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「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」(パルテノン多摩小ホールで)

多摩ニュータウン再生シンポジウムに300名

 多摩市は2月12日、「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」を開いた。平日の午後にもかかわらず定員の250人を上回る約300人が集まり、関心の高さをうかがわせた。

 多摩ニュータウン再生検討会議委員長・上野淳氏(首都大学東京理事)が基調講演「多摩ニュータウンの魅力と今後の展望」を行い、同検討会議委員・西浦定継氏(明星大学教授)が「多摩ニュータウン再生検討会議の検討状況」を報告。諏訪2丁目住宅マンション建替組合理事長・加藤輝雄氏が建て替えの経緯と成功に導いた要因などについて語り、上野氏がコーディネーターを務めたトークセッション「まちの夢を語ろう」には南佳孝・リビタ社長、阿部裕行・多摩市長も参加した。

 シンポジウムの冒頭で挨拶した阿部市長は、「昨年7月、入居開始から43年が経過した多摩ニュータウンの今後の方向性や具体的な取組みを行う多摩ニュータウン再生検討会議を設置した。本日が緑豊かで夢のあるまちづくりを進めるキックオフの日にしたい」と語った。

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 最初に基調講演を行った上野氏は、「多摩ニュータウンは、豊富な緑と歩車分離のネットワーク、さらには大学の集積など高いポテンシャルを持っている。これをどう生かすか、これからの街づくりの大きなヒントになる。建物の老朽化、入居者の高齢化などは全国共通の課題。住宅と街のバリアを解決し、すでに行われている自立的な先進モデルを広げていくことだ」などと語った。

 西浦氏は、「このまま何もしないと50年後には多摩ニュータウンに人口は5万人に半減する。これまでの街づくりの50年を踏まえ、これからの人口減少に対応したスリム化に向けた50年をセットにした100年の街づくりのロードマップを検討会議で完成させる」と話した。

 加藤氏は、建て替えの検討が始まってからバブル崩壊、「一団地」の指定解除に10年以上もかかったこと、リーマン・ショックによる打撃などの困難を乗り切って全戸即日完売に導いたのは、「住民が主役」の理念を貫き、専門家や地域との連携を図り、情報の開示を徹底させたことなどが要因と話した。

 日野市のURの賃貸「りえんと多摩平」でシェアハウスを運営しているリビタのコンサルティング部コミュニケーションマネージャー・日野孝彦氏は、住民を主役に行政、大学、地域がサポートしていく必要性を強調。若者を呼び込む仕掛けがヒントになるとした。

 京王電鉄総合企画本部沿線価値創造部長・都村智史氏は、2012年に部を立ち上げてからこれまでの「生活支援サービス」活動について報告。鉄道事業は2008年の利用者63,700万人をピークに2013年は62,000万人に減少しており、「生産人口の減少に対応するには、街の魅力を双方向メディアで発信したり、子育て支援のマンションや保育事業、さらには移動販売などを行ったりして、われわれが街に入っていくアウトリーチ型サービスを展開していく」と語った。

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トークセッション

 トークセッションでパネラーの太田誠一氏(東京都都市整備局多摩ニュータウン事業担当部)は、ポテンシャルが高い多摩ニュータウンのブランドを高めていくと語った。

 寺門文夫氏(UR都市機構東日本賃貸住宅本部エリアマネージャー)は、計画的な街づくりの魅力を若年層向けにアピールする取り組みや高齢者の住み替え支援も行っていく必要があると語った。

 加藤氏は、「親あるいは子世帯が入居するにあたって家族会議が復活した。アンケートを重ねるごとに広い専有面積を希望する人が増え、団地内同居や同じエリアに近居するケースも多い」などと、建て替えにより同居・近居が増加していることを報告した。

 南氏は、「多摩ニュータウンを知らない若者が多い。できることからやってみる『場づくり』『場育て』が大事。多摩ニュータウンには人材も揃っている。歯車を回す条件、仕組みを整えれば未来は非常に明るい」とエールを送った。

 阿部市長は、「大学はたくさんあるが、学生の居住は少ない。家賃が高いことと単身向けの住宅がないからだ。URは空き家家賃を抑え、スケルトン賃貸などを行い『アートな街』として情報発信してほしい」などと注文した。

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左から上野氏、西浦氏、太田氏、寺門氏 

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左から加藤氏、都村氏、南氏、阿部氏

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 これまでの多摩ニュータウン再生検討会議と今回のシンポで課題は出尽くし方向性も見えた。

 上野氏をはじめ出席者が異口同音に語った「豊富な緑」「歩車分離」の価値をどうアピールするかが大きなポイントになる。住宅内と街のバリア解消も喫緊の課題だ。建て替えだけでなくリノベーション、シェアハウス、スケルトンなどの選択肢もあることが明らかになった。「多摩ニュータウン」を知らない若者世代に情報を発信する必要性も強調された。

 シンポジウムに参加した市内の豊ヶ丘に住む60歳代の女性が「これまで見えなかったものが見えてきた」と感想を語ったように、収穫の多いシンポジウムになったはずだ。上野氏は「もうオールドタウンなどと呼ばせないようにしよう」と締めくくった。

「何もしなければ多摩NTの人口は50年後に半減」西浦・明星大教授(2014/1/29)

カテゴリ: 2014年度

 マスコミ各紙が報じたように内閣府は1月31日、企業での女性の活躍を推進していくため、各企業の取り組みの現状を投資家、消費者、就活中の学生などに「見える」ようにする「女性の活躍『見える化』サイト」を公開した。

 役員・管理職への女性の登用、産休取得者などに関する情報を業種別に整理して公表した。公表している企業数は上場企業3,552社中1,150社(32.4%)。

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 不動産業で公開しているのは115社のうち28社(24.3%)。公開率は全33業種の中でもっとも低いガラス・土石の20.6%、その次の証券・先物取引の23.8%に次ぎ下から3番目だ。

 マンションや戸建ての最大のテーマが「子育て」「働くママ」である業界が、自らの会社の女性の活躍の状況を公開しないのは情けない。記者がこれまで取材してきた各社の女性はみんな素晴らしい活躍をしている。これを機会に積極的に公開することを期待したい。

 ただ、公開されている「管理職」の定義は、「部下を持つ職務以上の者、部下を持たなくてもそれと同等の地位にある者を指す」とあるのみで、この条件を満たすかどうかの判断は各企業にゆだねられている。いわゆる「名ばかり管理職」の問題については不明だ。

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 サイトは、東洋経済新報社が発行する「2014CSR企業総覧」に掲載されている情報に、内閣府が2013年10月~12月に実施した調査の結果を追加したものだ。

 記者はこのサイトを記事にしようと思ったが、【留意事項】が事細かに記載されていた。①本データ(内閣府の調査により収集したデータを除く。)の著作権その他の権利は東洋経済新報社に帰属する②本データの利用者は、本データを利用者自身の使用目的以外に利用しないでください③形態の如何、また加工の有無を問わず、本データの一部または全部を第三者に譲渡、転貸、提供しないでください④第三者の利用に供する目的で本データの一部または全部を引用、複製、改変しないでください-などというものだ。「許可を得れば可能」などの記載もない。

 つまり、閲覧は自由だが、得た情報は形態の如何を問わず第三者に提供してはならないというのだ。これを破れば当然著作権法などに触れる。

 しかし、この留意事項はいかがなものかと思う。サイトを公開する目的は、資本市場にも女性の活躍を促そうというものだ。著作権法でも、広く国民に周知されるべき憲法やその他の法令、国や自治体など公的機関の発する通達などは著作権の対象外としている。

 さらに、著作物の引用についても同法では、①公表された著作物は、引用して利用することができる。引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。国や地方公共団体が一般に周知させることを目的として作成し、公表する広報資料、調査統計資料、報告書などは、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない(第32条)③新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない(第39条)-などとしている。

 今回公開されたサイトの留意事項と著作権法を照らし合わせると、留意事項に違法性はないものの、サイト公開の主旨や「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする」著作権法の目的にも合致しないのではないか。

 よって、「引用」しても問題にはならないはずだが、〝人の…で相撲〟も取りたくないのでサイトにどのようなハウスメーカーや不動産会社が情報を公開しているかについては触れない。

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 内閣府のサイトや東洋経済の「CSR総覧」に頼らなくても、女性の活躍を「見える化」しているハウスメーカーや不動産会社は少なくない。

 例えば東証「なでしこ銘柄」に住宅・建設業界から唯一選定されている積水ハウス。同社はCSRレポートで2008年から2012年の間に女性の管理職比率は0.56%から1.21%へ増加していることなどを報告している。

 「世界で最も持続可能な100社」に選ばれている大和ハウス工業もしかり。同社の2013年度の女性社員は2005年度比1.4倍(2,371人)、主任は2.5倍(325人)、管理職は5.8倍(47人)に増加したと報告している。

 住友林業は、わが国ではベネッセ、丸紅、Panasonic、TOTOとともに世界的なSRI 評価会社であるRobecoSAM社のCSR格付けで2年連続して「Gold Class」に選ばれたが、CSRレポートで詳細な社員関連データを報告している。

 三井不動産グループも、日本橋の「三井二号館」に事業所内保育所「キッズ スクウェア日本橋」(定員50人)を開業しており、「& EARTH REPORT 2013」で、育児支援、介護支援、ワークライフバランス実現支援などについて報告している。

 コスモスイニシアの女性広報担当者からはこんなコメントが届いた。「弊社は元々リクルートグループであったこともあり、性別によって『できる』『できない』の区別をする風土はあまりない会社だと思っております。また、大和ハウスグループは女性の活躍をもっと増やしたいと考えており、今年の1月に大和ハウスグループの女性フォーラムが開催されました」

 フォーラムに集まったのはグループの管理職、管理職候補、産休・育休明けで働いている女子社員など合計約160名。樋口会長の訓話や大和ライフネクスト常務取締役・石﨑順子氏の基調講演のほか、女性のパネルディスカッション、分科会などが行われたという。(確かに。同社には仕事の面では性差を感じさせない雰囲気が以前からあった。これが望ましい姿だと思う)

 全社員158名(男103名・女55名)うちの3分の1が女性で、課長以上の役職も女性が4分の1、役員が6人のうち2人を占めるフージャースホールディングスは「出産後も復帰して働くワーキングマザーも多く、女性が存分に能力を発揮している会社」とホームページに公表している。

 東急不動産ホールディングスグループも東急不動産、東急コミュニティー、東急リバブルの3社とも公開の準備を進めている。

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 内閣府がサイトを公開するにあたっては、丁々発止のやり取りがあったようだ。内閣府の「女性の活躍状況の資本市場における『見える化』に関する検討会」(座長:岩田喜美枝・財団法人21世紀職業財団会長)の最終報告書の冒頭では、「日本の潜在力の最たるものは女性」「女性こそ日本にとって最大の含み資産」と高らかにうたっているが、最後は「有価証券報告書やコーポレート・ガバナンスに関する報告書では、現在、明示的に女性の活躍に関する情報を記載することを求める項目は設けられていないが、関連する項目の中で女性の活躍に関する情報を自主的に開示している例も見られる」にとどまっている。

 議事録でも、資生堂初の女性副社長に就任したことがある岩田氏は「意見のかい離・隔たりが相当あったのは、やはり有価証券報告書、もう一つは、コーポレート・ガバナンスに関する報告書…非常に積極的な御意見を言われる方と、慎重な御意見を言われる方の間の調整が難しいと私は判断いたしました」と、無念さをにじませている。

 また、生活経済ジャーナリストの高橋伸子委員は、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書には推奨という言葉がよいのどうか分かりませんけれども、もう書くのが当たり前だという段階になるようなことを期待しておりまして、書けないところはそれなりの理由を書くか、書けるように努力するということが必要なのではないかと思っております」と語っている。

 河口真理子委員も、「経団連の久保田委員以外は皆様多分同じ、かなり近い意見なのではと思いつつ、この報告書を全体的に読みますと、前段は非常に盛り上がっていて海外では大変価値があるのだとあるのに、最後の結論のところでいきなりトーンダウンしていて…」と、有価証券報告書などに女性の登用状況などを「記載事項」として盛り込むことに否定的な経団連委員を批判した。

 これらの意見に記者も賛成だ。昔から〝地震、かみさん、火事、おやじ〟と言ったではないか。怖いのはおやじよりも〝かみさん〟だ。女性が職場や社会で正当に評価され、やがては今回のようなサイトそのものが存在価値を失う世の中になることを願いたい。

カテゴリ: 2014年度

 住友林業は2月6日、世界的なSRI 評価会社であるRobecoSAM社によるCSR格付けで2年連続して「Gold Class」に選ばれるとともに、「Homebuilding Industry(住宅建設部門)」で最も評価が高い企業として「Industry Leader(インダストリーリーダー)」に選定されたと発表した。

 RobecoSAM社は、持続可能性に優れた企業を毎年「The Sustainability Yearbook」で公表しており、今年は世界の約3,000 社のうち460 社が「The Sustainability Yearbook 2014」に掲載された。特に優秀な企業を「Gold(金)」「Silver(銀)」「Bronze(銅)」として表彰している。

 「Gold Class」に選定された日本企業は同社のほかベネッセ、丸紅、Panasonic、TOTOの各社。

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岩手県田野畑村の今年1月の広報紙「たのはた」表紙

福島県の死者・行方不明者3,461人のうち47%が「関連死」

 死者15,883人、行方不明者2,643人、住宅の全・半壊399,548棟の被害(平成25年12月10日現在)を出した平成23年3月11日の東日本大震災からもうすぐ3年だ。マスコミは連日復興の模様を伝えているが、記者も少しでも役に立てればと、ほとんどがホームページから拾ったものだが、復興の状況を調べた。まずは人口動態から。

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 別表は東日本大震災が襲った東北3県と茨城県の北茨城市と高萩市の震災前と現在の人口を調べたものだ。

 震災前の人口は約260万人で、直近の人口は約254万人。減少率は2.0%だ。この減少率をどう見るかだ。復興庁は「被災3県の人口は、減少傾向にあるもののその度合いは鈍化しており、社会増減率は、沿岸市町村においても震災前の水準に戻りつつある」(復興庁ホームページ)としているが、果たしてそうか。

 各市町村の人口増減を詳しく見ると、とても「震災前の水準に戻りつつある」などと楽観的な見方はできない。

 別表にあるように、震災後、人口が増加しているのは仙台市、名取市、利府町の3市町だ。この3市町を除く沿岸市町村は5.4%も減少している。多数の死者を出した山田町、大槌町、陸前高田市、南三陸町、女川町などは二けたも減っており、女川町は実に25.3%も減少している。

 また、254万人はあくまでも住民登録している人の数で、実際に住んでいる人の数ではない。現在でも全国に約27万人いる避難者が住民票をそのままにして、他のエリアに住んでいるケースも相当数に上るはずだ。福島原発による「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に指定されている南相馬市、浪江町、双葉町、大舘村、楢葉町などは今後どうなるのか皆目見当もつかない。

 復興庁などが調査した浪江町の住民意向調査では、回答した約6,000世帯のうち37%の人は「現時点で戻らない」と回答している。避難指示が解除された広野町でも実際に戻ったのは全世帯の35%にあたる686世帯だ。昨年の9月では実際に住んでいるのは10分の1と言われたように「確実に戻ってきている」(広野町役場)のは確かだが、復興には程遠い。岩手県や宮城県の避難者がどのような意向であるかは不明だ。避難者に対する生活支援はエンドレスではない。

 東北3県は内陸部の過疎の問題もある。震災前の3県の人口は約571万人だったのが、現在は約557万人で、2.4%減少している。沿岸の人口減少率より大きい。震災復興と内陸部の活性化という二つの大きな課題を抱えている。

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 数字を眺めていると、その裏に隠されたものがあぶりだされてくる。見えないものが見えてくる。

 その一つが関連死認定の数だ。関連死も含む死者・行方不明者の数は21,139人だが、関連死は東北3県で2,948人にも達している。

 岩手県では5,106人の死者のうち8.5%にあたる434人(内陸31人含む)が関連死による死亡と認定されている。大きな被害を受けた釜石市では、死者988人のうち100人(10.1%)が関連死認定を受けている。

 一方、宮城県では、死者10,471人のうち関連死は8.4%の879人だ。岩手県と比率的には同じだが、市町村によってかなり差がある。例えば仙台市では908人のうち関連死は27.9%(253人)に上るのに対し、3,518人の死者を出した石巻市の関連死は7.1%で、他の市町村も数パーセントにとどまっている。

 興味深いのは福島県だ。同県の震災による死者・行方不明者は3,461人(内陸部含む)で、このうち47.2%に当たる1,635人が関連死だ。福島原発に近い浪江町は499人の死者のうち63.5%の317人が、南相馬市は40.8%、太平洋に面していない飯館村は43人のうち42人が、葛尾村は25人すべてがそれぞれ関連死として認定されている。

 関連死について復興庁は次のような報告を行っている。「マスコミは、まるで『心のケア』なる明確なものが存在し、それを行えば様々な被災者の心の問題が解決すると報道する傾向にある。しかし本来は、地域経済・職業・健康状態の改善等、いわゆる生活再建を通して、はじめて被災者の心の健康が回復していくものである。生活不安が解消しない状態では、心のケアは万能ではないことを知るべき」と。

 この報告通りだとすれば、太平洋岸に住む人の圧倒的多数は「不安が解消」されていないのではないか。特に福島原発エリアの住民の不安は少なくとも向こう数十年間、あるいはもっと長期間にわたって続くはずで、ヒロシマ・ナガサキのように「関連死」はまだまだ増えるのだろうか。

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 各市町村のホームページのスローガンは創意工夫を凝らしているようだ。キーワードは「絆」「こころ」「みんな」「うみ」「ひと」「元気」「希望」「笑顔」「復興」「一丸」「キラリ」「未来」などだ。

 記者が惹かれたのは「海と生きる」(気仙沼市)「ともに前へ仙台」(仙台市)「東北に春を告げる町」(広野町)などだ。「海と生きる」は、プロレタリア文学の傑作と言われる葉山嘉樹の「海に生くる人々」(岩波文庫)を連想させるし、「ともに前へ」は、強い意志が込められている。「東北に春を告げる町」とは、真っ先に春めく町なのだろうか。

 その一方で、浪江町の馬場有町長が昨年の9月17日付で「東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故から2年半が経ちました。この間は、皆さまには故郷を離れて悲しみ・怒り・悔しさが溢れる途方もない苦悩の日々であることを考えますと、胸が締め付けられる思いです」とメッセージを発している。町長はその後メッセージを更新していない。

 広報紙は全部見たわけではないが、岩手県田野畑村の今年1月号の表紙が目に留まった。若い夫婦が親子と思われる馬とともに緑一色の牧草地を背景に映っている写真だ。タイトルには「馬いこといく1年に」とある。悲惨な写真よりもいいと思い、田野畑村の広報担当者の了解を得て掲載した。ご夫婦の方も了承してくださったとのこと、「東北の山にも里にも野にも 春よ来い」-この強い願いを込めてお礼の言葉に代えさせていただきます。

 次は被災地復興土地区画整理事業について紹介します。

カテゴリ: 2014年度

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社会資本整備審議会建築分科会 建築基準制度部会

 木造建築の可能性拡大へ大きな第一歩-国土交通省は2月3日、木造建築物の今後の建築基準制度のあり方について検討してきた社会資本整備審議会建築分科会・建築基準制度部会の「木造建築関連基準等の合理化及び効率的かつ実効性ある建築確認制度等の構築に向けて」(第二次報告)をまとめ発表した。

 報告では、3,000㎡以上の木造建築物は主要構造部を耐火構造とすることが義務付けられており、3階建ての学校などは耐火建築としなければならない点について「新技術の導入の円滑化や設計の自由度向上のため、これらの基準について性能規定化を図り、要求する性能及び性能を満たす一般的な構造方法等を明確に示す必要がある」とし、「延焼を防止できる性能を有する防火壁等で有効に区画した場合には、耐火構造以外の木造建築物であっても床面積3,000㎡を超えて建築することが可能となるよう規制を見直し、防火壁等の区画に求められる性能及び一般的な構造方法等を定める必要がある」としている。

 また、「3階建ての学校等についても木造の準耐火建築物とすることが可能となるよう規制を見直し、主要構造部等に求められる性能及び一般的な構造方法等を定める必要がある」としている。

 確認検査制度については、構造計算適合性判定(適判)の対象の合理化・質の確保、確認手続きや型式適合認定手続きの合理化、昇降機等の維持保全の徹底などを求めている。

 さらに、「現行の技術的基準に適合しない新たな構造方法等について、必要な性能を有する場合には国土交通大臣が認定を行い、実用化を可能とする仕組みを検討すべきである」としている。

 井上俊之住宅局長は、「旧建基法38条の復活など長年の懸案・宿題に答えていただいた。ほっとしている。報告は手続きを経て答申としてまとめ、今国会に法案を提出する」と語った。

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 「木造建築の可能性拡大へ大きな第一歩」と書いたが、間違いでないと思う。国は平成22年、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を定め、木造建築の拡大を図っているが、耐火・準防火の規制の壁に阻まれ遅々として進んでいない。小規模のトイレや倉庫ばかりだ。

 最近脚光を浴びているCLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)を採用した住宅を「エネマネハウス2014」で見学したが、現在の建基法ではまず大規模建築は不可だ。

 今回の報告は、木造の大規模建築や中層ビル・マンションへの道を開くものだ。今回の報告について、CLTを推進している銘建工業の中島浩一郎社長にコメントを取ろうと電話したが、今週いっぱいは海外出張とのことでコメントは取れなかったが、井上住宅局長の「10年来の、20年来の懸案に答えを出した」という言葉がその可能性を雄弁に語っている。

 しかし、まだまだ問題はある。会合で久保哲夫・分科会長は「建基法ができて60年が経過する。高齢化が進んでいる。抜本的な見直しが必要」と述べた。これに応え、井上住宅局長は「山に例えれば富士山とエベレストくらい。これから越えなければならない課題は多い」と話した。

 厳しすぎる耐火・準防火基準を含め建基法の抜本的改正を行うべきだ。

「エネマネハウス2014」 記者の評価№1は東大 早大は? (2014/1/30)

公共建築物の木造化 24年度は100戸のマンション1棟分(2013/11/09)

 

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 国土交通省は平成25年の新設住宅着工戸数をまとめた。総戸数は980,025戸となり、前年比11.0%、4年連続の増加となった。内訳は持家が354,772戸(前年比13.9%増、4年連続の増加)、貸家が356,263戸(同11.8%増、2年連続の増加)、分譲住宅が263,931戸(同6.9%増、4年連続の増加)。分譲の内訳はマンションが127,599戸(同3.6%増、4年連続の増加)、一戸建住宅が134,888戸(同10.0%増、4年連続の増加)。

 建築工法別ではプレハブが146,402戸(同10.7%増)、ツーバイフォーが120,111戸(同11.7%増)。

 首都圏マンションは68,047戸(同3.5%減)で、内訳は東京都が41,995戸(同6.9%減)、神奈川県が15,627戸(同37.7%増)、埼玉県が6,511戸(同6.3%減)、千葉県が3,914戸(同45.0%減)。

 

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工事中の現場(「藤和シティホームズ桜木町」で)

横浜市「既存住宅のエコリノベーション事業」現場見学会

 横浜市とナイスは2月1日、「既存住宅のエコリノベーション事業」の最優秀賞に選ばれた2件のうちの一つである分譲マンションの施工現場見学会を行なった。50人を超える見学者が訪れた。

 同事業は、既存住宅を建て替えずに環境性能や利便性を高めることで生活様式や家族構成の変化に合わせた民間のリノベーション事業の普及と活性化を狙いとしたもので、公募選定委員会(委員長:岩村和夫東京都市大学教授)の審査を経て戸建てとマンションの2件が「最優秀賞」として選定された。マンションは断熱、日射遮蔽、通風などの工夫に加え、土間空間やHEMSの活用などで高齢者の入居にも対応できるソフトの提案が評価された。

 公開されたマンションは、横浜市営地下鉄高島町駅から徒歩1分、横浜市西区に位置する平成13年2月に建設された11階建て「藤和シティホームズ桜木町」の1室。専有面積は約51㎡。設計を担当したのはナイス。   

 テーマは「『ライフスタイル』はアクティブに!『住まい方スタイル』はパッシブに!」。アクティブデザインでは厳寒に多目的に利用できる5畳大の土間空間を設置し、再流通にも対応できるよう遮音性に工夫を凝らしている。省エネについては高効率給湯器、六面断熱、インナーサッシなどを採用。自然の力を取り込む手法としては、グリーンカーテン、珪藻土、調湿機能付きのナグリ仕上げのスギパネル、フローリングを採用。施工費は約700万円。工事費の3分の1、または最大200万円が補助される。所有者の横浜地所は賃借する予定だという。

 見学会に出席した横浜市建築局住宅部住宅計画課長・黒田浩氏は、「横浜市は平成23年に『環境未来都市・横浜』として国から選定され様々なプロジェクトに 取り組んでいるが、家庭部門の温室効果ガスの排出量を減らすのも大きな課題の一つ。今回の事業はエコの機能だけでなく利便性の向上を図るもので、結果を検 証して今後の事業に生かしたい」と語った。

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黒田氏(左)と高瀬氏

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 従前は直床・直天だったのを二重床・二重天井にしたため、天井高は2475ミリから2310ミリ前後になっているが、レベルの高いリノベーションマンションだ。

 特筆できるのは開口部のサッシの断熱性を飛躍的に高めたことだ。開口部の断熱性を計るモノサシとして熱還流率(U値、数値が低いほど性能が高い)が採用されているが、既存のアルミサッシ単板ガラスでは6.51のU値しかないものをインナーサッシとウィンドウフィルムを採用することで次世代省エネ基準2.33以下に抑えている。

 サッシは共用部分であるため、性能の高いサッシに取り替えるには管理組合の承認が必要だが、今回は専有部分の改修であるたる組合の承認なしで施工できたという。施工を担当したナイス事業開発本部部長・高瀬裕司氏は「インナーサッシを採用するケースは結構ある」と話した。

 もう一つは土間空間の提案だ。この種の提案は最近のマンションにも採用されているが、自らの趣味はもちろん、入居者や地域住民との交流を促す仕掛けとして有効だと思う。

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「藤和シティホームズ桜木町」

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 「エネマネハウス2014」の最優秀賞に東大チーム-「エネルギー」「ライフ」「アジア」の3つのコンセプトに基づき2030年の先進的な技術や新たな住まい方を競う「エネマネハウス2014」の最優秀賞は東京大学のモデルハウスが受賞した。来場者による得票数では芝浦工大チームがトップとなった。

 モデルハウスは東大、芝浦工大のほか慶大、千葉大、早稲田大の各チームによる5棟。最優秀賞は審査員による評点200点と省エネの測定結果による評点100点の合計300点で争われた。評点は公表されない。来場者アンケートは「住みたい家」を選ぶもので、総合評価300点の点数には含まれない。

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 別掲のように記者も総合評価点を予想したので、東大チームが優勝したのにはほっとした。建築コストは評価要件に入っていないようだが、5棟の中でもっとも安かったのは東大チームではないかと思う。他は坪200万円くらいかけていた。コストを意識しないのはいかにも学生さんらしい。これもまたいい。

 芝浦工大が〝ファン投票〟でトップとなったのはやや意外だが、豊洲にキャンパスがあり、学生さんの組織票があったのではないか。西武ファンの記者にとっては伊原監督が芝浦工大卒なので、なにやら優勝を予感させるようでとてもうれしい。

 ピンクの外観を酷評した早大だが、あのとてつもない大発見をした早大卒の小保方晴子さんも研究所の壁をピンク一色に染めたそうだ。これは単なる偶然か。しかし、「つらいときも泣いた夜も、今日一日、明日一日だけ頑張」っても、ピンクの外観は少なくともわが国では受け入れられないし、成功しないことを早大チームの学生諸君は覚悟すべきだ。記者の今を見れば一目瞭然だ。数十年前、記者の女房はトイレットペーパーまでピンクに染めた。

「エネマネハウス2014」 記者の評価№1は東大 早大は?(2014/1/30)

カテゴリ: 2014年度

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「エネマネハウス2014」モデルハウス 「慶応型共進化住宅」

 東京ビッグサイト東雲臨時駐車場で1月31日まで公開されている「エネマネハウス2014」モデルハウス〝2030年の家〟を見学した。経済産業省資源エネルギー庁の事業のひとつとして行われているもので、「エネルギー」「ライフ」「アジア」の3つのコンセプトに基づき先進的な技術や新たな住まい方を提案するモデルハウス5棟が展示されている。

 大きなテーマとなっているのは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」。ZEHとは、省エネに加え、太陽光発電などにより住宅の年間のエネルギー消費量が正味(ネット)でゼロとなる住宅のこと。

 ZEHが広く国内だけでなくアジアなどの海外に普及させていくためには省エネの観点だけでなく、快適性や気候、風土にあった住まい方が重要なポイントであることから、ZEHが備えるべき要件や評価方法を標準化するために今回の開催となった。

 展示されているのは、「慶応型共進化住宅」(慶応大学/OMソーラー・銘建工業・長谷萬など27社)、「母の家2030 -呼吸する屋根・環境シェルターによるシェア型住宅スタイル-」(芝浦工大/パナソニック、銘建工業など14社)、「自然エネルギーを活用した持続可能なブラスエネルギー住宅『ルネ・ハウス』」(千葉大/JKホールディングスなど35社)、「CITY ECOX 2030年における都市型住宅のZEHプロトタイプ」(東大/積水ハウスなど17社)、「Nobi-Nobi HOUSE」(早稲田大/旭化成ホームズなど9社)。

 31日に審査員により提案内容の有望性・実現性・完成度などが評価され、結果が公表される。審査委員長は村上周三氏(建築環境・省エネルギー機構理事長)で、審査委員は赤池学氏(ユニバーサルデザイン総合研究所所長)、柏木孝夫氏(東京工大教授)、木場弘子氏(キャスター・千葉大客員教授)、隈研吾氏(建築家・東大教授)、武田史子氏(ベネッセコーポレーション「サンキュ!」編集長)、中上英俊氏(住環境計画研究所会長)。

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記者の評点  東大95点 慶大90点 芝浦工大90点 千葉大85点 早大?

 採点は省エネなど客観的な測定結果による評価(100点)と審査員による評価(200点)の総合評価(300点)で行われる。来場者アンケートによる評価(住みたい家)は総合評価には加えず、参考情報として得票数1位の事業者が表彰される。以下、各チームの特徴と、デザイン性、居住性、テーマ性に重点を置いた記者の評点(100点)を紹介する。

 「慶応型共進化住宅」は、今話題となっている杉集成材(CLT)を用いた純国産材の木造住宅。屋上・壁面緑化により緑化も図っている。CLTはわが国では認定されておらず、まず準防火などの規制がある大都市では建築不可だが、テーマ性、コンセプトがいい。銘建工業の中島浩一郎社長は林業関係者で知らない人はないのだろうが、「里山資本主義」で全国区人気になったのではないか。ルーバーパネルヒーターもいい。断熱材には古新聞を採用しているそうだが、性能、施工性はどうなのか。記者の評価は90点。

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慶大「慶応型共進化住宅」

 「母の家2030」は、約60名の学生(うち女性約20名)が企画から施工まで行った木造住宅で、そのものずばり「母の家2030」を〝核シェルター〟のように提案しているのが特徴。床・壁・天井をCLTで覆ったもので、クギは1本も採用されていない。広さは2.4×3.6m。キッチンシェルター、水回りシェルターもある。「父」の部屋がないのが難点。金銭的な支援を受ける父の同意をどうして得るかの工夫がない。記者の評点は85点。

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芝浦工大「母の家2030」

 「ルネ・ハウス」は、〝恒久的に利用できる仮設住宅〟がテーマの一つになっているようで、キッチン、収納などのユニットを自由にレイアウトでき、4層住宅も可能というもの。壁はベニヤ材が用いられていた。説明を聞いたが、4層にしても耐力的に問題ないというのは信じられなかった。〝恒久的〟に仮設を使うコンセプトもよく分からない。スギのチップを断熱材として使用しているのも注目される。素人でも施工できるというから、ホームセンターで売り出せはヒットするかも。評点は80点。千葉大は2012年、スペインで行われた「ソーラー・デカスロン大会でわが国で初めて参加し、参加18チーム中15位に終わった。今年6月にフランスで行われる大会に参加するという。きちんと学習しているのだろうか。

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「ルネ・ハウス」

 「CITY ECOX」は、鉄骨造の都市型集合住宅を提案しているもの。低層3階建てを想定しており、提案は1スパンを中央のセンターフレックスゾーン(幅5m)と左右のサイドコートゾーンにそれぞれ水回りと居室(幅各2.5m)に分け、フレックスゾーンの北側には多目的に利用できる2×5mの空間を提案しているのが特徴。各住戸に太陽光を追尾する可動式太陽光パネルを設置。透光蓄熱建具を採用することで室内温度を調整できる工夫も施されている。住まい方提案が明確、実現性もある。記者の評点は95点。マイナスはシニア向けに赤と黄のデザインはないと思ったのと、水回り(風呂-トイレ-洗面-キッチンが横並びでオープン)に工夫が足りない点。

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「CITY ECOX」

 「Nobi-Nobi HOUSE」は、外観がパープルに近いピンク。地区計画や建築協定がなくても物議を醸す住宅だ。地域との親和性が全く考慮されていない〝喧嘩を売る〟住宅だ。その意図が全然わからなかったが、「対象はアジア」と聞いて納得した。アジアの富裕層には受けるかもしれない。内装はシンプルだが豪華。猫脚浴槽付きの浴室はホテル仕様。評価が難しい。〝海外高級リゾート向け〟限定として85点か。

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 「Nobi-Nobi HOUSE」 写真左は「自宅で使っている」という自然の風を取り込む窓の前に立つ田辺新一教授(メーカーは三協立山アルミ。これはスグレモノ) 

カテゴリ: 2014年度

 

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「日本橋室町東地区」

 三井不動産は1月29日、中央区日本橋室町で複数の地権者とともに進めている5 街区にわたる大規模複合開発「日本橋室町東地区開発計画」の第2弾となる「室町古河三井ビルディング」と「室町ちばぎん三井ビルディング」を2014 年2 月1 日に竣工すると発表した。同日、菰田正信社長が記者会見し、約15分にわたって「日本橋再生」のコンセプトである「残しながら、甦らせながら、創っていく。」意気込みを語った。

 会見後、報道陣に公開された賃貸住宅「パークアクシスプレミア日本橋室町」、「室町ちばぎん三井ビルディング」とも設備仕様は〝億ション〟クラスだ。

 「室町古河三井ビルディング」は地下4階、地上22階建て延床面積約62,000㎡。地下1 ~6 階がシネコン含む商業施設「COREDO 室町2」、7~17階が事務所、18~21階が賃貸住宅。統括設計は日本設計。デザインアーキテクトは團紀彦建築設計事務所。施工は清水建設。共同建替え事業者は同社のほか古河機械金属、にんべん、日物、細井化学工業。事務所はアステラス製薬の入居が決まっている。

 「室町ちばぎん三井ビルディング」は地下4階、地上17階建て延床面積約29,000㎡。地下1~4 階が「COREDO 室町3」、8~16階が事務所。統括設計、デザインアーキテクトは「室町古河」と同じで、施工は清水建設・錢高組。共同建替え事業者は同社のほか千葉銀行、わかもと製薬、総武、三越伊勢丹、木屋ビルディング。ほぼ満室稼動が決まっている。

 会見に臨んだ菰田社長は、「グローバルな都市間競争を勝ち抜くには、街固有の歴史、文化、伝統を活かし、環境と共生した持続可能な街づくりが必要で、『残しながら、甦らせながら、創っていく。』というコンセプトを盛り込んだ。第2ステージを構成する4つのキーワードは『産業創造』『界隈創生』『地域共生』『水都再生』だ」などと語った。首都高速についても触れ、「高速を見直す機運は高まっている。日本橋川の清流を取り戻す取り組みは不可欠。2020年のオリンピックまでには(地下化などの)方向性を示してほしい」と述べた。 

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「室町古河三井ビルディング」(左)と「室町ちばぎん三井ビルディング」

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記者団の質問に答える菰田社長

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 会見場に集まった記者は百数十名で関係者を含めると二百数十名。会場はほぼ満席となった。

 規模的には海外メディアも多数駆けつけた「ミッドタウン」などには及ばないが、菰田社長自らプレゼンテーションを行い、「技」「心意気」「粋」「歴史」「文化」「江戸」「日本橋」「水」「風」「清流」などの単語が次から次へ飛び出したように、三菱地所が推進する「大・丸・有」や「六本木」とはまた違った街づくりが進められているのがよく分かった。

 二つのビルを一言で表するなら「和のエスプリを心憎いまで盛り込んだ、分譲マンションに例えれば億ション仕様」ということだ。

 双方のビルには100尺(31m)ラインが施されている。これは「大・丸・有」や同社のこれまでの「日本橋再生」ビルと同じだが、西洋建築に見られる回廊「ロッジア」、細かい細工が施された「淡路瓦」、「金色ルーバー装飾」などは見事というほかない。道行く人々は「上を向いて歩こう」になるはずだ。

 共用部分の「和」の演出もケタ違いだ。「室町ちばぎん」のエントランス・地下のホールには億ションにはよく見られる布クロスの「布団張り」が施されていた。桜の花びらをモチーフにした江戸千代紙のグラフィックで演出した光壁や突板のデザイン壁もあった。エレベータには「小津和紙」を張りこんだガラス壁が採用されていた。男子用のトイレも和風で、江戸小紋の型染めに使用されていた伊勢型紙のデザインがサインに採用されていた。

 非常時には3,000人が収容できるという「江戸桜地下歩道」は地権者が費用負担した公道となる(管理は中央区と国交省)。

 全54室の賃貸「パークアクシスプレミア日本橋室町」がまたいい。見学する前、仕様は賃貸仕様とそれほど変わらなくて、分譲にすれば坪単価は500万円かせいぜい600万円ぐらいと読んでいたが、見学するごとに評価が高まり、最後は坪750万円につりあがった。間違いなく億ション仕様だ。

 天井高は最大3m、家具付きモデルもある。ナラ材の突板を用いたナグリ仕上げの空間提案もあった。賃料は「ミッドタウン」と同じくらいの単価の40万~160万円(54~140㎡)。

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「金色ルーバー装飾」(左)とオフィスエントランスホール

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100尺ライン部分の外観

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 菰田社長も強調したが、記者は「日本橋の再生」には日本橋川の再生が欠かせないし、それなくして総仕上げにはならないと思う。わが国だけでなく世界の都市は河口・湾口に立地し、発展してきた。ハドソン川(ニューヨーク)、テムズ川(ロンドン)、セーヌ川(パリ)の水質がどうなのか分からないが、菰田氏も「高速に蓋をされた川が死んでいる」と話した日本橋川を見るにつけ悲しくなる。

 ビルはみんな川に背を向けている。先日見学した、鴨川のほとりの「ザ・リッツ・カールトン京都」の客室の半分以上が川に向いていたのと対照的だ。鴨川の川岸から20mは軒高が12m、それ以外は15mの高さ規制があった。

 関係者の努力で日本橋川の再生は進んでおり、鯉や鮒が生息できるように改善されたとはいうが、川べりまで下りていきたくなるようにしないといけない。生きている間に、川で遊ぶ子どもや魚を釣る人の姿を見たいものだ。

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「パークアクシスプレミア日本橋室町」中庭

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モデルルーム(ナグリ仕上げの空間も提案されている)

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「室町ちばぎん三井ビルディング」エレベータホール(左)と共用部分

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「江戸桜地下歩道」

これでいいのか 川に背を向ける日本橋の街(2008/5/19)
 

カテゴリ: 2014年度
 

 

 

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