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2022/12/13(火) 23:01

長野市の公園問題 制度疲労の法、希薄な人間関係、報道姿勢…社会課題を露呈

投稿者:  牧田司

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多摩の空に希望の虹を見た(12月13日13:30ころ、京王相模原線若葉台駅近くの車内から)

 昨日(12月12日)のことだった。見るとはなしにどこかのテレビを見ていたら、「子どもの声がうるさい」との「一人の近隣住民の苦情」を受け、長野市の公園の廃止が決まり、公園廃止について荻原健司市長が会見を開いた模様が映し出された。

 この報道に記者は条件反射のように反応した。「一人の苦情」-人数にではない。都市公園が住民の反対によって廃止されることなどありえないからだ。

 都市公園法第16条(都市公園の保存)には「公園管理者は…みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならない」と規定されている。

 この「みだり」の文言は、小生そのものの「みだら」を連想させ、その意味も〝むやみやたら〟と解されるので嫌いなのだが、いずれにしろ、法は都市公園の廃止はそれなりの理由なしに廃止してはならないと規定している。

 長野市の都市公園条例の第14条(都市公園の区域の変更及び廃止)でも、「市長は、都市公園の区域を変更し、又は都市公園を廃止するときは、当該都市公園の名称、位置、変更又は廃止に係る区域その他必要と認める事項を明らかにしてその旨を公告しなければならない」とある。

 市条例が市長に求めている「その他必要と認める事項」として、「地域住民の苦情」は必要ではあるが十分ではないはずだ。法治国家だ。地域住民の賛成や反対で行政や法律が捻じ曲げられてはならない。ましてや、施設は地域住民の平穏な生活を維持するための公園・遊園地であり、児童施設だ。その施設が発する音を〝騒音〟と解釈するのであれば、幼稚園・保育園、小中学校なども〝嫌悪施設〟と判断されることになりかねない。市長は、廃止に至った正当な理由を示さなければならないと考えた。

 それを怠り、報道されていることが事実であれば、市の決定は都市公園法、長野市都市公園条例に違反する恐れがあると思った。

 そこで、長野市の公園緑地課に電話で問い合わせた。担当者は次のように話した。

 「当該遊園地は都市計画法、都市計画条例に基づく位置づけではなく、市独自の都市公園に準じる施設として2004年から運営しているもので、敷地は契約期間の定めがない借地。『子どもの声がうるさい』との苦情を受け、近接する児童センター、小学校、保育園と12の区長会(自治会)と協議を重ねた結果、100人以上の子どもが利用している遊園地で声を出さないで遊ばせるのは不可能という結論に達した。この結論をもとに区長会が『廃止』の決断を行い、市へ廃止するよう要望書を提出し、市は10月1日付で、通学区でもある8区長会に所在する住民への回覧を行った。回覧に対する反対意見は2件寄せられたのみ。遊園地の設置と廃止はいずれも区長会の要望に基づくもので、その決定には瑕疵はない」

 さらに、「市では、開発行為に基づく公園などの公共空間設置基準(3,000㎡以上はその3%)に設置されたものを法律に準じる遊園地として管理している。市内に都市公園は約210か所あるが、遊園地は約520か所もあるのはそのため。市民の方々に都市公園と遊園地の違いをきちんと公開・説明してこなかったことは反省しなければならないが、一人当たりの公園面積は人口減少により増えるが、その分、公園の維持管理費は増大し財政を圧迫する。これは当市だけでなく全国の自治体の課題」とも話した。

◇        ◆     ◇

 この公園緑地課の担当者の話をどう受け止めるか。デベロッパーの用地担当、商品企画担当の方はよくお分かりだろう。小生は、この担当者の話を聞きながら、2020年に取材した「THEパームス相模原パークブライティア」の提供公園のことを思い出した。是非、その記事と一緒に読んでいただきたい。ここでは詳述しないが、「児童公園(街区公園)」は問題が山積する。

 今回の問題をセンセーショナルに取り上げたメディアにも問題があるが、これをきっかけに、「児童の健全な遊び」「児童の健全な育成を図る」目的の児童福祉法の改正を含め、再検討する機会にしてほしい。「児童遊園」「児童公園「街区公園」を区別できる人はほとんどいないはずだ。

 一般社団法人日本公園緑地協会「全国中核市等における公園緑地の課題に関する調査研究」(平成28年)は、「500㎡以下の狭小公園については、「公園の統廃合」や「機能分担」等が望まれており少子高齢化・人口減少時代の到来を受け、かつて児童のための公園として整備されてきた小規模公園の利用が極めて低く、社会的ニーズとの乖離がある」と指摘している。

◇        ◆     ◇

 市の対応について。瑕疵はないと思うが、問題がないわけでもない。「(法律・条例に)準じた」という文言は微妙で、解釈によってはどのようにも受け止められるからだ。法律と同じ効果・拘束力があると考える人もいれば、法律・条例ではないから、判断は行政に委ねられると解する人もいるのではないか。

 もう一つは、区長会(自治会)は果たして地域住民の代表かという問題だ。記者は千代田区の神田警察通りの街路樹伐採の是非を巡って区と地域住民が裁判で争っているのを取材しているが、区側は町内会長らで組織する街づくり協議会を通じてきちんと説明したと主張し、街路樹伐採に反対する原告らは〝寝耳に水〟とし、町内会の長は住民代表でないと反発している。

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 縷々述べてきたが、今回の問題がわれわれに突き付けているのは生活騒音・臭いとは何か、嫌悪施設とは何かということだ。音でいえば、子どもの声もそうだが道路、飛行機、鉄道、救急車、パトカー、新聞配達(バイク)、風鈴、ピアノ、念仏、夫婦喧嘩、ハイヒール、ネコの交合、年寄りのしわぶき、夫(または妻)のいびき…全てが嫌悪され、臭いでは隣家のニンニク、タバコの臭いを何とかしろという声だ。

 記者は、これらの問題はほとんどすべて人と自然、人と人のコミュニケーションの欠如から発生していると考えている。30年も昔か。横浜ペット裁判を取材したことがある。マンション管理規約でペットの飼育が禁止されているのに、仲介業者の〝大丈夫でしょう〟という説明を鵜呑みにして大型犬と一緒に入居した購入者が、管理組合に訴えられて敗訴した。入居者は退去することになった事件だ。

 そのマンションの現場に足を運んだ。マンションは環七に面していた。居住者に話を聞いたが、玄関を開けっぱなしだと声はほとんど聞き取れなかった。そのマンションの悲劇だったのは、南傾斜の敷地の目の前にマンションが建ったことで、中層階以下の住戸の眺望が奪われたことだった。多分、居住者のストレスは最高潮に達していたはずだ。だからといって、ストレス源の環七や隣接マンションを訴えたところで勝てるはずはない。そのストレスのはけ口に被告をしたと今でも思っている。

 何か起きると弱者を〝寄ってたかって叩く〟世の風潮、白と黒の区別をあいまいにする白内障社会も問題だ。今回の問題は、わが国か抱える社会課題を象徴的に顕在化させたと言える。

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 長野市の行政資料から、一通り都市公園や緑に関する施策を読み込んだ。わが多摩市や江戸川区には劣るかもしれないが、水準以上だと思う。

 同市の平成31年度の一人あたり都市公園面積(遊園地含む)は8.71㎡(目標は10㎡、多摩市は13.64 ㎡、江戸川区は11.31㎡、東京都は約5.76㎡)であり、一人当たりの公園・緑地予算は4.1千円(多摩市は土木費含み3.1万円)だ。

 緑の将来像に「心かよう美しい緑のまち ながの」と描き、緑化施策として①緑化樹木配布②ながの花と緑大賞③ながの花と緑 緑育フェスタ④保存樹木等指定事業⑤保存樹木等管理補助金⑥街路樹愛護会報奨制度などを行っている。

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