脚光浴びるインスペクション 宅建業法を改正へ 重説に盛り込む
国土交通省は2月26日、既存住宅の流通の促進を図るための「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が閣議決定されたと発表した。
不動産業者に専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことで、売主・買主が安心して取引ができる市場環境を整備するのが主な目的。
不動産業者が媒介して契約するとき、インスペクションを行う業者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者に交付し、インスペクションを行った結果を重要事項説明書に記載することを求める。法律が成立してから2年後に施行する予定だ。
国は、平成25年時点で4兆円の既存住宅市場を平成37年までに8兆円へと倍増させる目標を掲げており、このインスペクションの普及に大きな期待を寄せている。日本不動産鑑定士協会連合会(JAREA)も中古住宅の適正価格を査定するワンストップサービス「住宅ファイル制度」を武器に市場参入機会をうかがっている。
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結構な法律改正だと思う。インスペクションが脚光を浴びることになってきた。
問題は、法律案で「国土交通省令で定める者」となっているインスペクション業者をどう規定するかだ。現段階では建物診断のプロである建築士が想定されているが、建築士に限定することに対しては業界内からの反発も予想される。
例えば、大手ハウスメーカー10社からなる「優良ストック住宅推進協議会」がそうだ。同協議会は2008年に立ち上げられたもので、①住宅履歴②長期点検メンテナンスプログラム③耐震性能-この3つを武器に確実に売買実績を積み上げてきており、独自の査定方式「スムストック査定」にも絶対的な自信を見せている。同協会が認定したスムストック住宅販売士は3,000名を超える。
このスムストック住宅販売士をインスペクション業者から除外したら大混乱が起きる。同協議会こそがインスペクションの重要性を一貫して主張してきたからだし、戸建て流通のビジネスモデルを構築したのも同協議会だ。国会議員の先生たちも大手ハウスメーカーを敵に回すことはできないはずだ。
だとすると、「国土交通省令で定める者」とは「建築士、又は国が同等の資格を有する者と認めた者」というような文言に落ち着くはずだ。
もう一つ、見逃してはならないのが、重要事項の説明に関する宅建業法第35条六の二のロだ。宅建士は「設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況」について書面を交付して説明しなければならないことになっている。
これは具体的に何を指すのか不明で、国交省も「これからの検討課題」としている。
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中古住宅の流通促進を阻む大きな壁は、新築こだわり派の「新築のほうが気持ちがよい」という「気」だ。これがなかなか厄介だ。ベルリンの壁のようなものだったら壊そうと思えば壊せるが、なにしろ「気」は空気のように姿が見えない。この妄信・迷信・信仰・崇拝に似た「見えない壁」をぶち破らないと、中古市場の倍増はうたかたの夢に終る。インスペクションを武器に流通量を倍増させることなど絵空事だ。
では、この「見えない壁」をどう打破するのか。残念ながらその手だてが見つからない。同じ土俵で戦えるようにするためには、関係者がコツコツと実績を積み上げていく以外にない。〝雨垂れ石を穿つ〟という諺もあるではないか。この変化の機会を捉えたい。不動産流通会社の出番だ。
希望の光がないわけではない。消費者の意識は変わりつつある。国交省の住宅市場動向調査でもその変化はみてとれる。平成26年度と24年度の数値の変化に注目していただきたい。
注文住宅、分譲戸建住宅、分譲マンション取得世帯が中古住宅を選ばなかった理由は、平成26年度では「新築のほうが気持ち良いから」が61.3%でもっとも多いのだが、これは平成24年度の73.2%(分譲派)から11.9ポイントも減少している。
また、中古を選ばなかった理由として2番目に多い「リフォーム費用などで割高になる」は24年度の38.2%から26年度は27.6%へと10.6ポイント減少している。このほか「隠れた不具合が心配だった」は26.3%から24.5%へ、「給排水管などの設備の老朽化が懸念」は20.7%から17.4%へそれぞれ減少するなど、消費者の意識の変化がうかがわれる。
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個人的な意見を言わせてもらえれば、インスペクションは、「瑕疵の有無を判定するものではなく、瑕疵がないことを保証するものではない」(国土交通省・既存住宅インスペクション・ガイドライン)というのはよくわかるのだが、「検査結果がどの検査事業者が行ったかによらず同様の結果が得られるよう、現時点で得られている知見や一般的に用いられている検査技術等に基づいたものとすること」(同)というのがよく分からない。
誰が行っても同じ結果しか出ないことを求めるということは、誰もが見て触っても発見できないような問題点を指摘する水準以上の専門家は必要ないということなのか。だとすれば、消費者には選択肢はない。インスペクションは単なる〝安心料〟というのも寂しい。(そんなに報酬はもらっていないという反論がありそうだが)
さらに言えば、いったいぜんたい「宅建士」「建築士」「鑑定士」(ハウスメーカーが組織するスムストック住宅販売士もある)の「士」が3人も4人も揃わないと中古住宅の質が担保されない、安心・安全な取引ができないというのは考えてみれば情けない。みんなその費用を消費者に負担させようというは理解されないと思う。
ブルースタジオ 築32年の軽量鉄骨アパートを環境共生型へリノベ
「縁木舎」
ブルースタジオが企画・設計監理を担当した築32年の軽量鉄骨造2階建てアパートの1棟リノベーションプロジェクト「縁木舎」を見学し、植栽計画を担当したエーピーデザイン社長・正木覚氏から武蔵野の生態系を学ぶ「まち歩きトーク」に参加した。
物件は、JR 中央総武線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩18分(小田急バス明星学園前停留所から徒歩3分)、三鷹市井の頭5丁目に位置する敷地面積520.37㎡、延べ床面積282.76 ㎡の軽量鉄骨造2階建て全9戸。専用面積は21 ㎡、33㎡、42㎡、53㎡。既存建物竣工年は1982年4月。リノベーション竣工年は2016年1月。企画・設計監理はブルースタジオ。施工は有限会社キューブワンハウジング。植栽計画はエービーデザイン。
現地は、井の頭公園を抜けた中高級住宅が建ち並ぶ第一種低層住居専用地域の一角。従前の建物は1982年に大手ハスウメーカーによって建てられた1戸約21㎡のアパート。築年数が経過するとともに競争力を失い、約6万円だった賃料は約5万円まで下げざるを得ない状況になっていた。
昨年、この状況をどうするかの検討が始まり、敷地内に自生したムクなどの樹木を残す環境に優しく人にも優しい同社の提案が受け入れられ、1棟リノベーションすることが決まった。
リノベーションにあたっては、環境共生を重視するため敷地内のムクなどの既存樹を極力残し、新たにコナラ、シラカシの高木や草花を植栽。プランはニーズの変化に対応して2戸を1戸にした41㎡のタイプを増やし、床材・面材にクルミ、オーク、カエデ材を多用しているのが特徴。
賃料は建築当初を上回る7万円くらいに設定したにもかかわらず、これまでに約8割の入居が決まっている。
「まち歩きトーク」では、冷たい雨が降る中、正木氏の案内で入居者や若い人たちが春の芽吹きを体感した。正木氏は初代JAG ( ジャパンガーデンデザイナーズ協会) 会長で、「青豆ハウス」などブルースタジオの物件の植栽計画を数多く担当している。
2部屋を1部屋にリノベーション
庭(手前はウッドデッキの縁)
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内覧会が始まったのは午前11時。「まち歩きトーク」は午後1時30分から。この間、喫茶店などないから冷たい小雨が降る中、街をさまようしかなかった。「帰ろうかな」とも思ったが、春の芽吹きを堪能し、香りを胸いっぱいに吸い込みたいという欲望が勝った。約1時間の「まち歩きトーク」で拾った話を紹介する。
正木氏
●「歩くことは半分仕事」
「縁木舎」で正木氏から「春をさがしに」のテーマについて説明を受けたあと、井の頭公園に向かった。正木氏が背負っている大きなリュックからホタルのように明滅する光が漏れていた。何だろうと思い聞いた。「迷子にならないように…というのは嘘で、いつも外を歩くのでぶつかられないように」ということだった。
「先生、そんなに出歩くんですか」「歩くことは半分仕事のようなもの。自分が植えた樹木などは一本一本、育ち方を確認している」「先生、記者の仕事も同じです。どれだけ歩くかです」
●「ミツバチグリを見て僕の世界観は変わった」
井の頭公園に入ってまもなく、若い女性参加者が「春の芽吹きを感じますね、先生」と語りかけ、「そうですね」と正木氏は応じた。嗅覚まで老化した記者は「ただの落ち葉の匂いじゃないですかね」と余計なことをしゃべってしまった。
もう一つ。すぐ側に玉川上水が流れる緑道で正木氏はドキリとする言葉を発した。
「大学2年生のとき(正木氏は現在63歳)、黄色い可憐な花をつけた〝ミツバフグリ〟に出逢って僕の世界観が変わった。植物が話しかけてくるようで、人間とつながっていることを悟った」
若い女性がたくさんいる中で、よくぞ堂々と恥ずかしげもなくそんな言葉を口にできるものだと驚いた記者は、先生より2倍も3倍も大きな声で「先生、ミツバフグリって何ですか」と聞いた。正木氏は「フグリじゃない。ミツバチグリ」「……」(家に帰ってミツバチグリを調べた。よく見る野草だった。見学者が二人の会話を聞いていなかったのを祈るのみだ)
それにしても、20歳にもなって野の草花に心を奪われる正木氏はなんて繊細な心の持主なのだろうとうらやましくなった。記者などは10歳の頃に春の芽吹きを感じた。正木氏は単に晩生だったのか。
ミツバチグリ
●「竹炭を土中に埋めるときは気持ちが浄化された」
芝生と枕木を敷いた駐車場の土中には大量の竹炭が埋められている。炭は土中で腐ることもなく保水性が高いために樹木の根が寄ってきて地盤をスプリング状態にするので、駐車場をコンクリで固めなくてもいいことを証明するためにそうしたという。オーナーの意向とも一致したそうだ。
「竹炭を改良材として土中に埋めるとき、職人さんの顔がどんどん晴れやかになっていった。わたしも気持ちが浄化されていくような体験をした」と正木氏は振り返った。
●「自然林⇒落葉樹⇒常緑樹へ変る自然の摂理」
「もともと自然林は人間の手が加えられないと鎮守の森のようになるが、その過程で成長の早い二次林、落葉樹が主体となる現象が起こる。里山では木を伐採し薪炭にしたり落ち葉を肥料として集めたりするので地力が衰え、やせた土地でも育つアカマツ林となる。江戸時代の浮世絵などは松ばかりが描かれているのはそのせい」
なるほど。石油が薪炭に取って代わってから50年。これから植生はどうなるのか。大量に発生している松枯れとは関係あるのか。
●ドングリは子育てをしない?
季節になるとドングリはたくさんの実を落とす。しかし、そのドングリの実は親のドングリの樹が元気なうちはほとんど発芽しないのだそうだ。親が伐採されたり倒れたりしたときにのみ発芽するという。親は子を育てない、子は親の死を待つ…これも自然界の摂理か、親子間の無駄な争いを避け共倒れにならないということかもしれない。
玉川上水の緑道
日本ホームステージング協会 今秋に世界規模のイベント開催
「第1回ホームステージャー交流会」(参院会館で)
日本ホームステージング協会(代表理事:杉之原冨士子氏)は2月24日、「第1回ホームステージャー交流会」を参議院議員会館内で行い、これまでの活動報告、活用事例報告のほか、空き家問題に関する国交省によるレクチャーを受けた。定員50名を超える参加者が集まった。
「ホームステージング」とは、同協会のホームページによると、「売却予定の自宅の資産価値を高め、より早くより高く売却するために専門のコーディネーターが家具や小物を含めたトータルコーディネートでインテリアを魅力的に演出し、不動産売買のお手伝いするサービス」のことで、「米国では、30年以上前から当たり前のように行われており、職業として社会的に定着しているという。
同協会は2013年8月に設立され、1日の受講と認定試験に合格した「2級」と、より専門的な知識と実践的な提案力を養う2日間の講座と認定試験に合格した「1級」の「ホームステージャー」がこれまで191名誕生している。
会では冒頭、杉之原氏が活動報告を行い、今後講習会を大阪、名古屋、川崎などで開催し、9月には世界規模のイベントを東京で行うことなどを発表。「アメリカと同じように活躍できる環境を整えていきたい」などと語った。
活用事例では、有限会社アルテシテ代表取締役・小塚陽子氏とポラスグループ中央住宅マインドスクェア事業部主任・前田大樹氏がそれぞれ報告。小塚氏は横浜中華街の街づくりにかかわったことや、わが国でもっとも人口の少ない「町」の山梨県早川町の町おこしなどについて報告。前田氏は、同社の戸建て住宅のモデルハウスのコーディネートを担当し、ことごとく早期完売に結び付けたことなどを語った。
杉之原氏
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交流会では、企業会員としてホームステージャーの育成に力を入れているLIXIL住生活ソリューションの住まいと暮らしサービス部課長代理・岡秀昭氏や三井不動産リフォーム執行役員・池田冬彦氏など不動産流通会社関係者が参加。参院議員で公認会計士・税理士・行政書士の資格を持つ竹谷とし子氏(公明党)も2級ホームステージャーとして参加していた。以下、各氏のコメント。
岡氏 これからソフトサービスを重視していく。講習会は3月の1回だけを予定していたが、全国から開催してほしいという要望が多く、地方でも開催していく。すべてが定員満席
池田氏 野村さん(野村不動産アーバンネット)がすでに始めており、当社もリフォームを含めた中古住宅流通の促進に力を入れていく
小塚氏 街づくりや住宅の仕事は多岐にわたっている。「ホームステージャー」は一言でその仕事の内容が言い表せるのがいい
前田氏 (記者が「販促の達人」とほめたことに対して)とてもうれしい。私の出身地は空家等対策計画を策定する予定になっている東京都新島村。以前は3,500人くらいいた人口は3,000人くらいに減り、人口流出が止まらない。村とも連絡を取り何とかしたい
竹谷氏 社会の課題を解決するため現場を知ろうと2級を取得した。空き家問題など課題をチャンスに変えていきたい
前田氏
1級ホームステージャーとして認定を受けた9名のうちの7名の方たち(前列左が小塚氏)
竹谷氏
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交流会後、会場を移した懇親会では、たくさんの料理のほかお茶、ジュース、コーラなどかテーブルに置かれていた。酒はなかった。女性参加者が多いのでそうしたのかと思ったが、そうではなく、会館の会議室は全て禁酒となっているからだった。交流会に参加していた竹谷議員にその理由を聞いたら、「前例がないから」ということだった。
参院会館事務局にも確認した。「利用案内」パンフレットには、館内の飲食店・売店から持ち込んでいいのは「酒類を除くもの」と明記されている。
もちろん会議中に酒を飲むのは問題だが、会議後の懇親会・交流会などでは酒くらい飲んでいいのではないか。酒がダメというのであれば、コーラだってジュースだって、ケーキ類、その他添加物だらけの食べ物だって体にいいはずがない。酒を飲むことで会をぶち壊すような人は参加する資格がないし、国民の代表たる国会議員の先生が集まる会館の会議室での禁酒を明記しなければならないのは情けない。出すか出さないかは会を主催する先生や団体の判断に任せるべきではないか。なんだか20歳未満の子ども扱いをされているようで気分が悪かった。
酒によって(酔って)問題を起こしたくないという先生や官僚のことなかれ主義がそうさせているのだろうが、そんなことをやっているからどんどん政治から国民が離れていくのではないか。禁酒と言えば、マンション管理組合のコミュニティ活動の苦労さん会などに酒を出すなと主張した学者先生がいた。
日本ホームステージング協会 「ホームステージャー1級」第1期生6名誕生(2015/8/26)
三井不動産 〝ワクワクする〟発表会 ベンチャー共創に50億円投資
左から百合本氏、北原氏、三井不動産ベンチャー共創事業部長・菅原晶氏
三井不動産は2月23日、本業強化・事業領域拡大に向け新産業を創造するため、総額50億円のコーポレートベンチャーキャピタルファンド(事業会社が自己資金によってベンチャー企業に対して投資活動を行う機能を有するファンド)「31VENTURES Global Innovation Fund 1号」を独立系ベンチャーキャピタル最大手のグローバル・ブレインと共同で設立したと発表した。
また、これまでのベンチャー企業向けオフィスの運営やビジネス支援を統合・強化し、「資金」「コミュニティ」「支援」の3つの柱でベンチャー企業との共創を目指す。
「31VENTURES Global Innovation Fund 1号」の運用期間は10年。対象地域は日本を中心とする北米、欧州、イスラエル、アジア諸国。
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同社はもう20年以上も前から様々なベンチャーオフィスを運営しており、昨年4月、「ベンチャー共創事業部」を立ち上げた時点で、このような展開になるのは予想されたが、総額50億円の投資額の多さに驚いた。額については、記者発表会で同社取締役専務執行役員・北原義一氏は「本気度を示した額」と述べた。
それ以上に驚いたのは、北原氏の挨拶だった。ベンチャー共創事業に賭ける意気込み、ビジョンを熱く語った。歯切れがよく、魅力的な語彙が飛び交った。何事もビジョン、哲学がないと成功しない。久々に感動的な挨拶を聞いた。以下に紹介する。
「当社の事業の柱であるオフィス、商業施設、分譲住宅を野球に例えるなら3番、4番、5番のクリーンアップ。しかし、これが20年先、30年先、永遠に続くわけではない」と切り出し、「ダーウィンは『変化に順応できるものが生き残る』といったが、それだけでは十分でない。変化の後追いだけでは進歩はない。そのためには、異端、異能を重視し、柔軟性のある社会に変えないといけない」
「社会を切り開くのは既存のベンチャーの専売特許でもない。当社のオフィス・商業施設のネットワークは約5,500社の50万人、60万人にのぼる。こうしたオフィスワーカーのベンチャースピリットを覚醒させ、化学反応、爆発を誘引したい。そこから新しい産業が生まれるかもしれない。わたしはワクワクしている」
「もう一つ重要なのは、短期的利益を求めず、中長期的視点で育てていくということだ。いまの(原油価格が下落し、株価が乱高下を続けている)経済状況は投機マネーによるものだ。金融によるマネーゲームは付加価値を生まない。格差を生むだけだ」
「われわれは歯を食いしばって中小企業を育てていく。並大抵の努力で報われる社会でもない。『魔の川、死の谷、ダーウィンの海』が待ち受ける。この困難を乗り切るために、わたしたちは経営資源を生かしベンチャーをサポートしていく。一緒に挑んでいく。日本の発展に寄与したい。さらには未来の子どもたちの笑顔のためにも取り組んでいく。真に豊かな社会を実現する、これこそがベンチャースピリットそのもの」
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「ワクワクしている」という言葉は北原氏から3度、パートナーのグローバル・ブレイン百合本安彦社長から1度、都合4度発せられた。記者もワクワクして聞いていた。
北原氏も百合本氏もワクワクしたのは、この事業が無限の可能性を秘めており、三井不動産の膨大なネットワークを駆使すれば、夢が夢でなくなる現実味を帯びているからだろう。
北原氏が記者団に「御社の強みは何か」と問われ、「国内最大級のネットワークだ」と答えた。挨拶でも述べたようにオフィス、商業施設の「B to B」のネットワークは5,500社50万人にも及ぶ。
これに対して、「B to C」の分譲事業はマンション・戸建てで年間6,000戸くらいを供給しており、毎年積みあがっていく。潜在的な顧客はその数倍だ。さらに三井不動産リアルティの仲介事業、三井不動産レジデンシャルサービスの管理事業、三井ホームの注文住宅事業などが加わる。これらも潜在的な顧客を加えると年間数十万人に達するはずだ。
ここで重要なのは、これらのネットワークはネットなどで構築したものではなく「フェース ツー フェース」がベースになっているということだ。これこそ他社(他業界)が真似のできない最大の強みだ。
同社の「ベンチャー共創事業」が他のデベロッパーを刺激し、それこそ「一億総活躍」社会を実現していく原動力になることを願いたい。
大和ハウス 軽量で組み立て自在 「Transight(トランサイト)」発表
大和ハウスグループのデザインアークは2月22日、2013年から開発を進めてきた新規事業プロジェクト「Transight(トランサイト)」のコンセプトモデルを発表。報道陣と関係者に公開した。
同社の事業領域である建材、インテリア、レンタル&オフィス事業だけでなく、あらゆる産業・商品がスマート化、IoT(自動認識、自動制御、遠隔計測など)化していく環境下で、新しいビジネスモデルを構築することで産業界のリデザインを牽引しようという狙いだ。
「Transight」のコンセプトモデルは、縦37cm、横71cm、奥行き45cmのアルミ製のフレーム一つのモジュールとして、用途によって組み合わせることができるもの。各モジュールは通電されており、家電や電子機器を組み合わせることができる。重さは1つのモジュールで5キロもないと思われる。特許を申請中。
同社は、これから検証を重ね、異業種との共同企画、共同開発を行なっていく。販売時期、価格などは未定。
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熱い発表会だった。会場の「ヒカリエ」会議室は約40名の報道陣に関係者らで優に100人を超えていた。
何が発表されるのだろうと固唾を呑んだ。早速、同社・島正登社長が「われわれは大和ハウスグループとして『新しい価値創造の架け橋』になるのが使命。新規プロジェクトはわたしも答えを持っていない。社員への問題提起でもあり、皆さんと一緒に最適の答えを出したい」と投げかけた。
続いて登壇した同社・嶋田二郎取締役営業本部長は「目指すのは現在の売上高(519億円を2020年までに倍増すること。産業構造のリデザインが急速に進んでおり、既存のルール、考え方では達成できない。新規事業は既存事業に影響を与えない新たなビジネスモデルを構築するために3年構想で立ち上げた」などと話した。まさに第4の柱に育てたいような口ぶりだった。
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島氏や嶋田氏の話を聞きながら、画期的な大発見、大発明かもと思ったが、冷静に考えた。同じような商品は、身近なものでは子どものレゴ、家庭向けではユニット家具・戸棚・本箱など近いものがある。
同社のプロジェクトの特徴は、ネジなどを使わず簡単に組み立てたりばらしたりすることができ、通電されていることなどだ。
この商品が、島社長も話したようにどのような答えを導くのか不明だが、「オープンプラットホーム」にするのは大賛成。使い勝手のいいものにすれば、オフィス・商業ビルなどのディスプレイなどに広く採用されるのではないか。軽量化(1ユニット5キロくらいか)を図れば緊急避難用のテント・小屋などにも使えそうだ。
野村不動産 着実に伸びるPMO 2019年までに倍増32棟に
「PMO平河町」
野村不動産は2月17日(水)~19日(金)、オフィスビル事業「プレミアム・ミッドサイズ・オフィス(Premium Midsize Office)」シリーズの18棟目「PMO平河町」が竣工したのに伴うオープニングイベント「PMO FORUM 2016」を一般企業向けに開催する。各分野のビジネス情報に精通した専門家によるセミナーのほか、PMOの建物を体験したり、多機能性のオフィス家具を展示したりして、課題解決のヒントにつながるよう工夫を凝らす。
PMO事業は、都心3区に立地を絞り、中規模オフィスながら大規模オフィスに劣らない設備機能や高水準のセキュリティ、デザイン、サービスを提供することをコンセプトに2008年に立ち上げたもの。
ベンチャー企業、外資系企業向け、老舗企業に評価されたほか、大企業のサテライトオフィス需要も取り込みながら着実に実績を積み上げ、これまで供給した17棟はすべて満床となっている。
事業が軌道に乗ってきたことから、2016年から2019年までに新規15棟を計画し、供給済みを含めてシリーズ累計で32棟、総貸床面積約28,000坪に拡大する。供給エリアも都心3区から都心5区へ広げる。
一般企業向けイベントに先立つ15日、報道陣向けのオープニングイベントに出席した同社都市開発事業本部執行役員・中村治彦氏は、「われわれの事業は多岐にわたっているが、お客さまのニーズを捉え、ものづくりにこだわる当社のDNAは変わらず根底にある。PMOもお客さまのニーズを捉えることを出発点にしており、昨年までに100社超の企業と契約でき、竣工した17棟は満床となっている。これからもユニークで元気な中小企業向けのサポート、ソフトサービスに磨きをかけていく」と話した。
オープンパントリーの提案
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同社の都市開発事業本部 ビルディング営業部 部長代理 営業四課長・福岡雄一郎氏が約20分間、PMO事業についてパワーポイントを使用しながら説明した。20分間はやや長いような気もしたが、福岡氏は過不足なく要領よく話した。「あー」「えー」などの機能語や言い間違いもほとんどせず、「事業を立ち上げた2008年はちょうどリーマン・ショックの時で、その後の数年間は思い出したくないほど苦労したが、現在は拡大期、巡航速度に入っている。約10年でここまで到達することができた。ハイエンド型の需要は今後も増大する」などと語った。
2019年までの総貸床面積約28,000坪がどのような規模であるかを説明するため、「丸ビル」が約22,000坪であることを引き合いに出した。一言でPMOの事業の大きさを言い表した。
竣工した「PMO平河町」は最高の立地。平河町駅から徒歩1分の9階建て延べ面積約566坪。ビルのほぼ正面に自民党本部や議員会館が(国会議事堂は確認できなかった)、議長公邸は眼下に見える。最近は国会議員の口利きやら失語、失言、挙句の果ては不倫から議員辞職に追い込まれる不祥事にうんざりしているのだが、福岡氏のほぼ完ぺきな話に溜飲が下がる思いをした。大手デベロッパーのレベルの違いを見せつけた。
質疑応答では、ビルディング開発部長・廣瀬政男氏の〝答弁〟も冴えた。ここまで事業を伸ばせた要因などについて、同社の優位性を上げ、「他社がほとんどやっておらず、競合するのは賃貸マンションや小規模のホテルくらい。当社の事業は有効率も高く、プレミア付きの賃料が提案できているし、稼働率も高い。こうした優位性がキープできている」「マンションと同様、PMOファン、ストックが蓄積できている」などと語った。
同社が当日に発表したニュースリリースもA4判1ページに要領よく内容がまとめられていた。ニュースリリースもこれくらいがちょうどいい。
イベントに出席した左から中村氏、廣瀬氏、ビルディング営業部長・井上一馬氏、同事業部長・生田誠氏、福岡氏
住友不動産 東京・名古屋・大阪のモデルハウスで「Pepper」導入
ヒト型ロボット「Pepper」
住友不動産は2月12日、東京・名古屋・大阪の3大都市にある注文住宅のモデルハウスに今年からソフトバンクロボティクスが開発・提供するヒト型ロボット「Pepper」を導入、大阪は大阪弁、名古屋は名古屋弁でそれぞれ顧客対応を開始したと発表した。
「Pepper」は、お客さまを出迎え、会社紹介やキャンペーン情報などの案内、商談中の顧客の子どもと遊んだりして、おもてなしと楽しさを提供する。
例えば、大阪の千里第一モデルハウスでは、「大阪弁で住友不動産を紹介するで~。覚えたてやから、ツッコミは堪忍な~」、名古屋の名古屋港モデルハウスでは「名古屋弁で住友不動産を紹介するでね。覚えたてだで、変でも許してちょ~」などとなる。
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マンションでは先日見学した伊藤忠都市開発「クレヴィア豊洲」の販売事務所でロボットくんが記者に反応した。記者よりずっと頭がよさそうに見えた。見つめられると、性格や心まで見透かされているのではと不安を覚えた。
しかし、これは記者がへそ曲がりだからこそそう感じたのだろう。ロボット導入は面白い。ただ、首都圏のお客さんに大阪弁やら名古屋弁で対応したら却ってマイナス、まとまるものも壊れるのではと心配したので、同社広報に問い合わせた。東京では標準語で対応するとのことだった。
まずは安心したのだが、乱れきっている日本語に標準語はあるのかとも思う。ならば、記者は伊勢志摩サミットで全国区になった伊勢の「な言葉」がお勧めだ。語尾に「そやなぁ」「あのなぁ」と「あ」を付けるのが特徴だ。優しく聞こえるので、間違いなく商談に役立つ。全国どこでも通用すると思うがどうだろう。
もう一つついでに設問。慶大の入学試験に出た問題。「尊敬」と同じ標準発音アクセントは次のうちどれか。(1)国民 (2)真実 (3)後世 (4)生命 (5)帝王 (丸谷才一「完本 日本語のために」より) 「Pepper」くんが正解すれば、わたしは土下座する。
横浜傾斜マンション問題 再調査の結果待ち 旭化成が中間報告書
旭化成は2月9日、旭化成建材が施工した杭工事の施工データ流用問題に関する社内調査委員会の中間報告書をまとめ発表した。
多数のデータ流用を発生させた原因・背景については、「既に発表された国土交通省の基礎ぐい工事問題に関する対策委員会(有識者会議)・弊社外部調査委員会の分析と同様でありました。即ち、①データが紛失し易い環境であった②データ紛失時の対応ルールが未整備であった③データ軽視の意識が蔓延していた④旭化成建材の管理が不十分であった」とし、再発防止策については、①管理の範囲に抜けがあった②例外的に見える事象の発生時の反応③固定化した組織の問題などに対する改善措置を水平展開し、体質強化を図り信頼の回復に努めていくとしている。
横浜の傾斜マンション問題については、「社内調査委員会および外部調査委員会によるヒアリング調査の結果、該当する現場責任者およびオペレーターは、一様に杭は支持層に到達しており、施工は適切に行っていると述べており、杭工事の施工上の瑕疵を隠蔽する目的で施工データの流用を行ったことを示す証言または資料はこれまでの調査では発見されなかった」とし、「杭の施工不具合の有無を明らかにする再調査が2016 年2月8日現在実施中であり、結果が明らかになるには時間がかかる模様であり、上記の施工不具合に関する事実関係は、現時点では明確になっていない」としている。
わが国初のツーバイフォー6階建て実験棟 完成へ
「ツーバイフォー6階建て実大実験棟HRT-Project」(つくば市で)
日本ツーバイフォー建築協会は2月4日、国立研究開発法人・建築研究所と共同で研究・建設を進めている茨城県つくば市の「ツーバイフォー6階建て実大実験棟HRT-Project」を関係者に公開した。
再生可能な循環資源である木材の利用促進に寄与するとともに、ツーバイフォー工法の新たな展開にチャレンジするリーディングプロジェクトとして位置付けられているもので、ツーバイフォー工法による木造の6階建てはわが国初。今春に国交大臣認定を受け、様々な実験・検証を経たのち実用化を目指す。
建物は延べ床面積206.09㎡、高さ17.309㎡。施工は西武建設。完成は平成28年3月。アメリカ針葉樹協議会、岡山高次木材加工協同組合、カナダ林産業審議会など多くの団体・企業が協力。国土交通省の補助も受けている。
6階建て1、2階部分に使用する外壁・間仕切り壁には壁倍率14倍相当が必要なため、新たな間仕切り壁を開発、構造用合板の両面(12ミリ)張り(通常は片面9ミリ張り)、釘打ち本数、釘長の増加を図っている。
また、6階建て建築物の実現に必要な2時間耐火壁・床(3~6階は1時間耐火壁・床)を適用し、様々な検証を行い、建築基準法に基づく大臣認定を取得、普及につなげていく。床はCLT、ストレストスキンパネル、LVL、I型ジョイント、平行弦トラスを採用。
同協会会長・市川俊英氏(三井ホーム社長)は、「国交省や海外も含め多くの団体・企業の協力で実現したわが国初のリーディングプロジェクト。高い耐火性、強度を備えており、1~2年後には実用化したい。良質で環境に優しい木の住宅の普及に貢献していく」などと語った。
1階天井に用いられている岡山県産のスギによるCLT
1、2階部分の外壁見本
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木造による中層建築物の実現に一歩近づいた。市川会長も「1~2年後には実用化したい」と意欲を見せ、建築研究所・坂本雄三理事長も「木造住宅は世界的にも注目されている」と、大きな流れであることを強調した。関係者はCLTが普及すればツーバイフォーによるオール国産も可能になると話した。
現場の隣接地ではCLT協議会のCLT棟も建築中で、3月には完成する。CLTは接合に難点があるとされていたが、解消されたようだ。ツーバイフォー6階建てと同時に4月には公開される。
一つ残念だったのは、ツーバイ6階建ての外壁はサイディング仕上げだったことだ。耐火・防火基準を満たすためにはやむを得ないことなのだろうが、木の良さ・美しさを覆い隠すことにはどうしても納得できない。
2時間耐火も厳しすぎる。実験棟の1~2階の壁は表も裏もボードが3枚も張られ、全体で壁の厚さは約30センチもあった。大都市では火災が発生すれば数分で消防車が駆けつけるではないか。一律に規制するのではなく、地域、用途などによって柔軟に対応すべきだろうと思う。木造建築物はわが国の文化だ。厳しい規制は文化の衰退につながる。
CLT棟
手前の建物がCLT棟、右後方がツーバイ6階建て
柏の葉キャンパス地区 低炭素モデル都市としてAPECのコンペで銀賞
表彰式の様子(アメリカ合衆国ホノルル市、現地時間2015 年12 月15 日)
柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)は2月4日、柏の葉アーバンデザインセンターを拠点に、公・民・学が連携して「環境共生都市」の実現を目指す柏の葉キャンパス地区が、アジア太平洋経済協力(APEC)「2015 ESCI ベスト・プラクティス・アワード」の「ローカーボンモデルタウン」部門にて銀賞を受賞したと発表した。
「ESCI(エネルギー・スマートコミュニティ・イニシアティブ)」は、APECの加盟国や地域が連携し、効率的な交通、省エネビル、スマートグリッド、ローカーボンモデルタウンなどの分野で、事例やノウハウの共有を進めており、各分野で優れた取り組みを実践する組織について、毎年「ESCI ベスト・プラクティス・アワード」として表彰している。
柏の葉キャンパス地区は、環境共生都市として進めている低炭素化への総合的な取り組みが評価され受賞となった。