「週刊住宅」地所ホームの記事が圧勝 不可解「住宅新報」野村不も東急不も触れず
いつものように、今週号の業界紙について。昨日書いた記事の一部は削除する。頭に血が上ったものだから、馬鹿なことを書いてしまった。関係者にはお詫びいたします。
3月4日付「週刊住宅」。完勝したのは三菱地所ホームの記事だ。これには小生も完敗。先週会見が行われた「エアロテック」の記事だけでなく、ハウジングライター・藤原利彦氏による加藤博文社長のインタビュー記事とセットになっており、お互いの記事が補強しあい、相乗効果を生んでいる。同社の名物広報マン・横須賀直人氏の「大きく扱っていただきたい」という前口上に見事に応えている。
同紙の長谷工コーポレーションの賃貸「文京白山」の記事もいい。相場の2割増しとは驚いた。小生も高いと思い利回りを計算し、なるほどと得心もした。都心部での賃貸はこれから分譲、ホテルとも戦えることを示した。
アスコットのコンパクトマンションの記事もあった。デザイン性の高いマンションを供給してきた会社だ。どのようなものか、小生も取材させていただこう。
3月5日付「住宅新報」。1面トップは「MaaS(マース)」。何のことやら全く分からないのでコメントのしようがない。
いいのは、旭化成ホームズ「アトラス品川中延」の記事。木密地域の不燃化特区事業がよくまとめられている。不満を言えば、事業性にも触れるべきだった。記事には価格のことが全く触れられておらず、最後に「123戸を分譲し(これまたいつからか書かれていない)、ほぼ販売済み」としかなっていない。これでは画竜点睛を欠く。当事者や業界関係者がもっとも気になるのはいくらで分譲したら売れるか売れないかだ。
記事はラブレターのようなものだ。小生のラブレターに当時18の彼女は感涙し、お互いが恋に落ちた。結局は小生が病葉のように捨てられ、立ち直るのに4年かかったが…。
もう一つ、記事には「このほど竣工」とある。リリースには「2月末に竣工する」とあるではないか。なぜリリース通りに「2月末竣工」と書かないのか。「このほど」は何の意図があるのか。あのセザールがマンションの竣工時期を延ばした(あり得ない)ことをきっかけに破綻の道を突き進んだのをご存じないか。
不可解なのは、先週見学会が行われた、つまり今週号に掲載されていいはずの野村不動産の分譲マンション「武蔵小金井」と、東急不動産の学生レジデンス「赤羽志茂」がどこを探しても見当たらないことだ。
いったい、これはどういうことか。「品川中延」と釣り合いがまったく取れていないではないか。記事は鮮度が命だ。来週あたりにまた「このほど」と書くのか。10月に予定されている消費増税は、3月末までに契約すれば8%で済む。4月以降だとおそらく10%になる。マンションの建物価格を4,000万円とすると、80万円の差だ。あらゆる法律行為は「このほど」では通用しない。読者と主催者を愚弄するのもいい加減にしろといいたいし、何よりもそんないい加減な記事を書いていたら自分をダメにする。記事は自分の分身でもあるはずだ。
いや、前言は言い過ぎ。記者の皆さんはそんな意図はないはず。どうしてそのようなことが起きるのか。多分、他の領分(紙面・分野・担当)を侵さないという旧弊ではあるがそれが72年の伝統という美意識が背景にあり、外で暴風が吹き荒れようと我関せず、いや、戦々恐々かもしれないが、暗い船倉でひとり安酒に酔いしれているからだと思う。もうダッチロールから抜け出すべくダッチアカウント(上も下もなくお互い助け合う共助)すべきではないか。
ほかの管理、賃貸、暮らしなどの紙面はよくできていると思う。同紙の読者(主に中小、地場業者)向けの取材をきちんとやっているのだろう。
Hさんへ。貴殿は毎日が「春風」の気分だろう。ご同慶の至りだ。しかし、「賃貸は春風に乗って」はない。あのレオパレスの入居者のことを忘れたか。そして、劣悪な居住環境の住宅に住まわざるを得ない圧倒的多数の賃貸居住者のことを考えたら、そんなノー天気なことなど書けないはずだ。少なくともまだ東京には春一番は吹いていない。「風邪」など召されないように。
居酒屋紹介。小生は京王線なので笹塚「千歳鶴」に今度行こうと思ったが、もうない? 女将はいくつ? 飲まないのに飲んだ気分に浸る、これはフェイクではないか。酒代も底をついたか。それとも追憶の中でしか生きられなくなったか。心配だ。
スムストック 市場での認知度・捕捉率が低いのはなぜ 劇的に上げる「武器」はあるか
阿部会長(笹川記念会館で)
優良ストック住宅推進協議会(会長:阿部俊則・積水ハウス会長)は3月4日、会員と報道陣向けのイベント「スムストックレポート2019」を開催。「スムストック」は着実に拡大しているものの、会員企業の社会的責任を果たすためにはまだまだ不十分として、スムストック住宅販売士のスキルアップと、仲介・リフォーム部門との連携を強化して、「捕捉率20%」の達成に向け「中期計画」(2018~2020年)を推進すると発表した。
阿部会長は、「建て替え、リフォームを車の両輪として捉え、不動産流通市場の活性化に貢献する。そのためには、スムストックの①耐震性②住宅履歴③長期点検・補修制度があることの三原則と、その手法である①スムストック住宅販売士②スケルトン(50年)・インフィル(15年)で査定・販売③土地と建物価格を分離する三手法を用いていくことが重要。現状ではまだまだスムストックの認知度が低い。捕捉率20%を3年前から掲げてきたが、その策を近々まとめる。当協会が先頭を切って市場活性化の先導モデルを構築する」と語った。
◇ ◆ ◇
この日、阿部会長ほか何人もが「捕捉率」を口にした。捕捉率とはおおよそ次の通り。
会員各社がこれまで販売した戸建てのストックは約370万戸あり、このうち2018年度の市場流通量は1.2万戸と推定され、会員各社グループが仲介した物件は1,800件と見込まれている。この1,800戸を12,000戸で割った数字約15%のことだ。
スムストックが市場で認知されるためには、捕捉率をアップすることが欠かせないとして同協会は力を入れているわけだ。
記者も、このスムストックを拡大することに大賛成だ。しかし、言うは易し行うは難し。劇的に捕捉率を引き上げるのは容易でないと考えている。
話は横道にそれるが、2月末、三菱地所ホームが記者発表を行った。加藤博文社長らは、今後の買い換え・リフォームニーズを取り込むため、横浜みなとみらい地区で1995年以降に分譲されたマンションの55%、約3,600戸が三菱地所グループだとし、全館空調システム「エアロテック」を武器に現状の仲介での捕捉率約15%を50%に拡大するとぶち上げた。
この15%も相当な数値だと思うが、これを50%に引き上げるなどというのは常識的には絵空事だ…だが、しかし、他社にない絶対的優位に立つ「エアロテック」を武器にすればひょっとしたら既存住宅市場に革命を起こすかもしれない…それほどの武器だと小生は思う。
話をもとに戻す。スムストック会員10社の捕捉率は15%だ。三菱地所グループのみなとみらい地区とよく似ている。なぜ捕捉率が低いか、考えているほど伸びないか。
スムストックの会員は旭化成ホームズ、住友林業、積水化学工業、積水ハウス、大和ハウス工業、トヨタホーム、パナソニック ホームズ、ミサワホーム、三井ホーム、ヤマダホーム(五十音順)。ハウスメーカー世界ランキングがあるかどうかは知らないが、間違いなくみんなトップレベルにランクされるはずだ。
ところが、会員の仲介会社10社の店舗数は束になってもデベロッパー系の大手1社にかなわないのではないか。これでは勝てない。しかも、スムストック発足当時からそう思っているが、10社の足並みが揃っていない。
さらに決定的なのは、仲介の仕事は、デベロッパーやハウスメーカーの仕事と似て非なるものであることだ。仲介会社の営業マンに「どこが建設したか販売したのかは重要ではあるが、お客さんに最適な物件を探すのが我々の仕事」と言われたときは頭がどやされた思いがした。なるほど正解だ。消費者もまた、売る側は少しでも高く売りたいと考え、買う側は安くて良質なものを買おうとする。
スムストックには申し訳ないが、いくら優れていても、このような市場原理が貫徹されている仲介でシェアを伸ばすには、不動産仲介会社をぎゃふんと言わせる「武器」を持たないと勝てない。
このような主旨のことを懇親会参加者のある会社専務にストレートに質問した。「お前、帰れ」と一喝された。(怒るのもまた当然)
しかし、記者と全く同じではないが、「捕捉率」論議に一石を投じた人がいた。懇親会最後の〝お開き〟の場で登壇した積水化学工業取締役・関口俊一氏は、「わたしは今回でお役御免(担当を外れるという意味か)。捕捉率が問題になっているが、わたしはカバー率(似たようなものだと思うが)、対応率で論議すべきだと思う」と話した。
会員各社が加入するプレハブ建築協会の顧客満足度調査では100%近い人が満足しており、友人・知人に紹介したいと考える人が過半を超える。一方で、住宅新報社の2015年調査では、一般顧客の不動産業者への「信頼度」の平均値は65.3%だ。信頼度では圧倒的に勝るのに…。阿部会長はどのような打開策を示すのか。
「安心R住宅」についても一言。この名前に失望した。「安心」できないから「安心」を付ける-いかにもお役所的な発想だ。恥の上塗りといったら失礼か。あれほど和田勇前会長が「気の利いた言葉はないか」と言っていたではないか。登録制が始まって8団体約1,000件-多いか少ないか記者は判断材料を持たない。
関口氏
三菱地所ホーム 「エアロテック」定額・共同店舗/分譲にエアロテック搭載を
記者発表会場(三菱地所のレジデンスクラブラウンジで)
三菱地所ホームは2月28日、2018年10月に発表した100㎡前後の住宅を対象とした全館空調システム「エアロテックFit(フィット)」を定額制リフォームメニューとして発売し、三菱地所ハウスネットとともに「三菱地所のレジデンスクラブラウンジみなとみらいイベントスクエア」内にリフォームと仲介の共同店舗を1月10日にリニューアルオープンしたと発表した。
定額制リフォームは次世代省エネルギー基準以上を条件に、シニア層向け戸建てリフォームプランとして、20坪の木造住宅(2×4工法、在来工法)1階のみリフォームの場合790万円、中古戸建てを買ってリフォームする場合は、30坪の木造住宅(2×4工法、在来工法)で910万円、70㎡のマンションをスケルトンリフォームする場合1,075万円。いずれも税別、間取りや間仕切り変更は含まず。
記者発表会の冒頭、「発表会は今年度5回目。心を込めて加藤社長以下説明しますので、大きく取り上げていただくとありがたい。加藤社長は写真写りがいいピンクのネクタイ」と同社の〝名物〟広報マン・横須賀直人氏の前口上を受けて登壇した同社加藤博文社長は「定額制は低額化・スリム化のいい流れを継続するため。共同店舗はみなとみない地区で供給されたマンションの半分以上は当社グループが供給したもの。今後発生するリフォームニーズにワンストップで対応していく」と、それぞれの狙いについて語った。
加藤社長
◇ ◆ ◇
入浴中の死亡者数は年間2万人近くにのぼり、そのうち半数以上が高齢者で、高齢者の死因の4分の1を占め、ほとんどがヒートショックによるものだと言われている。
研究によると、ヒートショックを起こす原因は急激な温度変化にあり、その分岐点は18℃といわれる。
一方で、省エネ基準6地域にある東京都のZEH基準を満たすのはUA値0.6とされている。問題は、これでは冬季の洗面室、廊下、トイレ、浴室などを健康リスクの分岐点とされる18℃に保てないのではないかということだ。
ZEHはどちらかといえば省エネルギー、CO2削減の視点が中心だ。これに健康長寿の視点を加えればもっと違った指標が提示されるはずだ。平成21年度にスタートした「長期優良住宅認定制度」も、バリアフリー性、省エネルギー性の基準はあるものの、健康長寿=健康価値の視点は欠けている。
その点、同社のエアロテックはZEHを上回る理想的なシステムだと思うが、それでもそのよさを訴え切れていないもどかしさを感じる。
同社がうたい文句にしている①部屋ごとに温度調節できる②花粉やカビの胞子を97%カットし、家中をクリーンな空気で満たす③エアロテックの年間冷暖房費は約54,000円節減できる④家全体を快適な温度にできる④長期10年間保証-などは健康長寿=健康価値を〝見える化〟できていないと思う。
加藤社長は「研究は進んでいるが、健康価値を数値化するのは難しい」と語り、リフォーム担当の中島秀敏常務も「エアロテックの認知度は高くない」と話したように、家の中の温度がどこでも一緒という家にわれわれはほとんど住んだことがなく、その価値は想像するほかなく、なかなか浸透しない理由だ。(外断熱、全館床暖房もあるが)
では、その価値をお金に換算したらいくらになるか。記者は大胆に1人50万円/年間とはじいた(加藤社長は「安すぎる」と怒るかもしれないが、お金持ちはもっと高く評価し、貧乏人はもっと低く査定するかも。価値判断は人それぞれ)。4人家族だと200万円/年間だ。同社が2017年に販売開始した「新マンションエアロテック」は250万円だ。2人家族だと2年半で償却できるし、4人家族なら1年ちょっとでおつりがくる。
こんなことを言うと、根拠を示せと言われるが、一つヒントになるのが「眺望価値」「日照価値」だ。以前にも書いたが、マンションの眺望を価格に置き換えると坪単価にして数百万円になる。1フロアで1,000万円の差をつけた物件もあるほどだ。これからは「音」「香り」「色」など五感に響く効果も大きな価値になるはずだ。IoTは世の中を一変させる。
同社には、これまで販売したエアロテックに住む人に詳細なアンケート・モニター調査をして、環境価値の見える化をやっていただきたい。厚労省みたいにサンプルに手を加えなくともデータを改ざんする必要もないはずだ。コンピュータは瞬時にその価値をお金に換えてくれるのではないか。
◇ ◆ ◇
みなとみらいの共同店舗の開設について、中島常務は「1995年以降みなとみらい地区で供給されたマンションの55%、3,266戸は当社グループが供給した」と語った。記者は嫌味な質問をした。「そのうちの御社グループの仲介での捕捉率はどれだけか」と。答えは返ってこないかとも思ったら、中島常務は「15%。これを50%に引き上げるのがグループとして目指すべき方向」と即座に答えた。
捕捉率が高いか低いかはさておくとして、この方向の数値はとてつもなく高いのではないか。どう達成するか見ものだが、前段でも書いたように「エアロテック」の価値の見える化を図れるかどうかがポイントだと思う。スケルトンリフォームの坪単価約50万円のうちエアロテックは10数万円のはずだ。とてつもなく安いと思うがどうだろう。
もう一つ、欠かせないのはグループを上げてエアロテックのよさを住宅検討者に伝えることだが、三菱地所レジデンスのマンションや分譲戸建てへのエアロテック搭載物件は数えるほどしかないのが現状ではないか。
加藤社長に聞いたら、「三菱地所ホームの社員の約7割はエアロテックを体験しているものの三菱地所全体はまだまだ低い」と正直に話した。
この点については明るい兆しもある。三菱地所レジデンスは今後分譲する一定条件以上のマンションのエアロテック搭載を検討しているという。これはすぐにでも実施すべきだ。
値段が多少高くとも販売が苦労しようとも、高付加価値の商品を供給し続けることが企業価値を上げるのは間違いない。世の中は完全にESG・SDGs経営の時代に突入した。もう戸数、売上高を競う時代ではない。
参考になるかどうか。明豊エンタープライズは2006年、木場駅から9分の外断熱の「シェルゼ木場公園」を分譲した。坪単価は260万円だった。瞬く間に売れた。当時の〝駅近〟は210万円で苦戦していたころだ。
吉田淳一社長にもこの記事を読んで頂きたい。気が変わるはずだ。CLTとこのエアロテックで業界、世の中を変えられると記者は信じる。
効果てきめん 三菱地所ホーム 全館空調「エアロテック」記者も宿泊体験(2017/10/30)
勝負に出た 三菱地所ホーム エアロテック+フルリフォームで1,100万円(2017/10/20)
積水ハウス 「絹谷幸二 天空美術館」来館者10万人突破
積水ハウスは3月1日、「絹谷幸二 天空美術館」の来館者数が同日に10万人を突破したと発表した。
絹谷氏は「個人画家の美術館として2年2カ月という早い期間で10万人に届くことは珍しいことなので、とても感謝しています。今度は20万人目の方にもお越しいただけるように、これからも美術館を盛り上げていきます」とコメントを寄せた。
同美術館は2016年12月、芸術文化振興による社会創造を目指し、新しい芸術文化発信の拠点として梅田スカイビル タワーウエスト27階に開設。
現在は開館2周年記念特別展示「夢見る力~空想大劇場」が開催されている(2019年6月10日まで)。絵の中に飛び込む3D映像体験やアフレスコ(壁画の古典技法)など色彩豊かな絵画・立体作品が展示されている。
◇ ◆ ◇
記者は絹谷氏が若いときからのファンだが、絵を買いそびれてしまった。もう絵は買えないので、絹谷氏がデザインしたネクタイを買ってつけている。1本目はボロボロになるまでつけ、今は同じ柄の2本目だ。先生、もっと異なるデザインを増やして。同じネクタイを頻繁にはつけられない。
整合性欠く「風致地区」と「準住居」指定 三菱地所レジ 初の老人ホーム「永福」
「チャームプレミア永福」
昨日は〝後入れ先出し〟のコスモスイニシア「旗の台」の記事を書いた。今度は〝先入れ後出し〟の三菱地所レジデンスの介護付き有料老人ホーム「チャームプレミア永福」を紹介する。完成見学会が行われたのは2月27日なので、鮮度は落ちるかもしれないが、濃い口の味付けにした。
物件は、京王井の頭線西永福駅から徒歩9分、杉並区永福4丁目に位置する準住居・風致地区の敷地面積約1,164㎡、延床面積約2,578㎡、地下1階地上5階建て全48室。土地・建物とも賃借(契約期間30年)。居室面積は19.95~40.23㎡。権利形態は利用権方式、利用料の支払いは選択制。前払い金ゼロの場合の料金は約60万~125万円。事業主体はチャーム・ケア・コーポレーション。設計・監理は日建ハウジングシステム。施工は谷津建設。3月に開業する。
施設は三菱地所レジデンスのヘルスケアアセット開発第一号で、チャーム・ケア・コーポが運営する高齢者向け施設の最上級ブランド「チャームプレミアム」シリーズの首都圏で5カ所目。地所レジは一定期間所有したのちリートなどへ売却する予定。ヘルスケアアセットは今回のほか5物件の計画を推進中。
現地はトウカエデの街路樹が美しい方南通りに面しており、建物デザインにも従前の個人宅(2邸)にあった景石や灯篭を用い、保育園との交流を企画するなど地域との親和を図っており、内装に美大生などの絵画・アートを展示する。
見学会に臨んだチャーム・ケア・コーポ代表取締役社長・下村隆彦氏は、「現在、51ホーム約3,600室を3ブランドで展開しているが、アッパーミドル・富裕層向けの『チャームプレミアム』は首都圏で5カ所目。従来は関西中心だったが、今後は富裕層が圧倒的に多い東京圏で積極展開する。来期に開業予定している10ホームのうち首都圏は8ホームで、5ホームは『チャームプレミアム』」などと語った。
三菱地所レジデンス常務執行役員・花形雅人氏は、「損益が荒れる分譲よりマーケットが安定している賃貸や学生寮、シニア向けなど成長が見込める領域を拡大し第二の柱に育てていく。当面は売り上げの巡航目標を80億円に設定している」と話した。
花形氏(左)と下村氏
エントランス・ラウンジ
◇ ◆ ◇
やや視点を変えて、「風致地区」と「準住居地域」との整合性について。見学会で三菱地所レジデンスの投資アセット開発グループリーダー・勝俣耕希氏は、分譲や賃貸マンションではなく今回の施設にした開発の経緯についておおよそ次のように語った。
当地は建ぺい率40%の風致地区に指定されていること、駅から10分の距離、隣接地は1低層で保育園、競合物件がない、高年収の富裕層が周辺に多い-などを総合的に判断、「チャームプレミアム」にふさわしい建物にするために日建ハウジングシステムを採用した。
説明は極めて明瞭だった。しかし、小生は1階の食堂兼機能訓練室の天井デザインは優れているのに、どうして低いのか気になってしょうがなかった。確認したら2400ミリだった。
同業の記者は「みんな目線が低い車椅子だからこれでいいんだ」と冗談を飛ばしたが、小生は逆だと考えた。目線が低いからいつも上を見る、何か事情があると。
なぜ、天井高が低いのか。すぐ答えが出た。和田堀風致地区は昭和8年に指定された。建築規制には建蔽率は40%以下、道路側からの壁面後退(2m)、隣地側からの壁面後退(1.5m)、高さ15m以下などがある。天井高が低かったのはこの規制のためだ。
一方で、ここの用途地域は「道路の沿道等において、自動車関連施設などと、住居が調和した環境を保護するための」準住居地域(建ぺい率60%、容積率300%)に指定されている。
準住居の用途規制は、業界関係者ならお分かりのように、ラブホテルなど風俗系は許可されない商業や準工ほどではないにしろ〝ほとんど何でも可〟の地域だ。
どうして何でも可の用途地域に風致地区の網をかけるのか、記者には理解できない。整合性がまったくないではないか。
一つ付け加えると、今回の施設は緑化率30%を確保しているため建ぺい率緩和を受けており、準住居の60%と風致地区の40%の間の4分の1だけ、つまり45%まで認められている。ただ、風致地区には容積率についての定めはなく、上記の規制をクリアしなければならないので、使用容積率は221%しかない。
小生は、記者になって初めて担当したのが線引きだった。白地図に何のためらいもなく色付けしていく職員を見て、用途指定はでたらめだと思った。
風致地区と用途指定は別々の部署で行う。現場では戸惑いもあると聞く。線引きは抜本的に見直すべきだ。高さ規制も同じ。
ついでに風致地区内にある高千穂大学を調べたら、(緩和措置はあるはずだが)建ぺい率は50%で容積率は100%、全ての建物が4階以下だった。すごい大学もあるもんだ。
中庭
食堂
◇ ◆ ◇
同社の初のシェアハウス「ザ・パークハウス レックス 永福町」でもそうだったが、共用部には東京藝大の学生さんなどによる絵画・アートがたくさん飾られていた。将来大化けしそうな画家の卵もたくさんいると感じた。
下村社長(76)は絵画収集の趣味があるようで、絵画・アートは各施設でそれぞれ入れ替え・巡回する予定とか。
記者の一押し作品
◇ ◆ ◇
この種の施設を見るのは初めてという女性記者がいて、料金の高さに驚いていたので、「あなたの生活レベルで考えちゃダメ。富裕層向けの介護・サービス料金として月額100万円は相場」とアドバイスした。
これほど規制の厳しいエリアでは、この種の事業でないと利益を確保するのは困難ではないか。
チャーム・ケアは、渋谷区神山町で同じような富裕層向け介護付有料老人ホーム「(仮称)チャームプレミア松濤」(日神不動産が開発)を2019年8月にオープンする。
檜風呂
東急不 学生マンション第二弾「赤羽志茂」完成 利回り8%超か 年間1000戸へ
「キャンパスヴィレッジ赤羽志茂」
東急不動産は2月27日、北区志茂三丁目で開発を進めている学生レジデンス「CAMPUS VILLAGE」の第二弾「キャンパスヴィレッジ赤羽志茂」が2019年2月に竣工し、3月から入居開始すると発表。同日は報道陣に公開するとともに、第一弾の「椎名町」の女性入居者が住み心地などについて感想を語った。
物件は、東京メトロ南北線志茂駅から徒歩8分、北区志茂三丁目に位置する敷地面積約2,025㎡、延床面積約4,276㎡の8階建て全233室。専用面積は14.02㎡~14.67㎡。賃料は4.9万~7.2万円。入館料は15万円(1年)・24万円(2年)。管理費・共益費は1.8万円/月、食事代は1.7万円。事業主は同社のほか伊藤忠都市開発。施工は川田工業。管理・運営は学生情報センター。一定期間所有し、その後はファンドなどに売却するスキーム。
現地は、日本火薬の工場跡地。三菱地所レジデンスなどが分譲中の全500戸の「ザ・パークハウス オイコス 赤羽志茂」の隣接地。
昨年11月から入居者を募集しており、これまでに東洋大を中心に法大、上智大など約4割に申し込みが入っている。男女比は半々とか。
記者見学会で東急不動産執行役員住宅事業ユニット首都圏住宅事業本部本部長・大谷宗徳氏は、「年間1,000室体制、業界ナンバー1を目指す」と話した。
左から同社住宅事業ユニット首都圏住宅事業本部住宅ソリューション部統括部長・野間秀一氏、同ユニット事業戦略部 統括部長・久保章氏、大谷氏
◇ ◆ ◇
大手デベロッパーでいち早く学生マンション市場に参入し、全国で約43,000室を管理・運営する学生情報センターを傘下に収め、好調なスタートを切った余裕なのか、大谷氏らひな壇のお三方は威風堂々の戦略家に見えた。女子学生をゲストに呼ぶなどという芸当を他社は真似できないのでは。
それもそのはずだ。数字が全てを物語っている。寮・寄宿舎のことはよくわからないのだが、分譲マンションと比較し、利回りを計算した。賃料約7.2万円(15㎡)で、坪単価を230~240万円くらいだとすると、利回りは実に8%を超えるではないか。
容積率を調べたら約211%(法定容積はおそらく200%)だったので、分譲と比べ容積不算入の部分は少ないようだが、逆に設備仕様を落とせるし、付帯設備も減らせるのでレンタブル比率は高いはずだ。
大谷氏らは、学生マンションを通じ、さらに賃貸住宅-新築の分譲マンション・一戸建て、リノベーションマンション、シニア住宅へと繋げることで〝東急ファン〟を拡大し、グループシナジーも発揮し、高付加価値のバリューチェーンを構築しているなどと自信たっぷりだった。年間1,000室とは凄い。一挙に引き離す戦略か。
オールドファンには懐かしい「CAMPUS VILLAGE(キャンパスヴィレッジ)」なるブランド(昔は東急ビレッジだったが)が復活した。
共用部
図書棚(学生さん向けにしては図鑑のようなものが多く、小説や哲学書などは少なかったのがきになった。グループで募れば1万冊の寄贈があるのでは)
◇ ◆ ◇
記者は、学生マンション・寮を見学するのは2回目だった。いま首都圏ではどんな劣悪なアパートでも月額家賃は5万円くらいするはずで、個室に浴室・トイレが付いており、その他食堂、洗濯室、娯楽室、図書館、ミーティングルームなどの共用施設が併設されていることを考慮すれば、賃料はリーズナブルなものでないかと思う。
だが、記者は「寮・寄宿舎」と聞くと、管理しやすいように規則でがんじがらめにし、入居者の自由を奪う監獄のイメージが強いので好きになれない。その一方で「女子寮」などと聞くと、アンタッチャブルな花園のようなイメージが湧き、それだけで浮足立つのだが…(女子学生会館はかなり厳しい。箱入り娘はまだ生きている)。
いまの企業は、飼いならされた犬のような学生を求めているのかもしれないが(同社グループは個性的な人材確保に転換したはず)、学生さんには自立した立派な社会人になってほしいと願うので、好き勝手ができるアパート・マンションがいいような気がしている。
その疑問をストレートにぶつける絶好の機会を同社は与えてくれた。何と第一弾の「椎名町」に住む2人の女子学生をゲストに呼び、感想を語ってもらい、報道陣の質問にも答えるという、粋な計らいを行ったのだ。
まずAさんの感想。「えっと、一言でいえば安心。えっと、上京してホームシックにかかり、母が恋しくて泣いてばかりいました。そんなとき、フロアリビングで『大丈夫? 』などと声を掛けていただいたのがきっかけで仲良し友達になれました。あとは、食事がとても美味しくて盛り付けもいいのにびっくりしました。実家では、こんなことを言うと母に失礼ですが、ご飯とみそ汁と(もう一品二品話したか)くらいで…。こんなに朝ごはんが楽しいとは思わなかった。(記者団にマイナス点を聞かれると)部屋が狭く、みんなそれぞれ工夫していますが…」と話した。
Bさんは、「みなさんと関わり合いが持てて、英会話の勉強などもできるのがいい。門限もないし、セキュリティもしっかりしているので安心」などと語った。
Aさんの「部屋が狭い」に記者はもう我慢ができなくなった。「椎名町」は12㎡(3.6坪=7.3畳大)もあるではないか。孫のような女性にきついことを言うのはかわいそうだとも思ったが、ここはしっかり言わないとだめだと決断し、年甲斐もなく「あなたは『狭い』と仰ったが、家賃を払う親も大変。わたしは北向きの3畳間に住んだことがある。いったい実家ではどれくらいの広さの個室を与えられていたのか」と質問というより詰問した。
やや間があり、Aさんは「家は100坪で、わたしは10畳くらいでした」と、Bさんは「部屋の半分、5畳くらい」とそれぞれ答えた。「…」
この二人に記者は「分譲マンションにすると、ここ志茂だと1,000万円くらい、椎名町は1,000万円をはるかに超える」と話しておいた。分かってくれたか。
同社には、監視を強化すれば自立した社会人になれないのではないかと問いただしたら、大谷氏ら関係者は「悩ましい問題だが、自由を束縛するようなことは行わない」と答えた。しかし、共用部での飲酒・喫煙はダメで、部屋内での喫煙も禁止とか。お友達を招じ入れることは可能なようだ。洗濯機は男女別になっていた。
このことが、寮・寄宿舎に関する労働基準法で禁止されている①外出又は外泊について使用者の承認を受けさせること②教育、娯楽その他の行事に参加を強制すること③共同の利益を害する場所及び時間を除き、面会の自由を制限すること-に違反はしていないのは確かに間違いない。
土地の価値最大化 老人ホームと学生レジ事業 勝てない勝負はするな 記者の仕事も同じ(2019/2/27)
土地の価値最大化 老人ホームと学生レジ事業 勝てない勝負はするな 記者の仕事も同じ
本日(2月27日)は、午前中に京王井の頭線西永福で三菱地所レジデンスの介護付き有料老人ホームの、午後は東京メトロ南北線志茂で東急不動産の学生レジデンスの完成見学会があった。前者は、月額約100万円の入居費用がかかる、身も蓋もない言い方をすれば「地獄の沙汰は金次第」の施設だし、後者もまた、貧乏学生もその親も負担しきれない、至れり尽くせりの寄宿舎であるという点ではよく似ており、その土地の価値を最大限生かすという視点からすれば、極めて魅力的、刺激的な取材だった。
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小生は小生なりの視点で記事を書いているので他紙と争っている感覚は全くないが、基本的にニュースは速さが勝負だ。その意味では、不動産流通研究所のweb「R.E.poot」(以下、同紙)に完全に負けた。なぜ負けたか、業界紙の記者はどうあるべきかについて以下に書く。
東京を起点にすると、本日の取材先はそれぞれ片道だけで1時間。取材時間は1時間半から2時間。社に戻ったら17:00過ぎだった。書くのをあきらめて、家に帰りいつも通り酒を飲んだ。
午前中の地所レジの記事はともかく、東急不の記事は同紙も書かないと高をくくっていた。同紙の記者と小生は帰るまで一緒だったからだ。同紙は18:00にアップする。書く時間は30分あるかどうか。
ところが同紙は地所レジも東急不もきちんと記事にしているではないか。伝えなければならないことを過不足なく伝えている(と思う。言いたいことは山ほどあるが、これは同社の経営に関わること)。ひょっとしたら予定原稿をあらかじめ書いており、コメントの部分だけ追加したのか。音声入力で書いていたのか。
この早業にうっかりしていられないと思ったのだが、それ以上に小生が感心したのは、地所レジの取材に同紙は3人の記者を送り込んでいたことだ。同紙は若手記者を育てる意味もあり、都合がつけば極力見学会などに出席するようにしているという。これは先に生きてくる。記者として一人前になるには現場を見るしかないからだ。
同紙と比べ情けないのは他紙。地所レジの見学会に出席したのは同紙を含めて20名。午後の東急不も同じくらい。昨日の野村不動産の武蔵小金井のマンション見学会は16名(同紙は2名)。一昨日の長谷工コーポレーションの千石の賃貸マンション見学会も20名(同)いたかどうか。全て参加した記者は数えるほどしかないはずだ。
生き方は人それぞれ。小生がとやかく言う問題でもないが、ジャーナリズムの世界で生きていこうとするならば、現場取材を積み重ねる以外に近道はない。
逆説的に言えば、こんなに有意義で面白い現場取材にせいぜい20人くらいしか集まらないのだから、それぞれが競争相手と考えれば、圧倒的な優位な立場に立てるわが業界の記者ほどやりがいのある仕事はない。
小生は明日も2件の取材と、夜は楽しい飲み会もあるので、今日の記事はいつ書けるのか。同紙に先を越されたのはやや悔しいが、中身で勝負する。勝てない勝負、競争はするなということだ。地所レジの老人ホーム事業と東急不動産の学生マンション事業も同じだ。それぞれの会社の担当者はしてやったりの顔をしていた。
日本原産の作物は10種類程度 秋草学園短大・中村教授 OSIで〝目からうろこ〟の講話
中村氏(全国中小企業団体中央会 研修室で)
日本原産の作物はフキ、ウド、カキ、クリなどわずか10種類程度-目からうろこのこんな講話を秋草学園短期大学教授・中村陽一氏(61)が2月22日、OSI(沖縄観光産業研究会)第126回研究会で行った。
中村氏は「わたしの専門は植物学」と口火を切り、「キュウリだけで1時間は話せる」などと冗談も飛ばしながらモーウイ(ウリ)、キュウリ、ブロッコリー、キャベツ、ゴボウ、イチゴ、スイカ、カボチャ、ゴーヤ、トウガン、パパイヤ、バナナ、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、サトウキビ、コメ、コムギ、ダイコン、ハクサイ…数えきれないほどの食材の起源や食べ方などをしゃべり続けた。沖縄出身の参加者とは「黒糖地獄」「モクマオウ」などについてやり取りもした。
きっかり1時間。「話は1時間でいいよ。そのあとは泡盛が待っている」と事前にプレッシャーをかけた同研究会前代表・百瀬惠夫氏(明大名誉教授)の注文通りに話した。
記者が驚いたのは、参加者に配布された論考「作物の起源を探る~プロローグ~」(食の科学2001.8 No282)の次の部分だった。
「(日本で)現在栽培されている作物は、400種以上、野菜だけでも150種にのぼり、さらに地方ごとの特産品種を上げればその数は数千にもなるといわれます。実は、世界中を見渡してもこれほど多種の作物を栽培している国は他にありません。
一方それらの作物の中で、日本原産のものは、セリ・ミツバ・フキ・ウド・ワサビ・クリ・カキ・ナシなど10種類程度にすぎません」
中村氏は、東京大学大学院農学系研究科博士課程単位を取得したのち、南極海洋調査や生物資源調査のためアジアを中心に60か国以上を歴訪し、教職の傍ら神職も務めている。
百瀬氏(右)の隣の方は村上水軍ではなく元日本郵船の船長・庄司洸一郎氏
左のお二人は沖縄出身(百瀬先生が口説いているシーンではないはず)
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原産のバナナには種があり、木のような部分は葉っぱであり、トウガンは1個40キロもするものがあり、パイナップルの食べている部分は茎で、ゴーヤはザクロのようにはじける、「泡盛」はひょっとしたら「粟」を原材料に使ったからではないか…まるでクイズ番組のような中村氏の揺さぶり攻撃にあ然、呆然するしかなかった記者は、悔し紛れに一発かました。
「先生!野草にはムラサキシキブとかワスレナグサ、ヒトリシズカ、ハハコグサなどいい名前もあるが、口に出すのもためらわれるオオイヌノフグリ、ヘクソカズラ、ハキダメソウ、ドクダミなどどうしてそんなかわいそうな名前を付けたのか。オオイヌノフグリの花も実も絶対そのような形ではない」と。
中村氏は「うーん、牧野(富太郎)先生か誰かが付けたのは間違いない」としか答えなかった。
中村氏と参加者(お二人から「載せていい」と了解を得ています)
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これは先生もご存じなかった「腰油(コシアブラ)」を紹介する。つい最近だ。あるデベロッパーの役員と広報担当の方々との酒席に出された天ぷらだった。口にしたとたん、だしぬけにえも言えぬ香りが口内に拡がり、痛飲したお陰で眠りに就こうとしていた脳細胞が覚醒させられ、その感動が満腔を満たした。70年近く生きてきて、こんなおいしい山菜を食べたことがないのが悔しかった。
早速翌日調べた。「山菜の女王」と呼ばれていることを知り納得した。4月中旬あたりから出回るそうだ。タラの芽など「目」じゃない。もうすぐフキノトウも食べられるが、フキノトウとはまた全然違う。これを食べずして食通というなかれ。
OSI代表・篠原勲氏(右)と参加者
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OSI(沖縄観光産業研究会)への入会をお勧めします。会費は必要ですが、各界の方から様々な知見が得られ、終わってからの懇親会(会費は5,000円くらいか)では泡盛の古酒が飲み放題。3杯くらい飲めば元が取れます。詳細はOSI事務局・〒105-0013 東京都港区浜松町2814、浜松町TSビル1階、電話03-3431-0888へ。
機能的・情緒的・自己表現価値をどう伝えるか 高崎経済大学講師・権代美重子氏 OSI
「おーお明治」大学の誇り 百瀬恵夫名誉教授の「瑞宝中綬章」受章を祝う会に300名
蠕々然(ぜんぜんぜん)マンション取材もかくあるべし 芥川龍之介「女体」から
忙中閑あり。不動産には全く関係ないが、とても面白い文庫「女体についての八篇晩菊」(中公文庫)を紹介する。タイトルはやや嫌らしいが、中身は非常に面白い。太宰治、岡本かの子、谷崎潤一郎、有吉佐和子、芥川龍之介、森茉莉、林芙美子、石川淳のそれぞれの珠玉の短編に、選者でもある漫画家・安野モヨコ氏が挿絵付きのあとがきを担当している。小説をそのまま転載は出来ないので、著作権フリーの「青空文庫」から芥川龍之介「女体」を引用した。( )内の一部は記者が追加した。
女体 芥川龍之介
楊(よう)某と云う支那人(しな=かつて日本人は中国をそう呼んだ)が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖(ほおづえ)をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽(ふけ)っていると、ふと一匹の虱(しらみ)が寝床の縁(ふち)を這(は)っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の光で、虱は小さな背中を銀の粉のように光らせながら、隣に寝ている細君(=奥さん)の肩を目がけて、もずもず這(は)って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきから楊の方へ顔を向けて、安らかな寝息を立てているのである。
楊は、その虱ののろくさい歩みを眺めながら、こんな虫の世界はどんなだろうと思った。自分が二足か三足で行ける所も、虱には一時間もかからなければ、歩けない。しかもその歩きまわる所が、せいぜい寝床の上だけである。自分も虱に生れたら、さぞ退屈だった事であろう。……
そんな事を漫然と考えている中に、楊の意識は次第に朧(おぼろ)げになって来た。勿論夢ではない。そうかと云(い)ってまた、現(うつつ=現実)でもない。ただ、妙に恍惚たる心もちの底へ、沈むともなく沈んで行くのである。それがやがて、はっと眼がさめたような気に帰ったと思うと、いつか楊の魂はあの虱の体へはいって、汗臭い寝床の上を、蠕々然(ぜんぜんぜん=はう様子)として歩いている。楊は余りに事が意外なので、思わず茫然と立ちすくんだ。が、彼を驚かしたのは、独(ひと)りそればかりではない。――
彼の行く手には、一座の高い山(=一対の乳房)があった。それがまた自ら(おのずから=自然な)な円(まる)みを暖く抱いて、眼のとどかない上の方から、眼の先の寝床の上まで、大きな鍾乳石(しょうにゅうせき)のように垂(た)れ下っている。その寝床についている部分は、中に火気を蔵しているかと思うほど、うす赤い柘榴(ざくろ)の実の形を造っているが、そこを除いては、山一円、どこを見ても白くない所はない。その白さがまた、凝脂(きめの細かい肌)のような柔らかみのある、滑(すべらか)な色の白さで、山腹のなだらかなくぼみ(=虱はどこを見ていたのか、どこの部分か小生もわからない)でさえ、丁度雪にさす月の光のような、かすかに青い影を湛(たた)えているだけである。まして光をうけている部分は、融(と)けるような鼈甲色(べっこういろ)の光沢を帯びて、どこの山脈にも見られない、美しい弓なりの曲線(話は別。太宰は老婆を「乳房がしぼんだ茶袋を思わせる」と描き、16、17、あるいは18の女性の「コーヒー茶碗一ぱいになるくらいのゆたかな乳房」と表現している)を、遥な天際(空の果て)に描いている。……
楊は驚嘆の眼を見開いて、この美しい山の姿を眺めた。が、その山が彼の細君の乳の一つだと云う事を知った時に、彼の驚きは果してどれくらいだった事であろう。彼は、愛も憎みも、乃至(ないし=あるいは)また性欲も忘れて、この象牙の山のような、巨大な乳房を見守った。そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い匂(におい)も忘れたのか、いつまでも凝固(こりかた)まったように動かなかった。――楊は、虱になって始めて、細君の肉体の美しさを、如実に観ずる事が出来たのである。
しかし、芸術の士にとって、虱の如く見る可(べ)きものは、独り女体の美しさばかりではない。
(大正六年九月)
「青空文庫」 底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房1986(昭和61)年10月28日第1刷発行、1996(平成8)年7月15日第11刷発行、底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月、入力:j.utiyama、校正:earthian、1998年12月28日公開、2004年3月9日修正。
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芥川がこの小説を発表したのは25歳、自殺する10年前のまだ独身のときだった。中国人と虱を主人公にしたのは当時の時代背景もあるのだろうが、その観察力はさすが。
皆さんは虱をご存じか。小生はもちろん蚤はよく知っているが、虱は残念ながら見たことがない。「虱つぶし」の言葉通り、軍服などの縫い合わせの部分をつぶすと真っ赤になったという。
最後の部分「芸術の士にとって、虱の如く見る可(べ)きものは、独り女体の美しさばかりではない」というのはその通りだと思う。生き方もマンションもつきつめれば「美」が全てだ。記者はマンションのマクロ(女体)をミクロ(虱)の視線で観てきた。誰だ!木を見て森を見ずというのは!
日本の父親の育児分担率は5か国で最下位 リンナイ調査
ワーキングママの「育児」に関する自己採点とパートナーの評価
リンナイ提供
日本の父親の育児分担率は5か国で最下位-こんな不名誉な調査結果をリンナイがまとめ発表した。
世界のワーキングママの育児事情を明らかにすべく日本(東京)、ワーキングママが少ない韓国(ソウル)、ナニー文化が浸透しているアメリカ(ニューヨーク)、共働きが主流のドイツ、福祉の充実度で有名な北欧スウェーデンの計5カ国の25~39歳の働きながら育児をする女性計500名を対象に今年1月に実施したもの。
調査によると、自分(母親)の育児の点数は、日本の平均点が5カ国の中でもっとも低いことが判明したほか、育児分担では日本の父親の分担度合が最下位になり、日本で〝ワンオペ育児〟と感じているワーキングママは6割超、毎日育児へ参加している父親がもっとも多い国はスウェーデンが7割以上で、日本はわずか3割しかいないことなどが分かった。また、日本のベビーシッター・保育サービス利用率はどちらも5カ国中最下位だった。
各国のワーキングママに自分(母親)と、パートナー(父親)の育児にそれぞれ点数をつけてもらった結果、自分自身への平均点がもっとも高かったのはスウェーデンの79.5点で、日本は平均点がもっとも低く64.2点。
パートナーへの点数は、もっとも平均点が高かった国はこちらもスウェーデンの71.2点で、日本は3番目の56.1点だった。
これらの結果について、立命館大学産業社会学部教授・筒井淳也氏は、「日本では、育児の分担が女性に偏っているわりには夫の育児の評価が高いが、これは夫に希望する水準がもともと低いから」「スウェーデンやアメリカでは、男性の育児参加は私たちの想像以上に進んでいる。韓国では、低出生率への危機感が強く、政府が両立支援対策を強力に進めており、そのせいか、日本よりも外部サービスの活用が進んでいる」「男性の育児参加も、以前よりは増えているが、まだまだ不足している。育児と仕事の両立は職場の改革、 行政のサービス拡充、男性の意識改革など、総動員で取り組むべき課題であり続けている」と指摘している。