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立地と築年数でしか価値が計れない賃貸市場に一石投じる

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「(仮称)ラコント七左町2丁目」

 ポラスの女性社員が企画開発した初の賃貸アパート「ラコント七左町」を見学した。DINKSのニーズにマッチした企画がヒットし、相場より2割くらい高いにもかかわらず、竣工の時点でほぼ満室稼働になっている。立地と築年数でしか賃料が評価されない賃貸住宅市場に一石を投じる物件だ。

 物件は、東武伊勢崎線新越谷駅から徒歩12分、越谷市七左町2丁目に位置する木造2階建て全6室。専用面積は47.13~54.65㎡。月額賃料は79,000~84,000円。敷金は1カ月。礼金はなし。共益費は4,000円。駐車料は6,000円。入居は3月下旬。

 現地は、区画整理事業によって整備された街の一角にあり、新越谷駅圏でも住宅地として人気が高いエリアに立地。建物は、ポラスの分譲住宅に多くみられる南欧風の外観で、アンティークなフラワーボックスなどを配することで一戸建て感覚を演出しているのが特徴の一つ。

 住戸プランは、1階が3室、2階が3室だが、各住戸の玄関を1階に集約し、共用廊下や階段がない重層長屋タイプ。住戸内はポラスの戸建ての商品と似ており、壁面ニッチ収納、カウンター収納、DENスペースなどを設けている。ヨガやストレッチスペースとして使えるようリビングを広めにしているものやバルコニーがないタイプもある。

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 記者は賃貸アパートのことはよく分からないが、間口の狭い箱型住宅を積み重ね、外階段にバルコニー付きというのが通り相場だろう。この物件は全く違っていた。外階段がないのには驚いた。

 住戸プランも、30㎡とか40㎡を想像していたが、分譲マンションのDINKS向けタイプとほぼ同じ50㎡前後あったのにも驚いた。いくらレンタブル比が高い賃貸だって90%くらいだろうが、ここは100%近いはずだ。

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フラワーボックス

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 商品企画を担当したポラスグランテック営業課企画営業係チームリーダー係長・飯村隆志氏から話を聞いた。

 商品は相続税率アップ、基礎控除額の減額など相続対策として企画されたものだが、立地と築年数で賃料が決まる賃貸市場では他社と同じ商品は賃料値下げ圧力、空室リスク、修繕費負担など資産劣化を抱え込むことになり、競争に勝てないと判断。どこにもない〝ニッチ〟に的を絞ったのが特徴だという。

 居住性を高め長く住めるように広めのプランにし、管理コストを抑えるためレンタブル比をほぼ100%にしたのもそのためだ。商品化にあたっては21営業所で約20,000戸の管理をしているグループ会社の中央ビル管理とも連携している。

 飯村氏は、「この物件を含め戸田、蒲生とあわせ3棟が満室稼働。当面の目標は当社の事業エリアの各駅で3棟。オーナーの代替わりも進んでおり、2代目を巻き込んだ事業を展開していく。オーナークラブは300人を超えている。地域にねざした狩猟型ではない農耕型で、普通のアパートではないオンリーワンの商品を提案していく。秋には新しいこれまでにないタイプの新商品も発表する」と話した。

 良質な賃貸アパートが増えることは大歓迎だ。賃貸が劣悪だから分譲マンションが売れるのだが、賃貸の質が低いからこそ分譲のレベルも抑えられる相関関係にある。本来は賃貸も分譲も同じ選択肢としてユーザーが考えられるような市場であるべきだ。その意味で、この物件はよくできたと感心する。

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 見学はもともと予定に入っていなかった。他の業界紙の若い男性記者が見学するのに同行させてもらったのだ。その記者が決してお世辞ではない「僕も住みたい」と感嘆の声を上げたのには驚いた。

 記者もいいプランだとは思った。6室のうち1室はポラスがモデルルームとして利用するために借りているが、他の部屋は1月から募集を始め3月までにはすべて満室になったというのも納得できた。

 しかし、世間が何と言おうと断じて高齢者ではないと思っている自分が住みたい家ではない。リビングの天井には物干しポールが設置されていたのは理解できても、一見して女性が好みそうなピンクのソファやら家具が設えてあったデザインは私好みではない。

 設計を担当したのはポラスグランテック設計監理課係長・岸野真奈美氏だ。商品企画にはポラスグループで賃貸管理業を展開する、中央ビル管理営業推進課の堀切広美氏も参画し、現場サイドの声を反映させているという。

 プラン、インテリアは住宅選考で女性が主導権を握っていることを考慮したものであるのだが、この若い男性記者もまんまと岸野氏の計略にはまったようだ。家庭では奥さんの言いなりになっているのだろう。実際の入居者も、女性だけでなく男性からの反響も大きいという。

 同社の新しい商品のヒントはここにある。記者には理解できないが、ターゲットは女のような男であり、男のような女だろう。違いますか? 飯村さん、岸野さん、堀切さん。

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バスルーム

カテゴリ: 2014年度

 「士」の印籠を振りかざすのかイチジクの葉っぱか

 宅地建物取引主任者(宅建主任者)を「宅地建物取引士(宅建取引士)」に〝昇格〟させる議員立法を自民党が作成中であることを業界紙が報じた。手元に法案に関する資料がないからよく分からないが、現行の試験制度はそのままにし、宅建取引士に公正かつ誠実に行う義務を課し、信用失墜行為の禁止などを求め、能力向上に努める規定を新たに設けるようだ。そのための宅地建物取引業(宅建業法)の一部を改正する法案を今国会に提出するという。

 宅建主任者を宅建取引士に昇格させる話はずいぶん前からあったので驚きはしないが、どうして現行の宅建主任者を「士」にしなければならないのか、その理由が全く分からない。宅建主任者の資質を向上させるため、現在、約90万人いる宅建主任登録者の資格をはく奪・ご破算して再試験を行うというのなら意味はあるが、名称だけ変更し、新たな「士」に何を求めるのかが分からない。

 名称を「士」に変えたところで、山積する問題の解決につながらない。むしろ「士」を隠れ蓑にした新たな儲け先を企図する陰謀ではないかと勘繰らざるを得ない。

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 宅建業界の現状を概観するとこうだ。この数字を見るだけでもどうすればいいかの課題も見えてくる。

 国交省のデータによると、平成25年3月末の全国の宅地建物取引業者(宅建業者)の数は約12万業者だ。平成4年の約14万業者から14.1%減少している。このうち約85%が5人未満の業者で、従事者は約52万人。

 記者は、この宅建業者の数は極めて多いと思っている。街の商店などはどんどん姿を消しつつあるのに、宅建業者はしぶとく生き残っている。個人業者の平均年齢はずっと右肩上がりだ。24年度は63.9歳だから、あと1~2年には高齢者人口に仲間入りするのは間違いない。

 総務省の平成18年度のデータによると、いわゆる街の不動産屋さんと呼ばれる「不動産賃貸・管理業」は約25.5万で、420の事業分類でトップに君臨している。「食堂・レストラン」の約23.5万、「医療業」の約23.3万、「教育・学習支援業」23.2万、「バー・キャバレー」の約15.2万などをしのぐ。

 一方、宅地建物取引主任者(宅建主任者)の平成24年度末の登録者数は約90万人で、平成14年の約71万人と比べると27.0%増加している。

 宅建主任者も多い。主任者登録者のうち仕事に従事している専任の取引主任者は約20万人で、1業者当たりの平均取引主任者数は1.6人だ。宅建主任者の資格者が90万人もいるのだから、資質はともかく人数に不足をきたすことはないはずだ。問題は質だ。この資格者を含め不動産業界で働く人がすべて社会から評価されるようにするのが先決だ。

 また、平成23年度の宅地建物取引業法(宅建業法)違反は免許取り消し216件を含む358件で、そのほかに勧告・指導を行ったものが793件ある。違反、勧告の数値はこの10年間でほとんど横ばいだ。

 この数が多いのか少ないのか。記者は判断できる材料がないが、以前と比べれば違反件数は激減したのではないか。バブル崩壊前は、都内などのミニ開発の建売住宅の大半は違反建築だった。違反を摘発するパトロールが行われたが、これなどは「違反に厳しく対処している」というアリバイづくりでしかなかった。

 違反は減ってはいるが、詐欺師そのものの不動産投資の勧誘を行うあくどい業者が後を絶たない。資産などまったくない記者の自宅に電話してくるくらいだから、「振り込め詐欺」と同じ被害者がいなければいいがと心配している。

 宅建主任者が取得しなければならない宅地建物取引主任者資格の試験(宅建試験)もなかなか理解しづらい制度だ。

 受験資格に年齢制限がないため、過去の最年少合格者は小学6年生だし、最高齢者は90歳のおじいちゃんもいた。宅建主任者は、単に重要事項の文章を読んで聞かせるだけではない。相手に理解させるのが目的だ。小学生や高齢者でも合格できる制度が適当かどうか考えるべきだ。ペーパーテストのみで資質まで見抜こうとするからこうなる。記者は、20年くらい不合格になっても「俺がルールブックだ」と豪語した立派な営業マンを知っている。

 合格点も一定していない。本来、資格試験は一定の資質を問うものだから、試験の難易度は一定であるべきだが、そうなっていない。毎年のように合格基準は変わる。平成2年は50点満点のうち26点で合格という国家資格の格を問われる失態をやらかした。逆に不動産不況で需要が減退したときは、36点でないと合格できなかった年もあった。一定の合格者を確保したい各都道府県関係者と、一定のレベルを確保したい試験機関が綱引きをするからこのような結果になる。試験が形骸化し、調整弁の役割しか果たしていない現実がここにある。

 過去の試験問題が参考にならなければ、受験者も講習屋もパニックになる。とくに過去問題を必死で取り組んでいる受験者にとっては災難だ。

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 記者は、そんな呼称の変更よりも現行の宅建業法を徹底させることが重要だと思う。

 宅建業法の第1条では、「この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする」と高らかに宣言している。この目的の実践あるのみだ。

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 「士」について参考になる、沖縄の泡盛を「全国区」にし、中小企業研究の第一人者として知られる明治大学名誉教授・百瀬恵夫氏の文章を紹介する。

 百瀬氏は共著「『武士道』と体育会系 <もののふの心>が日本を動かす」(発行:第三企画出版)で「『武士道』とは、日本人が長い歴史をかけて磨き上げてきた『もののふの心』というべき精神性の基盤である。残念ながら、現在は『武士道』精神に代表される日本人の伝統ある美しいならわしが大きく損なわれてしまった。…それが、多くの社会問題の原因ともなっているのは疑いない」「先見性に富み、潔く、清々しい心を持つ日本人はどこへ行ってしまったのか。『もののふの心』をもう一度見直し、日本人がそこから広く新しい道を切り開いていくことが今、われわれに問われているのではないか」と記している。

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 ある業界紙のコラム氏は、「『士』への名称変更は、不動産業界で働くすべての人たちが、顧客を決して裏切らないプロフェッショナルになることを誓うような証(あかし)のようなものであろう」と言い放った。

 記者もコラム氏の言うように宅建主任者であろうと宅建取引士であろうと名前はともかく、真に「士」のように崇められるプロになってほしいと願う。しかし、今検討されている問題は、「士」の印籠を振りかざし、イチジクの葉っぱのように恥部・暗部を覆い隠し「身の証」を立てようという狙いが見え隠れする。「顧客」とはいったい誰のことかも書いてほしかった。

カテゴリ: 2014年度

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「グローエアーキテクトクラブ」セミナー(グランド ハイアット東京で)

 ドイツの水栓金具のトップ企業GROHE(グローエ)ブランドを輸入販売するグローエジャパンが4月23日に行った「GROHE ARCHITECT CLUB(グローエアーキテクトクラブ)」のキックオフイベントを取材した。建築家など約150人が参加した。

 「GROHE ARCHITECT CLUB(グローエアーキテクトクラブ)」は、建築家と消費者・施主をつなぐプラットホームで、同社が世界の最新の情報を提供するとともに、わが国の水回りをより豊かにすることを目的に昨年発足。4月には、グローエ製品を使用した建築家の施工実績を「採用事例」として掲載するWebも開設する。

 当日は、グローエ関係者からコンピュータによる最新の設計技術やデザイン、今後の世界的な潮流などが紹介された。

 記者も、グローエが高いクオリティやテクノロジーをデザインによっていかに感性の高い商品にするか、サステナビリティを重視しているかがよく分かった。1坪サイズが主流の浴室については、SPAやセラピー、可動式なども提案していくという話は説得力があった。

 グローエはLIXIL傘下になったが、ドイツの最高レベルの商品とわが国の技術・文化の融合がありそうだ。

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 記者は建築については素人だし、建築家(一級建築士)について語る資格はない。しかし、言わざるをえないことがある。以下は誤謬・偏見に満ちたものかもしれないが、考えていることをそのまま書く。

 医師や弁護士と同様、建築士が世の中から「先生」と崇められるのは当然だ。一つ間違えれば人命にかかわる仕事をしている。高い志がなければ建築士は務まらない。

 ところが、世間から注目され、尊敬される建築家はほんの一握りに過ぎないことを見聞する。仕事がないから、地上げ屋まがいの仕事をしている人もいる。

 なぜ「先生」と尊敬されながら、一部の人しか食べられないのか。その根本理由は分からないが、建築士に決定的に欠けるのは営業力、プレゼン能力ではないかと思っている。「士」プライドが許さないのか邪魔をするのか。自ら頭を下げることはしないし、卓越したデザイン力を簡潔にアピールする術も持っていない人を多く見てきた。

 もう一つ、こちらがもっと重要だと思うのが、世間、ユーザーのことをご存じないということだ。ユーザーとは、建築士にとって一般のお客さんではなく、コンペ狙いのゼネコンやデベロッパー、公共団体ではないか。これらの顧客ばかりを見ているから、背後にいる真のユーザーが見えてこない。

 マンションでいえば、消費者が何を志向しているか、家事労働・動線を理解していないと設計などできないはずだが、これが欠落している。真のユーザー、つまり消費者を知らないのだから、ゼネコンやデベロッパーに媚びる、言いなりになる以外に方法はない。だから似たり寄ったりの経済設計しかできないのだと思う。

 ユーザーを理解しないのは建築士だけではなさそうだ。不動産鑑定士にしてもそうだ。

 鑑定士の世界では〝クライアント・プレッシャー〟なる意味不明の言葉がまかり通っている。つまり、公正中立な不動産鑑定を行うのを妨げるプレッシャーをクライアント、お客さんから受けるというのだ。何の商売でも相手の要求を喜びではなくプレッシャーと感じたらおしまいだ。一歩も前に進めない。かといえば、クライアントのためなら公正中立をかなぐり捨てて、ろくに現場を見ないで注文通りの査定をする鑑定士もいるようだ。

 このように「士」が生きづらい世の中になってきたというのに、あろうことか、宅建取引主任者を「宅建取引士」に〝昇格〟させる動きがある。まさか呼称だけ変えようということではないだろうが、全国に100万人近くいる宅建主任者をダシにしてひと儲けしようという企みが見え隠れする。今やるべきことは主任者の資質の向上だ。講習屋を儲けさせるための、一定の人数だけを確保するためとしか思えない宅建試験は根本的に見直すべきだ。

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「今後も定期的にセミナーを行なっていく」と挨拶したグローエジャパン・森一幸社長

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 話しが横道に外れてしまったが、この日のセミナーに参加した建築士の皆さんはレベルが違っていた。セミナーが始まる前の雰囲気からして違っていた。さすがドイツ、グローエだ。BGMで流れたのはぺートーベンの第九第4楽章の冒頭の部分だ。いったいわが国を代表する音曲はあるのか。まさか「スキヤキソング」でもないだろうし、結局は誰もが聞いたことのないような雅楽におちつくのか。

 プレゼンを行ったドイツのグローエ関係者が話したのは英語だった。記者はちんぷんかんぷん。同時通訳のイヤホンで日本語を聞くしかなかったが、約150人の参加者でイヤホンを耳にしたのはざっと半分、多くみても6割ぐらいだった。これには驚いた。端から聞く気がない人はいなかったはずだ。通訳なしで建築に関する専門の話を理解できるのだから、間違いなくグローバルに活躍できる資質の持ち主ばかりだと記者は理解した。

 「参加者の方からコメントを取りたいのですが」とグローエジャパンの広報担当者に聞いたら、「そこにいらっしゃる南部さんはいかがですか」と勧められた。〝南部さん〟? どこかで聞いたような気がした。

 早速、名刺交換した。肩書には「フォワードスタイル代表取締役社長 南部昌亮」とあった。南部氏から先に声をかけられた。「牧田先生、いつも記事を拝見しています」 

 ここで南部氏が野村不動産の「プラウド」やモリモトのマンションの優れたデザインをたくさん手掛けていらっしゃる「先生」であることと、かつてある建築家を「先生」と呼び、「私は先生と呼ばれるほど馬鹿ではない」とやり返されたのを同時に思い出した。すかさず南部氏に「私は先生などと…」としゃべりそうになったのをぐっと堪えた。記者は馬鹿そのものだからだ。返す言葉がない。

 その南部氏から紹介されたのが押野見邦英氏だった。押野見氏は、圧倒的な人気を呼んだ三井不動産レジデンシャルの「パークコート千代田富士見ザタワー」の専有部分のデザインを鬼倉めぐみ氏とともに担当された方で、モリモトの成城学園、大井町、南品川などの繊細なデザインに記者がほれ込んでいる「先生」だ。早速、記念写真を撮らせていただいた。

 鬼倉氏は三井不動産レジデンシャルの「千鳥ケ淵」や「麻布霞町」も担当しており、近く公開されるモリモトのマンションを手掛けるそうだ。モデルルームがオープンしたら取材してレポートしたい。

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南部氏(左)と押野見氏

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「TRY 家Lab(トライエ・ラボ)」

 大和ハウス工業は4月26日、東京本社敷地内に戸建住宅体感施設「TRY 家Lab(トライエ・ラボ)」をオープンする。

 2002年4月にオープンした同社の技術や最新の設備を体験できる「D-TEC PLAZA(ディーテックプラザ)」を改装したもので、「注文住宅の『試着』をコンセプトに、バーチャル技術を用いて提案中の間取りを体感できるほか、地震体感、エコな暮らし、各種テクノロジーの比較体感などもできる。広さは約1,600㎡。予約制で、年間来場者は5,000名を見込む。

 また、東京本社内に昨年末に改装した、リアルな体験ができる「Living Salon Tokyo」では同社の5つの構法や外構、内外装材、水回り・収納アイテムなどが体感できる。

 4月22日に行われた記者案内会で同社常務執行役員住宅事業推進部長・中村泉氏は、「だれもが洋服を買うとき試着をするし、車を買うときは試乗もする。しかし、注文住宅はそれがない。当社は歩道橋や住宅ローンなど世の中になかったものをつくり常識化した。注文住宅でも試着や試乗と同じように体験できるものをやるべきと実現した」と話した。

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「トライエ シミュレーター」

 

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「トライエ シミュレーター」を体感する記者団

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 「TRY 家Lab(トライエ・ラボ)」も「Living Salon Tokyo」も予約制だから、一般のお客さんが突然尋ねていっても見せてはもらえないだろうが、戸建てのイロハが学べる施設だ。「リアル」と「バーチャル」を同時に体験・体感できる施設はそうないはずだ。

 「TRY 家Lab(トライエ・ラボ)」は、地震体感ができる「トライエ シミュレーター」がいい。阪神淡路や東日本大震災クラスの揺れはもちろん、見学者が希望するエリアの揺れも体感できる。怪我をしないよう握りバーをつかまされたままで、縦揺れは体感できないし、シャンデリアが降り注ぎ、テレビや冷蔵庫、仏壇、本棚が四方八方から飛んでくる恐怖も味わえないが、震度7クラスでは運を天に任せるほかない状況になることは学べる。仮想現実を知っておくのと知らないとでは天と地ほどの差がある。

 「Living Salon Tokyo」は、自由自在に居住空間をレイアウトできるのがいい。玄関の広さからリビング、キッチン、壁の厚さ、バルコニーの奥行き、斜線制限による勾配、天井の高さなど10の住空間が電動装置によって体験できる。隣り合わせの屋上テラスには外構のモデルも展示されており、「ダイワに任せてくだサイ」の意を込めた子ども向けのサイの張りぼてもある。

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天井高や広さが調整できる「Living Salon Tokyo」

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「Living Salon Tokyo」に隣接する屋上テラスのサイ

 

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 三井不動産は4月22日、先月20日に開業した「コレド室町2・コレド室町3」と既存の「コレド室町」の1カ月(3月20日~4月19日)の来館者が約260万人に達したと発表した。

 新たな客層として増えているのは30代~40代。老舗の新業態店でのショッピングやオープンテラスでのランチ・ディナーを楽しむ様子が見られたという。

 これまで日本橋に訪れていた50代~70代もなじみの街で新たな過ごし方を楽しみ、20代は「TOHOシネマズ日本橋」を通じて日本橋に訪れ、これまで縁遠かった老舗店にも足を運んでいる様子がみられたという。

 日本橋では4月26日(土)~5月6日(日)のゴールデンウィークに様々なイベントを実施する。

 

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「(仮称)大手町1-1計画B棟」(左の建物。右はA棟)

 三菱地所は4月14日、千代田区大手町一丁目の「(仮称)大手町1-1計画B棟」の工事に着手し、大手町初の「住」機能としてサービスアパートメントを併設すると発表した。

 計画は、隣接地で同社とJXホールディングスが建設中の「(仮称)大手町1-1計画A棟」(2015年竣工予定)とともに約16,200㎡の敷地を街区一体開発するもの。サービスアパートメントは約130室で、多言語対応・24時間対応。運営はシンガポールに本社を置く、世界最大のサービスアパートメント所有・運営企業であるThe Ascott Limitedが担い、その最高級ブランド「Ascott The Residence」が日本初出店する。

 オフィスは、敷地西側近傍に皇居東御苑、皇居外苑濠(大手濠)を臨み、地下鉄5路線が乗り入れる「大手町駅」に直結。1フロアあたり約1,000坪の整形大空間を確保。フレキシビリティの高い効率的で快適な執務環境を整備する。

 建物は地下5階、地上29階建て、延べ床面積約149,000㎡、容積率1400%。設計監理は三菱地所設計。施工は竹中工務店。竣工予定は2017年1月下旬。

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オフィス空間(完成予想図)

 

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つくば駅前

 市内の一等地ではあるとはいえ、坪単価160万円という決して安くないタカラレーベン「レーベンTHE TSUKUBA」が好調な売れ行きを見せている。つくばエキスプレス線つくば駅から徒歩8分の全322戸で、この半年間で3分の2が売れているという。この記事を書く前に、「つくば」がどのような街であるかを紹介したい。同じような街づくりの多摩ニュータウンや、先iに書いた「柏の葉スマートシティ」と比較して読んでいただきたい。街づくりはいかにあるべきかの参考になるはずだ。

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駅から10分程度の公園(人は一人もおらず、「持ち帰りましょう。犬のふん」の看板が立っていた)

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 「レーベンTHE TSUKUBA」の取材を終え、一服しようと街の中心街へ向かった。午後4時過ぎだった。街行く人は信じられないほどまばら。野良犬も野良猫もカラスもスズメもいなかった。広い公園も人はいなかったが、禁煙だった。

 最初に入った施設はホテルも入居するビル。1階にはかなりの飲食店があったが、人は皆無。全店舗とも夕方の営業は5時からと表示されていた。

 仕方なくあちこちの店舗・施設を探し回ったあげく、ようやく探し当てたのは駅前のチェーン店のドーナツ屋だった。記者はただでもドーナツなど食べないから、コーヒーだけ注文した。270円だった。いつも利用するコーヒー専門店は消費増税に便乗したのかどうかはしらないが、200円から220円に値上げされた。ここはさらに50円も高かった。2本のタバコを吸った。時間は5時近くになっていた。1時間は街をうろついた計算だ。

 記事は足で書く、人間は考える〝足〟だ。記者は飲むときと寝るとき以外はほとんど仕事、記事を書くことばかり考えている。歩くときもただでは歩かない。街をうろついた1時間は無駄ではない。どうして「つくば」には人がいないかをずっと考えた。そこで結論付けた結果はこうだ。

 公務員・研究者が多い街だから、勤務時間中は外に出ない。人と接触する必要がない。教育日本一の街だから、小中学生は塾通いに忙しく、外で遊ばない。街区構成が大きいから、モーターリゼーションが徹底されている。車で移動しないと暮らせない。高齢者は出不精になる。横並びを旨とするのが公務員の世界だから、その意を汲み抜け駆けして早くから営業しようという店舗もない。学歴が高く、生活も安定しているので、パチンコ屋、アダルト系などのギャンブル・遊興施設を利用しない。タバコが吸えないから、喫煙者は街に近づかない。犬猫やカラス、スズメは人に寄り添う動物だから、人がいないところに住まない-などだ。

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駅前一等地の商業ビルの店舗(人がいないところを狙って撮ったわけではない)

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 歩くことは新しい発見をすることだ。1時間の間、途中で寄った駅構内の観光案内所で「つくば市議会だより」を貰った。日付は2月15日。次号は5月15日とある。つまり市議会の動きは年に4回しか市民に紙媒体としては公開されないということだ。これはどこも一緒だろう。

 それでもすごく面白い情報をもたらしてくれた。「市政を問う白熱の一般質問」というスポーツ紙並みの刺激的な見出しの記事には市議会議員と市長のやり取りが紹介されていた。主だったものを紹介する。つくば市の置かれている状況がよくわかる。先に書いた記者の仮説が正しいことを裏付けてくれた。( )は議員の質問、「 」は市長の答弁。

 (市内における約2500戸の国家公務員宿舎が削減されることが突然発表されてから1年…国策で作られた街『つくば』が、自立できるかどうかが試されている)「駅周辺には多くの公務員宿舎があり、これが一遍に廃止になることにより…まちづくりに与える影響は非常に大きい」

 (筑波研究学園都市の建設が閣議了解されて、今年で50周年…今一度、均整のとれた田園都市を目指した…建設当時の理念に思いをはせて…)「都市づくりは百年の計とも言われる長期ビジョンが不可欠であり…次の50年を見据えたまちづくりが極めて重要」「科学技術を活用し、緑豊かな環境に集う人材や知材が未来を先導する自律都市、スマート・ガーデンシティを構築したい」

 (平成25年度の県内交通死亡事故は…全国ワースト2位。つくば市内の死者数12人)「11月末現在で交通事故死亡者数が12人で、全員が65歳以上の高齢者」

(韓国系の市民団体が全米で従軍慰安婦像を設置しようとの動きがある…つくば市と姉妹都市を結んでいる市にも同様の動きがある…つくば市は、我が国の立場を堂々と説明し、従軍慰安婦像を設置することのないよう申し入れるべき)

 「土浦市と合併しますと、財政規模が1000億円以上になり…中核市になることによって…つくば市が目指す教育日本一の取り組みに、一層の進展につながると期待」

 「街路樹や宿舎の植木などの現状を見ると、雑草が生い茂って、管理が十分行き届いておらず、必ずしも良好な環境にあるとは言いがたい」

 (先端技術が日々開発される学園都市として、マイクロソフト社の製品から脱却し他自治体に先んじてLinux導入の実績とノウハウの蓄積を図るべき)「全てのコンピュータをLinuxへ切り替えることは現実的ではない」

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商業ビルの見事な広場(人の気配はまったくない)

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 つくば市は、多摩ニュータウンと極めてよく似ている街だ。双子か兄弟のような存在かもしれない。開発手法が、UR都市機構が主導した土地区画整理事業と新住宅市街地開発法によるというのが同じだし、規模もほぼ同じ。筑波研究学園都市の区域面積が約2,900ha、計画人口が35万人であり、多摩ニュータウンのそれは約2,800ha、約34万人だ。前者は昭和55年3月までに予定されていた国の試験研究機関、大学などの施設が移転・新設された。後者の入居開始は昭和46年だ。

 そして現在。前者の人口は約20万人、後者は22万人。これもほとんど同じ。当初目指した計画人口の6割ぐらいしか達成できていないことも同じだ。様々な問題が噴出し、「百年の計」であるべき都市計画は40~50年でその礎が揺らぎつつある点でも同じだ。

 文化の香りがする街でも互角だ。タカラレーベンのマンションのパンフレットにも登場するつくば市在住の毛利衛さんに匹敵する著名人は多摩ニュータウンにはいないかもしれないが、つくば市が標榜する〝教育日本一〟に対しては、多摩市は市職員の給与は日本一と報じられたことがあるし、大学・学生の数では圧倒している。売り場面積では本店に次ぐ広さの丸善もある。

 つくばと多摩ニュータウンはこのように酷似している街ではあるが、まったく似ていない部分も多い。例えばパチンコ屋。記者は高校時代にやり方は覚えたが、少なくともこの40年間はやったことがない。時間の無駄だと思ったからだ。そのタバコの是非はともかく、つくばの徒歩圏には1軒もない。多摩センター駅周辺には3カ所はあるはずだ。フーゾクだって駅近にある。10分も歩けば野良猫に会えるし、絶滅危惧種の野草も発見できる。駅周辺の公的場所では禁煙だが、喫煙場所もあるし、公園などでは喫煙を禁止などしていない。つまり、多摩ニュータウンはまだ人が住める、人間らしい街を維持しているということだ。

 さらに、これがもっとも重要なことだが、国への依存度の違いだ。つくばは国策でつくられた街だからまずまずの財政力を誇っているが、一般会計の62%を占める市税の多くは公務員が納めているのだろうし、市民税より多い固定資産税も国が立派な街をつくったからだ。地方交付税も26億円ある。国に依存しなければ生きられないことは、紹介した議員と市長のやり取りで理解されるはずだ。多摩市も国に依存していないわけではないが、地方交付税はゼロだ。曲がりなりにも自立しているということだ。

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駅近の舗道(見通せる100メートルくらいに人の影は数人ほど)

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 タカラレーベンの「レーベンTHE TSUKUBA」の坪単価は160万円。三菱地所レジデンスが同じく多摩センターの一等地で予定している「ザ・パークハウス多摩センター」はいったいいくらになるのか。街のポテンシャルを計る意味でも興味深い。

三井不動産 新産業を生み出すイノベーション拠点「KOIL」開業(2014/4/11)

カテゴリ: 2014年度

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「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」外観

 三井不動産は4月10日、柏の葉スマートシティの中核街区として開発を進めている複合施設「ゲートスクエア」に設置した企業や個人が集まり交流を通じて新産業を生み出すクリエイティブなイノベーション拠点「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」を4月14日(月)に開業すると発表した。

 「KOIL」は、起業家から生活者まで多様な人々の知識、技術、アイデアを組み合わせることで革新的な新事業や製品・サービスを創造するための場で、国内最大級のコワーキングスペース(会員制共有ワークスペース)のKOILパークや、ベンチャー企業だけでなく大手企業の事業部門が入居するオフィスフロア、一般の方のビジター利用も可能な機能を持つKOILファクトリー(デジタルものづくり工房)、カフェやスタジオなどを併設。これまでにないオープンイノベーション・センターとなる。

 広さは3フロア合計で約7,980㎡。KOILパーク会員は「月5プラン」の月額6,000円から、「使い放題プラン(固定席)」の月額27,000円まで。入会金は3,000円。

 イノベーションの化学反応を起こすため、起業家のアイデアや技術を事業化につなげ、グローバルな飛躍へと導くメンター(助言・支援者)がKOILに常駐。創業支援プログラムを提供するとともに、大手企業、ベンチャー企業、クリエイターや生活者などと交流できる多彩なイベントを開催していく。

 挨拶に立った同社常務執行役員・小野澤康夫氏は、同社のベンチャースピリットについて触れ、三井グループの創業のルーツである「越後家」から、土地をつくる「京葉臨海部の埋め立て事業」、空を開拓する、超高層時代を切り拓く「霞ヶ関ビル」、ライフスタイルを提案する「ららぽーと」「東京ディズニーランド」について語り、街づくりのイノベーション事業として今回の「柏の葉スマートシティ」があることを強調。「わが国にある閉塞感を打破するため、世界の課題解決モデルとなる街を公民学が連携して創造することを企図している」と話した。

 さらに、「新産業を生みだす空間としての『KOIL』などのハードと、多様なコミュニティとの融合を図り、プラットホーム事業へと発展させ、イノベーション事業のリーディングカンパニーを目指す」と語った。

 また、同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏は、今後1年間の目標としてで「KOILパークは400会員をめざし、稼働率は95%くらいを考えている」と話した。この1年間で300を超える内外の団体が「柏の葉スマートシティ」の見学に訪れたことも明らかにした。

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「KOILパーク」

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「KOILファクトリー」

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 つくばエクスプレスが開業して9年。まだ駅舎だけだった「柏の葉キャンパス」駅前に広がる「柏の葉スマートシティ」には今回で何度目の取材になるのだろう。10回はくだらないはずだ。開業当初から、「柏の葉」だけは成功すると読んだ。ビジョン、哲学が示されていたからだ。

 しかし、他の沿線は20年たっても街は完成しないだろうし、その多くは失敗に終わるだろうと考えた。多摩ニュータウンや千葉ニュータウンと同じ旧来の開発手法とほとんど変わらないからだ。その思いは今も変わらない。

 そして今回。同社が目指す街づくり全貌が見えてきた。小野澤常務も同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏も街づくりのビジョンを語った。胸に響くものがあった。例えれば、ジグゾーパズルの穴が順々に開くような、難しい方程式を一つひとつ解いていくようなわくわく感、快感だ。

 「柏の葉スマートシティ」は、2011年に国の「環境未来都市」「地域活性化総合特別区域」に指定された。ここでは紹介しないが、2050年の「柏の葉」の近未来像を描いた「提案書」には、「石化燃料を一切使用しない世界が広がり、長寿・高齢化社会は手放しで喜ばしいことと歓迎され、子供たちは、語学ばかりでなく国際的なリーダーシップの取れる人材として育ち、臆することなく世界へと飛躍し活躍する者が多いため、そのような環境を求めて、世界各国から移住してくる家庭も多い」と記されている。

 それまであと30余年。記者は間違いなく生きていないが、そのような社会が実現していることを祈りたい。間違っても、建築から40~50年にして早くもさまざまな問題が噴出している多摩ニュータウンや筑波研究学園都市のようにならないようにしてほしい。

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会見に集まった記者は約50人(通常のマンションなどの2~2.5倍くらい)

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左からTXアントレプレナーパートナーズ最高顧問・村井勝氏、三井不動産常務・小野澤氏、同社ベンチャー共創事業室長・松井氏、ロフトワーク社長・諏訪光洋氏

「柏の葉」の「環境未来都市」 涙が出るほど嬉しい提案書(2012/2/13)

 

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「住まいるCafe鶴見東」の「キットパス教室」(記念写真は記者が頼んだわけでもないのに集まってくれた。お互いの信頼関係が築けているからできることだ)

店舗はまるで幼稚園・保育所状態

 年度末の3月下旬。不動産仲介店舗は目標数字を達成するために追い込みに躍起になっている。営業マンは店長に尻を叩かれ飛び回っているはずだ。通りかかったナイスの仲介店舗「住まいるCafe鶴見東」にはたくさんの人が集まっているように見えたが、様子が変だった。覗いてみようと近づいたら、久保正人所長が手招きした。久保氏とはRBA野球で10年かそれ以上のお付き合いだ。

 店に入って驚いた。奥の方には商談か会議か額を突き合わせているグループもあったが、店内はまるで保育所・幼稚園化していた。小さな子どもを連れたお母さんたちで溢れていた。10組くらい集まっていたのではないか。何事かと聞いたら専門家を呼んで「キットパス」の教室を開いているという。キットパスとはつるつるした平板なものなら絵が描けて、ぬれたタオルなどで簡単に消せる新しい絵の具だそうだ。

 もともと記者は仲介の取材はほとんど行ってこなかったが、このような光景は他社の店舗ではまずないはずだ。ナイスの店舗では日常化しているというから驚きだ。

 スペースは無料で開放。習いごとやサークル活動に利用できるほか、町内会や商店街の特売情報なども発信している。コーヒーが無料で飲めるコーナーもあり、毎日のように訪れるお年寄りや、若い女性が立ち寄ることもあるという。スタッフから物件を紹介することなどは厳禁。久保所長は「私も何をやっているかよくわかりません」と笑う。

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「住まいるCafe」

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 同社グループが運営するホームセンター「ライブピア」内に昨年11月にオープンした「住まいるCafe鶴見ライブピア」は、他の「住まいるCafe」とはまた違っている。

 車いすなど介護用品やユニバーサルデザイン商品がたくさん展示されており、バリアフリーなども体験することができるほか、耐震、断熱リフォームなど住まいに関するあらゆることが分かる工夫が凝らされている。

 すべてのスタッフが福祉用品貸与事業を行なう事業者に義務付けている「福祉用具専門相談員」講習を受けているという。無料の耐震診断・相談が受けられるほか、リフォームに関するセミナーなども頻繁に行なわれている。

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「住まいるCafe鶴見ライブピア」  

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 同社広報室室長・渡利勝也氏は「住まいるCafe」の事業を開始した経緯、目的などを次のように話した。

 「当社はもともと地域に根ざした仲介店舗を展開してきました。最近は他社でもマンション、戸建て、賃貸、仲介などワンストップで対応するところもあります。当社は当社らしい他社にはできない切り口の店舗展開をやろうとそれまでの『住まいの情報館』から社内公募により名称を『住まいるCafe』に昨年4月に変更しました。店舗数は鶴見、川崎を中心に18店舗。不動産情報の提供だけでなく、地域のプラットホーム、地域の交番でありたいというのが理念です。

 なぜ、そのようなことができるか。われわれはこのエリア中心に最近はマンションだけでも年間1,000~1,500戸を供給しています。仲介店舗もあります。新規物件を供給する際には公共施設、商業施設、学校などの情報をパンフレットに盛り込みますし、チラシも配布する。地域の情報はみんな知悉しています。  

 ならば、こうした情報を地元の人に還元しようという取り組みです。仲介店舗は当社もそうですが他社も土曜、日曜日はともかく平日はガラガラです。地域に開放しても不都合は生じない。

 『ライブピア』に福祉用品などの情報を提供する新しい形の店舗を提案したのも、『ライブピア』を利用されるお客さんの6~7割の人が60歳以上ということから設置を決めたものです。

 地域密着の究極を目指そうというのがわれわれの取り組み。理念の共有も徹底して進めています。

 マンション事業で進めている免震や外断熱、戸建て事業で展開している『パワーホーム』も、住宅のトラブルをなくしたい、住宅を通じて家族を守ろうという発想が基本です」

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「キットパス教室」

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 同社は経営理念に「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指す」ことを掲げている。〝住まいづくり〟に〝素適な〟〝心を込める〟と2度も強調されると、逆にマイナスにならないかと心配もするが、ここに同社の強いメッセージが込められている。

 同社が地盤とする鶴見、川崎エリアは以前からマンションデベロッパーの激戦地となってきた。大手デベロッパーや中堅との競争を余儀なくされてきた。それでも圧倒的なシェアを守り、競争に打ち勝ってきたのは免震であり外断熱であり、〝70㎡の4LDK〟提案だったりする。70㎡の4LDK提案など地域を熟知しているからできることだ。

 大切なことは死守し、そうでないことは柔軟に対応するということだ。その姿勢は、今回に限らずマンションや野球大会での取材でも感じることができる。まったく気負いがないのだ。ギラギラとしたものがない。その一方で、野球では勝っても負けても延々と反省会をやる。分譲と仲介の人的交流も積極的に行なうのも同社の特徴だ。

 記者は平田恒一郎社長が社長に就任した1988年前に「うちは地域ナンバー一の座は譲らない」と話したのを今も覚えている。1950年に会社が生まれてから64年になるが、社名は2007年に持ち株会社移行に伴い旧「ナイス」が「すてきナイス」に社名変更したのを含め5度も変わった。これほど社名が変わった上場会社はほかにないはずだ。変わらないのは「住宅」を通じて社会に貢献しようという理念だろう。

 「住まいるCafe」の来館者は2012年度の1カ月当たり約1,000件(全店合計)から2013年度は約8,000件と実に8倍増だそうだ。年間にすると約9.6万人だ。常識を破る取り組みが今後どのような展開を見せるか注視したい。

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「住まいるCafe鶴見ライブピア」 無料耐震診断や同社の「パワーホーム」の構造も見ることができる

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 元三井不動産販売(現三井不動産リアルティ)コンプライアンス室長で、NPO法人日本レジデンシャル・セールスプランナーズ協会理事・谷中健太郎氏と電話で話す機会があった。

 このナイスの事例を話すと、谷中氏は「それはすごい。私も多くの仲介会社と付き合って40年になるが、一部を除き売り上げのことばかり。地域密着とはみんな口では言うが、どこまで実践できているか。私は、日本古来の地域の風土記を語れるくらいにならないとダメだと思っている。この業界は本物のプロ集団になれるか、ステップアップできるのか、各社の仲介戦略・戦術の優劣が鮮明になると実感している」と話した。

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 昨日(4月1日)の不動産流通研究所のWeb「R.E.port」は住宅・不動産・流通17社の入社式での社長あいさつ要旨を紹介している。同社の了解を得たので、以下に紹介する。

 鉄は熱いうちに打て。春爛漫のこの日、各社長は新人の胸に響く熱い言葉を放った。キーワードは「チャレンジ」「挑戦」だ。17社の社長が語ったあいさつの中で「チャレンジ」「挑戦」の言葉は全部で20ある。

 三井不動産・菰田正信社長、野村不動産ホールディングス・中井加明三社長がそれぞれ3度用いたのをはじめ、12社の社長が果敢にチャレンジすることを呼び掛けた。語らなかったのは三井不動産リアルティ・竹井英久社長、三菱地所レジデンス・小野真路社長、東京建物不動産販売・種橋牧夫社長、積水ハウス・阿部俊則社長、森トラスト・森章社長の5氏のみだ。 

 三井不・菰田社長は、新人に期待することとして「自立した個人」「幅広い視野を持つ」「チャレンジスピリット」「健全な心身を保つ」「社会人としてのコモンセンスを持つ」-の5つを語った。

 三菱地所・杉山博孝社長は、「守るべき」創業の原点である三菱三綱領(所期奉公・処事光明・立業貿易)を引き合いに出し、「英語に直せばそれぞれpublic、fair、globalだ」と話した。

 住友不・仁島浩順社長は、「寄らば大樹の陰は通用しません。誰かに言われるがまま盲従することなく、皆さん一人ひとりが自ら考え、信念をもって行動することが肝要」と語りかけた。

 野村不ホールディングス・中井社長は、「私の信念でもありますが、『人を育てる事が、すべての戦略実現に繋がる』」と自らの信念通り、新人を育てることを約束した。

 東建・佐久間一社長は、仕事をする上で大切にして欲しい基本姿勢として「総合力の発揮」「現場主義」「スピード」の3点を強調した。

 大京・山口陽社長は、「我々のようなBtoCを中心業務としている企業は、お客さまからの信頼という貯金を積み上げる努力が必要です。誠実で嘘がなく、人望がなければ相手から信用、信頼はされません」と、生き方を説いた。

 三井リアル・竹井社長は、「『ひと、社員』に積極的に投資を続けて行こうというのが当社の成長戦略の柱であり、新入社員の皆さんは、我々の希望の星、期待の星」と最大級の言葉で望みを託した。

 住友不販・田中利和社長は、「皆さんの成長なくして、当社の発展はありません。知識の習得はもちろん、人としての成長も期待しています」と人間力を磨くことを強調した。

 積水化学工業・根岸修史社長は、「貧乏くじは当たりくじ」「難題のタイミングには意味がある」「振り出しに戻る時が新たな成長へのチャンス」の3つをアドバイスとして贈った。

 大和ハウス・大野直竹社長は、「役職員全員が売上高3兆円という通過点を超えるため積極果敢に挑んでおり、一丸となって業容拡大を図っています」と同社の現状を踏まえ、「皆さん一人ひとりがその大きな仕事を託す価値のある人間かどうかにかかっている」と成長を託した。

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 新入社員の諸君には、この不動産流通研究所の「R.E.port」を毎日読むことを記者は勧めたい。深く考えなければならないことはともかく、これほど世の中の動きが激しいと、週刊・月刊の業界紙誌に頼っていては、毎日生起する事象に追いついていけなくなる。

 「R.E.port」は唯一といっていいくらい住宅・不動産・流通各社のニュースリリースを網羅し、毎日報じている。ただで読めるのだからありがたいことだ。寝る前、出社したとき必ずチェックしてほしい。病的なまでに指をせわしなく動かすスマホもいいが、しっかり新聞を読み、本も読んでほしい。

 記者が贈る言葉は、月並みだが「石の上にも三年」だ。がむしゃらに3年も頑張れば未来が見えてくる。それでも芽が出なければ、さっさと会社に三下り半、絶縁状を突きつければいい。再チャレンジの時間は十分残されている。

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