三井不動産 新産業を生み出すイノベーション拠点「KOIL」開業
「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」外観
三井不動産は4月10日、柏の葉スマートシティの中核街区として開発を進めている複合施設「ゲートスクエア」に設置した企業や個人が集まり交流を通じて新産業を生み出すクリエイティブなイノベーション拠点「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」を4月14日(月)に開業すると発表した。
「KOIL」は、起業家から生活者まで多様な人々の知識、技術、アイデアを組み合わせることで革新的な新事業や製品・サービスを創造するための場で、国内最大級のコワーキングスペース(会員制共有ワークスペース)のKOILパークや、ベンチャー企業だけでなく大手企業の事業部門が入居するオフィスフロア、一般の方のビジター利用も可能な機能を持つKOILファクトリー(デジタルものづくり工房)、カフェやスタジオなどを併設。これまでにないオープンイノベーション・センターとなる。
広さは3フロア合計で約7,980㎡。KOILパーク会員は「月5プラン」の月額6,000円から、「使い放題プラン(固定席)」の月額27,000円まで。入会金は3,000円。
イノベーションの化学反応を起こすため、起業家のアイデアや技術を事業化につなげ、グローバルな飛躍へと導くメンター(助言・支援者)がKOILに常駐。創業支援プログラムを提供するとともに、大手企業、ベンチャー企業、クリエイターや生活者などと交流できる多彩なイベントを開催していく。
挨拶に立った同社常務執行役員・小野澤康夫氏は、同社のベンチャースピリットについて触れ、三井グループの創業のルーツである「越後家」から、土地をつくる「京葉臨海部の埋め立て事業」、空を開拓する、超高層時代を切り拓く「霞ヶ関ビル」、ライフスタイルを提案する「ららぽーと」「東京ディズニーランド」について語り、街づくりのイノベーション事業として今回の「柏の葉スマートシティ」があることを強調。「わが国にある閉塞感を打破するため、世界の課題解決モデルとなる街を公民学が連携して創造することを企図している」と話した。
さらに、「新産業を生みだす空間としての『KOIL』などのハードと、多様なコミュニティとの融合を図り、プラットホーム事業へと発展させ、イノベーション事業のリーディングカンパニーを目指す」と語った。
また、同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏は、今後1年間の目標としてで「KOILパークは400会員をめざし、稼働率は95%くらいを考えている」と話した。この1年間で300を超える内外の団体が「柏の葉スマートシティ」の見学に訪れたことも明らかにした。
「KOILパーク」
「KOILファクトリー」
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つくばエクスプレスが開業して9年。まだ駅舎だけだった「柏の葉キャンパス」駅前に広がる「柏の葉スマートシティ」には今回で何度目の取材になるのだろう。10回はくだらないはずだ。開業当初から、「柏の葉」だけは成功すると読んだ。ビジョン、哲学が示されていたからだ。
しかし、他の沿線は20年たっても街は完成しないだろうし、その多くは失敗に終わるだろうと考えた。多摩ニュータウンや千葉ニュータウンと同じ旧来の開発手法とほとんど変わらないからだ。その思いは今も変わらない。
そして今回。同社が目指す街づくり全貌が見えてきた。小野澤常務も同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏も街づくりのビジョンを語った。胸に響くものがあった。例えれば、ジグゾーパズルの穴が順々に開くような、難しい方程式を一つひとつ解いていくようなわくわく感、快感だ。
「柏の葉スマートシティ」は、2011年に国の「環境未来都市」「地域活性化総合特別区域」に指定された。ここでは紹介しないが、2050年の「柏の葉」の近未来像を描いた「提案書」には、「石化燃料を一切使用しない世界が広がり、長寿・高齢化社会は手放しで喜ばしいことと歓迎され、子供たちは、語学ばかりでなく国際的なリーダーシップの取れる人材として育ち、臆することなく世界へと飛躍し活躍する者が多いため、そのような環境を求めて、世界各国から移住してくる家庭も多い」と記されている。
それまであと30余年。記者は間違いなく生きていないが、そのような社会が実現していることを祈りたい。間違っても、建築から40~50年にして早くもさまざまな問題が噴出している多摩ニュータウンや筑波研究学園都市のようにならないようにしてほしい。
会見に集まった記者は約50人(通常のマンションなどの2~2.5倍くらい)
左からTXアントレプレナーパートナーズ最高顧問・村井勝氏、三井不動産常務・小野澤氏、同社ベンチャー共創事業室長・松井氏、ロフトワーク社長・諏訪光洋氏
「柏の葉」の「環境未来都市」 涙が出るほど嬉しい提案書(2012/2/13)
ナイス 常識破りの「住まいるCafe」来館者は前年度比8倍増9.6万人
「住まいるCafe鶴見東」の「キットパス教室」(記念写真は記者が頼んだわけでもないのに集まってくれた。お互いの信頼関係が築けているからできることだ)
店舗はまるで幼稚園・保育所状態
年度末の3月下旬。不動産仲介店舗は目標数字を達成するために追い込みに躍起になっている。営業マンは店長に尻を叩かれ飛び回っているはずだ。通りかかったナイスの仲介店舗「住まいるCafe鶴見東」にはたくさんの人が集まっているように見えたが、様子が変だった。覗いてみようと近づいたら、久保正人所長が手招きした。久保氏とはRBA野球で10年かそれ以上のお付き合いだ。
店に入って驚いた。奥の方には商談か会議か額を突き合わせているグループもあったが、店内はまるで保育所・幼稚園化していた。小さな子どもを連れたお母さんたちで溢れていた。10組くらい集まっていたのではないか。何事かと聞いたら専門家を呼んで「キットパス」の教室を開いているという。キットパスとはつるつるした平板なものなら絵が描けて、ぬれたタオルなどで簡単に消せる新しい絵の具だそうだ。
もともと記者は仲介の取材はほとんど行ってこなかったが、このような光景は他社の店舗ではまずないはずだ。ナイスの店舗では日常化しているというから驚きだ。
スペースは無料で開放。習いごとやサークル活動に利用できるほか、町内会や商店街の特売情報なども発信している。コーヒーが無料で飲めるコーナーもあり、毎日のように訪れるお年寄りや、若い女性が立ち寄ることもあるという。スタッフから物件を紹介することなどは厳禁。久保所長は「私も何をやっているかよくわかりません」と笑う。
「住まいるCafe」
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同社グループが運営するホームセンター「ライブピア」内に昨年11月にオープンした「住まいるCafe鶴見ライブピア」は、他の「住まいるCafe」とはまた違っている。
車いすなど介護用品やユニバーサルデザイン商品がたくさん展示されており、バリアフリーなども体験することができるほか、耐震、断熱リフォームなど住まいに関するあらゆることが分かる工夫が凝らされている。
すべてのスタッフが福祉用品貸与事業を行なう事業者に義務付けている「福祉用具専門相談員」講習を受けているという。無料の耐震診断・相談が受けられるほか、リフォームに関するセミナーなども頻繁に行なわれている。
「住まいるCafe鶴見ライブピア」
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同社広報室室長・渡利勝也氏は「住まいるCafe」の事業を開始した経緯、目的などを次のように話した。
「当社はもともと地域に根ざした仲介店舗を展開してきました。最近は他社でもマンション、戸建て、賃貸、仲介などワンストップで対応するところもあります。当社は当社らしい他社にはできない切り口の店舗展開をやろうとそれまでの『住まいの情報館』から社内公募により名称を『住まいるCafe』に昨年4月に変更しました。店舗数は鶴見、川崎を中心に18店舗。不動産情報の提供だけでなく、地域のプラットホーム、地域の交番でありたいというのが理念です。
なぜ、そのようなことができるか。われわれはこのエリア中心に最近はマンションだけでも年間1,000~1,500戸を供給しています。仲介店舗もあります。新規物件を供給する際には公共施設、商業施設、学校などの情報をパンフレットに盛り込みますし、チラシも配布する。地域の情報はみんな知悉しています。
ならば、こうした情報を地元の人に還元しようという取り組みです。仲介店舗は当社もそうですが他社も土曜、日曜日はともかく平日はガラガラです。地域に開放しても不都合は生じない。
『ライブピア』に福祉用品などの情報を提供する新しい形の店舗を提案したのも、『ライブピア』を利用されるお客さんの6~7割の人が60歳以上ということから設置を決めたものです。
地域密着の究極を目指そうというのがわれわれの取り組み。理念の共有も徹底して進めています。
マンション事業で進めている免震や外断熱、戸建て事業で展開している『パワーホーム』も、住宅のトラブルをなくしたい、住宅を通じて家族を守ろうという発想が基本です」
「キットパス教室」
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同社は経営理念に「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指す」ことを掲げている。〝住まいづくり〟に〝素適な〟〝心を込める〟と2度も強調されると、逆にマイナスにならないかと心配もするが、ここに同社の強いメッセージが込められている。
同社が地盤とする鶴見、川崎エリアは以前からマンションデベロッパーの激戦地となってきた。大手デベロッパーや中堅との競争を余儀なくされてきた。それでも圧倒的なシェアを守り、競争に打ち勝ってきたのは免震であり外断熱であり、〝70㎡の4LDK〟提案だったりする。70㎡の4LDK提案など地域を熟知しているからできることだ。
大切なことは死守し、そうでないことは柔軟に対応するということだ。その姿勢は、今回に限らずマンションや野球大会での取材でも感じることができる。まったく気負いがないのだ。ギラギラとしたものがない。その一方で、野球では勝っても負けても延々と反省会をやる。分譲と仲介の人的交流も積極的に行なうのも同社の特徴だ。
記者は平田恒一郎社長が社長に就任した1988年前に「うちは地域ナンバー一の座は譲らない」と話したのを今も覚えている。1950年に会社が生まれてから64年になるが、社名は2007年に持ち株会社移行に伴い旧「ナイス」が「すてきナイス」に社名変更したのを含め5度も変わった。これほど社名が変わった上場会社はほかにないはずだ。変わらないのは「住宅」を通じて社会に貢献しようという理念だろう。
「住まいるCafe」の来館者は2012年度の1カ月当たり約1,000件(全店合計)から2013年度は約8,000件と実に8倍増だそうだ。年間にすると約9.6万人だ。常識を破る取り組みが今後どのような展開を見せるか注視したい。
「住まいるCafe鶴見ライブピア」 無料耐震診断や同社の「パワーホーム」の構造も見ることができる
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元三井不動産販売(現三井不動産リアルティ)コンプライアンス室長で、NPO法人日本レジデンシャル・セールスプランナーズ協会理事・谷中健太郎氏と電話で話す機会があった。
このナイスの事例を話すと、谷中氏は「それはすごい。私も多くの仲介会社と付き合って40年になるが、一部を除き売り上げのことばかり。地域密着とはみんな口では言うが、どこまで実践できているか。私は、日本古来の地域の風土記を語れるくらいにならないとダメだと思っている。この業界は本物のプロ集団になれるか、ステップアップできるのか、各社の仲介戦略・戦術の優劣が鮮明になると実感している」と話した。
新入社員に贈るキーワードは「チャレンジ」 「R.E.port」の各社社長あいさつから
昨日(4月1日)の不動産流通研究所のWeb「R.E.port」は住宅・不動産・流通17社の入社式での社長あいさつ要旨を紹介している。同社の了解を得たので、以下に紹介する。
鉄は熱いうちに打て。春爛漫のこの日、各社長は新人の胸に響く熱い言葉を放った。キーワードは「チャレンジ」「挑戦」だ。17社の社長が語ったあいさつの中で「チャレンジ」「挑戦」の言葉は全部で20ある。
三井不動産・菰田正信社長、野村不動産ホールディングス・中井加明三社長がそれぞれ3度用いたのをはじめ、12社の社長が果敢にチャレンジすることを呼び掛けた。語らなかったのは三井不動産リアルティ・竹井英久社長、三菱地所レジデンス・小野真路社長、東京建物不動産販売・種橋牧夫社長、積水ハウス・阿部俊則社長、森トラスト・森章社長の5氏のみだ。
三井不・菰田社長は、新人に期待することとして「自立した個人」「幅広い視野を持つ」「チャレンジスピリット」「健全な心身を保つ」「社会人としてのコモンセンスを持つ」-の5つを語った。
三菱地所・杉山博孝社長は、「守るべき」創業の原点である三菱三綱領(所期奉公・処事光明・立業貿易)を引き合いに出し、「英語に直せばそれぞれpublic、fair、globalだ」と話した。
住友不・仁島浩順社長は、「寄らば大樹の陰は通用しません。誰かに言われるがまま盲従することなく、皆さん一人ひとりが自ら考え、信念をもって行動することが肝要」と語りかけた。
野村不ホールディングス・中井社長は、「私の信念でもありますが、『人を育てる事が、すべての戦略実現に繋がる』」と自らの信念通り、新人を育てることを約束した。
東建・佐久間一社長は、仕事をする上で大切にして欲しい基本姿勢として「総合力の発揮」「現場主義」「スピード」の3点を強調した。
大京・山口陽社長は、「我々のようなBtoCを中心業務としている企業は、お客さまからの信頼という貯金を積み上げる努力が必要です。誠実で嘘がなく、人望がなければ相手から信用、信頼はされません」と、生き方を説いた。
三井リアル・竹井社長は、「『ひと、社員』に積極的に投資を続けて行こうというのが当社の成長戦略の柱であり、新入社員の皆さんは、我々の希望の星、期待の星」と最大級の言葉で望みを託した。
住友不販・田中利和社長は、「皆さんの成長なくして、当社の発展はありません。知識の習得はもちろん、人としての成長も期待しています」と人間力を磨くことを強調した。
積水化学工業・根岸修史社長は、「貧乏くじは当たりくじ」「難題のタイミングには意味がある」「振り出しに戻る時が新たな成長へのチャンス」の3つをアドバイスとして贈った。
大和ハウス・大野直竹社長は、「役職員全員が売上高3兆円という通過点を超えるため積極果敢に挑んでおり、一丸となって業容拡大を図っています」と同社の現状を踏まえ、「皆さん一人ひとりがその大きな仕事を託す価値のある人間かどうかにかかっている」と成長を託した。
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新入社員の諸君には、この不動産流通研究所の「R.E.port」を毎日読むことを記者は勧めたい。深く考えなければならないことはともかく、これほど世の中の動きが激しいと、週刊・月刊の業界紙誌に頼っていては、毎日生起する事象に追いついていけなくなる。
「R.E.port」は唯一といっていいくらい住宅・不動産・流通各社のニュースリリースを網羅し、毎日報じている。ただで読めるのだからありがたいことだ。寝る前、出社したとき必ずチェックしてほしい。病的なまでに指をせわしなく動かすスマホもいいが、しっかり新聞を読み、本も読んでほしい。
記者が贈る言葉は、月並みだが「石の上にも三年」だ。がむしゃらに3年も頑張れば未来が見えてくる。それでも芽が出なければ、さっさと会社に三下り半、絶縁状を突きつければいい。再チャレンジの時間は十分残されている。
サ高住「コーシャハイム千歳烏山」 「囲い込み施設にしない」JKK狩野氏
「コーシャハイム千歳烏山」9号棟
東京都住宅供給公社(JKK東京)、東京建物不動産販売、やさしい手、はなまる会の4者は3月31日、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「コーシャハイム千歳烏山」の現地発表会を行った。サ高住と24時間在宅サービスを組み合わせ、かつ団地内やその周辺に居住する高齢者にもサービスを提供する地域包括ケアシステムの拠点としての役割を担う新しい取り組みとして注目される。
現地は京王線千歳烏山駅から徒歩5分。世田谷区南烏山6丁目に位置する昭和32年に管理開始したJKKの「烏山住宅」(21棟584戸)の建て替え事業の一環として整備されたもので、サ高住86戸を含む賃貸住宅94戸のほか、居宅介護支援などを行う高齢者施設、認証保育所、クリニック、レストラン、コミュニティカフェなどを備えた多世代交流を促進する機能を持たせているのが特徴。サ高住の専用面積は約25~67㎡、賃料は67,800~184,600円。管理費は約3万円。サービス料は1人入居が33,000円、2人入居が48,000円。オプションの食事代は60,000円。
JKKが建設した建物を東建不販などが一括賃貸し、管理運営するもの。併設する施設は転貸により運営する。平成25年に工事着手し、今年2月、建物が竣工した。施設事業費は約22億円。
JKK少子高齢対策部長・狩野信夫氏は、「烏山住宅」の建て替え、今回のサ高住について説明し、「医療・介護などのサービスは入居者だけでなく、団地や周辺の方々にも開放するのが大前提。街の中にサ高住が溶け込むヒューマンスケールの事業にしなければならない。これまでのような囲い込みをする施設・住宅であってはならない」と強調した。
サ高住と併設施設を管理・運営する東建不販賃貸営業本部シニアレジデンス事業担当部長・菊地達也氏は、「25㎡のワンルームタイプだけでなく、夫婦二人で住むニーズがあると考え50~60㎡台の広めのタイプも多く企画したのが当たった。1期募集55戸には174件の登録があるなど予想通り評価された。5月には引き続き2期として30戸くらいを募集する。賃料はマーケット並みに設定した。多世代の住まいを創出するプロジェクトとして万全のサポートをしていく」と語った。
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さすがJKKだ。住環境が抜群。各住棟の間隔が十分確保され、植栽計画もいい。分譲マンションなら坪300万円でも売れるような価値のある団地だ。東建不販のサ高住はこれまでも見てきたが、これまた水準以上。
ただ、既存住宅の躯体を改修した一般住宅との共生を目指すという11号棟のプランは首をかしげざるを得ない。床をバリアフリーにするため200~250ミリかさ上げしており、天井高は2200ミリで、玄関ドア、サッシ、梁型の部分などは1500~1700ミリしかない。入居する人が腰の曲がったおじいちゃんおばあちゃんならいいかもしれないが、住宅としては問題ありだ。
既存住宅を改修した11号棟
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一般に開放するカフェレストラン「てらすチトカラ」、コミュニティカフェ「ななつのこ」に注目した。やさしい手・香取幹社長によると、最近はこのように一般に開放した施設の取り組みが増えており、概ね好評とのことだった。
しかし、記者は一般の人が気軽に利用するにはハードルが高いような気がしてならない。特別養護老人ホームや民間の有料老人ホームにも体験宿泊したことがあるが、要介護の方たちと一般の方が談笑しながら食事をしたりお茶を飲んだりする雰囲気ではない。交流を促す工夫が必要だと思う。サ高住は決して「囲い込み施設」でも「姥捨て山」でもない。高齢者の知見、知識をどんどん引き出し、活用する場にしてほしい。
クリニック、保育所、コミュニティカフェなどが入居する12号棟
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医療サービスを担当する医療法人社団はなまる会理事長(院長)矢野孝子氏が素晴らしいスピーチを行った。事業概要の説明が終わるころで、記者は早く現場を見たい一心で矢野氏の話は全然聞いていなかった。
ところがだ。「戦争に生き抜いた…」という言葉にピクリと反応した。後で矢野氏に詳しく聞いた。矢野氏は、「戦争に生き抜き、戦後の今の豊かな時代を築き上げた人生の大先輩の方々に感謝と敬意を表して、これまでの人生に花丸を差し上げたい」と話したのだそうだ。「はなまる会」の名前はそのために付けたという。
矢野氏は「父が死んだ病院で介護医療は経験したことがある。理想の在宅医療を求めて医療法人を立ち上げた」と話した。
矢野氏には、「先生、我々団塊世代も大変な苦労をしてきました。受験地獄を味わいましたし、バブル崩壊にリーマンショック、阪神淡路に東日本大震災。どうぞわれわれにも『花丸』を付けてください」とお願いした。今回開業した「烏山はなクリニック」のカーテンはピンクで統一されていた。先生の好みだそうだ。かかりつけの医院をここにしようかしら。
クリニック(カーテンはピンクで統一されていた)
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もう一つ。質疑応答で、介護・福祉関係の記者と思われる方が、24時間サービスを行う「コンシェルジュ」について、「賃金はいくらか」とあからさまな質問をした。香取社長もこのような質問には驚いたようで「普通よりはいいと思います。正社員並み」と答えるにとどまった。
記者などは「坪単価はいくらか」と必ずマンションの価値を価格に換算して聞くが、さすがに商品を提供するデベロッパーの社員の給与を聞く勇気はない。しかし、専門紙誌の記者の方が単刀直入に聞かざるを得ないほど介護・福祉関係に勤める人の待遇が良くないのは記者も理解している。特養に体験宿泊した翌日、記者は疲れて半日ダウンした。
「エステート鶴牧」の外断熱省エネ改修が成功した理由
花牟禮氏
大規模修繕実行委員・花牟禮幸隆氏が改修の経緯などを語る
マンションコミュニティ研究会(代表:廣田信子氏)は3月20日、多摩市の「エステート鶴牧4・5住宅」大規模修繕実行委員・花牟禮幸隆氏を講師に招き、国土交通省の平成24年度(第2回)「住宅・建築物省CO2先導事業」にも採択された「省エネ改修」について勉強会を行なった。
「省エネ改修」は、工事を担当した長谷工リフォームと共同で提案したもので、住みながら屋根を含む建物躯体の外側を断熱材で包み込む外断熱工法やインナーサッシを採用することなどでコンクリートの寿命を2倍(45年から90年)に延ばし、CO2排出量を23%削減できるもの。共同住宅の省エネ改修のビジネスモデルとしての展開も視野に入れたプロジェクトとして評価された。
「エステート鶴牧4・5住宅」は、多摩市鶴牧4丁目に位置する敷地面積約49,000㎡、壁式鉄筋コンクリート造の2~5階建て全29棟356戸の団地。建物完成は昭和57年3月(築32年)。工事期間は平成25年2月~26年3月。工事費は約11.6億円。このうち補助対象部分の50%が補助金で賄われ、1戸当たりの補助額は約100万円。
花牟禮は、平成23年7月から屋根の葺き替えを中心とする大規模修繕の検討に着手したこと、一度は予算面で外断熱を断念したこと、長谷工リフォームの提案を受けわずか10日間くらいで提案書を作成したこと、4分の3同意を得るため臨時総会の直前までマンガによるニュースなどで説明を徹底させたこと、3億5,000万円の銀行融資を取り付けたこと(金利1.25%のうち1%は都の利子補給)、反対者は25人いたことなどを話した。
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記者は、康和地所や明豊エンタープライズ、ナイスなどの新築マンションの取材を通じ外断熱のよさは分かっているし、同じ多摩ニュータウンには地元の建築のプロ集団が企画した「永山ハウス」もある。
よさは分かっていたつもりだが、長谷工リフォームがこの「省エネ改修」のニュースをリリースしたときは驚いた。記者が住む団地は「エステート鶴牧4・5住宅」に近接しており、築年数も住棟構成もよく似ており、「まさかそんな大規模団地で、後付の外断熱なんかできるわけがないし、合意形成も難しい」と思っていたからだ。工事中の現場を何回か見た。外壁に断熱材を張る工事は気の遠くなるような工事に思えた。
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花牟禮氏の話は、そんな疑問を吹き飛ばした。目からうろこだった。高経年のマンションはどのようにして価値を維持・向上させるか、いかに合意形成を図るべきかなどを教えてくれた。
まず、団地の価値の維持・向上。大規模修繕は定期的に行なわなければならないのは当然だが、花牟禮氏は「単なる修繕では建物の老化と入居者の高齢化により魅力は低下し、資産価値は低下するばかり。建て替えも選択肢にあると考える人はいるかもしれないが、郊外では駅近辺や、都心部と違い、余剰床を売って資金を捻出しようなどということは絶望的」「改修により建物の維持を図る場合、内外の居住環境の向上、すなわち、建物の長寿命化や、外構、住戸内温熱環境等、住環境の性能アップを計るなどして資産価値をあげ、安心して快適に住み続けられるものにしないと若年購買層に対する団地間競争に勝てない」などと話した。
合意形成について花牟禮氏は、「10年前から機会あるごとに団地の価値向上について話し合ってきた。約10人の理事は輪番制だが、10年間となると約100人と意識の共有ができたのではないか。」「価値の維持・向上は一つの団地だけでは限界がある。団地を取り巻く周辺環境が団地の魅力を増す。特に商業は重要であり、近隣の団地とも連携し、地元のスーパーを守ろう、盛り立てようと話してきた」などと語った。
花牟禮氏は著名な設計会社「アール・アイ・エー」の東京支社設計担当参与を務める一級建築士でもある。建築のプロとして継続して入居者と接し信頼を得てきたのがプロジェクトを成功に導いたのだろう。記者は工事が終わった住棟の居住者から「暖房なんかぜんぜん使わなくても快適」という声を聞いた。
アール・アイ・エーが設計したマンションでは、記者は首都圏不燃建築公社・三菱地所「パークハウス阿佐ヶ谷レジデンス」を思い出す。
後姿が美しい「パークハウス阿佐ヶ谷レジデンス」 「マンション環境性能表示」☆3つ(2010/3/8)
「住宅購入は消費増税前よりトク」 オープンハウスの調査
オープンハウスは消費増税を直前に控えた3月26日、首都圏に住む住宅購入意向者500人を対象に動向調査を実施。回答者の4割が直近1年間に「住宅を購入」し、購入者の半数以上が「増税前のほうがオトクだから」と答え、消費増税が購入を決断させた大きな要因であるとしている。住宅を購入しなかった人の7割以上は来年10月に予定されている「10%への消費税増税前には住宅を購入したい」意向があることもわかった。
一方、意向者の半数以上(56.6%)が「減税措置やすまい給付金について十分に理解できなかった」とし、約6割(57.0%)が「住宅購入を検討するのに十分に時間を費やすことができなかった」としている。
住宅を購入しなかった人の理由としては、「もっとじっくりと検討したかったから」が72.2%を占め、住宅ローン減税やすまい給付金制度を利用するため「消費税増税時よりも後に購入したほうがオトクと思った」人も15.5%あった。「返済額を見て不安になった」人は19.0%だった。
また、購入者の約5割(48.4%)が「住宅購入する際、両親から資金援助を受けた」と回答し、その額は「100万円以上500万円未満」(34.8%)が最多だった。
◇ ◆ ◇
調査結果は当然だ。建物価格が2,000万円と仮定したら、現行では100万円の消費税額は160万円になる。さらに、上昇する建築費・分譲価格に対する将来不安も買い急ぎを誘発したのは間違いない。
しかし、多くの人がローン減税や給付金の仕組みを理解できていない問題も浮上した。政府も住宅メーカー、デベロッパーは増税後の反動を極力抑えるための住宅取得支援策をアピールしているが、伝わっていない。景気回復が鮮明になった現在でも、増税後の景気が読みきれず「漠然とした不安」があることも浮き彫りになった。
記者は富裕層やアッパーミドル、DINKS層向けのマンションなどは来年の10月までは好調な売れ行きを見せると見ている。
心配なのは第一次取得層向け住宅の売れ行きだ。消費税の逆進性は生活必需品と同様、住宅も中低所得者により重く働く。マンションを例にすると、課税対象となる建物価格と非課税の土地価格の比率は都心部では3:7くらいであるのに対し、郊外部では逆転し7:3になるからだ。
ローン控除・住まい給付金も中低所得者は実質的には利用しづらい。年収400万円で、扶養家族2人の人が住宅ローン2,000万円(金利2%、35年返済)を借りた場合をシミュレーションしてみたら、ローン控除は年額約13万円、給付金は30万円となった。しかし、頭金や親の援助があるのならともかく、2,000万円で買えるファミリーマンションは首都圏ではほとんど皆無だ。
ならばと、他の条件を変えずに年収を500万円、借入金を3,000万円に引き上げて試算してみた。ローン控除額は約22万円、給付金は20万円となった。これなら3,000万円で買える郊外マンションが探せばある。
「これからのマンション管理と管理会社の活用」セミナー 千代田区長も参加
「これからのマンション管理と管理会社の活用」(千代田区役所で)
「これからのマンション管理と管理会社の活用」と題するマンション管理セミナーが3月22日、公益財団法人まちみらい千代田が主催して千代田区役所で行われた。約60人が参加した。
まちみらい千代田は、ワンストップでマンション管理に関する助成制度や相談に応じる公益財団。区内には約400の分譲マンションが存在し、人口約52,000人の8割以上がマンション居住者であることから、マンションでのコミュニティ形成、管理会社の役割、防災対策などが話し合われた。
コーディネーターはまちみらい千代田の顧問でマンション管理士の飯田太郎氏、パネラーはマンション管理業協会理事長・山根弘美氏、明海大学教授・齋藤広子氏、千代田区長・石川雅巳氏。
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山根氏
さすがマンション管理のプロ中のプロ。山根氏の話は非常に面白かったし、最後はドキリとさせられた。普段は業界の会合などでしか話を聞かないが、一般の人にどのように話せばいいかよく分かっていらっしゃる。面白すぎて「みなさん、私の話など終わった瞬間から忘れるでしょうから」と、忘れないでほしいことを3点ぐらいに絞った。それも自らの体験に基づいたことだから説得力がある。以下に紹介する。
「私は結婚して35年。単身赴任で20年。子どもは6人いた(これは後述する)。今日終わったら、かみさんに会いに行くんです。鞄にはいつも非常時に備えてカロリーメイトなどを入れている。首都直下型の地震の確率は向こう30年で70%ですから、宝くじに当たるより、タクシーの運転手が事故を起こすよりはるかに確率が高い」
「大事なのは自分の子どもなど大事な写真などを身に着けておくことです。工事関係者などは手袋に子どもの写真を縫いこんでおくことは気の緩みをなくすことにつながる。災害時には高齢者だけでなく、乳幼児が災害弱者になる。その一方で、中学生は体力もあり災害時には戦力になる」
「私は500戸のマンションに住んでいるが、メールボックスに名前を表示しているのは私だけ。『山根弘美』ですから男だか女だか分からないので、管理人さんは『止めたほうがいい』という。これが現状。どこにだれが住んでいるか分からなければ災害時にどうなるか。福岡ではありえない話です」
「災害時にマンション管理会社は当てにならないと考えたほうがいい。委託管理契約に災害時対応をする条項などないからです。これは別バージョンで考えないといけないこれからの課題」
「これはまだ正式に決まっていないが、コミュニティ形成に成果を上げている事例を管理組合から募集して紹介する事業も行う」
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齊藤氏
齋藤氏は学生さんにいつも講義をされているから当然と言えば当然だが、割り当てられた20分間しゃべり続けた。ほとんど息継ぎをしない。立て板に水とはこのことをいう。「私は無口なタイプですので、資料は多めにしました」と話したときは唖然とした。
自らが居住する新浦安の例を紹介しながら、マンションは地震に強いこと、共助の管理組合がしっかりしていれば災害時に大きな力を発揮すること、顔を知る・助け合い・共同管理の3つのコミュニティが連動すればより強固なマンション管理ができることなどを話した。
石川区長
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石川区長は、「災害時には行政の力には限界がある。最後は人力。まちみらい千代田を窓口にして防災隣組を組織する」と語った。耐震補強については、「区の補助金で改修工事をして価値をあげても、固定資産税や都市計画税は都税だから、区民感情としては理解されない。税の仕組みも問題。また、個人の財産にどのように行政が支援していくか理論構築も必要」などと話した。
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取材後、山根氏に「しゃべったこと記事にしていいですか」と尋ねたら、山根氏はポケットからネーム入りのボールペンを取り出した。「これぼくの死んだ子どもの誕生日。1988年7月25日です」「命日は1989年7月26日。生まれた翌年の翌日に死んだんです。10㎝しか水が入っていなかった浴槽に伝え歩きして入ったんです。だれも気が付かなかった。ぼくはこの子と二人分生きている」(記者は前職を辞めたとき、二人の女性からネーム入りの万年筆をもらった。最近、それを飲み屋でなくした。それでも10年以上使い続けたのは記録的だ)
「そうなんです山根さん。住宅内での死亡事故で結構多いのは溺死なんです。だから、積水さんは溺死しない浴室のドアを開発したんです」(記者)「そう、そりゃ積水さんに負けちゃおれない。うちもちゃんと取り組まなくちゃ」(山根氏は大和ハウス工業の管理会社ダイワサービスの会長)
飯田氏
積水ハウス 藤井瑛美氏が「建築・住宅技術アイデアコンペ」最優秀賞(2014/2/28)
リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成
完成した「千駄ヶ谷緑苑ハウス」
築43年の旧耐震賃貸住宅(一部事務所)を耐震補強し、内外装や設備を一新するリファイニング手法を用いた分譲マンション「千駄ヶ谷緑苑ハウス」が完成し、3月22日、関係者に公開された。約140人が参加した。
物件は、JR中央線千駄ヶ谷駅から徒歩3分、渋谷区千駄ヶ谷5丁目に位置する7階建て全17戸(事務所3/住戸13)。専有面積は30.50~86.12㎡。建設年は昭和45年(築年数43年)。事業者はハチハウス。設計・監理は青木茂建築工房(意匠設計)、金箱構造設計事務所(構造設計)。施工は山田建設。竣工は平成26年3月。
建物は、道路を挟んだ北側に新宿御苑があり、屋上からは新宿のビル群や神宮外苑花火が眺められる好立地にありながら、旧耐震であるうえ間取り・設備の陳腐化が進んでいた。建物を建て替えずに先代から譲り受けた建物をそのまま残したいという意向を受けてハチハウスが物件を取得。
改修にあたっては、耐震性能を向上させるため構造・計画上不要な部分を撤去して軽量化を図り、使い勝手や意匠を損なわないよう補強をバランスよく行い、北側や南側の開口部を大きく取る工夫を行っている。
外壁は中性化対策としてタイルを使用。屋上は外断熱として緑化も図っている。防音対策としてはスラブ厚が120ミリだったため、遮音性能の高いフローリングを採用。設備計画では縦配管を共用廊下側に設置することでメンテナンス性を向上させた。
建物の価値向上のために1,600ページに及ぶ補修個所の全数を記載した「家歴書」を作成。耐用年数は第三者機関の調査の結果、推定耐用年数は残り50年と診断された。耐震性の確保、建物の長寿命化、適法性の確保、商品競争力を確保したことなどで住宅ローンが借りられるようにもした。
現在まで13戸が全て契約・申し込み済み。坪単価は290万円。
設計・監理を担当した青木茂建築工房・青木茂主宰は、「リファイニングによる住宅の再生は、賃貸の再生、居ながらの再生、分譲の再生、賃貸から分譲への再生をこれまで行ってきた。金融も含めどのようなケースでも対応できるという意味で集合住宅の再生は完成した」と話した。
ハチハウスのオーナー・岡本軍八氏は、「私は74歳。これまで50年間、不動産事業にかかわってきた。最後の仕事として社会に還元したいという思いで取り組んできた。当初予算は坪70万円と想定していたが、耐震補強費などがかさみ結果的には坪100万円になった。しかし、分譲単価は想定していた240万円から290万円に上昇しても、お客さんが商品性を評価してくれた。内覧会でみなさんびっくりしていた。〝死ぬしかない〟と思っていた建物がリファイニングによって生まれ変わり、十分採算に乗ることが実証できた。夢のチャレンジが成功した」と語った。
岡本氏(左)と青木氏
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「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」については、工事中の段階でも記事にしているのでそちらも参照して頂きたい。百聞は一見に如かず。青木先生のすごさが分かった。デザイン力も素晴らしい。倉庫だった1階は天井高が4mあったことから、ロフト付きにし、耐震性を確保しながら開口部を大きくしたこと、梁やカーテンレールの部分はライティングを施し、最上階は外廊下部分を専有化するなどの工夫を凝らしている。リフォームや今流行のリノベーションとは全く異なるものだ。
もうひとつ驚いたことがある。岡本軍八氏が登場したことだ。岡本氏については別掲の記事を読んでいただきたい。記者は9年前、岡本氏にお会いし、記事にもしているが、すっかり忘れていた。岡本氏には失礼だが、もう過去の人だと思っていた。岡本氏自身も「浦島太郎になっちゃった」とその時話している。
昨年取材したとき「ハチハウス」はどこかで聞いたような気がしたが、ハチハウス・青木歩実社長が軍八氏の娘さんだとは全然思わなかった。「ハチ」はロッキード事件のハチのひと刺しか連想できなかったし、青木茂氏の娘さんかと思って質問したぐらいだ。軍八の「ハチ」を社名に使うなどやはり岡本氏は只ものでなかった。
岡本氏は、「山田建設の山田社長は長いおつきあい。どこも工事を受けてくれなかったのに意気に感じてやってくれた。近く中堅のデベロッパー向けに説明会をやる」と意気込んでいた。すっかり旬が過ぎた岡本氏がよみがえったのが何よりうれしい。リファイニングは人間再生にも応用できるのか。
梁の部分をライティング処理 屋上の緑化
窓の外は新宿御苑 倉庫だった1階部分の天井高は4mのロフト付き
リファイニング事例のひとつ「清瀬けやきホール」のビフォー(左)とアフター(写真撮影は「イメージグラム」)
「住まい手からみる木造住宅の未来」シンポに420名参加
、「住まい手からみる木造住宅の未来」シンポジウム(ヤクルトホールで)
髙田・京大大学院教授 「平成の京町家団地」紹介
日本ぐらし館木の文化研究会(委員長:髙田光雄京都大学大学院教授)とJAHBnet(主宰:宮沢俊哉アキュラホーム社長)は3月18日、「住まい手からみる木造住宅の未来」と題する第3回シンポジウムを行なった。会場にはほぼ満席の約420人が集まった。
主題解説を行なった髙田教授は、わが国は木の文化国ではあるが、木材自給率は27%にとどまっており、山が荒れ災害の危険が増大しており、木造住宅は6割にのぼっているとはいえ、その多くはプレカットでできており、現状は木の文化の継承・発展にはなっていないと指摘。自然と街と人がつながっている京都の町家の例を紹介しながら、日本の居住文化を住まい手の視点から考えるべきと問題提起したうえ、「住まい手が住まいに働きかける価値とも言うべき『住みごたえ』『住み心地』『住みこなし』が重要」と述べた。
続いて基調講演を行なった居住環境学が専門の檜谷美恵子・京都府立大学大学院教授は、社会経済環境の変化によって狭小住宅団地などでは空き家が進み、高齢者向けのサービス付き高齢者住宅のニーズが高まっていること、子育てファミリーは十分な広さの住居を確保できていないことなどから、コレクティブハウスやシェアハウスなどの共助、協同する住まいが注目されると話した。
髙田氏
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シンポジウムでは髙田氏がコーディネーターを務め、檜谷氏、京都大学大学院教授・鉾井修一氏、同・林康裕氏、京都工芸繊維大学大学院准教授・矢ケ崎善太郎氏、木村工務店 大工棟梁・木村忠紀氏、京都庭園研究所 庭師・比地黒義男氏がそれぞれの立場から「手を入れること」の重要性を語り合った。以下、主な声を紹介する。
鉾井氏 開いたり閉じたりする空間を確保することで暑さや寒さに対応することが重要
林氏 メンテフリーを売りものにする住宅があるが、これは住まい手から働きかける機会を奪うもの。メンテしやすい構造、装置をつくるべき
矢ケ崎氏 世界最古の木造住宅である法隆寺はなんども手入れされてきた。手を入れることで長持ちさせる技を大工は持っていた。庭は贅沢ではなく必要であったから設けた。公私をまぎらす、環境をあやふやにし、グラデーションのように深まっていく機能を備えている
木村氏 いまの消費者は「住みこなす」ということを知らない。私は賢い消費者をつくることが建築を育てると思っています。木造の家は手入れをしっかりすればそんなに潰れません
比地黒氏 庭は心を癒すところ。木を1本植えることが庭づくりの基本。最近の樹木剪定は枝もない丸く刈り込むことしか考えないが、すかし技術などを使えは気持ちいい風を取り込むことができる
檜谷氏 家政学はもともと男性の学問。もっと男性も参加してほしい(これに対して髙田氏は「京の町家の保全は女性が担っている」と苦笑い)
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シンポジウムはそれぞれ専門の立場から各氏が話され課題が示された。木造住宅の一層の充実を願う記者にとっては、やや論議が散漫になり深まりに欠けたのが残念だったが、髙田氏が話題提供として「平成の京町家 東山八坂通」を紹介されたのに注目した。
八坂神社、建仁寺にも近く、八坂通から少し入ったところで、全体敷地面積は約1,100㎡で、建基法86条の一団地認定を受けた区分所有方式の8戸の木造2階建てだ。共用の庭のほか専用の庭もあり、建物は土間、縁側を設け引き戸を多用することで風通しのいい造りとなっており、2戸連棟だが「けらば」(切妻側の意匠)を残すことなどを条件に戸別の建て替えも可能だという。
首都圏ではほとんど見かけなくなったが、建て方はかつて昭和50~60年代にたくさん供給された「タウンハウス」に似ている。共有の「コモン」スペースを持ち、専用の「庭」もある低層住宅だ。
「平成の京町家・東山八坂通」(株式会社ゼロ・コーポレーション提供)
地価公示底這い状態続く地方都市 滋賀県草津市のみが上昇
平成26年の地価公示が発表された。全国的には住宅地、商業地とも依然として下落をしているものの下落率は縮小傾向を継続。三大都市圏では、住宅地の約2分の1の地点が上昇、商業地の約3分の2の地点が上昇。その一方で、地方圏では住宅地、商業地ともに約4分の3の地点が下落。大都市圏と地方圏の地域格差は解消されないどころかむしろ拡大していることが地価公示も裏付けた。
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別表 Book1.pdf は、平成26年と平成16年の大都市圏を除く人口が10万人以上の市の住宅地の平均価格を比較したものだ。
比較可能な市は全国で103市あり、唯一平均地価が上昇しているのは滋賀県草津市だ。10年前は1㎡あたり98,400円だったのが、今年は106,000円と7.7%上昇している。
どうして草津市が上昇しているのか。地元・大津市の不動産会社ラフィナータ・山田幸秀社長は、「草津市は京都、大阪への通勤圏。快速で京都へは20分、大阪は50分。住環境もいい。急激に地価が上昇しているという印象はないが、ジワジワと上昇しているのは間違いない。大手も軒並み進出しており、激戦地となっている」と話した。
パナソニックなどの大手企業や立命館大学などの大学も進出し、利便性が高まっているという。
他は悲惨だ。下落率が10%以下なのは札幌市の5.5%、福岡市の5.6%、那覇市の7.6%、仙台市の8.6%、浦添市の8.6%のみ。他は鳥取市の56.3%、小樽の53.2%、秋田市の52.8%と半値以下になったところも3市ある。40%以上下落は約3割の30市にのぼる。
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2020年のオリンピック開催効果もあり前年の860,000円から954,000円と10.9%上昇した東京都中央区勝どき3-4-18の平成16年地価公示は680,000円だった。10年間に40%の上昇だ。
大都市圏の一部がこの10年間で40%地価が上昇し、その逆に地方都市では40%も地価は下落し、底這い状態が続いているということだ。