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2021/09/09(木) 17:23

選手村裁判が結審 「HARUMI FLAG」利益は消費者(購入者)に還元すべき

投稿者:  牧田司

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HARUMI FLAG全体像

東京2020オリンピック・パラリンピック選手村となった用地を東京都が事業者に公示地価の10分の1の価格で売却したことの是非を問う裁判【事件番号 平成29年(行ウ)第388号】が2021831日に結審した。判決日は未定だが、今年末までには出る模様だ。

記者は都が2016731日に「晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業」の特定建築予定者として三井不動産レジデンシャルを代表とする11社を選定したときからずっと取材してきた。

その第一弾として書いた「東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟」(2016/8/4)という見出しの「こだわり記事」にはアクセスが殺到した。当時、記事は日経新聞が発行していた住宅購入予定者向けのWeb「住宅サーチ」に全文が転載されていたので、「こだわり記事」と合わせるとその数は数万件(もっと多いか)に達したはずだ。

反響の多さに驚いた記者は、書いた責任として継続して書き続けようと決意した。その後の経緯について若干紹介する。

第一弾の記事を書いたその翌年の平成29519日、住民らは選手村敷地の売却価格約130億円は不当、違法であるとし、損害の回避または補填をするために必要な措置を講じることを都知事に求めた住民監査請求を行った。

これに対して同年719日、監査委員は「都市再開発制度を濫用した違法、不当なものであるとする請求人の主張には理由がない」として棄却した。その際、「本件事業の今後の実施に際しては、重要な決定に当たり、専門家の意見を十分に聞く等の内部牽制体制を強化することや、意思決定過程及び決定内容についてきめ細かな対外説明を行うことなどにより、これまで以上に透明性の確保に努められたい」との意見が付された。

この決定を不服とした住民側は同年817日、不当に売却されたことによる損害額約1,000億円(当時)を事業者に請求すべきと東京都知事に求める訴訟を提起した。原告側はその後、桝本行雄・不動産鑑定士による適正売却価格は約1,653億円とし、損害額は約1,500億円と上方修正している。

提訴から4年。原告側の住民らが勝訴するのか、被告の東京都知事が敗訴するのか、それともその逆になるかはわからないが、敗訴した側がそのまま判決を受け入れるはずはなく、控訴するのは間違いない。以下は記者のこれまでの記事のまとめとして、明らかになった問題点を紹介する。

まず、選手村の売却価格を決定するに当たって採用された不動産鑑定手法の一つである「開発法」について。

不動産鑑定手法は「三手法」と呼ばれる原価法、収益還元法、取引事例比較法が一般的に知られているが、このほかに「開発法」として「一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該 更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格」(国土交通省 不動産鑑定評価基準)を求めることができるとしている。

記者は専門でないのでよくわからないが、価格時点(将来価格ではなく都が事業者に売却した2016年時点)の販売総額から建築費その他の費用を差し引いた価格が「開発法」による土地価格となるということだ。つまり、都が売却する際に日本不動産研究所に依頼して作成した「調査報告書」では、売れる価格として坪単価250万円(記者の推定)とし、それから諸々の経費や減価要因を差し引いた結果、土地の値段は坪32万円(容積率を平均400%として1種当たり8万円)とはじき出したわけだ。是非はともかくとして、地価公示価格は参考程度としか考慮されていなかったようだ。

この坪単価250万円というのは記者も納得する。当時、晴海エリアでは2012年春、三菱地所レジデンス・鹿島建設「ザ・パークハウス 晴海タワーズ」の第一弾として「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」が分譲開始された。スタート時点の坪単価は275万円だった。その後20163月、「ザ・パークハウス 晴海タワーズ」(1,744)の全体が竣工。最終分譲の坪単価は坪330万円くらいだった

当時の最高峰のマンションですら坪330万円だった。〝陸の孤島〟の選手村に4,500戸もの分譲マンションを建てたら、坪単価250万円がアッパーと考えるのは妥当で、「開発法」による売却価格決定に瑕疵はないと考える。

一方で、原告側の桝本鑑定士による鑑定価格はどうか。被告側は「桝本鑑定士の意見書は証拠能力なし」とし、原告側は「善意の第三者である事業者」に対する「重大な名誉棄損」と批判した。

記者も桝本鑑定士の鑑定評価額には減価要因がほとんど盛り込まれていないのは気になるが、かといって桝本氏の「鑑定評価」にも違法性・瑕疵はないと思う。

そこでわかるのは、世の中に真実・真理は星の数ほどあるのと一緒だ。ものの見方、考え方、前提条件次第で不動産鑑定価格はいかような金額になるということだ。今回の裁判はこのことを改めて白日の下にさらけ出した。

さらにまた、いかような金額でもはじき出せる不動産鑑定士とは何かという問題が浮上する。不動産鑑定士の資格試験の難しいのはよく知られている。記者も問題にチャレンジしたことがあるが、全然解けなかった。司法試験合格者の平均年齢は30歳を切っているのに、不動産鑑定士は30歳を超えていることにも試験の難しさがうかがい知れる。

合格に要する費用を金額に置き換えてみた。時間給1,500円(もっと高いか)で、合格するには15時間×10年間勉強する必要があるとすると、約2,740万円も掛かる計算になる。しかし、鑑定士の資格を取得したからといって、会社からは手当てなど支給されないのが普通で、報酬額(給与)は弁護士よりはるかに低い。依頼者(クライアント)プレッシャーなる不可解な圧力を受けるともいう。割に合わない仕事ではないか。

       ◆     ◇

HARUMI FLAG」に関する情報がまた飛び交っている。高いか安いか、これは購入検討者が考えることだが、情報の氾濫に溺れないようしていただきたいとしか言えない。ただ、マンションの基本性能・設備仕様レベルは極めて高いということは断言できる。

事業者には、日本不動産研究所が鑑定した坪単価250万円で十分利益が出るのだから、高値追求などしないよう求めたい。利益は購入者に還元すべきだ。儲かったら利益折半などと博打の寺銭のようなことをやったら、大手デベロッパーの看板が泣く。三井不動産レジデンシャルの元社長が「当社は腹八分目。残りの二分はお客さまのため」と語ったのを思い出す。

課題の交通便だが、記者はBRTにも試乗した。信号機が31か所あったのは気になったが、バスの運行がスムーズになるよう信号システムを変えればもっと早くなるはずだ。

メディアの方には、周辺の物件との価格差などを中心に論じるのではなくて、開発の経緯(土地価格は18万円)を念頭に置き、マンションの居住性に焦点を当てる情報を発信してほしい。〝投資〟をあおるような論調は論外だ。

東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟(2016/8/4)

文句なしにいい 街づくり・基本性能 坪単価280万円か HARUMI FLAG」(2019/4/24

東京BRT初体験 虎ノ門~晴海の終点まで28分 信号31か所、待ち時間6.6分(2021/3/1

「選手村マンション増収分折半」 選手村裁判の原告団が声明文(2019/9/18

またも平行線 「早く結審を」(被告)「議事録開示を」(原告)第8回選手村裁判(2020/1/18

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「選手村マンション増収分折半」 選手村裁判の原告団が声明文

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三菱地所・鹿島建設 「ザ・パークハウス 晴海タワーズ」完成・完売(2016/4/14

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