あっぱれ!モリモト 階数を2層分減らし天井高2.7m確保「本郷弓町」
「ディアナコート本郷弓町」完成予想図
モリモトの「ディアナコート本郷弓町」を見学した。高さ規制が46mのエリアで、通常なら15階建てが可能だが、同社は居住性を高めるため13階建てに抑え、各住居の居室の天井高を2,700ミリ確保した。モリモトのマンションが売れるのはこうした商品企画だからだ。あっぱれ!モリモト
物件は、東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線本郷三丁目駅から徒歩4分、文京区本郷2丁目に位置する13階建て全42戸(事業協力者住戸4戸含む)。専有面積は43.05~99.43㎡、価格は未定だが坪単価は400万円前後になる模様。竣工予定は平成27年11月下旬。設計・監理は日本エーコン一級建築士事務所。デザイン監修はアーキサイトメビウス。施工はイチケン。分譲は6月下旬。
現地は、旧町名では「弓町」と表示されていた一角にあり、弓町では過去10年間で10物件が供給されている。うち9物件は三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産の大手デベロッパーの物件だ。春日通りから一歩入ったところで、隣は区立本郷台中学校。
建物は13階建て。内廊下方式で、1フロア2~4戸の全住戸角部屋タイプ。リビング・ダイニング、居室の天井高を2,700ミリ確保(水回り部分は2,300ミリ)。またダブルアウトフレーム逆梁工法を採用することで、リビング側も妻側も梁型を住戸の外に出す工夫も行っている。プランセレクトから設計変更まで全戸オーダーメイド対応する。
同社プロジェクトマネージャー・小檜山晃氏は、「反響は1カ月で約900件。とてつもない数字」と話していた。
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記者はこれまで何度も高さ規制は取っ払うか条件を緩和すべきと書いてきた。今回、同社が15階建てにできるところを13階建てになぜ抑えたのかその理由は知らないが、居住性を高めるための決断だったら拍手喝さいを送りたい。天井の高さが通常の2,500ミリと2,700ミリとではどれほど空間的な広がりが異なってくるかについては言うまでもないことだ。現在の建基法の高さ規制は、居住性や資産性を押し下げる役割しか果たしていないと思う。
デザインも秀逸だ。建物のデザイン監修はいつものアーキサイトメビウス・今井敦氏だが、インテリアデザインはリエゾン・鬼倉めぐみ氏。同社のマンションでは初めてだという。床や建具はチーク材の突板。鬼倉氏は、来週見学会がある三井不動産レジデンシャルの「千代田富士見」でもインテリアデザインを担当している。
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マンションギャラリーの設えも最高だ。同社のギャラリーはこれまで100近く見ているはずだが、おそらく今回がもっとも仕様レベルが高いはずだ。ビルの1フロアを借りているもので、接客スペースは100坪くらいあったのではないか。エントランスを入ると、壁面は天然大理石で張り巡らされ、床はくるぶしまで埋まりそうな限りなく100%ウールに近いジュータンが敷き詰められていた。
大手デベロッパーの大型物件では、完成後のマンションを再現した天然石やら天然木をふんだんに用いたギャラリーは珍しくもないが、分譲戸数が40戸にも満たない物件で、これほど豪華なものは記憶にない。
これまで「弓町」で供給された10物件のうち9物件が大手4社だ。記者は同社だけは大手と互角かそれ以上に戦えるとみているが、今回も圧倒的な人気になるか。坪単価400万円前後は納得だ。坪単価だけなら、4年前に野村不動産が分譲して圧倒的な人気になった「プラウドタワー本郷東大前」の360万円をはるかにしのぐ。
野村の物件は「赤門」の隣だ。記者は当時、「東大を睥睨する」と見出しに付けたが、野村は東大の学長に頭を下げたと聞いている。モリモトは、野村のマンションより〝頭が高い〟と叩かれないかというのが心配といえば心配だ。もしそうなったら〝もっとやれ〟と記者は同社の尻を叩いてやる。
当欄で紹介した同社の「川崎タワー」(159戸)が完売し、「小石川竹早」(75)も残り2戸。絶好調のようだ。
エントランス(完成予想図)
来場者も絶賛 モリモト「ディアナコート小石川竹早」(2014/2/21)
消費増税後のマンション市場 影響は限定的 新価格市場へ
「新価格 みんなで渡れば怖くない」
「高値待ち 後出しジャンケン一挙駆け」
(以下は、不動産業界の方というより一般の方に読んでいただくように書いた記事です)
言葉は悪いのですが、いまのマンション市場を一言で言い表せれば「新価格みんなで渡れば怖くない」「高値待ち後出しジャンケン一挙駆け」です。いま分譲されている1戸当たりの平均価格も専有面積3.3㎡あたり単価(坪単価)も、昨年の今頃と比べ確実に1割以上値上がりしています。従来相場の〝旧価格〟をどんどん更新する高値の〝新価格〟が登場しています。これは序章、序の口にすぎません。これからは新価格どころか〝新々価格〟も出現するのが必至です。
用地取得費や建築費の上昇が最大の要因ですが、他にも理由があります。市場がアベノミクスによる景気回復や低金利、先高観を誘って極めて好調に推移しているからです。売れ行き好調が価格上昇の大きな要因の一つです。
大手不動産会社などで組織する業界団体・不動産協会の岩沙弘道会長は、先日の同協会総会後の懇親会でも「消費税は8%に引き上げられたが、分譲住宅はローン減税の拡充、すまい給付金などの支援策によって、いまのところ反動減は避けられている」と、消費増税の分譲住宅事業への影響は限定的と語りました。
では、いったいいくらまで上昇するか。都心部は軒並み坪400万円以上となり、リーマン・ショック後の坪単価の最高値800万円を来年あたりは突破し1,000万円くらいになると見ています。これまでは250~260万円が相場と思われていた準都心部(都心を除く概ね23区や横浜方面)では坪単価300万円を超えてくると思われます。一般的なサラリーマンが無理なく買える坪単価が200万円以下(分譲価格が3,500万~4,000万円)の地域は23区内では城東エリアの一部しかなく、郊外部でも最寄り駅からバス便などの遠い物件に限られると予測しています。
とはいえ、消費者の取得能力に限界もあります。強気な価格を設定して売れなければ業績に影響します。だから、同業他社が高値を付けたところで、やや低めの価格にして一挙に売ろうというのがデベロッパーの戦略です。先ごろマンションの供給量が激減したと報じられたのも、売りものがないのではなく様子見です。
売り急ぎをしなくてもいいのです。大手デベロッパーは今期の売上計上予定の6~7割はすでに契約済みです。これから分譲する物件は来期や再来期に計上する物件です。お互い腹の探りあいを演じ、新価格が出揃ってから押っ取り刀で他社を圧倒しようというのが今のマンション業界です。
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さて、このような過熱気味の市場に消費者はどう対応したらいいか。これが難しいのです。消費者と言ってもそれこそ百人百様、みんな考え方も家族構成も異なります。しかも、不動産という商品は唯一無二、世界に同じものが二つとしてないという特性があります。
ですから、一人ひとりに適切なアドバイスなどできません。確実に言えるのは、性懲りもなく繰り返される〝マンション今が買い〟〝分譲か賃貸か〟などの見出しが躍る雑誌記事などは読まないことです。雑誌社も不動産に関する記事は〝売れるから〟取り上げるのであって、決して消費者の味方ではありません。斯く言う筆者も業界紙の記者であり、お客さんの味方ではありません。かといって敵ではありません。劣悪な住宅の取材からすっかり足を洗いました。
そもそも住宅は、金利動向や地価・建築費動向、市況によって買うものではありません。通勤に不便、子どもが成長する、陽が当たらない、家賃が高いなど買わざるをえない動機・理由があります。こうした問題と無縁の富裕層の方は、不動産を金融商品のように買ったり売ったりするのは自由ですが、一般的なサラリーマンの方にとって煉獄の苦しみが到来しないことを望むしかありません。
お勧めは自ら居住する地域の不動産流通会社に相談することです。最近の仲介会社は敷居を低くして、お客さんとの距離を縮めようとしているところが増えています。新築が無理なら中古を買うのも選択肢の一つです。最近流行りのリノベーションもあります。
間違っても猫の額ほどの庭もない、ぺんぺん草も生えないような一戸建てや、安かろう悪かろうのマンションを買わない勇気を持ってほしいものです。とにかく〝見る目〟を養ってください。
積水ハウス「グランドメゾン上原」 坪単価480万円でも億ション人気
「グランドメゾン上原レジデンス」完成予想図
積水ハウスの「グランドメゾン上原レジデンス」モデルルームを見学した。渋谷区上原2丁目の第一種低層住居専用地域に位置する低層3階建てで全15戸のうち12戸が億ション。坪単価は480万円。先週に分譲開始され、残りは3戸のみとすこぶる好調。
物件は、小田急電鉄小田原線・東京メトロ千代田線代々木上原駅から徒歩7分、渋谷区上原2丁目の第一種低層住居専用地域に位置する地上3階地下1階建て全15戸。専有面積は54.92~117.29㎡、坪単価は480万円。現在分譲中の3戸の価格は7,500万円(54.92㎡)・13,000万円(94.85㎡)・18,000万円(114.03㎡)。竣工予定は平成26年12月下旬。設計・監理は宮川憲司建築事務所。施工は東急建設。
現地は、北西側から南側に向かって1層分くらい高くなっている角地。敷地は高級賃貸として知られるホーマットの跡地。地下にアプローチ、エントランスホール、駐車場などを配し、住戸部分は1フロア5戸。6割は角住戸で、残りの中住戸はワイドスパンとし、それぞれの住戸プランに特徴を持たせている。
設備仕様レベルも高い。リビングドアには黒檀の突板を採用しているほか天然石、自然木を随所に採用。リビング天井は折り上げ。バックカウンターも標準。他のマンションと同様、ドアノブは壁面まですべてセットバックさせている。先週から分譲開始し、残りは3戸。
1階のテラス付きも人気で、残りは1戸
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もともとこの日に取材する予定には入っていなかったのだが、他のマンションの現場を見るつもりで降り立った代々木八幡駅の駅前に販売事務所があり、早速取材を申し込んだ。
対応してくれたのは長嶺伸之氏だった。どこかでお会いした方だと思った。若いころはお会いした方、特に女性の方は名前と顔はしっかり覚えるほうだったが、ここ数年間は加齢のためか、最近は会った人はすぐ右から左へと抜けていく。その一方で、同社が30年も昔に分譲した故・宮脇壇氏の設計による「参宮橋」のマンションを思い出すのだから不思議だ。
記憶を手繰り寄せようと必死で考えたら、長嶺氏のほうから声を掛けてくれた。同社の記念碑的なマンション「伊勢山」と「白金」でも案内してもらった方だった。瞬時に物件のことがよみがえった。長嶺氏は同社の高級マンションばかりを担当しているのではなかったか。
今回のマンションも一級品だ。品がある。長嶺氏は「概念ですが、集合住宅というより1戸1戸の住宅を造って実現させました。擁壁は石積みとし、植栽も里山の雰囲気を再現しました」と語ったように、戸数こと少ないが、邸宅マンションにふさわしいレベルの高い物件だ。
単価は決して安くない。今回の現場のすぐ近くには、野村不動産が3年前にほとんど即日完売した「プラウド上原」がある。確か410万円だった。それより坪70万円も高い。
同社は、今回の近接地のホーマットの跡地でやはりマンションを分譲する。着工も済んでいるという。敷地形状からすれば単価は今回より高くなるかもしれないが、こちらも人気になるのは必至とみた。
現地の近く
プランよく仕様レベル高い モリモト「ディアナコート学芸大学レジデンス」
「ディアナコート学芸大学レジデンス」完成予想図
モリモトの「ディアナコート学芸大学レジデンス」を見学した。南向きワイドスパンが特徴で、大理石、シーザーストーン、ウォールナットなど自然素材をふんだんに用い、逆梁ハイサッシ、床の遮音性能もL-40にするなどレベルの高いマンションだ。デザイン監修は南條洋雄氏と清野燿聖氏。
物件は、東急東横線学芸大学駅から徒歩12分、目黒区目黒本町1丁目に位置する5階建て全43戸。専有面積は46.45~86.37㎡、価格は未定だが坪単価は350万円までにおさまりそうだ。竣工予定は平成27年8月下旬。設計・監理はアトリエモルフ建築事務所。デザイン監修は南條設計室、清野耀聖事務所。施工は冨士工。
現地は、目黒通りから少し入ったところで、「林試の森公園」へは徒歩7分。近くにはほぼ即日完売した野村不動産「プラウド目黒本町」(63戸)がある。
建物は天然石のマリオンやロートアルミを採用。住戸プランは約7.1~10.7mの南向きワイドスパンが特徴。
販売を担当する同社分譲営業部課長・大川貴弘氏とマンションギャラリーチーフ・登坂憲嗣氏は、「床も壁もウォールナットの突板。床はうづくり仕上げ。キッチンと出窓のカウンタートップはミラノサローネでもたくさん出品されていたシーザーストーン。ドアノブも新しいものを採用、仕様レベルは『ディアナコート小石川竹早』と同レベル。スタッフは5人体制で、週30件の来場。極めて順調。野村さん? 負けません」と話していた。
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モリモトの物件はほとんどすべて見学しているが、このマンションもレベルは高い。二重床で遮音等級はL-40を採用している。問題の単価だが、大川氏も登坂氏も明言は避けたが、坪350万円までに収まりそうだ。
大川氏は「これからどんどん新価格マンションが登場するが、当社は高値追求しない。質を落とさず、利益を圧縮してお客さまのニーズに応える」と語った。記者の相場観からしたら、坪350万円はやや高い。「利益を落として」330万円くらいに設定することが「お客さまのニーズに応える」ことだと考えるがどうだろう。
外観
リビタ 「つくば」で30坪のリノベーションマンション販売
「リアージュつくば春日」
リビタは5月15日、2017年までに国家公務員社宅の大量廃止が決定した「つくば」エリアで専有面積99㎡(30坪)中心の元大手企業社宅を買取り、一棟丸ごとリノベーションしたマンション「リアージュつくば春日」を販売開始すると発表した。
「リアージュつくば春日」は、つくばエクスプレスつくば駅から徒歩16分、地上14階建て、内廊下設計の全54戸。築23年。周辺の新築マンションよりも約2割程度安い価格帯(3500万円台中心)で分譲する。空地率80%の広い敷地を生かし、住民・地域コミュニケーションの場を創出するという。
同社は一棟丸ごとリノベーション分譲マンションをこれまで30棟・950戸(2014年3月時点)を企画、供給している。
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記者はこれまで同社との取材チャンネルがなくリノベーションマンションも見たことはないが、今回、同社広報からこのニュースリリースをいただいた。記事はコピー&ペーストだが、必ず現地を見学してレポートしたい。
「江戸川」を超えたか 旭化成不動産レジ「アトラス池尻レジデンス」
「アトラス池尻レジデンス」
旭化成不動産レジデンスは5月15日、世田谷区池尻3丁目の「池尻団地」の建て替えマンション「アトラス池尻レジデンス」が完成したのに伴い、報道陣に公開した。どこか「広尾ガーデンヒルズ」に似た風格が漂う、同社の記念碑的なマンションであるのは間違いない。
物件概要などは省略するが、従前は昭和38年に竣工した125戸の住戸と事務所、店舗などから構成される5階建て延べ床面積約11,000㎡の建物。完成した建物は11階建て全205戸(非分譲89戸含む)。専有面積は31.20~94.76㎡。坪単価は337万円。約9カ月で完売した。
同社が発表したリリースは、従前建物が所有権、借地権、底地権が複雑に絡み合い、敷地の一部に区の公園が入り込み複雑な敷地形状をしていたこと、区分所有者の高齢化が進み、合意形成に心を配ったことなどが記載されている。
見学会も、このような苦労の末完成させた「今後の貴重な事例」を紹介するということに主眼が置かれているようだった。
しかし、記者は違った。建物そのものの完成度の高さ、デザイン・意匠にほれ込んだ。同社の記念碑的な建て替えマンションは同潤会アパート「江戸川アパートメント」だとずっと思っていたが、今回の「池尻大橋」は「江戸川」と同等かそれ以上の値打ちがあるとみた。近接する鹿島の「マスタービュー」にも引けを取らない(これは言い過ぎか)。
実は、見学会の前日、旭化成ホームズの前社長でこの4月に旭化成の副社長に就任した平居正仁氏と話す機会があり、「平居さん、明日『池尻大橋』の見学会があります」と話したら、平居氏は「そう、あれはホームズの集大成マンション」と語った。記者は「江戸川」が頭にあるので、〝平居さんも分かっていない〟と黙っていた。
そして、見学当日。外観を見たときどこか「広尾ガーデンヒルズ」に似ていると思った。見学会に同行していた設計・監理を担当したネクストアーキテクトアンドアソシエイツ・山中猛社長にそのことを話したらその通りだった。山中氏は、「『広尾』は私の設計の原点。とくにA棟、B棟がいい。権利者の方たちと『広尾を目指そう』と取り組んできました」と語った。
この話を聞いて、「池尻大橋」が美しいことの理由をすべて把握したような気がした。同社が販売時に用意したどんなCGも、リリースをもとに書いた記者のつたない記事をもはるかに凌駕する品格を備えた建物を前にして、うなるしかなかった。平居氏の言葉に嘘はなかった。
例えは、共用部分にふんだんに用いられている栃木県那須産の「白河石」(那須産は「芦野石」と呼ばれ、「白河石」と同質とされる)。これも山中社長が苦労して入手したもので「大理石の2倍、3倍の値がする」と話した。外壁の2丁掛けタイルは特注品で一枚一枚、職人が張ったのだという。窓やバルコニーのタイルは、雨垂れによって汚れないようタイルには「ボウズ」処理を施し、「水切り」を行っている。タイルとタイルの目地も、実際にジョウロで水を流して水の伝わり方を実験したという。
アルミサッシは鋳鉄製のような表情を持っていた。軒天は4色を用いてグラデーションをかけ、バルコニーなどはアクセントとして有孔ブロックを配している。花台はタイルが張られていた。廊下の壁はローラー仕上げだった。白砂とモミジを配した大きな中庭は箒で文様を描けば龍安寺の庭にも仕立てあげられると思った。
山中社長は「このような建物の設計はこれからできるかどうか。『江戸川アパートを超えた』?『江戸川』もまたいいですから…」と話した。
中庭
ブラックウォールナットを使用した「ブックサローネ」(左)と白河石をふんだんに用いた共用部分
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今回の取材でつくづく思った。デベロッパーもわれわれ記者も建物のディテールをしっかり伝える必要があると。デベロッパーは販売用のパンフレットやシアターなどで基本性能や設備機器についてはかなり詳細に説明し、図示している。
しかし、建物のデザイン・意匠、採用している素材などについては画像などで示してはいるが、完成後の姿そのものは描き切れていない。絵画に例えれば、ルノワールが描く少女は素肌が透けて見えるようだし、フェルメールの絵は見るものを射すくめる鋭さがある。モネは光と風を写し取った。
同社も含めデベロッパーは、絵画と同様、CG技術を高め本物の完成品を見るような予想図を製作してほしい。設計者の意図やディテールについてもっと詳細に知らせる必要もある。「白河石」など聞いて初めて知った。
ネクストアーキテクトアンドアソシエイツは、同社の「江戸川」「国領」、いま分譲中の「調布」も設計・監修を担当している。「調布」の完成が楽しみだ。
「ボウズ」処理されたバルコニー手すり
付け替えられた区の公園(左)とエントランス
坪単価410万円した鹿島「マスタービューレジデンス」
西新宿の日本最高峰60階建て976戸 三菱地所レジなど再開発起工式
「西新宿五丁目中央北地区市街地再開発事業」完成予想図
西新宿のランドマークとなる日本最高層の60階建て全976戸のマンションが始動-西新宿五丁目中央北地区市街地再開発組合と三菱地所レジデンスなどは5月12日、「西新宿五丁目中央北地区市街地再開発事業」の起工式を行った。
事業は、新宿駅から西側約1.2㎞に位置する施行面積約1.5haの規模で、都が取り組む「木密地域不燃化10年プロジェクト」の不燃化特区にも指定されている。わが国最高峰の60階建て全976戸の制振マンションのほか、約1,900㎡の公開空地、地域コミュニティ施設、防災拠点などが整備される。
三菱地所レジデンス、相鉄不動産、丸紅が参加組合員として保留床を取得し、今秋から分譲を開始する。設計・施工・監理を担当するのはフジタで、同社は1998年から事業協力者として参画している。事業コンサルタントとしてINA新建築研究所が開発を支援してきた。
マンションの詳細は未定だが、単身者向けからファミリー向けまで多彩なプランを用意する。坪単価は「検討中」として公表されなかったが、310~320万円くらいになりそうだ。
起工式
◇ ◆ ◇
記者にとっても感慨深い再開発事業だ。この事業のきっかけとなった「けやき橋地区まちづくり有志会」が発足したのは平成4年。バブル崩壊の直後だ。
このエリアの十二社通りを挟んだ新宿寄りの地域では昭和62年ころから激しい地上げ(地揚げともいう)が最上恒産などによって行われていた。背後には暴力団がからんでいるとも言われていた。坪200、300万円から買収が始まり、フジタに売却するころには平均で坪3,000万円に跳ね上がった。道路につなげる〝要〟の土地は坪1億円近くもした。何べんもこの地域や登記所に足を運び、地上げの実態を取材した。記者は怖くて最上の取材はしなかったが、当時、国土法違反はごく当たり前に行われていた。
道路一つ隔てた今回の地域で地上げが行われていたかどうかは定かではないが、地域の人たちは最上の地上げをどのように見ていたのか。よりにもよってバブル崩壊の直後から再開発を行おうとする無謀とも思える計画をよくぞ進めてこられたものだ。
計画が持ち上がってから22年。40歳の人は60歳を、50歳の人は70歳を超える。地権者は約130人だそうで、賃借人を入れると300人を超す。途中リーマン・ショックで計画はとん挫した。東日本大震災も経験した。それこそ艱難辛苦を乗り切った組合員の皆さんには頭が下がる思いだ。
起工式の後に行われた記念式典に来賓として出席した中山弘子・新宿区長は「感無量」と話し、おぐら利彦・新宿区議会議長、片桐裕明・INA新建築研究所社長、上田卓司・フジタ社長、小野真路・三菱地所レジデンス社長は異口同音に、組合員の「熱き想い」を称えた。
歳を重ね、どんどん地価が下がるのを忸怩たる思いで眺めながら、あるいは親から子へと代替わりしながら、その「熱い思い」に地権者を駆り立てたものはなにか。聞きたかったのはこの1点だった。事業に12年前からかかわっている再開発組合事務局長・菊池和男氏は、「火事が1件、アパートも数件焼けたのを経験している。安心・安全の街にしようというのに尽きる」とその動機を語った。
小野・三菱地所レジデンス社長も「新宿区では2件の再開発を行っており、関わりが深い。新都心のメルクマールとなるプロジェクトにする」と抱負を述べた。
関係者の記念写真(ハイアットリージェンシー東京で)
◇ ◆ ◇
分譲は早くて今秋なので単価予想は早すぎるかもしれないが、記者は310~330万円だと予想する。それほど的を外していないはずだ。
最寄駅の都営大江戸線西新宿5丁目駅から徒歩6分、東京メトロ西新宿駅から徒歩6分の新宿の外れとはいえ、坪300万円を超えられないようでは情けない。三井不動産レジデンシャルは坪290万円で「渋谷本町」を瞬く間に売った。かといって、ファミリーが殺到するエリアとも思えない。330万円は基本性能・設備仕様からいってやや高いかもしれない。〝高さ日本一〟はそれほどインパクトがあると思えない。坪320万円で記録的な売れ行きをみせた「富久クロス」とどうかだ。
今回の再開発のほか、隣接する「西新宿五丁目中央南地区」(0.7ha)「西新宿五丁目北地区」(2.5ha)計画や、「西新宿三丁目西地区」(8.5ha)、さらには大和ハウスの「西新宿6丁目プロジェクト」(0.4ha)もある。ここで躓くようだと、後発のプロジェクトにも影響を与える。フロントランナーとして頑張るか。
挨拶する小野・三菱地所レジデンス社長
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起工式の取材はそれほど多くないが、上田・フジタ社長の「鋤き入れ」の儀は堂に入っていた。気合十分、「エィッ」と盛砂を突き抜けるかと思えるほど迫力があった。10人くらいいた同社関係者も寸秒もたがわず柏手の調子を合わせた。さすが〝再開発のフジタ〟…といっても若い人には分からないか。上田社長は件の西新宿の地上げには関わっていないそうだ。
鏡割り
地権者の皆さん(「平均で60歳代ですよね」と声を掛けたら、みなさん嬉しそうに笑った)
伊藤忠都市開発「クレヴィア綱島」 単価210~220万円に納得
「クレヴィア綱島」完成予想図
伊藤忠都市開発が5月下旬に販売するマンション「クレヴィア綱島」のモデルルームを見学した。準工地域ではあるがマンション化が進むエリアの一角で、坪単価は210~220万円に収まりそうだ。旧帝国ホテルの設計を担当したアントニン・レーモンドの設計哲学を受け継いでいる「レーモンド設計事務所」が基本設計(意匠)・デザイン監修を担当している物件でもある。
物件は、東急東横線綱島駅から徒歩11分、横浜市港北区樽町二丁目に位置する7階建て全97戸の規模。専有面積は55.86~87.66㎡、価格は未定だが70㎡台で4,000万円台~5,000万円台が中心、坪単価は210~220万円になる模様だ。竣工予定は平成27年3月上旬。事業主は同社のほか常陸土地。設計・施工・監理は松村組。設計・デザイン監修はレーモンド設計事務所。
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立地条件は、綱島駅圏全体にも言えることだが、それほど良好とはいえない。用途地域は準工地域だし、敷地の北側には戸建て風のラブホテルがあるそうだ。記者も、数年前にモリモトが瞬く間に完売した同じ樽町2丁目に位置する「アールブラン綱島」を見学したときに現地周辺を見ている。
物件の特徴は、やはり「レーモンド設計事務所」が設計・デザイン監修を担当していることだ。同社の物件では「千葉市登戸」「二子玉川」以来だという。最近の他物件では記者も見学している「クリオ武蔵新城」がある。
敷地が袋地状であるのを逆手にとって、ゲートを設置、歩車分離のアプローチとし、南側の外観は斜めの壁をリズミカルに配することで、格調高い表情を演出している。
住戸の商品企画では、同社オリジナルの好みによって9タイプが選べる収納「カタス」が標準装備されている。
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どんどん分譲単価が上昇しているので、分譲単価がいくらになるか注目していた。モリモトの坪単価210万円も記者は安いとは思わなかったが、東横線沿線は他の沿線と比較して相対的にみんな高い。今回、同社が210~220万円に設定するのは十分すぎるくらいよく分かる。
同社都市住宅事業部長補佐(兼)都市住宅事業部第一課長・大矢聡氏は「230万円でもいけたかもしれないが…」と語ったが、欲張りしないほうがいい。高値追求するなら都心部でやってほしい。3LDK(20坪)で4,500万円というのが第一次取得層の取得限界だ。他の東横沿線ではこの単価で分譲できるマンションはそうないはずだ。
北側のラブホテルについては何とも言い難い。地元の人は百も承知のようだ。準工とは〝何でも可〟の地域だ。
中庭
住友不動産「グローブアベニュー国立」 高さ20mは自主規制の結果
住友不動産「グローブアベニュー国立」が建物の高さ20mで7階建てであることを昨日書いた。その理由は同社が自主規制して高さを抑えたためだ。
現地の用途地域は桜通りから20mまでは第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率300%)、その他は第二種中高層住居専用地域(同60%、同200%)だ。斜線制限はあるが高さ制限はない。建てようと思えばもっと高いマンションも建築可能だ。
ところが、同市が平成13年に定めた「国立市都市景観形成条例にかかる取扱基準」では、用途地域が商業地域と近隣商業地域の建築物については高さが31mを超えるもの、その他の地域は高さが20mを超えるものについては、学識経験者などで構成される国立市都市景観審議会へ諮問しなければならないことになっている。条例は、「文教都市くにたち」にふさわしく美しい都市景観を守り、育て、つくることが目的だ。
つまり、高さ20mを超えてマンションを計画する場合は、景観審議会に諮問し、その答申が出る「半年から1年半ぐらい」(都市計画課)までは工事着手できないことになっている。同社は、この期間のリスクを避けるために自主的に高さを20mに抑えたわけだ。
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これまでことあるごとに建築物の絶対高さ制限はやめるべきと書いてきた。今回も同様だ。国立市が高さを商業エリアで31m、その他の地域で20mにそれぞれ抑えるきっかけとなったのは明和地所の超高層マンション計画だった。
当時、市は「大学通りのイチョウ並木に調和するよう」指導は行っていたが、高さそのものについての規制はなかった。そこで記者は、当時の上原公子市長にインタビューした際、「市長、イチョウ並木と調和する建築物とはいったいどの程度の高さですか」と聞いた。市長は一瞬考えた末、「イチョウやサクラは20mくらいですからその程度じゃないですか」と答えた。その後、この20mが独り歩きし、条例にも盛り込まれることとなった。この答弁を引き出してしまったことは今でも忸怩たる思いがする。返ってくる答えが分からない質問はしてはならないという禁を記者は犯してしまったのだ。
いうまでもなく、美しい都市景観としての建物がイチョウやサクラ、ケヤキ、クスなどの街路樹と同じ高さでなければならない合理的な理由など一つもない。一方でスカイツリー、東京タワー、京都の五重塔を醜いという人はほとんどいないし、牛久や大船の大仏、あちこちにある山上の風力発電塔も異議を唱える人は少数派だ。いったいわれわれは何を根拠に美醜を分けるのか。ノミの夫婦はほほえましいのかそうでないのか。
高さ規制を緩和すればマンションの居住性は高まるはずだ。そうすれば公開空地を広く取ることができるし、市民に開放もできる。もし日影規制をいうのであれば、自己日影や複合日影についても考えるべきだ。
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「文教都市くにたち」は、住宅地としても人気が高い。記者も「大学通り」のイチョウ、サクラ並木は都内でも屈指の美しさだと思う。
久々にこの「大学通り」を歩いておやっと思ったことがある。並木に沿って植えられているサツキ、ツツジの剪定が十分でなく伸び放題になっており、際も不揃いだった。緑地帯も雑草がかなり生えていた。市民の誇りである美しい並木が泣いていた。
市にこのことを聞いたら、今年度から予算を計上して剪定していくとのことだった。いままで放置していたのは何だといいたい。国立市は多摩エリアでは武蔵野市に次いで1人当たりの市民税納税額が多い。樹木の剪定費など微々たるものではないのか。
市政に呼応しているのかしていないのか、これまたよくわからないのが一橋大学のキャンパスだ。外周は剪定などやったことがないような、誰がどう見てもお化け屋敷だ。荒れるに任せている。東大だって樹齢100年もありそうなケヤキをぶった切っているように、たいしたことはやっていないが、同大学は東大の向こうを張って〝あるがまま〟が美しいとでも思っているのだろうか。環境とか景観とかにはまったく関心がないようだ。しっかり刈り込んでいる国立高校や桐朋学園とは対照的だ。
ついでに調べたら、平成24年度の市税延滞金は平成15年と比べると約3倍の2,923万円に増加し、市税減免も1,071万円から2,770万円へ増えている。それでも市の担当者は「市税の収納率は多摩エリアトップ」と話した。〝ほっといてくれ〟-一部の富裕層とそれに同調する普通の住民のしわぶきが聞こえてくる不思議な街が国立だ。
住友不「国立」 気になる単価 野村不「立川」とも競合
「グローブアベニュー国立」完成予想図
住友不動産の「グローブアベニュー国立」を見学した。国立駅圏では5棟目の大規模マンションで、街並みが美しい「大学通り」からは徒歩2分。価格がいくらになるか注目の物件だ。
物件は、JR中央本線国立駅から徒歩18分、またはJR南武線谷保駅から徒歩8分、国立市富士見台二丁目に位置する7階建て全277戸の規模。専有面積 は54.92~87.04㎡、価格は未定。竣工予定は平成27年2月下旬。設計・施工は長谷工コーポレーション。販売開始は6月中旬。
現地は、国立駅南口から真っ直ぐ伸びた大学通りを歩き、桜通りとの交差点を右に折れたところ。旧NTTの社宅跡地。
敷地は南北軸が長い長方形で、南側は桜通りに面している。用途地域は桜通りから20mまでは第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率300%)、その他 は第二種中高層住居専用地域(同60%、同200%)。建物の高さは20m、住棟はコの字型で、西向きが中心。敷地北側には高さ44mの明和地所「クリオ レミントン国立」が建っている。
大学通り
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なぜこのマンションの高さが20mなのかについては改めて書くことにして、ここでは価格予想に絞る。
記者は、販売担当者が話に乗ってこないのを承知で「坪200万円はどうですか」と鎌をかけた。案の定、全然相手にしてもらえなかった。記者だって坪200万円の安値になるとは全然思っていないが、担当者は口を堅く閉ざしたままだった。
よって、単価予想はあくまで記者の判断によるものだ。当たる確率は7割くらいだと思っていただきたい。
目安になるのは、北側にある明和のマンションだ。詳細は省くが、明和が東京海上から用地を取得した平成11年から国立市との事前協議-住民の反対運動- 建築確認をめぐる争い-地区計画による高さ規制-裁判-結審までずっと取材してきた。当初、同社が予定していた販売単価は坪210~230万円だった。
当時と今とでは状況が異なるが、ユーザーの取得能力など総合的に判断して今回も坪230~240万円になると読んだ。
この単価予想にはもうひとつ指標がある。同社の販売担当者が「競合するのは野村さんの立川」と語ったように、野村不動産の立川駅前の再開発タワーマンションの単価がいくらになるかだ。双方の駆け引きが単価設定に大きな影響を与える。
「立川」が坪300万円を超えてくるようだと「国立」も高値追求できるだろうが、「立川」は坪300万円を超えないと記者は見ている。坪285~290万円ではないか。となると「国立」もアッパーで240万円くらいに落ち着くというのが記者の読みだ。
いま、デベロッパー各社は競合物件の価格に非常にナーバスになっている。相手に高値をつけてもらえば、自社のマンションも高く設定できるからだ。
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