三井ホーム ゼロエネルギー目指す実験住宅「ミディアス」リニューアル
「ミディアス(MIDEAS)」
三井ホームは7月7日、三井不動産グループの次世代型都市「柏の葉スマートシティ」の街びらきに合わせゼロエネルギーを目指す実証実験住宅「ミディアス(MIDEAS)」をリニューアルオープンした。
過去2年間の実証実験の結果、外気温の変動に対してトータル空調により安定した室温が保たれ、想定した太陽光発電や蓄電容量により自給自足を可能とするゼロエネルギー住宅(ZEH)を十分上回る能力を備わっているとし、新たな技術を盛り込んで開発を進めていく。
新たに盛り込んだ技術は①ナチュラルユーザーインターフェイスVer.2②タッチユーザーインターフェイス③スマート家電④EVワイヤレス給電⑤電気配線が不要の振動発電スイッチ-など。
ナチュラルユーザーインターフェイスでは、これまで手振りで窓やブラインドの開閉、お湯張りなどを操作する技術に音声対応が加わった。その結果、「開けゴマ」で窓が開き、「風呂を沸かせ」でお湯張りが可能となる。
タッチユーザーインターフェイスは、太陽光発電や使用電力の「見せる化」を意識した技術で、楽しみながら居住環境をコントロール仕組み。スマート家電では、外出先から冷蔵庫の中身の確認や室温の調節ができる。
ナチュラルユーザーインターフェイスVer.2
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「ミディアス(MIDEAS)」は一昨年に報道陣に公開されているので、今回見学するのは2度目だ。高気密・高断熱の住宅ではあるが、パッシブ技術を最大限取り入れているのが特徴だ。全てがすぐ実現するものでもないようだが、実験住宅は約50坪で8,000万円だとか。坪単価は160万円だ。実用化されるのはそう遠くないと見た。
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よくわからなかったのがナチュラルユーザーインターフェイス。身振り手振りで窓を開閉したりりテレビのチャンネルを変えたりするのはそれはそれで結構だし、さらに音声によってコンピュータが人に変わって家事労働をやってくれるのは便利だと思う。実用化は近いのだろう。
しかし、夫婦、あるいは親子関係はそう単純ではない。同じ言葉でもそのときの感情によって微妙に意味が異なってくるし、第一、誰の声にコンピュータは反応するのか。「暑いな」「私は寒いのよ」「早く寝ろ」「いやだ」「西武戦が見たい」「パパ、ドラえもんだよ」「暗くして」「明るいほうがいい」…コンピュータはパニックになるはずだ。
ならば、声が大きいほうに反応したり、特定の人間のみに言うことを聞くようになったら、これはこれで問題も多い。夫婦が怒鳴りあうようになり、全ての実権を握った夫あるいは妻が家族全てをコントロールすることにならないか。単身者なら問題はないというが、そんなことはない。ロボットとしか会話を交せなくなったら人は生きる価値を何に見いだすのか。
タッチユーザーインターフェイス
アキュラホーム 高田・京大教授以外の5人全て女性の研究所設立
研究所設立について話す伊藤氏
アキュラホームは7月3日、住まいと暮らしに関する調査研究を行う「アキュラホーム住生活研究所」を企業内研究所として6月1日に設立したと発表した。
単に住宅を供給するだけでなく、住まう人が豊かさを感じながら末永く暮らしていくことが重要との考えに基づき設立したもので、当面は京都大学京都大学院髙田教授との共同研究「都市型木造住宅の住みこなし過程に関する研究」を行なうほか、つくり手、住まい手双方の立場から研究する「住みごこち・住みごたえ・住みこなし推進研究会」の運営、シンポジウム・セミナーの開催や研究レポートなどを発信していく。
研究所長は同社初の女性執行役員・伊藤圭子氏。伊藤氏は、京都大学卒で、国交省、石川県土木部建築住宅課長、都市基盤整備公団(現都市再生機構)研究所室長、日本建築センター企画部長及び国際部長、千葉県印西市副市長などを歴任。研究所委員長は髙田光雄・京都大学大学院教授、研究委員は大久保恭子・風代表取締役、園田眞理子・明治大学教授、野間光輪子・日本ぐらし代表、檜谷美恵子・京都府立大学大学院教授。
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高田教授が「私以外は全て女性。こんな研究会はほかにないのでは」と驚いたそうだが、少なくとも住宅、不動産業界ではこのような企業内研究所はないはずだ。どのような研究、情報を発信していくのか楽しみだ。
その意図について宮沢俊哉社長は、「これからは女性の時代。当社もどんどん女性を登用していく」と話した。
ポラス 本社ビルにあるロダン「考える人」の側でタバコが吸える〝怪〟挙
ポラス本社ビルの敷地内にある高さ2mのロダン「考える人」
「社員・市民にやさしいビル100景」のひとつに推挙したい
ポラス本社ビルの裏手にある喫煙所にロダンの「考える人」が鎮座されているのを発見した。上野の国立西洋博物館に設置されているものと同じサイズの立派なブロンズ製だ。背後の高架道路を背にビルの壁面を見つめる格好で設置されていた。
さすがポラス。家庭でも外出先でも存在そのものが煙たがられる愛煙家にとっては肩身の狭い世の中になってきたのを慮った会社が、せめてこの場所では「思索」しながら心置きなく存分にタバコを吸えるようにした英断、快挙ではないかと考えたが、二束三文の張りぼてならともかくわざわざ喫煙者のために高価なブロンズ像を設置するわけがないと結論付けた。
そこで、周りにいた同社の社員や広報マンに聞いたら、意外な事実が判明した。やはり、同社の愛煙家のためではなかった。1997年10月、本社ビルが落成したのを記念して設置されたものだった。当時の社内報には同社グループ創業者で社長だった故・中内俊三氏が次のように語っている。
「ポラスビル落成にあたりポラス協力会の方々から何かお祝いをしたいというお話をいただき、『私も常日頃大変ご協力いただいておりますので結構です』とお断りしていたのですが、たってのこととおっしゃるのでお言葉に甘えました。
ポラスグループの社員は行動はすぐに起こすのですが、もう少し考慮も必要だと思っていたので、以前からロダンの『考える人』を社員教育用にと考えておりました。
設置場所もポラスビルの正面に置こうということで、これは自治会の方々とも話していました。しかし…お客様に『契約をちょっと考えさせてほしい』と言われても困るのでやめました」
つまり、「考える人」は、本社ビル建設に伴い同社の協力会社が寄贈したもので、最初は正面に設置することも検討されたが、「お客様に契約をためらわれても困る」ということからビルの裏側になったというわけだ。設置場所は一般市民にも開放されており、像の奥にある地域の自治会館へのアプローチにもなっている。
これらのことを考えると、行き場をなくした喫煙者に「それでもタバコを吸うか。よく考えろ」というロダンの警句にも見えてくる。しかし、記者は同社に取材に行ったら必ず利用しようと決めた。世界的にも少ないロダンの名作がただで拝め、その隣でタバコが吸えるなんてここ新越谷にしかないのではないか。「社員・市民にやさしいビル100景」のひとつに推挙したいぐらいだ。
手前が公道。「考える人」の奥に喫煙所があり、その奥の建物が自治会館。像の左が同社の本社ビル
「考える人」を寄贈した同社協力会社名が書かれた銘板もある
すぐ手前が喫煙所。なにやらこちらを見られているように感じると「思索」どころでなくなる
三井不動産 川崎市・東芝と連携して再生可能エネルギーの普及・啓発活動
「エコちゃんず」
川崎市・東芝・三井不動産の3者は7月1日、3者が連携して再生可能エネルギーの普及・啓発を推進する「グリーンパワーで描く川崎の未来プロジェクト」として商業施設での教育型イベントや川崎市内小学校で再生可能エネルギー学習教室などを行なっていくと発表した。
川崎市は”グリーンパワー(再生可能エネルギー)への取り組み”を発信、東芝は”次世代育成のプログラム”を提供、街づくりを推進する三井不動産グループは環境や社会貢献活動を知ってもらう“場ときっかけ”を提供する。
第1弾として9月7日(日)、「知ろう!グリーンパワー教室~グリーンパワーで描く川崎の未来プロジェクト~」を三井ショッピングパークラゾーナ川崎プラザで開催する。
ポラス 26年3月期決算 売上高は4期連続過去最高を更新
ポラスグループは6月30日、平成26年3月期の決算発表・説明会を行なった。連結決算は売上高1,734億円(前期比13.2%増)、営業利益110億円(同0.6%増)、経常利益114億円(同3.0%増)、当期純利益25億円(同2.0%減)となり、4期連続で売上高を更新、経常利益も4期連続して100億円を突破した。
セグメント別では、契約棟数は主力の分譲住宅が2,205棟(同4.5%増)、注文住宅が851棟(同8.1%増)と、トータルで3,056棟と初めて3,000棟を超えた。
プレカットも好調で、消費増税前の駆け込み需要に対応して外販受注、売上、加工棟数は全て過去最高を記録。4工場体制となり加工能力が拡大したことで、初めて構造材加工が年間100万坪を突破した。リフォームも83億円で前期比25.3%の増加。
連結会社26社全体の売上高は2,349億円(同12.8%増)。
平成27年3月期の連結業績予想は売上高1,850億円(同6.6%増)、経常利益は140億円(同22.7%増)。
ポラスグループ・中内晃次郎代表は、売上げを4期連続で更新したことについて、「消費増税の駆け込み需要もあったが、分譲住宅は街づくりやデザイン性が評価された。新規出店エリアも業績向上に寄与した。今季は消費増税の反動で4~6月は反響も契約もやや落ち込んでいるが、やがて回復するとみている。分譲は棟数にはそれほどこだわらない。いい商品を供給して結果が伴えばいい」と語った。
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記者の取材フィールドである分譲戸建てについて中央住宅社長・品川典久氏は「契約棟数も売り上げも過去最高となった。今期契約棟数は2,450棟を目指す」とし、新規出店した船橋・津田沼エリアでは前々期126棟から前期139棟となり、今期は4~6月ですでに50棟を契約、東武東上線・西武線エリアでは前々期13棟から前期28棟になり、4~6月で24棟を契約、今後100棟くらい供給すると話した。大宮を中心とする京浜東北線は前期607棟契約で、今期はすでに143棟を契、同社の地盤である東武スカイツリーラインと肩を並べるくらいに伸びているとした。
当欄でも紹介した「蔵のある街」は予定していたコーポラティブ方式は希望者が少なく、分譲戸建てとして供給することに変更したと話した。「蔵」を残したうえで、所有・権利関係をどうするかを決定して戸建てを分譲するという。
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同社の決算説明会で毎回思うことだが、同社が商圏とする埼玉県・千葉県・東京城東エリア36行政区の着工動向、人口動向、販売動向などをほぼ完璧に捕捉していることに驚かされる。
分譲戸建て市場については、民間の数社が調査しているが、大手が供給する物件が中心で全体市場に対する捕捉率は1~2割程度に過ぎない。いわゆるパワービルダーや地場業者の物件はほとんど調査対象外になっている。
これに対して、同社は商圏で着工された約2.2万戸(平成25年度)の分譲戸建ての動向を捕捉している。いくらで分譲開始され、いくらで契約されたのかも広告など様々な情報を集めチェックしているという。
こうした地道なリサーチが同社の分譲戸建ての用地取得や商品企画、値付けに役立っているのはいうまでもない。これほど詳細に調査しているデベロッパーはほとんどないはずだ。日々刻々と変化する市場動向を民間の調査会社任せでどうするといいたい。
RC造に匹敵する江戸の蔵残す ポラス「蔵のある街」プロジェクト(2014/3/15)
URコミュニティ社長に就任して10カ月 黒住昌昭氏に「再生」を聞く
黒住昌昭氏
昨年8月、財団法人住宅管理協会が担っていたUR賃貸住宅の管理業務を引き継いで設立された株式会社URコミュニティの社長に、前マンション管理業協会理事長で大京アステージ会長だった黒住昌昭氏(72)が就任して10カ月が経過した。今から2年前、「70歳になったら仕事を辞める。男の美学だ」と宣言して理事長職も会長職も退いた黒住氏がどうして舌の根も乾かないうちに新会社の社長に就任したのか-黒住氏にインタビューした。
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-「男の美学」と宣言し全て辞められてから1年でどうして社長に就任されたのか
「そう言われるだろうと予測していた。13兆円の借金を抱えるURが新会社の社長に官僚OBを据える訳にはいかないということで〝トップはあいつだ〟と私にお鉢がまわってきたのだろうが、受けた以上、老骨に鞭打ってお役に立とうと決めた。ドラスティックには進めないだろうが、この8カ月間でじわじわと分かってきた。真っ先に手をつけたのが会議。エンドレスの会議は禁止した。定時にスパッとやめると、出席者全員がそれ以降の時間に予定が入れられる」
「全国にある70数万戸に住んでいらっしゃる居住者の皆さんはお客さん。滞納者も同じ。これまでは無駄もあったし、お客さん目線が欠けていた。しかし、社員のレベルはみんな高い。このよさを生かし〝住まう〟楽しさをお客さんと一緒になって考えていきたい。孤独死などは何とかしてなくしたい」
「独法改革で随意契約はダメになったが、全て競争入札制にして〝安かろう悪かろう〟でいいのかという問題がある。入居者も不幸になる。一定の質を保つためにも継続性が必要だ」
(記者は「男の美学」も立派だが、絶対にみこしを担ぐ人や集団が現れるだろうとみていた)
-山根弘美氏の理事長抜擢は見事だった
「山根さんにバトンタッチすることは退任する2年半くらい前から考えていた。私など現場を全然知らないが、山根さんは現場のたたき上げ。樋口さん(大和ハウスの樋口会長)はさすがだし、山根さんもすごい。最初は固辞されたが、最後は他の理事の方も含め了承してもらった。俺の目に狂いはなかったと、少しは自負している」
-辞めてから何をされていたか
「青山のNHK文化センターに1年通い、中高年の女性ばかりの中で水彩画を習った。私はもともと画が好きで中学のとき総理大臣賞を受賞した。種を明かすと、私は色弱で、色使いが普通と違う。それが評価されたのだろう。銀行(三和)の面接でも、面接の担当者から『当行は色弱者を採用しないんだよ。まあ、しかし、せっかくだからこれが判別できるか試してみよ』と伝票を渡された。私は伝票に記号が付いているのが分かったので、それで仕分けした。その担当者は『完璧じゃないか』と採用を決めてくれた。その後、三和は色弱の基準を撤回した。赤か青か白か黒かの色分けでなく、○△□などの記号でものごとを判別できるようにすれば色弱者が救われる」
(全国に色覚異常は300万人とか。ユニバーサルデザインの視点からも考えないといけない。絵の話もよく分かる。記者も小さい頃から絵が好きで自分がいちばん上手と思っていた。中学のとき、同級生の色使いに絶句したことがある。えもいわれぬ紅葉が描かれていた。かなわないと思った。あとで彼が色弱だったのを知ったのだが、子供心にも既成概念でしかものごとを考えられぬ自分を恥じた)
「いま凝っているのは料理。これまで料理などやったことがまったくないが、5、6年前、樋口恵子さんが、大学の会報誌「学士会報」(黒住氏も樋口氏も東大卒)だったか、〝男子厨房に入らずなどと気取って料理をしない人は無能〟などと書かれたのにムカッときて、それから見返してやろうと覚えた。いまでは女房も子どもも孫も美味しいと褒めてくれる。女房に言わせると、レシピ通りにやるからだと」
(奥さんの言い草は記者もよく分かる。「私のように目分量でやってみなさいよ」という挑発だ。これが難しい。油の温度など何度試しても分からなかった。いつも温度計を差し込んでタイムを計ってから揚げをつくった)
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記者は黒住氏の話を聞きながら「メザシの土光さん」と呼ばれた故・土光敏夫氏と京セラ名誉会長の稲盛和夫氏を重ねあわせた。土光氏がIHIの社長を退いたあと、東芝の再建を請われて昭和40年に社長に就任したのは69歳のときだ。その後、土光氏は経団連会長、第二臨調会長に就任するが、第二臨調会長は85歳で就任している。
稲盛氏が2010年1月に日本航空の会長に就任したのは78歳のときだ。記者は「腐っている日航を再建することなど不可能。失敗したら名誉に傷が付く」と心配したが、稲盛氏は見事に再建をやってのけた。
東芝や日航と同様、現在のURも試練に立たされている。約14兆円の賃貸住宅などの資産を保有する一方で13兆円もの借金を抱えており、独立行政法人改革論議の渦中にある。
膨大な借金は放漫経営の結果として批判されるのは否めないが、国の住宅政策に沿って良質な住宅供給や都市の再生・活性化に果してきた役割は大きい。優れた技術・ノウハウをどう次代に継承していくのかも問われる。77万戸の賃貸住宅居住者の生活もかかっている。役割は終わったと切り捨てるわけにはいかないはずだ。
黒住氏は72歳だ。数年前、「死ぬかと思った」(黒住氏)大病を患っているが、2カ月で現場に復帰した。この日の黒住氏は管理協理事長を務めていたころと同じだった。
この話を黒住氏にしたら「滅相もない」と否定されたが、黒住氏が三和銀行時代に渡邊忠雄会長の秘書を務めたとき、渡辺氏も72歳のときだったと話した。
帰り際に見せてもらったのだが、黒住氏の机の上にはこの5カ月間で北は北海道から南は福岡まで全国に27カ所ある「住まいセンター」を回った分厚いファイルが置かれていた。ファイルにはびっしりとメモが書かれていた。
「事前に連絡すると、かえって気を遣わせるし、業務に支障が出てはいけないので自分で場所を確認し、秘書にも告げず出かける。私の顔など知らない受付の女性は『どちら様ですか』と尋ねてくる」そうだ。
現場を大事にするのは土光氏もそうだった。地方の工場を訪ねるときは秘書をつけず一人で夜行電車に乗り夜行電車で帰るのが習慣だったという。徹底した現場主義を貫いた。土光氏や稲盛氏と黒住氏を重ねあわせて考えたのは間違いでないと思う。URの進むべき方向性を示してくれると確信している。
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記者の独断と偏見だが、黒住昌昭氏について少し紹介する。
平成9年6月、バブル崩壊後苦境に陥っていた大京を再建するため当時のメインバンク三和銀行から副頭取を務めた長谷川正治氏と、翌年には当時常務だった黒住昌昭氏が送り込まれた。長谷川氏は大京の社長に、黒住氏は大京管理の社長にそれぞれ就任した。
長谷川氏は社長就任会見で「早く、早く。早く」を三連発したように、矢継ぎ早に思いきった改革を断行した。完成在庫が山積していたのを逆手にとって「完成販売」なる妙案を打ち出したのもそのひとつだ。一方の黒住氏は地味な管理会社ということもあって表舞台には登場しなかった。しかし、記者は長谷川氏が再建のメドをつけたら後任社長には黒住氏が就任するのだろうとみていた。
2人の考え方、経営手法にも興味をそそられた。例えて言うなら長谷川氏は名刀政宗だ。切れ味鋭い太刀を真っ向から振り下ろす、柔道に例えるなら背負い投げで相手を畳に叩きつける一本勝ちにこだわる方だった。それまでの不動産業界のトップにはほとんどないタイプの登場だった。
黒住氏の性格は長谷川氏とは間逆、見事な対象をなした。日本刀ではなくのこぎりだ。歩みは緩やかだが、ギコギコとじっくり時間をかけ確実に大木を倒す樵のような人だと思った。柔道なら一本背負いではなく、寝技に持ち込み、相手を弱らせるか、あるいは〝もう止めよう〟と耳元で囁き、相手に決定的なダメージを与えない寝業師だとみていた。
その後の経緯は省くが、記者の予測は外れた。平成16年5月。若返りを理由に同社の幹部はほとんど退任し、長谷川社長も健康を理由に退任した。新しい社長には三和銀行出身の山﨑治平氏が就任した。黒住氏はそのまま大京管理の会長にとどまった。
それから10年。同社は、競争が激しくリスクも多い単品事業のマンション販売の経営からマンション管理を含めた「住生活総合サービス業」へと脱皮を図ってきた。成果を挙げているのは周知の事実だ。
URコミュニティがどのような路線をこれから歩むのか。そのヒントは今回のインタビューにあると思う。
アパ ホテル計画を1万室に上方修正 20棟目「半蔵門 平河町」開業
「アパホテル<半蔵門平河町>」
アパグループは6月23日、2010年4月~2015年3月の中期5カ年計画「SUMMIT5・頂上戦略」に基づく20棟目のホテル「アパホテル<半蔵門平河町>」を開業した。
同計画では、都心3区(千代田・港・中央)を中心に都心部でホテルの客室数10,000室を目指しており、現在まで33棟7,840室を開発(設計・建設中含む)。今回のホテルは20棟目で、東京メトロ半蔵門線半蔵門駅から徒歩3分、客室数は231室。
山形県が所有する土地をグループ会社のアパホームが賃借し、アパホテルが入居・運営を行なう。山形県民が宿泊する場合は、通常料金の2分の1から3分の1の料金で宿泊できる優待も行なう。
開業記者発表会に臨んだ同グループ・元谷外志雄代表は、「当初の頂上戦略の目標は7,500室だったが、上方修正して10,000室にした。来年3月までに何とか達成したい。土地も建築費も上昇しており、当社の投資基準に沿わなくなってきたので、今後は脱土地戦略を推し進める。今回は山形県のコンペに当選したもので、脱土地戦略のモデルケースにしたい。巣鴨駅前の都有地や両国のホテルもコンペで当選したもの。幸い内外の需要が旺盛で、都心のホテルは100%稼動が続いている」と語った。
また、アパホテル・元谷芙美子社長は、「都心の一等地で開業でき感無量。コンペの面接では泡沫候補にされるのではと思ったが、日本一の企画のアパのビジネスモデルが認められた。3件も続けてコンペに勝ち抜くことができた」と話した。
毎日24室は山形県民優先宿泊が可能。県民からすでに300件の予約が入っているという。
記者会見での質疑応答は指名制で産経新聞しか指名されなかった。
元谷アパホテル社長(左)と元谷アパグループ代表
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記者発表会のあとで行なわれたテープカット、披露宴には同社関係者ら多数が参加。来賓として挨拶した原田義昭衆院議員は元谷代表が主宰する「勝兵塾」の特待生としてアパグループを褒め、上野ひろし衆院議員は「一泊したが素晴らしい」と「素晴らしい」を数回繰り返し、浜田和幸衆院議員も「体験宿泊したが、ベッドもアメニティも素晴らしい。ビジネスホテルの枠を超え、シティホテル並みになった。議員のオアシスになる」と絶賛した。
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上野議員や浜田議員が体験宿泊した部屋は分からないが、23㎡のデラックスツインは1泊50,000円から。11㎡のシングルは18,000円から。ホテル関係者によるとアパのシングルは9㎡からあるそうで、このホテルは広めということだ。記者は一度も宿泊したことがない。
23㎡のデラックスツイン
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元谷芙美子社長は今日も帽子姿で登場。馬鹿を承知で「社長、いったい帽子はいくつお持ちですか」と質問したら、間髪を入れず「230個」と返ってきた。(社長の帽子の数は女性なら誰もが知っている旧聞であることを記者は知らなかった。家に帰って「あなた馬鹿ね。みんな知ってるわよ」とまた馬鹿にされた)
積水ハウス・東芝・ホンダ 2020年の暮らしを具現化したスマートハウス公開
実験棟
積水ハウスと東芝、ホンダの3社は先日、モビリティを含めたCO2排出量をゼロにする2020年の暮らしを想定したスマートハウスの実験棟の見学会を行った。
さいたま市に建設したもので、実際に居住できる二世帯住宅になっており、昼間外出している子世帯の太陽光発電の余剰電力を親世帯に供給し、各世帯で生み出した電気やお湯の世帯間での相互融通が可能となっている。また、ケーブルを接続せずに充電できる電気自動車への非接触充電、創エネと省エネ、歩行アシスト・UNI-CUB(ユニカブ)などの取り組みが公開された。
壁面緑化
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積水ハウスの取り組みはよく理解できた。もともと同社はユニバーサルデザインや省エネ・創エネに他社に先駆け取り組んでおり、ホンダの歩行アシスト・UNI-CUBが利用しやすいよう自動開閉ドアや完全バリアフリー、シャッター・窓の自動開閉、屋上緑化、壁面緑化、階段幅1.2m、16段ステップなどは一部の富裕層向けだろうが2020年までに間違いなく普及するものだと思う。
ホンダのUNI-CUBも試乗したが、これがなかなかいい。バランスを取るのが最初は難しいが、慣れれば容易に移動できる。「開けゴマ」と呼ばなくてもセンサーが作動してドアを開閉してくれる。現段階では外で乗ることはできないそうだが、やがてUNI-CUBのような乗り物専用レーンが公道に設けられるかもしれない。機器の重さは約25キロ。物などを持って動くのは難しいとのことで、このあたりが改善点だろう。値段がいくらになるかは公表されなかった。
マンションも鍵なしで帰宅しても玄関で「ただいま」と呼びかけるだけで開くようになる日が来るのは近い。酔っぱらって帰ろうものなら、水をぶっかけられることもありそうだ。
非接触充電器は、記者はまったく自動車のことが分からないので便利だとは思ったが訳が分からなかった。運転手がいないのに車が勝手に動くのにも面食らった。
ついでに最近車を乗らない若者が増えていることについてホンダ企画室第1ブロック主任研究員・瀧澤敏明氏に聞いた。瀧澤氏は「食も含めた車文化に食傷気味。今までのようなモビリティではこれからはどんどん乗る人は少なくなるだろう」と話した。
東芝の取り組みもよく分かる。コミュニティ管理、家庭内機器制御は日進月歩。どんどん進化するだろう。機器を設置するスペースをどう省くかが課題のように思う。
ガスエンジンコージェネレーションなどの機器ユニット
歩行アシスト・UNI-CUB(ユニカブ)
運転手がいないのに車庫に収まるEV車
東武鉄道「ソライエ清水公園アーバンパークタウン」街びらきに1,100人 分譲は7月
「ソライエ清水公園アーバンパークタウン」街びらきフォトセッション
東武鉄道は6月13日、千葉県野田市で開発を進めている土地区画整理事業地内の大規模開発「ソライエ清水公園アーバンパークタウン」の街びらきを行った。野田市長・根本崇氏、同社専務取締役・竹田全吾氏ら関係者が参加して、ちびっこ鉄道制服着用体験、「烈車戦隊トッキュウジャー」ショー、地元中学校吹奏楽部による演奏会、工房スタッフが教える壁張り体験、地元店舗による飲食などの物販販売など盛り沢山のイベントが行われた。約1,100人が集まった。
同開発は戸建て住宅を中心とした約500区画(約9.1ha)の規模で、「自然を感じる暮らし」「自分らしい暮らし」「コミュニティでつながる暮らし」がコンセプト。
区画整理事業は、施行面積が約28.1ha、施行期間は平成4年から同19年。総事業費は127億円。同社は平成5年から業務代行を受けて造成工事を進めており、約500区画(約9.1ha)の土地を保有。沿線のイメージアップ、活性化の取り組みの一環として魅力ある街づくりを進める。
「ソライエ清水公園アーバンパークタウン」は、大宮と船橋を結ぶ東武野田線(愛称:東武アーバンパークライン)清水公園駅前に位置し、駅前にはコミュニティを図る約4,500㎡の「そらいえひろば」を設置したほか、「みんなのカフェ」「えほんの図書館」「まちのコンシェルジュ」機能を備える。戸建て分譲の1期(28棟)の土地面積は150.43~178.37㎡、建物面積91.91~99.98㎡、最多価格帯は3,000万円台の前半を予定。販売開始は7月中旬。パッシブデザイン、ハンドメイドの手法を盛り込んでいるのが特徴。
まちびらきで挨拶した同社・竹田専務は、「『都市とつながる、こころのふるさと』のキャッチコピーには、この街が末永く『こころのふるさと』でありたいという私たちの思いが込められています。この街づくりを通して、沿線地域の今後のますますの発展に少しでも寄与することが出来れば幸い」と語った。
街びらき会場になった駅前の広場
挨拶する竹田氏
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同社の大規模開発は「つきのわ」以来10年ぶりだが、いかにも鉄道会社らしい街づくりだ。駅前に様々な施設を整備したのもそうだが、戸建ての商品企画は10年後、20年後を見据えた「ハンドメイドでつくりあげていく」街だ。環境共生がテーマになっており、デザイン監修には「チームネット」代表・甲斐徹郎氏を起用。パッシブデザイン手法を全面的に採用している。
甲斐氏からプロデュースハウスを案内してもらったのは午後2時30分過ぎだった。甲斐氏は次のように話した。
「室内の温度は周囲の表面温度に大きく影響されます。いま地表の温度は45度です。建物西側のアプローチデッキの表面は30度です。芝生や樹木、スダレなどのバッファがあるから温度が下がるのです。今朝の室内の壁の表面温度は21度でした。昨夜、部屋の窓を開け放して冷気を取り込んだ結果です。そして、今の室内の温度は26.2度。外気温は28.3度です。かなり人の出入りがあったことを考慮すると、かなり効果があることが分かります。樹木が生長すればもっと数値はよくなるはず」
体感温度は湿度にもよるが、この26.3度というのはエアコンなしでも過ごせる温度だろう。植栽やウッドデッキ、スダレ、さらには2階の階段室の上部に設けられた熱を逃がす高窓が効果てきめんであることを証明した。
この種のパッシブデザインの手法は以前から取り組まれてきたが、最近は高気密、高断熱のアクティブデザイン手法に押され気味だった。その流れを劇的に変えたのが東日本大震災だ。今後もパッシブデザインの取り組みが盛んになるのは間違いないし、同社の今回の提案もその流れに沿ったものだ。
ここで強調したいのは、甲斐氏こそ環境共生が叫ばれだした20年くらい前からずっとその必要性を主張してきた人だということだ。記者は15年前、甲斐氏らが中心になって完成させた「経堂の杜」を見学して、その豊かな外構に驚愕した。たしか、外壁にせせらぎを設けたのではなかったか。この外壁にせせらぎを設置する建物としては、隈研吾氏が設計・デザインを監修した豊島区の「Brilliaタワー池袋」にも採用されている。
もう一つ、購入者が好みでエコな壁紙を貼ることができるのも大きな特徴だ。ハンドメイドコーディネーター・坂田夏水氏が監修した簡単でエコな壁紙を玄関と主寝室の2カ所に自分で張ることができる。駅前の工房で張り方などが学べるようになっている。
「ものづくり工房」(壁紙張り体験ができるコーナー)
甲斐氏(左)と坂田氏
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同社が今回分譲する清水公園駅の一駅大宮寄りの七光台駅圏ではポラスが圧倒的人気を呼んだ「パレットコート七光台」がある。七光台のようなスピードで売れるかどうかは分からないが、同社は「ハンドメイドで作り上げていく」とコンセプトに掲げているように、販売スピードをあげるよりじっくりと年間40~50戸を販売していく戦略だろうと思う。
パッシブデザインの街は年を経るごとに価値が高まっていくし、スローライフな生き方を希望するユーザーに訴求する売り方をするのではないか。数えてはいないが、各住戸の敷地には10本くらいの中木の若木が植えられていた。成木になるには10年掛かるのではないか。
ひとつ、地元の野田市にいいたい。第1期分譲の街区に面した道路の街路樹にはクスが植えられていた。その樹形の悪さにびっくりした。まだ成木ではないが、将来が思いやられる。クスはこんもりとした見事な樹形に生長するが、ここの街路樹はチュッパチャプスの飴玉そのものだった。まったく思想がない。
コンセプトハウス
モデルハウス
全国大会にも出場するという地元の中学校吹奏楽部の演奏
三井不動産レジ・大和ハウス工業 「アユモシティ」街びらきに2000人(2013/7/19)
「一本足打法から脱却」スミカ味戸社長 分譲・仲介・高齢者向け3本の柱に
味戸社長
住宅分譲、不動産仲介、高齢者向け住宅の3本の事業を柱とするスミカ・味戸吉春氏に話を聞く機会があった。味戸社長はプロ野球の巨人ファンだが、事業については、リーマン・ショックを契機に「一歩足打法はやめようと決めた。それまではマンション事業が売り上げの90%を占めていたが、分譲事業は景気の変動に翻弄されるだけ。他の事業を伸ばし安定的に成長できる企業にする」と、興味深い話をした。
まず同社の紹介。会社設立はバブル崩壊直後の平成3年3月。当初は仲介業からスタートしたが、平成10年に戸建てブランド「ソアヴィータ」の分譲を開始し、同12年には自社マンションブランド「カーサフェリス」でマンション事業に参入。同23年には高齢者向け住宅の開発・サブリース・運営を行う「スミカフルール・ケア」を設立。リーマン前は売上100億を超えたが、単体の平成26年3月期の売上高は42億円の予想。
味戸社長は次のように話した。「リーマン・ショック前にはマンション分譲が9割でした。しかし、一本足打法では景気の流れについていけない。他の事業を伸ばして、マンションは体力以上にやらないことを決めました。今は年間2棟まで。戸建ては年間100戸が目標。自前で建設部門を持ち、城南を中心に建築条件付き土地分譲を展開しています。仲介は年間200件。うち3割が紹介、リピーターです。高齢者向けはこれから柱の一つにしたい」
そして強調したのが経営理念についてだ。「社員、お客さま、取引業者、株主、地域の皆さんのために夢と感動を提供したいし、さらに地球環境にも貢献したい。経営理念に沿った事業を展開しているのが私どもの強みです」
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味戸社長は福島県須賀川市出身の52歳。「福島は巨人しか放映されませんからジャイアンツファン」と語った。その味戸社長があえて王貞治氏の「一本足打法はやめた」というのは賢明な選択だ。
記者はリーマン・ショック後にバタバタと中堅デベロッパーが破たんしたのを見てきた。10社や20社では済まないはずだ。多くは供給が止まれば即破たんするマンションデベロッパーだったし、不動産流動化なる〝虚業〟にうつつを抜かした企業だった。単品ビジネスの〝一本足打法〟は血のにじむような努力と並はずれた信念がないと通用しないと思う。
その点、不動産流通業は手堅い事業だと思うし、これからは高齢者向け住宅事業も競争は激しいが有望だと思う。味戸社長がいうように、マンション事業は大手の寡占化が進む一方で、よほど商品企画を練らないと戦っていけない。
同社の戸建て事業については知らないが、「大崎の12棟現場は2週間で土地の段階で完売しました。今秋には完成しますので、ぜひ見ていただきたい。グッドデザイン賞も狙います」と味戸社長が仰った。ぜひ見学してレポートしたい