「多摩NTに風が吹く」 女性の仕事・子育て・地域活動を考える 多摩NT学会が討論会
「多摩ニュータウンと女性―仕事、子育て、地域活動」(首都大学東京で)
多摩ニュータウン学会が6月4日、「多摩ニュータウンと女性―仕事、子育て、地域活動」と題する討論会を行った。「都心回帰」が進む一方で、職場から遠い郊外は仕事と子育ての両立が難しく、離職につながったり既婚女性は非正規雇用を選択せざるを得なくなったりする研究データをもとに、多摩ニュータウンで活動するNPOや保育園長、都市環境研究者などが問題提起を行い、参加者とともに考えるのが趣旨。
同学会の理事で東洋大学社会学部准教授・荒又美陽氏が司会進行役を務め、「たまこ部」永山氏と秋好氏、せいがの森保育園園長・倉掛秀人氏、NPO法人シーズネットワーク理事長・岡本光子氏、首都大学東京都市環境学部教授・松本真澄氏がそれぞれの立場から問題提起を行った。
荒又氏
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討論会後の懇親会で参加者の方が「風が吹いている」と話した。記者もその通りだと思う。後述するように、一般的な子育てファミリーの居住環境は悪化の一途をたどっているが、地域に住む子育て女性はお互い手を取り合い、緩やかではあるがさわやかな「風」を多摩ニュータウンにもたらしていると感じた。
永山氏と秋好氏は、「たまこ部は我が家のマンションの資産価値が下がらないように」という動機から発足した若いママさんたちの団体で、多摩センター周辺のグルメ、子育て、街づくりなどの情報を発信し、たまり場ともいうべき「親子カフェ」を設け活動していることなどを紹介。「保育園拡充で多摩市生きよ!」と結んだ。「積極的、ポジティブに考えるようにしている」という若者らしい言葉が印象的だった。
秋好氏(左)と永山氏
倉掛氏は「本当は3時間くらい話したい」と前置きしながら、「赤ちゃんが生まれる前後からサポートする環境が大事」「すべての子どもが育てられる共生の街づくりが欠かせない」「人類は親だけで育ったことはない」「保育園はコミュニティの一翼を担うべき」「子育てなど集中的にお金を使うデザインが必要」などの問題を提起。「保育所は朝の7時から夜の7時までオープンしているが、7時番の保育士のことも考えて」と訴えた。
倉掛氏
岡本氏は、原稿を用意し、一字一句わかりやすく語りかけた。これまで10年間のNPOによる一時保育、人材育成、アンテナショップの受託など様々な子育てやコミュニティ支援の活動を紹介。「子育てしながら社会とつながっていたい」という主婦の声を代弁した。
岡本氏
松本氏は、この50年間の間に個人の生活がドラスティックに変化し、核家族が固定化した社会・経済環境の下では「価値観の変化に対応する時間と空間をシェアする生き方が求められる」とし、一方で、「今の社会は〝下りエスカレータ〟であることを覚悟しなければならない」と学生にいつも言っているそうだが、「危うさを感じる」と話した。
松本氏
多摩ニュータウンの開発に携わった参加者からは「子ども・子育ての視点から街づくりを行わなかった反省はある」との声が聞かれた。
首都大学東京キャンパスは野草の宝庫
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埼玉大学准教授・谷謙二氏が「大都市圏郊外における居住と就業」と題する興味深い論文を最新刊の「多摩ニュータウン研究 №18」へ寄稿されている。
谷氏は戦後の東京圏の人口動態や移動、就業・雇用データを駆使して大都市圏の郊外居住が抱える問題点を指摘、1990年代の後半あたりから都心部への通勤が減少し、非正規雇用の比率が増大していることを明らかにした。以下、その一部を引用する。
「(多摩市から)都区部への通勤者数は1990年の2万6千人をピークとしてその後は減少し、2010年では1万8千人となっている。その就業者数に占める比率も低下し、1980年には46%もあったものが、2010年には26%まで低下している」
「1990年代前半までは、ファミリー向けの住宅供給が郊外に偏っており、結婚後は郊外に転出せざるを得なかった。しかしバブル崩壊後、都心周辺部の…手頃な価格のファミリー向け分譲マンションが供給されるようになった…郊外に転出する必要がなくなった」
「90年代後半以降、それまで正規雇用が一般的だった若年者においても、派遣やアルバイトなど非正規雇用が拡大した」
「都区部の常用雇用者に占める正社員の比率は69.6%なのに対し、郊外は56.1%と低い。この傾向は特に女性従業者で顕著で、女性の場合は都区部の正社員比率53.8%に対し、郊外は36.8%と、17ポイントもの開きがある。郊外で女性の正規雇用の割合が低いのは、結婚・出産でいったん退職した後に再就職する際、時間を調整しやすい非正規雇用につくという傾向が強いという労働力の供給側の理由もある」
「90年代後半以降の人口移動動向の変化により、郊外への人口移動は減少し、また郊外から都区部への通勤者は減少し、非正規雇用が増大する中で職住近接が進みつつある。少子化・高齢化の進展により、単身世帯、DINKS世帯も増加して、人々のライフスタイルは多様化している」
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「ライフスタイルの多様化」とはよく言われる。確かに「地域」より「家族」、「家族」より「個」が重視される社会にあって、個々が多様な生き方ができるように見える。
しかし、記者はアッパーミドルや富裕層はともかく、普通の中堅所得層は自らの意志で様々な暮らし方を選択する自由はほとんどないと思っている。
生活の基盤である住宅にそれは象徴的に表れている。新築か中古か、マンションか一戸建てか、分譲か賃貸か選択肢はたくさんあるように映るが、それぞれに一長一短があり選択は容易でない。
東京のマンション事情について概観すればそれはよくわかる。谷氏が言うように「バブル崩壊後、都心周辺部の…手頃な価格のファミリー向け分譲マンションが供給されるようになった…郊外に転出する必要がなくなった」のも事実だ。しかし、これは長くは続かなかった。平成7、8年ころからの数年間とリーマン・ショック後の数年間くらいしかない。この間、子育てファミリーは市場の波に翻弄された。
そして現在、都心部のマンション価格は暴騰し、もはやサラリーマンの手が届く範囲をはるかに超えてしまった。都心3区のマンション坪単価は最低でも500万円を超え、20坪で億ションとなる。
そればかりか、都内23区でも交通利便性の高いエリアは坪300万円を突破し、ほとんどの地域で坪250万円以上となっている。ファミリー向けの20数坪で6,000万円というのが相場だ。ローン金利が低いとはいえ、多額の借金を抱えるリスクが付いて回る。
都心部が絶望的で、23区内でも取得が難しくなったいま、「都心回帰」の選択肢があるのは一部の恵まれた層だけだ。一般的な子育てファミリーは「都心回避」する道しか残されていない。
耳障りのいい「職住近接」も、職業選択と居住の「自由」を享受できる層は限られている。お金のない人が職を確保することを重視すれば、「より広い」郊外型を断念し、「より狭い」住宅へ移り住むしか選択肢はない。
「都心回帰」の自由も「職住近接」の選択肢も奪われた子育てファミリーは、谷氏が指摘するように「時間を調整しやすい非正規雇用」という「労働力の供給側の理由」によって郊外居住を選ばざるを得なくなる。
生きるために子どもを育てるために居住性も職を犠牲にせざるを得ない現状は悲劇だ。「保育園落ちた日本死ね」という悲痛な叫びはわれわれの胸にぐさりと突き刺さる。
これは、ネオリベラリズムの社会の隅々への浸透の結果というべきか。
会員の都市計画工房代表・成瀬恵宏氏(懇親会で。成瀬氏とは10年くらい前か、ひょんなことからご一緒に多摩ニュータウンのすし屋で歓談したことがある。最近はイラクだかアフガンだか、インド、パプアニューギニアなどの街づくりに参画している。赤に近い派手なオレンジのシャツなどは岡本太郎でも着なかったのではないか。このデザイン感覚が信じられない。会場には奥さんもいらっしゃった)
「多摩NTにおける人的不良在庫」 吉川徹・首都大教授が軽妙発言
「既存住宅市場活性化元年の年に」 FRK・田中理事長
田中理事長
不動産流通経営協会(FRK)・田中俊和理事長(住友不動産販売社長)は6月9日、同協会定時総会後の懇親会で、「当協会は平成10年に『バリューアッププラン』と称し、独自にインスペクションを実施したことがあるが、残念ながら、ほとんど利用されなかった。今回は国をあげて位置づけて頂いたので、施行まで2年あるが、今年を『既存住宅市場活性化元年』と位置づけ、インスペクションの本格スタートの年にしたい」と語った。
また、今年4月にスタートした新・住生活基本計画に掲げてある「市場規模倍増に向け、私共も官民一体となって目標達成したい」と述べた。
不動産流通市場については、「この1年間の不動産流通市場は成約件数、平均価格とも前年を上回り、『好調」と言える1年だった。既存住宅の需要は底堅く、新年度に入ってもレインズの数字は好調を維持している」と話した。さらに、また、「囲い込み問題の懸念に終止符を打てるものと確信している」と問題解決に意欲を示した。
さらに、「業界の課題は営業手法、法律、ITと多岐にわたるとともにスピードが求められ、既存の委員会などでは追いつかない状況と判断し、私の諮問機関として、協会内部に『これからの不動産流通を検討する会』(通称これ検)を立ち上げた」と発表した。
総会後の懇親会(ホテルオークラ別館で)
RBA不動産流通カップ(野球大会)で優勝した住友不動産販売の岩井重人会長(FRK顧問=右)と準優勝した野村不動産アーバンネットの宮島青史会長(同理事)
「多摩NTにおける人的不良在庫」 吉川徹・首都大教授が軽妙発言
吉川氏
首都大学東京教授で多摩ニュータウン学会の理事を務める吉川徹氏が「多摩ニュータウンにおける人的不良在庫」という、極めて刺激的で機知に富みかつ本質をついた、ひょっとすると今年の流行語大賞にノミネートされそうな言葉を発した。6月4日に行われた学会が主催する「多摩ニュータウンと女性」と題する討論会場での質問に答えたもの。
「人的不良在庫」発言のきっかけはこうだ。
討論会では、「たまこ部」の永山菜見子氏・秋好宏子氏、せいがの森保育園園長・倉掛秀人氏、NPO法人シーズネットワークの岡本光子氏、首都大学東京助教・松本真澄氏がそれぞれの立場から問題を提起した。
記者は、問題提起者が楽観的、ポジティブに多摩ニュータウンについて語ったのに対し、「多様なライフスタイルといわれるが、普通のサラリーマンにとって多様な選択肢などない。都心のマンションは20坪で億ションになり、23区でも子育てファミリーマンションは6,000万円くらいする。時間と空間をシェアするなどとてもできない。絶望的な世の中にしたのはわれわれ団塊の世代の責任だろうが希望もある。学会と多摩ニュータウンを再生・活性化させるためには、吉川先生が仰ったマンションなどのハードとしての『在庫』と、老人力といっては失礼だが、この方々のソフトとも言うべき『知見』を結び付けるべきではないか」と質問した。
この質問に対して、20歳代と思われる永山氏が「そのようなおじさん、どこにいるんですか」と鋭く切り返してきた。
ドキッとした記者はとっさに「西浦先生に聞いてください」と振ったら、西浦氏は自らの論文の締め切りが迫っているのかパソコンに熱中されており、「ダメ」の目線を送られたので、「吉川先生、お願いします」と下駄を預けた。
すると吉川先生は「『年度』ごとに同じメンバーだけで凝り固まるのが悪い。学会もそう。年度ごとに(会員が)いなくなる。リノベして戻ってくるような、豪胆な人的在庫の組み換え、たな卸し(棚ざらしとは仰らなかったはず)をしないと人的不良在庫化する。世代間の交流がなく、若い人に知見が受け継がれていないのも問題。(高齢者を)おだてて引っ張り出してはどうか」と話した。(「年度」というモノサシに注文をつけられたのに大賛成。高齢者の時間はゆったり流れる。どうしてテニスと同じ時間でものごとを測ろうとするのか、世の中が間違っている)
吉川氏は最近発行された「多摩ニュータウン研究 №18」で、吉川氏が「大好きな」ショスタコーヴィチが他の作曲家の旧作から頻繁に「引用」「転用」したことを紹介し、「優れた建築物や基盤施設の『在庫』に満ちた多摩ニュータウン」の「在庫」を「引用」「転用」してはどうかと結んでいる。
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記者も学会の末席を汚しているのだが、ここで学会の紹介。
何よりいいのは年会費3,000円で学者先生の論文が読めることだ。学会誌は横文字で、表記が句読点ではなくカンマ・ピリオドのため、老眼のため区別がつかない年寄りには全然親切ではないのが残念だが、会費が会費だから文句は言わない。
それより素晴らしいのは、新潟県出身の学会会長・西浦定継氏(明星大教授)が会合のあとの懇親会などにショスタコーヴィチ級の1杯で3,000円の価値がありそうな特上の日本酒をプレゼントしてくれることだ。この日も、獺祭と同レベルという山口県の「雁木」と佐渡島の「風和(かぜやわらか)」に、赤と白のワインまで大判振舞をされた。
もうひとつは、総会などの会場となる首都大学東京や明星大学のキャンパスの自然と触れ合うことができ、大学の先生はもとより若い学生さんなどとも交流できることだ。知的な刺激は間違いなくボケ防止につながる。
つまり、①年間3,000円で論文が読める②1杯3,000円の酒がタダで飲める(この日は予定参加費2,000円が消費増税も延期されたためか1,000円にプライスダウンされたのがうれしいやら悲しいやら)③若者・(記者のような)馬鹿者・よそ者と交流できる-こんな素晴らしい会はない。「不良在庫化」しないためにも高齢者にお勧めだ。わが国の社会・経済状況を映す鏡のように予算も決算もどんどんシュリンクする学会を活性化させていただきたい。学会のリンクを貼り付ける。
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これはおまけだが、吉川先生は相当な「ショスタ」ファンだ。ここに音楽をこよなく愛した作家・辻邦夫のエッセー「わが音楽遍歴の風景」の一部を紹介する。「小説」の代わりにあらゆる仕事が当てはまるのではないかと思うからだ。
「現在、世界が危機に晒され、人々が頽廃と混迷の中に喘いでいるにもかかわらず、私が、廻転するコマの中心にも似た不動の一点に身を置いたような感じで世界を見られるのも、この<美なるもの>が私の運命の始まりであり、終わりであると思えるからだ。官能の陶酔に根ざしながら、官能を超えて精神の全オクターブを激しく燃え立たせ、その一瞬に『すべてよし』と叫ばせるような、そうした高揚した甘美な恍惚と充実と解脱感を、私は<美なるもの>の根源的特徴と考えているが、音楽の形でそれを受け取り、小説の形でそれを吐き出すことが、私の唯一の在り方なのだ。私はそれ以外のどんなものも欲しくない。そのかわり音楽を聴くことと小説を書くことだけは何としても与えてほしい。それだけは、大地に跪いても、懇願しつづけるつもりである」
西浦会長と理事の荒又美陽氏(東洋大准教授) 荒又氏はこの日(6月4日)が誕生日とかで、総会・討論会後の懇親会でケーキをプレゼントされていた(首都大学東京で)
アットホーム 今度は恐ろしくぞっとしない「転勤」の実態アンケート
不動産情報サービスのアットホームが再び三度四度また旅面白いというか、今度は恐ろしくぞっとしないアンケート結果をまとめ発表した。住宅購入をした後に転勤を命じられた既婚サラリーマン男性(現在転勤先で生活中)598名を対象に、購入した住宅をどうしているか、後悔はしていないか、夫婦仲はよくなったか、単身赴任者が自宅に帰る頻度などについて聞いたという。
それによると、「購入後に転勤で引越ししたけれど住宅購入して良かった」と答えたのは全体で77.8%にのぼり、後悔していないことがうかがわれる。ただ、単身者(全体で259名)と非単身者(全体で339名)とでは、その数字は88.8%、69.3%とやや差があり、非単身者の約3割は「良かった」とは思っていないようだ。
非単身者に購入した自宅をどうしたかについて聞いたところ、「売却」が37.5%、「賃貸」が26.8%、「家族や親族が住んでいる」が23.3%だった。
夫婦仲についての質問には、「単身赴任をして良くなった」が34.0%、「家族一緒に赴任して良くなった」が46.4%となった。「どちらでもない」は単身者が51.0%、非単身者が41.8%。「いいえ」は単身者が15.1%、非単身者が11.8%だった。
単身赴任者に自宅に帰る頻度を聞いたところ、もっとも多いのは「月1回」で30.9%、次いで「2週間に1回」が19.3%、「週に1度」が17.0%。「全く帰っていない」の4.6%を含めた「2カ月に1回」以上の人は30.0%に達した。
また、非単身者が「一緒に来てくれてうれしい」と答えたのは77.6%で、「実は単身赴任してみたい」という人も19.8%あった。
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記者は転勤の経験が全くないのでよくわからないが、妻が出産で実家に帰っていたときは毎晩のように飲み歩いていた。どこかの議員さんのような「浮気」では絶対ないが、いかがわしい店も利用したことがある。やはり単身居住は耐えられない。
なのに、回答者の30%が2カ月に1回以上で、「全く帰っていない」という人が4.6%もいるのにショックを受けた。回答者の年齢は50歳代が43.5%、40歳代が33.3%、60歳代が10.5%で、平均年齢は49.8歳だ。
この前、矢野龍氏(76)が木住協の会長職を退任するときのあいさつで「安田善次郎は『50、60は洟垂れ小僧、70は働き盛り、80、90は男盛り』と言った。その伝で言えばわたしは青春を謳歌する年齢。80、90で男盛りになれるかどうかは嫁さんとよく話し合う」と爆笑を誘ったが、洟垂れ小僧にも満たない血気盛んなサラリーマンがどうして一人で暮らせるのか。これはひどい。完全な家庭の破壊ではないか。企業にも問題がある。家に帰る費用くらい会社負担にすべきだ(そうしている会社は少ないはずだ)。
「孤閨」「鰥夫(やもめ)」が死語となり、男も女も〝おひとりさま〟が日常化、当たり前のぞっとしない時代になったようだ。こんな現状が続くなら「一億総活躍」は永遠に訪れない。
「実は単身赴任してみたい」という非単身者が19.8%あったというが、その気持ちはわからないではない。羽を伸ばそう、羽目を外そうというのは誰しも考えることだ。しかし、やってごらんなさい。どんなみじめな経験をさせられるか、やった人に聞くといい。
「消費増税先送りはプラスに働く」 プレ協・樋口武男会長
樋口会長
プレハブ建築協会・樋口武男会長(大和ハウス工業会長兼CEO)が消費増税問題について、「足元の住宅市場は集合住宅は大変好調に推移しているが、一戸建ては伸び悩んでいる。消費増税が実施されれば戸建てに影響するのを懸念している。増税の先送りは住宅業界だけでなく全体の景気にとってプラスに働くことを期待したい。財政出動も必要ではないかと考えている」と、安倍総理大臣が増税の先送りを指示したことに理解を示した。5月31日に行われた同協会の定時総会後の記者会見で語った。
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増税の先送りについては、住宅生産団体連合会(住団連)・和田勇会長(積水ハウス会長兼CEO)が5月26日の木住協の懇親会で「いつも駆け込みやその反動で苦い思いをさせられる。今回はどうやら延期になりそうな雲行きで、拍手喝さいしている」と述べた。
一方、不動産協会の木村惠司理事長(三菱地所会長)は5月12日に行われた同協会の総会後に「早めに決めていただき、軽減措置など対応もきちんとしていただきたい。先送りしても5年、10年にはまた問題が浮上する」と、消費増税を実施すべきとの考えを示した。また、岩沙弘道会長(三井不動産会長)も「景気対策を立てたうえで実行すべき。財政が厳しいのは論を待たない。政府が国際公約として掲げているプライマリーバランスの黒字化は喫緊の課題」と語っている。
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このように、住宅業界とデベロッパーのトップの考えが真っ向から対立している。どちらが正解か記者も分からないが、肩透かしを食らったような気分だ。
安倍総理は再三「リーマンショックのような事態が起きない限り実施する」と語ってきた。景気判断は海外動向も重視すべきなのは当然だろうが、海外リスクはいつも伴う。世界を揺るがすような災害・内紛・戦争の火種は山ほどある。それこそ天が降ってくるという杞憂が現実のものになるのではないかという危機感が充満している。
しかし、そんな心配ごとを選挙の道具にしていいのか、釈然としない。「景気の気は気持ちの気」というではないか。賃金は上がっていないが、企業業績も雇用も上向きだ。せっかく2020年のオリンピック・パラリンピックに向け景気の回復に期待が掛かる中、増税の先送りは消費マインドを冷え込ませないか心配だ。肝心の「三本の矢」の矢を放つ寸前で待ったをかけられたような失望感を感じる。8合目あたりの梯子を外されたような気分だ。今日の樋口会長もだれかに遠慮しているのか、歯切れが悪かった。いつもの樋口節が聞かれなかった。
私見だが、増税が先送りになっても一戸建てが劇的に上向くとはとても思えない。むしろ逆ではないか。様子見を決め込むユーザーが増えるような気がしてならない。
「time flies like an arrow 光陰〝矢野〟如し」 木住協・矢野会長(住林会長)が退任
矢野氏
日本木造住宅産業協会(木住協)の会長を15年間にわたって務めた矢野龍氏(住友林業会長)が退任したことを書いたが、矢野氏は総会後の懇親会で、15年間の会長職を「time flies like an arrow 光陰矢野如し」と絶妙な言い回しで振り返った。
記者は、この矢野氏(76)と大和ハウス工業会長兼CEO・樋口武男氏(78)、積水ハウス会長兼CEO・和田勇氏(75)をハウスメーカーの〝雄弁御三家〟と呼んでいる。三社とも関西が発祥で、三氏とも年齢が近く、〝毒〟を含んだ関西弁を平気で使い、自らの土俵に引き込む話術が巧みというのが共通している。
矢野氏は登壇するといきなり「今まで皆さん大切な話をされていた。やっとわたしの番が回ってきた。自由になった喜びを話せるときがきた」とジャブを放った。(それまで国交省、林野庁など5名の挨拶があった)
そして、すかさず「在任期間を振り返ると『time flies like an arrow 光陰矢野如し』」と、流暢な英語を交えカウンターパンチを繰り出した。会場は一瞬あっけに取られたようだったが、やや間を置いて笑いが漏れた。矢野氏は北九州大学外国語学部卒で、住林では10年間アメリカ勤務経験があり、「僕は通訳の資格も持っている」英語のプロだ。
この飛び切りの「arrow」と「矢野」を掛けた〝親父ギャグ〟に意想外にもたいした反応を示さない参加者に愛想をつかしたのか目を覚まさせようと思ったのか、矢野氏はG7サミット各国の代表者の年齢を紹介した。
「ドイツのメルケル首相とフランス・オランド大統領は61歳、安倍さんも61歳、オバマ氏は54歳、イギリス・キャメロン首相は49歳、カナダ・トルドー首相は44歳、イタリア・レンツィ首相はわたしの娘と一緒の41歳…みんな若い。わたしは76歳。立派な後期高齢者になりました。安田善次郎は『50、60は洟垂れ小僧、70は働き盛り、80、90は男盛り』と言った。その伝で言えばわたしは青春を謳歌する年齢。80、90で男盛りになれるかどうかは嫁さんとよく話し合う」と爆笑を誘った。(故・安藤太郎氏は90歳を超えてもゴルフをされていた。家庭での主導権は奥さんが握っていた)
ここから15年間を振り返って会長職として印象に残る活動を紹介。「住宅税制についてはちゃんとすべき。これは和田さん(住団連)、市川さん(木住協)に何とかしていただきたい」と注文をつけた。
最後は「政治家とは仲良くできなかったが、国交省とは天敵の那珂さんをはじめ亡くなられた山本さん(元山口県知事)などと仲良くさせていただいた。井上さん(前住宅局長)とは戦わない」などとジョークを飛ばす一方で、「(わたしの後任の)市川さんはIQが相当高いし、品格がある。わたしとの比較においてだが。座右の銘は『至誠一貫』です。必ず皆さんのご期待に応えるはず。これからも木住協を支援していただきたい」と締めくくった。
後で聞いたら〝天敵〟の那珂(正)氏(元住宅局長)はゴルフのライバルで、「勝ったり負けたり、百獣(スコア110)の争い」だそうだ。歯が立たない井上俊之氏とは戦わないという。
山林取得については「疲弊している森林・林業の振興のため引き続いて増やしていく。国のためだ」と話した。住友林業は数年前に三井物産を抜き森林保有面積で第三位に上昇している。
〝マネシタ電気〟〝三流電気〟〝早いだけ電気〟など関西企業の地盤沈下が目立つが、「住林」「ダイワ」「積水」がわが国の住宅業界をこれからもリードするのは間違いない。「上方」経済を象徴する〝能弁雄弁御三家〟もまた永遠に不滅だ。
住団連・和田勇会長 「消費増税が延期になりそうなのに拍手喝采」
住宅生産団体連合会(住団連)・和田勇会長(積水ハウス会長兼CEO)が消費増税について「いつも駆け込みやその反動で苦い思いをさせられる。今回はどうやら延期になりそうな雲行きで、拍手喝さいしている」と述べた。5月26日に行われた木住協の懇親会で、来賓として挨拶した中で語った。
CO2の削減問題については、「動きを加速させないといけない。そのためにはストック、中古住宅の省エネが重要だ。わたしは『中古住宅』という呼称を改めるべきだと思っているが、いい言葉が見当たらない。『既築』(〝鬼畜〟と記者は理解したが)では具合が悪い」と話した。
安倍総理大臣はG7伊勢志摩サミットで、世界経済の現状について「リーマンショックの前と似た状況にある」という考えを表明したが、宣言には「リーマンショック」の文言は盛り込まれなかったようだ。安倍総理は、消費増税について再三「リーマンショック級の出来事があれば、消費税率の引き上げを延期する可能性がある」考えを示している。
木住協 6代目会長に市川晃氏(住友林業社長) 矢野前会長は退任
市川氏(写真提供:週刊住宅)
日本木造住宅産業協会(木住協)の新しい会長に市川晃氏(住友林業社長)が就任した。5月26日行われた定時総会後に発表した。平成13年度から27年度まで会長を務めた矢野龍氏(住友林業会長)は退任した。
市川氏は、「木住協は今年4月で30周年の節目の年を迎えた。わたしで6代目の会長になるが、わが国の住宅市場で木造住宅の割合は増加しており、期待も大きい。需要の柱としてしっかり社会を支えていきたい。責任の重大さも感じている」と述べた。
28年度の重点項目として、木造耐火建築物、省令準耐火構造の普及に向け2時間耐火を含めた新たな大臣認定や追加承認に努めることや、技術者不足を考慮した生産性向上に向けた調査・研究の実施、国産材の利用促進などを盛り込んだ。
三井ホーム わが国初の5階建て2×4工法による特養が完成
「花畑あすか苑」
三井ホームは5月25日、ツーバイフォー工法(枠組壁工法)では延床面積で国内最大となる5階建て(1階RC造)特別養護老人ホーム「花畑あすか苑」(事業主:社会福祉法人聖風会)が完成したのに伴い、報道陣に公開した。
4層以上の中層木造建築物の地震時の横揺れに有効な新技術としてカナダで開発されたミッドプライウォールシステムを採用した国内初の建物でもあり、建築にあたっては強度を確保するための独自金物を用いたタイダウンシステムを全面的に採用し、個室ユニット組み立てによる施工方法を採用するなどの合理化も図っている。平成26年度の国土交通省木造建築技術先導事業として採択されている。
入居者の募集は4月から始まっており、多床室40床は120件、個室ユニット100床は150~160件の申し込みがあったという。
物件は、足立区花畑4丁目に位置する5階建て(1階:鉄筋コンクリート造 /2~5階:2×4 造)延べ床面積9,773.24 ㎡(2,956.40 坪)。建物用途は特別養護老人ホーム140 室、短期入所生活介護施設20 室、認知症対応型デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、地域交流スペース(防災拠点型)。設計はメドックス。施工は三井ホーム。設備などを含む建築費は約30億円。
エントランス
地域交流スペース(床はシート貼り)
1階部分
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楽しみにしていた見学会だが、予想していた通り外観・内装は放火基準を満たすためにほとんどがケミカル製品で覆われていた。
前回の記事を添付するのでビフォー、アフターを見ていただきたい。
建物の裏側(表情がなかなかよかった)
三井ホーム わが国初のツーバイフォー5階建て(1階はRC)特養が上棟(2015/12/9)
「消費増税すべき」木村、岩沙氏/「増税は最悪」ライフ清水会長 不動協が懇親会
木村氏(左)と岩沙氏(ホテルオークラで)
不動産協会は5月12日、第56回定時総会後の恒例の懇親会を開催した。冒頭、挨拶した同協会・木村惠司理事長は現況の社会・経済状況について触れ、「経済は調子がいいような悪いような、格差や需要の問題など大きな課題を抱えており、曲がり角にあるという印象を受けている」と話し、同協会としては今年3月に発表した「大都市および住生活のあり方に関する提言」を具体的に進めていくことが重要とし、大都市の国際的な競争力の強化と地方の活性化などの街づくり、良好な住宅ストックの形成、不動産を所有・取得することの優位性が保たれる税制などについて取り組んでいくと語った。
消費増税については、「どうなるかわからない。早めに決めていただき、軽減措置など対応もきちんとしていただきたい」と、消費増税を実施すべきとの考えを示した。
懇親会
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取材の目的はただ一つ、消費増税を断行すべきなのか、それとも見送るべきなのかをデベロッパー各社のトップに聞くことだった。アンケート用紙をつくり、片っ端から聞くことも考えたが、同僚の記者から「止めたほうがいい」と言われ、それは断念したのだが、同協会・木村理事長と岩沙弘道会長からは必ずコメントを取ろうと出かけた。
木村理事長は挨拶では「早めに決めていただいて」と話すにとどめ、明言は避けたが、記者には「実施すべき。ここでやらないと。先送りしても5年、10年にはまた問題が浮上する」と、実施すべきと話した。
岩沙弘道会長も、「景気対策を立てたうえで実行すべき。財政が厳しいのは論を待たない。政府が国際公約として掲げているプライマリーバランスの黒字化は喫緊の課題」などと語った。
また、岩沙会長が今年の同協会賀詞交歓会で「今年はデフレ脱却を宣言する年にしなければならない」と述べたことについて質問したが、「宣言できる可能性はある。好循環に向かう方向性が明確になりつつある。雇用は絶好調だし、投資もICTや人材に対する研究開発が活発化しており、マイナス面が強調されている消費に関する家計データは実態を反映していない」などと話した。
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木村理事長と岩沙会長からコメントを取った段階で目的は達成できたと判断したのだが、会場に入るや否や、下にも置かない歓待を受け、ホテルが用意した椅子に座られた方を無視できなくなった。
記者はさび付いた記憶を手繰り寄せようとしたのだが、三井でも三菱でも住友でもどこのデベロッパー関係者でないことが察せられ、かといって派閥の領袖でもなさそうで、周りの人に聞いてもどなたもご存じなかった。
年齢は木村理事長や岩沙会長より一回りも上ではないかと想像したが、その血色たるや、ストレスなどまったくない環境で美食のみを与えられた松坂牛というよりは、むしろ粗食に徹し、まっとうな人生を過ごしてきたからこその賜物でありそうな、まるで乳飲み子のようなふっくらとしたほっぺがピンク色に染まっていた。
そこで〝ここで聞かなければ一生後悔するぞ〟という第六感が働き、〝この機会を逃してなるものか〟と意を決した記者はおずおずと名刺を差し出した。一瞬、その方は胡乱な目を差し向けたが、内ポケットから名刺を取り出した。
名刺には「日本チェーンストア協会 日本小売業協会 國(国ではない)民生活産業・消費者団体連合会 会長 清水信次(株式会社ライフコーポレーション代表取締役会長兼CEO)」とあった。
肩書を見たとたん、消費増税に対する考えは聞かなくても理解したのだが、「会長、消費増税について考えをお聞きしたい」と声をかけた。清水氏はよどみなく持論を展開した。
「増税はやるべきではない。軽減税率は世界一複雑怪奇。日用品、生鮮食料品などは毎日相場が変わる。日本のスーパーは2割、3割引きがザラ。2%どころの軽減税率で何の効果もない。消費増税は実態を知らない政治家が考えることで、カネもかかる。最悪だ。軽減税率を入れるなら(飲食料品ではなく)電気・ガス・水道を対象とするぺき。簡単にできること。
いま一番困っているのは、30~40年前は年収が400万円以上800万円以下の中間層が85%くらいだったのが40%に減り、8%だった低所得者が40%に増加していること。この問題を何とかすべきで、消費増税は危険すぎる」
取材を終え、傍らにいた同社関係者に取材のお礼をし、そのついでに清水氏の年齢を聞いて仰天した。何と年齢は90歳だという。
社に戻ってさらに驚いた。出身地がわが故郷・三重県の津市だった。ウィキペディアには「食品スーパーマーケット『ライフ』を興し、売上高4,700億円という日本最大の食品スーパーマーケットチェーンを一代で築いた。中内功・鈴木敏文・岡田卓也らとともに戦後の流通業界を牽引した人物」と紹介されている。そういえば、清水氏はさかんに「伊勢のな言葉」を発していた。
清水氏
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普段の行いがいいと幸運が舞い込むという見本だ。取材に大満足して帰ろうとし、一服でもと立ち寄った喫煙所で、幸運にも近鉄不動産とグループ会社で、わが故郷・三重県の三交不動産の関係者とばったり出あった。早速、伊勢志摩サミットの波及効果や不動産市況などを聞いた。
近鉄不動産首都圏事業本部 常務取締役本部長・田中孝昭氏には、昨年、同社が分譲した「BLUE HARBOR TOWER みなとみらい」記者発表会でも質問したのだが、サミットのメイン会場となる志摩観光ホテルや駅舎の改装などに数十億円かけたそうで、その効果は「これから」ということだった。
三交不動産のマンション事業と賃貸事業本部担当の常務取締役・森本浩史氏は、「サミットは不動産事業には効果を及ぼしていないが、太陽光事業がドル箱になりつつある」と話し、同社マンション事業本部東京支店本部長・盛田哉氏は、「『北習志野』で駅から7分で96戸を分譲するし、『三郷中央』でも確認は取れていないが徒歩2分で分譲する。『北習志野』は『オハナ』(野村不動産)に負けない」と胸を張った。
「『オハナ』に負けない」とは頼もしいではないか。双方とも取材してレポートする。
左から盛田氏、森本氏、田中氏