「まちづくりとはいったいなんだろう。住民が大切にしてきた文化や歴史を守ることも必要な一方、表面を新しくして便利にすることも必要だ。だからこそ意見の相違も生まれる。それを乗り超えるには話し合いしかないはずだ。そのプロセスを考えることもまちづくりなのではないか。イチョウの切り株が私たちに問いかけているような気がする」
これは、専修大学国際コミュニケーション学部のゼミ生が、神田のまちづくりの現状を探る一環として、12分のドキュメンタリー「変わりゆくまち 神田」にまとめた、その締めくくりのナレーションだ。
まちづくりは言うまでもなく、このイチョウ伐採問題に少なからずかかわってきた〝街路樹の味方〟の記者は、この問いかけにぎくりとさせられた。心臓をわしづかみされたような複雑な気持ちを味わった。
参加資格を問わないドキュメンタリー上映会が4月30日夕、千代田区神田神保町の同大学キャンパスで行われた。
冒頭、専修大学国際コミュニケーション学部・土屋昌明教授は制作に至った経緯・意図について「専修大学の所在地は千代田区なのに区のことをなにも知らない。これではいけない。『千代田学』は区と区内大学の連携協定に基づき、区の助成を受けて行っている調査・研究で、まちと人の多様性を考察することを目的にしている。昨年10月から研究を開始した。まちは開発が進みどんどん変わっている。いま現在残っている姿を映像に記録することは大事なことで、映像はスマホで簡単に撮れる。学生のプレゼンにも使える」と話した。
ドキュメンタリーは、土屋教授のゼミ生4人が今年3月まで半年かけて取材・撮影しまとめたものだ。制作にあたっては、映画監督でもある同学部客員教授・舩橋淳氏が指導した。
ドキュメンタリー上映会(専修大学10号館キャンパスで)
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ドキュメンタリーは、再開発に伴う神田のまちの変貌、区民の声が行政に届かない苛立ち、再開発ラッシュがもたらす問題点を指摘する住民や区議の声が中心だ。いくつか紹介する。
「地上げで散々ぼろぼろにされちゃった。もう古い話だから、皆さんわからないかもしれないが、シャッター開けると不動産屋が土下座してんだよ。信じられないでしょ。で、『売ってください』と。売ったらそのまま転売しちゃって、大手がまとめて再開発するわけですよ」(バブルを経験した地元の商店店主。記者も地上げの現場を何度も取材している)
「(見張っているのは)もう300日ですから、今度の土曜日で。毎日夜中から朝方まで。それしか方法がないんですよね。イチョウに寄り添っていたら、(工事業者が)引き上げることになれば、伐られない可能性があるということですから」(神田警察通りの街路樹を守る会の代表)
「伐ってしまったら歴史も文化もすべてなくなってしまいます。やっぱり未来永劫、まちは変わってもあの木だけは残していただきたい。昔住んでいた方も帰ってらっしゃったとき、ああ、やっぱりここがふるさとだと感じられるはずです。戦中から戦後ずっと見守ってきた木をね、簡単に伐らないでいただきたい」(イチョウが若木だったころを知っている地元居住者)
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どうしてこのような反対者の声ばかりになったのか。それには理由がある。ドキュメンタリーの途中に「直接区役所で話を聞いた。承諾を取って撮影した動画は、のちに映像使用を拒否された」とのナレーションが流れた。区のコメント(回答)は黒地に白抜き文字の1枚のみしかない。次の通りだ。
「伐採反対の住人に説明を求められ、説明会を実施した。かつ、陳情も出たので一旦工事を止めて街路樹を守る会と、胸襟を開いて少人数で意見の交換も行った。それでも一致点は見いだせなかったということになっている」
動画使用を拒否されたことに対して学生は「インタビューを通じて視点が広がった」「賛成する人も反対する人も、両方から話を聞いた」「コミュニケーションが取れない怖さを知った」などと多くを語らなかったが、土屋教授は「私たちは、大学のゼミの一環として調査・研究しているのであって、行政に取材しているのは行政の施策のPRを代行するためでもないし、伐採問題を取り上げるのは、反対する人たちの代行をするためでもない。PRしか認めない区職員の姿勢はリテラシーに欠ける」と批判した。
舩橋氏も、「区が道路整備についてさらに説明するというなら喜んで伺いたい。続編に反映させる」と語った。作品については、「僕にはできない、いい作品になった。虚心坦懐に話を聞く、色眼鏡でものを見ない姿勢が奏功した。言葉で表現できない<まちづくり>を映像で示してくれた」と称賛した。
ドキュメンタリーはYouTubeで放映されている。記者が書いてきたこれまでの記事も添付する。
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