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2021/11/27(土) 18:12

ネガティブにならざるをえない 無残な街路樹 ネイチャー・ポジティブを考える

投稿者:  牧田司

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「都市の生物多様性フォーラム~『5本の樹』で実現する豊かな暮らし~」

 11月26日行われた「都市の生物多様性フォーラム~『5本の樹』で実現する豊かな暮らし~」で積水ハウスESG経営推進本部環境推進部部長・佐々木正顕氏は「今回のフォーラムは当社の自慢話をするために開いたのではありません。生物多様性を客観的、具体的に評価する方法が見つかったので、これを皆さんと共有し実践していくことが狙いです」と感極まった様子で語った。

 その通りだと思う。各氏もその姿勢を絶賛した。一つ気になったのは、オンライン参加の東北大学大学院生命科学研究所教授・藤田香氏が「もう1、2年の間にカーボン・ニュートラルと同じようにネイチャー・ポジティブという言葉は定着すると思います」と述べたように、皆さんは生物多様性の未来をポジティブにとらえていることだった。農学者は普段自然と接しているためか、大らかな人が多い。

 だが、しかし、日ごろマンションや分譲戸建ての現地取材を行い、街並みを眺めまわしていると、生物多様性は一顧だにされず、ただひたすらに自滅の道を突き進むのではないかとネガティブに考えざるを得ない。

 ついこの前だ。船橋市・二和向台の駅前商店街の樹齢数十年と思われるイチョウの街路樹が高さ6mくらいに強剪定されており、枝は瘤だらけ、葉っぱを広げることもできず、黄色く染まることも許されない無残な姿を見て、涙が出るほど悲しかった。行政と造園業者の暴挙愚行ではあるが、問題はそれを容認する住民がいるということだ。

 藤田氏が勤務する仙台は何度か取材したが、二和向台とは対照的に実に緑が豊富で美しい。だからこそ「ネイチャー・ポジティブは当たり前」などと言えないのではないか。写真を載せた。藤田氏にもぜひ見ていただきたい。人への誹謗中傷は厳しく糾弾されるのに、樹木虐待はどうして許されるのか。さっぱり分からない。

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二和向台のイチョウ(左)と墨田区向島のスズカケ

◇        ◆     ◇

 前段に関連することだが、記者は今から10年くらい前、危機的な状況にある森林・林業や、電信柱のように強剪定される街路樹を何とかしないと考え、取材対象に加えることにした。手始めに2012年5月から「街路樹が泣いている ~街路樹と街を考える~」記事を8回にわたり書いた。手ごたえはあった。アクセスは軒並み3,000件を超えた。その後、ことあるごとに自治体の対応を批判する記事を書いてきた。記録に残っている2012年以降の「街路樹」に関する「RBAこだわり記事」は111件ヒットした。

 記者の守備範囲であるマンションや分譲戸建ての取材では、積水ハウスの「5本の樹」の植栽計画は他を圧するのを目の当たりにしてきた。「5本の樹」「生物多様性」「緑被率」「緑環境」で記事を検索したらそれぞれ40本、34本、20本、19本ヒットした。合計で224本だ。

 記者は年間、RBA野球記事を除き住宅・不動産などに関する記事を400~500本書いている。8年間で3,200~4,000本だ。「街路樹」「5本の樹」「生物多様性」「緑被率」「緑環境」の記事の比率は5.6~7.0%だ。これが多いのか少ないのか判断する材料はないが、一定の読者の方の心を捉えたのではないかと思っている。主な記事を添付したので読んでいただきたい。

 どれくらい読まれているか少しチェックしてみた。もっとも多いのは「またまた『街路樹が泣いている』千代田区 街路樹伐採で賛否両論」(2017/9/8)の約9,400件だ。積水ハウス関連では「スマートコモンシティちはら台」「グランドメゾン狛江」「グランドメゾン仙川」などが5,000件を突破している。

 ◇      ◆     ◇

 もう一つ、データが異なるといえばそれまでだが、わが国の住宅着工統計には「敷地面積」「緑環境」の視点が欠落している。あるのは都道府県別の総戸数、総延べ床面積、総敷地面積だけだ。追っていけばどれだけ狭小敷地化が進んでいるか大雑把に捉えることはできるだろうが、どこがどのように変化しているか把握できないはずだ。

 都市計画法、建築基準法も考えたら不思議な法律だ。商業地域は一応建ぺい率は定められているが、耐火建築物にすれば建ぺい率は100%だ。ここにも緑環境の視点はまったくない。(自治体によっては建物をセットバックすることを求めているほか、地区計画や総合設計制度などはあるが)

 そして、何よりも記者が懸念するのは、1977年の三大都市圏の樹木・鳥・蝶の種数、多様度指数、個体数を100%とし、今後日本で新築される物件の30%に「5本の樹」計画が採用された場合、その回復効果は84.6%まで上昇する予測データ通りに推移するかどうかだ。植栽など全くない分譲戸建てが主流の現状のままだと、「5本の樹」に賛同しそうな同社を含めた大手ハウスメーカー・デベロッパーが束になってかかっても30%に届かないのではないか。

 これを何とかしないといけない。先に住宅着工統計には住宅の敷地面積に関するデータはないと書いたが、敷地が20坪以下の狭小敷地では「5本の樹」を植えるのは難しい。これを排除するために、金融機関や投資家にそのような住宅を供給する会社への投資・融資を控えるよう呼びかけることはできるのか、あるいはまたそのような住宅購入を考える消費者に対してどのような姿勢を取るのか、極めて難しい問題が立ちはだかっている。気候非常事態宣言や女性活躍も同様だ。強制力を持たせたりクオータ制を採用したりすることの是非は難しい。藤田氏が語ったようなポイント制、クレジットは可能なのか。

 この問題をクリアしないと、1977年に戻るのは難しいのではないかと思うがどうだろう。

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