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2025/11/12(水) 05:18

首都圏マンションデベロッパーの動静を知悉するトータルブレイン杉原副社長に聞く

投稿者:  牧田司

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杉原氏(2021年写す)

 記者はいま、もっとも首都圏マンションの市場動向を的確に把握している人はだれかと聞かれたら、真っ先に分譲マンション事業の市場調査から設計・監理まで幅広いサービスを展開しているトータルブレイン取締役副社長執行役員・杉原禎之氏(62)を上げる。記者とは見解が異なる部分もあるが、質疑応答の形で杉原氏からいろいろ話を聞いた。以下にレポートする。 -と( )の部分は記者。

 まず冒頭に杉原氏のプロフィールを紹介する。トータルブレインは1999年10月、当時、マンションの川上から川下まで知悉していた長谷工グループ出身の故・久光龍彦氏が立ち上げた会社だ。杉原氏も長谷工グループ出身で、創業時からの幹部として活躍してきた。

 杉原氏は、1963年4月28日生まれ。62歳。長崎県佐世保市出身。趣味は還暦を前に始めたゴルフ(スコアは非公表)とサウナ。酒は「汗を流した後のストレス解消に最適」の500ml入りビールを1日3缶(第3のビール)。22時過ぎには就寝し起床は5時、睡眠時間は6時間(久光氏は20時~4時だった)。朝の6時台には出社。自宅はバブル崩壊後の最安値圏にあったころの大手デベロッパーの分譲マンション(記者もよく知っているレベルの高い物件)。

 主な業務は、自ら作成した「月例レポート」を小脇に抱え、1日2~3社、月間50社のデベロッパー担当幹部などを対象に1時間超にわたり説明すること。レポートは20ページ超、今年10月現在の通算発行冊数は「257」とあるから、同社が設立されたころから続けているのだろう。あらゆるデータを縦から横から、あるいは斜めから分析し、数値化・見える化する〝技〟は見事というほかない。デベロッパー50社の中には、一部大手デベロッパーが入っていないので、杉原氏は「カバー率は半分くらいではないか」と謙遜したが、マンションプレーヤーの数からしたらほとんど網羅しているはずだ。

 ここからが本番(本当はデベロッパーの動静を聞きたかったのだが、デベロッパーも杉原氏も外に漏れては困ることは話さないはずで、記者もそこまでは踏み込まなかったが…)。

 -いよいよマンション価格はバブル期に近くなりつつあります。都心部は坪2,000万円超、郊外・地方もこれからは坪300万円を突破するのは必至。いまの市場をどう見ているか。

 杉原 コロナ以降、都心も郊外もマーケットは大きく変化している。建築費は上昇し戸当り4,000~4,500万円、土地代を含めると 郊外でも6~7,000万円の世界になっている。都心部では、コロナ禍を経て価格は2倍以上に上昇しているが、開発用地不足で供給が減少、良好な需給バランスを背景に パワーカップル、富裕層や海外投資家など購買力がある層が市場をリードしており、堅調な市場を形成している。港区の一部のタワーマンション高層階の中古価格が坪2,000~3,000万円の水準まで達しており、2015年分譲の「ザ・パークハウス千鳥ヶ淵」では坪3,000万円超の成約事例も見られる(これは驚き)。既に一部の希少な都心のマンション価格は、ニューヨークなどの海外の価格水準に近付いてきており、今後の推移に関しては、日本の国力(経済成長力)・為替・海外富裕層需要動向などとのバランス次第と考えられるが、今後の更なる過度な上振れ余地は限定的とみている。

 一方 郊外部では、一般的な需要層が価格上昇についていけなくなっている。取得限界を超えてきており、駅前立地などを除き、デベロッパーも慎重な姿勢を見せている。新築価格は上昇しているが、中古マンションは坪100万~200万円で推移しており、都心ほど価格は上昇していない。23区に比べ 通勤アクセスが劣るため、フルタイムの共働きが難しく、購入予算が伸びないことと、賃貸家賃相場も比較的割安なため「借りるより買った方が得」となりにくいことが要因と考えられる。そのため、現在の建築コストでは郊外での新築マンション事業の推進が難しく、今後郊外部では中古マンション市場がマーケットを支えていくのではないだろうか。実際に中古マンションは 住環境が優れている物件が多く、物も良い。(記者も同感。バブル崩壊後の市場回復期にはデベロッパーは基本性能・設備仕様を充実させて差別化を図った物件が多い)

 -私は、不動産経済研究所などのマンション市況レポートでは専有面積30㎡未満を調査対象外にしているのは理解できますが、令和6年のマンション着工戸数に対する調査捕捉率は41.5%で、東京、神奈川は3割台。高額物件のインナー販売、大規模、再開発、建て替えなどの供給比率が高まっている現在、市場は極端に縮小などしていないと思いますが、いかがでしょうか。

 杉原 国土交通省のマンション着工戸数には賃貸も含まれており、1Rやリートなどへの一棟売りがかなり含まれているのではないか(この問題には深入りしない。杉原氏も含め関係者、メディアも不動研のレポートを鵜呑みにしている。分譲と賃貸の仕様は全然異なり、分譲仕様が賃貸に流れるのは限定的だと思う)

 -外国人が投資対象としてマンションを購入するケースが問題になっています。私は憲法第29条「財産権は、これを侵してはならない」と、民法第206条「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」の規定から、法的規制をかけるのは難しいと思います。ただ、再開発など公的資金・補助金が投入されている物件は、何らかの、例えば一定期間の転売を制限するとか、「専ら居住」の条件を付けたりするのは可能ではないかと思います。マンションの外国人所有者の代理人制度を導入するのは賛成です。この問題はいかがか。

 杉原 マンションは商品であり、商品取引は自由であるべき。外国人の不動産購入制限は、国家の安全保障上必要な水源地とか自然保護地域などでの土地取引 等に限るべきではないか。それよりも、マンション購入後の運用や入居後の使用に関しては、そもそも日本人の購入・利用を前提にした 区分所有法、管理規約、仕様細則などを、外国人の購入・保有を前提にした法体系に変更すべき。管理費や修繕積立金の不払いや、民泊利用については、法的な対応が可能な罰則規定 等をしっかり定めることが必要ではないか。

 -ホテルコンドミニアムも多くはないが、一定の市場を形成しているように思われます。今後、どうなるでしょうか。

 杉原 今はリゾート地が中心だが、ホテルコンドの需要はむしろ都心にあると思う。訪日需要の集中する東京での運用・利回り期待、希少性から需要はあるはず。ビジネスホテルの不足から、ウィークリーマンション、マンスリーマンションも、長期出張対応 等で法人需要が増えるのではないか。デベロッパーも新しい収益源の柱として都心部などでの展開を考えるべき。

 -最近は、どこのデベロッパーも予告広告では戸数も価格も「未定」で、分譲の直前にならないと公表しません。いっそのこと「価格は時価」にしたらどうかという声すらあります。不動産公取協は絶対認めないでしょうが、私はこれもありかと。どう思われますか。

 杉原 寿司屋じゃあるまいし、それはダメでしょう。そんなことを許せば、業界はますます情報開示に後ろ向きになる。開発者側は原価上昇や需要を見極めるために価格設定に慎重で、価格の公表を引き延ばすのは理解できるが、住宅は生活に必要なインフラであり、他の高級品・嗜好品とは異なるのではないか。(「価格は未定」という商品はありえないという見解は記者と同じだが、この回答にはいささか驚いた。オークションはありだと記者は思う)

 -コロナ禍を経て、メディア向けマンション見学会が激減しています。私はコロナ以前までは年間100物件くらい見学していましたが、最近は50件を下回っています。価格暴騰の一方で、基本性能・設備仕様の退化が目立ちます。面積縮小、天井高の低下、トイレはタンクレスからタンク付き、キッチンカウンターはオプション、浴室タオル掛けはなし…これをどう思われるか。

 杉原 面積縮小は、家族構成、ライフスタイルの変化を考えたら仕方のないこと。天井高が低くなっているとか、設備仕様が退行しているとは考えていない。一方で、ZEH対応とかSDGs対応でコストもかかっている。一概に質が低下しているとは言えない(杉原氏の立場は理解できないわけではないが、これは相当な見解の違いがある。記者はこれまでレベルの高いマンションを中心に取材してきたが、それらと比べると明らかに質は退行していると思う。中古マンションに関する9月と10月の月例レポートには、各エリアで値上がりしている物件が1,000件は紹介されているが、記者は少なくとも3分の1は見学取材している

 -ところで、杉原さん、総合地所が埼玉県人も知らない加須(かぞ)市でマンション見学会を行うのですが、ご存じか。誰も「かぞ」とは読めなくて「かす」と読む。

 杉原 加須? 東武線じゃないですか? 宇都宮線にありました? えっ、古河の手前? (記者は地理が得意で、わが国はもちろん全世界の主な山や川や平野、特産品、首都、主要都市を高校時代に丸暗記していたので、加須は知っていたが、行ったことは一度もない。マンションが分譲されたことはあるのか。今年最大の注目物件だと思う。坪単価がいくらになるのか)

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