
大越氏
記者は今年4月、「喜寿」(77歳)を迎える。漢字の「喜」の草書体が「㐂」であることから「七十七」と読めるため、長寿を祝う言葉となっている。しかし、小さいころから徒党を組むのが大嫌いで、今でも〝唯我独尊〟を妄信する記者を祝ってくれる人など誰もいない。それどころか、「㐂」より〝何を書くか分からない危険人物〟の「危」とみなしている業界関係者の方が圧倒的に多いはずだ(それなりの〝前科〟もある)。結構なことだ。今年も全力で〝記事はラブレター〟を実践するのみだ。
そんな記者の今年の最初の記事は、元日刊工業新聞論説委員-大京取締役(広報担当)で、現在、日本不動産ジャーナリスト会議議長、一般社団法人マンション防災協会監事、上智大学マスコミ・ソフィア会会長、東大和市都市計画審議会委員などの肩書を持つ経済ジャーナリスト・大越武氏(81)の論文の紹介だ。
論文は、一昨日(7日)大越氏から手交されたマンション防災協会(MALCA)の機関誌「マンション防災の眼」第12号(2025/11/28)に掲載されている「新しいマンション管理の『管理業者管理者方式』~いざというとき緊急時の防災対策をどうする~マンション防災協会監事/経済ジャーナリスト大越武」だ。記者の考えとは真逆だ。
記者にとって最大の恥辱は、人の褌で相撲を取ることだ。寄りにもよって、新年しょっぱなの記事が他人の論文の紹介とは情けない限りだ。なぜこのような事態になったのか。冒頭にも書いたが、記者は同業の記者との付き合いはほとんどない。約50年の記者生活の中で頭が上がらない尊敬する先輩記者が数人いるのみだ。大越氏はそのうちの一人で、大京の広報担当時代からだから40年以上のお付き合いか。大変お世話になった。叱咤激励も受けた。
その大越氏から、昨年末に行われたある会社の記者懇親会で「(小生が書いた)あの管理業者管理者方式の記事はないよ。あれだけコミュニティ条項問題で批判的記事を書いた(お前は)豹変(転向)したのか」と一喝された。記事は間違っていないと思うが(決断を下すまで相当悩んだが)、大越氏の言い分もよく分かった。管理業者管理者方式の導入には根強い反対意見があるからだ。その最たるものは利益相反取引に対する危惧だ。
そこで、大越氏の意見を記事にすべくインタビューを申し込んだら、「どのように料理しても構いません」と手渡されたのが先の論文だ。図表を合わせてA4版5ページにわたるもので、400字原稿用紙にして約10枚。テキストに書き直すのに半日かかった。大先輩の論文を切り刻む無礼などできるわけがない。以下に全文を紹介する。(監事が了承したのだから著作権法にも触れないはずだ)

大越論文が掲載されている「マンション防災の眼」
◇ ◆ ◇
マンション管理組合の「役員のなり手不足」を逆手に取ったマンション管理業者による新しい管理者方式「管理業者管理者方式」が横行しはじめている。これまでのマンション管理業務を受託しているだけでは利益の出ないマンション管理業者が、役員のなり手不足を理由に管理組合から管理者業務を丸投げしてもらい、すべての管理者業務を一括請け負ってしまうという「管理業者ファースト」の荒わざ。
(1) 理事会がなくなり、理事長もおらず、年次総会の議長には業者が
この新方式を導入すると、管理組合の理事会がなくなり、当然理事長もいなくなり、年1回の年次総会でも管理業者が議長を行うというもので、管理組合は実質空洞化してしまう。集合住宅であるマンションの区分所有者(居住者)が所有する資産管理の主体・主権を、管理業者に全て預けてしまうのだ。そうした新方式がスムーズに管理運営され続けていくのかどうか、一部ですでに区分所有者側から抗議の声が上がったりしていて、今後の成り行きが注目されよう。
(2) メリットは、管理業務のプロだから機動的な運営ができる
この舌がもつれそうな新しく定義した新方式「管理業者管理者方式」には、もちろんメリットもある。
第一に、目先の短視眼的にみれば、管理組合の管理者業務負担がなくなり、理事会の執行部もなくなるのだから、居住者にとっては面倒くさい会議や回覧板をしなくて済み、楽になる。
特に、カネに不自由しない富裕層の超高級マンションなら、報酬払っても文句もつける人も少ないだろうから、カネ持ち喧嘩せずで、この新方式がスムーズに受け入れられるだろう。
第二のメリットは、管理業務のドクターともいえるマンション管理のプロである管理業者が、すべての管理者業務を引き受ける体制となるので、専門的知識や知見を豊富に持っており、自由裁量に機動的な管理・運営業務が執行できるという点。
(3) デメリットのほうが多く、利益相反行為をどう克服できるか
しかし、こうしたメリットよりデメリットのほうがはるかに多いのでは、という見方が一般的である。デメリットの第一は、自ら居住している資産の管理・運営業務を管理会社に任せてしまい、大切な管理組合の自治を自ら放棄してしまうので、居住者がマンション管理への関心度が限りなく低下してしまう点。管理会社の思うつぼで、関心度の低くなった居住者が、上手に丸め込まれてしまう恐れが大きい。
第二のデメリットは、本来、区分所有者で構成される管理組合と管理業者との関係は利益相反行為の関係にあって、大規模修繕工事の発注の際の取引にしばしばみられるように、鋭く利害が対立する取引関係にある。この両者の利益相反関係を、管理業者ファーストの関係にある新方式では、公明・公正に乗り越えていけるのかどうか。
同時に、素人集団の区分所有者が管理のプロの業者をどのように「監視・監督」していくのか。管理組合の自治を放棄してしまっている以上、その保証はどこにあるのかといった疑問は解消できるのだろうか。
第三のデメリットは、管理組合が管理業者に丸投げするのだから、管理業者だって、無報酬というわけにはいかない。当然ながら一戸当たりの管理組合からの支出が伴う。それでなくとも一般管理費や長期修繕積立金の値上げが相次ぐ中での余計な毎月毎年の出費。管理組合会計の苦しい台所の負担がさらに増えてしまう。
(4) コミュニティの崩壊で災害発生時、機敏な即時対応に不安
第四のデメリットは、これも看過することができない大きな問題で、理事会がなくなり、居住者同士の交流も大幅に減少してしまうのだから、管理組合の活動がしぼんでしまい、マンション内の大切なコミュニティが崩壊してしまいかねない。そうしたコミュニティ真空状態のところに、災害・事件が発生した場合、〝いざ〟という緊急時の即時対応の特別態勢が機敏に取れるのかどうか。命の安全問題というのに管理会社がすぐに来てくれるはずはなく、はなはだ心配される。マンション内の「助け合い精神」の「共助」が災害時にこそ必要とされるだけに、そうしたマンション内のガバナンスの喪失状態は、とくに危惧されよう。
(5)9年前の「外部専門家の活用ガイドライン」では想定もされていなかった
いずれにしろ、マンション管理において最も重要なことは、居住者自身が居住資産を所有して住んでいるのだから、マンション管理に深い関心を持つことだろう。それが悲しいことに、毎日の会社の仕事に忙殺され、自分の住まいに無関心となり、管理組合の役員になろうという人も少なく、高齢化とも重なって監理不全のマンションなどが出てきている現状である。それなら、いっそそうなる前に管理会社が丸ごと面倒をみてしまったほうがよいのではということで、この新方式の「管理業者管理者方式」が考えられた。
しかし、この新方式は、9年前の2016年の「マンション管理適正化法」の改正時の国交省のマンション管理における「外部専門家の活用ガイドライン」では、想定されていなかった。外部専門家として管理者に登録されるのは、公認会計士・税理士や弁護士、マンション管理士らの専門家であった。
その当時までは、管理会社が管理者に就任するということは、マンション管理業界人のリーダーですら「〝禁じ手〟としては考えられるが、想定外」(黒住昌昭元マンション管理業協会理事長)という認識だった。
(6)新方式があっという間に普及拡大し、「理事会なし」のマンションが129件にも
それが最近では、マンション管理適正化法上の登録を受けた大手のマンション管理業者までもが、管理業務を受託しているのに飽き足らず、大手を振って管理者として選任されるケースが増加してきており、特に新築マンションの分譲の際には、入居者が未熟なことから、管理業者が管理者に就任することを前提に分譲してしまう事例が増えてきている。
国交省(住宅局)の実態調査によると、2024年時点で、マンション管理業協会加盟の管理業者173社のうち、新方式の「管理業者管理者方式」を採用している業者が192件もあり、そのうち「理事会なし」の新方式を採用している業者が129件あり、「理事会あり」が63件あるという。
あっという間に、燎原の火のごとくかなりの広がりがーを見せてきている。しかも、大手デベロッパー系の管理会社が率先して導入している状況で、標準ルールも持たずに各社各様の自主ルールで、勝手に管理規約決めて既成事実化しているという。
(7)昨年6月、新方式を採用解説した「ガイドライン」を作成・制定
このため、国交省の行政としても、こうした状況を放置しておくわけにもいかず、8年前に制定した「外部専門家の活用ガイドライン」を再修正・再構築し、管理組合やそこに住んでいる居住者に不利益が生じることを防止する観点から、昨年2024年6月、「管理業者管理者方式」のガイドライン説明に重点を置いた膨大な量の「マンションにおける外部管理者方式に関するガイドライン」を作成・公表し、制定した。
ガイドラインとしては異例の量の多さで125ページもあり、そのうち半分のページが「管理業者管理者方式」の全容解説ガイドラインになっている。その内容は、素人にはとても難しく、なかなか理解しにくいしろ物で、要約の要約が必要とされるくらいだが、かといって、利益相反関係の取引や大規模修繕工事の問題、通帳・印鑑の保管問題などすべてにわたって難題だらけで、一字一句たりともおろそかにはできない重要問題が詳細に羅列されている。
(8)新方式の論点を8項目に集約成立し新ガイドラインの全容が
そのガイドラインの主な論点を整理するだけでも最低8項目もある(詳細の図表は略)。
①既存マンションにおいて「管理業者管理者方式」を導入する場合のプロセス
②新築マンションにおいて「管理業者管理者方式」を導入する場合のプロセス
③管理者権限の範囲等の管理組合運営のあり方
④「管理業者管理者方式」における通帳・印鑑の望ましい保管のあり方
⑤管理業者が管理者の地位を離れる場合のプロセス
⑥日常の管理での利益相反取引等におけるプロセスや、区分所有者に対する情報開示のあり方
⑦大規模修繕工事におけるプロセスや、区分所有者に対する情報開示のあり方
⑧「監事の設置」と「監査」のあり方
このどれをとっても重要事項ばかりで、特に⑦の利益相反取引関係が顕著な何億円という高額の「大規模修繕工事」では、不正のないよう、発注段階からの透明性、公開性がどこまで保証され、開示されるかが問われる。⑧「監事の設置」と「監査」のあり方では、外部専門家から1名と、区分所有者から1名の計2名の監事を選任することが望ましいとしているが、果たして区分所有者の中から選任者が確保できるのかどうかや、厳しさが要求される厳格な監査体制が取れるのかなどは、はなはだその実現方があやしいし、心もとない。
(9)今春、マンション関連4法案が成立し、新方式が法令化される
匡は、この新ガイドラインがきちんと整理されたのに伴い、2025年5月、マンション適正化法や区分所有法などマンション関連4法の法律改正案を国会で可決・成立させた。これにより、新方式の「管理業者管理者方式」が正式に法制化され、後戻りはできなくなった。来年4月1日から施行される。国交省では、これに伴い「標準管理規約」の改正作業を進めている。
いずれにしろ、こうした「管理業者管理者方式」によるマンション管理の新しい波が全国化しようとしているが、今後、国交省の狙い通りの新ガイドラインに沿った管理・運営が公明・公正に運用されていくのかどうか、興味が持たれる。
マンションの管理の主体・主権はあくまでも区分所有者で構成される管理組合にあるのだから、この新方式を導入して管理組合の利益が確保されていくのか、それとも徐々に収奪されていくのか、これからの動向が注目されるところである。
◇ ◆ ◇
この論文に反論などしない。記者の記事も添付する。賛成派、反対派が論議しあい円滑なマンションの管理が行われることを望むばかりだ。
ただ一つ、大越氏も指摘しているが、記者も危惧している問題がある。「監事」の役割だ。国交省の「マンション標準管理規約」(単棟型)には、監事の役割として「第41条 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況を監査し、その結果を総会に報告しなければならない。2 監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。3 監事は、理事会に出席して意見を述べることができる」とある。
この条文もそうだし、管理業者管理者方式を導入する際のガイドラインでも監事の役割が大きいことが明示されている。
だが、しかし、専門的なことは分からないが、監事・監査が求められている通りのチェック機能を果たしていれば、日々生起する企業や団体の不法行為は劇的に減少するはずだ(記者は、ある上場企業の不法行為を監査法人に指摘したが、その監査法人は全然チェックしていなかったし、問題視もしなかった。被害者は「表沙汰にしないで」ということだったので記事化を断念した)。一般的なマンション管理組合の監事(管理組合法人は置くことが必須要件)もまた付録のような存在でしかない。何か重大な事案が発生しても、監事までその責任が問われることはまずない。
ガイドラインで求められている第三者機関的な役割を果たすマンション管理士、弁護士などの専門家や区分所有者を誰がどのようにして選任するのか、(報酬とリスクを天秤にかけて)受ける専門家や区分所有者はいるのか疑問だ。
もう一つ、大越氏が触れた「コミュニティ条項」の記事も添付する。管理規約からコミュニティ条項が削除されたことが、今回の「管理業者管理者方式」の導入の道を開いたと記者は思う。その意味ではコミュニティ条項削除を主張した委員が〝勝利〟したと言えなくもない。とはいえ、大越氏などが言うようにマンション管理の主体は区分所有者だ。生殺与奪の権利を放棄してはならないということでは大越氏と意見が一致する。管理業者管理者方式は管理業者と区分所有者(管理組合)と「Win-Win(ウィンウィン)」の関係を構築できると記者は信じる。
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