「豊洲セイルパークビル」
IHI(旧・石川島播磨重工業)と三菱地所は7月22日、東京都江東区豊洲二・三丁目エリアの最後の再開発プロジェクトとなる「豊洲セイルパークビル」の商業施設を7月24日に開業すると発表した。開業に先駆けた22日、メディア向け説明会・内覧会を開催した。駅前の豊洲センタービルが1992年10月に竣工してから33年、「職・住・遊・学」の街づくりの最後にして最高のピースがカチッと納まったのではないか。
物件は、豊洲駅から徒歩4分、江東区豊洲2丁目に位置し、18階建て延床面積約47,000㎡の「きんでん豊洲ビル(A棟)」と、15階建て延床面積約89,000㎡の「豊洲セイルパークビル(B棟)」から構成。設計はA棟が三菱地所設計、B棟が鹿島建設、施工は鹿島建設。2022年7月に着工し、竣工は2025年9月。
現地は、戦前から東京石川島造船所の工場として利用されていたところで、「ららぽーと豊洲」に隣接。現地を含む豊洲二・三丁目地区は平成14年6月に地区計画決定がなされた、開発面積約50.5ha、就業人口約3.3万人、居住人口約2.2万人の再開発等促進区。「職・住・遊・学」の街づくりが進められてきた。再開発計画プロジェクトとしては今回が最後となる。
施設は、オフィスとインキュベーショ ン施設「LIFESTYLE LAB “TOYONOMA”」、シェア企業寮「TRIAL HOUSE “TAMESU”」から構成。4~15階のオフィスは1フロア(標準階面積)約4,215㎡(1,275坪)、ZEH Oriented(事務所)を取得。標準階の天井高は2800ミリ(一部3000ミリ)。約50%が契約済み。
「TOYONOMA」は、コクヨが運営する〝新しいライフスタイルを生み出す参加型〟がテーマで、総床面積約1,500㎡。1時間からの短期利用、4名~6名の個室月額利用、イベントや企業の研修での大会議など多様な利用が可能。本格的な厨房設備を備えた飲食店営業許可取得済のテストキッチンを利用したポップアップ営業や製品展示など多様なPoC(実証実験)や社外活動にも対応。シャワーブース(2室)も備えている。
「TAMESU」は総床面積約1,500㎡。1R(約25㎡)36室と1LDK(約50㎡)3室の合計39室。運営はGOODTIME。100㎡のダイニングラウンジ、屋上菜園付き。TOYONOMA内のワークスペースも9:00~20:00まで利用可能。5年契約で家賃は1Rが12.5万円/月、1LDKが21.5万円/月。様々な企業やスタートアップとの異業種交流を促進し、企業やスタートアップ間での人的ネットワークの形成や学びの機会を提供する。
1~2階の商業テナントエリアには21店舗が出店。一部にペット同伴可能の店舗のほか、テイクアウトステーションが設置されている。床には小波のデザインが施されている。
エントランスホール(天井は本物の布)
エントランス
「TOYONOMA」
「TOYONOMA」
「TAMESU」
◇ ◆ ◇
ビルに入った途端、1~3階のエントランス吹き抜け部分の天井全体に帆(SAIL)をイメージしたデザインが目に飛び込んできた。帆布ではないようだが本物の布だった。これほどふんだんに布を用いた大規模施設を初めて見た。そのデザイン意図も理解した。豊洲エリアには、建築家・坂茂氏が設計した素晴らしい芝浦工大キャンパスの〝紙のレストラン〟があるが、こちらは「豊洲」の文化・歴史を考えたものだろう。
この「豊洲」は記者にとってどのような意味があるかを紹介しよう。この20年間、デベロッパーやハウスメーカーの取材を除けば、マンションやその他の開発事業の取材でもっとも多く訪れたのは、東の「豊洲」、西の「武蔵小杉」が双璧だろう。年間にならすと10回近いだろう。「20年間」に限定したのは、双方とも再開発マンションの分譲が本格化したからだ。
その嚆矢は、「豊洲」は2007年分譲開始の三井不動産レジデンシャル他「パークシティ豊洲」(1,481戸)で、「武蔵小杉」は2006年分譲開始の伊藤忠都市開発他「THE KOSUGI TOWER」(689戸)だ。分譲単価もほとんど同じで、前者は230万円、後者は220万円だった。
その後、どれくらいのマンションが供給されたか正確な数字は分からないが、おそらく双方とも6,000~7,000戸に上るはずだ。直近の分譲事例では、「豊洲」は2019年分譲開始の東急不動産他「ブランズタワー豊洲」(1,152戸)で坪単価416万円、「武蔵小杉」は2025年分譲の三菱地所他「ザ・パークハウス武蔵小杉タワーズ」(1,438戸)で坪単価は600万円超と思われる。
そして本日(22日)、15階のオフィス基準階から外を眺めたら、真正面の眼下に「ららぽーと豊洲」、その先の運河とともに超高層マンション3棟が目に飛び込んできた。同社広報担当者に確認したら三菱地所レジデンス他「ザ・パークハウス晴海タワーズ」と、三井不動産レジデンシャル他「パークタワー晴海」だった。泳いで渡れそうな指呼の距離だ(遊泳禁止だろうが、多分200mくらい)。
そこで算盤をはじいた。ここにマンションを建てたらいくらになるか。「坪700万円でどうですかね」と、同社広報担当者を挑発したら、笑いながら「ららぽーとの隣ですからね」と話した。すぐ上方修正した。高値追及したら坪1,000万円でも売れるのではないかと(この予想は的中しているはず)。
次に、「TAMESU」について。説明会場で配布された資料から坪賃料をはじいた。5年契約で約25㎡が12.5万円/月、約50㎡が21.5万円だから、前者は1.65万円/月、後者は1.42万円/月だ。少し高いような気もしたが相場並みだろうと。しかし、施設を見学して修正した。全体のフロア面積は約1,500㎡あり、100㎡超のダイニングラウンジと、田植え・収穫もできる田んぼなど屋上菜園付き。単純に1,500㎡を39戸で割ったら、坪賃料は1万円強になった。豊洲エリアでの寮・社宅は少ないはずで、人気を呼ぶのではないか。
「TOYONOMA」もよく企画されている。建具・家具などの仕上げは普通だと思ったが、全体的に環境負荷を低減するため紙管を多用していると聞いた。芝浦工大の〝紙のレストラン〟を参考にしたのではないだろうが…。
商業施設 メニューの一部
屋上菜園
イネが植えられていた
オフィスフロア15階(右端が三井のマンション、その隣2棟が三菱地所のマンション)
記者が頂いた「海鮮居酒屋 やまでん丸 豊洲セイルパーク店」の寿司
三菱地所レジ他「武蔵小杉」反響1万件超うち7割は都内 26日からモデルルーム案内会(2025/4/23)
マンション4300戸 武蔵小杉エリアで分譲開始(2006/2/17)
まさに紙わざ ヒントは「6」 坂茂氏が設計した芝浦工大のレストラン&カフェ(2022/10/25)
文にするのもためらわれる「急所●」新報の見出し/東急不「豊洲」の記事の感想(2022/3/8)
「豊洲人気」牽引する三井不動産「パークシティ豊洲」(2006/3/29)
マンション6000戸 豊洲地区で〝湾岸戦争〟拡大(2006/3/10)
イヌイ倉庫「月島荘」の大いなる挑戦 秋まつりで夢を語る若者(2016/9/16)