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 国土交通省は12月27日、令和5 年11月の新設住宅着工戸数をまとめ発表。総数は66,238戸となり、前年同月比8.5%減、6か月連続の減少となった。内訳は持屋が17,789戸(前年同月比17.3%減、24か月連続の減少)、貸家が28,275戸(同5.3%減、4か月連続の減少)、分譲住宅が19,578戸(同5.2%減、6か月連続の減少)。分譲住宅のうちマンションは7,671戸(同5.2%減、先月の増加から再びの減少)、一戸建住宅は11,835戸(同4.3%減、13か月連続の減少)。

 構造別ではプレハブは7,880戸(同20.0%減、6か月連続の減少)、ツーバイフォーは8,072戸(同2.1%減、3か月ぶりの減少)。

 令和5年1月から11月の累計では総数は755,037戸(前年同期比4.7%減)、内訳は持家207,321戸(同11.2%減)、貸家318,025戸(同0.1%減)、分譲住宅224,979戸(同4.4%減)となっている。分譲住宅の内訳はマンションが98,157(同1.9%減)、一戸建てが125,816戸(同6.1%減)。

 首都圏マンションの累計は47,065戸(同1.1%減)で、都県別では東京都が23,854戸(同11.8減)、神奈川県が13,432戸(同29.9%増)、埼玉県が5,250戸(同0.4%減)、千葉県が4,529戸(同8.2%減)。

 

カテゴリ: 2023年度

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玉川上水

 今年はわが西武ライオンズの山川選手に翻弄された1年でもあった。チームは5位に終わったが、過去のことは忘れよう。来季に期待しよう。悪夢を断ち切るためにも、単純にして明快な真理-それなしには生きられない山と川、とくに「川」について考えてみた。

◇        ◆     ◇

 国土交通省が特に重要と定め指定するわが国の一級水系は109水系、一級河川は14,079本、都道府県知事が指定する二級水系は2,713本、二級河川は7,029本、市町村が指定する準用河川は14,314本となっている。全国に一級水系がないのは沖縄県のみで、政令指定都市で一級河川がないのは福岡市のみであることから分かるように、ほとんどの都市は河川流域に存在する。

 川は、安全に水を海に運び(治水)、飲料水をはじめ農林水産、工業などあらゆる産業を支え(利水)、親水・公園・リクレーションなどわれわれの生活を潤し、生物多様性にも大きな役割を果たしている。小説や音楽などの舞台になり、絵画、写真などの題材にもなる。

 記者は、かつてはアユやハヤ、カニなどが面白いように獲れた、現在でももっともきれいな川の一つとして知られる三重県の宮川・一ノ瀬川流域で生まれ育った。まずまず人間らしい生き方をしてきたのも、その豊かな自然環境のお陰だと思っている。

 成人してからも、マンションや分譲戸建てなどの取材を通じてかなりの川を紹介してきた。「川」のワードで過去10年間の記事を検索すると、東京都だけで多摩川の40件を筆頭に、仙川24件、日本橋川24件、玉川上水23件、神田川18件、国分寺崖線18件、石神井川11件、隅田川10件、目黒川8件、荒川5件、渋谷川4件などがヒットする。川が分譲住宅などの販売促進の役割を果たしていることが分かる。

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六郷用水

◇      ◆     ◇

 皆さんは「渋谷駅南方から天現寺橋までの2.4kmを流れる二級河川。渋谷ストリーム北辺の『稲荷橋』地点を起点とし、広尾、麻布の台地下を流下して、芝公園の南側を通り、東京湾に注ぐ」(Wikipedia)渋谷川をご存じか。名前だけなら知っている人は多いだろうが、水源はどこか、どこに注ぐかを知っている人は少ないはずだ。記者は考えたこともなかった。

 知ったのはつい先日(12月17日)、千葉商科大学環境情報科学センター主催のシンポジウム「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」だった。中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏(イコモス日本国内委員会理事/東京大学名誉教授)は、渋谷川の水源は新宿御苑(高遠藩)・明治神宮内園(井伊家下屋敷)・明治神宮外苑(青山練兵場)の公園三部作と玉川上水の余水であると報告した。

 石川氏は共著「岩波講座 都市の再生を考える」(岩波書店、2005年刊)の第4章「公共空間としての公園・緑地」で、渋谷川について「消失した川、コンクリートで固められた貧弱な川からは、想像もつかないような巨大な緑地を水源林として有していることが分かる」(105ページ)とし、「水と緑の回廊」(渋谷川パークシステム)の再生シナリオを<新宿御苑地区><明治公園地区><原宿地区><代々木公園、宇田川地区><宮下公園地区><渋谷駅周辺><渋谷駅-恵比寿駅周辺><広尾病院、慶應幼稚舎、北里大学周辺><白金、麻布十番、三田小山町><麻布十番、赤羽橋、金杉橋、東京湾河口>の10の地区別に描き、「川は、失われたとはいえ、公共空間としての得がたい特質を保持している。この貴重な資産を軸に、断片的に存在する公共の緑地や、地区ごとのルールをつくることにより生み出されるささやかな緑地などを結び付けることにより、新しい公共空間を生み出していくことができる」(109ページ)と述べている。

 そして、「100年をかけて失ってきた都市の自然の回復には、100年のヴィジョンに裏打ちされた夢と、実現に向けての緻密な歩みが必要である。これからの公共空間は、公の空間という土地所有の呪縛から解放され、『多くの人びとの安全と生活の質の向上、さらには地球環境の持続的維持のため、複雑で零細な土地利用の中から、互いに分かち合いつつ生み出される集合体としての空間』という考え方に変容していかなければならない」(111~112ページ)と締めくくっている。

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渋谷川

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渋谷川

◇      ◆     ◇

 同著の第2章「都市再生の理念と公共性の概念の再構築にむけて」では、蓑原敬氏は「現代の日本社会の中で、都市、地域の再生を図るためには、日本の地域計画、都市計画を本来の姿に戻すことが不可欠である。また、住宅政策の根本的な見直し、住まい街づくり政策への転換が不可欠である。だが、都市計画を巡る日本社会の仕組みみの現状は、これを阻む構造になっている」(29ページ)と問題提起し、「口当たりのよい総論的な言説を繰り返し、各論への介入を不可避にする実態の変革を避けた表面的な表現だけを重ね、各論の段階では常に既往の制度の部分的な手直しでお茶を濁してしまい、総論で掲げた目標はいつの間にか消え失せているのが日本の行政構造の現実である。それが、この20年間、日本の都市が『非人間的、反社会的、そして自然破壊的な面が目立っている』ことに繋がっている」(33ページ)と指摘。「新たな、住まい街づくり政策の確立と国土計画法、都市計画法、建築基準法集団規定を一体化した、都市田園法と街並み計画法の策定が必要である」(56ページ)と説く。

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石神井川

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石神井川

◇      ◆     ◇

 石川氏が力説する「パークシステム」の復活はあるのか、蓑原氏がいう「本来の姿」を取り戻すことができるのか。

 記者などは、渋谷川や日本橋川を見るにつけ、建物は押しなべて川に背を向け、深い擁壁の底に沈み、流れているのかどうかも判別できない、黒い水面にブクブクと泡立つ不気味な光景に絶望するしかない。〝死の川〟そのものだと。

 「本来の姿」を取り戻す道のりも険しいと言わざるを得ない。千代田区の神田警察通りの道路整備計画、二番町地区地区計画、神宮外苑まちづくり計画に関する会合を傍聴したり審議会の議事録などを読んだりしたが、法的手続きに瑕疵がなければ、住民はもちろん議員や委員などの声はただ聞き置くだけの扱いを受けるのを嫌と言うほど知らされた。官僚主導は貫徹されている。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」(方丈記)

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小松川親水

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玉川上水

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玉川上水

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日本橋川

氷の微笑、根回し、考え方更新、都市公園とは…神宮外苑を考えるシンポ千葉商大(2023/12/19)

期待の大きさの分だけ深い失望 「渋谷川・古川の河川再生」現地を歩く(20222/10/5)

これでいいのか 川に背を向ける日本橋の街(2008/5/19)

カテゴリ: 2023年度

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長谷田氏(大船駅構内で) 

ブルースタジオ「SUNKA」の取材を終え、大船駅近くの焼き鳥(レバー)が抜群に美味しい飲み屋でビールを飲んで駅の改札をくぐったときだった。だしぬけに声を掛けられた。確かにどこかでお会いした人だ。記憶をフル回転させた。すぐわかった。ジャーナリストの長谷田一平氏(76)だった。

最近は、人の名前と顔は右から左、左から右へと素通りするのに、どうして長谷田氏のことを覚えているかと言えば、もう10年近く前だ。長谷田氏の著作「フォトアーカイブ 昭和の公団住宅団地新聞の記者たちが記録した足跡」を読んでいたからだ。そんじょそこらにある回顧ものではない。足で稼いだ名著だ。6年前の積水ハウス「江古田の杜」の取材でもお会いしている。

 改めて名刺交換もした。「二科会写真部神奈川支部会員」の肩書付きで住所は鎌倉市とあるではないか。お元気そうなのは「鎌倉夫人」のお陰だろうと読んだ。「わたしの行きつけの店でちょっと三十分どうですか」と誘われた。渡りに船とはこういうことを指す。

 店の名前は「石狩亭」。お品書きのほか、「鎌倉の町 中華№1に選ばれました」などあちこちに張り紙が張られていた。人気店なのだろう。

 長谷田氏から「日本一美味しい緑茶酎ハイ」を勧められるままに飲んだ(小生にとってはお茶そのもの)。何杯お代わりしたか分からない。それより、長谷田氏の第一声「ボケ防止を兼ねて開設したブログ『融通無碍』はYahoo!Googleで『ココログ融通無碍』と入力すると真っ先にヒットする」に驚いた。ブログ融通無碍のURLは次の通りだ。

http://kamakura-photo-press.cocolog-nifty.com/blog/

融通無碍なる熟語は、融通が利かない小生などとは無縁で、取り立てていうほどでもないが、人によっては珠玉の輝きを放つ。隈研吾氏がそうだ。いくつかの著作でも述べられているが、2021年に完成した「大田区 田園調布せせらぎ館」のインタビュー映像で「施設全体は融通無碍に使える、利用者の様々なアイデアに柔軟に対応できるデザインとした」と話したのを鮮明に覚えている。同じ言葉を長谷田氏が口にした。

冒頭にも肩書を紹介したが、長谷田氏の写真がまたいい。何かの取材で撮ったらしい、小生がもっとも美しいと妄信しているある大女優の写真を見せてもらった。のどから手が出そうになった。カメラも上等なのはもちろん、被写体に向き合う姿勢が違うのだろう。

そんな長谷田氏にもやり残したことがあるそうだ。億ションを見たことがないという。これはやむを得ない。1955年の旧日本住宅公団設立から1997年の〝亀(亀井静香氏)の一声〟によって分譲事業から撤退するまで42年に約約150万戸(うち分譲住宅は半数近くに上るはず)の住宅を建設してきたUR都市機構は1戸の億ションも供給しなかった。(公営住宅で初めて億ションが登場したのは2007年の横浜市住宅供給公社「横浜ポートサイドプレイス タワーレジデンス」)

今は億ションなど珍しくないので、いつでも紹介できるのだが、「その女優の方の取材があったら、カバン持ちとして連れててってください。億ションの見学会には必ずお声掛けします」と交換条件をだした(この大女優の方が少なくとも2か所で都心の億ションを買ったことを長谷田氏はしらないだろう)。

政治の話もした。小生はもう何十年も投票に行ったことがないと話したら、「それはダメ。白票を投じないと。白票が政治を動かす」と長谷田氏は諫めた。

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「日本一美味しい緑茶酎ハイ」

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鎌倉市産のきくらげ

裏山の借景致しも断熱等級6クリア ブルースタジオ 賃貸住宅「SUNKA(サンカ)(2023/12/26

緑の質量に圧倒 エントランスに樹齢100年巨木「江古田の杜」街びらきに千数百人(2018/9/23

江古田の杜 コミュニティ施設に「Casita(カシータ)」のサニーテーブル(2017/12/12

設計 鉄と木とガラスの「融通無碍」ハイブリッド「田園調布せせらぎ館」(2021/1/28

横浜公社が全国初の億ション その英断に拍手喝采(2007/11/2

カテゴリ: 2023年度

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「HARUMI FLAG」の「PARK VILLAGE」に導入された足湯(ASHIYU LOUNGE)=純水素型燃料電池で発電時に発生した熱を居住者が利用できる足湯とし活用したもの。熱を発生させるコストはゼロというスグレモノ

 今年も残りひと桁を切った。この時期になると、わが業界紙は必ず大所高所の視点から〝重大ニュース〟と称し、様々な出来事を紹介する。記者は、野球に例えれば、9つあるポジションのうち1つどころか、補欠にも入れない技量しか持ち合わせていない。マウンドから指呼の間しかない18.44m先のホームベースまで〝アレ、アレレレ〟球が届かない。そんな馬鹿な記者が書くことをご承知のうえで、以下の1年間の回顧記事を読んでいただきたい。

RBA野球大会 4年ぶり開催 54チーム参加
東急リバブル、三菱地所が優勝

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東急リバブル(左)と三菱地所の胴上げ

記者にとって最大のトピックスは、コロナ禍で中止となっていたRBA野球大会が4年ぶりに開催されたことだ。水曜ブロックは33チーム、日曜ブロックは21チームが参加した。コロナ前より参加チームは若干減少したが、かつてない盛り上がりをみせた。水曜ブロックは東急リバブルが18年ぶり、日曜ブロックは三菱地所が28年ぶりにそれぞれ優勝した。発信した記事は約150本。総アクセス数は8万件くらいに達しているはずだ。

皆さんは〝たかが野球〟と思われるかもしれないが、売上高が1兆円以上の住宅・不動産業界の企業のうち参加していないのは住友林業(4年前までは参加)と飯田グループくらいで、参加54チームの所属する会社の売上高をトータルすると約50兆円(うちトヨタ自動車は37兆円)に達する。社会人・都市対抗には勝てないが、住宅・不動産業界だけでなく鹿島建設、清水建設、長谷工コーポレーションなどゼネコンも参加するこのような幅広い業種を束ねた野球大会を弱小企業が35年も継続して行っている。延べ参加選手は3万人くらいになるのではないか。親子で同じ会社・チームに参加する事例も出始めた。そんな大会を30年間にわたって取材できたことに感謝!感謝!感謝!

 価格上昇続くマンション、変調きたす分譲戸建て市場  

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HARUMI FLAG」(板状棟)MINAMO GARDEN」

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「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」305㎡のモデルルーム

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「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」カーギャラリー

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麻布台ヒルズ外観(DBOX for Mori Building Co., Ltd. - Azabudai Hills

野球大会より長く40年以上にわたり取材してきた分譲住宅の記事を今年1年間でマンション約120本、一戸建て約20本を書いた。しかし、現地見学・取材はコロナ以降激減しており、市場を把握するには程遠く、内心忸怩たるものがある。

調査機関による今年の首都圏マンション供給量は約3万戸だが、着工戸数の6割くらいしか捕捉できていないことを忘れてはならない。残りの4割は高額物件のクローズド販売、建て替えマンションの地権者住戸、30㎡未満の住戸などだ。

いわゆる億ションも4,000戸くらい供給され、平均価格も1億円に上昇したことが報じられているが、郊外部の坪単価が250万円くらいのとその4倍もある1,000万円超の物件などすべてを合算し、平均値を出せばそのような数値になるのは当然だ。マクロデータだけでなく、基本性能・設備仕様レベルがどうなっているかも調べないと、市場を把握したことにはならない。

今年見学取材した物件でもっとも印象に残ったのは「HARUMI FLAG」(板状棟)だった。ランドスケープデザインが抜群で、これほど素晴らしいものは過去にないはずで、将来も供給されないだろう。街づくりでは「麻布台ヒルズ」も最高に素晴らしいと思った。

「三田ガーデンヒルズ」の坪単価1,300万円を的中させたのは我ながらあっぱれ。記者冥利に尽きる。郊外物件では大和ハウス「プレミスト昭島」(481戸)が圧巻だった。残りは100戸しかない。販売スピードにびっくりした。「うめきた2期」の積水ハウス他「グラングリーン大阪(GRAND GREEN OSAKA)」は〝負けたらあかんぞ東京に〟の意地を見た。

分譲戸建ては、圧倒的シェアを占めている飯田グループなどの物件を10年以上見ていないので語る資格もないが、コロナ後の勢いは完全に止まり、資材高騰などの影響を受けそうで、今後の展開には注視する必要がある。

見学した物件では、建ぺい率30%、容積率50%のポラス「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」(8棟)が最高に素晴らしかった。

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NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」

価格上昇〝もうはまだ〟なのか〝まだはもう〟

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新築市場と連動するから当然といえば当然だが、中古マンションの単価、価格上昇が続いている。買取り・再販事業も伸びるはずで、立地、環境に恵まれたいわゆるビンテージマンションの争奪戦が始まるのではないか(もう始まっているか)。課題は中古物件の断熱性能を高めることだ。管理規約を改正し、単板ガラスサッシを二重サッシや樹脂サッシに容易に変更できるようにすべきだ。改正区分所有法ではそうなるはずだ。

もう一つの問題は、新築も中古もいつまで価格上昇が続くかだ。〝もうはまだ〟なのか〝まだはもう〟なのか。これは分からないのだが、少なくともアッパーミドル・富裕層向けは現在の好調市場が続くのではないかと記者は見ている。

2023年の港区の課税標準額が1億円を超える層は2016年の957人から45.5%増の1,392人(全納税者の0.9%)、課税標準額1,000万円超の納税者も7年前より40.2%増の27,680人(全納税者の18.6%)になっているのもその根拠の一つだ。格差社会は加速度的に進んでいる。

落ち込む持家 木造は増えるのか 住宅着工

住宅着工では、持家の落ち込みが気になる。今年10月まで23か月連続して前年同月比で減少しており、今年110月では前年同期比10.6%減の189,532戸だ。前年に引き続いて分譲住宅を下回る可能性が高い。

記者は持家の着工戸数は元に戻らないと悲観的な見方をしている。建て替えはともかく、適地は減少しているはずで、価格は高いがアクセスに恵まれた分譲マンションや、圧倒的に価格が安い分譲戸建てに相当数が流れていると思う。

構造別では、平成21年度に木造率が50%を超えてから50%台の半ばで推移しているが、記者は近いうちに6割に達するのではないかとみている。大和ハウスが11月に行った「戸建住宅事業 計画説明会」で2022年度実績の5,762棟(請負:4,191棟、分譲1,571棟)から2027年度には10,000棟(請負:3,000棟、分譲7,000棟)に拡大し、分譲戸建ての鉄骨:木造比率が7%しかない「木造」を「分譲は全て木造にしたいくらい」と同社取締役常務執行役員住宅事業本部長・永瀬俊哉氏が語ったのに衝撃を受けた。

一方で、25年の歴史を持ち累計販売棟数16万棟を突破している工務店ネットワーク「JAHBnet(ジャーブネット)」(主宰:AQ Group宮沢俊哉社長)は202312月末日をもって解散すると発表した。プレカットを含めた分譲戸建て業界の再編があるかもしれない。

第三者管理者方式増加へ 区分所有法改正へ マンション管理

マンション管理では、第三者管理者方式のガイドラインの整備に関するワーキンググループの会合が始まった。来年3月までに答申される模様で、予算に余裕のある管理組合や富裕層向け、投資向けマンションに採用するケースが激増するのではないか。

また、法務省は、区分所有建物の管理・再生の円滑化、被災建物の再生の円滑化に向けた区分所有法制の見直しは喫緊の課題とし、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組み、管理不全状態にある専有部分や共用部分の管理に特化した新たな財産管理制度、共用部分の変更決議の要件の緩和、建替え決議の多数決要件の緩和などの見直し作業を進めている。来年度には法改正が行われる見込みだ。

「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家等対策特別措置法)が改正され、今年5月に施行されたが、テーマが大きすぎで、記者は取材をしたことがほとんどない。どうなるのかもさっぱりわからない。

 危機に瀕するみどり環境 SDGsはどうした

記者は最近、胸にSDGsバッジをつけ、目標17項目に少しでも貢献できるように心がけている。折に触れ千代田区・神田警察通りのイチョウの街路樹伐採、神宮外苑まちづくり、都市公園、フェイクグリーンなど「みどり」について記事にしてきた。緑環境は危機に瀕している。

どれだけ軽視されているか。東京都の「マンション環境性能表示」制度で公表されている961物件の「断熱性」「省エネ性」「再エネ」「維持管理・劣化対策「みどり」の5段階表示の分布を以下に紹介する。

評価項目 ★3つ ★2つ ★1つ
断熱性 488 336 137
省エネ性 786 157 36
再エネ 73 90 472
維持管理・劣化対策 420 386 155
みどり 131 309 461

 

いかがか。「再エネ」もそうだが、マンションの「みどり」の取り組みが遅れていることが一目瞭然だ。なぜそうなのかは全物件を調べる必要があるが、マンションの立地(用途地域)と関係があるはずで、★1つは商業系用途、★3つは大規模再開発や第一種低層住居専用地域など住居系が大半を占めていると思われる。

3つの物件をデベロッパー別にみてみた。共同事業や再開発物件をどう案分していいか分からないので正確ではないが、★3つを取得しているデベロッパーは20社くらいしかない。もっとも多いのは三菱地所レジデンスの27件で、住友不動産の24件だった。他では野村不動産と三井不動産レジデンシャルが続き、東京建物や積水ハウスも目立つ。この6社で過半を占める。供給がそれほど多くない〝5本の樹計画〟を推進している積水ハウスの〝健闘〟が光る。

カーボンニュートラル実現への道のり

カーボンニュートラル実現、建築物の木質化の具体的取り組みでは、長谷工コーポレーション「ブランシエスタ浦安」、三井ホーム「IZM(イズム)」モデルハウス、ナイス「Rita School」、ポラス「体感すまいパーク柏」、三井ホーム「MOCXION四谷三丁目」、三井不動産レジデンシャル「北千束MOCXION」、三菱地所ホーム「江北小路」、AQ Group8階建て純木造ビル」、三菱地所ホーム「KIGOCOCHI(キゴコチ)」ショールーム(モデルルーム)、三菱地所レジデンス「上野毛テラス」、野村不動産&清水建設「溜池山王ビル」などを取材した。

道のりは容易ではないが、この種のつくる段階からCO2削減・固定化する取り組みが加速することに期待したい。ウッドデザイン協会と農水省・経産省・国交省・環境省が「建築物木材利用促進協定」を締結したのもとてもいいことだと思った。

各省庁へお願いだ。アメリカなどで普及している景観価値を含めた樹木・緑の定量的評価制度「iTree Eco」の日本版を開発していただきたい。都市計画に関する審議会の議事録を読むと、建ぺい率、容積率、建物の絶対高さなどの論議が中心で、この「iTree Eco」の視点が欠落していると強く感じる。環境経済学の出番だ。

2050年のカーボンニュートラルの実現を図る事業として、子育て世帯・若者夫婦世帯による高い省エネ性能(ZEHレベル)を有する新築住宅の取得や、リフォームを対象とした「こどもエコすまい支援事業」が創設された。予算額は1,709億円で、注文・分譲住宅は1戸当たり100万円、リフォームは60万円。3月から受付が開始され、9月末で予算額(注文・分譲住宅134,573戸、リフォーム294,031戸)に達したため完了した。結構な事業だが、期間限定ではなく、継続して行うべきだし、ZEHレベルに応じて補助額に差をつけてもいいのではないかと思う。

感動した5物件 はらわたが煮えくり返った千代田区の対応

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野村不動産&清水建設「溜池山王ビル」

野球大会を除き、年間取材を通じもっとも感動を覚えた建築物は「HARUMI FLAG」「麻布台ヒルズ」「グラングリーン大阪」「溜池山王ビル」「ノエン柏 逆井」の5物件で、逆にはらわたが煮えくり返るような怒りを感じたのは、千代田区・神田警察通りの道路整備に関する区の蛮行だった。「メディアは信頼できるか」の記事と併せて読んでいただきたい。

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11月30日20:00ころの神田警察通り

世界的潮流か 大河のようなウェーブ、アール形状が美しい 森ビル「麻布台ヒルズ」

ランドスケープ&デザイン、共用施設…最高に素晴らしい 「HARUMI FLAG」板状棟(2023/12/1

〝美は現しにあり〟木と鉄骨のハイブリッド実現 野村不&清水建設「溜池山王ビル」(2023/11/21

〝ぶっ飛んだみどり〟だけでない 「グラングリーン大阪」タワマンに絶句(2023/10/12

初めて見た30%・50×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」(2023/5/2

「アレ」を「暗黒社会」「ファッショ」に置き換えた…千代田区の仮処分申立書(2023/12/2

うろつくだけで工事妨害!? 暗黒社会へ突入千代田区イチョウ守る会を犯罪扱い(2023/12/2)扱い

〝やめてくれよ区長さん千代に代田のイチョウが泣いている〟30日夜の無法地帯(2023/12/1

メディアは信頼できるか 「事実(ファクト)」とは何 読売報道に想う(2023?11/25)

 

カテゴリ: 2023年度

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リコージャパン茨城支社(右の自動車はEV車)

 大和ハウス工業は12月18日、業界動向勉強会<第23回:環境篇>として、同社環境部長・小山勝弘氏が気候変動関連の動向と同社グループのカーボンニュートラル実現の取り組みを説明し、同社か施工したリコージャパン茨城支社の実例見学会を行った。

 ドバイで開催された気候変動会議COP28にも参加したという小山氏は、〝地球沸騰化〟の時代を迎え、IPCC第6次評価報告書統合報告書(2023年3月)で示された「気温上昇を1.5℃に抑えるために残されたカーボンバジェットは500Gt-CO2(2020年時点)しかなく、約10年で上限に達することや、G7広島サミット(2023年5月)で共有された「決定的に重要な10年」などを紹介し、個人的見解としながら「2030年に、新築でZEH・ZEB水準」とのロードマップが描かれているが、竣工後10年に限れば、エンボディドカーボン(建物の建設・解体・廃棄に伴うCO2排出量)が約7割を占めことの課題を指摘した。

 同社グループのカーボンニュートラルの取り組みでは、2030年までに「やれることはすべてやる」決意を掲げ、①原則すべての屋根に太陽光パネルを設置②2030年度 原則ZEH・ZEB率100%③新築自社施設の原則ZEB化・太陽光、23年度再エネ100%――を取り組みの3本柱として2030年までにバリューチェーン全体で40%維持用のCO2削減を達成すると話した。

 ステークホルダーとの共創共生の取り組みも強化し、信金中央金庫との連携締結や、今回の実例見学会会場となったリコージャパンのZEB化支援を紹介した。

 リコージャパン茨城支社は、築30年の老朽化したオフィスを建て替えたもので、2022年に竣工。建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)で定める「Nearly ZEB」の第三者認証を取得、一次エネルギーの75%以上削減を達成した。

 新オフィスのキーワードは「集中」と「コミュニケーション」で、照明・空調をスケジュールとセンシングで自動調整するほか、時間帯による調光調色の省エネ、太陽光・蓄電池による創エネ、EV(電気自動車)などを導入している。

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小山氏

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◇      ◆     ◇

 自社のオフィス内をメディアに公開する会社などほとんどないはずなので、今回の勉強会を楽しみにしていた。見学会では、女性の方が1階から3階と屋上を丁寧に案内・説明した。

 他社の施設を見ていないので何とも言えないのだが、オフィス内はとてもゆったりしていて、スタッフ約80人が働く環境としては最高に素晴らしいと思った。廊下幅は1.8mと広く、休憩室のお茶、紅茶、コーヒーなどは70~90円(たくさん買って家に持ち帰るのは可能か聞けばよかった)。

 課題もあるように思った。同社だけの問題でもないと考えるので敢えて書く。敷地はとても広いのだが(駐車スペースが信じられないほど広いのは、車なしでは移動できない市の街づくりによる)、樹木は1本もなく、法面などは人工芝だったことだ。SDGsの17の目標がスタッフの収納扉、階段室に貼られていたが、そのうちの13の目標である「気候変動」、15の目標の「陸の豊かさ」を考えたらこれはありえない。

 なぜ、このようなことを記者は言うか。10年以上前から「街路樹が泣いている」記事を書いているからだが、つくば市は、緑被率が60%を超える緑豊かな都市で、同市の取材の楽しみの一つは、街並みの美しさを見られることにある(わが多摩市は60%弱なのでつくば市には負ける)。

 もう一つは、オフィス内の「みどり」は全てフェイクグリーンだったことだ。ただのフェイクではなく、光触媒加工により大気中の有害物質を取り除いてくれるのはいいのだが、本物の緑の効果には勝てないはずだ。なぜか、同社に聞いたら「本物は手入れが大変」といつも聞く答えが返ってきた。

 本当にそうだろうか。スタッフが自らとみんなの働きやすい環境を整えるのに「手入れが大変」を理由にフェイクでいいと考えるならそれはそれで結構。何も言わない。記者は、オフィスの観葉植物を定期的に点検・手入れする会社の方が「捨てる」といったポトスの枝葉をもらってデスクに飾った。1~2週間に1度くらいの水交換で十分。取材の帰りには道端に咲いている雑草のドクダミなどを摘んでは仕事先や自宅に飾る。

 まだある。敷地内は館内も含め禁煙だった。これもSDGsの10の目標「人や国の不平等をなくそう」、16の目標「平和と公正をすべての人へ」に反する。つくば市はとくに喫煙規制がきつい。麻布台ヒルズには喫煙室が完備している。日本一お金持ちの東京都港区の取り組みを見ていただきたい。港区は「たばこを吸う人も吸わない人も、誰もが快適に過ごせるまちづくり」の一環として、屋外の公園を含めた指定喫煙場所を約40か所設けている(屋内は数えきれないほどある)。禁煙を強いるのは差別だ。生産性を低下させると信じている。

 さらに、また一つ、これが一番肝心なことだ。ハウスメーカーもデベロッパーも建物のZEH化、ZEB化に必死で取り組んでいるのは結構なことだが、「みどり」の取り組み=ネイチャーポジティブが決定的に欠けていると思う。なせ「神宮外苑」問題が炎上したか。みんな生理的に「みどりが破壊される」と感じたからではないか。

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リコージャパン茨城支社のエントランスのフェイクグリーン(同社だけでないが、記者はこのような神経が理解できない)

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電力使用量を〝見える化〟

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個人ロッカー(SDGsのステッカーが張られていた)

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階段にもSDGsのステッカー

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自動ではないが、ブラインドは操作するとせりあがってくる

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これもフェイク

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太陽光パネル

メタボ増えたが、あらゆるデータが向上 三菱地所「本社オフィス体験・懇親会」(2023/11/12)

自然と共生するワークスペース「コモレビズ」実装した「ザ・パークレックス天王洲」(2022/7/27)

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左から原科氏、石川氏(千葉商大丸の内サテライトキャンパスで)

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左から藤井氏、Rochelle氏(千葉商大丸の内サテライトキャンパスで) 

 千葉商科大学環境情報科学センターは12月17日(日)、「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」と題する対面&オンライン形式によるシンポジウムを同大学丸の内サテライトキャンパスで開催。同大学学長で日本不動産学会会長・東京工業大学名誉教授の原科幸彦氏が趣旨説明、中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏(イコモス日本国内委員会理事/東京大学名誉教授)が基調講演をそれぞれ行い、藤井英二郎氏(千葉大学名誉教授)、Rochelle Kopp氏(経営コンサルタント/神宮外苑問題の署名活動代表)を加えた4氏がパネル討論会を行った。

 冒頭、原科氏は「神宮外苑は都市公園です。樹木伐採は停まっているだけで、危険な状態。神宮外苑は公共空間ですが、この10年間、密かにことが進み、民間企業の利潤追求の場に使われようとしています。これはおかしい。カーボンニュートラルを実現するため環境に配慮した都市開発を行うのが基本。都市開発事業者、不動産開発事業者の責任は、公園緑地を減らす都市開発はできないということです」と切り出し、神宮外苑の果たしてきたCO2固定化など公共的な役割ついて語り、SDGsの観点からも再開発計画は大量のCO2を排出し、歴史的文化的価値を無視するものであり、イコモス本部が緊急アラートを発したにもかかわらず応えようとしない事業者の対応を批判した。

 続いて登壇した石川氏は、論点として①移植すれば、森を守ることができるか、本数が増えればいいのか②危機に瀕するイチョウ並木を公明正大、科学的調査に基づいて論議すべき③江戸・東京の400年の歴史をどう考えるか④社会が分かち合う社会的共通資本(コモンズ)とは何か-を示し、〝見えないところを見なさい〟という恩師の教えを紹介しながら、フィールドワークで調査した神宮外苑のシラカシ、スダジイ、ヒトツバダゴ(なんじゃもんじゃ)、イチョウ並木などの惨状などを報告し、環境影響評価書には虚偽があり、間違いは正すべきと主張した。また、新宿御苑(高遠藩)・明治神宮内園(井伊家下屋敷)・明治神宮外苑(青山練兵場)は公園三部作であり、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した折下吉延のパークシステムを紹介しながら、社会的共通資本(コモンズ)を維持しなければならないと語った。

 藤井氏は、神宮外苑創建に関わった職人の土壌改良、根回しなどの技術を「素晴らしい」と称え、「過去の歴史の年輪を刻んでいる情報を謙虚に受け取るべき」とし、一変して新国立競技場に話を転じ、「実態はひどすぎる。担当者も工程表も設計担当も、施工も悪い。オリンピックが無観客だったのが幸いした。大勢の世界の人々に恥をさらすところだった」と皮肉った。

 Rochelle氏は、「緑に尊敬していない。〝更新〟という言葉を使い、古い樹木を若い樹木に植え替えようとしている。ひどい。これを人間に言ったら大問題になるでしょ。樹木をモノとしか考えていない。何度も何度もそのようなことが伝えられるとそれが力となる。樹木に対する考え方を更新すべき」と訴えた。

 このほか、シンポに参加していた大方潤一郎氏(東大名誉教授)は、風致地区のただし書き、地区計画制度の問題点などを指摘した。

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「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」シンポジウム(千葉商大丸の内サテライトキャンパス)

◇        ◆     ◇

 記者は、いつものように〝街路樹の味方〟として今回のシンポジウムをリアルで視聴した。嬉しかったのはRochelle氏の話だった。10年以上前から「街路樹が泣いている」の見出しで記事を書いてきた甲斐があった。神宮外苑のイチョウは雄株か雌株か垂乳根(雄株にできるのか)も見られるので、古木ではないにしろ立派な成木だが、人間に例えれば志学15歳か破瓜の16歳か芳紀18歳の伸び盛りの神田警察通りのイチョウを死刑宣告した千代田区こそ無期懲役刑(記者は戦争が最たるものだが、人が人を合法的に殺すことには同意しない)に処すべきだと思っている。Rochelleさん、「RBA」ホームページから「街路樹」「都市公園」などで検索していただくと200件以上の記事がヒットするはずです。

 藤井氏のスピーチは複雑な気持ちで聞いた。隈研吾ファンだからだ。完成した新国立国技場を何度も見たが、建物本体はともかく植栽計画にはがっかりした。プアそのものだ。藤井氏が「貧困」と語ったのだから間違いない。

 Rochelle氏と藤井氏もそうだが、石川氏が何を話すかをリアルで聴くのが今回の取材の最大の目的だった。イチョウ並木の毎木調査を行い、現存植生図など一連の報告書、提言、要望書を主導したからだ。何千本もある樹木データが頭の中に詰まっているはずで、一部でもいいからその中を覗き見ようと思った。

 石川氏は最初、厳しい表情を崩さなかった。最高の写真を撮ろうとデジカメのシャッターを押し続けた。10分間くらいか。ことごとく空振りに終わった。石井氏は視線をそらした。これは一筋縄ではいかないぞと覚悟を決めた。

 それでもしつこく迫った。石川氏もあきらめたのか、講演が半ばに達したころから表情を崩し始め、それからというもの、微笑は最後まで絶えることがなかった…微笑…と、突然、何の脈絡もなしに「氷の微笑」のシャロン・ストーンと重なった。気難しい学者からいっぺんにファンに変わった。(農学者に惹かれるのはなぜか)紹介する1枚はその一つだ。

 石川氏は、「わたしはあきらめない。一言いいたい。なぜマスコミは事実を報道しないのか」と締めくくった。肺腑をぐさりとえぐられた。

 新しい発見もあった。石川氏の配布資料には秩父宮ラグビー場の所有者は「国」と書かれていた。ご本人にも確認した。現在もそうだという。事業者は新ラグビー場の土地・建物所有者は独立行政法人日本スポーツ振興センターと「想定している」と公表している。つまり、現在の秩父宮ラグビー場の土地・建物の権利は新ラグビー場に移転し、代わりに現在の秩父宮ラグビー場の土地・建物は明治神宮所有になるものだと理解していた。すでに所有権は移転・交換しているのではないかと(新ラグビー場もまた「未供用」になるのか=だとすれば多額の税金が減免されることになるはずだ)。

 そうでないとつじつまが合わない。国が所有する土地に、六大学や東都大学野球大会が行われるので公共性は高いとはいえ、プロ野球球団の本拠地とし、営利を目的にしたホテル建設などありえないからだ。いま、この点について関東財務局に問い合わせたところ、土地・建物の権利者は日本スポーツ振興センターとの回答があった。

  そこで、日本スポーツ振興センターに聞いた。石川氏の資料も関東第無極の回答もその通りで、記者の推測も的は外れていない。都市再開発法に基づく市街地再開発事業の権利変換手続きはこれから行われる模様だ。

 今回のセミナーで唯一、腑に落ちなかったのは原科氏が最初と最後に「神宮外苑は都市公園」と2度も話したことだった。都市公園と都市計画公園は似て非なるものだと思う。神宮外苑が都市公園だったら、このような再開発計画は俎上に上らなかったはずだ。事業者も「公園を整備するものではない」と明言している。

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神宮球場(12月13日撮影、以下同じ)

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イチョウ並木

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この木は何の木か(スダジイか)

樹木を避けて再開発は可能のはず 「神宮外苑地区まちづくり」をまたまた問う(2023/12/10)

「アレ」を「暗黒社会」「ファッショ」に置き換えた…千代田区の仮処分申立書(2023/12/2)

戦争と同じ「見解の相違」で済ませていいのか「神宮外苑地区まちづくり」を考える(2023/11/7)

〝喬木は風に折らる〟誤解解く取り組みの見える化急げ「神宮外苑地区まちづくり」(2023/10/17)

樹木を避けて整備都の日比谷公園整備PJ/「生き物を殺していいの」二の句継げず(2023/8/7)

またまた「街路樹が泣いている」 千代田区 街路樹伐採で賛否両論(2016/9/8

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「(仮称)ラヴィーニュ白馬by 温故知新」

 リストグループのリストデベロップメントは12月13日、同社初のラグジュアリーホテルコンドミニアム「(仮称)ラヴィーニュ白馬by 温故知新」を長野県白馬村で2024年12月に開業すると発表した。

 施設は、長野県北安曇野郡白馬村大字北城に位置する敷地面積約3,950㎡、5階建て客室数38室。客室面積は53.96~144.89㎡。開業は2024年12月。売主はリストデベロップメント。価格は未公表だが、坪単価はン百万円になる模様。

 飲食店街「エコーランド」が徒歩圏で、特徴は、全客室角部屋仕様としハイサッシを採用。山々の景色をダイナミックに演出し、特に西側のお部屋は八方尾根を望むことが出来る。間取りはStudio~3ベッドルームの全10タイプ。1 階部分には1,000本以上の長野ワインと長野県産の食材を活かした鉄板焼きレストランが入居する予定。

 温故知新は「宿を磨き続ける」集団として、スモールラグジュアリーホテルや老舗旅館、日本初のスタジアム一体型ホテルなど、旅の目的地になるようなホテルをプロデュース・運営しており、ミシュラン最高評価を獲得したホテルを複数運営している。

 

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 国土交通省は12月12日、街路樹の倒木に関する全国調査結果をまとめ公表した。国・都道府県・自治体が管理する街路樹(高木)約720万本のうち年平均で約5,200本(0.07%)が倒木していることが分かった。

 調査対象は、国・都道府県・自治体が管理する道路における街路樹(高木)約720万本で、2018年から2022年の5年間で発生した倒木本数、点検による伐採本数、被害をまとめたもので、総倒木本数は年平均約5,200本、強風等の災害による倒木は年平均約3,700本、強風など以外の要因による倒木は年平均約1,500本、点検結果に基づく伐採本数は年平均約26,700本、倒木による被害は、直轄国道で人身1件、物損34件が確認されたとしている。

 年平均の倒木本数がもっとも多いのは北海道の1,658本で、大阪府1,082本、東京都445本、京都府265本、神奈川県233本、千葉県228本の順。

 同省は、北海道は2018年台風21号や北海道胆振東部地震、関東地方は2019年台風15号、近畿地方は2018年台風21号、沖縄県は台風の影響により、倒木本数が多くなっているとしている。

 

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神宮外苑軟式野球場(11月3日写す) 

 これまで、「神宮外苑地区まちづくり」について機会あるごとに記事にしてきた。今回は暇に飽かせて、事業者が公表している膨大な「既存樹木調査データ」に依拠しながら言い足りなかったことを書き記すことにした。

 既存樹木調査データは85ページにもわたるPDFデータで(どうしてExcelデータとしても利用できるようにしないのか)、再開発エリアのA~Cエリア(秩父宮ラグビー場~銀杏並木東)509本、野球場三塁側83本、野球場一塁側288本、第二球場147本、テニス場北コート167本、テニス場室内コート・御台場西143本、建国記念文庫162本、伊藤忠ビル周り150本、軟式野球場西側445本、軟式野球場東側281本の合計2,375本の既存樹木がそれぞれ連番、樹種名、樹高、幹周、葉張や樹形・樹勢・大枝幹の欠損・傷・枝伸長量・梢端の枯損・枝葉の密度・平均評点・評価結果(AからDまで4段階)などの活力度、保存の必要性、移植の可否、備考(外観からの特徴や特筆すべき点)が記載されており、保存、移植、伐採の判断が下されている。

 これらの樹木のうち伐採されるのは743本で、内訳は建国記念文庫の森周辺41本、第二球場周辺54本、神宮球場周辺98本、ラグビー場周辺50本、絵画館前187本、いちょう並木周辺等7本、テニス場周辺157本、伊藤忠商事東京本社ビル149本となっている。

 伊藤忠ビル周りには樹高10m超、幹周150㎝前後、葉張5mのクスノキのほかマテバシイ、シラカシ、ヤマモモなど常緑樹が多いのだが、全てが伐採される。備考には「ツリーサークル(直径2.5m)内に位置する。建物からツリーサークル縁までの離隔距離1.2m。根鉢確保と作業エリア確保が困難」「大枝(西側)が、切断されている。樹冠上部が、1階部分のネットに接触し、損傷あり。地下の植栽帯に位置する。擁壁が、幹芯から1.7mの距離にある」「小枝に、刈り込み剪定による、枯損が、多数あり」など記載されている。

 こんなことを書くと、再開発に反対する人からは袋叩きに遭うのだろうが、青山通りに面した事務所棟(敷地面積約13,170㎡、容積率1,150%、建物高さ190m)の樹木伐採はやむを得ないと記者は考えている。

 事務所棟は都市計画公園エリアではない。あらゆる開発行為がそうであるように、事業に支障をきたす「支障木」として伐採すると堂々といえばいいではないか。残す気などないのに「現在エリア内にある樹木は上記の調査結果や樹木医の見解をふまえ、事業者として保存・移植・伐採の別や移植難易度を判断しております」(事業者)などと思わせぶりな表現をするから誤解を招く。〝雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋(いか)ラズ イツモシヅカニワラッテヰル〟樹木に難癖をつけ、粗探しをしてどうする。樹木医にも失礼だ。

 それより、やはり問題なのは軟式野球場西側445本、軟式野球場東側281本、合計726本のうち187本の巨木を伐採する計画だ。

 事業者は「今回の計画で、今の時代に即した姿・形で創建当時の広場空間を復元し、『開かれた外苑』というものを継承して行くために、柵で囲まれた空間ではなく、神宮外苑を訪れる誰もが自由に往来できる広場を再整備する計画」としているが、ここにある樹木の多くは樹齢100年超のはずだ。「柵に囲まれた」などと利用者を動物園の禽獣扱いすることには断固反対するが、軟式野球場がなくなるのはやむを得ないと考えている。時代は変わった。

 しかし、伐採される187本の樹木は、これまでのRBA野球大会の取材を通じ何度も目にしている樹木だ。畏怖すら覚える巨木をなぜ伐採しなければならないのかの説明はされていない。

 既存樹木調査データからいくつか紹介する。軟式野球場西側の「つば九郎ハウ巣」の近くには現在、「活力度」Aの5本のユリノキが植わっている。このうち樹高18m、幹回24cm、葉張10mの樹木は「樹勢が良く、適度に剪定管理されている。根鉢ぎりぎりだが、場内移植であればチャレンジ移植は可能である」として移植可能としている一方で、このほかの樹高20m、幹周34.9cm、葉張12.0mの樹木は「根元周辺に構造物が多く、根鉢確保が困難である。幹芯から建物までの離隔距離1.5m、ブロック塀控え柱までの離隔距離1.1m、ブロック塀までの離隔距離2.5m」などとあり、理由を示さず伐採することになっている。

 また、同じ西側の現在はヤクルトスワローズの屋内練習場になっているところには22本の樹高9m、幹周10cm前後、葉張3m、「活力度」Bのヒマラヤシダーが植えられているが、全て伐採される。「備考」には「頂端部が、切断されている。刈り込み剪定による、片枝樹形(西側の中央部・下部の枝がない)であり、内部の小枝に枯れ枝が目立つ。建物が0.5m(西側)の距離にある。植桝内にある。 縁石の押し上げ(小)あり」とある(頂端部を切断したのは人間だ。ヒマラヤシダーに罪はない)。

 軟式野球場東側には樹高20m、葉張25mの「活力度」Bのイチョウがあるが、「根元に、コフキサルノコシカケの子実体あり。幹(南側)に、打音異常(小) H1.0m~2.0mあり。幹(東側)H2.1mに、開口空洞10×5×10/25あり。株立ちの幹分岐部が、全て入り皮である。大枝(南側)に、腐朽あり。露出根に、樹皮欠損あり。株立ちで、立派な樹である」とされているが、これもまた理由は示されずに伐採される。

 その隣には樹高14m、幹周170cm、葉張6mの2本のシラカシがあるが、これも「樹形に乱れがあり(樹幹傾斜、樹冠に偏り、下枝が高い)、大枝に開口空洞・腐朽あり、移植樹として不適である」として伐採される。

 一方で、このシラカシの隣には樹高18m、幹周158cm、葉張7mのムクノキがあるが、「幹(南側)H6.0mに、開口空洞50×10あり。他に開口空洞が2箇所あり。幹に大枝枯損あり。露出根の切断部に、樹皮欠損あり。過去に、ぶつ切り剪定されている。下枝が高い」とあるものの保存されるようだ。

 みなさん、いかがか。事程左様に樹木に敬意を払っているようで、その実、刺身のつま扱いだ。樹木診断と再開発計画は何の関連もない。

 話は横道にそれるが、同じような事例がある。千代田区の神田警察通りの街路樹であるイチョウ30本が伐採されることになっているが(うち数本は伐採された)、千代田区は樹木医の診断ではほとんどが健全木であるにも関わらず、道路整備事業では「枯損木」として死刑に処することを決めた。

 この神宮外苑や千代田区の事例に学んだのか、東京都は同じ轍を踏まないことにしたのか、「バリアフリー日比谷公園プロジェクト」では「整備工事は樹木を避けて実施する」ことを打ち出した。神宮外苑でも樹木を避けて整備することは可能だと思う。創建時は西洋庭園だったというではないか。直線的でシンメトリックな公園も美しいが、アシンメトリックな曲がりくねったわが国の伝統的な広場のほうがずっといいと記者は思う。

 まだ時間はある。〝絵画館前広場は樹木を避けて整備する〟と打ち出していただきたい。三井不動産の街づくりはたくさん見学取材している。他のデベロッパーに勝るとも劣らない。依怙地を張らないで、都民の声に耳を傾けてほしい。

戦争と同じ「見解の相違」で済ませていいのか 「神宮外苑地区まちづくり」を考える(2023/11/7)

〝喬木は風に折らる〟誤解解く取り組みの見える化急げ 「神宮外苑地区まちづくり」(2023/10/17)

樹木を避けて整備 都の日比谷公園整備PJ/「生き物を殺していいの」 二の句継げず(2023/8/7)

神宮外苑に総力を注いだ「つば九郎ハウ巣」公開 オープンハウス(2022/10/10)

 

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 国土交通省が1130日に発表した令和510月の住宅着工戸数は71,767戸となり、前年同月比6.3%減、5か月連続の減少となった。利用関係別の内訳は、持家は 18,078戸(前年同月比17.2%減、23か月連続の減少)、貸家は31,671戸(同1.0%減、3か月連続の減少)、分譲住宅は21,582戸(同1.2%減、5か月連続の減少)となった。分譲住宅の内訳はマンションが10,174戸(同9.4%増、4カ月ぶりの増加)、一戸建住宅は11,368戸(同8.8%減、12か月連続の減少)となった。

このほか、建築工法別ではプレハブが8,460戸(同24.0%減、5か月連続の減少)と大幅に減少した。

首都圏の総数は同3.8%減の25,813戸で、内訳は持家は同14.6%減の4,034戸、貸家は同5.7%減の11,529戸、分譲住宅は同3.7%増の10,203戸。首都圏マンションは5,063戸(前年同月比9.3増)で都県別では東京都1,926戸(同42.7%減)、神奈川県1,576戸(同358.1%)、埼玉県902戸(同 229.2%)、千葉県659戸(同0.5%増)。

        ◆     ◇

持家の着工戸数は23か月連続の減少となり、110月でも前年同期比10.6%減の189,532戸と分譲住宅の205,401戸(同4.3%減)を下回っている。暦年でも前年に続いて分譲住宅より下回る可能性が大きい。総数も前年を下回りそうだ。

しかし、この数値だけで今の市場を正確に読むことはできない。他の商品ならば、需要が減退すれば供給も減り価格も下落するはずなのに、建築着工・住宅着工にはその図式が当てはまらない。

令和410月の工事費予定額を床面積で割った坪単価は、建築物合計で76.7万円、用途別では居住用が70.5万円、非居住用は87.6万円、構造別では木造が58.3万円、非木造が91.1万円だった。

令和510月は、建築物合計で88.7万円となり前年同月比15.6%、用途別では居住用が81.3万円で同15.3%、非居住用は97.5万円で同11.3%、構造別では木造が70.1万円で同20.2%、非木造が98.2万円で同7.8%それぞれ上昇している。

おおよそ1坪当たり10万円、30坪の住宅で300万円の上昇だ。これをどう理解すべきか。資材、人件費の上昇を価格に転化しているからだろうが、果たしてそれだけか。需要と供給の法則は当てはまるのかそうでないのか、そうでないとすればこの先何が起きるのか。それとも、そもそも需要と供給の法則そのものが間違っているのか。

 こと住宅に関して言えば、魯迅の「故郷」の「もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になる」と一緒ではないか。これほど空き家が増え、人口が減る時代に住宅の需要などどこにあるのか。需要は供給者側が創り出すものだ。他者が切り開いた道をたどるだけではそのうち疲弊し、野垂れ死ぬ。自らが先頭に立ち、道を切り開いたもののみが生き残るような気がしてならない。

カテゴリ: 2023年度
 

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