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墨田区向島のスズカケの街路樹

 「東京スカイツリー」をけなすつもりも墨田区を批判する気持ちも毛頭ないが、やはり言わざるを得ない。書かざるを得ない。

 「スカイツリー」がたくさんのお客さんを呼ぶのは結構なことだ。しかし、あれは「故郷」と同じだ。遠くから眺めると確かに美しく見えるかもしれないが、近くから仰ぎ見ると異形の形がぐっと迫ってくるようで心臓に悪い。地元の人はどのような評価をしているのだろう。

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押上駅前からのスカイツリー

 コスモスイニシアの賃貸マンションの取材を兼ねて、スカイツリーのある押上から向島3丁目、4丁目、5丁目を歩いた。

 「向島」は永井荷風などの小説の舞台になっており、昔からいいイメージを持っているのだが、街を歩いてあまりにも街路樹が貧しいのに悲しくなった。写真を見ていただきたい。緑がないところを選んで撮ったのではない。どこを歩いても四方八方を眺めても強剪定されたスズカケしかないのだ。あの枝を見ると記者は木が発狂しているようで恐怖を感じる。

 唯一と言っていいくらいの墨田区らしい街路樹は、森鴎外の居宅跡がある桜橋通りに植えられたハナモモだった。これは最近整備されたようで、高さは3mもなかった。

 社に戻り、ネットで調べて愕然とした。墨田区内には23年度現在、街路樹は7,452本ある。多いか少ないかはさておくが、このうちスズカケが約42%の3,123本だ、次に多いのがトウカエデの1,221本、それにアオギリ278本、イチョウ267本、マテバシイ188本、アメリカフウ154本、ハナミズキの142本と続き、その他が1,746本だ。

 読者のみなさんはここで気が付いただろうか。なんと常緑樹はマテバシイだけで、他は全て落葉樹。街が寒々と感じるのは記者だけでないはずだ。さらにいえば、その他1,746本の樹木はひとくくりにされていることだ。その木は何の木だ。気になるどころの話ではない。街路樹にそんなにたくさんの樹種があるはずがない。

 わが街多摩市はどうか。街路樹は約1万本ある。このうち常緑樹はクスなど約2割ある。各敷地内にも常緑樹はたくさん植わっているので、真冬でも緑は豊かだ。スズカケ(プラタナス)は284本しかない。そしてなによりこれが大事なのだが、50種ある樹木の中で「その他」はわずか2本のみだ。1本1本をきちんと管理している証左ではないか。

 墨田区は、緑化にも力を入れているようで、沿道緑化や壁面・屋上緑化にも補助金を出している。しかし、この街路樹はあまりではないか。隗より始めよといいたい。

 記者は街のポテンシャルを測るモノサシとして①ホテルの有無②デパートの有無③職を中心とする文化-この3つを掲げているが、これでは不十分。4つ目としてこれから「緑」を追加する。スカイツリーで押上の人気は高まっているのだろうが、記者のマンション坪単価相場としてはせいぜい200万円だ。23区内では最低クラスだ。

 区の担当者に「なぜ落葉樹ばかりなのか」聞いたら、「人それぞれ。紅葉がきれいという人もいる」-木を鼻でくくるような答えが返ってきた。思想・哲学などまったくない。進士・東京農大名誉教授が言った通りだ。「自治体に公園緑地のプロはいない」と。

 先のハナモモはどうして植えたかだが、森鴎外が住んでいたところは「向島小梅町」と呼ばれていたそうだ。「小梅町」にちなんで、ウメは街路樹にふさわしくないと考え「ハナモモ」にしたのだう。これは正解か。

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向島の街路樹

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森鴎外居宅跡地付近(街路樹はハナモモ)

続「街路樹が泣いている~街路樹と街を考える」流山と越谷、三郷の差(2014/10/17)

カテゴリ: 2015年度

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「向島5丁目プロジェクト」エントランス

 コスモスイニシアは3月20日、用地の取得から建物竣工までをプロデュースした投資用賃貸マンション「向島5丁目プロジェクト」の竣工見学会を行った。

 入居者と住まい、入居者と街や地域の人々を「TSUNAGU(つなぐ)」がテーマになっており、写真家の若木信吾氏が向島地域の印象的な写真を撮り、その写真にニューヨークで活躍するペイントアーティストのマイク・ミン氏がペインティングを施した作品を1階エントランスのギャラリースペースに展示する。

 若木氏とマイク氏は、大学時代にアメリカを横断する旅をしたことがきっかけで共同作品を発表したこともあり、今回もそれぞれ東京とニューヨークという別の場所と時間で作品を作り上げた。

 建物は7階建て全53戸。専用面積は26.02~57.28㎡。総合プロデュースがコスモスイニシア、ギャラリープロデュースがアクシス・アマナ。

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外観とエントランスホール・ギャラリー

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 記者は写真もペイントアートにもあまり興味はないが、若木氏の作品は1点百万円以上するものもあるようだ。マイク氏との共同作品は全部で4点。買ったらいくらになるかは想像に任せるが、了解を得たのでその作品を紹介する。素人のカメラなのでうまく撮れていないことを了承していただきたい。

 アクシスのギャラリープロデュースもなかなかいい。エントランスホールと壁は木目調のタイルが使用されているが、これがなかなかいい。分譲マンションにも使えそうだ。外廊下は木目調のシート貼り。

 コスモスイニシアのこだわりでは、ワンルームにもトイレのドアを壁面までセットバックさせていた。

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エントランスホール

 

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 国土交通省は3月18日、第6回「住宅団地の再生のあり方に関する検討会」(座長:浅見泰司・東大大学院教授)を開き、これまでの論議やヒアリングの結果を踏まえ、施策検討の基本的方向性をまとめることで合意した。

 団地全体の再生を図るため建て替えや改修、あるいは段階的・部分的な建て替えなどを円滑に進めるための事業制度、建築基準法第86条の一団地認定のあい路をどう打開するかが今後の検討課題になるようだ。

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 今回、国交省から新たに示された資料は、第5回までの検討会で指摘された課題を踏まえ、同省がコンサル・学識経験者など8名、デベロッパー7社に対するヒアリングを行った結果をまとめたものだ。主な意見を紹介する。

・事業性が高くないケースでは、負担面から一部の区分所有者が一括建替えに同意せず、結果として3分の2の決議要件を満たせず進捗がとまる

・建物部分の底地が共有でないテラスハウスを含む団地では、一括建替え決議の要件を満たさない

・市街地再開発の手法を用いても、保留敷地を設定し、戸建て用地を確保するのが困難

・建て替えの賛成者が各棟に分散している場合には、住戸交換が円滑にできる仕組みが必要

・団地再生に合わせて道路整備を行う場合、現状では全員同意で敷地分割したうえで処分する必要がある

・部分的な建て替えを行う場合、建て替え棟と非建て替え棟との間の管理費や長期修繕計画の扱いが課題

・郊外では1000戸規模の団地が多数あり、すべてマンションにすることはマーケット的に不可能。余った土地は戸建て用地として売却するのが適当

・一部の土地を戸建て用地として売却する計画は、一団地認定の取り扱いが難しい

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 会合でもこれらの問題が横たわっていることが論議された。各委員の主な意見を紹介する。

小林秀樹委員(千葉大大学院教授) 団地再生事業法をつくったらどうか。郊外団地はこれからコンビニなどに一部を売却するか賃貸にするか処分行為が多発するはず

西周健一郎委員(都市再生機構ウェルフェア推進事業部長) 団地内の共有給排水管、道路関係、日影規制、既存不適格、ネット・グロスの問題などあい路は多い

鎌野邦樹委員(早大法学学術院法科大学院教授) 敷地分割は民法からのアプローチではなく行政法的な手法で可能にすべき

大西誠委員(竹中工務店参与) 敷地分割はハードルが高い。大阪のURの山本団地では、URが排水管を整備して費用を負担し、民間に分譲用地として売却した事例があるが、分譲同士だと合意形成が難しい。古い団地では面積割合でなく、戸数割合で土地の共有持ち分を決めているところが多い

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 会合は予定されていた2時間を約45分も余して終了した。浅見座長を除く15委員のうち7人が欠席した。浅見座長は「ご意見ありませんか」と発言を促したが、一部の人に限られた。

 これは、検討会が盛りあがらないということではなくて、意見がすべて出尽くしたのだろうと理解した。

 出尽くしたうえでうまい解決策が見つかったらいいのだが、どうもそうではないようだ。話を聞いていて、団地型の住宅再生は容易ではないと改めて感じた。法の壁はもちろん排他的絶対的な土地所有権・財産権の難問をクリアするのは途方もない困難が伴うはずだ。

 法の壁を突き抜けようが乗り越えようが、その時点で違法行為になりかねない。この検討会の委員でもある櫻井敬子・学習院大教授が「建基法関係の法律は窮屈」と他の会合で話したように、解釈によって法を捻じ曲げるのは困難ではないか。「行政法」の手法を用いようが、結局、民法の規定にぶち当たるはずだ。

 仮に法の問題をクリアしても、こんがらがった繊細な絹の糸玉をほぐすような「合意形成」の難問も待ち受ける。気が遠くなるような作業になるのは間違いない。各委員は頭を抱えているのではないか。

国交省・住宅団地の再生検討会 「無反応者」を母数に含めない是非(2014/12/17)

 

 

 

 

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「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」

 国土交通省は3月12日、第4回「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」(座長:進士五十八・東京農大名誉教授・元学長)を開き、喫緊の課題になっている保育所など子育て施設を公園内に設置することなどを了承し、近く先行とりまとめとして公表することを決めた。

◇       ◆     ◇

 約2時間行われた会合の内容は、細大漏らさずメモをしたので引き起こせないこともないが、国交省が議事録として公表するはずだからそちらを読んでいただきたい。

 保育所などの施設を都市公園内に設置することに対して多くの委員は、「軒先貸して母屋取られるでは困る」「行政から攻め込まれているイメージが強い。子育て機能は公園が持っている本来的な機能。こちら側から積極的にメッセージを送ってはどうか」などとし、攻めの姿勢に転換することを申し合わせた。

 国交省の舟引敏明・大臣官房審議官は、「(様々な外野から)攻め込まれているとは思っていないが、(相手の)攻めてくるスピードが速い。公園を利用する人が増えれば予算的にも人的に公園事業はやりやすくなる。公園法がブレーキになっている部分もあるが、いかに応援団を増やすかだと考えている。夢のある世界を描いていきたい」と語った。

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 この「検討会」を傍聴するのは2度目だが、実におおらかでいい。「検討会」というタイトルは同じだが、マンション管理会社は姑息な手段を使って儲けることをたくらむ集団だとか、600万人の居住者の声を反映した「意見書」を「私の授業なら『不可』にする」などと罵倒し、委員とオブザーバー間でバトルを展開した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」とは雲泥の差だ。

 どうしてこのような差が出るのか考えた。それは今回の「検討会」の座長を務める進士氏の人徳もそうだろうが、各委員が農学や園芸学、環境学、家政学など人と自然・みどり、人と環境などについて研究をされてきた方々の品格の反映だろうと結論づけた。

 今度、ピケティ氏の「21世紀の資本」を読もうと思っているが、富の集中と格差社会の蔓延を助長する21世紀の経済学者と農学者とではこの点で対極をなすのではないかと思う。

 「検討会」は来年度以降も継続して行われるようだが、都市公園の再編によって都市居住者の生活がどのように変わるのか注視したい。

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 おおらかさ、和やかさを象徴する場面があった。会合が終わった後、国交省のスタッフが各委員に進士氏が平成27年(第9回)「みどりの学術賞」を受賞したリリースを配布した(記者席には配布されなかった)。すぐ拍手が巻き起こった。進士氏は相好を崩した。

 「みどりの学術賞」は、「みどり」についての国民の造詣を深めるために、国内において植物、森林、緑地、造園、自然保護等に係る研究、技術の開発その他の「みどり」に関する学術上の顕著な功績のあった個人に内閣総理大臣が授与するもの。進士氏は寺島一郎・東京大学大学院理学系研究科教授とともに受賞した。

 進士氏の受賞理由は、進士氏が「日本庭園は日常生活から隔離された特殊な空間ではなく、自然との共生により育まれてきたわが国の生活・文化が凝縮されたものであることを解明し、みどりに対する国民の理解増進に寄与した」というもの。

 進士氏は、受賞に対して「日本庭園が究極の都市づくりであることを言い続けてきたことが認められてうれしい」とコメントした。

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この日の進士氏(リリースの写真よりはいいはずだ)

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 この種の会合はかくあるべしというようなエピソードも紹介しよう。進士氏はときどき、涌井委員に対して「涌井」と呼び捨てにした。進士氏と涌井氏の関係を知らない人だったら仰天するだろう。座長と委員の差は毫ほどもない。ましてや涌井氏はタレント並みの活躍をされている押しも押されもせぬ学者兼コメンテーターだ。

 なぜ進士氏が涌井氏を呼び捨てにしたのか。理由は簡単。東京農大の同窓同級生だからだ。歳は進士氏が一つ上だ。

 呼び捨てにされた涌井氏も口では進士氏に負けない。国交省から配布された資料に写っている進士氏の写真をみて、「これじゃご霊前に飾る写真だ」と言い放った。記者は「涌井先生、進士先生の次(の受賞は)は涌井先生でしょ」と声を掛けたら「いやいや、演芸(園芸の洒落のつもりか)賞はないの? 」と絶妙の切り替えしをした。確かに農学・造園を茶の間に演芸の手法でもって浸透させた功績は「みどり学術賞」にぴったりではないか。

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 脇道にそれてしまったが、本題に戻る。ここ数年、記者が気がかりに思っていることを委員の池邊このみ・千葉大大学院教授が代弁してくれたので紹介する。

 池邊氏は、「公園の統廃合という文言が使われているが、再編・再構築が適当ではないか。維持管理について触れられていないのもどうか。管理費がどんどん削られ、街路樹も削られ汚くなっている。だから〝あんな公園いらない〟になっていく。管理コストの削減は自己否定ではないか。景観の言葉も少ない。もっと美しい公園にしていくことが大事ではないか」と話した。

 進士氏は「都市公園条例は管理条例になっている。運用条例にしないといけない。人口率ではなく、面積率で公園の広さを考えるべき」などと本質的な問題点を指摘した。

公園に保育所、マンション岩盤規制を打ち破れるか国交省公園のあり方検討会(2015/2/2)

 

 

 

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 左から小倉氏、三津川氏、一色氏(霞ヶ関:東海大校友会館で)

 一般社団法人次世代不動産業支援機構(代表理事:三津川真紀氏)は3月16日、ICT(information and communication technology)技術を駆使して消費者が住宅選択する際の判断指標となり、既存住宅の流通促進を後押しする「次世代不動産業あり方検討会」を発足させたと発表した。

 既存住宅を単なる物件概要にとどまらず、ICT技術を用い趣味・エンターテイメント、仕事・雇用、交通・地域、環境・エネルギー、医療・介護、教育・子育て、家事・家庭などの切り口からアプローチし、それぞれの価値の見える化、可視化を図り、すべての不動産を統一した評価軸でラベリングしようという試み。「スマートリボン住宅」として商標登録している。

 「検討会」の座長は同機構顧問で神奈川工科大教授・一色正男氏が務め、内閣府、小林史明衆議院議員が協力する。元日本テレビアナウンサーで現在フリーの小倉淳氏が理事・プロモーション統括として名を連ねている。

 主な構成メンバーはイオン、NTTデータ経営研究所、日本コムシス、パナソニック、エコソリューションズ社など。

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三津川氏

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 記者発表会は、代表理事・三津川氏が冒頭、現在の既存住宅は必ずしも消費者目線にあっていないことを指摘した。

 つまり、①様々な取り組みは領域ごとに論議されており、内容に偏りがある②領域ごとの取り組みは領域単位でしか把握されていないので、消費者は理解しにくい③領域ごとの議論は融合されておらず、統一した評価軸(指標)がない③住まい(暮らし)や地域(周辺環境)のバリューを可視化し、情報として開示・提供すべき-などで、三津川氏は「たとえばヘムスなどと言われても消費者は理解できていない。住宅も生活も街も消費者の判断基準でアイデンティティの転換が必要」と強調した。

 記者は三津川氏の話をいちいちごもっともだと聞いていた。新築マンションの場合、デベロッパーは単に物件情報だけでなくありとあらゆる情報を広告に盛り込んで物件特性をアピールしている。〝〇〇は日本一〟〝〇〇は東京初〟〝主婦の評価№1〟などだ。その意味でかなり可視化は進んでいる。物件規模が大きければ可視化に伴う費用もかけられる。

 ところが中古住宅の場合、最近は流通会社が詳細な情報を提供はしているが、消費者がほしい情報は自ら探すしかない。ネガティブ情報などがとくにそうだ。まず、仲介会社はそのような情報を積極的に開示しない。〝旧耐震〟〝歓楽街に隣接〟〝前に建物あり、日照不可〟などは絶対表示されない。かといえば、〝〇〇(スーパーゼネコン)施工〟などと物件概要に書かれていないことまで大文字で色つきでアピールする。

 その意味で、先日、スムストックのシンポジウムで中川日大教授が話した「情報の非対称性」は厳然として存在する。

 とはいえ、不動産は極めて個別性の高い商品だし、消費者の物件選考要素は多様化しており、それこそ十人十色、千差万別。様々なファクターを可視化したところで役に立たない場合も想定される。例えばコミュニティ。三津川氏はコミュニティを可視化したいと語った。記者も大賛成だ。これが実現したら中古市場は変わるはずだ。

 しかし、「コミュニティなど関係ない」という消費者は少なくない。〝コミュニティ濃密〟などと表示したら即選考の対象外にされる物件もあるはずだ。街のポテンシャルも測りづらい。そのあたりをどうするかが課題だろう。

 それでも「検討会」には大いに期待したい。流通業界に風穴を開ける気持ちで取り組んでいただきたい。 

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「スムストックシンポジウム2015」(御茶ノ水:連合会館で)

 良質な中古住宅の流通を促進する事業を行っている任意団体・優良ストック住宅推進協議会(会長:和田勇・積水ハウス会長兼CEO)は3月13日、「日本の中古住宅流通が変わる」をテーマにした「スムストックシンポジウム2015」を行った。

 「スムストック」は、わが国の主要ハウスメーカー10社とその流通グループからなる①住宅履歴 新築時の図面、これまでのリフォーム、メンテナンス情報等が管理・蓄積されている②長期点検メンテナンスプログラム 建築後50年以上の長期点検制度・メンテナンスプログラムの対象になっている③耐震性能 「新耐震基準」レベルの耐震性能がある-の基準をもとに「スムストック査定」を行い、その基準を満たした住宅のこと。

 一般的に、中古戸建ては築20年で建物の評価はゼロになるが、スムストックは20年を過ぎても新築時の3割くらいの価格が維持されており、ほぼ査定された価格で成約されている。

 ハウスメーカーが供給した戸建てストックは353万戸あり、毎年約1.4万戸が流通市場で取引されており、このうち約1,200戸が10社とその流通グループを通じて成約されている。累計の成約件数は3,644棟。

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 中古の戸建て住宅が仲介市場でほとんど評価されない、物件によっては買った時点で中古並み、つまり建物価格がまったく評価されない現状を考えると、スムストックは市場で正当に評価されている。

 この10年間の成約件数約3,600棟が多いのか少ないのか、そのうち10社とその流通グループの流通捕捉率が10%に満たないのはどう評価していいのか記者は分からないが、圧倒的に仲介営業力が欠けるハウスメーカーの現状の反映だろうとは思う。流通事業を拡大し、各社の営業マンとの連携を強化すればもっと伸びるはずだ。今後の一層の活動に期待したい。

 建築後20年で建物評価額がゼロという一般住宅の「常識」についても早急に改善すべきだろう。

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 シンポジウムで記者が違和感を覚えたのは、中川雅之・日大教授が基調講演の中で「情報の非対称性」が流通促進を阻んでいる大きな要因として取り上げたことだ。

 中川氏にとどまらず、多くの方がこの「情報の非対称性」やら「利益相反」を持ち出す。中川氏が持ち出した論理はこうだ。

 きちんと管理されていない中古住宅を売りたい売り手の希望価格を50とし、良好に管理された中古住宅を売りたい人は100の希望価格を付けたとし、一方、良好に管理されているかどうか判断できない消費者は2分の1の確率で高品質を希望し、2分の1の確率で低品質を希望すると仮定し、一定の計算式で付値を85とはじき出す。つまり、付値が85だから、50なら売ってもいいと考える売り手の低品質住宅だけが成約し、高品質住宅が壊滅するという論理だ。

 しかし、この論理には当初の仮定に問題がある。そもそも一般の売り手と買い手には中古がどのように評価されているか分からないはずだ。だから「50で売りたい」「最低100で売りたい」という考えそのものが成り立たない。買い手にとってもいったいいくらで買えるのか予備知識がなければ皆目見当がつかないはずだ。

 だからこそ、専門のプロである不動産仲介業者が介在する。宅建取引主任者(4月1日から宅建取引士に名称変更)が実際に仲介役を果たす。宅建業法では取引主任者の資質についてはほとんど触れられていないが、本来的には売主にも買主にも偏らない公平な立場で物件価格を査定することが求められるはずだ。よって仲介業者が介在する取引では「情報の非対称性」も「利益相反」もあってはならないことだと記者は思う。だからこその「士」への〝格上げ〟ではないのか。

 そもそも「情報の非対称性」「利益相反」が堂々と関係者の間で流通していること自体、不動産流通業界が売主や買主に偏った仕事をしているように言われているようではないのか。記者は不愉快だ。

 ひとつ追加すれば、実際の不動産取引では、居住面積や設備仕様、コミュニティの熟成度、住環境などの質(質とは何ぞやという問題はあるが)よりは、交通便や将来の値上がり期待・思惑(それも質の一つだろうが)がより重要視されて価格が決定されている。「売り急ぎ」「買い急ぎ」などの特殊要因も価格を左右する。「不動産は生き物」ということだ。机上で決まるものではない。

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 不動産仲介会社のみなさん。この記事の最後「『不動産は生き物』ということだ。机上で決まるものではない」に対して、記者がもっとも信頼する不動産仲介に詳しいある記者から「不動産は生き物だ。机上で決まるものではないという理屈で、まっとうな査定をしてこなかった仲介業者の罪は重い」と指摘を受けた。

 ぐさりと胸を衝かれた思いがした。記事は記者が思ったことを書いたのだから、的外れであっても訂正も削除もしないが、心当たりのある「宅建士」は少数派であることを祈りたい。

 

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 国土交通省は3月13日、東洋ゴム工業が平成15年から23年にかけて製造した免震材料に建築基準法の基準を満たさないものがあると同社から報告があったと発表した。

 現時点で大臣認定不適合が判明したのは55棟(販売された免震材料は2,052基)。

 物件の所在は宮城県5棟、福島県1棟、茨城県2棟、埼玉県3棟、東京都5棟、神奈川県6棟、新潟県1棟、長野県1棟、静岡県4棟、岐阜県2棟、愛知県5棟、三重県4棟、京都府1棟、大阪府2棟、香川県1棟、愛媛県2棟、高知県9棟、福岡県1棟。物件の用途は共同住宅25棟、庁舎12棟、病院6棟、倉庫4棟、データセンター2棟、工場2棟、研究施設1棟、個人住宅1棟、事務所1棟、複合施設1棟。物件の規模は15階建て以上のものが10棟程度。

 同省は同日付で、免震材料の大臣認定を取り消し、同社に構造安全性の検証などを行ない、報告することを求めた。

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 詳細は分からないが、たいへんな事件だ。一部は不正であることを承知して大臣認定を取得したというから悪質だ。業界は姉歯で懲りているはずだが…。

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掘削機(本体は直径250ミリ、長さは6m)

 ポラスグループのポラスは3月12日、同社グループが担当してした地盤改良事業を分離して新会社「シバテック」を設立し、新たに開発したオリジナルの地盤改良工事を武器に他社にも販売していくと発表した。

 新たに開発した地盤改良工法は「SF-Raft工法(エス・エフ・ラフト)」で、既存の「柱状地盤改良工法」と比べ地盤に影響されず、工期が短縮できるなど10~40%のコストダウンが可能という。すでにグルーブの戸建て約200棟の施工実績があり、掘削機を増強して他社にも販売していく計画だ。特許申請中。

 発表会に臨んだシバテック取締役・上島正彦氏は「現在、掘削機は2機しかないが、9月にはもう1機できる。来期の他社販売目標は20棟。将来的には大きな会社にしたい」と抱負を語った。事業開始は2014年11月。中内晃次郎氏が社長。従業員数は13名。

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 専門的なことは省くが、技術を開発したのは同社グループのポラス暮し科学研究所生産グループG係長・菊地康明氏ともう一人の女性スタッフの二人。菊地氏は現場説明会で「2人がメインで開発した。地盤改良には選択肢が一つしかなかった。結果、過剰なコストがかかるものもあった。新しい技術はこれまで100万円かかったものが50万円で済ませるケースもある」と自信満々に語った。

 従来工法は地盤を掘削し、セメントスラムと地盤を混合・撹拌する作業に手間がかかるのに対し、新たに開発した工法は最深部まで掘削したあと、固めの特殊なセメントミルクを吐き出しながら掘削機を引き上げるもので、残土もほとんど出なかった。

 菊地氏は、毎年行われる木造耐力壁ジャパンカップのメンバーでもあり、同社RBA野球出場チームの主軸のひとり。野球は確実に走者を進める安打や進塁打を放つ打撃が持ち味。

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施工方法を説明する菊地氏

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 新会社・施工方法現地説明会と同時に行われた4つのリゾートをテーマにした「パレットコート越谷レイクタウン」(98戸)のモデルルーム見学会では地中海をモチーフにした〝オリーブ・カーサ〟2棟が公開された。

そのうちの1棟は、土地面積約150㎡、建物面積約101㎡、価格4,380万円。土間収納・下部収納、中2階のリビングスペース(7畳大)が付いているのが特徴。

「パレットコート越谷レイクタウン」は昨年11月から分譲開始。これまで42戸を供給し、26棟が契約済み。

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公開されたモデルハウス

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「住まいから社会を変える」(左)と「片づく家の収納レシピ」

大和ハウスは収納に関する書籍「片づく家の収納レシピ」

 積水ハウスと大和ハウス関連の新刊本がそれぞれ発刊された。前者は積水ハウス会長兼CEO・和田勇氏が著した「住まいから社会を変える」(出版:日本経済新聞出版社、四六判256 ページ、本体価格1600円)と、大和ハウスが監修した収納に関する書籍「片づく家の収納レシピ『収納』と『動線』でつくるここちよい家」(出版:学研マーケティング、B判変形95ページ、本体価格1000円)だ。

 「住まいから社会を変える」は、筆者がトップ営業マンから、「環境」で時代をリードする経営者へ。日経連載「私の履歴書」に独自のオピニオンを加筆したもの。

 第Ⅰ部は、2013年11月に日経新聞「私の履歴書」に掲載されたものに1話追加し、第Ⅱ部は社長就任から現在まで日経新聞に掲載されたものを再録、第Ⅲ部は住宅の未来像を綴ったもの。

 記者が注目したのは、筆者が1998年4月に社長に就任したあとのバブル処理だ。バブルは1990年にはじけるのだが、業界には楽観論が蔓延していた。地価が下がり続けるなど露ほども思わなかった。同社もそうだったようだ。

 ところが筆者は「これは危ない」と「営業的な直観」を感じ、「分厚い資料より現地だ」と「負の遺産は早めに処理して、財務体質を強くする」ことを決断。2000年1月期に多額の評価損を計上するのだが、負の遺産を一掃するのに10年。バブルの底の深さを改めて思い知らされる。営業本部長会で、「私の判断が間違っていたら、この本部長会が私の送別会になるかもしれない」と話した生々しい場面も紹介されている。

 もう一つ、第Ⅲ部の「パッション」に関する記述だ。筆者は「成長経済を知らない今の若者たちは、社会に対してどこか委縮…殻にこもったまま、内向きのまま、井の中の蛙でいると、この狭い島国に未来はありません。…結局は、人と人です。私もまだまだ、いろんな出会いの中で、『パッション』を感じてビジネスがしたい。そんな私と『パッション』を感じ合える若い日本人ビジネスマンの登場に期待しています」と締めくくっている。若いサラリーマンにお勧めの本だ。

 「片づく家の収納レシピ」は、同社オリジナルの収納システム「しまいごこちイージークローク(ダイワハウス×近藤典子)」をはじめ、生活や家事の動線に沿った収納配置など、これまでお客さまの収納に関するお悩みをもとに快適な住まいを提案してきたノウハウを「収納レシピ」として紹介している。

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「梅田町復興公営住宅」

 三菱地所レジデンスは3月11日、仙台市に16事業ある仙台市復興公営住宅公募買取事業のうち2 棟目、仙台市青葉区では1 棟目となる「梅田町復興公営住宅」(66 戸)が竣工し、仙台市に引き渡したと発表した。

 建物は鉄筋コンクリート造10階建て。専用面積は35.72~75.20㎡。同社が建設した建物を仙台市が買取ったもの。

 防災力・省エネルギー・低炭素化に配慮した建物とするだけでなく、入居者のコミュニティと周辺地域の既存コミュニティの円滑な融合を図るため、趣味の集いなどで周辺住民とともに利用ができる集会所を1 階に配置。集会所へのアプローチは住居へのアプローチと分けることで周辺住民も利用しやすい計画としている。

 ◇     ◆   ◇

 復興公営住宅についてはまったく知らない。福島県は原子力災害に関する災害公営住宅の計画戸数が一部未確定だが、決まっているものだけで被災3県全体で約53,000戸が計画されている。1件当たり数戸規模から100戸単位の大規模なものまである。地域、住民の実情にあわせなければならないだろうから、それだけきめ細かな計画が必要なのは十分理解できる。

 素人の考えでは、入居者は自力で住宅再建が困難な低所得者や高齢者が多いのだろうから、住宅プランもバリアフリーはもちろん、コミュニティ形成に配慮したものにしなければならないと思う。

 参考になるのは、先に竣工した岩手県釜石市の「釜石市上中島町復興公営住宅」210戸だろう。「民設市買取型スキーム」により新日鐵住金が所有する敷地に新日鉄興和不動産が建設し、建設後に釜石市が買い取ったものだ。

 スチールハウス工法と鉄骨造を組み合わせて工期短縮とコストを抑制したのが特徴だが、記者はプランに注目した。隣接する住戸のバルコニー間の隔て板を取り払ったコモンバルコニーを設置し、隣接する居住者間で「見守り」を兼ねたコミュ二ティの醸成を図ろうという試みが斬新だ。

 似たものでは積水ハウスが未来住宅として提案したのを見ているが、それは開放廊下側にコモンスペースを設けたものだった。バルコニー側に設置した共同住宅など過去にないはずだ。公営住宅だから踏み切れたのだろうが、よくぞ実現した。

 きちんと検証して結果を報告して欲しい。これが成功すれば分譲マンションにも応用できるかもしれない。

 業界紙の「住宅新報」が最新号でこの公営住宅について特集しているようなのでしっかり読みたい。

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「釜石市上中島町復興公営住宅」
 

カテゴリ: 2015年度
 

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