
(提供:リージョンワークス)
「第16回 不動産協会賞(2025年刊行分)」を受賞した3作品の一つ、後藤太一+リージョンワークス著「経営戦略としての都市再生:チームによるエリアマネジメントの実践と手法」(学芸出版社、A5変判・272頁)を読んだ。受賞理由の「福岡、神山、渋谷、福井で都市の経営を30年実践してきた実務のプロが…知見を示す内容は、まちづくりの現場で役立つヒントが詰まった、実践者のための指南書となる一冊」であるのは間違いない。都市再生、街づくり・地域活性化に取り組むすべての関係者必携の好著だ。
読むことを決めたのは、2026年3月16日に行われた同賞表彰式で同協会理事長・吉田淳一氏(三菱地所会長)が「今回は特に不動産業界に深く関わるさまざまなテーマの課題について、示唆に富んだ著作が選ばれた。どれも中身の濃い素晴らしい著作」(不動産流通研究所WEB「R.E.port」)と述べ、書籍の帯には馬場正尊氏(建築家/OpenA代表)と藻谷浩介氏(地域エコノミスト)の〝絶賛〟メッセージがあったからでもあるが、何よりも「福岡、神山、渋谷、福井で30年、まちの経営を支えた実務のプロが導く戦略・組織・事業のつくり方」のうたい文句に引き付けられ、また、あれやこれやのデータをかき集め、同業の学者・研究者の論文で自論を〝補強〟する、ありきたりの学術論文ではないと確信したからだ。
読み始めたのは、「この本は、まちづくりやエリアマネジメントに取り組むデベロッパー、鉄道会社、自治体などにお勤めの方、飲食店や集会施設を含めて人が集まる場づくりをしている方、まちづくりの仕事に関心を持つ学生や実践しているコンサルタントにぜひ読んでいただきたい。同時に、まちに関心を持つ、さまざまな方に読んでいただけるよう、どこから読んでも、気になる章だけ読んでも、あるいは(主にⅢ部は)参考書のように都度参照していただいて大丈夫なように、アラカルトの構成にもなっている。さあ、新たなる希望と武器を得て、都市に出て行こう」(「はじめに」19p)という呼びかけに従い、第Ⅰ部「ケーススタディ」の章末に紹介されている、「現場の手触り感や体温が伝わる」(19p)の座談会からだった。
この選択は正解だった。福井の座談会で後藤氏は「これからの福井の物語をみんなで紡いでいきましょう」と締めくくっているが、この言葉がストンと腑に落ちた。同著にある「貿易や戦争における日本とアジアの玄関口であり続けた福岡が、その発展史を未来志向で伸ばしていく必然性に、関係者がストンと腹落ちしたのである」(215p)と同じ感覚だ。
あらゆる人を巻き込み、その地域ならではの歴史や文化を織り込みながら街を再生し次世代に継承していく活動は、まさにその地域の綿や繭などの天然資源をよりをかけて糸にし、自然由来の草木などを用いて得も言われぬ色に染め上げ、それを縦糸と横糸にして丁寧に織り込み、丈夫で長持ちする布に仕上げる「紬」そのものだ。小さいころ、祖母がカラン、コロンと音をたてながら蓆を編み、昔話を聞かせてくれた記憶を、この書籍は呼び覚ませてくれた。
「物語を紡ぐ」ことの重要性については、スーザン・ジョージ著「これは誰の危機か、未来は誰のものか」(岩波書店・荒井雅子訳)で、変化を実現するため必要な「6つのM」が提示されている。つまりMoney(資金)、Management(マネジメント)、Media(メディア)、Mission(使命)、Motivation(意欲)、Myth(神話・物語)」が参考になる。スーザン氏はこの「6つのM」の中で「Myth(神話・物語)」がもっとも重要だと述べている。
もう一つ、ストンと腑に落ちた座談会での会話がある。「複眼的なメンバー構成と、組み合わせが多様にある柔軟さ、そしてトリガーを引く人が複数いる体制があることは大きい」(71p)と、松岡恭子氏(スピングラス・アーキテクツ代表取締役)は述べている。
この「複眼的なメンバー構成」はとても重要なことだと思う。徳島県神山町プロジェクトのワーキンググループ(WG)を立ち上げる際に「WGは役場と民間とそれぞれ14名ずつの計28名で構成された。役場職員はさまざまな課から、民間人は町内で生まれ育った人と移住者がバランスするように配慮し、男女比も半々に近づくようにした」(78p)結果、「町民・町内バスツアー」の参加者は延べ1,000人を超えている」(102p)。同町の人口は約4,500人だから、ものすごい人数だ。
「複眼的」で思い出すのは、令和4年10月に亡くなった千葉大学名誉教授・小林秀樹氏(享年68歳)の「複眼の視点」だ。小林氏は2010年11月のフォーラムで「『縦割り制度』を見直し、私たちの暮らしの実態に近づけようとする複合・混合・連携・協働・総合・合築・中間などの言葉で表現される試みを『複合』という言葉に代表させて『複合の可能性を追及しよう』」と語った。
小林氏に関する記事は何本か書いたが、いま検索したらアクセス数は1万件近いものもあった。小林氏には多くのファンがいたということか。惜しい方を亡くした。
ケーススタディ座談会のあと、第Ⅱ部「フレームワーク」、第Ⅲ部「メソドロジー(方法論)」を読んだ。書き出すと止まらないので詳細は省くが、データ収集による予習が重要、各自治体が公表するデータはCSVにすべき、自分の目で街を観察すること、東京を物差しにした論議は視野狭窄に陥りやすいこと、どの都市でも中心地から半径2㎞の範囲に個性的な地区が隣り合っていること、見えない情報は個別のインタビューで補うこと、大規模なシンポジウムよりも、皆で対話するセミナーなどのほうが、人数が少なくても共感が得られる…とし、総括として図示されている日本のエリアマネジメント実務に必要なスキルセットはとても参考になる。
4市のケーススタディは飛ばし読みした。〝100年に1度〟の再開発で沸く渋谷では、「MIYASHITA PARK」は何度も取材(飲む目的もあるが)した。「渋谷川」と「玉川上水旧水路緑道」も歩き、課題(都市公園もそうだが、利用・歩きたくなる仕掛けが圧倒的に欠ける)も見つけた。
他の都市再生プロジェクトは、メディアなどが報じている以外のことは知らない。福岡は、近年では数年前に2度取材しただけだ。神山は一度も行ったことがない。そもそも徳島は大歩危・小歩危を電車の中から眺めただけだ。福井は、水上勉の出身県なので好きな県ではあるが、永平寺に行ったことしかない。知らないことは書かないのが記者の基本姿勢だ。

後藤氏(提供:リージョンワークス)
◇ ◆ ◇
神山町について。神山町は今年1月、「【第3期】まちを将来世代につなぐプロジェクトの策定について」を発表している。2016年に開始した創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト(つなプロ)」が10年の節目を迎えたことから、これまでの取り組みを整理し、2026年度から2030年度までの5年間を戦略期間とする第3期として策定したものだ。
しかし、同町の人口動態や財政状況を見ると、前途は容易ではない。令和7年度の人口は4,529人(前年度比65人減)。内訳は出生9人、死亡116人(自然減107人)、転入169人、転出128人(社会増41人)。転入は多いが、死亡・転出を埋めるには至っていない。
令和7年度予算は71.1億円で、町税4.4億円、繰入金2.1億円などの自主財源は3.0億円、自主財源比率は43.4%だ。財政力指数は0.2で、全国市区町村の中でも下位にランクされている。
書籍にも登場するリージョンワークスのメンバーで、神山町に移住してプロジェクトの主要メンバーを務める森山円香さんを含め、頑張れというほかないのだが…。
投稿によると、森山さんはいま、京都大学の大学院に通っているそうだ。片道5時間の道のりは全然苦にならないという。最近、ひよこを飼い始めたとある。森山さん、鶏は4~5羽くらいだと毎日家族分の卵を産みますよ。鶏小屋は近所の人が作ってくれるはず。雄も交えたほうがいい。〝コケコッコー(早く起きろ)〟とけたたましい声で鳴くのは雄だけ。飼育代はそんなにかからない。フンは肥料になる。

神山町ホームページから
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エリアマネジメントについて一言。この嚆矢は一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会のはずだ。1998年2月、 「ゆるやかなガイドライン」を策定し、発表したのが走りだ。
同協会は表に出ることはほとんどないが、三菱地所の取り組みなどを通じてずっと取材してきた。何がすごいかといえば、メインストリートの都道・丸の内仲通りのイベントだ。都道の占用(使用)許可は年間約3.2万件あるが、大半は道路工事関連だ。イベントなどの件数は公開されていないが、申請資料作成は大変なはずだ。それでも仲通りは訪れるたびに何らかのイベントで使用されている。車が通っている光景などほとんど見たことがない。もう廃道にしてはどうかと思うほどだ。
もう一つ、まだエリアマネジメントなる言葉がなかった時代に、街づくりをコントロールしていたのが、記者が〝奇跡の街〟と呼ぶ山万の「ユーカリが丘」だ。事業に着手したのが昭和46年。その後、50~60年代に入ってからか、他の事業から撤退し、退路を断って「ユーカリが丘」などの街づくり・開発中心に切り替えた。市場の好不況にかかわらず住宅の年間供給量は200戸くらいに絞り、人口動態を日々チェックし、高齢化が進むと若年層向けの住宅供給比率を高め対応した。街ですべてが完結するよう、それこそ〝ゆりかごから墓場まで〟の施設を整備した。ここもエリマネの見本のような街だ。
後藤太一+リージョンワークスと学芸出版社にお願いがある。この書籍をこれでおしまいにするのではなく、続編を出版していただきたい。出版されたのが2025年9月だから、この5年後の2030年あたりがいい。PDCA(Plan-Do-Check-Action)だ。各プロジェクトはどうなったのか。座談会に登場した方々でまた語り合っていただきたい。シリーズ化すれば、これまでにない人・街・文化を紡ぐ書籍になるはずだ。
その際には、2025年5月に発刊された「永山祐子作品集 建築から物語を紡ぐ」(グラフィック社)とまではいかなくとも、カラー版にし、各氏の顔写真ももっと大きくしてほしい。今回の書籍の粗を探すとすれば、学術書に多いA5変判であるからか、四六判のブックカバーに収まらず、各ページの余白は上下左右とも約1cmしかないことだ。
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