個人「不動産エージェント」の普及を 〝先進企業〟3社が合同セミナー
左から豊永氏、水智氏、本田氏(虎ノ門ヒルズビジネスタワーで)
TERASS、ケラー・ウィリアムズ・ジャパン、リストサザビーズインターナショナルリアルティの3社は7月15日、報道陣向け「不動産エージェント合同セミナー」を開催した。個人エージェント(仲介者)が大半を占め、で社会的地位も高い米国の「不動産エージェント」をわが国でも普及させようと〝先進企業〟3社が手を組んでアピールしようというのが目的のようで、話はとても面白く説得力があり、記者はすっかり支援者になった。
セミナーの冒頭、TERASS代表取締役社長・江口亮介氏、ケラー・ウィリアムズ・ジャパン代表・寺田香織氏、リストサザビーズインターナショナルリアルティ広報・市原奈津美氏がそれぞれ「不動産エージェント」の導入背景や実績などについて説明。
江口氏は、2012年にリクルートに入社し、SUUMOの広告企画、商品戦略などに関わり、2019年4月、「もっと自由に働ける環境を作りたい」とベンチャー企業として同社を起業。日本でも様々なサービス分野で店舗からポータル、個人経済へと大きな流れが生じており、不動産仲介業でも同じ流れが起きるのは必至と語った。コロナ禍が追い風となり、同社の2021年2月現在の累計仲介取扱高は34.2億円となり、2023年3月までにエージェントを500人に増やす計画を掲げている。
寺田氏は、ケラー・ウイリアムズ(KW)の2020年度のエージェント+スタッフは約19万人、取引数は約126万件、取引高は約44兆円、加盟店は1,060+店と世界最大の規模を誇り、2019年12月に日本に進出してからKW TOKYOだけでも約50名のエージェントが活躍しており、計画中も含めて7店舗で展開すると語った。
市原氏は、同社はオークションハウス「サザビーズ」を起源とし、高級不動産売買の取引を得意としており、北海道から沖縄まで全国各地の物件案内や顧客対応が柔軟に行え、働きやすい環境を整えるため2021年4月にエージェント制度を導入したと話した。正社員とエージェントの雇用関係も選択制で柔軟に対応しており、宅建の資格がなくても現地案内や現地調査を行えるのが特徴のようだ。近い将来50人体制に増やす計画だ。
引き続いて、江口氏をモディレーターに、ケラー・ウィリアムズ・ジャパン所属の豊永美悠氏(36)、TERASS所属の水智崚氏(30)、リストサザビーズインターナショナルリアルティ所属の本田貴大氏(35)によるトークセッションが行われ、それぞれエージェントを選択した動機・目的、お客さんの反応、課題などについて語り合った。
豊永氏は、約60万人のフォロワーを持つインフルエンサーとしても活躍しており、オーストラリアでライセンスも取得している。「結婚-妊娠-出産-子育て-介護といった生き方とは異なるもっと多様性に富んだ継続できる働き方があるのではないかと、8年前、オーストラリアに住んでいたときエージェントになることを決断した」と語り、顧客とは売買成立後も付き合いが継続できており、「女性の方がどんどん参加してほしい」と呼び掛けた。
水智氏は、「不動産業界が大嫌いな住宅購入専門エージェント」という肩書がついており、「不動産業界は大きな課題を抱えている。サラリーマンは役割が分担されており、利益を上げるためのノルマも課せられている。これでいいのかとずっと考えてきた。もう自分でルールを決めてやるしかないと決断し、購入者サイドに特化してエージェントを始めた。働き方の選択肢が増えることは業界のためにもなるはず」「前職では1日11~12時間の勤務時間と往復2時間の通勤時間を要した。無駄も多かった。今では以前と比べ4分の1くらいの業務量で、前職と同じくらいの報酬が得られている」と語った。水智氏は購入者向けのユーチューブの発信にも力を注いでいる。
本田氏は、同社のトップセールスマンにもなった経歴の持ち主で、「10年近く営業職に就いてきたが、いろいろな方とお付き合いするうちに不動産営業だけでは満足できなくなってきた。もっと楽しく面白い人間になろうと。そこで会社とも相談してエージェントになった。雇用されているときのように休日の申請を出さずに済み、好きな時に旅行もできる」と、現在のエージェントに満足しているようだった。
江口氏
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「不動産エージェント」の将来性を暗示するかのような、実に楽しい分かりやすいセミナーだった。
前の取材を済ませ、会場となっている「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」に着いたのが12:30頃。セミナーまで1時間30分の空きがあった。まず一服と喫煙室に入ったら、だしぬけに「開所利用のルールをお守りください。ルールが守られない場合は、予告なく閉鎖させていただく場合がございます」と、すぐに合成とわかる慇懃無礼な声を背後から浴びせかけられた。小生に向けられた声かと思ったら、そうではなく1分間に10回も繰り返した。
エンドレスでしゃべらされる機械も大変だなあと同情しつつ、残りの時間をどうするか思案し、ひとまず「虎ノ門ヒルズ」のガーデンを散策してから、コロナから逃げるため3階にあるオープンタイプのレストランでノンアルコールの白ワインとビールを飲んだ。ワインはぶどうジュースそのもので、ビールはホップの味はしたが何だか炭酸が強く薬草の香りがしたので満足できなかった。
そんな後だったので、セミナーの1時間というものはイライラが雲散霧消し、本物の酒を味わったようなとても爽快な気分になった。
主催者のその後の配慮もよく行き届いている。いつでも何度でもセミナーの模様を視聴できるようYouTubeのURLメールが送られてきたし、追加の質問にも答えるという。これほど丁寧な対応は10に一つあるかないかだ。
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ただ一つ、「不動産エージェント」が消費者から圧倒的な支持を得るには大きな壁・課題があるような気がする。「安心・安全」の取引が担保できるのかという点だ。アメリカではエージェントが当たり前になっているといっても、わが国では男女を結びつける仲人のような売り手と買い手の双方から報酬を得るシステムが定着している。その是非はともかく、企業の看板が消費者の「安心・安全」を保障してくれるのは事実だ。
一方で、エージェントは、弁護士のような仕事ではあるが、法的には規制するものはないはずで、悪意のエージェントをどう排除するのかという課題は残る。そうでなくとも不動産取引にはトラブルがつきものだ。本物の詐欺師というものは、自分が騙していることを自覚していないから始末が悪い。額が額だけに、取り返しのつかない事件にも発展しかねない。
とはいえ、弁護士資格のように難しい資格制度を導入するのは現実的ではないし、宅建資格でいいかどうかについても異論がでるはずだ。米国はどうなっているかわからないが、米国方式がそのままわが国に通用するのか。今度はこれをテーマにセミナーを開いてほしい。さらにまた、不動産流通会社に属している営業マンを加えたセミナーを開けば参加者が殺到するのではないか。
虎ノ門ヒルズステップガーデン&オーバル広場
森に溶け込む淡い7色きのこ 伊東豊雄氏担当の日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ
「代々木八幡公衆トイレ」
日本財団は7月16日、誰もが快適に利用できる公共トイレを渋谷区内17 カ所に設置する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの11か所目となる「代々木八幡公衆トイレ」が完成したのに伴うメディア向け見学会・撮影会を行った。トイレの一般利用は同日から開始される。
デザインを担当したのは、プリツカー建築賞などを受賞した世界的な建築家・伊東豊雄氏で、タイトルは「Three Mushrooms」。隣接する代々木八幡宮の森から生まれた3本のキノコのようなトイレ。個室型のトイレを3つに分散させることで回遊性を生み出し、行き止まりがなく視線が抜けることで防犯性を高めているのが特徴。
伊東氏のコメントは次の通り。
公衆トイレは男性の僕でも出来るだけ利用したくないと考えていました。そこで今回、落ち着いて安心して利用できる、さり気ないデザインに是非トライしてみたいと思い、喜んでお受けしました。今回設置した代々木八幡公衆トイレは、「夜間でも女性が利用できるような安心感を抱けるトイレ」や「デザインが目立たず、さり気なく利用できるトイレ」になってほしいと思っています。
伊東豊雄氏(写真提供:日本財団)
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伊東氏の人柄そのもののトイレだ。地上から上に向かって淡いブラウンから白までの7色のグラデーションのデザインは、小さな丸い折り紙を張り付けたような、あるいは点描画のような仕上げで、世も末の絶望的なあのきのこ雲でも七つの大罪でもない、背後の代々木八幡の森にしっとりと溶け込んでおり、幸せを呼び込むラッキー7のそれで、童話の世界に引き込まれそうな雰囲気を漂わせている。
記者はこれまで開設された11か所すべてのトイレを見学したが、好きなベスト3を選ぶとすれば槇文彦氏の「恵比寿東公園」、隈研吾氏の「鍋島松濤公園トイレ」、そして今回の伊東豊雄氏の「代々木八幡公衆トイレ」を挙げる。
安藤忠雄氏の「神宮通公園トイレ」は恐れ多く、外から眺めるのがいい。
佐藤可士和氏担当の恵比寿駅西口は「白」の箱 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ(2012/7/15)
素晴らしい槇文彦氏、田村奈穂氏、片山正通氏 日本財団 渋谷公園トイレPJ(2020/9/21)
佐藤可士和氏担当の恵比寿駅西口は「白」の箱 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ
「恵比寿駅西口公衆トイレ」
日本財団は7月15日、誰もが快適に利用できる公共トイレを渋谷区内17か所に設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の10か所目の「恵比寿駅西口公衆トイレ」が完成したのに伴うメディア向け撮影会を行った。トイレは同日から供用が開始された。
担当したクリエイターは、国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロのグローバルブランド戦略、カップヌードルミュージアムなどのトータルプロデュースを手掛けた佐藤可士和氏で、タイトルは「WHITE」。佐藤氏は次のようにコメントしている。
<清潔・安心・調和>。多様性を受け入れる社会の実現を目的に実施された「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの参加にあたっては、公共のトイレに求められる“あたりまえのこと”をコンセプトとして臨みました。アルミルーバーにより明るく軽やかな印象を持たせ、都市の街並みに自然と馴染む静かな佇まいを心がけました。今回のプロジェクトは新築ですが、街中に存在する多くの公共トイレが<清潔・安心・調和>を獲得できるようなリノベーションの可能性も視野に入れながら考察しています。本プロジェクトのさまざまなデザイン案のトイレと共に、東京の公共空間の在り方を考えていくきっかけになることを願っています。
「THE TOKYO TOILET」は、暗い、汚い、臭い、怖いといったイメージが強い公共トイレを性別、年齢、障がいを問わず、誰もが快適に利用できるものにしようと同財団が取り組んでいるもので、これまで設置済みの9か所を含め2021年度中に渋谷区内17カ所に設置する。
設計デザインには建築家の隈研吾氏、伊東豊雄氏、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏など16名が参画。トイレの設計施工には大和ハウス工業、設置機器・レイアウトにはTOTOが協力している。
ピクトサイン(デザインは17か所全て佐藤氏が担当)
内部もほとんど白一色
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写真を見ていただきたい。建屋は四角形で、アルミに白い塗装を施した横ルーバーで覆われている。ピクトサインも薄いグレーなので、一見してとてもトイレとは思えない外観なのが特徴だ。
道行く人20人くらいに声を掛けた。トイレであることが分かった人と判別がつかない人は半々。分かった人は恵比寿駅をいつも利用する人が大半だった。
すぐそばで宝くじを売る女性は、「以前のトイレは汚かった。いつから使えるの? 渋谷区に17か所? えっ、全部で17億円? 」と驚いていた。
現地はJR恵比寿駅(アトレ恵比寿)と日比谷線恵比寿駅出入り口のすぐそば(奥の白い建物)
隈研吾氏の〝十八番〟外観は吉野杉のルーバー 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ(2021/6/25)
全国121万人の看護師の万感の思いここに 「ナースたちの現場レポート」を読んで
書評家・東えりか氏が朝日新聞で紹介しなかったら読まなかったはずの日本看護協会出版会編集部編「新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート」(A5版/756ページ、税込み定価:2,860円)を小生も読んだ。
同書「はじめに」は、「2020年1月の中国・武漢への自衛隊の災害派遣から、第3波が来る12月までの約1年間にわたる、医療・ケア現場の様子と日々の暮らしを綴ったレポート。医療従事者としての使命感、未知のウイルスへの恐怖心、差別・偏見に対する怒りや悲しみ、大切な人への思いなど、看護職であり生活者でもある1人の『人』としての姿を垣間見られる貴重な記録」とあり、執筆者は162人、756ページに上ると記されている。
それぞれ執筆者の文量は少ないもので2ページくらい、多いものでも10ページくらいの完結型なので、小説と違ってどこから読んでもよく理解できるのが特徴で、これまで報じられてきた医療現場の映像とはまた違った説得力がある。
小生は比較的冷静に読めたのだが、同編集部に寄せられている読者の感想文に衝撃を受けた。「表紙を見るだけで、涙がでます」とあるではないか。小生も、滂沱の涙と鼻水でハンカチをべとべとになるまで濡らし、電車に乗っているのが恥ずかしくて途中下車した小説はたくさんあるが、表紙を見るだけで涙がでる書物に出会ったことは一度もない。
読後感想文には「この本は、国民全員が読むべき!」ともある。ぽっぺたをひっぱたかれたような気になった。
多分この読者の方も当事者で、この書籍には全国121万人といわれる看護師の皆さんの万感の思いが込められているのだろう。
以下長くなるが、同編集部の了解も得られたので、生々しい現場レポートを引用する。(順不同、敬称略)
「納体袋に収納するまで、個人防護服の交換と遺体周辺の清拭消毒を三度繰り返すため、1時間半程度要する。…家族は『ああ、袋に入っている』『顔が見える』とお別れの数分間を過ごされる。業者が棺の蓋をテープで密閉すると、もう顔を見ることができない。この数分間の顔を見せることが非常に大事な看取りのケアだと考える」(佐藤奈津子)
「いざ病棟内に入ると、思っていた何倍も何十倍も状況は悪かった。患者数は1病棟40人ほどいたが、3分の2は陽性患者であり、それを看護師2人で看ていた。看護師もまた、約半数が陽性となって休んでいたのだ」「火葬場に向かう際も、病院内で棺へ移すのだが、袋ごと棺に入れ、蓋を閉めた後にテープでぐるぐる巻きに固定し、消毒スプレーをびしょびしょになるまで噴霧する。…人生の最期に、全身防護服で顔もよく見えない人間に囲まれ、テープでぐるぐる巻きにされるなんて、本人は生前思いもしなかっただろうなと思うと、いたたまれない気持ちになった。看取る際もマスクを外すことも許されず、即時病院のドアを閉めなくてはならないこの状況を呪った。なぜ、こんなことになってしまったのかと毎日思った。病棟に戻り、こっそり一人で泣いた」(中島ひとみ)
「病棟看護師の残業は増え、病院の方針に恨みが募るくらい皆、疲弊していた。『自分は所詮使い捨ての看護師なのだ…』何度も思った」(むつき つゆこ=仮名)
「コロナウイルスの由来となった『太陽コロナ』が日食で陰った太陽の暗闇周辺を明るく輝かせているように、看護師の働く姿は本当に美しく輝き、笑顔は患者さんの希望の光になっている。2020年は人類の歴史に残る年になる。私たちが今、まさに実践している看護こそが、歴史として後世に語り継がれるのである」(山田眞佐美)
「疲れ切って、ベッドに入ってもなかなか寝つけない。薄闇に天井を見やると、涙が自然にあふれてくる。こんな日がもう3日ぐらい続いている。悔い無き人生を締めくくるべく、穏やかにがんばろうと決めた矢先だというのに…」(深井喜代子)
「『濃厚接触』を『濃厚な接吻』と思い込んでいた夫は、その意味を知ると、思わず笑いだした私に、理解できる説明がなかったことを真剣に怒った。専門用語を翻訳し、生活の知恵や工夫につなげることができるレベルにすることこそ、看護職が力を発揮しなければならないことだ」(吉田千文)
「保健所はこの30年間で半減してしまった。多くの都道府県で職員採用も抑制したため、保健所保健師は全国的に30代後半から40年代前半の中堅層が薄い」(村嶋幸代)
「『何かあったら、あなたが責任をとってくれるんですか』と返され…問答となってしまい、終わりが見えなかった。なかには1時間近くこのようなやり取りが続いたこともあった。…次第に私は、この業務が相談者の役に立っているのか疑問に感じるようになった。電話は途切れることなく鳴り続けていた。1つの相談が終わり受話器を置くと、息つく暇もなく眼前の電話が鳴る。数をこなし、たらい回しを続けているだけの機械のように思えてくる」(坂井志織)
「(電話相談は)1週間に1~2回順番が回ってきたが、連続36時間対応することもあった。事情があって事実を話したくない方などの調査に2時間以上要することもあった」(東口三容子)
「(積極的疫学調査は)感染症対策として最も重要だ。濃厚接触者と感染源の特定とハイリスク者の追跡により、感染拡大を最小限に抑えることになる。…(患者発生の)公表は、住民の感染予防の注意喚起が目的だが、個人や店舗を特定し攻撃するようなクレーム、SNSへの投稿、噂の流布など、患者の人権に配慮のない言動は後を絶たない」(竹林千佳)
「本書を読み進めていくと、想像を絶する困難な中でも看護職の強い使命感に支えられた行動力に感謝と敬意の気持ちが膨らむばかりでした。初期の頃は重症化した患者さんは家族にも会えず、亡くなった後でさえ遺骨になってからの対面という現実に、残された家族の切なさ、看取った看護師が感じた憤りや悲しさ、申し訳なさをひしひしと実感し、涙せずにはいられませんでした。つらく理不尽な現実も含めて、新型コロナに看護職がどう立ち向かったのか、貴重な歴史書となり得る本だと思っています」(髙橋則子=読者)
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皆さん、いかがか。小生は常磐大学特任教授・吉田千文氏の「『濃厚接触』を『濃厚な接吻』と思い込んでいた夫は、その意味を知ると、思わず笑いだした私に、理解できる説明がなかったことを真剣に怒った」に仲良し夫婦を思い浮かべたのだが、吉田氏のご主人の思い込みに同感だ。
小生はこの1年5カ月、徹底してコロナから逃げている。外食をやめたのは自分の判断で、かみさんに濃厚接触を拒否されたのは自業自得・自己責任だが、東京都の多くの区市は公園での飲食・飲酒を禁止し、公衆喫煙所なども閉鎖した。「経路不明者の大半は飲食関係」などとする専門家の知見とやらを唯一の根拠に、再三再四の緊急事態宣言で国は飲食店などでの酒の提供自粛を求めた(ほとんど強制)。
どなたか執筆者の方は医療現場を「まるで戦場のよう」と形容されていたが、飲酒・喫煙を禁止するのはヒットラーと同じだ。暴動どころか、こぶしすら上げられない情けない世の中になってしまった。
ここまで辛抱強く読んでいただいた皆さんに感謝する。が、しかし、小生の言いたいことはこれからだ。あとは明日以降。
三菱地所「TOKYO TORCH 常盤橋タワー」商業ゾーン開業延期
三菱地所は7月14日、2021年7月21日(水)に予定していた常盤橋タワー内の商業ゾーン「TOKYO TORCH Terrace(トウキョウトーチテラス)」の開業を延期すると発表した。緊急事態宣言の発令に伴い決定したもので、変更後のグランドオープン日については、今後の状況を踏まえ判断するとしている。
大東建託 セーフティネット住宅の登録住宅は約45万戸 全国の90%超か
セーフティネット住宅の登録件数・戸数が激増していることは先に書いたが、激増をけん引している大東建託パートナーズから記者の質問に対して以下の回答があった。
2021年7月12日現在、同社の全国登録住棟は63,686棟、住戸450,435戸となっている。同社は登録戸数に関し、「条件を満たす物件情報をデータで提供しており、直接登録作業を行っているわけではございません。登録作業につきましては、国交省の委託先企業様と各自治体において行われているため、1年間で登録された戸数に関しては、国交省の委託先企業様に確認作業が必要」としている。
このため、セーフティネット住宅情報提供システムに登録されている現在の総登録件数67,728件(棟に読み替えることができるのか)、総登録戸数496,884戸とデータは必ずしも一致しないかもしれないが、単純比較すると、同社の比率は棟数にして94.0%、戸数にして90.7%に達している。平山教授が指摘する「住宅セーフティネットとは大東建託物件のこと」を裏付けている。
登録を増やしている理由について同社は、「住宅セーフティネット制度発足時に、国交省より弊社に登録の協力依頼がありました。担当官より、制度の主旨および内容の説明を受け、それに賛同した為、ご協力させていただいております。弊社が進んで登録を行うことで、制度の認知度拡大や他社様の登録促進に繋がればよいと考えております」と回答している。
今後の方針については、「建物オーナー様や賃借人様への積極的なアピール等は実施しておりません。昨年より、国交省の委託先企業様へセーフティネット住宅制度の条件に合致する物件データを提供しております。提供した物件データは、各自治体の審査を経て、システムが整い次第、順次、セーフティネット住宅情報提供システムにアップされる仕様となっています。今後も国交省および各自治体と協力しながら登録を進めてまいります」としている。
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記者は賃貸住宅市場や同制度のことはよくわからないのでこれ以上書かないが、「住宅確保要配慮者の入居を拒まない」セーフティネット住宅法の趣旨からして賃貸管理トップ企業の同社が積極的に登録を進めているのはよく理解できる。
「住宅セーフティネットは-少なくとも現在の制度では-住宅困窮への対応に関し、ほとんど役に立ちそうにない」と結論づけた平山論文(「世界」2021年5月号)に関係者は向き合い、法が実効あるものになるよう取り組んでいただきたい。絶対的な量不足時代の陋習にしがみつく、利回りありきの賃貸市場から脱却してほしい。
激増セーフティネット住宅 1年で政府目標の2.8倍 大東建託がけん引/必読の平山論文
7月6日付「週刊住宅」がセーフティネット住宅について次のように報じた。
「当初政府は20年度末までに全国で17万5000戸の登録住宅確保を目指すとしていたが、本紙の取材で、21年度6月末の段階で登録数は47万8102戸と予想を大幅に上回っていることがわかった」
最近の同紙はニュース・リリースのオンパレードで、独自取材記事などほとんどないのでびっくりした。
登録数増加の背景としては、「現在空き家の数が過去最高の846万戸(2018年住宅・土地調査統計)に上っていることが挙げられるが、一方で、シェアハウスに関しても基準を満たしていれば賃貸物件として登録が可能になったこと、また、高齢者の入居支援を行うNPOや社会福祉法人、さらに関連業務を行う企業も『居住支援法人』として都道府県から認められたことが大きい」としている。
なるほど、そうかもしれない。しかし、同紙は政府目標をはるかに上回る戸数に伸びたその具体的な理由については触れていない。同制度の普及に国土交通省などが力を入れてきたことは理解できるのだが、常識的に考えればそんなに一挙に伸びるはずはないし、空き家の増加は今に始まったことではない。コロナ禍とはいえ、住宅困窮者向けの申請もまたそんなに激増することなどありえないではないか。
そこで、裏に何かが隠されていると直感し、セーフティネット登録住宅の推移を調べた。別表・グラフがそれだ。その激増ぶりは目を見張るものがある。平成30年11月では全国で4,448戸しかなく、令和2年4月の段階でも約3.0万戸だったのが、同7月には約6.0万戸へと倍増し、同11月には約13.6万戸へとさらに倍増し、令和3年2月には約30.2万戸へと一挙に政府目標を達成すると、同7月には約48.2万戸へ政府目標の実に約2.8倍に達した。同紙は「本紙の取材で…分かった」としているが、同制度の登録件数などはセーフティネット住宅情報提供システムで誰でも自由に閲覧できるから、実際は取材で分かったのではなく、取材してこなかったから〝知った〟というべきだ。(かくいう記者も同様だ)
なぜ、そんなに増えたか。国土交通省は「法改正当初はなかなか認知されなかったが、その後、普及活動に力を入れ、公共団体とも連携し、申請にかかる手数料を減免し、煩雑だった申請手続きの簡素化などを図ったのが大きな背景」としている。
東京都と埼玉県にも聞いた。東京都は、昨年の今ごろは二千数百戸しかなかったのが現在約4.1万戸に増加したことについて「大東建託パートナーズさんの申請があったため」と答えた。令和元年度末では800戸弱だったのがいまは約4.5万戸に増加した埼玉県は「特定の法人の申請がたくさんあったため」としている。なぜ増加したかについては、双方からは「申請が増えたため」と木を鼻でくくるような回答しか得られなかった。
しかし、「大東建託パートナーズ」という具体的な名前が得られたのは大きな成果だった。さらにネットで検索したら、凄いデータに突き当たった。
全国借地借家人組合連合会の2021年5月15日付の全国借地借家人新聞だ。それには「平山(洋介)神戸大学大学院教授は国交省の登録住宅のインターネットに掲載されている『セーフティネット住宅情報システム』から、住宅セーフティネット登録住宅の実態について分析し、日本住宅会議会報2021年111号に発表しました」とあり、「登録住宅21万7308戸(2月5日現在)の実に85%は大東建託の物件で、ビレッジハウスが9.8%を占めています」とあるではないか。
つまり、「昨年まで低迷していた登録住宅が大東建託の物件の大量登録で国の目標を一気に超過達成」した理由であることを平山教授が突き止めたというのだ。
記者は2018年11月、東京都の登録物件を全部調べ、現地取材も行い、ずさんな審査(失礼)と億ション並みの家賃設定に批判的な記事を書いたが、平山教授は全国の21.7万件を全て調べたというから脱帽する以外ない。
平山教授からは、「世界」2021年5月号に掲載された「これが本当に住まいのセーフティネットなのか」と題する8ページに及ぶ論文を送っていただいた。そこには「『住宅セーフティネットとは大東建託物件のこと』といっても、それほど過言ではない」とあり、住宅確保要配慮者のみを対象とする専用住宅は、登録住宅全体のわずか1.3%しかないと指摘し、「住宅セーフティネットは-少なくとも現在の制度では-住宅困窮への対応に関し、ほとんど役に立ちそうにない」と結論づけている。
これには頭をどやされた。関係者の皆さんもぜひ「世界」5月号を買って読んでいただきたい。これを読まずしてセーフティネット住宅を語れない。必読の論文だ。ただ一つ、論文で気掛かりなことがある。住宅確保要配慮者のみを対象とした専用住宅は、なんだか姨捨山のような施設のイメージしか湧いてこないことだ。集合住宅を含めた街というものは、お金持ちも貧乏人も年寄りも若い人も健常者も障がい者も一緒に住めるのが本来の姿だとずっと前から考えてきた。画一的な街づくりやマンションの失敗例をたくさん見てきた。専用住宅の増加は手放しで喜べない。
「いい部屋ネット」で全国展開している大東建託は、「当社の2020年3月末時点における居住用の管理戸数113万218戸が、(週刊「全国賃貸住宅新聞」)が調査した管理会社1,083社の中で第1位となりました。当社は、同ランキングにて1997年から24年連続で第1位を獲得」(同社ホームページ)している賃貸管理トップ企業だ。同社にはどうして申請が増えたかを問い合わせ中だ。回答が得られれば記事に追加する。
平山教授が喝破したセーフティネット住宅の現実を突きつけられると、低所得者や被災者、高齢者、障がい者、子どもがいる世帯、その他住宅確保要配慮者が差別されない良質で安価な住宅が供給されるのは夢物語に過ぎないのか-「週刊住宅」には気づかせていただいたことには感謝するが、もっとしっかり取材していたら「シニア住宅にビジネス好機」の見出しは付けられなかったはずだ。小生もそうだが記者は〝全て疑ってかかれ〟というのが基本だ。
坪3.5万円!億ション以上 現地見ずに家賃判断 審査は適正か セーフティネット住宅(2018/11/9)
第6のアセットクラス「三井のラボ&オフィス」 住宅不可の新木場に開業
「三井リンクラボ新木場1」
三井不動産は7月8日、賃貸ラボ&オフィス事業「三井のラボ&オフィス」の都心近接型施設の第二弾「三井リンクラボ新木場1」が7月1日に開業したのに伴うメディア向け見学会を行った。通常のオフィス空間に加え、実験専用の排気ダクト、空調室外機、緊急用シャワー施設などの増設スペースを確保しているのが特徴。
物件は、東京メトロ有楽町線・東京臨海高速鉄道りんかい線新木場駅から徒歩11分、江東区新木場2丁目に位置する敷地面積約3,300㎡、5階建て延べ床面積約11,169㎡。総貸付面積約7,867㎡。基本計画は日建設計。設計・監理・施工は鹿島建設。建物は今年3月に竣工済み。入居希望企業は、竣工後の仕様を確認してから決定したいということから、現段階では6~7割の入居率という。
今回のプロジェクトは、国際基準の本格的研究が可能なBSL2対応のウェットラボ仕様とし、スタートアップ企業やCRO、異業種からの参入までを可能とするライフサイエンス領域の様々なイノベーションプレイヤーの入居を想定。1フロア約110~1,600㎡のニーズに対応する。また、100人収容の会議室も設置しているほか、社内外のコミュニケーションを活発にさせるためのラウンジ、カフェを設置し、エントランスにはキッチンカー専用の駐車場も設けている。
「三井のラボ&オフィス」は、ライフサイエンス領域において一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)とともに2016年に立ち上げたもので、参加特別会員は461会員、2020年のイベント実施回数は357件に達するなど、国内外の連携の輪が広がっている。
同社はオフィスビル、住宅、商業施設、ホテル・リゾート、物流施設に続く「第6のアセットクラス」としてこの事業の拡大を図っていくとしており、2021年11月竣工予定の「(仮称)三井リンクラボ柏の葉」、2023年春竣工を目指す「新木場エリア2棟目」も計画。先に竣工稼働している「三井リンクラボ葛西」も含め4棟4棟体制となる。また、米国ボストンの「(仮称)イノベーションスクエアPhaseⅡ」(延べ床面積約28,400㎡)も2021年に竣工する予定。
コミュニケーションラウンジ
様々な配管が設置されているバルコニー
会議室
◇ ◆ ◇
オンラインで発表会に参加した記者の方が、事業費や賃料について質問した。同社は当然答えなかった。
この記者の方は答えが返ってこないのを承知のうえで聞いたのか、それとも特別の意図があったのかわからないが、記者は全く別のことを考えていた。設計が日建設計で、施工が鹿島建設であったことだ。わが国を代表する設計会社とゼネコンが、約11,000㎡(3,000坪)程度のオフィスビルを設計・建設した事例はそうないはずだ。ここに隠された何かがある。単純計算だが、レンタブル比率は7,867÷11,169=70.4%だ。こんなビルも少ないはずだ。
さらに言えば、賃料などは同社も入居を考える企業も二の次の問題ではないかということだ。普通のオフィスビル立地として、「新木場」はまずありえない。記者は計画が発表された2019年6月、現地を見学取材している。それまで知らなかったのだが、この新木場一帯は、規模にして皇居をはるかに上回る約151haが地区計画によって「住宅不可」に定められている。
「住宅不可」といえば調整区域だが、調整区域は住宅や商業施設はないかもしれないが、その分だけたっぷりの緑環境が確保されている。ここ新木場は、図体がでかい分だけ大きな騒音を撒き散らすトラックの往来が激しく、飲食店や遊興施設、公園など一つもなかい。あったのは1軒のコンビニだけだった。いくら賃料が安くても、普通の企業はこんなところに事務所を構えようと考えないはずだし、そんな会社に入社を希望する人など皆無のはずだ。
それでも「三井リンクラボ新木場1」を可能にしたのは、同社取締役執行役員/LINK-J専務理事・植田俊氏がいみじくも言ったように「バイオハザード」だろう。事務所で扱う有害化学薬品などか適正に処分できるか、社外秘の研究内容が漏洩しないかが最優先されるはずだ。
だが、しかし、外界と遮断できる職場環境が整っていることに経営者は満足しても、ここで働く研究者などはストレスの固まりになるのではないかと取材したとき考えた。昼食はどうするか、同僚などとの飲み会は駅前のどこにでもある居酒屋で満足できるのか(駅前にはホテルがその後建設されたが)、緑など全くない環境で精神に異常をきたさないか…などだ。
いまもこの疑問・懸念は払しょくされていないのだが、ここに入居しているNECソリューションイノベータ(デジタルヘルスケア事業推進室)シニアプロフェッショナル・堀井克紀氏は「(研究に)集中できるのでいい」と言い放った。同社が借りているのは約200㎡で、5人が勤務している。1人当たり約40㎡だ。大会社の社長室でもあるかないかの広さだ。ここで堀井氏らは抗体の一種であるアプタマーの研究を行っており、新型コロナウイルスのDNAなども調べているそうだ。(ワクチン開発は別の部署で進めているそうだ)
記者などはもろもろの誘惑があってこそ生きるに値する世の中だし、仕事をするときはどんな誘惑にも負けないで集中する自信はあるが、そんなことより、同社にぜひとも聞きたかったことがある。現地を見学取材したときも感じたのだが、貯木場など一つも稼働していない。住宅不可の今日的意味はないのではないか。コンテナの積み下ろしなどの機能はあるのかどうかはわからないが、記者は都心に残された最後の大規模処女地だと思う。
地区計画を変更し、商・住・公(あるいは工)の複合タウンは可能ではないか。すでに同社はそうすべく、その先鞭をつける、外堀を埋める突破口としてこのプロジェクトを位置づけているのではないか。
そんなことを質問しようと、最初から最後までずっと手を挙げたが、指名されなかった。小生はきちんとマスクを付けており、外見はメガネザルに似た目と、白と黒の淫らではないまだらの髪の毛くらいのもので人畜無害のはずなのに…どこかの人も人気がないのは質問を無視したりまともに答えなかったりするからだ。(大和ハウスはその点偉い。質疑応答に1時間くらいかけることもある)
愚痴っぽいことを書いたが、1階には150坪はありそうな入居者が自由に利用できる天然芝張りの立派な広場空間も整備されていた。サクラやヒマラヤスギ(未確認)の高木も植わっていた。
エントランスロビー ラウンジ(壁、天井は本物の木材、観葉植物は本物とフェイク)
誤って薬品などを浴びたときなど非常時に使用できるシャワー(日常的に使用できるかどうかはわからない)
広場(左の樹木はヒマラヤスギとみたが)
住宅不可の151ha〝処女地〟新木場にライフサイエンス拠点 三井不の新事業(2019/6/1)
らしき建築物発見!住宅不可の151haの江東区・新木場に88人が住む不思議(2019/6/4)
いいオフィス 埼玉県最大級のコワーキング「いいオフィス南越谷」開業
「いいオフィス南越谷」
全国に400店舗以上のコワーキングスペースを展開するいいオフィスが7月1日オープンした埼玉県内最大規模の「いいオフィス南越谷」(https://e-office.space/minamikoshigaya/)を見学した。
総席数は140席で、1人用の個室13部屋や2〜6名部屋の個室もあり、4名・6名・8名定員の会議室5部屋用意し、ホワイトボードやモニター、プロジェクターなども利用可能なオンライン会議(テレカン)も設置。
設備はオープンスペース/個室/会議室/テレカンブース/キッチンなど。各種サービスはWi-Fi/スタッフ常駐/複合機/ホワイトボード/モニター貸出し/プロジェクター&スクリーン/フリードリンクなど。法人登記や郵便物受け取りも可能。英語学習ができる「Kids In」(https://kids-in.ib-tec.co.jp/)も併設。喫煙は不可。
施設は、JR南越谷駅・東武スカイツリーライン新越谷駅から徒歩3分の複合商業施設「南越谷ラクーン」4F。元スポーツジムだった区画を居抜きで入居し、リニューアルしたもの。利用料金はドロップイン(当日利用)が1時間660円~、月額会員は13,200円/月~。
同社は、首都圏を中心に日本全国とフィリピンなど国内・海外含め448店舗を展開。2021年度中に契約ベースで1,000店舗の展開を目指している。
消費者に分かりづらい長期優良住宅 見直しへ 住宅性能表示と一体化すべき
国土交通省は6月29日、第1回「長期優良住宅認定基準の見直しに関する検討会」(座長:松村秀一・東京大学大学院工学系研究科特任教授)を開催した。令和3年5月に「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立・公布されたことを受け、長期優良住宅認定制度に新たに創設される災害配慮基準や共同住宅での認定促進、脱炭素社会に向けた省エネ対策の強化に係る認定基準の見直しなどについて議論するのが目的だ。
先に報告された「長期優良住宅制度のあり方に関する検討会」(同)最終とりまとめでは、平成21年6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(長期優良住宅法)による累計認定戸数は約102万戸(平成30度末時点)にのぼり、良質な住宅の供給に一定程度貢献しているとしながらも、消費者への意識向上につながっているかどうかは住宅事業者間で評価が分かれ、①共同住宅の認定がほとんど進んでいない②住宅性能表示制度と重複する評価項目が多いにも関わらず、別の制度であるために申請者の負担が大きい③建設コストが通常より高くなるにも関わらず、流通市場では認定制度はあまり評価されない④税制優遇などのインセンティブは10年後になくなり、増改築認定の場合は当初からインセンティブがほとんどない⑤賃貸住宅の認定実績がない⑥地価が高い都市部では規模の基準が厳しすぎる-などの課題も指摘されている。
「見直し検討会」は、これら「あり方検討会」が指摘した課題に基づいて、具体的な見直し案をまとめることになる。
◇ ◆ ◇
記者は、「あり方検討会」で各委員が指摘した「容積率等の緩和の可能性も検討することが望ましい」「長期優良住宅と住宅性能評価の仕組み自体をなるべく整合できるような形にしたほうがいいのではないか」などの声に賛成だ。
制度・モノサシが異なるといってしまえばそれまでだが、住宅性能評価制度と長期優良住宅制度は分かりづらい。
令和2年度の住宅着工戸数に占める住宅性能評価書交付件数は27.9%の約24.5万件で、長期優良住宅認定件数は12.5%の約10.1万戸しかないのは、消費者にとって分かりづらいのが最大の理由だと考えている。以下、まとまりを欠くが、記者なりの考えを紹介する。
住宅性能表示は、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき10分野・34事項について等級表示することで消費者が住宅の品質を理解しやすいように定めた制度だ。紛争処理体制を整え、消費者保護を図り、住宅ローンの優遇が受けられるという目的には賛成だが、当初からずっと腑に落ちないものを感じていた。
国土交通省のガイドラインには「建築基準法で定める基準を下回る住宅については違法と考えられますので、住宅性能評価書を交付することはできません」とある。
当然のことだ。しかし、逆に考えれば、建基法をクリアすれば「等級1」を取得できる。これは〝違法建築ではありません〟と消費者自らか費用(数万円から20万円と言われている)を払っているようなものだ。そうまでしないと、消費者に信用されない業界は情けないと思った。(それでも違法建築は防げなかった)
言い過ぎかもしれないが、住宅性能表示制度はお上がお墨付きを与えることで、建基法を満たしているに過ぎない住宅でも質の高い住宅であるかのような〝誤認〟を消費者に与えたという疑念をずっと抱いてきた。
長期優良住宅制度も同様だ。全然〝優良〟でないのに「優良」のお墨付きを与えた旧住宅金融公庫時代の「優良(中古)マンション」制度と大差ないといったらこれまた失礼か。
この制度の欠点を一つ指摘する。記者は住宅の価値は緑被率など緑環境や地域との親和性が重要だと考えている。長期優良住宅制度の9項目の評価基準の中に「良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持及び向上に配慮されたものであること」とする「居住環境」がある。これは所管行政庁が審査することになっており、各行政庁が定める地区計画、景観条例などに適合させることが求められている。
これまた当たり前のことだ。しかし、地区計画、景観条例などは最低限の条件を定めたものが多く、「長期優良」にふさわしいかどうかは別問題だ。記者は、プレハブ建築協会が取り組んでいる「エコアクション」を高く評価しているが、それでも緑化面積率40%以上を目標にした建売住宅の供給率は2019年度実績で14.5%(前年比7.6ポイントマイナス)しかなく、2020年度目標の50%にはるかに及ばない。
大手ハスウメーカーですらこれが現状だ。建売住宅大手も含めた戸建てはコンクリで地面が固められたぺんぺん草も生えない住宅地がどんどん広がっている。この流れを変えるためにも長期優良住宅にふさわしい独自の指標を設けるべきだ。
住宅の質を計るモノサシは住宅性能表示制度、長期優良住宅制度だけではない。2001年に立ち上げたCASBEE、2012年運用開始の低炭素建築物認定制度、2013年運用開始の建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)、2016年ころから取り組みが始まったZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などだ。最近はZEHに力を入れているハウスメーカー・デベロッパーが多い。
この中で、記者はCASBEEとZEHをチェックするようにしている。CASBEEは評価結果を「Sランク(素晴らしい)」から「Aランク(大変良い)」「B+ランク(良い)」「B-ランク(やや劣る)」「Cランク(劣る)」の5段階で評価するもので分かりやすい。東京都の場合は、同様の「マンション環境性能評価」制度を平成17年に設け、断熱性、省エネ性、みどり環境など5項目についてそれぞれ★印3つ(満点は★15個)で評価している。これまで満点を取得したマンションはどれも素晴らしい物件だ。
ZEHは、国土交通省、通産省、環境省など別々の取り組みもあり分かりづらいところもあるが、目指す目標は一つなのでとても分かりやすい。
これらの制度と住宅性能表示、長期優良住宅は相互に関連していることではあるが、消費者は混乱するばかりだ。
◇ ◆ ◇
事業者は住宅性能表示制度と長期優良住宅をどのように利活用しているか。事業者のスタンスの置き方、制度の方向性を考えるうえで参考になりそうなので紹介する。
2021年3月期は46,620戸の戸建てを計上した飯田グループ6社は、住宅性能表示制度7項目で全て最高等級を取得しており、それを最大の〝売り〟の一つにしている。一方で、長期優良住宅認定は東栄住宅(2021年3月期は4,954戸)一社のみのはずだ。
住宅トップの積水ハウスは、2019年度の長期優良住宅認定取得率は93%だが、同社は最近ZEHに力を入れており、2020年度のZEH比率が91%に達し、2021年3月末時点で累計60,843戸となったと発表した。
デベロッパーはどうか。三井不動産レジデンシャルは、長期優良住宅認定を取得したマンションは数件あるが、年間数百戸をコンスタントに分譲している戸建てで長期優良住宅認定を受けたのは1件しかない。その理由を同社は「ファインコートの仕様から馴染まないところがいくつかあり、評価をクリアできないのと、維持保全計画は、建売住宅には馴染まない」としている。
では、同社の戸建てのレベルが低いかといえばそうではない。記事にも添付したが、2016年に分譲した首都圏初の〝ススマートウェルネス住宅〟「ファインコート等々力 桜景邸」などは長期優良住宅レベルをはるかに超えていた。
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「見直し検討会」に提出された出口健敬委員(不動産協会事務局長代理)と西澤哲郎委員(住宅生産団体連合会 住宅性能向上委員会SWG1リーダー)の資料について。
出口委員は、集合住宅の現行55㎡の面積要件を単身者の都市居住型誘導居住水準である40㎡に引き下げることを要望している。記者はこれに賛成だ。
住宅の質は基本的には広さではあるが、そもそも面積要件は官主導の住宅金融や税金控除などにはつきものだ。どこかで線を引かざるを得ないのだろうが、合理的な説明がつかないものは多い。記者はローン控除の面積要件を30㎡に引き下げろと20年前から主張してきた。
西澤委員が要望した低層賃貸住宅の可変性に関する認定基準である躯体天井高2,650ミリ以上の基準の緩和には同意しかねる。技術的なことは分からないが、天井高は住宅の質にとって重要だ。最近はコストを削減するためどんどん天井高を低くしているのは残念でならない。賃貸住宅でも躯体天井高2,650ミリというのは譲れないラインではないのか。
この点については、先の出口委員も20mの高さ規制を想定した場合「居室天井高2.45~2.5mを保持しようとすると、1層(階)減り、分譲売上の低下を招き、事業の起点である土地購入の難度が上がります」としているが、これは5m刻みが多い高さ規制に問題がある。1層を3mではなく、3.1とか3.2m刻みにすれば天井高は確保されるはずだ。長期優良など天井高の高いものについては容積の割り増しを行い、質の担保を図るのが合理的だと考える。記者は高さ規制を撤廃すべきというのが持論だ。
また、西澤委員が求めている床面積要因を55㎡以上(現行75㎡以上)に引き下げるというのは基本的には賛成だ。理由は出口委員の要望について書いたのと同じだ。
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住宅性能表示と長期優良住宅の申請に掛かる費用は1件5~10万円として、双方で年間35万件だから5~10万円×35万件=175~350億円となる。もちろん負担するのは他の誰でもない消費者だ。ローン控除などで還元されるとはいえ巨額だ。
長期優良住宅制度の合理化を図り、ハードルを高くして事業者や消費者がチャレンジしたくなるような制度にするか、それともCASBEEのようにランク付けして選択制にしたらいいと思うのだが、どうだろうか。
なぜ伸びない品確法性能表示&長期優良住宅 どうなる中古住宅評価(2015/9/4)
長期優良住宅が「CASBEE」で評価されないのはなぜ(2013/6/13)
敷地60㎡未満の分譲「狭小住宅」 都心部は軒並み50%超 最少の練馬は1.9%(2019/8/19)
首都圏初の〝ススマートウェルネス住宅〟完成 三井不レジ「等々力」(2016/3/24)