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2018/03/09(金) 09:51

波乱万丈30年の「仕事」を語る コスモスイニシア商品企画部部長兼一級建築士事務所所長・南光浩氏

投稿者:  牧田司

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南氏 

 いまデベロッパーは総じて元気だが、〝いい仕事をしている〟という条件を付けるなら、真っ先にコスモスイニシアをその1社にあげる。マンションは、創業40周年のフラッグシップ「イニシア武蔵新城ハウス」をはじめ、「笹塚」「豊洲」「大井町」「西新井」「松陰神社」「草加」「志木」(順不同)などのマンションが次々に目に浮かんでくるし、分譲戸建て「石神井」「光が丘」「練馬田柄」なども出色の出来だった。リノベーション「INITIA ID」も素晴らしいし、最近はアパートメントホテル事業に進出した。

 その商品企画の旗振り役が同社建築本部商品企画部部長兼一級建築士事務所所長・南光浩氏だ。南氏に波乱万丈の約30年の「仕事」について聞いた。

◇       ◆     ◇

 「入社するときはリクルート事件の真っただ中でしたが、事件をそれほど深く考えていなかったですね。面接を受けたとき、やりがいがあると感じて入社を決めました。当時、本社建築監理部から部門名を変更して一級建築士事務所を立ち上げ本格的に動き出すときで、マンションのほかホテルやビルなども始めたころでした。以来ずっと商品企画を中心に建築の仕事全般に携わってきました」

 南氏は1966年生まれの51歳。1990年、早稲田大学理工学部建築学科卒。同年4月、リクルートコスモス入社(現コスモスイニシア)。建築部門の商品企画で大規模分譲マンション・タワーマンション・戸建て事業開発・アパートメントホテルなどに関わる。2005年から産学民共同研究COCOLABOを、2013年から慶応大学SFC研究所とシェアタウンコンソーシアムを立ち上げ、行政・民間企業などと研究を継続中。一級建築士事務所としては社内外の集合住宅・ビル・ホテルなどの企画監修・設計監理・コンストラクションマネジメント業務に取り組む。グッドデザイン賞受賞作品も多数。

 プロフィールでもわかるように、入社はバブルの絶頂期の平成2年4月。その秋、うたかたのごときバブルははじけた。

 いまの若い業界関係者はご存じないかもしれないが、バブル絶頂期の同社の首都圏マンション供給量は5,000戸くらいに達していた。約1万戸の大京には及ばなかったが、ダイア建設と2位、3位の座を競っていた。

 戸数の多さだけではない。そのうちの約1,000戸が億ションの「グランフォルム」だった。大京はもちろん三井不動産などもはるかに及ばなかった。三井不動産の社長(だったと思う)をして「大京の足腰と、リクルートコスモスの頭脳が欲しい」と言わしめた。世間では「リクルート事件」の嵐が吹きまくっていたが、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いにあった。

 ところが平成2年3月、それまで垂れ流し状態だった不動産業向け銀行融資がバルブを閉めるように閉じられた。総量規制と呼ばれた金融政策だ。デベロッパーは息の根をとめられた。

 同社も奈落の底に突き落とされた。同4年には親会社・リクルートの創業者・江副浩正氏が保有株をダイエーに売却し、同社もダイエーグループ入りすることになる。その後、紆余曲折があって同17年、MBO(マネジメント・バイアウト)によりリクルートグループから独立、翌年に現社名に商号変更した。

 それでも苦境は続き、ついに同21年、事業再生ADR手続により社員739人のうち360人程度の希望退職を募ることになった。

 この間、資産・子会社売却、社長交代、減資、継続企業の前提に関する疑義の発生などが毎年のように報じられた。バブル期には数万円だった株価は平成23年には120円まで下落した。そして同25年、大和ハウス工業グループに入った。

 「何度も潰れそうになった。こんな会社は他にないでしょうね。一番ショックだったのは、平成2年から3年ころ、当時1,000人を超えていた社員が毎月のように大量に転籍・退社していき、一挙に500人くらいに減ったことでしたね」

 しかし、記者はこの会社は潰れないという確信があった。なぜか。先に「頭脳」と書いたように、同社の商品企画力は業界に不可欠だと思っていたからだ。

 皆さんは昭和60年に完成した12階建て「コスモ蕨」150戸をご存じか。分譲されたのは大量供給下のマンション不況という最悪の事態に陥っていた同58年ころだ。最大の特徴は7,900mm×7,650mm=60㎡、つまりほとんど正方形の間取りで、南面3室を確保し、廊下スペースをなくすことで60㎡でありながら居住性を高めた住戸プランだった。高層マンションではありえないプランに記者は驚愕した。〝この会社はものすごいことをする〟と。

 同社のその頭脳はバブル崩壊によって大量に流失した。救いなのは、「卒業」(同社には退社をそう呼ぶ社風がある)した多くの方が他のデベロッパーや異業種で活躍されていることだ。同社は人材の宝庫でもある。

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◇       ◆     ◇

 同社の分譲マンションで特筆できるのは、2014年に分譲された創業40周年のフラッグシップ「イニシア武蔵新城ハウス」だ。

 「武蔵新城は、当時の30歳代のメンバーが中心となって自社で設計した物件でした。わたしがスタッフに言ったのは〝売れるマンション〟ではなく、10年後、20年後につながるものを造ろうということでした。これほどの規模になると、2戸分を共用施設にあてたりしますが、本当にそれは必要か。外壁にタイルを張らなくても綺麗にできるではないか、その代わり中庭を充実させ、クランクインにして玄関周りに光と風を取り込む工夫をする、洋室に収納を設けなくても1カ所にまとめていいではないかなどと様々なアイディアが出ました」

 この「武蔵新城」の企画は、2015年に立ち上げた新ブランド「INITIA CLOUD(イニシアクラウド)」に引き継がれることになる。スライドウォールを開閉することでさまざまな間取りやレイアウトが可能になるプランで、その後、他社がこぞって真似をすることになった。

 「可動式の間仕切りシステムはすでにリーマン・ショック前後(2010年に分譲した「横濱鶴見」が実験的プロジェクトだった)から採用していましたが、クラウドでは全部しまっちゃおうと。そのような商品はそれまでなかったですね」

 「この30年くらいで考えますと、昔は結婚して、子どもを産んで育てるという15年から20年の典型的なライフスタイルが顕在していました。ところが最近は単身世帯、アクティブシニアが増加する中で、専業主婦が減少しマーケットは劇的に変化しました。

 いろいろシミュレーションすると、間取りをいくつか用意し、カラースキームの中で選びなさい、家はこういうふうに住みなさいといったものはデベロッパーサイドが生み出した幻想のマーケットではないかと。そこまでどこも青田売りしていませんから。

 当社の提案しているホームデコレーションサービスは、ある程度決まった間取りとカラーで、お客さまサイドが暮らし方のボリューム調整でき、好みに応じてプロが施工するというものですが、これがヒットしましたね」

 一昨年分譲の「INITIA CLOUD(イニシアクラウド)渋谷笹塚」も企画が光った。間仕切り・扉の位置や納まりを工夫することによって、住まい手が最大限自由に空間の広さや動線を設定できるように設計したマンションだ。

 「グッドデザイン賞を受賞した『笹塚』は間取りが秀逸でしたね。審査員の方にも建築的アプローチとしても非常に意義深いという評価を頂いた」(南氏はこの「武蔵新城」「渋谷笹塚」「西新井」などについてかなり時間をさいて話したが、書き出すときりがないので省略する。詳細は別掲の記事参照)

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「イニシア武蔵新城ハウス」

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 分譲戸建ても最近は目を見張るものがある。1億円前後の高額を半年もかからずに売り切った全11戸の「グランフォーラム石神井公園」がその代表だ。「光が丘公園」や「練馬田柄」では天井高約3.8mの2階リビングを提案した。他社の吹き抜け空間と異なるのは、その空間に魂を込めていることだ。苦しいときも継続して分譲してきたことがいま開花している。

 「マンションとの複合開発とかリビングインの階段とか先駆的なことをやってきましたが、無電柱化も以前からこだわってきました。10数戸の小規模でも、ミニ開発ではない、そこにしかない価値を創ろうと。2階リビングもダイナミックな展開ができていると思います。

 今は、グロスは張るけれども駅近の戸建て用地の取得ができています。マンションの値段が上昇したために、場所にもよりますが、マンションより戸建てを買うという昔と逆の現象も見られるようになってきました」

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「グランフォーラム練馬田柄」(緑はすべて本物)

◇       ◆     ◇

 最近力を入れているのがアパートメントホテルだ。先に第1弾「MIMARU 東京 上野NORTH」を開業したのを皮切りに、2020年までに1,500室の開業を目指している。キッチンやリビング・ダイニングスペースを備えた4名以上の中長期宿泊にも対応するもので、1人当たりの宿泊料金を抑えるのが特徴だ。

 「先進国ではごく普通にあるタイプです。わが国でも4~5人のグループが泊まれる需要は顕在化しています。東京圏と京都・大阪圏で一挙に増やします。量的にはこの領域ではメジャーになれると考えています。民泊などと差別化も図っていきます」

◇       ◆     ◇

 南氏は、デベロッパーに入社しようと考えている学生や、業界の若い建築担当の社員に対して次のようなアドバイスをする。

 「マンション事業などはいま企画しているものが完成するまで2~3年、再開発は5年、10年の時間がかかります。多様化しているマーケットはより広がっていきます。住宅分譲が拡大するかどうかは不透明ですが、何十年たっても色あせないその時代に合わせられる柔軟性に富んだ企画が求められています。

 一方で既存住宅の再生が大きな課題になっています。当社のスタッフもただのリフォームでいいのか、壁にぶち当たっています。来期はこの課題解決にひた走るつもりです。売るのは最低限のスタートライン。数十年の先に繋げていくことがデベロッパーの仕事です。

 われわれの建築・設計の仕事は、締め切りも予算の制約もあります。しかし、それでは潤沢の時間があればできるかといえばそうではない。わたしは30年くらいやってきましたが、これが完璧という仕事は未だない。それが原動力となり、次の仕事につながっていきます(同感。記者も40年間記事を書いてきたが、満足できる記事は1本もない)」

 これからの仕事についても言及した。

 「最近は、設計の事業部と組んで他社のマンションとかビル、ホテルなどの企画の仕事が増えています。物量的にはわたしの部署ではむしろ他社の仕事の割合のほうが高くなっています」

 「そのうちアンチエイジング住宅、住みながら鍛えていくようなものが出てきます。バリアフリーもいいですが、マンションに階段を設ければカロリーの消費につながります。〝マンションは階段を使って帰ろうよ〟というような企画を会議に出すとみんなから無視されるんですが(笑)。たまには発散し、楽しいものが出てくるようにしないといけない」

 南氏は振り返る。「以前、『リーマン・ショックでリストラもしているのにCOCOLABOを続ける意味はあるのか』という取材を受けたことがあります。社員も3分の2くらいが退社を余儀なくされた危機的な状況でした。それでも同業や銀行などから『御社を破綻させてはならない』と声を掛けていただいた。COCOLABOを継続してやってきたことの意味・回答をようやく少しずつですが、世の中に返せるようになってきました」

 そして締めくくった。

 「いま当社の社員は活気がみなぎっていますが、その生かされた意味が何だったのか、深く考え、がんばってほしい」と。

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◇       ◆     ◇

 南氏を取材することになったのは、昨年末、同社の取締役常務執行役員・渡邉典彦氏(東大卒。高校は静岡高校。静高は頭がいいだけでなく、野球が強いから始末が悪い。記者の出身、三重県勢は東海大会において最近ことごとく跳ね返させられる)や、RBA野球で活躍した同社の元社員TさんやFさんらと歓談したときだ。商品企画の話になり、「うちには知らない人はいない身長190センチ(実際は187センチ)の大男の南がいる」と紹介され、その場でインタビューを申し込んで実現した。

 冒頭の写真を見ていただきたい。関係者は「美男子」とは言わなかったが、憎たらしいほど「フェイス」もいい。コーデュロイ(だったと思う)のスーツがぴったりだった。

 同社には非常勤取締役・髙井基次氏(大和ハウス工業常務執行役員)がいるが、身長は南氏といい勝負だ。顔は言わずもがな(双方が俺のほうがいいと思っているはず)。

 顔だけではない。〝大男総身に知恵が回りかね〟(記者は〝小男の総身の知恵も知れたもの〟だが)という諺があるが、南氏には全然当てはまらない。語りも実に穏やかで、一語一語にこれまで30年近くにわたって成し遂げ、背負ってきた仕事の重みがある。手垢にまみれた〝波乱万丈〟などという言葉は使いたくないのだが、ボキャブラリ不足の記者はこれしか浮かばない。

 インタビューをしたのが2月上旬だった。こうして記事にまとめるまで1カ月が経過している。これほどまでに遅れたのは、読んですぐゴミ箱に捨てられる記事にしたくなかったのが最大の理由だ。時間がかかったのは、何度も書き直し、校閲もしたからだ。

 同社の卓越した商品企画がどうして生まれるのか。南氏が語った言葉にヒントがある。400字原稿用紙にして13枚強。べらぼうに長いが、若い方に少しでも学んでいただきたいという気持ちを込めた。

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