上原・元国立市長への求償は当然 議会「決議」の法的効力は?
国立市庁舎
問題の核心は違法行為を許すのかどうか
先日、国立市民と名乗る方から電話があり、「ビラを配っている人たちのことがよく分からず、ネットでいろいろ調べたらあなたの記事が出てきた。一番筋が通っている。本にしないか」と言われた。
求償裁判のことであるのはすぐわかった。早速、記者も調べてみた。記者の記事も含め「市民の会」や市議のホームページで求償裁判の是非がたくさん書かれていた。市議会の「決議(案)」も紹介されていた。
国立の明和地所のマンションに関する裁判は市対明和、住民対都、住民対明和、市対住民、市対上原など5つも6つもあり複雑に絡んでいる。分かりやすいようにこれまでの経緯について紹介する。
◇ ◆ ◇
1999年4月 上原公子氏が国立市長選に当選(東京初の女性市長)
1999年7月 明和地所が東京海上から約1.7haの土地を約90億円で取得
1999年8月 明和が国立市中三丁目マンション計画について事前協議の届け出
1999年10月 市はマンションの高さをイチョウ並木に調和するよう行政指導
1999年11月 市はマンション計画地の建物の高さを20m以下と定めた地区計画案を策定、縦覧開始
1999年12月 明和は14階建て高さ44m、343戸の確認申請
2000年1月 明和は根切り工事に着手
2000年2月 中三丁目地区地区計画が施行
2001年12月 明和がマンション分譲開始
2002年12月 住民が高さ20mを超える部分は違法であり、撤去を求めた民事訴訟で、東京地裁は、法令上の違反はないが、住民の景観利益を毀損したとして20m以上の部分の撤去を求めた(建物撤去訴訟)
2004年2月 明和が、国立市に対し営業が妨害され、地区計画条例の無効を訴えた裁判で、第一審の東京地裁は、条例は有効とし、市長の一連の発言・行為は営業妨害に当たるとして損害賠償4億円の支払いを命じた(行政訴訟)
2004年10月 東京高裁は建物撤去訴訟の第一審判決を取消し、請求を認めない判決を下した(2006年3月、最高裁判決で確定)
2005年9月 行政訴訟の控訴審で東京高裁は、事業者側の強引な手法も問題ありとして、損害賠償金額を2500万円に減額する判決を下した。2006年1月、補助参加人(住民)が上告
2008年3月 上告が棄却され、二審判決が確定。市は損害賠償金と遅延損害金として約3,123万円を明和に支払う。これに対して、明和は同額を一般寄付として市に寄付
2010年12月 国立市民が市に対し、明和に支払った損害賠償金と同額を上原元市長に求償するよう求めた裁判で、東京地裁は「行政の継続性の視点を欠如した急激かつ強引な行政施策の変更であり、また、異例かつ執拗な目的達成行為」「市長として求められる中立性・公平性を逸脱」「社会通念上許容される限度を逸脱している」と認定、市に対して上原元市長に損害賠償を行うように命じる判決を行った(住民訴訟)
2011年1月 市は「賠償金は実質的に返還されている」として控訴
2011年4月 市長選で、上原元市長に求償請求することを選挙公約に掲げた佐藤氏が、上原元市長を支持する関口市長を破り当選
2011年5月 市は先の住民訴訟で控訴を取り下げ。判決が確定した
2011年12月 市は上原元市長に支払いを請求したにもかかわらず、上原氏が支払いを拒否したため東京地裁に提訴(求償訴訟)
2014年9月 求償訴訟で、東京地裁は「控訴取り下げは『被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げた』」「上原が掲げていた政治理念自体が、民意の裏付けを欠く不相当なものであったと認めることはできない」と棄却
2014年10月 市は一審判決を不服として東京高裁に控訴
「クリオ レミントンヴィレッジ国立」
◇ ◆ ◇
記者は市が明和地所に支払った損害賠償金を当時の上原市長に求償することに賛成だし、東京地裁も「請求すべし」と決定している。「決議」に対する批判を含めて以下に記者の考えを紹介する。
国立市議会は昨年末、「議会の議決を無視して公費を投入し続けてきた、現市政が元市長を訴える求償裁判の終結を求める決議」を賛成11、反対9で可決した。決議はおおよそ次のような内容だ。
決議はまず「15年前の大学通り高層マンション建設計画に対する国立市及び国立市長の景観政策をめぐって、現在の国立市政が当時の市長個人に3,123万9,726円及び遅延損害金を請求する訴訟の東京地方裁判所判決があり、国立市が敗訴した」としている。
そして、市議会はこれまでに元市長への賠償請求権を放棄する決議や控訴断念を求める意見書など4回にわたって議決したにもかかわらず、「佐藤市長は議会における議決結果を全く考慮しなかったかのように、意見書可決の翌日早朝、高等裁判所への控訴を済ませてしまった」と批判。
続いて、佐藤市長は先の住民訴訟や元市長に求償する訴訟費用、今回の高裁控訴に関わる訴訟経費としてトータルで約660万円の公費を投入したと非難している。
さらに、「『地区計画及び条例制定行為』の主体は『国立市及び国立市長』であり、組織としての国立市には、市議会や都市計画審議会のみならず部会長も含まれる。佐藤市長は1999年当時、福祉部長として、地区計画決定と条例制定方針を決定した部長会に参加した一人である。自らの責任を棚上げにして元市長一人に責任を押しつけ、地裁判決で退けられた高額な賠償請求を主張し続けることは、『首長に要請される中立性・公平性を逸脱し、社会通念上許容されない』ものである」「直ちに控訴を取り下げて裁判を終結させることを強く求める」としている。
◇ ◆ ◇
断っておくが、記者は専門的な法律知識はないし、ましてや議会の仕組みはよく分からない。的が外れていれば謝るほかないのだが、どう考えても、この「議決」は合理的説得力に欠ける。
まず、都合4回にわたる議決の法的効力について。市議会の議決は尊重しなければならず、佐藤市長が無視したのは問題がないとはいえないと思う。
この点について佐藤一夫・国立市長は「平成24年4月20日の最高裁の判決でも地方自治法96条第1項10号の趣旨と同じ判断がされている。私は議会で『決議』には従わない、淡々と判決を待つと報告している。5~6月には結果が出るのではないか」とコメントした。
つまり、佐藤市長は「議会は、議決によって意見を決定する。長(首長)は、これを尊重すべきであるが、法的にはこれに拘束されるものではない」(学陽書房「地方自治の概要」)「条例による場合を除き、その議会が債権の放棄を議決しただけでは放棄の効力は生ぜず、その効力が生ずるには、その長による執行行為としての放棄の意思表示を要する(地方自治法96条第1項10号)」(有斐閣「行政法判例集Ⅰ」)という議会と長の常識を踏襲したということであり、議会はそのことを承知でしつこく議決を繰り返したということだ。
次に、公費について。「議決」は約660万円の公費を投入していることを問題にしているが、ではいったい国立市は先の「国立マンション裁判」(明和地所が国立市に損害賠償訴訟を起こし、2008年3月、市長の一連の行動は営業妨害に当たるとして2500万円の支払いを命じた裁判)にどれくらいの公費をつぎ込んだかご存知か。
明和に対する損害賠償金約3,123万円のほかに、2008年3月17日時点で、市は弁護士費用として39,180,904円支払ったと公表した。つまり、損害賠償金と弁護士費用を合計すると約7,000万円の公費が使われている(争いがなければ明和から支払われるはずだった開発協力金7,881万円も市は受け取りを拒否した)。訴訟にかかる時間とエネルギーを金額に換算したらその数倍に達するのは間違いない。660万円が「高額」とするなら7,000万円は桁違いだ。このとき支出した金額を議員はどう考えるのか聞きたいものだ。
当時、福祉部長だった佐藤市長に対する批判は噴飯物だが、悪意が込められているので見逃せない。佐藤氏が当時の部長会で反対を唱えようとしたら上原氏に一喝されていたはずだ。仮に賛成していても、部長も連帯して責任を問われることはあり得ない。すべて長たる上原氏にその責任がある。
◇ ◆ ◇
国立市が上原元市長に損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は、明和の寄付によって賠償金は補填されたとしているが、これは論外。問題のすり替えだ。明和は当初、特定寄付を要求したが、市は拒否し、一般寄付を求めた。
また、東京地裁は、民事訴訟法46条3号の「被参加人が補助参加人の控訴行為を妨げたとき。」に該当し、上原元市長に賠償請求すべきとした住民訴訟判決の効力は補助参加人だった上原氏には及ばないとしているが、正直、問題が複雑すぎてこれについては意味が分からない。
これは失礼な言い方だが、例えていえば夫婦喧嘩のようなものではないか。先の住民訴訟の段階では被参加人(市)と補助参加人(上原氏)は相思相愛の関係にあった。敗訴して賠償金を支払う段階で仲違い(市長交代)を起こし、同床異夢から離婚騒動に発展したということではないのか。客観的に考えれば〝犬も食わぬ…〟類ではないか。市民はたまったものではない。
◇ ◆ ◇
「地区計画」について。市は1999年11月、明和の敷地約1.7haと、その北側に隣接する桐朋学園の敷地約7.4haを含む13.5haを対象とした「中三丁目地区地区計画」案を策定、翌年2月、施行した。
「地区計画」は、住民が自分たちの街をどのようなものにするかを自主的に決めることができるいい制度だ。法的にも担保される。策定にあたっては、住民の過半の同意を得ることや面積比率で3分の2以上の賛成を得ることなど、公平を期すことが義務付けられている。案は住民に縦覧したのち、議会の議決を経て施行することになっている。
問題なのは、市の地区計画は明らかに明和のマンション建設を阻止するのが目的であり、桐朋の敷地だけでは制定に必要な面積要件を満たさないから、周辺の戸建て住民を巻き込み、高さ規制がなく、明和のほかには数人しかいない面積にして50%に満たないエリア一帯の建築物の高さを20m以下と定めたことだ。著しく公平性を欠いたものだった。
地区計画が定められる前は「高さが20mくらいのイチョウ並木と調和する高さ」という行政指導が、突如「イチョウ並木と同じ高さの20m」にすり替えられたのは明らかに上原元市長の暴走だった。戸建て住宅街なら分からないではないが、広い道路沿いの街路樹の高さに建築物を抑えなければならないという条例はどこにもないはずだ。
国立裁判ではこの是非が問われた。平成17年の東京高裁判決では「本件地区計画決定及び本件条例の制定それ自体不法行為が成立すると解することは困難」と明和の主張を退けた。つまり、憲法は私的財産権を絶対的に保障しているが、「公共の福祉」により制限も加えられるという判断をして、地区計画策定には瑕疵はないと認定した。
しかし、このような計画がまかり通るなら、デベロッパーはマンション用地など購入できなくなる。周辺住民や自治体の意向によっていかようにもなるからだ。記者は今でもあの地区計画は違法性が高いとみているし、「既存不適格」のレッテルを剥がすべきだ。
◇ ◆ ◇
もう一つだけ言わせていただきたい。明和の14階建て343戸のマンション計画に対して、国立市が同じ戸数、同じ利益を想定した高さ20mの対案を裁判に提出したプランについて。
別掲の明和のマンションの地図を見ていただきたい。建物はロの字型になっている。高さを半分にすることを想像していただきたい。人が住めるマンションにならないのは明白だ。記者はその市のプランを「刑務所マンション」と名付けた。日照も採光もプライバシーも居住性もまったく無視したものだったからだ。
国立マンションの敷地面積は約1.7ha(容積率200%)。形状は、敷地東側が約137m、西側が約90m、北側が約138mの台形状だ。建物はロの字型で、最高高さは約44m、戸数は343戸(平均面積約90㎡)。南向き住戸は7.4mスパンが中心。戸数分の平置き駐車場と機械式駐車場がある。
このプラン条件を変更せず、高さのみを20m(7階建て)に抑えたらどのようなプランになるか考えていただきたい。隣棟間隔は一般的に建物の高さ×1.5~2.0だ。
人が住めるプランにならないのは明らかだ。日照も採光もプライバシーも確保できない住戸ばかりだった。だから、記者は市のプランを〝刑務所マンション〟と呼んだ。市側は合理的で採算性もあると強弁した。
これには無性に腹が立った。国立市のプランは〝入居者(市民)はブタ箱に入れ〟と言っているのと同じだ。これは「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」憲法への挑戦であり、いかに居住性が優れたプランのマンションにするか考えているデベロッパーと、購入者・市民を愚弄する自治体を絶対許せないと思った。
◇ ◆ ◇
もう一言。記者は不偏不党、是々非々でものごとを判断する。誰がどこを支持しようと自由だ。しかし、違法行為があったとして裁判に敗れたにもかかわらず自らの行為を反省するどころか居直る政治家を許せない。今度の市長・市議選では上原元市長を支持し、住民訴訟に異議を唱える候補者は一人たりとも当選させてはならないと思う。
市民のみなさん、自らの政治理念の実現のためには法を犯してもいいというような人に同調する候補者に「ノー」の審判を下してほしい。選挙の最大の争点は違法行為を許すのか許さないかだ。
記者のこの考えと同じ議員さんがいる。先日、国立市役所に取材に行ったとき、青木健・市議会議長(自民党)に会った。青木氏は「話し合いで解決できなかったから、司法の判断を仰いだ。その結果、元市長の違法行為が明らかになった。元市長は謝罪するべきだし、賠償金も支払うべき。自分たちだけが市民の声とするのは驕りだ。このような事態を二度と起こさないよう、今度の選挙で勝利するよう戦う。わが党は現有勢力5人から8人に増やす。公明党も2人から3人に増やす。その他われわれの考えと一緒の議員を含め過半数(定数は22)を目指す」と話した。
今度の統一地方選で国立市長・市議選が全国でもっとも注目を浴びることになるのではないか。
節電のため12時になると消灯する市役所内(上原氏はこれをどう見るか)
「求償権の放棄」は問題 国立市は上原元市長に賠償請求すべき(2014/10/1)
戸建て、マンションの居住形態が意識を左右するか 三井ホームが調査報告会
「暮らし継がれる住まいに関する調査報告会」
三井ホームの企業内研究所「住まいと暮らし研究所」は1月28日、日本女子大家政学部居住学科定行研究室教授・定行まり子氏、三井不動産レジデンシャル、三井不動産リフォームと共同で研究を行ってきた「暮らし継がれる住まいに関する調査報告会」を開催した。
三井不動産グループの住宅を購入した人を対象にしたアンケートでは、「住まい」への愛着について戸建て居住者は「住空間」に、集合住宅居住者は「生活の利便性」に愛着を感じ、今後の住まいの選択意識については、戸建て居住者は多様な選択肢を持ち、集合住宅居住者は住み替え後も集合住宅を希望する傾向が強く、終の棲家のイメージでは、注文住宅、建売住宅、集合住宅居住者とも約42~48%が「夫婦二人」と答えた。
〝夢は庭付き一戸建て〟という住宅双六については、「いまだ残っているともいえるが、意識は薄れている」としている。
報告書は、「戸建て住宅派」「集合住宅派」ともに多様なニーズに応え、時を経ても資産価値が維持される住まいづくりと、環境づくりに業界全体で取り組む必要があるとまとめている。
報告会で挨拶した定行氏は、「わたしどもの大学もそうですが、三井さんグループの個々のデータをつなぎあわさればビッグデータになり、いい指導ができ、政策決定がスムーズに行える。これから人口減少、空き家の増加など多くの課題を抱えているが、生きるすべである生活の基盤の住まいづくりに研究成果を生かし、次につなげていきたい」と語った。
◇ ◆ ◇
なかなか興味深い報告会だった。終の棲家のイメージが「夫婦二人」というのは納得もしたが、「考え中、思いつかない」「のんびり、ゆっくり」がそれぞれ15~26%あり、「子の世話になる」は回答があったのかなかったのか、少なくとも報告はされなかったのには考えさせられた。報告を行った同社商品開発部長・吉澤敏幸氏か「これは私の考えだが、商品企画でいつも思うことだが、みんな将来のことをあまり考えない。せいぜい5年先くらい」と語ったのが印象的だった。時代は変わったということか。
報告に対する疑問もあった。今後の住まいの選択意識についてだ。報告では、戸建て居住者は「リフォーム」(23.5%)「住み替え」(21.0%)「予定なし」(22.9%)「今は思いつかない」(27.2%)「建て替え」(5.4%)など選択肢が広く、集合住宅居住者は「住み替え」が圧倒的に多く52.0%に達し、住み替える居住形態も「分譲マンション」が81.4%と突出して高いとしている。
つまり、居住形態によって夢が異なってくるとしているのだが、記者は居住形態ではなく、将来の住まいに夢が描けるのか描けないのか、経済・資産状況によって選択肢はおのずと限られてくる現実の反映だろうと考える。
住宅双六も同様だ。われわれ日本人には「庭付き戸建て」の夢は心の隅にあるはずだが、少なくとも首都圏の利便性の高い地域に戸建てを取得できる層は数%しなないのではないか。都内23区ではマンションすら買えない時代になってきた。
もう一つ。面白いと思ったのは、アンケート回答者1,474の戸建てと集合住宅(マンションが圧倒的に多いはず)の比率だ。半々であることが報告された。
対象者は三井ホームと三井不動産レジデンシャルの顧客だが、三井ホームの顧客は約20万件であるのに対し、三井不動産レジデンシャルサービスが管理するマンションは約23万戸だ。分譲戸建ては数万戸あるはずで、マンション・分譲戸建て合計で30万戸を突破するのは間違いない(アンケート対象は首都圏で、すべてに用紙を送付したわけではないだろうが)。
注文と分譲の比率は2:3だから、アンケートの分母もその通りになるはずなのにそうなっていない。これは記者の推測だが、注文は、建てる側にしてみれば「希望通り」の家を建て、メーカーも「建ててからお付き合いが始まる」という意識が強く、これが顧客満足につながり、回答数に反映されたのではないかと。一方の分譲は、いまは各社とも顧客とのつながりを重視しているが、これまでは「事業離れ」(死語になっていないはず)という言葉に象徴されるように、購入者とのつながりを遮断するところも少なくない(三井がそうだと言っているわけではないが)。その結果が、アンケートの数字に表れたのではないか。
◇ ◆ ◇
定行氏(左)と吉澤氏
記者はこのような会見などはいつも後方の席に座る。ところが、今日の報告会は最前列しか空いておらずやむをえず定行氏と吉澤氏と向き合う形になった。吉澤氏とはこれまでもお会いしているのだが、定行氏とはどこかでお会いしたような声を聞いたような既視感にとらわれた。
なぜだろうとずっと考え、社にもどって確認した。既視感ではなく、一度お会いしていた。つまり記者が耄碌したということだ。2011年10月に行われた「多摩ニュータウン大規模団地問題検討委員会」の会合で定行氏は感動的な講義・講演を行っている。その時の記事を紹介する。
「『極めて意義深い』(上野委員長)『感銘を受けた。目がうろこ』(白岩委員)『他の地域との連携、広いエリアとしての多摩ニュータウンの価値を考えさせてくれた』(炭谷委員)『八王子にも500人の待機児童がいる。参考にさせていただきたい』(岡部委員)『地に足がついたプレゼン』(西浦委員)など、各委員から大喝采を浴びた」
この大喝采を浴びた人こそ定行氏だったのだ。各委員はそんじょそこらの人ではない。一癖も二癖もありそうな経験豊富な大学の先生方ばかりだ。その時、記者はこう書いた。「もちろん記者も感動したのだが(というより記者席と各委員の席はかなり離れており、さらに記者の目が悪くなり、耳が遠くなったのか、マイクがよく聞こえず、プロジェクターもよく見えず、報告の半分は聞き取れなかったのだが)」と。
そんなわけで、定行氏の講義は他の先生方の心を打ったのだろうが、記者はほとんど聞き取れなかったので記事には書けなかった。
これはあり得ない 「不動産価格は下がる」16.8% 野村アーバン調査
野村不動産アーバンネットは1月26日、同社の不動産情報サイト「ノムコム」の会員を対象にした「住宅購入に関する意識調査(第8回)」の結果をまとめ発表。「不動産の買い時感」については「買い時だと思う」「どちらかと言えば買い時だと思う」を合わせ53.5%で、前回調査(2014年7月)とほぼ同結果となった。有効回答数は約1,800人。
「買い時」と思う理由については、「住宅ローンの金利が低水準」が最も多く73.4%で前回調査から17ポイント増加、「今後、10%への消費税引き上げが予定されている」が41.5%(前回比0.6ポイント増)、「今後、不動産価格が上がると思われる」が34.2%(同12.5ポイント減)、「購入する上で税制などのメリットある」が21.5%(同3.2ポイント増)と続く。
「買い時だと思わない」の回答は23.8%で前回調査から3.6ポイント増加。「不動産価格は下がると思う」の回答は16.8%と前回調査から5.2ポイント上昇。
中古住宅購入検討者のうち、「購入時にリフォームすることを考えている」という回答は75.3%だった。
◇ ◆ ◇
記者は、よほど余裕のある人を除き、買わざるを得ない切羽詰まった状況にあるので「不動産はいつも買い時」だと思っている。なのでコメントしないが、今後「不動産価格は下がると思う」と考えている人が16.8%(前回調査比5.2ポイント上昇)もいるのには驚いたし、一言言っておきたい。
これはまずあり得ない。確かに第一次取得層向けのマンション価格は取得限界にきていると思うが、かといって専有面積を圧縮して分譲価格を抑える手法はあると思うが、価格(単価)が下がることはほとんどないと断言できる。
オリンピック選手村 都が事業協力者募集 どこが選ばれるか
東京都は1月23日、2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村及びレガシー検討に係る事業協力者の募集要領を発表した。
選手村予定地は約18haで戸数は約5,950戸。応募資格は宅建業者で、選手村でのマンション建築者として応募する意向があること、平成23年から25年まで年間少なくとも1度は1,500戸以上供給した実績があることなど。原則として1者1グループが選ばれる。プレゼンテーション・ヒアリングを経て26年度内に決定される。
事業協力者は、特定建築者の選考の評価の対象になるが、優先的に戸数が割り当てられるかどうかは不明。選手村の建設は28年度から。
◇ ◆ ◇
いよいよ選手村の建設に向かって本格的に動き出した。これほどのビッグプロジェクトに事業参画できるのはデベロッパーとしても光栄なこと。事業協力者に選ばれた場合の「名誉」を金額に換算したら代表企業は数億円をくだらない。その他のぶら下がり企業も数千万円の価値はある。手を挙げる資格のあるデベロッパーはまず全員が代表者として名乗り出たいはずだ。
しかし、名乗り出る資格があるのは、もちろん資力なども求められるが、具体的には年間1,500戸の供給実績があることだ。とすると、応募資格者は三井不動産、三菱地所、住友不動産、野村不動産、東急不動産、東京建物、近鉄不動産、積水ハウス、大和ハウスあたりに絞られる。
とはいえ、この各社が単独で応募する可能性は小さく、記者はコンソーシアムを組むとみている。選ばれるのは「複数ということも可能性としてはゼロではない」(都)が、原則1者だ。どこも受かりたいだろうから、応募グループはもっと絞られるはずだ。晴海を中心に湾岸で供給実績があるのは三井、三菱、住友が抜けている。まずこの3社は代表として名乗りを上げそうだが、再開発事業では住友の実績がやや劣る。
野村はどうか。〝プラウド〟の沽券にかけて手を挙げたいだろうが、ここは勝ち組に乗る戦法だろう。記者はユニバーサルデザインの取り組みで突出している積水ハウスも有望とみているが、同社も単独では動かない。どこが積水を取り込むか。ここと組んだところが有力とみた。大和ハウスも住友とは共同事業の実績はある。
東急、東建、近鉄も代表者として応募するより勝ち組に乗る戦法と見た。1,500戸の供給実績がある大京、NTT都市開発、新日鉄興和不動産、伊藤忠都市開発、住友商事なども同様。どこかのグループにぶら下がるとみた。
ゼネコンもみんな参加する。ただ、単独でマンションの年間1,500戸の供給実績はないから、どこかにぶら下がる。デベロッパーとしてはいま長谷工コーポレーションに足を向けて眠れないだろうから、どこが取り込むかも興味深い。
ここまで書いてきて、六本木防衛庁跡地再開発(東京ミッドタウン)をめぐる当時の状況を思い出した。もう正確には思い出せないが、記者は落札される半年前、「落札価格は1,750億円」と予測記事を書いた。応札企業は4社グループだったはずだ。1,800億円で落札したのは三井不動産など6社コンソーシアム(積水含む)だった。予想がズバリ的中して舞い上がったのを思い出す。三井の他では三菱、住友、それと当時名を馳せた桃源社が応札したのではなかったか。
そこで不意に閃いた。三井も三菱も住友も一緒に組むことの可能性についてだ。これもあり得ない話ではない。かつて中曽根民活第1号マンションと言われた「西戸山タワーホウムズ」は、わざわざ開発会社まで設立して全員参加型の開発を行った。
ここで3社が組めば万事ことは丸く収まる。「SKYZ」「BAYZ」の再現だ。事業協力者に決まったからといって利権が生じるわけではないから、談合などと批判されることもないと思うがどうだろう。この3社からはじかれたデベロッパーがコンソーシアムを組む可能性もある。
よって事業協力者の記者予想は次の通り。相当の自信がある。
◎三井不動産(積水ハウス)○三菱地所▲三井・三菱・住友(2社も含む)△住友不動産△その他
三井不動産 商業施設「竹下通り スクエア」3月7日オープン
「竹下通り スクエア」完成予想図
三井不動産は3月7日、原宿・竹下通りの新たな商業施設「竹下通り スクエア」をオープンする。
地下1 階~地上3 階には三越伊勢丹グループが展開する「ALTA」が出店し、「原宿ALTA」になり、新業態や原宿初出店を含む全19 店舗がオープンする。
JR原宿駅から徒歩2 分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩6 分。敷地面積約190坪、地下2 階、地上3 階建て延べ床面積約521坪。
東急不動産 東京メトロ明治神宮前に全16店舗の「キュープラザ原宿」開業
「キュープラザ原宿」完成予想図
東急不動産は3月27日、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮駅前の商業施設「キュープラザ原宿」をオープンする。
日本最大の音楽チャンネルスペースシャワーTVを運営するスペースシャワーネットワークのエンタテインメント・コラボカフェ「AREA-Q」、ポートランド創業の老舗のパンケーキ店「オリジナルパンケーキハウス」、カフェ&鉄板グリル「グッドモーニングカフェ&グリル」など日本初や新業態など多彩で個性的な16店舗が出店。渋谷から表参道をつなぐ新たなランドマークとして、ショッピング、カフェ&レストラン、サービス、ウェディングなどを集積する。
敷地面積約655坪、地下2階地上11階建て延べ床面積約2,500坪。施工は竹中工務店。
大京 サ高住の第一弾「中野南台」(28 戸)オープン 今後10年で60棟
大京は1月13日、同社グループの第1 号で中野区では初めてのサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「かがやきの季(とき) 中野南台」(28 戸)の入居を2月1日(日)から開始すると発表した。
「かがやきの季 中野南台」は、大京と個人が共同で所有する社員寮(1991 年竣工)を、サ高住の登録基準に適合した建物にコンバージョン(改修)したもの。提携先のウイズネット(本社:埼玉県さいたま市)が併設する訪問介護事業所を運営し、生活相談、安否確認、緊急時対応、食事サービスを提供するほか、エクセリーベが提供する業界初の「TV 電話による見守りサービス」を導入する。
物件は、東京メトロ丸ノ内線方南町駅から徒歩5 分、中野区南台3 丁目に位置する4階建て28戸。専用面積は19.11~19.16㎡。建物管理はオリックス・ファシリティーズ。家賃は125,000円、共益費は35,000円、基本サービス料は55,000円、食事サービス費は54,000円。合計で269,000円(消費税込)。
大京は、利便性の高い立地環境と必要なものだけを選択できる介護サービスをコンセプトに今後10 年で「かがやきの季」シリーズ60 棟の稼動を目指す。
マンション広告に絵文字はどうか 「ヤバイo(^-^)o」は効果ないか
たまたま時間があったので、住宅情報誌に掲載されているマンションのキャッチコピーを読んでみた。これがなかなか面白い。次のようなコピーが目に留まった。
「購入者からも『デザインが素敵!』との声、多数」
一般の方はこの文言をどう理解されるか分からないが、業界関係者なら「えっ、こんな表現許されるのか」と思うはずだ。
不動産業界には、業界の自主規制団体「不動産公正取引協議会連合会」(不動産公取協)があり、「不動産の表示に関する公正競争規約(公取規約)」で広告に関する様々な基準・規制を設けている。とくに消費者に誤解されるような、事実と異なる表示には厳しく、同規約18条(特定用語の使用基準)では、「完全」「完ぺき」「絶対」「万全」「日本一」「日本初」「業界一」「超」「当社だけ」「他に類を見ない」「抜群」「買得」「掘出」「土地値」「格安」「投売り」「破格」「特安」「激安」「バーゲンセール」などは、根拠が示せるものを除き原則禁止されている。
ここで一つ断っておきたい。記者などが書く記事にはこの規約はまったく適用されない。当然だ。これは憲法によって表現の自由が保障されているからだ。記者が書く記事に規約が適用されたら、ほとんど「不可」になるはずだ。最近書いた「人気必至」などは誘因行為として公取協から厳重注意を受けるはずだ。
さて、では冒頭の「デザインが素敵!」という文言はどうか。住宅情報誌は記事の体裁を取ってはいるが、これは「記事広告」でもなくチラシ広告と同じ扱いになる。使用する文言には先の厳しい制約があるが、「素敵」そのものは禁止されていないし、発行する側も十分審査しているはずだから問題はないと判断したのだろう。
しかし、「素敵」も「最高」も意味はほとんど同じで、記者なども連発する。感嘆符(!)も1つどころかダブル(!!)で使うときもあるし、感嘆疑問符(!?)もよく使う。「素敵」の根拠を示さないのは問題がないとはいえないが、購入者の声などをどんどん使用してもいい。手あかのついた文言より効果があるのではないか。
それにしてもマンションの広告担当者の仕事も大変だ。使用する文言の制約を受け、かつコピーで物件の特徴を表現しなくてはならない。いくつか紹介しよう。( )内は記者のコメント。
「堂々完成!」「特別事前案内会」(完成して残っているという意味にもとれるが、「特別」とは何か意味不明)
「足元に緑を纏う」「静謐を纏う邸宅」「東京・城南に住まう」(よくある広告手法。この業界は「静謐」「纏う」「邸宅」「至福」「住まう」などの言葉が好きなようだ)
「バス停まで徒歩4分」「『東京』駅20分」(松戸からバス便)「柏駅徒歩10分」(ズバリそのもの)
「1LDK・ゆとりの44㎡台」(44㎡の1LDKが〝ゆとり〟の広さであるかどうかは異論のあるところ)
「光と風が満ちる」「中枢を自在に使いこなす」「心に響く私邸の品格に出会える」「明るさ・楽しさ・暮らしやすさが集う街」(豊島園)「本当の豊かさと出会い、美しき家族の時をここに刻んでゆく」(これらも不動産広告ではよく使われる。イメージ戦略も重要だ。豊島園はそんなに住みよい街だったか)
「最大520万円の価格改定!」「返済不安の方に相談会開催」(これから年度末に向かって値引き物件は増える。価格は市場が決めるもの。「返済不安のある」人に相談会とは意味が分からない。きちんと書くべき)
広告の表現に四苦八苦するのだったら、いっそのこと絵文字はどうか。記者は絵文字をまったく理解できないが、若い人たちはみんな利用しているではないか。「素敵!」と書く代わりに「ヤバイo(^-^)o」などと書いたら、来場が殺到するのか見向きもされないのか。
もうずいぶん昔だが、公取協は不動産広告の事例集をまとめたことがある。なかなか面白いものだった。記者が印象に残っているものでは、売れない郊外マンションは「駅まで徒歩15分、格好のジョギングコース」と謳った。貧すれば鈍するの見本のような広告だった。
東京建物 5棟目のサ高住「大森西」開業 中長期的に50棟目指す
「グレイプス大森西」
東京建物グループは1月8日、東京建物シニアライフサポートが介護サービス(居宅介護支援・訪問介護)を提供する初のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「グレイプス大森西」の現地案内会を開き、1 月17 日から開業すると発表した。12月から募集しており、7区画に申し込みが入っている。
「グレイプス大森西」の主な特徴は、①24時間365日、介護スタッフが常駐②入居者をサポートする〝もう一人の家族〟のコンシェルジュ③各部屋に設置したセンサーによる最新型の見守りシステム④家庭の味を大切にした現地調理で提供する食事サービス⑤分譲マンション「Brillia」準拠の設備・仕様⑥終身建物賃貸借と入居一時金不要の賃貸方式-など。
発表会に臨んだ東京建物シニアライフサポート・加藤久利社長は、「2009年にサ高住の第一弾『グレイプス浅草』の営業を開始して以来、やさしい手などの外部オペレーターに依存してきたが、これからは外部オペレーターとコンソーシアムを組んでより質の高いサービスを提供することで顧客満足度を高めていく。当社グループは高齢者向け住宅事業を重点分野と位置付けており、今後、中長期的には50棟(今回の物件で5棟目)を目指す」などと話した。
物件は、JR 京浜東北線蒲田駅から徒歩13分、大田区大森西七丁目に位置する5階建て全56戸(ほかに訪問介護事業所・居宅介護支援事業所)。専用面積は18.60~53.67㎡、月額賃料は127,000~383,000円。管理費は15,000円(浴室あり)・20,000 円(浴室なし)。基本サービス(税込)は37,800円(1人入居)・54,000円(2人入居)。食費(税込)は朝食:540円昼食:756円夕食:864円、3食30日分:64,800円。事業主は東京建物、貸主は東京建物不動産販売、運営受託は東京建物シニアライフサポート。設計・監理はINA 新建築研究所。施工は古久根建設。
◇ ◆ ◇
同社グループのサ高住事業が軌道に乗り、いよいよ加速度を高めるようだ。サ高住は〝玉石混淆〟と言われるが、同社は「サ高住」「有料老人ホーム」双方を検討している顧客のニーズを幅広く取り込む戦略で、居室面積を広くしたり、サービスを充実させたりして差別化を図っていく。
今回の物件では、敷地に制約があり、サ高住の適正規模といわれる60~70戸を確保するため約18~21㎡のコンパクト住戸を36戸設けているが、一方でニーズが高い広めの約35~53㎡の住戸も5戸設置しているのが特徴だ。
有料老人ホーム・サ高住事業は、積水ハウスなどのハウスメーカーが積極的に取り組んでおり、デベロッパーでは東急不動産グループ、オリックス不動産グループ、NTT都市開発グループなどが力を入れている。
今後は、入居者の資産管理・運営、所有建物の空き家管理・処分、土地の有効活用などの周辺事業も期待される。どこが抜け出すか。
「グレイプスホール」(左)と共用浴室
◇ ◆ ◇
現地案内会には、やさしい手から出向している東京建物シニアライフサポート取締役介護運営部長の小林新吾氏も同席していた。記者は「外から入ってこられてデベロッパーの印象はどうですか」と聞いた。小林氏はすぐさま「お客さま第一主義を貫かれている点ではデベロッパーらしくないかもしれませんが、すべての事業もこれが一番大切。全然違和感はありません」と答えられた。
この答えには記者もびっくりしたが、コツンと胸に響くものがあった。東建を30数年間取材してきているが、まさに〝デベロッパーらしくない〟のが同社の特徴だ。みんなおっとりしている。時には他社の後塵を拝することもあるが、長い目でみればこの姿勢がもっとも必要なことかもしれない。
ついでにもう一つ。見学会は業界紙記者向けだけでなく、証券会社のアナリスト向けにも行っており、こちらのほうは業界紙向けより多い約30人が参加したという。アナリストは机上の計算しかしないと思っていたが、大間違いだ。ごめんなさい。
25㎡の居室(浴室なし)
不動産流通研究所「R.E.port」が圧勝 42社・団体トップの年頭所感を一挙紹介
不動産流通研究所の「R.E.port」が圧勝-今年の住宅・不動産市場がどうなるか、業界各社はどう動くかを探る意味で年初に業界紙各社が報じる「年頭所感」は大きなヒントを与えてくれるが、今年も不動産流通研究所の不動産ニュースサイト「R.E.port」が過不足なく伝え、他者を圧倒した。
「R.E.port」が紹介した年頭所感は5日と6日で太田国交相の1573字(400字の原稿用紙で4枚)を筆頭に42団体・会社に及んだ。ハスウメーカーはやや少なく、デベロッパーは大手が中心でややもの足りないが、不動産流通業界の団体・会社はほぼ完璧に網羅しているのではないか。
所感の中身も具体的で、各社のつばぜりあいが手に取るように伝わってくる。いくつかを紹介しよう。
東急リバブル・中島美博社長のそれは檄文だ。「不動産流通業界は今後も大きく変化していくだろう。その中で当社の取り組みとしては、新規出店を積極的に行うとともに、インナーブランディングである『スピード』『専門性』『サービス』の強化を徹底することで、他社以上の変化と成長を実現していきたい」「今のような変化の激しい時代には、常に新しいことに取り組み、イノベーションしていくことが成長の絶対条件である」と呼びかけている。
三井不動産リアルティを激しく追う住友不動産販売・田中俊和社長も「既存の直営店舗網を拡充し、当社の強みである『地域密着』を深めつつ…今年は更に発展させていきます。全役職員は『住友ブランド』にふさわしい社員としての行動を日々徹底するよう、心がけてほしい」と更なる飛躍を期した。
東京建物不動産販売・種橋牧夫社長は「顧客基盤と独自性のある機能をさらに拡充し、差別化戦略を追求する」など三本の矢を掲げ、全社一丸となるよう檄を飛ばした。
不動産流通業界のトップをひた走る三井不動産リアルティ・竹井英久社長は余裕があるのかないのか分からないが、「行く先に『生い茂っている』不動産流通の旧習や古い常識を打破し、“新しい不動産流通の創出”、“新しい会社への改革”を力強く推し進めてまいる所存です」と、意識改革・人材育成に意欲を見せた。
ここまで紹介したら、2013年から新ブランド「野村の仲介+(プラス)」を掲げ、〝ただ住まいを探すだけなら、不動産仲介なんていらない。〟などと同業他社に挑戦状を突きつけている野村不動産アーバンネットの宮島青史社長の所感がありそうなものだがそれがない。「R.E.port」は頼んだのか頼まなかったのか、野村不動産アーバンネットが拒んだのかどうか、それは謎だ。
◇ ◆ ◇
「R.E.port」がここまで紹介しているのに、同業他社はまったく掲載なし。週刊紙だから読者には年初に新年号が届いてはいるのだろうが、不動産は生き物。じっくり読ませる記事ももちろん必要だが、その時々の空気を伝えないといけない。ネットは最大の武器の一つだ。コピー&ペーストで済む年頭所感をいくら掲載してもコストはかからないし、一般の読者(ユーザー)をつなぐ大きな役割を担っているはずだ。
しかし、かくいう記者も紹介できたのは10社のみ。完敗だ。それでも、法人税率の引き下げや岩盤規制の突破に言及した三井不動産・菰田社長、大都市の国際的競争力を高めるのは地方創生にとっても有効と話す不動産協会・木村理事長、女性活躍(ダイバーシティ)をさらに推進するとした積水ハウス・阿部社長と野村不動産ホールディングス・中井社長など、それぞれが考えていることが少し分かった。
法人税率の引き下げで恩恵を受けるのは誰か、都市と地方の共生は可能か、女性活躍でリードするのはどこか。それぞれが今年の大きな取材テーマになりそうだ。明日は不動産協会の新年賀詞交歓会だ。菰田社長には、法人税はマンション価格に転嫁されているのか、引き下げで価格は下げられるのか是非聞いてみたい。