を請求することができるようになった(従前は「建替え」は借地借家法の賃貸借契約終了の正当事由とされていなかった)。
さらに、旧法では建替え決議かマンション敷地売却かの2択しかなかったのが、法改正により「建替え決議」「建物敷地売却決議」「建物取り壊し敷地売却決議」「取り壊し決議」「再建決議」「建物の更新決議」の7種類の議決に増え、再生後は賃貸マンション、ホテル、オフィス・店舗、宅地分譲も可能となった。
重水氏は、「法改正により再生決議のハードルが低くなった。初期段階での再生選択肢を適切に比較検討することが重要。法改正により当社への問い合わせ件数は2024年度は335件だったのが429件に増加した」と語った。
懇談会では、東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課長・井上公之氏が東京都におけるマンション管理適正化や防災力向上の取り組みなどについて講演。
2024年度末時点のマンション総戸数は約203万戸で、総世帯の4分の1にのぼり、23区では江東区、世田谷区、港区、大田区、大田区など都市開発が続き、区域面積が大きいところの比率が高く、港区、新宿区、渋谷区、大田区に高経年マンションが多いと説明。マンション適正化に向けたとの支援策として分譲マンション総合相談窓口、マンション管理、建替え・改修アドバイザー無料派遣を行っていることを報告した。
マンション再生については、令和6年度末の建替えなどの件数は310件(円滑化法74件、再開発22件、敷地売却1件、その他213件)となっており、高経年マンションは敷地が狭いものや容積率に余裕のないことが再生を阻んでいると説明した。
マンション防災の取り組みでは、「東京とどまるマンション情報登録・閲覧制度」の令和8年3月末時点で951件(約13.0万戸)で、補助対象の拡大や補助率の引き上げなど支援策の拡充を図っていると話した。
◇ ◆ ◇
この日の午前中、東京駅直結の東京建物「TOFROM YAESU TOWER」メディア向け内覧会の取材があったのだが、建替えマンションの取材も欠かせないと考え、途中で切り上げた。68店の試飲・試食の大判振る舞いも体験しなかった。朝から何も食べていなかったので、コンビニでおにぎり1個を買って会場に駆け付けた時は、井上氏の講演は始まっており、半分くらいしか話を聞けなかった。
目に飛び込んできたのは、上段冒頭に紹介した「法改正後、決議数4倍に!」の配布資料の表紙の文言だった。中身を確認したら、「過去10年平均の約4倍の13件」とあった。
つまり、13÷4=3.3件が年間の決数数だ。これが多いか少ないかはなんとも言えないが、同社の2025年4月1日時点での全国マンション建替え実績は33件で、シェアは1割以上で、2位以下を倍近く引き離しているナンバーワン企業だ。
同業他社の動向が気になったので、この点について重水氏に聞いた。13件の半分はJV案件ということだった。これまでの実績からして、同社を含めた全国の決議案件は約100件に上ると思われる。2025年4月1日現在の全国の建替え件数はトータルで323件(国交省データ)だから、ものすごい数字だ。激増した理由は前段で紹介した通り、法改正により再生決議のハードルが低くなったからだ。
重水氏は、建築費の暴騰などで再生の課題は多いと話したが、記者は大きな可能性も秘めていると思う。土地価格の比率が低い郊外部での再生は絶望的だが、それでも土地代がただ同然だから、販売価格は新築より大幅に低く設定できるメリットがある。しかも、高経年マンションには居住環境が良好なものが多い。合意形成は大変な時間と労力を要するが、同社をはじめ同業他社の一層の取り組みに期待したい。
もう一つ、記者が気になったことについても質問した。この日の懇談会にはオンラインも含めて数十人のメディアが参加していたようだ。結構なことだ。しかし、マンションなどのメディア向け見学会の参加者は激減する。ひと桁というのも少なくない。
そこで、嫌われるのを承知で、「御社の建替えマンションの見学会は10件くらいほとんど取材している。みんな素晴らしかった。座学も結構だが、メディアの方は自分が建替え現場を見ないと、読者の心に響く記事は書けない。御社も含めて同業他社と話し合って見学会をどんどんやっていただきたい」と聞いたら、重水は「取り壊し現場の見学会を含めて検討する」と答えた。
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