「日本らしく美しい景観」とは何か 国交省の懇談会が報告書
国土交通省は8月19日、昨年6月から行われていた「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」(委員長:卯月盛夫早大教授)の報告書をまとめ発表した。同懇談会は平成16年の景観法制定から10年が経過したことを契機に、景観行政に関する幅広い点検・検証を行うため7回にわたり開催されていたもの。
報告書は、景観行政を取り巻く状況や景観法の活用実態といったわが国の実情を踏まえた上で、良好な景観が地域に暮らす人々の誇りとなり、地域全体の価値の向上につながることを示すとともに、国内外の人々が日本的で美しいと感じる景観の「創出」と「保全」のために必要な方策のあり方についてまとめたもの。
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記者もこの懇親会を2回くらい傍聴した。「日本らしく美しい景観」という文言に惹かれたからだ。「日本らしく」かつ「美しい」景観とはどのような景観なのだろうと考え、懇談会の委員の方々から「日本らしく美しい景観」の概念が示されるのではないかと思っていた。
ところが、報告書の中には「日本らしく美しい景観」の文言は何カ所か登場するが、その具体的な内容についてはまったく書かれてはいない。今回の懇談会の目的は、そのような概念について論じるのではなく、良好な景観形成を進めるうえでの基本的な考えや、景観マネジメントについて論じる場だったからだ。
それでも、専門家から「日本らしく美しい景観」について語ってほしかった。「日本らしく」というのは四季折々に変化する自然的景観、白砂青松のことだろうと思うし、また、歴史を感じさせる神社仏閣や古民家、あるいはまた水墨画のようないかにも日本人が好むモノトーンの世界なのか。さらにはまた、端正なシンメトリックな景観のことをいうのだろうか。それともまた、機能的なものが美しいのか、美しいものが機能的なのか…考えれば考えるほど「美」とは何かという疑問に行きつく。小林秀雄は言った。「美しい『花』がある、『花』の美しさといふ様なものはない」と。
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懇談会はわれわれが景観の価値を認識するうえで示唆的な提言も行っている。例えば、「良好な景観は、地域を再生・活性化させる可能性を有する貴重な資産として捉えるべきであり、その保全・創出は地域の経済的価値を向上させる大きな要因となり得ることから、計画政策は経済政策の面からも重要である」「住宅地の生け垣や樹木が管理されず荒廃することで、周囲の景観の悪化をもたらされるなど、地域資源の劣化(外部不経済)を抑制することも重要となる」「その際、例えば、一定の地域の住宅所有者が全員加入し、賦課金により共有地の維持管理や建築行政のコントロールなどを行うアメリカのHOA(Homeowners Association:住宅所有者協会)のように、罰則まで設けて劣化資産を排除し、地域の不動産価値を維持する手法も参考になる」としている。
懇親会はまた、景観協議の進め方にも言及しており、「景観計画区域における建築物の形態意匠、高さの制限等に関する基準である景観形成基準には大きさ、色彩など定量的なものと、『周辺と調和を図る』など定性的なものがある。建築物の建築等の行為は、定量的な景観形成基準だけに適合すればよいものではなく、周辺の既存の景観とのバランスも踏まえつつ、周辺も含めた景域全体の質的向上に資するよう、定性的な基準を個別の協議において的確に解釈し、良好な景観形成のための創造的な景観協議を積極的に進めるべきである」としている。
この伝でいえば、いま各自治体が進めている建築物の絶対的高さを例えば20mというような半端な数値で規制することが都市景観にどのような影響を及ぼし、また居住性向上という視点からして、定量的な規制はどのような地域資源の劣化をもたらしているのかいないのか論議してほしいものだ。
名古屋「グローバルゲート」にプリンスホテル出店
「グローバルゲート」完成予想図
豊田通商・大和ハウス工業・日本土地建物・オリックス・名鉄不動産の5社は8月20日、名古屋市中村区の「ささしまライブ24地区」で開発を進めている「グローバルゲート」のウエストタワー上層31階から36階にプリンスホテルがホテル・レストランを開業し、2階から4階にコンファレンスセンターを設置すると発表した。同ホテルとしては名古屋初進出。
「グローバルゲート」は、あおなみ線ささしまライブ駅に直結(名鉄・近鉄名古屋駅から徒歩10分)の36階建てウエストタワー、17階建てイーストタワーの2棟で構成され、延べ床面積は約15.7万㎡。竣工予定は2017年3月、ホテル部分は同年秋開業予定。事業は5社が組成する「ささしまライブ24特定目的会社」が担う。
「ささしまライブ24」地区は、名古屋駅の南に位置する旧国鉄笹島貨物駅跡地の約12.4ヘクタールと中川運河船だまり周辺を含む大規模再開発エリア。
三井デザインテック ミラノサローネに見る最新のトレンドをリポート
三井デザインテックは8月17日、今年のミラノサローネ国際見本市の分析と家具や空間デザインの最新トレンドをまとめた「Design Trend Report 2015」を発表した。
レポートは、今年のミラノサローネでは、彩度・明度とともに低く、全体的に落ち着いた深みのあるカラー表現が昨年同様よく見られたとし、全体的にくすんだグレイッシュなカラーが多い一方で、シーズンカラーとして赤の存在感が目立ってきているとしている。
また、形状の変化としては、生活スタイルに応じて自在に形をアレンジできるモジュール・システムが増加し、フレキシブルなフォルムの家具が多く展開されてきており、特に、今シーズンは曲線を活かした形状のデザインや軽量感のあるフレーム・デザインが特徴的としている。
さらに、ウッド素材と最新デザイン技術が融合した独特の素材感が加わっているパターンが多く、アフリカやインドなどの伝統的な柄をアレンジしたパターンなどもよく見られた。
スペースデザインとしては、ブラックを効かせた、クラシックとモダンが調和した空間スタイリングがトレンドとして数多く展示され、可愛らしさとクラシカルさがミックスした柔らかい色の組み合わせによるノスタルジックなスパイスを効かせたフェミニンな空間スタイルも注目されたとしている。
ミラノサローネ全体から見える様々なトレンドを分析した結果、新しいデザインの潮流は、「原点回帰」「本格派志向」「手作り」だという。
以上のような傾向から読み取れる2015年のインテリアトレンドにおけるキーワードは、「Exceed The Nostalgia~手仕事によるクラフト感と時代を超越した上質感~」であり、レトロとモダンがミックスされ、人の手を感じられるインテリアが多く登場してくるとしている。
三井デザインテックは10年にわたり、ミラノサローネを定点観測しており、デザイントレンドレポートとして毎年発表。2015年は7月24日を皮切りに、業界関係者向けに三井デザインテックデザインラボラトリー所長・見月伸一氏によるデザイントレンドレポートセミナーを開始している。
東京ミッドタウンに隈研吾氏デザインの国産スギを用いたつみき展示
「つみきひろば」イメージ図
開催9回目を迎える今年の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2015」に建築家・隈研吾氏がディレクションした国産スギを素材にデザインしたつみきが芝生広場に展示される。森林保全団体more trees(モア・トゥリーズ)が協力する。
「つながるデザイン」をメインテーマに、芝生広場だけでなくガレリア内での展示・製品化されたつみきの発表など、東京ミッドタウン全体を巻き込んだつながるデザインを披露する。
more treesは、〝もっと木を〟をコンセプトに音楽家 坂本龍一氏の呼びかけで設立された森林保全団体。人工林の間伐を推進し、木材をはじめとする様々な仕組みづくりに注力している。
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2015」は2015 年10月16日(金)~11月3日(火・祝)、11:00~18:00、東京ミッドタウン・ガーデン芝生広場(入場無料)で。
不動産経済研究所 「住宅・不動産業界 激動の軌跡50年」を刊行
マンションの市場動向を調査発表している株式会社不動産経済研究所が「住宅・不動産業界 激動の軌跡50年」を刊行した。同社は、不動産業界人にとって必読ともいえる日刊紙、「不動産経済通信」を発行しているが、その月曜日付けのコラムの50年分の中から時代の変遷を特徴づける157編をピックアップして編集したものだ。昨年、同社が創業50周年を迎えたことから贈呈本として編纂した。評判が良いので直販で売り出すことにしたという。
同社から本が送られてきたのでページを捲ってみた。はっきり言ってこれは面白い。第1部高度成長期~列島改造からオイルショックまで、第2部安定成長から民活・バブル前夜まで、第3部狂乱バブル発生、波及そして崩壊、第4部失われた20年~資産デフレと都市再生、Jリート、第5部リーマンショック、東日本大震災から再び五輪へ、という5部立て。その時々の政策の動きや世間の目線、不動産業界の受け止め方などが手に取るようにわかる。それぞれのコラムが2000字強なので読みやすい。
記者は、「ふむふむ、そういえば、あのときはこんなことがあったな」などと思い出しながら読んだ。読み終わって感じたのは、不動産業界の歴史は繰り返えしの歴史だということ。バブルが起きて崩壊して、またバブルが起きて崩壊する。いつか来た道、とわかっていながらも突っ込んで行って破局を迎える。この50年間、不動産業界はこれを繰り返してきた。その意味では、同書は歴史を振り返る本であるとともに、未来を展望するための本としても読める。
一般書店では扱っていないので、購入は同社のホームページからアクセスして申し込んでほしい。https://www.fudousankeizai.co.jp/
「女性活躍」待ったなし 不動産業界の取り組み/野村不HD・宇佐美広報部長に聞く
宇佐美氏
はじめに
野村不動産ホールディングスの広報IR部長に宇佐美直子氏(45)が今年4月に就任したことが、業界内で話題になった。大手デベロッパーで初の女性部長が誕生したからだ。記者自身も率直に喜んだ。広報の部署は企業にとって〝顔〟であり水先案内人だと思う。極めて重要な役割を担っている。一つ間違えばとんでもない方向に導きかねない危険性もある。
そんな重要なポストに女性が就いたのが嬉しいのだが、考えてみれば、長いデベロッパーの歴史の中で宇佐美氏が初の女性部長というのも情けない話だし、それを喜ぶ記者自身も女性を差別的に見ていないかという反省もするのだけれども、これがわが業界の現状だ。
そんな現状を記者は残念に思っている。不動産業界にとどまらないことだろうが、広報の部署は女性の比率が高いはずだ。40年近い記者生活の中で多くのデベロッパーやハウスメーカーなどの広報にはお世話になったが、女性担当者は男性に劣るどころか実にきめ細やかな対応をしていただいた。私生活においても同様に、何かにつけ女性のほうが優れていると確信をもって言える。
ところが、現状は女性差別的な雇用慣習が幅を利かせ、家庭でも社会でも差別的な処遇を受けていることは否定できない。だからこそ、安倍政権は「女性活躍」をアベノミクスの成長戦略の柱に据え、安倍総理は「女性活躍は焦眉の課題」と国連で演説もした。
記者もその通りだと思う。「女性活躍」の文言はなにやら胡散臭い雰囲気も漂い、「女性だけを括るのは問題」という声も聞こえてきそうだが、デベロッパーやハウスメーカーが女性差別的な雇用慣習を改め、「すべての女性が輝く」職場環境を整えるヒントにでもなればと、取材を開始することにする。
キックオフのインタビューはやはり「女性初の広報部長」に就任した宇佐美氏が適任だと思う。
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これまでも数回、宇佐美氏には会っており薄々は感じていたのだが、インタビューを始めて数分も経たないうちに「女性は差別されている」という記者の固定観念が当てはまらないことに気づいた。宇佐美氏にはそんな色眼鏡で見るのが失礼であり、そもそも通用しなかった。
最初に、「御社グループは2013年に『ダイバーシティ推進委員会』を設置され、『従業員満足度調査』をされましたが、受け取り方によっては、御社の社員の満足度はそれほど高くないのでは」とジャブのつもりで質問した。
宇佐美氏は「調査会社からは、解答率(従業員1,495人中1,415名、解答率94.6%)が極めて高いと言われました。従業員みんなが『大満足』していたら却って恐ろしい。いろいろ課題があることを認識し、もっとチャレンジしようということが数字に表れているはず。委員会は、当時の中井(加明三)社長(現会長)が『グループ全体として人が大事、これからは多様性を重視しないと生き残れない』と強い意志を示されて発足したもので、従業員の多様性を発揮させようというのが目的であって、女性活躍はそのうちの一つ」と応えた。
ジャブを軽く受け流された記者は早速、本題である宇佐美氏のワークライフバランスに斬り込んだ。
「入社は平成5年。宅建は入社前に取得していました。最初の配属は住宅の販売。いきなり『明日から四街道へ行け』と言われまして、毎日、2時間かけて実家の浦和から遠足気分で『ツイン エル シティ』へ通いました。家を出るのが5時。忙しい金曜とか土曜日は千葉に泊まりました。営業は6年間やりました。その間に結婚もしました」(平成5年ころの同社のマンション事業は業界内では10本の指に入っていなかった。プラウドを立ち上げたのは平成15年)
「思い出にあるプロジェクトは『浦和』のマンション。女性による女性のためのマンション講座をやりたいと上司にお願いしたら認められまして、男は一人も会場に入れずに女性の方に集まってもらい、大きな都市計画地図を広げて、商業エリアは駅に近いけど高い建物が周囲に建つとか、郊外は高い建物が建たないので居住環境がいいとか、ライフスタイルを考えたほうがいいなどと話しました」(女性単身者がマンションを買うようになったのは平成7年ころから。宇佐美氏はその流れを機敏に捉えたようだ)
この話を聞いて、武勇伝を聞くのを止めた。聞けばたくさん出てくるだろうが、「女性だから」という質問は失礼だと思ったからだ。そこで、「仕事と育児・家事の両立」について聞いた。
「子どもは中3と中1の二人。共働きですから、主人が子育ても料理も掃除もすべてやってくれています。頭が上がりません。料理は主人のお父さんがやっていたようで、それが影響しているのかもしれません。主人は剣道部出身でして、私は何でも雑なほうなのですが、とても几帳面に洗濯物なども折りたたんでくれる。家事労働についてのインタビューは主人に代わったほうがいいかもしれませんね。喧嘩? やったことないですね。主人がすべて飲み込んでくれる」
核心をつく言葉だ。「女性活躍」は、職場の理解ももちろんそうだが、家庭での男性の理解と共働がないと無理だとずっと思ってきた。記者は40代に妻を亡くしてからほぼ10年間〝主夫〟をやったのでよく分かる。家事労働をお金に換算したこともあるが、月額30~50万円はする。それほど価値のある家事の仕事を女性、または男性一人でやれるわけがない。「女性活躍」は男性の働き方を変えないとダメというのが記者の持論だ。
宇佐美氏について、野村不動産アーバンネットの前会長・金畑長喜氏が「彼女は頑張り屋さん。誰もが評価している」と語ったが、それだけ頑張れたのもご主人と一緒に家事・育児をやってきたためだろうと得心がいった。
余談だが、弊社にも剣道部出身がいる。一緒にホテルに泊まった時だ。寝る前にきちんと真四角に下着類をたたんだのにはあ然とした。体育会系の男性は結婚相手にお勧めだが、剣道部が一番だ。徹底して礼儀作法、武士道精神を叩きこまれるのだろう。
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「いま広報部には12人のスタッフがいますが、7人が女性。うち5人がママさんです。会社全体も変わりましたね。寿退社も少なくなりました。わたしの後輩が育っているか? ここ数年で続々増えると思います。母数がどんどん増えていますから。もう時間の問題だと思います」「広報部長に就任して、業界初の女性部長と言われているが、私は淡々と粛々とやるしかないと思っています。男女関係ない」と締めくくった。
同社グループの「ダイバーシティ推進委員会」の活動は3年計画だ。来年がその3年目だ。どのような成果があがったのか、どのような課題が見えてきたのか、その時が来たらまた取材したい。
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同社が「ダイバーシティ推進委員会」を設置したのは、中井会長の発案だったことは先に書いたが、トップの判断が極めて重要であることは、大沢真知子氏の「女性はなぜ活躍できないのか」(東洋経済新報社)でも指摘されている。
大沢氏は、ダイバーシティの取り組みで成功した企業をいくつか紹介しており、その企業トップの声も紹介しているので以下に引用する。
〇資生堂の元副社長・岩田喜美枝氏「女性登用に力を注ぐことができたのは当時の社長のおかげ」
〇大和証券グループ本社会長・鈴木茂晴氏「上が本気でなければ中間層は動きません…女性の本気度が試される時代になった」
〇ファーストリテイリング会長・柳井正氏「育児も大事だし、仕事も大事。両立できるとおもわないといけない」
〇セブン&アイ・ホールディングス会長・鈴木敏文氏「自分たちが殻を破るんだという強い意識をもって働いてもらうことが大事」
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「女性活躍」を阻む厳しい現実も突きつけられている。厚労省のデータをいくつか紹介する。
・男性の育児休業取得率は2.3%(平成26年度)の低水準にとどまっている
・育児休業を取得しない理由として「職場の雰囲気」が依然多い
・25歳から34歳の女性の雇用形態は、「非正規の職員・従業員」比率が1990年から2014年にかけて28.2%から41.9%に高まっている
・パート・派遣の非正規労働者の育児休業後の職場復帰は平成17~21年で4.0%(正規は43.1%)にとどまっている
・夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業割合が高く、また、第2子の出生割合も高い傾向にあるが、日本の夫の家事・育児関連時間は、1時間程度と国際的に見ても低水準であり、かつ、家事・育児をほとんど行っていない者の割合も高い
ポラス 4年振り7度目の耐力壁トーナメント優勝 総合は滋賀職能大が4連覇
破壊された滋賀職能大「Aegis」(左)と優勝したポラス「板挟み」
「板挟み」のメンバー(中央が上廣氏)
木造耐力壁の強さと総合評点を競う第18回木造耐力壁ジャパンカップが8月8日~10日、静岡県富士宮市の日本建築専門学校で行なわれ、ポラスグループのポラス暮し科学研究所「板挟み」が4年ぶり7度目のトーナメント優勝を飾った。決勝戦で「板挟み」に敗れた滋賀職業能力開発短期大学校「Aegis(イージス)」が耐震性やデザイン性、材料費、環境負荷費などコストパフォーマンスを総合評価するジャパンカップで4連覇を達成した。
「板挟み」は、ヒノキの板を柱で挟む複合柱が特徴で、土台部分には多くのビスを打ち、埋め込み部分に薄鉄板を採用しているのが特徴。準々決勝戦でグループのポラス建築技術訓練校「めりかべ」を一蹴すると準決勝戦でも木考塾「びわ湖1号」も相手にせず、決勝進出。
一方の「Aegis」は、金物を一切使用していないのが特徴で、貫の粘り強さと筋交いの強さを兼ね備えたハイブリット壁。準々決勝戦で予選トッブ通過していたkiba勝timber(東大農学部)「いたまささん」を撃破すると、準決勝戦では日本建築専門学校「アナダラケ」を32キロニュートンの加重で破壊し決勝へ。
決勝戦では10キロニュートンあたりから「板挟み」の優勢が明らかになり、34キロニュートンで完全に「Aegis」が破壊された。
優勝したポラス暮し科学研究所取締役・上廣太氏は、「15回連続出場しており、企業グループの参加は当社のみ。『板挟み』の名前が象徴するように内からも外からも攻められる。ここは負けられない。最高の記録62キロニュートンを更新したい」と試合前に語った。記録は46.9キロニュートンにとどまり記録更新はならなかったが、安堵の表情を浮かべた。
ジャパンカップ4連覇を達成した滋賀職能大の講師・覚張良太氏は、「材料の赤松は県内で採れたもの。家を造るために山がある。地産地消が基本。壁は特殊な技術がなくても加工しやすく、早く組み立てられるのが特徴。今回は土台の目に見えない部分に斜めを採用したのが特徴」と話した。解体時間はも他が20分超えが続出していたのに4分42秒と飛びぬけていた。
審査を担当した日本住宅・木材技術センター理事長・岸純夫氏は、「金物を使わなくても強い耐力壁が多数参加したことに大会の進歩を感じた」、法大デザイン工学部建築学科教授・網野貞昭氏は、「昨年度あたりまでは、この大会はオタクの特殊な趣味を持っている人の研究会のようなものと考えていたが、実際デザインに携わってみると壁に助けられていることを実感した。これから大規模な木造を造らないといけない。役割は増すはずだ」、建築家で東大非常勤講師の河野泰治氏は、「壁には本来の目的だけでなく、そのまま見せてもいいし、ダクトにもなる。これから面白い展開が可能になる」などとそれぞれ講評した。
滋賀職能大のメンバー(左が覚張氏)
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記者は今回で耐力壁ジャパンカップの取材は7~8度目になるのではないか。「貫」「込み栓」「やとい」「楔」「キロニュートン」など専門的な用語が飛び交うので、一般の方は理解するのが大変だろうが、見ていてなかなか面白い。民間スポンサーを増やし、イベントなどを組み合わせれば、一般の人も見学する大会になるのではないか。
参加チームが10チームと少ないのも気になった。多いときは30チームくらいあった。
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今回もポラスの呼びかけで11日の取材に参加したのだが、日刊木材新聞社・橋本崇央編集長とパーク・川口美貴氏も参加していた。わたしも含め、この3人は三重県関係者であることを知った。
橋本氏は埼玉県出身なのだが、奥さんが三重県桑名市出身で、川口氏は松阪、記者は伊勢(度会)出身だ。
この日は朝から具合が悪かったのだが、3人が「三重」と聞いて辛さは吹っ飛んだ。三重県人に共通するのは律儀だということだ。
(ところが喜びはここまで。自宅に帰り、その後13日まで3日間床から起き上がることができなかった。ほぼ1時間に1度、トイレに駆け込み、お猪口1杯も出ない排尿に呻吟し、38度を超える熱にうなされ、鳥肌が立つほどの悪寒に襲われ、躁と鬱が交互に展開する白昼夢に自分を失っていた。酒は一滴も飲まず、タバコも数本しか吸えなかった。こんな経験はこれまでの人生で初めての体験だった。医者の診断によると夏バテと膀胱炎の合併症とのことだった。出したくても出ない、我慢しようにも我慢できない、それが膀胱炎だ。こんな厄介な病気はない)
「板挟み」(左)とポラス建築技術訓練校「めりかべ」
「負けたときは〝金物を使っていないので〟という言い訳もちゃんと用意してきました」めりかべのメンバー
解体作業を行なうポラス「板挟み」
旭化成ホームズ 二世帯住宅「娘夫婦同居」30年前の23%から34%へ この数字の意味
旭化成ホームズが8月8日、「二世帯住宅調査報告会・入居宅見学」を行なったが、とても興味深いデータが発表された。何の制約もなければ、「息子夫婦同居」と「娘夫婦同居」の割合は50:50になるはずだが、実際はそうなっていないことが明らかになった。同社が二世帯住宅を販売開始してから今年で40周年を迎えたが、今回の調査は息子・娘夫婦同居で異なる不安を解消する提案法を探るのが狙いの一つ。
築30年の二世帯調査回答者の「娘夫婦同居」比率は23%であるのに対し、2013年契約時アンケートではその比率は34%へ11ポイント上昇している。それでも「息子夫婦同居」比率のほうが多数派を占めている。
そこで、記者は同社に「この差はなぜか」と質問した。同社のくらしノベーション研究所所長・松本吉彦氏は、「分かりません」と答えた。
松本氏が分からないというのだから記者は分かりようもないのだが、調査結果からはその理由があぶりだされてくる。
親子同居を検討する際に、9割以上の親世帯、子世帯が同居ブレーキ(不安)を感じるのだが、その不安は嫁や姑の女性のほうがより強く感じていることがテータは明らかにしている。
子世帯から見た場合、息子夫婦同居を検討する妻は「義母と上手くやっていけるかしら」という不安(88%)を抱いており、夫は「母と嫁の関係が心配」という不安(65%)がもっとも多い。一方、娘夫婦同居を検討する妻は「わたしの親と同居する夫のことが心配」という不安(70%)が多数を占め、その夫(マスオさん)は「一人の居場所があるか心配」という不安(64%)がもっとも多い。
一方、親世帯から見た場合、息子夫婦同居でも娘夫婦同居でも、父親も母親も「子世帯に介護の負担をかけたくない」というのが大きなブレーキになっており、とくに息子夫婦同居を検討する母親は「嫁問題はなにかと気遣いが多い」(67%)と答えている。
つまり、妻は姑や夫のことが気掛かりで、その母もまた〝他人〟の嫁との関係を心配しており、娘夫婦同居を検討する夫(婿)は「自分の居場所」を最優先している図式が浮かび上がる。
これらの調査結果は家父長制の名残りであり、家・家族の問題が色濃く反映されていると見ることはできないか。嫁姑問題とは、家や夫に対する不満のはけ口がない姑が嫁にそのままそっくり転化、なすり付けることであり、〝男を立てる〟ことが女性の美徳であるという考えがいまだに世の中を支配しているからではないか。
それでも、同社の二世帯住宅の回答者の娘夫婦同居比率が30年の間に23%から34%へ伸びたのは、同社の営業努力もあるのだろうが、「子育ての援助、高齢親の自宅介護の希望、同居の安心・安全」「女性が仕事をするためには、親の援助が必要」という切実な問題が同居アクセルになっているのは間違いないと思う。
世界のメディアが匠の技に注目 第16回ジャーブネット全国大会
宮沢氏(大会前の記者会見で)
アキュラホームは8月5日、日本最大級の工務店ネットワーク「ジャーブネット」(主宰:アキュラホーム社長・宮沢俊哉氏)が7月9日に開催した「第16回ジャーブネット全国大会」に関するニュースリリースを発表した。
大会は、東大名誉教授・内田祥哉氏による基調講演や数寄屋大工・杉本広近氏、左官職人・久住有生氏の講演があったためか、一般の参加者を含め853名(前年比152%)が集まり、盛会となった。
ジャーブネットの昨年度の実績は、厳しい環境下で注文棟数は前年比7.3%減となったが、会員1社当たりの受注棟数は22.0棟と健闘した。今年度は垣根を越えてあらゆるジャンルの人と連携を強めていくことを方針として掲げた。
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リリースは、大会の模様のほかに、「イギリス、イタリア、中国などからジャーナリストが来場」「世界を舞台に活躍する匠たちのコラボレーション展示を取材」「イタリア大手経済紙のwebサイトに記事と3分ほどのビデオレポートがアップされました」「“Japan Info”という日本の良さを海外に紹介するwebサイトのFacebookの記事では『いいね!』が29,000人(8/5現在)と他ニュースに比して驚異的な数字です」などとこの種の大会では極めて珍しい海外メディアからの取材があったことを紹介している。
会場となった「ホテルイースト21東京」の一角に、世界で活躍する数寄屋大工・杉本広近氏、左官職人・久住有生氏、庭師・比地黒義男氏、建具職人・和田伊弘氏、和紙デザイナー・堀木エリ子氏5氏の共同作品が展示されたのだが、これに海外メディアが反応したようだ。
記者もこの展示作品を見学した。久住氏や堀木氏の作品はマンションのオブジェなどによく用いられているのでお馴染みだが、杉本氏や比地黒氏、和田氏の技に見惚れてしまった。いつものことだが、貧乏人根性がしみこんでいる記者は「いったいこの作品をお金に換算したらいくらになるのだろう。このままどこかに展示はできないのか」と考えた。
了解を得たので、以下にその作品を紹介する。
ポラス 蔵のある街づくりプロジェクト「ことのは 越ヶ谷」蔵の補修が完了
「ことのは 越ヶ谷」
ポラスグループは8月6日、計画を進めてきた埼玉県越谷市の〝蔵のある街づくりプロジェクト〟「ことのは 越ヶ谷」の蔵の補修が完了したのに伴い報道陣に公開した。
江戸末期に建てられたという蔵の曳家を行い、再生した蔵と分譲戸建て4棟を一体として開発し、蔵は敷地、建物を含め越谷市に寄付する。蔵の土地代、曳家費用、補修費は合計で約6,000万円。2014年10月に曳家が完了。その後、市との協議を重ね、2015年3月、開発許可を取得している。
分譲住宅は来年1月に販売する予定。価格は未定。
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このプロジェクトが発表されてから現地を訪れるのは今回で4度目か。蔵はこれまで見たのとは全く異なる、装いも新たになった〝新しい蔵〟そのものだった。
耐震補強が施され、内装には杉材が多用され、外壁は戦時中の空襲を逃れるために黒だったのを当初の白漆喰に改められていた。
家の中は冷暖房設備を設置できるようになっていたが、この日は扇風機だけ。汗が噴き出る中、家の中も見た。
太い梁などが赤黒く鈍い光を放っていた。何の木だろうと思い、曳家を担当した野口組の棟梁・野口且由氏に聞いたら「すべてケヤキとスギ」とのことだった。昔はその地で採れた材木(地木)を使って建てるのが一般的で、同地にはスギやケヤキがたくさん植わっていたのだという。
野口組棟梁・野口氏(左)とポラス中央住宅戸建分譲設計本部 営業企画設計一課 係長 池ノ谷崇行氏
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記者は当初から、敷地、建物とも分譲住宅購入者が共同で取得して、管理も行うのを期待していたが、やはり難しかったようだ。「蔵」を普通のサラリーマンが所有することなど今の時代にできないのはわかってはいたが、それでもそんな夢を抱かせるプロジェクトだった。記者は「蔵」を共同所有する価値と戸建ての価値を合わせれば一戸7,000万円はあると見ていたが、夢は実現しなかった。まあ、致し方ない。
これから市はどのように生かすのかも気になる。今回の蔵は新たに再生し、街のコミュニティ施設として運用されるのだろうが、このほかにも同地にはたくさん蔵が残っている。それらの蔵を歴史的建造物として残せないのか。小樽、金沢、高岡、川越、伊勢、京都、倉敷、萩、長崎…などのように街全体を保存する価値は十分あると思う。越谷にこんな素晴らしい街があるなどとは全然思わなかった。
駅前には新しいタワーマンションができたが、周辺の景観はどこの郊外の街と変わらない。蔵のある街と駅前の景観はどうしても一致しない。赤やら青やら黄色やら満艦飾の飾りや看板がありふれた街であることを主張し、主人公になれない街路樹は申し訳なさそうに意地を張っていた。
正直に言えば、完成した蔵もいいが、今にも朽ち果てそうな再生前のあの蔵もまた美しいと記者は思う。関東大震災にも戦争にも耐えたからこそわれわれは歴史を感じ、そこに感情を移入できるのだ。70年前の8月6日、あの蔵はどのように街の人を見ていたのか。
1階部分
2階部分
ポラス、越ケ谷小3年生107人を対象に「蔵の曳家」体験イベント(2014/10/2)
RC造に匹敵する江戸の蔵残す ポラス「蔵のある街」プロジェクト(2014/3/15)