〝業界のイチロー〟目指すのか 絶好調の住友不 マンション「銀座東」竣工
「シティタワー銀座東」(後ろが三井不動産レジデンシャルのマンション)
住友不動産は5月23日、大規模免震タワーマンション「シティタワー銀座東」が完成したのに伴う記者見学会を開催。「DEUX TOURS(ドゥ・トゥール)」にも設けた「SOHO」タイプも公開した。5月下旬から入居を開始する。
物件は、東京メトロ日比谷線八丁堀駅から徒歩5分、JR東京駅から徒歩20分、中央区湊二丁目に位置する22階建て全492戸(うちSOHOは88室)。専有面積は44.28~83.95㎡(SOHO34.54~44.99㎡)、坪単価は455万円。2019年1月29日に竣工済み。設計・施工は五洋建設。空地率を50%以上確保したゆとりある配棟計画が特徴。
2017年8月に販売を開始してからこれまで約2,020組の来場者を集め、全体の6割が契約済み(SOHOは約3割)。
マンションの契約者は30~40代(57.3%)のパワーカップルや60代以上(19.4%)のシニア層が中心。全体の5割強が2次取得者。用途は6割強が実需。従前の居住地は23区内が全体の6割強。
SOHOは、専用のエントランス、エレベーター、メールボックスなどを設け、宅急便発送やタクシー手配などの業務を取り扱う「コンシェルジュ」や、会議や打ち合わせに利用できる「ミーティングルーム」も整備。価格は4,529.4万~5,941.6万円。
契約者の年齢は30歳代(17.6%)、40歳代(29.4%)、50歳代(17.6%)、60歳代(35.4%)と幅広く、職業は会社役員・経営者(42.1%)、会社一般職(26.3%)、会社管理職(5.3%)、無職(26.3%)、現居住地は中央区(21.0%)、港区(15.8%)、23区他(15.8%)、その他(47.4%)。東京オフィスとして地方の人が利用するケースが多いという。
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SOHOにもっとも関心があった。設備仕様はほとんど普通のマンションと変わらない。ゲストルームやスカイラウンジも利用できる。
契約条件として、会社として登記する必要があり、不特定多数の人が出入りする職種や「居住のみ」は不可。契約者はSOHO利用として賃貸することも可能。賃料は17.5万円(坪1.6万円)/月。
約3割が契約済みというのは多いのか少ないのかわからないが、今後普及するのではないか。
植栽
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見学会では、同社広報担当者が「新築マンション供給戸数の年次別推移(1973~2018年)」「首都圏マンション平均価格と借入限度額の推移」「平均価格と基準金利の推移」「メジャーセブンの供給戸数とシェアの推移」の表をもとに、現在のマンション市況は決して悪くないことなどをレクチャーした。
「メジャーセブンの供給戸数とシェアの推移」では、メジャーセブンの供給シェアはリーマン・ショックまでは24~28%だったのが、2008年に29%に上昇、その後はどんどん比率を高め、この8年間は39~46%で推移している。供給会社は2001年が410社だったのが、2018年1~11月は112社になっているとしている。
高層界からの東京駅方面の眺望(眼下に公園、小学校、由緒ある神社)
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昨日も書いたのだが、同社の中期計画では、分譲事業は「量を追わず利益重視で販売ペースをコントロールしていく」「競争激化の用地取得環境が続く中、『好球必打』で着実に確保する方針は継続する」としているので、いったい「好球必打」とはどう意味か、西武ファンの記者はそれぞれロッテファン、阪神ファンの同社広報担当者に次のように質問した。
「好球必打のプロ選手はロッテにも阪神にもいない(双方のファンは怒るか)。西武の山川は本塁打をよく打つが、三振も多い。秋山も打率はせいぜい3割5分。いったい誰に例えればいいか」
返ってきた答えが面白い。「イチローさんは自分が好きなコースはボールでもヒットにする。それと同じ。うちが『好球』と判断した土地を『必打』するということ。三振? ありだと思います」
なるほど。同社が今後どのような用地を仕入れるか注目することにしよう。同社も「競争激化の用地取得環境が続く」と見ているように、マンションデベロッパーはみんな仕入れに苦労している。ストライクだけ狙っていたら、まず買えない。
それにしても、同社は今期計上予定戸数5,300戸に対し期首時点で約80%(前年約65%)が契約済というからすごい。三井不動産の75%を上回る。マンションデベロッパーの〝イチロー〟を目指すのか。
分譲事業は「好球必打」(住友不)「量から質(中身)」(三井不)の時代の流れ加速(2019/5/22)
三井不動産レジデンシャル「パークシティ中央湊ザ タワー」竣工見学会(2017/11/27)
隣の公園(記者は「禁煙」は「禁止」にかかると、つまり吸っていいのかと理解したのだが…)
分譲事業は「好球必打」(住友不)「量から質(中身)」(三井不)の時代の流れ加速
分譲事業で営業利益率10%を確保するのは困難 各社の2019年3月期決算数字(2019/5/22)
分譲事業で営業利益率10%を確保するのは困難と書いた。別格は住友不動産だ。2019年3月期の「不動産販売事業」は売上高3,318億円、営業利益471億円(営業利益率14.2%)だ。今期計上予定戸数5,300戸に対し期首時点で約80%(前年約65%)が契約済というから絶好調というほかない。
しかし、第八次中期経営計画(2020/3~2022/3)では「第七次で実現した高水準の利益規模を維持する」としながら、「量を追わず利益重視で販売ペースをコントロールしていく」「競争激化の用地取得環境が続く中、『好球必打』で着実に確保する方針は継続する」と戦略の転換を匂わせている。量的拡大の時代は終わったとみるべきだ。
2019年3月期の売上高、営業利益、経常利益、純利益とも過去最高を更新するなど非の打ちどころのない好決算となった三井不動産の分譲事業はどうか。
投資家向け・海外住宅分譲を含めた売上高は前期比311億円増の5,307億円、粗利益率は38.4%(前期24.7%)と伸び、営業利益は150億円増の980億円(営業利益率9.3%)となった。
これらの結果に対して、経理部長委嘱の執行役員・富樫烈氏は「営業利益率9.3%はとても高い水準」とし、マンション分譲が大幅に増加し、前期比372億円増の554億円となった海外事業については「出来すぎ」と語った。
期末契約済み戸数はマンション4,331戸、戸建て119戸合わせ4,450戸となり、今期マンションの計上予定戸数3,400戸の進捗率は約75%。
完成在庫はマンション141戸、戸建て30戸を合わせて171戸で、計上戸数に対する割合は4.5%しかない。
三井不動産も〝量から質(中身)〟に完全に移行していることを次の表から知ることができる。
表は、同社の過去11年間のマンション・戸建ての計上戸数、完成在庫、売上高の推移を見たものだ。
戸数は2014年3月期にマンション・戸建て合わせ7,473戸を計上したが、その後は漸減しており、2019年3月期は3,754戸に減らしている。ほぼ半減だ。
しかし、売上高は約17%しか減らしていない。なぜか。1戸当たりの価格を比較するとその理由がはっきりする。2014年3月期は1戸当たり4,618万円であるのに対し2019年3月期は7,594万円だ。実に64%も上昇している。最近は戸建てよりマンションの価格のほうが上回っているのも特徴だ。
同業他社と比較して、アッパーミドル・富裕層向けで圧倒的な差をつけているのが見て取れる。確実に利益が確保でき、在庫も出さない戦略を徹底しているとみた。(東京建物の2018年12月期の分譲の売上高は726億円で、1戸当たり単価は7,351万円と高い)
分譲事業で営業利益率10%を確保するのは困難 各社の2019年3月期決算数字
今週の業界紙「住宅新報」と「週刊住宅」の1面はともに主要不動産会社の2019年3月期決算概要記事で、「旺盛な不動産需要が追い風」(住宅新報)「根強いオフィス、投資需要」(週刊住宅)として、最高決算が相次いだことを報じている。集計対象は住宅新報が31社、週刊住宅は63社。
これはこれで有難いのだが、住宅新報の表は売上高、経常利益、純利益の前期実績と今期業績予想しかなく、週刊住宅もこれらに営業利益を加えているのみだ。
これでは専門紙としては不十分だ。読者の立場からすれば、これらの数字だけではなく、例えば営業利益率、セグメント別、「ROA(総資産利益率)」、「ROE(自己資本利益率)」なども知りたい。
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両紙の表を基に電卓を叩いて、各社の営業利益率をはじいてみた。大手では住友不動産がトップで21.8%、以下、三菱地所18.1%、東京建物17.1%(2018年12月期)、三井不動産14.1%、野村不動産HD11.8%、東急不動産HD8.9%の順。
数値が高いのはビルや投資事業、不動産活用が中心の会社で、京阪神ビルディング36.2%、ダイビル25.4%、サンフロンティア不動産25.0%、平和不動産23.6%などとなっている。
その他、売上げが多い会社の営業利益率はプレザンスコーポレーション16.9%、エフジェー・ネクスト12.3%、スターツコーポレーション11.7%などが高い数値を示している。
分譲が主力の会社では日本エスリード12.4%、日神不動産7.8%、飯田グループHD7.2%、タカラレーベン7.6%、明和地所6.0%、ケイアイスター不動産5.7%など。長谷工コーポレーションは11.0%。
表中に森ビルと森トラストが抜けていたので調べたら、森ビルは5月21日発表で、売上高2,461億円、営業利益611億円(営業利益率24.8%)、森トラストは5月16日発表で、売上高1,748億円、営業利益344億円(営業利益率19.7%)だった。
大和地所レジデンスも5月22日に発表し、売上高367億円、営業利益45億円(営業利益率12.3%)となっている。
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これらの数値から分かるのは、分譲事業〝単品〟で利益率10%を確保するのは容易でないことだ。プレザンスコーポやエフジェー・ネクスト、日本エスリードは極めて好調ということができるが、3社とも投資向けやコンパクトマンションの比率が高いのが好調な要因ではないか。
その意味では、ほとんどがファミリー向けの大和地所レジデンスの利益率の高さは注目に値する。商品企画力の反映だと思う。
半年で330~340戸成約 驚嘆すべき売れ行き 全678戸の野村不「吉祥寺」
「プラウドシティ吉祥寺」完成予想図
前回の「プラウド南阿佐ヶ谷」に続いて、売れ行き好調の野村不動産「プラウドシティ吉祥寺」を紹介する。吉祥寺駅からバス便の全678戸の大規模だが、約半年で330~340戸を成約するなど驚嘆すべき売れ行きだ。
物件は、JR中央線吉祥寺駅から徒歩23分(バス約10分)、三鷹市下連雀五丁目に位置する敷地面積約26,405㎡、8階建て全678戸。専有面積は68.59~83.70㎡、坪単価は262万円。売主は同社のほか日清紡ホールディングス(土地売主)。竣工予定は2020年1月中旬。施工は長谷工コーポレーション。
同社は昨年12月、第1期140戸を即日完売したと発表しているが、その後も順調に売れており、これまでに370戸を供給し、330~340戸を成約している。来場者は約3,600組。
現地は、日本無線三鷹製作所の跡地。敷地内に商業施設、認可保育園、学童施設、バス停を設けるとともに、既存樹の樹高25mのヒマラヤスギ2本をエントランスに残し、緑地率を30%超に高め、「ABINC認証」を取得することなどが特徴。隣接地には同社のシニア向け住宅(サービス付き高齢者向け住宅)も建設する。
主な基本性能・設備仕様は、二重床・二重天井、リビング天井高2.45(3階以上)~2.5m(1・2階)、御影石キッチンカウンター、ディスポーザー、食洗機、Low-Eガラスなど。
バス停とヒマラヤスギ
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吉祥寺、または三鷹駅からバス便の三鷹市内のマンションの取材を20件くらいはしたはずだ。売れ行きがよく印象に残っているのは大成有楽不動産「オーベルグランディオⅠ」(177戸)、「オーベルグランディオ吉祥寺II」(284戸)だが、緑被率の高い住友不動産「シティテラス吉祥寺南」(268戸)もいい物件だった。
価格上昇局面の数年前、同社は数百戸単位の完成在庫を出し利益率も落としたが、ここにきてまた勢いを取り戻しつつある印象を受ける。その原動力はやはり商品力であり販売力だ。
「吉祥寺」の販売事務所は商品特性をよく表現できている。第一に「住みたい街ナンバーワンの吉祥寺」を前面に打ち出していることだ。バス便は苦にならないどころか、徒歩でも駅に着くことを訴え切れているのも奏功しているのかもしれない。資料には「井の頭公園」には徒歩5分とあり、バス便についても、「徒歩0分」に屋根付きのバス停を設けるとある。(デベロッパー各社は〝駅近〟を強調することは一方では自らを苦境に陥らせることを理解すべき)
4×6mもある巨大な360分の1のジオラマ模型は立地特性を分かりやすく見せている。別のやはり同じくらいの大きさのマンションの模型、壁面展示では低木も含め2万本の植樹をおこない、緑被率を高め、充実した共用施設の〝見せる化〟も図っている。
水回りを共用廊下側に配した排水竪管から最大14m離しても設置可能な排水システム「Mi-Liful(ミライフル)」を採用し、水回りをバルコニー側に設置した2つのモデルルームの出来もいい。
競合すると思われる定期借地権付きの「三鷹」のマンションと比較し、所有権付きの優位性もしっかりと訴えている。
さて、ひとつ提案だ。半年で半分売れたのだから、残りも半年で完売できればいいのだろうが、そう簡単ではないはずだ。わずか半年で992戸を完売した「富久クロス」では、ユーザーから募ったアイデアを1000個の「イゴゴチ」にまとめ、シアターには「第九」の音楽を流した。長いマンションの歴史で「第九」をシアターに流したのは後にも先にもこの物件しかないはずだ。
「富久クロス」で「第九」を流したのだから、今度は記者の好きなヘンデル「水上の音楽」はどうか。井の頭公園の池、住宅地内の緑のテーマにぴったりではないか。バラの香りを館内に漂わせれば来場者は感動するはずだ。アルプスの爽やかな風も吹かせたらどうか。
気になったことも一つ。建物の高さ25m規制だ。この物件に限ったことではないが、高さ規制を緩和して公開空地を増やしたほうがはるかにマンションも街もよくなるはずなのに…。
木造ゲストハウス
駅1分、敷地南側は1低層でワイドスパン 高単価の野村不「南阿佐ヶ谷」完売へ
「プラウド南阿佐ヶ谷」完成予想図
販売好調の野村不動産「プラウド南阿佐ヶ谷」と「プラウドシティ吉祥寺」を見学した。高単価ながらプランが素晴らしい「南阿佐ヶ谷」から紹介する。
物件は、東京メトロ丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅から徒歩1分、JR中央線・総武線 阿佐ヶ谷駅から徒歩9分、杉並区成田東四丁目に位置する14階建て99戸。専有面積は36.21~75.48㎡、坪単価は440~450万円。竣工予定は2020年3月下旬。施工は矢作建設工業。売主は同社のほか矢作地所。デザイン監修は南條洋雄氏。
今年初めからモデルルームをオープンし、3月に第1期80戸を分譲してからこれまで97戸を成約。残りは2戸と好調。来場者は約650件。
現地は、三方道路で敷地北側は青梅街道、南側は第一種低層住居専用地域が広がる商業地域立地。
建物は基壇部に光の演出を施すなど印象的なデザインとし、住戸は内廊下方式の1フロア8戸(2階は3戸)構成で、南向きはファミリータイプ、北向きはコンパクトタイプ。主な基本性能・設備仕様は、二重床・二重天井、リビング天井高約2,650〜2,750ミリ、天井カセットエアコン、食洗機、ディスポーザー、吊戸棚など。
基壇部
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読者の皆さんはどう思われるか分からないが、〝即日完売のプラウド〟のブランド力と、駅から徒歩1分、三方道路で敷地南側が1低層という立地と抜群のプランであることから判断して売れるのは当然と見た。
70㎡台の南向きの間口は約6.8m・7.7m・7.9mで、南東向き、南西向きも約9.3m、9.8mあり、北向き36㎡のコンパクトも6.7mある。
リビング天井高も最近ほとんど見なくなった2,650〜2,750ミリ確保しているのもいい。
南向き71㎡(間口は7.9m)
すてきナイス社長 木暮氏から杉田氏へ交代 平田会長、日暮副会長は辞任 強制捜査受け
すてきナイスグループは5月20日、同日付で代表取締役社長・木暮博雄氏が取締役に退き、新しい代表取締役社長に取締役・杉田理之氏が就任したと発表した。
今年5月16日、証券取引等監視委員会の強制調査と横浜地方検察庁による強制捜査を受けたのに伴い、今後の取締役会の意思決定等をスムーズに行うためとしている。
また、代表取締役会長兼CEO・平田恒一郎氏は代表取締役および取締役、子会社ナイスの代表取締役および取締役を、代表取締役副会長・日暮清氏は代表取締役および取締役、ナイス取締役をそれぞれ辞任した。
杉田氏は1958年2月14日生まれ。1983年4月、同社入社。2011年6月、ナイス取締役常務執行役員資材事業本部長、2018年6月、ナイス代表取締役社長、2019年5月、すてきナイスグループ代表取締役社長兼ナイス代表取締役社長(現任)。
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非常に残念だ。記者は、平田氏がアメリカ留学から帰られたころから取材しており、RBA野球に参加されていること(小暮氏は選手、監督として出場経験あり)、さらに同社が森林・林業の再生、木材の普及に力を入れていることなどからずっと応援してきた。
野球選手を通じてアットホームな社風が伝わってきて、とても好きなチームの一つでもある。
強制捜査を受けた日の前日15日、平田氏が理事を務める不動産協会の総会・懇親会があり、平田氏は7~8人の部下を従え精力的に動き回られていた。小暮氏の姿はなかったように思う。
「官民癒着」と原告 「誹謗中傷」と被告応酬 第6回 選手村住民訴訟 口頭弁論
東京都が晴海オリンピック選手村用地を民間事業者に約130億円で売却したのは不当とし、妥当額との差額1,200億円を支払うよう不動産会社11社に請求せよと住民らが小池百合子都知事を訴えた住民訴訟の第6回口頭弁論が5月16日、東京地裁で行われた。
原告の代理弁護士は、桝本行男不動産鑑定士による不動産鑑定書はオリンピックの特殊要因を考慮していないという被告側の批判に応える形で、開発法による鑑定評価でも鑑定価格の9割程度の約1,529億円が「適正な価格」であるとし、デベロッパーに約130億円で売却したのは「官民癒着」であると被告を批判した。
これに対して被告代理弁護士は、原告が今回新たに開発法を採用して鑑定価格を算定したのは従来の主張と矛盾しており、論理が破綻しているとし、何ら証拠を示さず「官民癒着」などと難詰するのは「善意の第三者」であるデベロッパーの名誉を棄損するものと原告を批判した。
次回は9月13日(金)に決まった。
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記者は法廷小説が好きで、スコット・トゥローの「推定無罪」やジョン・グリシャム、バリー・リードなどをよく読んだ。映画でも弁護士の感動的な名演説を何度も観た。
今回の裁判も原告、被告双方の知的で丁々発止の〝ゲーム〟を期待していたのだが、前回同様、期待は裏切られた(民事訴訟はそのようなやり取りはないようだ)。原告が「不正な官民癒着」「官製談合だ」と批判すれば、被告も「名誉棄損」「誹謗中傷だ」と応酬しただけだった。
サッカー場でもボクシング会場でないのも分かるが、52もの傍聴席が満席になるほど多くの〝観客〟がいるのだから、もっと分かりやすい論陣を張っていただきたい。
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以下に、原告側が配布した口頭意見陳述要旨を紹介する。(被告側にもお願いしたのだが断られた)
第1 不動産価格に関する争点について
1 本件不動産価格の争点は、「当該敷地についてのカ価格決定を、取引事例比較法と開発法のいずれの手法によるべきか」という価格決定の手法を巡るものではありません。
本件土地は、東京都の財産ですから、果たしてこれを「適正な価格」で譲渡したといえるかどうかが争点です。
「適正な価格」とは、地方自治法や、東京都価格審議条例では「時価」を基準に判断され、都市再開発法による場合でも、「近傍同種の土地の取引価格」を考慮して定める相当額とするのが原則です(都市再開発法80条)。
2 東京都は甲6号証の調査報告書で、開発法という手法のみで、129億6000万円という金額を決定しており、不動産鑑定基準による鑑定評価は出していません。不動産鑑定基準では、開発法による計算をする場合でも不動産鑑定基準による鑑定価格を示すべきと定めており、東京都はこれに違反しています。東京都は、第3準備書面で、本件敷地は、「不動産価格調査ガイドライン」の取り扱いに関する実務指針を元に、本件が「鑑定評価基準に則ることができない場合」であることを、延々と述べています。
原告は、準備書面(5)では、その点を詳細に反論しました。
3 本件土地の鑑定価格
本件土地についても不動産鑑定基準による鑑定価格の算出は可能です。周辺には取引事例も十分にあり、公示価格も出ている地域です。詳細な鑑定作業の結果、原告は不動産鑑定書(甲68号証)のとおり、1,611億1,800万円と主張しました。
4 原告の「オリンピック要因反映価格」の主張
(1) 原告は「日本不動産研究所に提出した資料リスト」を情報開示して検討し(甲79号証)、「調査報告書」(乙32号証)も検討して、被告の主張するオリンピック要因を反映させたうえで、「適正な価格」を算出しました。
原告も、本件敷地の譲渡契約の時期から、分譲マンションの売却時期までが、長期間に及ぶことについては、被告と同じく開発法で計算しました。また、乙32号証には、建築工事費が高額すぎること、販売価格の想定が相場から見て、低すぎるという問題点があることも指摘しました。
(2) さらに、本件の場合、「開発法によって算定した数字」をそのまま、本件土地の譲渡価格とすることが、根本的な誤りであることを主張しました。
そもそも、開発法によって導き出された土地代金は、契約時に全額支払う(資本投下されている)ことが前提で計算する手法です。
ところが、譲渡契約書(甲12号証)では、特定建築者は、土地価格の10%だけを契約時に保証金として支払い、90%は建物竣工時以降に支払う約定です。
ですから、開発法によって算出された価格をそのまま、本件のケースの土地価格とするのは、資本投下していない代金を、あたかも投下したように計算するというカラクリがあるのです。
(3) そこで、原告は、この支払い方法を価格に反映させて計算する作業を行いました。
その結果の金額は、総額1,529億1,800万円となりました。
すなわち、被告の主張するオリンピック要因を反映させたとしても、鑑定価格の約9割程度が「適正な価格」なのです。
被告の主張する129億6,000万円という鑑定価格の1割以下の価格は、異常な廉価であり、到底「適正な価格」とは言えないことは、明白です。
(以下、略)
◇ ◆ ◇
以前から気になっていたのだが、選手村用地を鑑定評価した日本不動産研究所の「調査報告書」は「鑑定評価報告書」ではない可能性が高いことが分かった。
国土交通省「不動産鑑定評価基準」によると、「鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるものであるから、その作成に当たっては、誤解の生ずる余地を与えないよう留意するとともに、特に鑑定評価額の決定の理由については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない」とある。
東京都が「鑑定評価基準に則ることができない場合」としているのは、「依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない」ことを回避するためなのかという疑問が浮かび上がる。
しかし、そうだとしても、2016年5月1日付で改正された「価格等調査ガイドライン」では、「従来『やむを得ず鑑定評価基準に則ることができない場合』とされていた価格等調査のほとんどが鑑定評価基準に則った鑑定評価で対応可能となるため、『やむを得ず鑑定評価基準に則ることができない価格等調査』の規定を削除」(日本不動産鑑定士協会連合会)としているように、都は都民に対して十分な説明をする義務があるはずだ。
さらにまた、日本不動産鑑定士協会連合会が「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査においても、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示していれば、鑑定法上の鑑定評価業務に当たると考えられます」としているように、「調査報告書」は単に〝聞き置く〟だけも可能な「不動産価格意見書」ではないと理解される。
裁判の行方はどうなるか分からないが、鑑定手法次第では地価公示の10分の1以下の鑑定評価も可能ということが明らかになった。どちらが敗訴しても、不動産鑑定士の鑑定評価が罪に問われることはないと見た。
記者は2008年、「かんぽの宿」が今回の選手村とほとんど同額の126億円と評価され、オリックスに109億円で売却された(その後、鳩山総務相の〝待った〟で契約は解除され、不動産鑑定士も処分された)ことを思い出す。日本不動産鑑定士協会連合会は今年もまた〝クライアント(依頼者)・プレッシャー〟なるアンケート調査を行っている。
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原告が開発法により算出した鑑定価格約1,529億円について。これだと分譲単価は坪300万円を超える可能性が高い。記者は都民が安く買える〝レガシーマンション〟にするためにも特定価格としてもっと低くすべきだと考える。「晴海・正す会」の会報でも「(HARUMI FLAG」は)一般庶民には手が届きそうにありません」とあるではないか。
オリンピック選手村住民訴訟も佳境に 原告、被告双方 相手を「著しく」非難(2019/2/20)
「HARUMI FLAG」の単価予想は坪280万円に下方修正 「著しく利益増」協議回避へ(2019/4/26)
虎ノ門駅直結の再開発 名称「東京虎ノ門グローバルスクエア」に決定 野村不動産
「東京虎ノ門グローバルスクエア」
野村不動産が地権者・参加組合員として事業参画している虎ノ門駅前地区市街地再開発組合は5月15日、「虎ノ門駅前地区第一種市街地再開発事業(国家戦略都市計画建築物等整備事業)」の名称を「東京虎ノ門グローバルスクエア」に決定したと発表した。
事業地は東京メトロ銀座線虎ノ門駅に直結。敷地面積は約2,782㎡、建物は地下3階・地上24階建て延べ床面積約約47,273㎡。主な用途は事務所、店舗、駐車場など。竣工予定は2020年6月末日。
劇的に変化する経済社会に的確に対応 SDGsにも言及 不動産協会・菰田理事長
菰田理事長(ホテル・オークラで)
不動産協会は5月15日、定時総会後の懇親会を開催。菰田正信理事長(三井不動産取締役社長)は次のように挨拶した。
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今月1日に新天皇が即位されて元号が変わり、まさに新たな時代の幕開けとなりました。
新しい令和の時代は、来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックや、2025年の大阪万博といった国家的イベントをはじめとする夢のある様々なプロジェクトが控える中、日本はますます世界からの注目を集め、世界へ開かれた国へと変わっていくのではないかと思われます。
一方、AI・IoT をはじめとするデジタル技術の飛躍的な発達、価値観の多様化、グローバル化の急速な進展等に伴い、これからの経済社会は かつて経験したことのないような速さで劇的に変化し、それとともに不動産を取り巻く環境や都市のあり方も大きく変わっていくものと思われます。
こうした変化や新しいニーズに的確に対応したまちづくりを行うことによって、新たな価値を創造し、持続可能な社会の実現に貢献していくことが、これからの不動産業界にとってますます重要となり、また期待される使命であると考えています。
こうした観点から、人口減少、少子高齢化の進展といった構造的な課題も踏まえ、今年度は次の活動に重点的に取り組んでまいります。
第1に、時代を先取りした魅力的なまちづくりの推進です。まちづくりに求められるものが、都市の国際競争力強化やイノベーションの創出等、新たな役割に変化していることに鑑み、都市の多様性を柔軟に受け入れられる時代に即した開発手法のあり方やまちの魅力・価値向上を担うエリアマネジメントへの支援方策等を検討します。
社会の様々な課題に対応できるよう、ICT 等の新技術の活用も踏まえ、スーパーシティ、スマートシティ推進の動きに積極的に対応するとともに、安全・快適かつユニバーサルなまちづくりのために必要な方策に、官民連携して取り組んでいきます。
第2に、豊かな住生活の実現です。 良好な住宅ストックの形成に向け、性能の不十分なストックの更新を図るために、団地再生をはじめマンション建替のさらなる円滑化の方策等、質の高い新規住宅の供給に必要な取組みを行います。
そうした新規住宅の供給に関する取り組みだけではなく、良好な住宅ストックの質を長期にわたり保ち続けるため、維持保全にかかる既存の政策の総合的な見直しに向けた働きかけを行います。
また、社会の変化や多様化するニーズに対応するべく、住戸の設備や規模の見直し、高齢者向け住宅の拡充、職住近接・二地域居住への対応など、住宅やサービスのあり方を今一度検討し、規制の見直しに取り組んでまいります。
第3に、税制改正に関する取組みです。2020年度税制改正については、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例などの重要な期限切れ項目に加え、経済社会の変化やそれに伴う課題に対応した都市、住宅、環境等の政策推進に関連して必要な税制の検討を行い、税制改正要望をとりまとめます。そのうえで、必要な調査を行い、的確に要望活動を行ってまいります。
そのほか、持続可能な社会の形成を目指すSDGsに掲げられた諸課題を解決するために、まちづくりを通して我々が貢献できることは何かを的確に捉え、活動を進めてまいります。また、環境への取組みを引き続き進めていくとともに、事業環境の整備について、幅広く必要な活動を行っていきたいと考えています。
不動産協会としては、これらの活動を通じ、魅力的なまちづくりや豊かな住生活を実現することで、我が国経済・社会の発展に貢献していきたいと思っております。
来賓の挨拶をする石井国交相
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懇親会では、前会長の木村惠司氏(三菱地所特別顧問)が相談役に、前副理事長の小野寺研一氏(住友不動産取締役副会長)と金指潔氏(東急不動産取締役会長)が相談役にそれぞれ就任したことも報告された。
乾杯の音頭に登壇した木村氏は「70代の副理事長はわたしと金指さん、小野寺さんの3人がいたが、若い人にバドンタッチする。6歳くらい若返る。菰田体制は盤石」などと語った。
新しい副理事長には吉田淳一氏(三菱地所取締役社長)、仁島浩順氏(住友不動産取締役社長)、大隈郁仁氏(東急不動産取締役社長)がそれぞれ就任した。
木村氏(左)と金指氏(小野寺氏は欠席)
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左から三交不動産マンション事業部東京支店部長・盛田哉氏、長谷工コーポレーション常務執行役員・岡田裕氏、長谷工リアルエステート代表取締役社長・平野富士雄氏、長谷工コーポレーション取締役社長・辻範明氏、三交不動産取締役社長・高林学氏
(わが故郷の三交不動産の首都圏マンションが絶好調。売りたくとも売る物件がないとか。盛田さん、わたしだったら週に1回、出来立ての赤福3個を持って辻社長の秘書の方に付け届けをする。いい土地が仕入れられるはず)
左からJR西日本プロパティーズ取締役社長・大久保憲一氏、高林氏、森田氏
(Jプロは首都圏の開発事業に力を入れる。大久保社長、三交不動産と組んでいただきたい。三交不は東急さんにもトヨタさんにもパナソニックさんにも負けない街づくりを行っている。野球は投手を補強すればベスト4が狙える)
三菱地所株高騰 前日の終値より168円高の2,030円
昨日、1,000億円を限度に自社株式を取得すると発表した三菱地所株が高騰している。15日の寄り付きから買い注文が殺到したためか値がつかず、9:12に2,070円の高値で始まった。14:00現在、昨日の終値1,862円から168円高の2,030円で取引されている。三井不動産も32円高、住友不動産は37円高。
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昨日15:00過ぎに記事を書いたとき取引は終了していた。今日はいくらの値を付けるかと注目していたら、いきなり2,070円だ。
昨日も書いたが、小生はマンションの価格予想とRBA野球の勝敗予想は絶対的な自信があるが、株の世界は分からない。しかし、今現在の同社の2,030円は同業他社と比べ相当割り負けしていると思う。2,500円までは黙って買いだ。(米中関係がどうなるかは記者の知ったことではない)
三菱地所1,000億円の自己株式取得へ(2019/5/14)