積水ハウス 暗闇の世界が体験できる「対話のある家」
積水ハウスは9月2日、同社の大阪の情報受発信拠点「SUMUFUMULAB(住むフムラボ)」でダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの共創プログラム「対話のある家<秋~冬プログラム>」を9月28日から12月22日まで実施し、実施に先立ち9月5日からチケットを発売すると発表した。
光が完全に遮断された「純度100%の暗闇」の中にグループ(6人まで)で入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドのサポートのもと、住まいにおける様々な生活シーンを体験する。
昨年の開催から約5,700人が来場しており、対話の大切さ、五感で感じる心地よさ、家族の絆など新たな発見や新鮮な気づきがあったという来場者の声がたくさん寄せられているという。
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これは記者もお勧めだ。田舎育ちの記者は「真っ暗闇の世界」が日常だった。今と違って、昔は街灯などなかったから、夜、外に出ると真っ暗闇の世界が広がっていた。明かりは月と星、夏ならホタルくらいだ。聞こえるのは風の音と梢のささやき、せせらぎの音、虫の音、犬の遠吠え、フクロウのラブコールくらいだった。
実は本日、里山を保全しつつ持続可能なライフスタイルを提案するNPO「よこはま里山研究所(NORA)」のメルマガに掲載されているNORAの理事でもある松村正治・恵泉女学園大学准教授のコラムを読んだのだが、それは激減する「草地」のことが書かれていた。(NORAのメルマガはhttp://nora-yokohama.org/)
記者は早速、「私などは少年のころ、草地に寝そべり、あれやこれや夢想しはらはらと涙を流したものです…野原一面に咲いた彼岸花を木切れでなぎ倒す快感を皆さんは理解できるでしょうか」と返事した。
「真っ暗闇」も同じだ。流れ星を数えながら家族のこと、世のはかなさ・せつなさ、初恋の彼女などを思いめぐらし甘くてしょっぱい涙をハラハラと流した。涙には「痛い」涙があることは失恋して初めて知った。自然の暗闇と人工の暗闇とは全然異なるだろうが、疑似体験を経験してみる価値はありそうだ。
ところで皆さん、先日、千歳烏山の「七つの子」の記事を書いたが、「七つの子」とは「7羽」なのか、やはり人間で言えば「7歳の子」なのか、どちらでしょうか。「カラスの勝手」などと言わないでください。昔、農家の母親はみんなカラスが家に帰るころになっても野良から帰ることはほとんどありませんでした。
「モチイエ女子」は自立する女性が多い 「モチイエ女子project」調査
三井不動産レジデンシャルが立ち上げた〝今どきモチイエ女子の赤裸々な暮らしぶりを明らかにする〟「モチイエ女子project」が、家で過ごす平均時間からひとりごとの実態、飲食事情、家事、風呂上りに着るものなど職場の同僚、友人・知人には見せない家の中での生活実態を調査した結果をWebで公開した。
調査結果によると、「モチイエ女子」が「外出せずに、家にずっといても平気な日数」「毎日酒を飲む」「一人で外で食事をする」「家事頻度」などの項目で他を圧倒していることが報告されている。
調査対象は、住宅を購入した「モチイエ女子」、「賃貸一人暮らし女子」、実家暮らしの「実家女子」の3タイプで、大都市圏に住む年収が250万円以上の25歳から45歳の単身女性。
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「モチイエ女子project」のWebは、派手な色づかいといいたくさんマンガが出てくるのには面食らってしまうし、「30歳のとき、家でゴキブリを発見したことを機に引っ越しを決意し、賃貸ではなく家を購入」した主任研究員、「悩みを人に相談することはあまりしないタイプ。でも実は寂しがり屋。今住んでいる賃貸マンションのお風呂が狭いことがちょっと不満」の賃貸一人暮らし研究員、「マイペースな性格で、読モ経験があるほど可愛い」実家暮らし研究員の行動や考えが理解できない。
ゴキブリを発見しただけでマンションを購入するということは資金がないとできないことだし、賃貸マンションの風呂が狭いのは当たり前だし、悩みを打ち明けられる人をつくるべきだし、「読モ」はもうさっぱり分からない。ウィキペディアで調べたが女性雑誌の表紙を飾ることか。
それでも確かに独身女性の一人暮らしぶりが〝赤裸々〟に報告されていると思う。飲酒で言えば、「モチイエ女子」は酒を楽しみ、「実家女子」はストレス発散のために飲む機会が多いというのは面白い。湯上り後、「パンツだけ」とか多くはないが素っ裸でいる「モチイエ女子」がいることも驚いた。
「うわ」「ふざけんな」「ムカツクー」「ただいま」「がんばるぞ!」などぶつぶつと独り言をしゃべっているのは、職場や地域で正当な扱いを受けていない独身女性の叫びであり自分を奮い立たせる努力であろうと思うと、男としての責任も感じるし、「より輝ける文化を醸成する」ことが目的の「モチイエ女子project」にエールを送りたい。
調査結果から何を読み取るかは人それぞれだが、記者は「モチイエ女子」がより自立した女性が多いと理解した。我田引水だが、自立を促すマンションの記事を書いてきたことは間違っていないと確信する。
三井新宿ビル 重さ1,800t、マンション52戸分の制振装置一部完成
完成した制振装置TMD(中央が錘、緑の部分は変形を抑制するオイルダンパー、縦の鋼鉄は錘を吊るすケーブル)
三井不動産は9月1日、「コレド室町2」「コレド室町3」などの店舗と連携した誘導訓練、帰宅困難者訓練と、竣工46年を迎える「霞が関ビル」、竣工40周年を迎える「新宿三井ビル」の防災設備補強工事見学会を行った。記者は、一番興味がある「新宿三井ビル」の安心・安全、BCP(事業継続計画)の取り組みを見学した。面さ約1,800t、容積にして20坪のマンション52戸分の制振装置TMDには驚愕した。
同社は、既存ビル60棟を対象に約200億円を投じるBCP改良工事を5カ年計画で進めており、「新宿三井ビル」では非常時の電源を確保するため72時間稼働の非常用発電機を低層棟に3台設置した。費用は約15億円。
制振装置はBCP工事とは別枠で、55階建てのビルの屋上に鹿島建設が開発した日本で初の超大型制振装置TMDを設置する工事。費用は約50億円。
TMDとは、スカイツリーなど超高層ビル・建築物の風揺れ対策として採用されている振子式の錘(おもり)技術を発展させたもので、超高層ビルの地震の揺れ対策として実用化したもの。屋上に設置するため、眺望が阻害されたり有効床面積が減少することもなく、居室内工事がないためテナントへの影響を大幅に低減できるメリットがある。
新宿三井ビルに設置されるTMDは6基で重さは約1,800t。東日本大震災時に観測された同ビルでの長周期地震動(振幅幅約2m)を半分以下に抑えることができるという。ビル全体の荷重は8万tだから、補強工事も軽微で済んだという。メンテフリーだともいう。完成後は覆い隠される。
人と比較しても1基の大きさが分かるTMD
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この制振装置は、昨年7月、同社と鹿島建設がリリースを発表したとき、必ず見学しようと決めていた。リリースを読んだだけではよく分からなかったからだ。原理としては理解できても、およそ1,800tなるものの振子の錘がどのようなものか想像すらできなかった。
実際に見学して驚愕した。完成した1基の面積は11m×13m、高さは12m。その中に重さ300tの鉄の錘がケーブルで吊るされていた。いまは工事途中なので、錘は動かないよう固定されていた。
巨大な建屋がどれくらいのものか分かりやすく紹介するために20坪(66㎡)のマンションと比較してみた。マンション1戸の高さは3mとして計算した。その結果、6基全体では52戸に相当することが計算上分かった。中規模マンション1棟だ。
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もう一つ気になるのがこの工事によって賃料はいくらになるか、周辺ビルへの影響だ。新宿エリアでは東新宿や西新宿で最新の大型ビルが竣工し、既存の昭和40年代後半から50年代にかけて建設されたビルの空室率は年々大きくなってきている。耐震補強を行っていないビルもあり、大量の空きを抱えたビルもある。
これについて同社は多くを語らなかったが、他のビルとの競争力が増したのは間違いなく、他のビルも対応策を取らざるを得なくなるのではないか。賃料を下げることだけで解決する問題でもなさそうだ。
参考までに聞いたら、非常時に余剰電力を周辺のビルに供給することは法律で禁止されているとのことだった。地域防災の観点から法律の見直しが必要ではないか。
非常用発電装置(これも巨大、横幅は8m、縦幅は2m、高さは5mくらいか。燃料はジェット燃料)
東建不販 多世代交流目指した夏祭り「コーシャハイム千歳烏山」で実施
「夕涼みジャズコンサート」
東京建物不動産販売は8月30日、一般賃貸住宅・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・多世代交流施設などからなる「コーシャハイム千歳烏山」で入居者や地域住民の交流を目指した「ななつのこ夏祭り」を行なった。
同社は、コーシャハイム千歳烏山のサービス付き高齢者向け住宅の賃貸・管理運営のほか、有限会社エヌアンドエスコミュニティアソシエイツと協働して多世代交流施設の運営も行っており、今回のイベントもその一環。
この日は多世代交流施設内のコミュニティカフェ「ななつのこ」が会場となり、世田谷野菜のマルシェ、ジャズ演奏会、併設介護事業所による相談コーナー、併設医療機関による暮らしの医療相談セミナー、介護なんでも相談セミナーなどが行われた。
コーシャハイム千歳烏山は、多世代共生を目指し、同じ敷地内に一般賃貸住宅・サービス付き高齢者向け住宅・高齢者居宅生活支援施設・多世代交流施設などが配置されている。
マルシェ、寄贈本受付コーナー、わたあめコーナー(左)と寄贈された図書(絵本などのほか堀辰雄「風立ちぬ・美しい村」、梅崎春生「桜島・日の果て」、渡辺淳一「エ・アロール」、百田尚樹「永遠のゼロ」、モーム「月と六ペンス」などもあった)
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サ高住の入居者と一般賃貸住宅居住者、近隣住民がどのような交流を行なうのか興味があったので取材した。
千歳烏山の農家が生産した4個100円のシシトウ・ピーマンを買い、カフェに持ち込み、ビール代わりに200円のコーヒーを頼み、シシトウをつまみながらサ高住の入居者に話しかけた。取材は断られたので書けないが、入居者同士で友だちができたのを歓んでいた。近所に住む30歳代の2人の子ども連れの女性は「子どもが小さいので、このような施設があるのは助かる」と話していた。「世田谷は子育てが厳しい」と語った共働き夫婦もいた。
夏祭りの目玉となっていたプロのギター:斉藤拓人さん、ボーカル:RIO さんによる「夕涼みジャズコンサート」には会場いっぱいの数十人が集まった。サ高住の入居者だけでなく、小さな子ども連れの家族の姿も目立った。最後の演奏「七つの子」は烏山にぴったりだったようで、みんな手拍子を取り合唱となった。
サ高住15戸、一般賃貸8戸からなるリファイニング賃貸11号棟の入居者同士の交流会も行なわれた。一般賃貸入居者2組3人を含む十数人が集まり自己紹介したあと、斉藤さんとRIOさんの音楽やゲームなどを楽しんだ。
一般賃貸に住む40歳代の独身女性は「近くに10年くらい住んでいたが、入居者同士のつながりは全くなかった。ここならそれが可能かと申し込んだ」と話し、60歳代のサラリーマン夫婦の夫は「成城の賃貸に20年住んでいたが、駅から遠かった。女房が『駅近』『商店街』を希望したので入居を決意した。サ高住との同居は気にならなかった。むしろわれわれもどういう施設か経験しておいたほうがいいと思った。天井が低いのと収納が少ないのは難点」と語った。
RIOさん(左)と斉藤さん
サ高住「コーシャハイム千歳烏山」 「囲い込み施設にしない」JKK狩野氏(2014/3/31)
準都心部から都心部へ アッパーミドル・富裕層が大量転出
一昨日(8月26日)、都心部のアッパーミドル・富裕層向けマンションが驚異的な売れ行きを見せているという記事を紹介した。このことと関連する興味深いデータを発見した。東京都が発行している「平成25年度市町村税課税状況等の調(特別区関係)」によると、課税標準額が1,000万円を超える納税者の数は23区全体としては289人前年より増えているのだが、都心部の外周部に位置する各区では大きく減少しているデータだ。
課税標準額とは、所得税や住民税を課す際の対象となる額のことで、給与所得、退職所得、山林所得などの総所得から社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除などを差し引いた額を指す。課税標準額が1,000万円以上ということは、単純計算で都民税と区民税合わせ100万円の納税額となる。
都のデータによると、平成25年の23区の納税義務者数は約450万人で、このうち課税標準額が1,000万円以上の人は全体の3.9%に当たる約17.8万人だ。前年より289人増加している。
ちなみに、23区平均では200万円以下がもっとも多く55.3%を占め、200万円超700万円以下が37.4%、700万円超1,000万円以下が3.4%となっている。
1,000万円超の占める割合が高い区は港区(13.5%)、千代田区(12.4%)、渋谷区(9.1%)、文京区(7.8%)の順で、逆に200万円以下の占める割合が高い区は足立区(64.0%)、葛飾区(62.7%)、板橋区、江戸川区(60.4%)などだ。
さて、冒頭の課税標準額が1,000万円以上の納税者の増減に関することだ。区別に増減を見ると、増加しているのは千代田区(71人)、中央区(78人)、港区(56人)、新宿区(57人)、渋谷区(126人)、文京区(30人)、台東区(71人)、品川区(37人)、目黒区(178人)、豊島区(120人)、足立区(58人)、北区(13人)など16区。16区全体では994人増加した。
減少しているのは大田区(115人)、世田谷区(49人)、杉並区(200人)、板橋区(40人)、練馬区(179人)、江戸川区(113人)、中野区(9人)の7区。7区で705人減少した。
この数字が何を物語っているか。詳しい分析は転入転出、相続・贈与、その他の要因を詳細に調べないと分からないが、記者は都心の外周部・準都心部に住むアッパーミドル・富裕層が大量に都心へ流れているのではないかという仮説を立てた。ほかに考えられる理由が見つからない。相続・贈与も影響していそうだが、なぜこれほどまでに区によって偏りが出るのか解せない。
例えば豊島区と練馬区の関係。隣り合う区だが、豊島区が120人増えて、練馬区は179人もどうして減るのか。目黒区と世田谷区の関係も同様だ。世田谷区で49人減少し、隣接する目黒区で178人も増えている。
同じように大田区や江戸川区なども大きく減らしているのも、アッパーミドル・富裕層が利便性や資産性の高い地域に転出しているという仮説は成立しないか。
唯一この仮説が当てはまらないのは足立区だ。足立区は課税標準額の平均が23区でもっとも低い区だが、この区で課税標準額が1,000万円以上の納税者が前年より58人増加している。この理由は見当がつかないのだが、北千住や西新井の駅前再開発が進み、東京藝大、東京未来大、帝京科学大、東京電機大などのキャンパスも誘致され、イメージがよくなっているのは確かだ。
同区のホームページトップには「7月末現在、足立区の刑法犯認知件数は、4,363件で統計上初めて23区中6位となりました。41年ぶりに9千件を下回った昨年の月平均は687件、今年7月までの月平均は623件ですのでさらに治安は改善されており『安全・安心なまち足立』が実証されています」とあった。
この問題について、杉並区と足立区に聞いたが、いずれも理由は分からないということだった。他の区も同様の答えが返ってくるはずだ。
億円単位で税収が増減するのにその原因を当局は把握していない。これはどういうことか。民間企業なら経営責任を問われかねない。
所得分布については総務省が5年おきに実施している「住宅・土地統計調査」などで分からないではないが、機動的に対応するために行政当局は転入者・転出者の属性を調べ、区の経営に生かすべきだ。
こんなことでは益々激化する都市間競争に勝てないだろうし、市場原理に翻弄されるだけだろう。近く各区の今年度の課税状況が公表されるはずだ。アッパーミドル・富裕層の転入転出に注視したい。アベノミクス効果で増加するのは間違いないが、富はまんべんなく行き渡るのではなく偏在傾向に拍車をかけることになるのではないか。
建設技能労働者の不足傾向が拡大 国土交通省
建設技能労働者の不足傾向が拡大-国土交通省は8月25日、建設労働需給調査結果をまとめ発表したが、全国の7月の建設関係8職種の過不足率は6月の1.3%から1.7%へ拡大。職種別では鉄筋工が前月の2.8%から3.8%へ拡大した。地域別では、東北が前月の2.0%から3.3%へ拡大した。
調査は、型枠工、左官、とび工、鉄筋工など8職種について毎月行っているもので、7月の8職種の不足率は全体で1.7%となり、前月の1.3%から4ポイント拡大。職種別では鉄筋工が3.8%(前月は2.8%)、型枠工(建築)が2.3%(前月は2.5%)となっている。
地域別では、全地域で技能労働者が不足傾向にあり、東北の不足率は6月の1.2%から7月は2.8%に拡大している。
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熟練工の不足について、宮城県多賀城市のある会社に聞いた。担当者は次のように語った。
「手元(3年未満の補助的な作業をする人)はたくさんいるが、うちのような専門の技能者を抱えているところは人を確保するのが難しくなってきた。震災前は日給が15,000円くらいだったのが、震災後は18,000円から20,000円くらいに上昇している。
うちは社会保険や失業保険に入っており、従業員の家族を大事にしているが、熟練工の人たちはそのような待遇よりも賃金の高いところを選ぶ傾向が以前からある。下請け・孫請け会社でも直接仕事が取れるのも職人の移動を激しくしている」
三井ホーム 林野庁の補助事業による2×4工法の幼稚園完成
「明澄幼稚園」内観
三井ホームは8月21日、2×4工法による千葉県初の林野庁補助事業で、千葉県産材を使用した「学校法人富津学園 明澄幼稚園」の完成見学会を行った。
平成25年度の林野庁の森林整備加速化・林業再生基金事業に採択されたもので、使用した枠組材は、千葉県森林組合の協力による原木搬出や、枠組壁工法の構造用製材のJAS工場による格付け、枠組材やトラスの強度確認試験を経て実現したもの。
室内は、地域材の活用拡大と木材の効果・効用による児童の健康維持増進を考え、天井を勾配天井とし、平屋建てでも最大5mの天井を実現。最適な光環境と温熱環境を確保するため緩衝ゾーンである「ペリメーターゾーン」を設置し、教室の床にはヒノキの縁甲板、壁や天井には杉羽目板を貼っているのが特徴。
建物は平屋建て延べ床面積約738㎡。工期は平成25年11月~26年8月。設計監修は昭和女子大・木村信之教授。設計監理はアトリエソン一級建築士事務所・村越正明氏。施工は三井ホーム。建築費約1億7,400万円のうち半額の約8,600万円が補助されている。従前建物も木造による園舎。
玄関
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木造建築物の素晴らしさはいまさら言うまでもない。写真を見ていただきたい。
記者が驚いたのは、南側の園庭に面して内廊下が設けられ、一部は楽器演奏スペースとなるペリメーターゾーンが設置されていることだった。廊下幅は1間近くあり、総延長は約50m。直接日射が教室内に入り込まない配慮だ。
もう一つ、なるほどと思ったのは、教室の北側にもペリメーターゾーン(ラウンジ)を設け、そこにトイレや職員の作業スペースにしていることだ。北側隣地の冷風を教室内に取り込む仕掛けも施されており、冷暖房施設はないが、極力夏涼しく冬暖かい環境をつくろうとする配慮が感じられた。
教室
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しかし、いかがなものかと思ったこともある。補助を受けるための要件だ。工事費の半額というのは分かるのだが、補助金の交付条件に費用対効果を測る算式があり、その効果が1.0以上確保することを求めている。
詳細は省くが、興味がある方は「森林整備加速化・林業再生基金事業の事業評価実施要領」を読んでいただきたい。全部で26ページもある。費用対効果を測る項目の一つに保護者やその他一般の人が利用する場合の来園に要する時間や滞在時間を賃金換算することが盛り込まれている。
国費を投入するのだから条件を明確にするのは当然だ。しかし、そもそも木造住宅にするのは環境に優しく人に優しいからだ。子どもの情操教育にとってもRCやコンクリート造より望ましいという研究結果もたくさん報告されているではないか。
なのにどうしてわざわざ保護者や来園者の数、その他難しい算式による効果を求める必要があるのか。そこまで細かな計算をするのであれば、環境に優しい人に優しい木造建築物の効果を定量化すべきだろう。そのほうがはるかに説得力があると思うがどうだろう。木造の園舎になったら子どもが風邪をひかなくなった、アトピーがなくなったことなどを数値化したらどうなるのか。計算不能、因果関係が不明とでもいうのか。
平屋建ての木造として認められる延べ床面積700㎡以下という基準も理由がよく分からない。分棟すればそれ以上でもいいのかもしれないが、おかしな規定だ。
教室の北側に設置されているラウンジ(左)と教室内ロッカーの下部に設けられた通気口
幼稚園全景
わが国初の木造5階建て特養 国交省が先導モデルとして決定
国土交通省は8月22日、先導的な設計・施工技術を導入する大規模木造建築物の建設に対しその費用の一部を補助する「木造建築技術先導事業」について、「(仮称)特別養護老人ホーム 第二足立新生苑」(東京都足立区)、「混構造(RC造+木質系組立構造)による5階建て共同住宅プロジェクト」(山梨県北杜市)、「京都の地域産木材による京都木材会館プロジェクト」(京都府京都市)の3件を採択した。
「第二足立新生苑」の提案者は社会福祉法人聖風会で、国内初の2×4工法(1階はRC)による耐火5階建て特養施設となる。延べ床面積は約9,000㎡。施工は未定。「混構造(RC造+木質系組立構造)による5階建て共同住宅」の提案者は山梨住宅工業(株)で、木質パネル構造としては国内初の5階建て混構造となる。施工はミサワホーム甲信。「京都木造会館」の提案者は京都木造協同組合で、店舗、共同住宅からなる4階建て純木造となる。施工は未定だが、地場の設計事務所・工務店により建築する予定。
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2×4工法による初の5階建て建築物は、昨年11月、三井ホームが銀座に完成させたが、店舗併用住宅だった。延べ床面積も212㎡しかなかった。今回の「第二足立新生苑」も三井ホームの建物と同様1階がRC増で、2階以上が2×4工法となるのは同じだが、老人ホームの木造5階建てとしてはわが国初となる。延べ床面積は比較にならないほど大きいのも特徴の一つ。施工会社はコンペによって選定する模様で、着工は来年2月の予定。
旭化成不動産レジデンス 品川区中延2丁目の防災街区整備事業に参画
旭化成不動産レジデンスが先ごろ、密集市街地の防災機能の確保を目的とした「中延二丁目旧同潤会地区防災街区整備事業」の準備組合結成の届けが完了したと発表した。東京都の「防災街区整備事業」はこれまで3事業が完了、2事業が告示されており、正式に認可されれば6例目になる見込み。
同事業は、東京都の「木密地域不燃化10年プロジェクト」の不燃化特区先行実施地区である東中延1・2丁目、中延2・3丁目エリア内のコア事業として位置づけられている。
同社は、2013年10月に品川区から旧同潤会地区共同化推進支援業務委託を受け、2014年3月15日に事業協力者として選定されている。コーディネーターの首都圏不燃建築公社、施設計画コンサルタントの日建ハウジングシステムなどと今後本組合結成に向けた取り組みを行っていく。
防災街区整備事業とは、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」に基づく事業で、木造家屋が密集し防災上の不安を抱えた地区を対象とし、密集市街地の防災機能の確保と土地の合理的かつ健全な利用を図ることを目的としている。
東京都の防災街区整備方針(2008年)では都内64地区、約3,770haが防災再開発促進地区に定められているが、これまで事業完了したのは板橋区の「板橋三丁目地区」、足立区の「関原一丁目中央地区」、「墨田区京島三丁目地区」の三地区のみで、告示済は品川区の「荏原町駅前地区」と目黒区の「目黒本町五丁目地区」の2カ所がある。
積水ハウス和田勇会長は住宅のキッズデザイン・UD普及活動に軸足を
第8回キッズデザイン賞優秀賞が決定
和田会長
キッズデザイン協議会(会長:和田勇・積水ハウス会長兼CEO)は8月4日、子どもの安全・安心と健やかな成長発達に役立つデザインを顕彰する「第8回キッズデザイン賞」の最優秀賞など36点を決定した。
全受賞作品の中からもっとも優れた作品に贈られる「内閣総理大臣賞」にはマツダ「MAZDA TECHNOLOGY FOR KIDS」が選ばれた。車酔いをさせないスムーズな運転の習得を目指すプログラム、子どもによる誤始動を防ぐシステム、子ども歩行者を発見しやすいミラーの開発などが評価された。
8作品の中で住宅関連では、積水ハウス「子どもの生きる力を育むまち、子育て世帯応援タウン~ニッケガーデン花水木~」が経済産業大臣賞に選ばれた。
積水ハウスはこのほか、同社がキッコーマンなどと共同開発した「子どもの生きる力をはぐくむ『弁当の日』応援プロジェクト」が消費者担当大臣賞を、「震災で得た教訓を生かした、子どもと女性にやさしい『おりひめトイレ』」が復興支援デザイン部門賞をそれぞれ受賞した。
「ニッケガーデン花水木」
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記者発表会の冒頭で挨拶した和田会長は、「昨年から内閣総理大臣賞を新設したこともあり、今回の応募作品は過去最高の408点(第1回は287点)になった。子どもの安心・安全、健やかな成長を願う理念を実現する質の高い製品を開発し、日本にとどまらず世界にアピールしていきたい」と語った。
その通りだと思う。記者は住宅・マンションを取材フィールドにしているので、子どもはもちろん大人にもそしてお年寄りや身障者にも使い勝手がいいユニバーサルデザイン(UD)の視点でいつも考えている。
その意味からすると、確かに積水ハウスは間違いなく業界の最先端を走っている。しかし、デベロッパーを含めた業界のUDの取り組みはまだまだ遅れている。同社の取り組みが突出していること自体が情けない。
戸建てだろうがマンションだろうが住宅には子どもやお年寄りに危険なところがいっぱいある。ダイワサービス会長でマンション管理業協会理事長の山根弘美氏は1歳にもならないお子さんを浴室で溺死させたのを今でも悔やんでいる。小さい子どもの頭部にあるドアノブは凶器にもなる。廊下・階段の幅はメーターモジュールにほとんどなっていない。健常者が車椅子利用を強いられるようになったとき、果たしてどれくらいの住宅が軽微な改良でそのまま使用することができるだろうか。転居、建て替えを余儀なくされる住宅は相当数にのぼるはずだ。白内障や色覚障害者に配慮した住宅なども少ない。
そこで提案だ。キッズデザインとUDを含めた常設の展示場をぜひ都内に設置してほしいということだ。住宅部門でのUD、キッズデザインに関する実物、商品、書籍などを常設・常備し、若い研究者、学生が常時利用・研究できるような施設だ。キッズデザイン賞の審査委員長を務める益田文和・東京造形大学教授も「おっしゃる通り、キッズデザインはUDの視点が必要。常設の展示場は設置したい」と後押しした。
費用は年間どれくらいかかるか分からないが、同社の売上額の100分の1どころか1000分の1くらいで十分だろう。そのような施設を設けたところで社会から称賛されても、株主その他から批判されることは絶対ないはずだ。
和田氏は同社を立派な会社に育てたのだから、これからは会社や業界の利益よりも社会の利益を最優先する社会貢献活動に軸足を移していただきたい。〝5本の樹計画〟〝積水のUD〟が住宅・不動産業界の〝当たり前〟になるような活動だ。
益田教授