日本木造住宅産業協会(木住協)の市川晃会長(住友林業代表取締役会長)は5月30日行われた総会後の懇親会の冒頭、「住宅着工の持家は28か月連続して減少しており、厳しい状況が続いているが、木造は様々な支援策もいただいている。今後も木造の普及促進を推進していく」としたうえ、次のようにあいさつした。
「少し気になっているのは、かつて学校関係は全体の20%超が木造だったのが、直近は15%以下に減っていることだ。これはコロナ禍、資材の高騰などの要因もあるが、木造の公共建築物をもっと増やさないといけない。その心はなぜかというと、建物は永久ではなく、必ず建て替えが必要になってくる。例えば木造住宅の解体費用は200~300万円なのに対して、RCは倍以上かかる。耐用年数、解体費用を含めてどのような建物が一番適切であるかを考える必要がある。高層ビルはまだまだ木造は技術的にこれからという部分はあるが、少なくとも中大規模建築物は木造の方がRCや鉄骨造より優位性かある。さらにCO2の吸収・炭素固定に加えて、将来コストなどライフサイクルを考え、木造の価値を見直さないといけない。木住協は住宅以外の新しい建築物にも取り組んでおり、公共建築物の木造化・木質化にしっかり寄与していく」
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木住協の前任の矢野龍会長(住友林業会長=当時)もそうだったが、市川会長の公式ではないこの種の会合での話はとても面白い。この話はメディア向けというよりは国土交通省住宅局長・石坂聡氏、林野庁木材産業課長・石田良行氏、住宅金融支援機構・毛利信二氏、 住宅生産団体連合会・芳井敬一会長(大和ハウス工業社長)など来賓を意識したものだろう。
別表を見ていただきたい。国土交通省「建築着工統計」をもとに林野庁が試算したものだ。令和4年度の建築物全体の床面積約11,872万㎡のうち木造率は41.1%なのに対して、公共建築物の木造率は13.5%でしかなく、国に至ってはわずか2.7%だ。3階建て以下では、建築物全体の木造率は67.9%に達しているのに対して公共建築物は29.2%にとどまっている。国の施設は8.2%しかない。
学校関係はどうなっているかわからないが、市川氏はきちんとチェックしているのだろう。記者も以前書いたことがあるが、国の木造化・木質化の取り組みは遅々として進んでいないという印象を受ける。市川氏の指摘は正鵠を射ていると思う。また、建基法の耐火・防火基準が厳しいからでもあるが、施設のうち自転車置き場、倉庫、車庫、トイレなどの比率が少なくないことも考えないといけない。
市川氏に続いて登壇した石坂氏は「建築物のライフサイクルカーボン算定ツールを公表したばかり。公共木造建築物、中大規模の木造建築物もしっかりと取り組みたい」と、石田氏は「川上から川下まですべてが成長発展していくグリーン戦略に取り組んでいる。木材や木造建築物が適切に市場で評価されるよう願う」とそれぞれ祝辞を述べたが、国の施設の木造化・木質化については言及がなかった。
この場の雰囲気を和らげる意図があったのかなかったのか、毛利氏は「昨年に続いてご挨拶させていただく機会を与えていただき、また、温かい拍手で迎えていただき、ありがとうございます。さすが木(気)遣いの木住協さん」と爆笑を誘い、雰囲気を一変させた。芳井氏は「住団連の会長としても、中大規模の木造建築物の取り組みは大切なことだと思う」とエールを送った。
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