サ高住「コーシャハイム千歳烏山」 「囲い込み施設にしない」JKK狩野氏
「コーシャハイム千歳烏山」9号棟
東京都住宅供給公社(JKK東京)、東京建物不動産販売、やさしい手、はなまる会の4者は3月31日、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「コーシャハイム千歳烏山」の現地発表会を行った。サ高住と24時間在宅サービスを組み合わせ、かつ団地内やその周辺に居住する高齢者にもサービスを提供する地域包括ケアシステムの拠点としての役割を担う新しい取り組みとして注目される。
現地は京王線千歳烏山駅から徒歩5分。世田谷区南烏山6丁目に位置する昭和32年に管理開始したJKKの「烏山住宅」(21棟584戸)の建て替え事業の一環として整備されたもので、サ高住86戸を含む賃貸住宅94戸のほか、居宅介護支援などを行う高齢者施設、認証保育所、クリニック、レストラン、コミュニティカフェなどを備えた多世代交流を促進する機能を持たせているのが特徴。サ高住の専用面積は約25~67㎡、賃料は67,800~184,600円。管理費は約3万円。サービス料は1人入居が33,000円、2人入居が48,000円。オプションの食事代は60,000円。
JKKが建設した建物を東建不販などが一括賃貸し、管理運営するもの。併設する施設は転貸により運営する。平成25年に工事着手し、今年2月、建物が竣工した。施設事業費は約22億円。
JKK少子高齢対策部長・狩野信夫氏は、「烏山住宅」の建て替え、今回のサ高住について説明し、「医療・介護などのサービスは入居者だけでなく、団地や周辺の方々にも開放するのが大前提。街の中にサ高住が溶け込むヒューマンスケールの事業にしなければならない。これまでのような囲い込みをする施設・住宅であってはならない」と強調した。
サ高住と併設施設を管理・運営する東建不販賃貸営業本部シニアレジデンス事業担当部長・菊地達也氏は、「25㎡のワンルームタイプだけでなく、夫婦二人で住むニーズがあると考え50~60㎡台の広めのタイプも多く企画したのが当たった。1期募集55戸には174件の登録があるなど予想通り評価された。5月には引き続き2期として30戸くらいを募集する。賃料はマーケット並みに設定した。多世代の住まいを創出するプロジェクトとして万全のサポートをしていく」と語った。
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さすがJKKだ。住環境が抜群。各住棟の間隔が十分確保され、植栽計画もいい。分譲マンションなら坪300万円でも売れるような価値のある団地だ。東建不販のサ高住はこれまでも見てきたが、これまた水準以上。
ただ、既存住宅の躯体を改修した一般住宅との共生を目指すという11号棟のプランは首をかしげざるを得ない。床をバリアフリーにするため200~250ミリかさ上げしており、天井高は2200ミリで、玄関ドア、サッシ、梁型の部分などは1500~1700ミリしかない。入居する人が腰の曲がったおじいちゃんおばあちゃんならいいかもしれないが、住宅としては問題ありだ。
既存住宅を改修した11号棟
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一般に開放するカフェレストラン「てらすチトカラ」、コミュニティカフェ「ななつのこ」に注目した。やさしい手・香取幹社長によると、最近はこのように一般に開放した施設の取り組みが増えており、概ね好評とのことだった。
しかし、記者は一般の人が気軽に利用するにはハードルが高いような気がしてならない。特別養護老人ホームや民間の有料老人ホームにも体験宿泊したことがあるが、要介護の方たちと一般の方が談笑しながら食事をしたりお茶を飲んだりする雰囲気ではない。交流を促す工夫が必要だと思う。サ高住は決して「囲い込み施設」でも「姥捨て山」でもない。高齢者の知見、知識をどんどん引き出し、活用する場にしてほしい。
クリニック、保育所、コミュニティカフェなどが入居する12号棟
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医療サービスを担当する医療法人社団はなまる会理事長(院長)矢野孝子氏が素晴らしいスピーチを行った。事業概要の説明が終わるころで、記者は早く現場を見たい一心で矢野氏の話は全然聞いていなかった。
ところがだ。「戦争に生き抜いた…」という言葉にピクリと反応した。後で矢野氏に詳しく聞いた。矢野氏は、「戦争に生き抜き、戦後の今の豊かな時代を築き上げた人生の大先輩の方々に感謝と敬意を表して、これまでの人生に花丸を差し上げたい」と話したのだそうだ。「はなまる会」の名前はそのために付けたという。
矢野氏は「父が死んだ病院で介護医療は経験したことがある。理想の在宅医療を求めて医療法人を立ち上げた」と話した。
矢野氏には、「先生、我々団塊世代も大変な苦労をしてきました。受験地獄を味わいましたし、バブル崩壊にリーマンショック、阪神淡路に東日本大震災。どうぞわれわれにも『花丸』を付けてください」とお願いした。今回開業した「烏山はなクリニック」のカーテンはピンクで統一されていた。先生の好みだそうだ。かかりつけの医院をここにしようかしら。
クリニック(カーテンはピンクで統一されていた)
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もう一つ。質疑応答で、介護・福祉関係の記者と思われる方が、24時間サービスを行う「コンシェルジュ」について、「賃金はいくらか」とあからさまな質問をした。香取社長もこのような質問には驚いたようで「普通よりはいいと思います。正社員並み」と答えるにとどまった。
記者などは「坪単価はいくらか」と必ずマンションの価値を価格に換算して聞くが、さすがに商品を提供するデベロッパーの社員の給与を聞く勇気はない。しかし、専門紙誌の記者の方が単刀直入に聞かざるを得ないほど介護・福祉関係に勤める人の待遇が良くないのは記者も理解している。特養に体験宿泊した翌日、記者は疲れて半日ダウンした。
「エステート鶴牧」の外断熱省エネ改修が成功した理由
花牟禮氏
大規模修繕実行委員・花牟禮幸隆氏が改修の経緯などを語る
マンションコミュニティ研究会(代表:廣田信子氏)は3月20日、多摩市の「エステート鶴牧4・5住宅」大規模修繕実行委員・花牟禮幸隆氏を講師に招き、国土交通省の平成24年度(第2回)「住宅・建築物省CO2先導事業」にも採択された「省エネ改修」について勉強会を行なった。
「省エネ改修」は、工事を担当した長谷工リフォームと共同で提案したもので、住みながら屋根を含む建物躯体の外側を断熱材で包み込む外断熱工法やインナーサッシを採用することなどでコンクリートの寿命を2倍(45年から90年)に延ばし、CO2排出量を23%削減できるもの。共同住宅の省エネ改修のビジネスモデルとしての展開も視野に入れたプロジェクトとして評価された。
「エステート鶴牧4・5住宅」は、多摩市鶴牧4丁目に位置する敷地面積約49,000㎡、壁式鉄筋コンクリート造の2~5階建て全29棟356戸の団地。建物完成は昭和57年3月(築32年)。工事期間は平成25年2月~26年3月。工事費は約11.6億円。このうち補助対象部分の50%が補助金で賄われ、1戸当たりの補助額は約100万円。
花牟禮は、平成23年7月から屋根の葺き替えを中心とする大規模修繕の検討に着手したこと、一度は予算面で外断熱を断念したこと、長谷工リフォームの提案を受けわずか10日間くらいで提案書を作成したこと、4分の3同意を得るため臨時総会の直前までマンガによるニュースなどで説明を徹底させたこと、3億5,000万円の銀行融資を取り付けたこと(金利1.25%のうち1%は都の利子補給)、反対者は25人いたことなどを話した。
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記者は、康和地所や明豊エンタープライズ、ナイスなどの新築マンションの取材を通じ外断熱のよさは分かっているし、同じ多摩ニュータウンには地元の建築のプロ集団が企画した「永山ハウス」もある。
よさは分かっていたつもりだが、長谷工リフォームがこの「省エネ改修」のニュースをリリースしたときは驚いた。記者が住む団地は「エステート鶴牧4・5住宅」に近接しており、築年数も住棟構成もよく似ており、「まさかそんな大規模団地で、後付の外断熱なんかできるわけがないし、合意形成も難しい」と思っていたからだ。工事中の現場を何回か見た。外壁に断熱材を張る工事は気の遠くなるような工事に思えた。
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花牟禮氏の話は、そんな疑問を吹き飛ばした。目からうろこだった。高経年のマンションはどのようにして価値を維持・向上させるか、いかに合意形成を図るべきかなどを教えてくれた。
まず、団地の価値の維持・向上。大規模修繕は定期的に行なわなければならないのは当然だが、花牟禮氏は「単なる修繕では建物の老化と入居者の高齢化により魅力は低下し、資産価値は低下するばかり。建て替えも選択肢にあると考える人はいるかもしれないが、郊外では駅近辺や、都心部と違い、余剰床を売って資金を捻出しようなどということは絶望的」「改修により建物の維持を図る場合、内外の居住環境の向上、すなわち、建物の長寿命化や、外構、住戸内温熱環境等、住環境の性能アップを計るなどして資産価値をあげ、安心して快適に住み続けられるものにしないと若年購買層に対する団地間競争に勝てない」などと話した。
合意形成について花牟禮氏は、「10年前から機会あるごとに団地の価値向上について話し合ってきた。約10人の理事は輪番制だが、10年間となると約100人と意識の共有ができたのではないか。」「価値の維持・向上は一つの団地だけでは限界がある。団地を取り巻く周辺環境が団地の魅力を増す。特に商業は重要であり、近隣の団地とも連携し、地元のスーパーを守ろう、盛り立てようと話してきた」などと語った。
花牟禮氏は著名な設計会社「アール・アイ・エー」の東京支社設計担当参与を務める一級建築士でもある。建築のプロとして継続して入居者と接し信頼を得てきたのがプロジェクトを成功に導いたのだろう。記者は工事が終わった住棟の居住者から「暖房なんかぜんぜん使わなくても快適」という声を聞いた。
アール・アイ・エーが設計したマンションでは、記者は首都圏不燃建築公社・三菱地所「パークハウス阿佐ヶ谷レジデンス」を思い出す。
後姿が美しい「パークハウス阿佐ヶ谷レジデンス」 「マンション環境性能表示」☆3つ(2010/3/8)
「住宅購入は消費増税前よりトク」 オープンハウスの調査
オープンハウスは消費増税を直前に控えた3月26日、首都圏に住む住宅購入意向者500人を対象に動向調査を実施。回答者の4割が直近1年間に「住宅を購入」し、購入者の半数以上が「増税前のほうがオトクだから」と答え、消費増税が購入を決断させた大きな要因であるとしている。住宅を購入しなかった人の7割以上は来年10月に予定されている「10%への消費税増税前には住宅を購入したい」意向があることもわかった。
一方、意向者の半数以上(56.6%)が「減税措置やすまい給付金について十分に理解できなかった」とし、約6割(57.0%)が「住宅購入を検討するのに十分に時間を費やすことができなかった」としている。
住宅を購入しなかった人の理由としては、「もっとじっくりと検討したかったから」が72.2%を占め、住宅ローン減税やすまい給付金制度を利用するため「消費税増税時よりも後に購入したほうがオトクと思った」人も15.5%あった。「返済額を見て不安になった」人は19.0%だった。
また、購入者の約5割(48.4%)が「住宅購入する際、両親から資金援助を受けた」と回答し、その額は「100万円以上500万円未満」(34.8%)が最多だった。
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調査結果は当然だ。建物価格が2,000万円と仮定したら、現行では100万円の消費税額は160万円になる。さらに、上昇する建築費・分譲価格に対する将来不安も買い急ぎを誘発したのは間違いない。
しかし、多くの人がローン減税や給付金の仕組みを理解できていない問題も浮上した。政府も住宅メーカー、デベロッパーは増税後の反動を極力抑えるための住宅取得支援策をアピールしているが、伝わっていない。景気回復が鮮明になった現在でも、増税後の景気が読みきれず「漠然とした不安」があることも浮き彫りになった。
記者は富裕層やアッパーミドル、DINKS層向けのマンションなどは来年の10月までは好調な売れ行きを見せると見ている。
心配なのは第一次取得層向け住宅の売れ行きだ。消費税の逆進性は生活必需品と同様、住宅も中低所得者により重く働く。マンションを例にすると、課税対象となる建物価格と非課税の土地価格の比率は都心部では3:7くらいであるのに対し、郊外部では逆転し7:3になるからだ。
ローン控除・住まい給付金も中低所得者は実質的には利用しづらい。年収400万円で、扶養家族2人の人が住宅ローン2,000万円(金利2%、35年返済)を借りた場合をシミュレーションしてみたら、ローン控除は年額約13万円、給付金は30万円となった。しかし、頭金や親の援助があるのならともかく、2,000万円で買えるファミリーマンションは首都圏ではほとんど皆無だ。
ならばと、他の条件を変えずに年収を500万円、借入金を3,000万円に引き上げて試算してみた。ローン控除額は約22万円、給付金は20万円となった。これなら3,000万円で買える郊外マンションが探せばある。
「これからのマンション管理と管理会社の活用」セミナー 千代田区長も参加
「これからのマンション管理と管理会社の活用」(千代田区役所で)
「これからのマンション管理と管理会社の活用」と題するマンション管理セミナーが3月22日、公益財団法人まちみらい千代田が主催して千代田区役所で行われた。約60人が参加した。
まちみらい千代田は、ワンストップでマンション管理に関する助成制度や相談に応じる公益財団。区内には約400の分譲マンションが存在し、人口約52,000人の8割以上がマンション居住者であることから、マンションでのコミュニティ形成、管理会社の役割、防災対策などが話し合われた。
コーディネーターはまちみらい千代田の顧問でマンション管理士の飯田太郎氏、パネラーはマンション管理業協会理事長・山根弘美氏、明海大学教授・齋藤広子氏、千代田区長・石川雅巳氏。
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山根氏
さすがマンション管理のプロ中のプロ。山根氏の話は非常に面白かったし、最後はドキリとさせられた。普段は業界の会合などでしか話を聞かないが、一般の人にどのように話せばいいかよく分かっていらっしゃる。面白すぎて「みなさん、私の話など終わった瞬間から忘れるでしょうから」と、忘れないでほしいことを3点ぐらいに絞った。それも自らの体験に基づいたことだから説得力がある。以下に紹介する。
「私は結婚して35年。単身赴任で20年。子どもは6人いた(これは後述する)。今日終わったら、かみさんに会いに行くんです。鞄にはいつも非常時に備えてカロリーメイトなどを入れている。首都直下型の地震の確率は向こう30年で70%ですから、宝くじに当たるより、タクシーの運転手が事故を起こすよりはるかに確率が高い」
「大事なのは自分の子どもなど大事な写真などを身に着けておくことです。工事関係者などは手袋に子どもの写真を縫いこんでおくことは気の緩みをなくすことにつながる。災害時には高齢者だけでなく、乳幼児が災害弱者になる。その一方で、中学生は体力もあり災害時には戦力になる」
「私は500戸のマンションに住んでいるが、メールボックスに名前を表示しているのは私だけ。『山根弘美』ですから男だか女だか分からないので、管理人さんは『止めたほうがいい』という。これが現状。どこにだれが住んでいるか分からなければ災害時にどうなるか。福岡ではありえない話です」
「災害時にマンション管理会社は当てにならないと考えたほうがいい。委託管理契約に災害時対応をする条項などないからです。これは別バージョンで考えないといけないこれからの課題」
「これはまだ正式に決まっていないが、コミュニティ形成に成果を上げている事例を管理組合から募集して紹介する事業も行う」
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齊藤氏
齋藤氏は学生さんにいつも講義をされているから当然と言えば当然だが、割り当てられた20分間しゃべり続けた。ほとんど息継ぎをしない。立て板に水とはこのことをいう。「私は無口なタイプですので、資料は多めにしました」と話したときは唖然とした。
自らが居住する新浦安の例を紹介しながら、マンションは地震に強いこと、共助の管理組合がしっかりしていれば災害時に大きな力を発揮すること、顔を知る・助け合い・共同管理の3つのコミュニティが連動すればより強固なマンション管理ができることなどを話した。
石川区長
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石川区長は、「災害時には行政の力には限界がある。最後は人力。まちみらい千代田を窓口にして防災隣組を組織する」と語った。耐震補強については、「区の補助金で改修工事をして価値をあげても、固定資産税や都市計画税は都税だから、区民感情としては理解されない。税の仕組みも問題。また、個人の財産にどのように行政が支援していくか理論構築も必要」などと話した。
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取材後、山根氏に「しゃべったこと記事にしていいですか」と尋ねたら、山根氏はポケットからネーム入りのボールペンを取り出した。「これぼくの死んだ子どもの誕生日。1988年7月25日です」「命日は1989年7月26日。生まれた翌年の翌日に死んだんです。10㎝しか水が入っていなかった浴槽に伝え歩きして入ったんです。だれも気が付かなかった。ぼくはこの子と二人分生きている」(記者は前職を辞めたとき、二人の女性からネーム入りの万年筆をもらった。最近、それを飲み屋でなくした。それでも10年以上使い続けたのは記録的だ)
「そうなんです山根さん。住宅内での死亡事故で結構多いのは溺死なんです。だから、積水さんは溺死しない浴室のドアを開発したんです」(記者)「そう、そりゃ積水さんに負けちゃおれない。うちもちゃんと取り組まなくちゃ」(山根氏は大和ハウス工業の管理会社ダイワサービスの会長)
飯田氏
積水ハウス 藤井瑛美氏が「建築・住宅技術アイデアコンペ」最優秀賞(2014/2/28)
リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成
完成した「千駄ヶ谷緑苑ハウス」
築43年の旧耐震賃貸住宅(一部事務所)を耐震補強し、内外装や設備を一新するリファイニング手法を用いた分譲マンション「千駄ヶ谷緑苑ハウス」が完成し、3月22日、関係者に公開された。約140人が参加した。
物件は、JR中央線千駄ヶ谷駅から徒歩3分、渋谷区千駄ヶ谷5丁目に位置する7階建て全17戸(事務所3/住戸13)。専有面積は30.50~86.12㎡。建設年は昭和45年(築年数43年)。事業者はハチハウス。設計・監理は青木茂建築工房(意匠設計)、金箱構造設計事務所(構造設計)。施工は山田建設。竣工は平成26年3月。
建物は、道路を挟んだ北側に新宿御苑があり、屋上からは新宿のビル群や神宮外苑花火が眺められる好立地にありながら、旧耐震であるうえ間取り・設備の陳腐化が進んでいた。建物を建て替えずに先代から譲り受けた建物をそのまま残したいという意向を受けてハチハウスが物件を取得。
改修にあたっては、耐震性能を向上させるため構造・計画上不要な部分を撤去して軽量化を図り、使い勝手や意匠を損なわないよう補強をバランスよく行い、北側や南側の開口部を大きく取る工夫を行っている。
外壁は中性化対策としてタイルを使用。屋上は外断熱として緑化も図っている。防音対策としてはスラブ厚が120ミリだったため、遮音性能の高いフローリングを採用。設備計画では縦配管を共用廊下側に設置することでメンテナンス性を向上させた。
建物の価値向上のために1,600ページに及ぶ補修個所の全数を記載した「家歴書」を作成。耐用年数は第三者機関の調査の結果、推定耐用年数は残り50年と診断された。耐震性の確保、建物の長寿命化、適法性の確保、商品競争力を確保したことなどで住宅ローンが借りられるようにもした。
現在まで13戸が全て契約・申し込み済み。坪単価は290万円。
設計・監理を担当した青木茂建築工房・青木茂主宰は、「リファイニングによる住宅の再生は、賃貸の再生、居ながらの再生、分譲の再生、賃貸から分譲への再生をこれまで行ってきた。金融も含めどのようなケースでも対応できるという意味で集合住宅の再生は完成した」と話した。
ハチハウスのオーナー・岡本軍八氏は、「私は74歳。これまで50年間、不動産事業にかかわってきた。最後の仕事として社会に還元したいという思いで取り組んできた。当初予算は坪70万円と想定していたが、耐震補強費などがかさみ結果的には坪100万円になった。しかし、分譲単価は想定していた240万円から290万円に上昇しても、お客さんが商品性を評価してくれた。内覧会でみなさんびっくりしていた。〝死ぬしかない〟と思っていた建物がリファイニングによって生まれ変わり、十分採算に乗ることが実証できた。夢のチャレンジが成功した」と語った。
岡本氏(左)と青木氏
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「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」については、工事中の段階でも記事にしているのでそちらも参照して頂きたい。百聞は一見に如かず。青木先生のすごさが分かった。デザイン力も素晴らしい。倉庫だった1階は天井高が4mあったことから、ロフト付きにし、耐震性を確保しながら開口部を大きくしたこと、梁やカーテンレールの部分はライティングを施し、最上階は外廊下部分を専有化するなどの工夫を凝らしている。リフォームや今流行のリノベーションとは全く異なるものだ。
もうひとつ驚いたことがある。岡本軍八氏が登場したことだ。岡本氏については別掲の記事を読んでいただきたい。記者は9年前、岡本氏にお会いし、記事にもしているが、すっかり忘れていた。岡本氏には失礼だが、もう過去の人だと思っていた。岡本氏自身も「浦島太郎になっちゃった」とその時話している。
昨年取材したとき「ハチハウス」はどこかで聞いたような気がしたが、ハチハウス・青木歩実社長が軍八氏の娘さんだとは全然思わなかった。「ハチ」はロッキード事件のハチのひと刺しか連想できなかったし、青木茂氏の娘さんかと思って質問したぐらいだ。軍八の「ハチ」を社名に使うなどやはり岡本氏は只ものでなかった。
岡本氏は、「山田建設の山田社長は長いおつきあい。どこも工事を受けてくれなかったのに意気に感じてやってくれた。近く中堅のデベロッパー向けに説明会をやる」と意気込んでいた。すっかり旬が過ぎた岡本氏がよみがえったのが何よりうれしい。リファイニングは人間再生にも応用できるのか。
梁の部分をライティング処理 屋上の緑化
窓の外は新宿御苑 倉庫だった1階部分の天井高は4mのロフト付き
リファイニング事例のひとつ「清瀬けやきホール」のビフォー(左)とアフター(写真撮影は「イメージグラム」)
「住まい手からみる木造住宅の未来」シンポに420名参加
、「住まい手からみる木造住宅の未来」シンポジウム(ヤクルトホールで)
髙田・京大大学院教授 「平成の京町家団地」紹介
日本ぐらし館木の文化研究会(委員長:髙田光雄京都大学大学院教授)とJAHBnet(主宰:宮沢俊哉アキュラホーム社長)は3月18日、「住まい手からみる木造住宅の未来」と題する第3回シンポジウムを行なった。会場にはほぼ満席の約420人が集まった。
主題解説を行なった髙田教授は、わが国は木の文化国ではあるが、木材自給率は27%にとどまっており、山が荒れ災害の危険が増大しており、木造住宅は6割にのぼっているとはいえ、その多くはプレカットでできており、現状は木の文化の継承・発展にはなっていないと指摘。自然と街と人がつながっている京都の町家の例を紹介しながら、日本の居住文化を住まい手の視点から考えるべきと問題提起したうえ、「住まい手が住まいに働きかける価値とも言うべき『住みごたえ』『住み心地』『住みこなし』が重要」と述べた。
続いて基調講演を行なった居住環境学が専門の檜谷美恵子・京都府立大学大学院教授は、社会経済環境の変化によって狭小住宅団地などでは空き家が進み、高齢者向けのサービス付き高齢者住宅のニーズが高まっていること、子育てファミリーは十分な広さの住居を確保できていないことなどから、コレクティブハウスやシェアハウスなどの共助、協同する住まいが注目されると話した。
髙田氏
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シンポジウムでは髙田氏がコーディネーターを務め、檜谷氏、京都大学大学院教授・鉾井修一氏、同・林康裕氏、京都工芸繊維大学大学院准教授・矢ケ崎善太郎氏、木村工務店 大工棟梁・木村忠紀氏、京都庭園研究所 庭師・比地黒義男氏がそれぞれの立場から「手を入れること」の重要性を語り合った。以下、主な声を紹介する。
鉾井氏 開いたり閉じたりする空間を確保することで暑さや寒さに対応することが重要
林氏 メンテフリーを売りものにする住宅があるが、これは住まい手から働きかける機会を奪うもの。メンテしやすい構造、装置をつくるべき
矢ケ崎氏 世界最古の木造住宅である法隆寺はなんども手入れされてきた。手を入れることで長持ちさせる技を大工は持っていた。庭は贅沢ではなく必要であったから設けた。公私をまぎらす、環境をあやふやにし、グラデーションのように深まっていく機能を備えている
木村氏 いまの消費者は「住みこなす」ということを知らない。私は賢い消費者をつくることが建築を育てると思っています。木造の家は手入れをしっかりすればそんなに潰れません
比地黒氏 庭は心を癒すところ。木を1本植えることが庭づくりの基本。最近の樹木剪定は枝もない丸く刈り込むことしか考えないが、すかし技術などを使えは気持ちいい風を取り込むことができる
檜谷氏 家政学はもともと男性の学問。もっと男性も参加してほしい(これに対して髙田氏は「京の町家の保全は女性が担っている」と苦笑い)
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シンポジウムはそれぞれ専門の立場から各氏が話され課題が示された。木造住宅の一層の充実を願う記者にとっては、やや論議が散漫になり深まりに欠けたのが残念だったが、髙田氏が話題提供として「平成の京町家 東山八坂通」を紹介されたのに注目した。
八坂神社、建仁寺にも近く、八坂通から少し入ったところで、全体敷地面積は約1,100㎡で、建基法86条の一団地認定を受けた区分所有方式の8戸の木造2階建てだ。共用の庭のほか専用の庭もあり、建物は土間、縁側を設け引き戸を多用することで風通しのいい造りとなっており、2戸連棟だが「けらば」(切妻側の意匠)を残すことなどを条件に戸別の建て替えも可能だという。
首都圏ではほとんど見かけなくなったが、建て方はかつて昭和50~60年代にたくさん供給された「タウンハウス」に似ている。共有の「コモン」スペースを持ち、専用の「庭」もある低層住宅だ。
「平成の京町家・東山八坂通」(株式会社ゼロ・コーポレーション提供)
地価公示底這い状態続く地方都市 滋賀県草津市のみが上昇
平成26年の地価公示が発表された。全国的には住宅地、商業地とも依然として下落をしているものの下落率は縮小傾向を継続。三大都市圏では、住宅地の約2分の1の地点が上昇、商業地の約3分の2の地点が上昇。その一方で、地方圏では住宅地、商業地ともに約4分の3の地点が下落。大都市圏と地方圏の地域格差は解消されないどころかむしろ拡大していることが地価公示も裏付けた。
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別表 Book1.pdf は、平成26年と平成16年の大都市圏を除く人口が10万人以上の市の住宅地の平均価格を比較したものだ。
比較可能な市は全国で103市あり、唯一平均地価が上昇しているのは滋賀県草津市だ。10年前は1㎡あたり98,400円だったのが、今年は106,000円と7.7%上昇している。
どうして草津市が上昇しているのか。地元・大津市の不動産会社ラフィナータ・山田幸秀社長は、「草津市は京都、大阪への通勤圏。快速で京都へは20分、大阪は50分。住環境もいい。急激に地価が上昇しているという印象はないが、ジワジワと上昇しているのは間違いない。大手も軒並み進出しており、激戦地となっている」と話した。
パナソニックなどの大手企業や立命館大学などの大学も進出し、利便性が高まっているという。
他は悲惨だ。下落率が10%以下なのは札幌市の5.5%、福岡市の5.6%、那覇市の7.6%、仙台市の8.6%、浦添市の8.6%のみ。他は鳥取市の56.3%、小樽の53.2%、秋田市の52.8%と半値以下になったところも3市ある。40%以上下落は約3割の30市にのぼる。
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2020年のオリンピック開催効果もあり前年の860,000円から954,000円と10.9%上昇した東京都中央区勝どき3-4-18の平成16年地価公示は680,000円だった。10年間に40%の上昇だ。
大都市圏の一部がこの10年間で40%地価が上昇し、その逆に地方都市では40%も地価は下落し、底這い状態が続いているということだ。
全てが腑に落ちる 首都大学東京「リーディングプロジェクト最終成果報告会」
「首都大学東京リーディングプロジェクト最終成果報告会」(都庁で)
首都大学東京と東京都は3月17日、大都市東京の課題解決に向けた取り組み「首都大学東京リーディングプロジェクト最終成果報告会」を行い、同大学都市環境学部特任教授・山本康友氏が「新省エネ東京仕様開発提示プロジェクト研究」について、同大学都市環境学部特任教授・青木茂氏が「リファイニング研究開発プロジェクト研究」について、同大学理事・上野淳氏が「郊外型都市賦活更新プロジェクト研究」についてそれぞれ報告した。
山本氏は、今年1月に竣工した都有施設の事例を紹介。IT技術の採用はもちろん、再生可能エネルギーの導入、地中熱利用ヒートポンプ、木材の利用、壁面緑化など現状で最高水準の省エネと省エネ仕様で整備したと話した。今後、計測データを蓄積して検証するとしている。
青木氏は、これまで手掛けてきたリファイニング建築事例を紹介。リファイニングを行う際は、既存建物が建てられてから現在までの約30年を一区切りに、今後2度の再リファイニングを想定しトータルで120年使用できるよう考えるべきで、構造的には耐震性はもちろんだが、コンクリートや鉄筋の劣化を十分調査すべきと強調した。意匠も外観は30年ごとに見直し、内観は5~10年ごとに手を入れるべきとした。さらに用途についても時代の変化に沿うよう変更を加えることが建築物の長寿命化につながると語った。
今後の課題として、技術の伝承、雇用の促進、耐震診断のデータベース化、現行法との矛盾の解消、教育の重視などをあげた。
上野氏は、多摩ニュータウンの賦活について、「世界的に稀有な事例」である公園・緑地をペディストリアンで結ぶ緑のネットワークや歩車分離の街づくりをどう継承していくかが鍵だと語った。また、高齢化やバリアの解消などの課題はあるが、多様な主体が主役になる街づくりを行なえば未来都市・多摩ニュータウンには大きな可能性があると力説した。
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最近は、マンションだけでなく他の分野の取材も増やしているが、それぞれ一つひとつがみんなつながっていることが見えてくる。こんがらかったタコ糸をほぐしたように、知恵の輪を解いたときのように、あるいは「カチリ」と音がして玉手箱の鍵か開いたときの、極上の酒が五臓六腑にしみわたる快感だ。これが取材の楽しさだ。
例えば、今回の取材で言えば青木氏の「30×4=120年ターム」説。これは単に建築だけでなく、サステイナブル社会の構築と結びつく。上野氏が力説した街全体をペディストリアンで結ぶ緑のネットワークの価値は、もう一度再認識する必要がありそうだ。
山本氏が紹介した「新省エネ東京仕様開発提示プロジェクト」はまだオープンになっていない施設で、都は一般公開も含めて検討するとしている。
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上野氏が「書いてもいい」と仰ったから書く。昨日記事にもした「サードプレイス」の「福祉亭」は上野氏もよく利用されているようで、「私は福祉亭に焼酎のボトルをキープしている。どなたでも寺田さん(理事)に言って飲んでもらっても結構」「福祉亭にはお世話になってきたから、(恩返しの意味か)施設のスタッフになるか、調理人として雇ってもらうかしたい」と話した。
上野氏の調理人としての腕前がどんなものかは不明だが、先生の話がただで聞けるとなれば「福祉亭」の価値は倍化する。学生さんなどの若者も大挙して押しかけるのではないか。
日本建築学会 「もうひとつの居場所(サードプレイス)をどこに持つ」
港区「芝の家」
日本建築学会の建築計画委員会に属する「ライフスタイル小委員会」が3月13日に行なった公開研究会「もうひとつの居場所(サードプレイス)をどこに持つ? 」を取材した。
同委員会は、少子高齢社会における家族と住まいの現状と課題を共有し、これからのライフスタイルに対応した住宅・地域の在り方を検討することを目的に設けられているもので、この日は港区の「芝の家」を見学し、多摩ニュータウンの「福祉亭」、墨田区の「コレクティブハウスかんかん森」の事例が紹介され、「自宅」や「職場」などの居場所以外の「もう一つの居場所」の今後の可能性などが話しあわれた。
研究会では、同委員会主査の湘北短期大学准教授・大橋寿美子氏が、「家族機能が弱体化した少子高齢社会では、人と人のつながりが希薄になっている。もう一つの居場所としてのサードプレイスは3.11以降、より一層重要性が増している。孤独や孤立からの開放、生きがいにつながる可能性を探るのが、この研究会の目的」と、概要について説明した。
「芝の家」は2008年、港区と慶應大学とが連携して設けられた芝3丁目のコミュニティ拠点。民間のオフィスを賃借しているもので、大人から子どもまで年間1万近くの利用者がある。事業費は年間950万円。
慶應大学特任講師・坂倉杏介氏は、「緩やかなつながりを求める人が多い。単体ではなく、いろいろな組織と連携して自主的で多様な取り組みがインフォーマルな『共』をつくり出す」と語った。
「福祉亭」は、多摩ニュータウンのUR賃貸空き店舗を利用してNPO法人福祉亭が2003年から運営している施設で、飲食提供のほか、高齢者支援事業、街づくり事業などを行なっている。これまで100近いテレビ、新聞、雑誌などに取り上げられており、認知度は全国区になった。
福祉亭の理事・寺田美恵子氏は、「セーフティネットの網を広げているつもりだが、漏れることもある。初期投資、立ち上げ支援、運営補助の仕組みが大切。近隣には株式会社方式も含めて、同じような施設が4カ所でき、激戦地になってきた。売上げは年間約800万円。トータルで約900万円。補助金は60万円しかない」と笑った。
「かんかん森」は2003年、わが国初のコレクティブハウスとして誕生。人員構成は0歳~88歳まで48名。子どもが13名、大人が35名。夫婦7組、単身女性16名、単身男性5名という構成だ。
居住者でコレクティブハウスの社長・坂元良江氏は、「誕生してから10年以上が経過したが、毎年子どもが生まれ居住者の自主管理、自主運営は発展している。コモンスペースは時には居酒屋状態になることもあるが、週に2~3回のコモンミール(食事当番)は作る人のレベルも上がってきており、レベルの高い食事が提供できている」と話した。
「芝の家」
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「サードプレイス」は、アメリカの都市社会学者Ray Oldenburg氏の著作「The Great Good Place」(1997年)の邦訳で、「ファーストプレイス」である自宅、「セカンドプレイス」である職場などとは別の居酒屋、カフェ、本屋、図書館など情報・意見交換の場、地域活動の拠点として機能する概念のことだ。
このようなサードプレイスは、普通の人にとってはごく当たり前の施設だ。ことさら「サードプレイス」として注目されるのは、家庭も職場も自分の拠りどころではなくなっていることの証左なのだろう。無縁社会、格差社会、パワハラ、ワーキングプア、パラサイト・シングル、ネットカフェ難民…およそ20年前にはそんな言葉すらなかった深刻な問題が生起し、日常茶飯となっている。
ならば「サードプレイス」はこれらの問題を解決してくれる万能薬になるか問えば、答えは「ノー」だろう。万病に効く処方箋はないし、「サードプレイス」に過大な期待をかけるのは酷だ。性急に成果を求めない緩やかで多様なつながりを辛抱強く続けることしかないのではないか。
次は、数年前からナイスが取り組んでいる「住まいるCafé」を紹介する。住宅の売買・仲介店舗を地域の居住者に開放したCSR活動だ。
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大橋氏
「サードプレイス」を取材しながら、これは社会的弱者にとってこそ必要な施設ではないかとずっと考えていた。
そうした社会的弱者に対して、社会学者の上野千鶴子氏が近著「女たちのサバイバル作戦」(文春新書)で心強いメッセージを送っている。少し長いが、以下に紹介する。
「日本の女のこれからを思うと、サステイナブルよりサバイバル、の方が切実だとわたしは思えます。たとえ日本が『沈没』して難民になっても、亡命してでも、どこででも生き延びていけるスキルを身につけてほしい、と思うようになりました」「自分のことは自分で。他人とは関係ない。集団で活動するのはうざいし、ださい――こういうメンタリティがネオリベ的感性です。ネオリベは強者と弱者を生みますが、問題は、弱者も強者と同じメンタリティを共有していることです。強者はつるむ必要がありません。ですが弱者は弱者だからこそ、つるむ理由があります」「制度も政治も変えられないかもしれないけれど、自分の周囲を気持ちよく変えることは自分と仲間の力でできるかもしれない」
「たとえ目の前の問題がただちに解決できなくとも、たった今の苦しみを共有してくれるひとたちがいることで、困難にへこたれないでいられる、問題に立ち向かう元気がもらえる――そうやって女たちは生き延びてきた…傷の舐めあい――と揶揄する人がいました。それでけっこう。傷ついた者たちは、傷を舐めあう必要がありました。女性はその必要があったからこそ、つながりをつくってきました」
左から坂倉氏、寺田氏、坂元氏
三井不動産 日本橋再生の第二弾「コレド室町2」「コレド室町3」開業
「コレド室町3」エントランス(乃村工藝社・小坂竜氏によるアート。ツガやスギ、ヒノキなどと石、タイルなどを組み合わせた壁、床は芸術品)
三井不動産は3月20日、日本橋再生計画の第二弾「コレド室町2」「コレド室町3」を開業する。開業に先立つ17日、開業記者会見・内覧会を行い、数百人の報道陣が詰めかけた。
「日本橋再生計画」は、伝統ある老舗など街の文化を残し、水と緑の賑わいを甦らせ、新たな街の魅力を創っていく、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」をコンセプトに再開発を進めているもの。
「コレド室町2」「コレド室町3」は、再開発の第一弾ともいうべき「コレド日本橋」(2004年竣工)、「日本橋三井タワー」(2005年竣工)、「コレド室町」(2010年竣工)に次ぐもの。今後も「室町三丁目」「室町一丁目」「日本橋一丁目」「日本橋二丁目」「八重洲二丁目北街区」「八重洲二丁目中地区」など再開発計画が目白押しで、面的な再開発が進められる。
新しく開業する「コレド室町2」「コレド室町3」には、外国人コンシェルジュによるインフォメーション・ガイドツアー(日本橋案内所)を開始するほか、和のおもてなしレンタルスペース「橋楽亭/囲庵(COREDO 室町)」を設置。外国人が無料でインターネットを利用できるWi-Fiを整備する。
記者会見に臨んだ同社飯沼喜章副社長は、「今回のコレド室町2とコレド室町3の開業と日本橋三井タワーのリニューアルオープンは、江戸の往時の賑わいを取り戻す再生プロジェクトの一環であり、今後も日本橋の新たな魅力を発信し続けていく」と話した。
年間の来街者は1,700万人、売上高は110億円を見込む。
「コレド室町2」(スーパーポテト代表・杉本貴志氏のアート。石器質タイルの組み合わせが妙)
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マンションブランドなら100も200も価値判断ができるが、飲食・ファッションなどの商業施設はさっぱり分からない。しかし、三菱地所が進める「丸の内再構築」と同社の「日本橋再生」は明らかに街づくりのコンセプトが異なるぐらいは素人目にも分かる。
三菱地所は「世界でもっともインタラクションが活発な街」を掲げ、アジアの国際拠点都市としてグローバル化に取り組んでいる。仲通りにはティファニー、エルメス、バカラ、プラダなど世界的ブランドと流行を発信する国内のセレクトショップが軒を連ねる。20年前は土曜、日曜日となるとほとんど人通りが途絶えた「過疎」はいまでは日本一の賑わいのある街変わった。
一方の「日本橋」は前面に「お江戸日本橋」を打ちだしている。桜、祭り、着物、茶道などのイベント積極的に行い、店舗も榮太樓、にんべん、木屋、小津和紙、鶴屋吉信、千疋屋などわれら団塊世代にもなじみのある店が多い。
両社が狭いエリアで競り合ってどうなるのかという心配もあるが、おそらくこのコンセプトの違いで住み分けができ、相乗効果となってより賑わいを増すのだろう。両社のこれからの投資額はそれぞれ数千億円、双方では1兆円を間違いなく突破する。
「コレド室町2」(杉本氏のタイル文様をふんだんに用いた店舗デザイン)
「これど室町3」(小坂氏のツガを用いた壁)
「橋楽亭/囲庵(COREDO 室町3)」と日本橋 芳町の売れっ子芸妓さん「おもちゃ」さん
小坂氏のアートな壁(石とツガ、ヒノキ、スギの組み合わせ)
左は「牡蠣場 北海道厚岸」(生カキは1ピース290円から。記者が食べたのは590円。1年を通じて生カキが食べられるのは厚岸のみとか)。右は本物の出汁を販売する「茅乃舎」
三井不動産 ビルも賃貸も億ション並み「和」盛り込んだ「日本橋再生」(2014/1/29)