期待の大きさの分だけ深い失望 「渋谷川・古川の河川再生」現地を歩く
「渋谷ストリーム」から写す
報道では知っていたが、「渋谷川・古川の河川再生」事業により暗渠から姿を現した渋谷川を初めて見た。
きっかけは、小田急電鉄の素晴らしい「BONUS TRACK」を取材し、わが京王線もこのような線路跡地を活用したウォーカブルな街づくりを行ってほしいと記事に書いたところ、東急線沿線に住む同業の記者の方から東急東横線の線路跡を活用・再生した遊歩道があると連絡をもらったためだ。この記者の方にはお礼申し上げる。
早速、ネットで調べた。東京都のホームページには次のようにある。少し長いが引用する。
「渋谷川・古川は、渋谷区内の新渋谷橋~天現寺橋の2.4kmが渋谷川、港区内の天現寺~浜崎橋先の河口までの4.4kmが古川と呼ばれている二級河川」で、「かつては下流部では舟運が栄え、上流部は水車が見られるような田園の中ののどかな川であり、唱歌『春の小川』のモデルになるなど人々に親しまれた川でした。
しかし、早い時代から流域の都市化が進み、川沿いには家屋やビルが密集して建ち、川沿いを歩けず、護岸は深い掘り込み式となり、水量が少ないこと、悪臭を放っていること等から、人々の川への関心が失われ、まちは川に背を向けるようになってしまいました。
このため、渋谷川・古川の一部は、蓋をかけ下水道として整備を進める計画となり、渋谷川の上流部と支川は暗渠化され下水道幹線となってしまっています。
近年、人々の価値観が多様化し、うるおいややすらぎを求めるようになり、川は都市の中の貴重な水辺空間として見直されるようになりました。
また、河川法が平成9年度に改正され、治水、利水に加え、環境に配慮した河川整備の推進が提唱されたことを受け、渋谷川・古川を地域に親しまれる川に再生していくため、さまざまな取り組みを進めています」
いつが基点かは分からないが、再生事業の期間は概ね30年間とされているので、向こう10年間くらいはかかるのではないか。
「渋谷ストリーム」から写す
◇ ◆ ◇
見学したのは整備済みの「Aゾーン」。2018年に竣工・開業した「渋谷ストリーム」を出発点に渋谷川沿いの遊歩道を歩き、保育所、ホテル、飲食などの複合「渋谷ブリッジ」の前を右に折れ、山手線の線路を渡り八幡通りに出て、東横線代官山駅まで。普通に歩けば20分くらいだろうか。記者は途中、「渋谷ブリッジ」の雰囲気のいいカフェ&バーでビールを一杯飲み小休止し、ゆっくり歩いたので小一時間かかった。
もちろん、田舎育ちの記者は〝春の小川はさらさら流る 岸のすみれやれんげの花に 匂いめでたく 色うつくしく…〟の春の小川が復活するとまでは思わなかったが、期待は小さくもなかった。
結論から先に言えば、渋谷川と遊歩道は期待が大きかった分だけ失望もまた深かった。京王線には勝つかもしれないが、「BONUS TRACK」には負けると思う。
渋谷川沿いの総延長約600mの東横線の線路跡地の遊歩道には、東横線に使われていた高架橋、レールなどのオブジェやベンチが所々に配置され、サクラなどの樹木も植えられてはいたが、渋谷川そのものはとても「川」と呼べるものではなかった。
川幅は広いところで10m以上あったが、護岸はコンクリで固められているために水生植物が生える余地などまったくなく、しかも水面までは数メートルもありそうな深さで、水面もまた泥の川と大して違わない薄墨を垂らしたような平板ななりをしていた。流れているのかどうかも判別できなかった。
「貴重な水辺空間」も十分とは言えない。擁壁によって水辺に近づけないようにしているのは他の東京の川と同じだ。事故防止、治水を最優先するからこのような結果になる。川辺を散策できる東京の川・谷は等々力渓谷、国分寺崖線、矢川、玉川上水、善福寺川、多摩川、荒川くらいではないか。
清流復活水を活用した「壁泉(水景施設)」が擁壁からちょろちょろと水が流れていたが、せめて国道246号線の騒音にかき消されないほどのせせらぎの音くらいの演出があっていい。
もう一つ気になったのは「川に背を向ける建物群」だ。記者は2008年、日本橋川下りを取材したことがある。その時、「川岸はコンクリート塀になっており、ビルから川を眺めるような設計にはなっていなかった。日本橋川に東京の汚濁を全て注ぎ込もうとするように見えた。こんな悲しい光景は改めなければならない。川ばかりか、川沿いに建つ日銀本館、野村證券ビル、三菱倉庫ビル、日証館などの歴史的建築物も泣いている。建物は後ろ側から眺めるのが美しいといわれているはずだ」と書いた。
渋谷川も遊歩道が整備された西側はともかく、東側は渋谷川の擁壁に接するように中高層建築物が櫛比し、絶壁のように迫ってくる。
かなり手厳しいことを書いたが、渋谷区や東急線が嫌いなためではない。区内には公園の再生ではいい見本がある。「宮下パーク」だ。若者でごった返している。
都は渋谷川・古川の河川再生に数百億円を投じるようだが、今からでも遅くない。もう一度街づくりについて沿道の地主らと協議すべきだ。
金王橋あたりから渋谷駅方面を写す
並木橋手前から渋谷駅方面を写す
正面が「渋谷ブリッジ」
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代官山では、野村不動産が分譲中の2つのマンション現地もみた。代官山駅から徒歩4分の八幡通に面した12階建て「プラウド代官山フロント」75戸と、その隣接地で駅から徒歩6分の4階建て「プラウド代官山テラス」20戸だ。全て億ションで、全95戸に対して約半分が成約済み。坪単価は900万円弱。
「フロント」の八幡通りを挟んだ対面では、「代官山アドレス」に隣接した「代官山東急アパートメント」の建替え事業が進行中だ。事業主は東急不動産で施工は竹中工務店。10階建て延べ床面積約21,875㎡。2021年3月着工予定。分譲なら坪1,000万円台に乗るか。
2016年の土木学会デザイン賞を受賞した東急電鉄「ログロード」が最高によかった。東急東横線の地下化に伴い創出された細長い上部空間約3,464㎡に建設された全5棟延べ床面積約1,874㎡の商業施設で、建物外壁に木造(レッドシダー)を採用したデザインにしばし見惚れた。
建設中の「プラウド代官山フロント」
「ログロード」
がんばれ京王!10月1日開業 小田急電鉄「BONUS TRACK」に負けるな!(2020/10/1)
若い人で溢れかえる 「立体都市公園制度」を活用した三井不「MIYASHITA PARK」(2020/9/6)
これでいいのか 川に背を向ける日本橋の街(2008/5/19)
〝モネ〟百瀬・明大名誉教授と〝マネ〟篠原・OSI代表の絆展 初日大賑わい 18日まで
百瀬氏の作品「ケンブリッジ大学とケム川」
左から百瀬氏、山田氏、篠原氏
OSI (沖縄観光産業) 研究会会長で明治大学名誉教授・百瀬恵夫氏と同研究会代表・篠原勲氏が主催する「絵画&墨書」絆展が10月12日、銀座アートホール(中央区銀座8丁目)でオープンした。初日には明治大学卒で日展理事を務める彫刻家の山田朝彦氏、明治大学理事長・柳谷孝氏らもお祝いに駆け付け、記帳者だけで50名を突破するなど終日賑わった。(お断り 写真がうまく写っていないのは記者の腕とカメラによるもので、すべて傑作です)
開催の案内状には、「コロナウイルスの感染拡大防止に伴い様々な活動に制約が生じておりますが、いつまでも『冬眠生活』を送っておりますと温かな心まで冷えて凍えかねません。そこで、趣味の一つとしている透明水彩画や油絵を、日頃から親しくさせて頂いている皆様にご批評を賜りたく、書道家の方々と共に『絵画&墨書』絆(きずな)展を開催することに致しました。絵の方は素人集団ですが、筆を持った時に得られる『無心になれる気持ち』とその一方の『緊張感』にはたまらない魅力があります。ボケ防止にも最高の趣味かとも思います。書につきましては、それぞれがプロの方たちです。どうぞ、お気軽に絵と書をご堪能頂きたく存じます」とあるように、百瀬氏の人脈を通じて各界で活躍されている人の絆を深めるのが目的。
85歳にして水彩画に挑戦した百瀬氏の作品は「明大記念館」「上高地と穂高」「首里城と守礼門の夕暮れ」「ケンブリッジ大学とケム川」「スキーの思い出(カナダ)」「チェルマット(スイス)の冬」の6点。
絆展は、10月18日(日)午前11時~午後6時30分(最終日は午後4時)まで、中央区銀座8丁目110番地コリドー街の「銀座アートサロン」で開催される。作品は、両氏の透明水彩画のほか、関口耕二氏と玉川憲志氏の油絵、國分絮虹氏、渡部會山氏、奥山曄光氏、薬丸順子氏の墨書。
以上、百瀬氏の作品
百瀬氏は1935年、長野県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。後に同大学大学院博士課程単位修得。明治大学政治経済学部教授(政経学部長)、明治大学体育会柔道部長、ケンブリッジ大学客員フェロー(英国)、環球科技大学客員教授(台湾)、モンゴル国立大学客員教授など歴任。NPO法人RBAアジア中小企業研究会会長、NPO法人OSI (沖縄観光産業) 研究会会長、中小企業研究会顧問、沖縄県地場産業・泡盛を育てる会「紺碧会・東京」会長。2017年春の「瑞宝中綬章」を受章。
以上、篠原氏の作品
篠原氏は1942年、東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒業。東洋経済「会社四季報」編集長、「週刊東洋経済」論説委員、編集局次長、取締役営業局長、取締役出版局長、立正大学講師、鳥取環境大学環境学部教授などを歴任。
左から篠原氏、國分氏、玉川氏、百瀬氏、権代美重子氏、菅原律子氏
作曲家・山本寛之氏(左から2人目)と歌手、女優、バイオリニストらと百瀬氏
◇ ◆ ◇
百瀬氏は、70年安保ではゲバ学生を一喝し、バリケードを解除させた武勇伝の持ち主で、スキーはプロ級、柔道は4段と聞いているので多少のことには驚かないが、85歳にして画家デビューを果たされたのには唖然とした。
呼称がまた面白い。「モネ」だそうだ。なぜ「モネ」なのか、篠原氏が次のように種明かししている。
「百瀬先生はこれまで豪快にお金を使ってきたため、奥様に『もう家にはお金がまったくありませんよ』と言われたそうです。それで、先生いわく『もーねー』(もう無い)と。つまり『モーネー』―だから『モネ』と」
小生もこれには合点がいく。思い当たる節もある。百瀬氏は、沖縄・泡盛が東京では全く浸透していなかった頃、泡盛を小脇に抱え、銀座のクラブをはしごしたそうだ。店で自分が飲むためではなく、クラブでも泡盛を取り扱ってくれるよう頼みこむためだった。
いくらつぎ込んだかは知らないが、ことあるごとに沖縄の酒造組合から一杯数千円もしそうな古酒が惜しげもなく振舞われることからもその貢献度が推し量られる。
山田氏に「先生はいつから描かれているのですか」と聞かれ、百瀬氏は「昔から恥ばかりかいています。ワハハハハ…」と受け流した。
篠原氏の呼称がまたいい。「私の場合は、いつも財布の中にお金が空っぽのため、それで羽の付いたお金を追いかける夢を見ます。『マネー、マネー』と」
百瀬先生、篠原先生、これを機に画壇の頂上を目指していただきたい。もともと画家は長寿が多い。葛飾北斎は89歳、ピカソは91歳、シャガールは98歳まで生きた。文化勲章を受章した上村松園、小倉遊亀、片岡球子は100歳を超えても現役で活躍した。
渋沢栄一は「四十、五十は洟垂れ小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ」と言ったではないか。
それにしても、コロナ過にもかかわらず、初日の来場者の多さには驚いた。大手デベロッパーのマンションモデルルームでも1日20組くらいではないか。その3倍はあった。取材のあと、銀座・日動画廊に寄り、そのことを話したらスタッフの方が「それは凄い」と驚かれていた。
入り口には吉田秀彦氏からの生花も飾られていた
会場にはたくさん生花が届けられていた
◇ ◆ ◇
出品者を一人ひとり紹介する余裕はないが、皆さん只者ではない。
例えば國分絮虹氏。作品に記者は感動を覚えたが、ご主人がまた凄い。正岡子規の高弟として高浜虚子と並び称される俳人・河東碧梧桐(1873~1937)の研究家で、全20巻の全集としてまとめられたのだそうだ。1巻当たり500ページとして全10,000ページ。値段は1巻約1万円。稀覯本になるのではないか。
百瀬先生より2歳下の83歳の関口耕二氏の経歴には過去の記憶を蘇らせてもらった。
関口氏も明大柔道部出身で、1946年の東京オリンピックの無差別級柔道決勝戦であのアントン・ヘーシンクに抑え込まれ、一本負けした神永昭夫より4歳下だという。「当時の神永さんは強かった。押しても引いてもびくともしなかった。ヘーシンクに敗れたときの神永さんは身体がボロボロだった」と語った。
関口氏の「ひまわり」の作品を山田氏は〝絶賛〟したのだが、山田氏は、「作品に命を吹き込む心眼、つまり、見たままを描くのではなく、見えないものを心で感じて表現することが大切」などと関口氏の質問に気軽に応えられていた。
奥山曄光氏、薬丸順子氏の〝師匠〟の方は匿名を条件に「二人ともそれぞれ持ち味を出している個性的作品」と評した。
玉川氏は、沖縄酒造組合を定年退職されてから描かれるようになった。「東京駅」を最初見たときはセザンヌを彷彿させる色づかいに驚嘆した。
隣駅の有楽町では、添付した3人のアーティストが制作・展示・販売する「ARTIST STUDIO ACTIVITIES」プロジェクトか丸の内・国際ビル1階で行われている。芸術の秋だ。
以上、國分氏の作品
以上、奥山氏の作品
以上、渡部氏の作品
以上、薬丸氏の作品
以上、玉川氏の作品
以上、関口氏の作品
以上、付け足しの記者の作品
明大名誉教授・百瀬恵夫氏が主宰中小企業研究会40年の歴史に幕RBAタイムズ2018年12月号dsk18400785-395-3-nishi.pdf
「おーお明治」大学の誇り 百瀬恵夫名誉教授の「瑞宝中綬章」受章を祝う会に300名(2017/8/8)
Go Toから10日 10代男性は過去最多 都のコロナ感染動向に変化はあるのか
Go Toキャンペーンに東京都が追加され、外国人入国が一部緩和されてから10日間が経過した。10月10日(土)の東京都の新型コロナ感染者は3日連続200人超の249人となった。感染動向に変化の兆しはあるのかないのか、判断は難しそうだ。
年代・男女別では、10代男性の感染者は18人にのぼり、1日当たりの感染者数としては8月11日の11人を上回る過去最多となった。(一部報道では大学生のクラスターが発生したとあるが、この10代男性がそうなのかは不明)20代男性の41人も8月22日の58人以来の高い数値となった。
また、別表に示したように、ここ数日間は各年代とも感染者は増加傾向にある。
感染経路不明者比率は、10月6日から8日の3日間は60%を超えるなど高い数値になっているのも気になる材料だ。
経路不明比率が下がらないのは〝思い当たる節がない〟のもそうだろうが、〝経路を明かしたくない〟人も相当数に上るはずで、ここにコロナの恐ろしさがある。
それにしても累計感染者のグラフはどうしてこのような正規分布(曲線)を描くのか。新型コロナは人種、性別、年齢、富者も貧者も愚者も賢者もあまねく平等に降り注ぐはずだ。外国はどうなっているのだろうか。
10月8日(木曜日)に行われた東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(第14回)での専門家のコメント・意見をいくつか紹介する。
①新規陽性者数は、週当たり1,100 人を超える高い水準で推移しており、今後、再び増加傾向となることへの警戒が必要である。
②無症状や症状の乏しい感染者の行動に影響を受けて、感染経路が多岐にわたり、また、感染経路が不明になっている。
③新規陽性者数に占める65 歳以上の高齢者の割合は14.4%で、依然として増加傾向が続いている。
④経済活動が活発化し、人の移動が増え、感染拡大のリスクを高める機会が増加することにより、新規陽性者数が再び増加傾向となることが懸念される。
⑤人と人が密に接触する、マスクを外して飲食・飲酒を行う、大声で会話をする等の状況により、感染のリスクが高まる。このような行動に伴うリスクに留意し、基本的な感染防止対策を徹底することが重要である。
3人のアーティストが制作・展示・販売する現場見学 丸の内・国際ビル1階
「ARTIST STUDIO ACTIVITIES」制作現場
三菱地所が先日プレス・リリースした「ソノ アイダ#有楽町」の第3弾企画「ARTIST STUDIO ACTIVITIES」の制作現場を見学した。
訪ねたのは、雨が降り続きとても寒い日の9日の午後4時ころ。約90㎡の作業場は、コンクリや配線がむき出しになったネイキッドルームだった。創作意欲を書き立てるためか、ラップのような音楽が流れていた。
小生も一時期油絵に凝ったことがあるので分かるのだが、作家によると他人に見られることを嫌い、ましてや話しかけられたりすると激怒することもある。
なので、おずおずと名刺を出し、見学の許しを請うたらアーティストの藤元明氏、藤崎了一氏、相澤安嗣志氏とも快く受けていただいた。感謝申し上げます。
3氏のうち藤元氏は、何やら書き物に目を移したり沈思黙考していたりしていたかと思うと、いきなり黒いビニールのようなキャンパス(と呼ぶのかどうかは分からいが)にいきなり左官道具のテコのようなものに白い絵具(ペンキに見えた)を付け、塗り始めた。
最初のころは何をしようとしているのかさっぱり分からなかった。油絵のように下塗する作業ではなかった。20分くらいたっただろうか、おぼろげながら人物を描こうとしているのではないかということが分かってきた。このような塗り方をしたら混色し、画面はグレー一色になるのではないかと心配した。(小生は何度も失敗している)
藤崎氏は、失礼ながらアーティストというよりは大工さんだ。他の二人に遠慮することなく、けたたましい音を立てる電動のこぎりで木を切り、鉋削りをしていた。シャツは半袖だった。
相澤氏は、岩絵具のようなものを調合していたのは小生も少しは理解できた。もともと日本画を描いていたと聞き納得した。
かれこれ1時間くらい見学したか。昼食も取っておらず、タバコも吸っていなかったが、時間がたつのもすっかり忘れていた。
芸術家の制作現場を見ることができるのはまたとない機会だ。向こう1カ月の間にどのような作品が生まれるのか。〝共演〟することで作風に変化が現れるのかどうか。機会があったらまた訪ねることにした。
藤元氏
藤崎氏
相澤氏
藤元氏
1975年東京生まれ。アーティスト。人間では制御出来ない社会現象をモチーフとして、様々な表現手法で作品展示やアートプロジェクトを展開。主なプロジェクトに「ソノ アイダ」、「TOKYO 2021」、「陸の海ごみ」、「NEW RECYCLE®」、広島-NewYork で核兵器をテーマに展開する「ZERO PROJECT」「FUTURE MEMORY」など。2016 年より開始した「2021」プロジェクトは現在も進化中。
藤崎氏
1975 年大阪生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了後、商業造形制作やクリエイティブプラットフォーム(SANDWICH) など様々な場所でテクニカルディレクターとして活躍、2014 年から作家として本格的に活動を開始。自らの身体感覚を媒体として制作行為の軌跡を作品構成の要素とする。「執着(ADDICT)」 をコンセプトに素材を偶発的な物理現象へ変換し、彫刻、写真、映像など様々なメディアを用いて作品表現へと昇華させている。
相澤氏
1991 年神奈川県生まれ。多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。自然と人間が交わる境界領域、文明の廃棄物が混在する場、エネルギー消費の場などを、現代の複雑で多様な社会の中で失われていくことになる歴史的な遺産として価値を見出し、物質の存在や運動エネルギーの認識を反映させた作品を制作している。
ポラスグループ坂本司氏 国土交通省土地・建設産業局「青年優秀施工者」受賞
ポラスグループは10月9日、ポラスハウジング協同組合に所属する坂本司氏が国土交通省の令和2年度「青年優秀施工者 土地・建設産業局長顕彰(建設ジュニアマスター)」を受賞したと発表した。
坂本氏は2008年4月入社。ポラス建築技術訓練校で学科、実技を学び卒業後は住宅建築現場業務に建築大工として従事。「現場は展示場」を念頭に現場の美化推進、改善活動にも積極的に取組み、現場で培ってきた高い技術と様々な経験を後輩へ伝承するための指導育成にも注力してきた。今回の受賞により同社グループとしては6年連続6人目の顕彰者。
隈研吾氏設計の「星野リゾート 界 由布院」着工へ 東急リバブル 開発型AM事業
「星野リゾート 界 由布院」イメージ図
東急リバブルは10月8日、大分県由布市で進める開発型アセットマネジメント(AM)事業に12月から本体工事に着手すると発表した。
同事業は、TLS6特定目的会社が建設する温泉旅館「星野リゾート 界 由布院」に同社がプロジェクトマネージャー兼アセットマネージャーとして参画するもの。
「星野リゾート 界 由布院」は、星野リゾートが全国に展開する温泉旅館ブランド「界」として2022年夏頃の開業を目指している。基本設計・意匠監修は隈研吾建築都市設計事務所が手がけ、農村の奥座敷の風格を感じるエントランスロビーや棚田のように広がるランドスケープを一望できる長い濡れ縁、雄大な由布岳に面した大浴場など、由布院の豊かな自然を心ゆくまで感じられるデザインを予定している。
施設は、大分県由布市湯布院町に位置する土地面積約35,562㎡、パブリック棟2階建、客室棟3階建×4棟、離れ平屋建×計5室の延べ床面積約4,365㎡。客室数は45室。施工はフジタ・新成建設特定建設工事共同企業体。設計は隈研吾建築都市設計事務所。開業は2022年夏(予定)。
積水ハウス&マリオット「道の駅PJ」3施設目の「栃木宇都宮」 満室開業
「フェアフィールド・バイ・マリオット・栃木宇都宮」(写真は記者撮影の★印以外は広報事務局提供)
積水ハウスとマリオット・インターナショナルは10月7日、地方創生事業「TripBase(トリップベース)道の駅プロジェクト」の一つの「フェアフィールド・バイ・マリオット・栃木宇都宮」ホテルを開業した。同日、関係者、メディア向けにオープニングセレモニー・内覧会を行った。
セレモニーの冒頭、挨拶に立った積水ハウス取締役専務執行役員・石井徹氏は、「『TripBase道の駅プロジェクト』のポイントは3つ。1つ目は道の駅にホテルを隣接させた点です。地域を渡り歩く拠点として宿泊に特化したホテルです。2つ目は新しい旅のスタイルの提案です。目的を定めずに、知られざる魅力スポットを巡り、偶然の出会いを楽しみながら渡り歩く。“旅の新たな価値”を提案できればと思います。3つ目はアライアンスです。これまでに25道府県の自治体、36社のパートナー企業の皆様と事業連携を進めています。2025年までに25道府県、約3,000室まで規模を広げていく」などと語った。
続いて登壇したマリオット・インターナショナル日本・グアム担当エリアヴァイスプレジデントのカール・ハドソン氏は、「マリオット・インターナショナルは世界中で成長し続けており、世界には7,400以上のホテルがあります。その中でもフェアフィールド・ブランドは30年以上にわたりゲストの皆様に家族のようなおもてなしをして参りました。『フェアフィールド・バイ・マリオット・栃木宇都宮』は、日本で55番目のマリオットブランドのホテルとなり、マリオット・インターナショナルが日本に初めて導入する、“道の駅に近接”したロードサイド型ホテルです」と紹介した。
来賓として出席した宇都宮市長・佐藤栄一氏は、「年間140万人のお客様が訪れる『道の駅うつのみやろまんちっく村』の中にホテルを作っていただいたことで、大谷観光含めた宇都宮の大きな財産になっていくものだと思います。行政も一体となり、おもてなしの心で育てていきたいと思います。今後、県内の自治体が連携して盛り上げていくことで、栃木宇都宮がさらに成長していけるように努力してまいりたいと思います」と歓迎の言葉を述べた。
施設は、東北自動車道宇都宮ICから車で約5分、宇都宮市新里町に位置する宿泊特化型の3階建て延べ床面積約3,100㎡。客室は87室で、広さは全室25㎡。ルームチャージ(大人2人と子ども1人)は1万円。
約46haの滞在体験型ファームパーク「道の駅うつのみやろまんちっく村」に隣接しており、同施設内の露店風呂を利用できるほか地元産食材を使った料理やオリジナル餃子、園内で醸造された地ビール、イチゴの摘み取り体験やイチゴのスイーツ作りなどか行える。カール・ハドソン氏は、コロナ過にもかかわらず満室稼働したと報告した。
両社は2018年、「TripBase(トリップベース)道の駅プロジェクト」を立ち上げ、2020年10月6日に開業した岐阜県2か所のホテルに続く3か所目。今後2025年までに全国25道府県の自治体、36社のパートナー企業と連携し約3,000室規模へ拡大する予定。
左から石井氏、カール・ハドソン氏、佐藤氏
テープカット
全景(★)
ラウンジ
地元の工芸品や書籍を紹介するコーナー(芥川賞作家の立松和平の本もあった)
キッチンには地ビールや地元産の食材なども置かれていた(★調理は不可)
◇ ◆ ◇
ホテルは積水ハウスの十八番〝5本の樹計画〟も盛り込まれているのが特徴の一つだが、客室に入った途端、飛び上がらんばかりに感動した。床は郊外マンション市場を席捲しつつある直床のそれと比べてはるかに柔らかく、子どもだけでなく家族みんながトランポリンを愉しむような心地にいざなってくれるのではないかと思った。
客室の広さは全て25㎡で天井高は2400ミリくらい、浴槽はなし、冷蔵庫はあるがくしや髭剃り、浴衣・バスローブもなし(パジャマはあり)など設備仕様・アメニティなどは他の宿泊特化型でもそうないのではないか。
アメリカの小説などによく登場するモーテルに似ているのかとも思ったが、ホテル担当者に聞くと、それらよりは豪華だということだった。共用部を含め施設全体が火器の使用は不可となっているのにもびっくりした。客室1室あたりの投資額は約2,000万円。
感動はもう一つあった。電通PRによるセレモニー・内覧会に関するオフィシャル素材提供が画像も映像も完ぺきだったことだ。
記者はこの種の取材ではいつも登壇者が話すのを必至にメモし、記事にしている(時にはテープに残すこともあるが)。同社はその手間を省いてくれた。前段の各氏の挨拶は全てコピー&ペーストしたものだ。
しかし、情報提供が完ぺきであるからこそ取材する記者の眼力が試される。コピー&ペーストすれば〝講釈師見て来たようなウソをつく〟ことも可能だが、提供されていない情報をどのように探り出し、記事にするかが問われる。今回の取材でそれができたかどうかは自信がない。
客室
◇ ◆ ◇
取材で楽しみにしていたのは栃木弁を聞き、名物郷土料理「しもつかれ」やイナゴの佃煮・ふりかけなどを食べることだった。
栃木弁は、語尾に〝だべ〟〝だっぺ〟などと濁音・半濁音を付けるのが特徴で、聞きようによってはひどく乱暴で汚く、人を小ばかにするような響きもあるが、伊勢の〝な言葉〟のように丸く収めこむような働きもする。
カール・ハドソン氏が「皆さま、こんにちは。本日は『フェアフィールド・バイ・マリオット・栃木宇都宮』にお越しいただき誠にありがとうございます」「お客様が家族的で温かさとともに楽しんで頂くことを心から願っています」などと日本人以上に美しい日本語でもって心のこもった挨拶(小生は英語をまったく解せず、この部分だけがよく聞き取れた)をされたので、宇都宮市出身の佐藤市長も「いいホテルだっぺ」などと返すのを期待していたのだが、全然話されなかったのは残念だった。
しかし、隣接する「ろまんちっく村」を訪れていた地元の方々からは栃木弁を堪能させてもらったし、「しもつかれ」やイナゴの佃煮についても話を聞くことができた。記事にはしないが、昔の栃木の人たちは厳しい環境を生き抜く術を身に着けていたことが分かる。慣れないと「しもつかれ」やイナゴの佃煮はちょっと食べられない。
「ろまんちっく村」(★人通りが少ないように見えるが、人が映り込まないようにした結果。かなりの人出があった)
◇ ◆ ◇
「ろまんちっく村」にある温泉・プールを備えた宿泊棟「ヴィラ・デ・アグリ」も見学させてもらった。内観は、施設案内などの張り紙がべたべたと張られていたのは割引材料だが、大谷石をふんだんに用いており、こちらも素晴らしい施設だ。東日本一の施設にランクされたこともあると聞いた。
客室は10室。新型コロナ前の稼働率は95%に達していたという。6名利用の客室料金は大人1人4,990円。客室に風呂はなく、露店風呂付の大浴場がある。もちろん男性用のみ覗いたが、小生より体重が3倍はありそうなトドそっくりで、湯上りのピンクどころか赤茶けた豚の丸焼きそのものの素っ裸の人を見て息が詰まりそうになった。
よせばよかった。貧相な裸体をさらけ出すことになるこの種の風呂を記者は好きではない。どこだったか、助平根性も手伝って男女混浴の風呂に入っていたら、前を隠すこともなく寸胴の大年増が群れをなして闖入してきたときは、襲われるのではないかと恐怖を感じ、すごすごと逃げだしたのだが、〝ゲラゲラ〟と嘲笑する声が背後から襲ってきたときは鳥肌が立った。
皆さんはそんな経験はないか。露天風呂は年齢制限を設けるべきだ。
「ヴィラ・デ・アグリ」客室(★)
「ヴィラ・デ・アグリ」全景(★)
丸の内・国際ビル1階で3人のアーティストが制作・展示・販売10/8~11/1 三菱地所
三菱地所は2020年10月8日(木)~11月1日(日)、「有楽町エリア再構築」に向けた先導プロジェクトである有楽町「Micro STARs Dev.」の一環としてアーティスト・藤元明氏のディレクションのもと取り組むアートプロジェクト「ソノ アイダ#有楽町」の第3弾企画「ARTIST STUDIO ACTIVITIES」を実施する。
「アートは現場が一番面白い」をテーマに期間中、藤元氏のほか藤崎了一氏、相澤安嗣志氏の3名のアーティストが同区画に滞在し、その場で制作・展示・販売を行う。会期中に100点を目指すという。
会場は、丸の内仲通りに面する国際ビルヂング1F(千代田区丸の内3丁目1-1)で、午後13:00~19:00(土日11:00~、月曜定休)。
藤元氏は開催にあたり「アート作品とはアーティスト活動の最終的な成果物です。アーティストはその制作現場を見せる機会はほとんどありません。しかし、アーティストにはそれぞれ独自の制作プロセスがあり、オリジナルの道具や技法を開発し、完成度に悦になる一方、瞬発的発想や偶然の瞬間などにも醍醐味を見出します。本展覧会では会期中の3週間、藤元明・藤崎了一・相澤安嗣志3人のアーティストが、『ソノ アイダ#有楽町』の会場に制作環境を移設し、滞在し、作品制作と展示(販売)を同時進行します。制作するために変化し続ける空間、作品を生み出し続ける苦悩や工夫、予想できない状況そのものを展示し、我々の一番面白い部分をオスソワケしたいと思います」とコメントを寄せている。
藤元氏
藤元氏の制作風景
藤崎氏作品
相澤氏作品
ワンストップで子育て支援 積水ハウス「大網白里市子育て交流センター」
「大網白里市子育て交流センター」
今年のキッズデザイン協議会「第14回キッズデザイン賞(子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門)」を受賞した積水ハウスの「大網白里市子育て交流センター」を見学した。
「大網白里市子育て交流センター」は、大網駅からバスで約10分、平成2年から12年にわたって行われた組合施行の約90haの土地区画整理事業「みどりが丘」住宅地の一角に位置する敷地面積約1.277㎡、木造平屋建て延べ床面積約1,242㎡。
「学童エリア」「児童館エリア」「子育て支援エリア」の3つの機能を持たせているのが特徴で、隣接する平成24年に駅近くから移転・開校した大網小学校の学童保育室の不足を解消するとともに、広域「サードプレイス」として子育てをワンストップで支援する環境を整えている。学童は今年4月、児童館と子育て支援は7月にそれぞれオープン。学童の登録者は約150人に達し、児童館、子育て支援施設も隣町の東金市民を含め多くの利用者があるという。
市は当初、土地区画整理地内に所有する約4.6haの土地にPPP手法による子育て、福祉、医療、商業の複合施設を考えたが不調に終わったため、2018年、学童・児童館・子育て支援施設の建設を条件に提案を公募した。
同市企画政策課政策推進アドバイザー・伊藤栄朗氏は、「応募があった4プランのうち2つは四角い鉄骨造で、もう一つは在来工法だったが、木造ですべての施設を南向きにして光と風を取り込んだ積水さんのプランが高く評価され採用が決まった。設計・施工を一括発注したことでコストも抑えられた。この種の施設は全国的にも珍しいのではないか」と語った。
同社はこのほか、今年のキッズデザイン賞で「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門」で1点、「子どもたちを産み育てやすいデザイン部門」で4点、合計6点が受賞。同賞の受賞は累計93点となっている。
児童館エリア エントランスホール
子育て支援センターエリア
学童エリア
指はさみ防止ドア
中庭
◇ ◆ ◇
これまで大網駅は、大規模住宅地「季美の森」の取材などで5回くらい訪れている。まだ大網白里町の時代で、2015年に市制が施行されたのは知らなかった。
駅に降りた途端、清澄な空気に触れ、わが心にも悪影響を及ぼしている汚濁まみれの都心の空気とつながっているのが不思議に思えた。周りの風景は以前とあまり変わらずゆったりと時間が流れているのを肌で感じた。早速、これまでもよく利用した駅前にある創業48年というタバコが吸える喫茶店に入った。
施設見学は、小学校に隣接し、学童・児童館・子育て支援の3つの機能を持たせたワンストップの施設は珍しく、ひょっとしたらキッズデザイン賞の上位賞を狙えるのではないかと考えお願いした。残念ながら上位33賞には選ばれなかったが、収穫も多かった。
施設は、東西に総延長83m。地盤を周囲より1m下げている効果か、低層の建物は周りとよくなじんでいた。内観はスギの構造材をところどころ現しにし、床はレッドオークの無垢材、天井高は最大4m、Low-Eガラス、中庭にはモミジ、引き戸、開き戸には全て指はさみ防止対策…今年のキッズデザイン賞で総理大臣賞を受賞した「まごころ学園」も素晴らしいと思ったが、紙一重の差しかないのではないか。
空気はおいしく、施設は素晴らしかったが、市の課題も多いようだ。伊藤氏によると、「みどりが丘」にはスーパーが一つもなく、全2,000区画のうち地権者が所有する2割くらいが更地として残っており、当初予定人口の8,900人は、5,000人に届くがどうかとも話した。今回の施設を除く残り3.6haの市有地に商業施設などの誘致は可能なのかどうか。人口も市制施行時に5万人を突破したが、最近は減少に転じたという。
しかし、希望も持てる。市内の全体で2,000戸近い「季美の森」のフェアウェイフロント住宅は1億円を突破し、4,000~5,000万円台の普通の住宅もよく売れた。このほか、外房線沿線の鎌取-誉田-土気-大網には良好な住宅地がたくさんあることだ。官民を挙げて地域の活性化、空き家対策に取り組めば優位性をアピールできるのではないか。
最後に、コロナ禍にもかかわらず見学をセットしていただいた同社広報、技術的な説明をしていただき帰りには駅まで送っていただいた同社千葉支店設計課係長・土屋貴輝氏、同支店課長・大越太郎氏、そして何よりも施設建設の経緯、市の課題などを分かりやすく説明していただいた伊藤氏、指定管理者のオーエンス施設長・上代真澄氏にお礼申し上げる。
市の新型コロナ感染者は6人だそうだが、都県またぎした小生は徹底して三密を避けている。コロナを運ばなかったのはまず間違いないし、このあと市原市と千葉市の2か所でマンションの取材をしたが、おにぎり1個と缶ビールの昼食は野外で済ませた。
エントランスホール
エントランス
総理大臣賞に福祉型障がい児入所施設「まごころ学園」 第14回キッズデザイン賞(2020/9/30)
がんばれ京王!10月1日開業 小田急電鉄「BONUS TRACK」に負けるな!
「BONUS TRACK」
小田急電鉄は10月1日、開発を進めてきた「下北線路街」の施設の一つ「BONUS TRACK」を開業した。同日、プロジェクトを担当する同社生活創造事業本部 開発推進部課長・橋本崇氏と施設を運営する散歩社代表取締役CEO・小野裕之氏、同社取締役CCO・内沼晋太郎氏によるトークセッションが行われた。
橋本氏は、3年前に同プロジェクトを担当したとき、地域住民から聞き取り調査を行った結果、〝昔は個性的な店が多かった〟との声を聞き、復活できないかと考え、それを実現するには賃料を抑える必要性を感じ、小野氏に相談を持ち掛けたなどと開発の経緯について語った。
小野氏は、「下北沢には自分たちの価値をしっかり認識している多様な主体者(店舗など)が存在し、民間の力と融合させれば地域とも共存できると考え、事業に参画した」と話した。
内沼氏は、音楽、アート、映画など地域の人々に日常使いしてもらえるようなイベントをどんどん仕掛けていくと語った。
左から橋本氏、内沼氏、小野氏
◇ ◆ ◇
この施設については開業前の3月末にも取材しているので、そちらの記事も参照していただきたい。
トークセッション会場で配布された資料の一つに「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」のパンフレットがあった。
新聞紙の見開き2ページ分に相当するA1判を4つ割り、つまり8ページ建ての大きなもので、世田谷代田駅から下北沢-東北沢に至る全長約1.7㎞の゛下北線路街」に、今回の「BONUS TRACK」を含めホテル、旅館、学生寮、コミュニティハブ、カフェ、商業施設など計画を含め13のプロジェクトが図示されている。
そして、冒頭のキャッチコピーには「いろんな人が、自分らしく生きている街、シモキタ。ここまで多様性にあふれている場所は、日本中を見渡しても、そうそう存在しません。」とあった。
このフレーズに京王線沿線に約50年住んでいる京王ファンの小生は敏感に反応した。「ここまで多様性にあふれている場所は、日本中を見渡しても、そうそう存在しません」というのは根拠があるのかと。
橋本氏はさすがに「このコピーは街づくりの思いを表現したもので…」と言葉を濁したが、小野氏は「北は北海道から南は九州まで全国の街を巡ったが、一定程度人口が集積し、個性的な店舗が揃い、車が歩行者に気を付けるウォーカブルな街は他にない」と言い切った。
この答えに記者も頭をフル回転した。京王線沿線にそんな街はないかと。残念ながらない。尻尾を巻くほかなかった。
同じような空間はないわけではない。似たようなエリアはある。京王新線初台-幡ヶ谷-笹塚の線路沿いには緑道、公園が走っている。総延長は下北線路街の約1.7㎞と同じくらいではないか。もう一つは、京王線と京王相模原線の分岐駅である調布駅の地下化にともなう地上空間だ。
前者の公園、緑道はそれなりの人通りはあるが、管理するのは渋谷区で周囲の商業施設、住宅などとは隔絶されており、お互いが背を向けた状態で存在する。最近、日本財団による公園トイレも幡ヶ谷駅近くに建設されたが、果たしてどれくらいの人が利用するか。記者はほとんどないとみている。
後者の調布駅前の整備だが、これは調布市の事業として行われており、完成は2025年度なので現段階ではよく分からないが、市民が自由に行き交う空間は期待できないのではないかと記者は思っている。
なぜ、これほどまでに異なるのか。詳しく紹介する余裕はないが、一言でいえば街づくりの思想・理念の有無だ。小田急は地域と共存する街づくりを進めようとしている。一方の京王はそれがない(失礼)。初台-幡ヶ谷-笹塚の緑地空間に市民が関わる余地は皆無だ。調布駅前の空間づくりも市民の声(あるのかないのかよく分からないが)が反映されるのは期待薄のような気がする(記者は40年前の緑が豊富な調布駅周辺はよく知っている)。
「恋する豚研究所コロッケカフェ」
「お粥とお酒 ANDON」
正面の「ADDA」のカレーは人気とか
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「お帰り、何か食べてきた? 」「うん」「2,000円渡したんだけど収まった? 」「…(倍以上)」「お酒飲んできたでしょ。すぐ分かるんだから」「…うん」-小田急電鉄の取材を終え、うちに帰ったのは午後2時半を過ぎていた。
利用した「恋する豚研究所コロッケカフェ」「お粥とお酒 ANDON」「日記屋月日」はみんないい店だ。おいしかった。2,000円は本を買ったことにしよう。駅前の温泉旅館・由縁別邸はGo Toトラベルを利用して飲みに行こう。
京王線にも「BONUS TRACK」のような街はできないか。がんばれ京王!小田急に負けるな!
「温泉旅館・由縁別邸」
小田急電鉄〝下北沢の新たな名所〟SOHO&店舗「BONUS TRACK」4月1日開業(2020/3/30)