日本原産の作物は10種類程度 秋草学園短大・中村教授 OSIで〝目からうろこ〟の講話
中村氏(全国中小企業団体中央会 研修室で)
日本原産の作物はフキ、ウド、カキ、クリなどわずか10種類程度-目からうろこのこんな講話を秋草学園短期大学教授・中村陽一氏(61)が2月22日、OSI(沖縄観光産業研究会)第126回研究会で行った。
中村氏は「わたしの専門は植物学」と口火を切り、「キュウリだけで1時間は話せる」などと冗談も飛ばしながらモーウイ(ウリ)、キュウリ、ブロッコリー、キャベツ、ゴボウ、イチゴ、スイカ、カボチャ、ゴーヤ、トウガン、パパイヤ、バナナ、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、サトウキビ、コメ、コムギ、ダイコン、ハクサイ…数えきれないほどの食材の起源や食べ方などをしゃべり続けた。沖縄出身の参加者とは「黒糖地獄」「モクマオウ」などについてやり取りもした。
きっかり1時間。「話は1時間でいいよ。そのあとは泡盛が待っている」と事前にプレッシャーをかけた同研究会前代表・百瀬惠夫氏(明大名誉教授)の注文通りに話した。
記者が驚いたのは、参加者に配布された論考「作物の起源を探る~プロローグ~」(食の科学2001.8 No282)の次の部分だった。
「(日本で)現在栽培されている作物は、400種以上、野菜だけでも150種にのぼり、さらに地方ごとの特産品種を上げればその数は数千にもなるといわれます。実は、世界中を見渡してもこれほど多種の作物を栽培している国は他にありません。
一方それらの作物の中で、日本原産のものは、セリ・ミツバ・フキ・ウド・ワサビ・クリ・カキ・ナシなど10種類程度にすぎません」
中村氏は、東京大学大学院農学系研究科博士課程単位を取得したのち、南極海洋調査や生物資源調査のためアジアを中心に60か国以上を歴訪し、教職の傍ら神職も務めている。
百瀬氏(右)の隣の方は村上水軍ではなく元日本郵船の船長・庄司洸一郎氏
左のお二人は沖縄出身(百瀬先生が口説いているシーンではないはず)
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原産のバナナには種があり、木のような部分は葉っぱであり、トウガンは1個40キロもするものがあり、パイナップルの食べている部分は茎で、ゴーヤはザクロのようにはじける、「泡盛」はひょっとしたら「粟」を原材料に使ったからではないか…まるでクイズ番組のような中村氏の揺さぶり攻撃にあ然、呆然するしかなかった記者は、悔し紛れに一発かました。
「先生!野草にはムラサキシキブとかワスレナグサ、ヒトリシズカ、ハハコグサなどいい名前もあるが、口に出すのもためらわれるオオイヌノフグリ、ヘクソカズラ、ハキダメソウ、ドクダミなどどうしてそんなかわいそうな名前を付けたのか。オオイヌノフグリの花も実も絶対そのような形ではない」と。
中村氏は「うーん、牧野(富太郎)先生か誰かが付けたのは間違いない」としか答えなかった。
中村氏と参加者(お二人から「載せていい」と了解を得ています)
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これは先生もご存じなかった「腰油(コシアブラ)」を紹介する。つい最近だ。あるデベロッパーの役員と広報担当の方々との酒席に出された天ぷらだった。口にしたとたん、だしぬけにえも言えぬ香りが口内に拡がり、痛飲したお陰で眠りに就こうとしていた脳細胞が覚醒させられ、その感動が満腔を満たした。70年近く生きてきて、こんなおいしい山菜を食べたことがないのが悔しかった。
早速翌日調べた。「山菜の女王」と呼ばれていることを知り納得した。4月中旬あたりから出回るそうだ。タラの芽など「目」じゃない。もうすぐフキノトウも食べられるが、フキノトウとはまた全然違う。これを食べずして食通というなかれ。
OSI代表・篠原勲氏(右)と参加者
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OSI(沖縄観光産業研究会)への入会をお勧めします。会費は必要ですが、各界の方から様々な知見が得られ、終わってからの懇親会(会費は5,000円くらいか)では泡盛の古酒が飲み放題。3杯くらい飲めば元が取れます。詳細はOSI事務局・〒105-0013 東京都港区浜松町2814、浜松町TSビル1階、電話03-3431-0888へ。
機能的・情緒的・自己表現価値をどう伝えるか 高崎経済大学講師・権代美重子氏 OSI
「おーお明治」大学の誇り 百瀬恵夫名誉教授の「瑞宝中綬章」受章を祝う会に300名
蠕々然(ぜんぜんぜん)マンション取材もかくあるべし 芥川龍之介「女体」から
忙中閑あり。不動産には全く関係ないが、とても面白い文庫「女体についての八篇晩菊」(中公文庫)を紹介する。タイトルはやや嫌らしいが、中身は非常に面白い。太宰治、岡本かの子、谷崎潤一郎、有吉佐和子、芥川龍之介、森茉莉、林芙美子、石川淳のそれぞれの珠玉の短編に、選者でもある漫画家・安野モヨコ氏が挿絵付きのあとがきを担当している。小説をそのまま転載は出来ないので、著作権フリーの「青空文庫」から芥川龍之介「女体」を引用した。( )内の一部は記者が追加した。
女体 芥川龍之介
楊(よう)某と云う支那人(しな=かつて日本人は中国をそう呼んだ)が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖(ほおづえ)をつきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽(ふけ)っていると、ふと一匹の虱(しらみ)が寝床の縁(ふち)を這(は)っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の光で、虱は小さな背中を銀の粉のように光らせながら、隣に寝ている細君(=奥さん)の肩を目がけて、もずもず這(は)って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきから楊の方へ顔を向けて、安らかな寝息を立てているのである。
楊は、その虱ののろくさい歩みを眺めながら、こんな虫の世界はどんなだろうと思った。自分が二足か三足で行ける所も、虱には一時間もかからなければ、歩けない。しかもその歩きまわる所が、せいぜい寝床の上だけである。自分も虱に生れたら、さぞ退屈だった事であろう。……
そんな事を漫然と考えている中に、楊の意識は次第に朧(おぼろ)げになって来た。勿論夢ではない。そうかと云(い)ってまた、現(うつつ=現実)でもない。ただ、妙に恍惚たる心もちの底へ、沈むともなく沈んで行くのである。それがやがて、はっと眼がさめたような気に帰ったと思うと、いつか楊の魂はあの虱の体へはいって、汗臭い寝床の上を、蠕々然(ぜんぜんぜん=はう様子)として歩いている。楊は余りに事が意外なので、思わず茫然と立ちすくんだ。が、彼を驚かしたのは、独(ひと)りそればかりではない。――
彼の行く手には、一座の高い山(=一対の乳房)があった。それがまた自ら(おのずから=自然な)な円(まる)みを暖く抱いて、眼のとどかない上の方から、眼の先の寝床の上まで、大きな鍾乳石(しょうにゅうせき)のように垂(た)れ下っている。その寝床についている部分は、中に火気を蔵しているかと思うほど、うす赤い柘榴(ざくろ)の実の形を造っているが、そこを除いては、山一円、どこを見ても白くない所はない。その白さがまた、凝脂(きめの細かい肌)のような柔らかみのある、滑(すべらか)な色の白さで、山腹のなだらかなくぼみ(=虱はどこを見ていたのか、どこの部分か小生もわからない)でさえ、丁度雪にさす月の光のような、かすかに青い影を湛(たた)えているだけである。まして光をうけている部分は、融(と)けるような鼈甲色(べっこういろ)の光沢を帯びて、どこの山脈にも見られない、美しい弓なりの曲線(話は別。太宰は老婆を「乳房がしぼんだ茶袋を思わせる」と描き、16、17、あるいは18の女性の「コーヒー茶碗一ぱいになるくらいのゆたかな乳房」と表現している)を、遥な天際(空の果て)に描いている。……
楊は驚嘆の眼を見開いて、この美しい山の姿を眺めた。が、その山が彼の細君の乳の一つだと云う事を知った時に、彼の驚きは果してどれくらいだった事であろう。彼は、愛も憎みも、乃至(ないし=あるいは)また性欲も忘れて、この象牙の山のような、巨大な乳房を見守った。そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い匂(におい)も忘れたのか、いつまでも凝固(こりかた)まったように動かなかった。――楊は、虱になって始めて、細君の肉体の美しさを、如実に観ずる事が出来たのである。
しかし、芸術の士にとって、虱の如く見る可(べ)きものは、独り女体の美しさばかりではない。
(大正六年九月)
「青空文庫」 底本:「芥川龍之介全集2」ちくま文庫、筑摩書房1986(昭和61)年10月28日第1刷発行、1996(平成8)年7月15日第11刷発行、底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月、入力:j.utiyama、校正:earthian、1998年12月28日公開、2004年3月9日修正。
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芥川がこの小説を発表したのは25歳、自殺する10年前のまだ独身のときだった。中国人と虱を主人公にしたのは当時の時代背景もあるのだろうが、その観察力はさすが。
皆さんは虱をご存じか。小生はもちろん蚤はよく知っているが、虱は残念ながら見たことがない。「虱つぶし」の言葉通り、軍服などの縫い合わせの部分をつぶすと真っ赤になったという。
最後の部分「芸術の士にとって、虱の如く見る可(べ)きものは、独り女体の美しさばかりではない」というのはその通りだと思う。生き方もマンションもつきつめれば「美」が全てだ。記者はマンションのマクロ(女体)をミクロ(虱)の視線で観てきた。誰だ!木を見て森を見ずというのは!
日本の父親の育児分担率は5か国で最下位 リンナイ調査
ワーキングママの「育児」に関する自己採点とパートナーの評価
リンナイ提供
日本の父親の育児分担率は5か国で最下位-こんな不名誉な調査結果をリンナイがまとめ発表した。
世界のワーキングママの育児事情を明らかにすべく日本(東京)、ワーキングママが少ない韓国(ソウル)、ナニー文化が浸透しているアメリカ(ニューヨーク)、共働きが主流のドイツ、福祉の充実度で有名な北欧スウェーデンの計5カ国の25~39歳の働きながら育児をする女性計500名を対象に今年1月に実施したもの。
調査によると、自分(母親)の育児の点数は、日本の平均点が5カ国の中でもっとも低いことが判明したほか、育児分担では日本の父親の分担度合が最下位になり、日本で〝ワンオペ育児〟と感じているワーキングママは6割超、毎日育児へ参加している父親がもっとも多い国はスウェーデンが7割以上で、日本はわずか3割しかいないことなどが分かった。また、日本のベビーシッター・保育サービス利用率はどちらも5カ国中最下位だった。
各国のワーキングママに自分(母親)と、パートナー(父親)の育児にそれぞれ点数をつけてもらった結果、自分自身への平均点がもっとも高かったのはスウェーデンの79.5点で、日本は平均点がもっとも低く64.2点。
パートナーへの点数は、もっとも平均点が高かった国はこちらもスウェーデンの71.2点で、日本は3番目の56.1点だった。
これらの結果について、立命館大学産業社会学部教授・筒井淳也氏は、「日本では、育児の分担が女性に偏っているわりには夫の育児の評価が高いが、これは夫に希望する水準がもともと低いから」「スウェーデンやアメリカでは、男性の育児参加は私たちの想像以上に進んでいる。韓国では、低出生率への危機感が強く、政府が両立支援対策を強力に進めており、そのせいか、日本よりも外部サービスの活用が進んでいる」「男性の育児参加も、以前よりは増えているが、まだまだ不足している。育児と仕事の両立は職場の改革、 行政のサービス拡充、男性の意識改革など、総動員で取り組むべき課題であり続けている」と指摘している。
感動!わが鼻腔をスギの香りが満たす 池上線旗の台駅「木になるリニューアル」
「木になるリニューアル」完成予想図
東急池上線旗の台駅に降り立った途端、まだ嗅覚だけは衰えていないどころか、記事にできそうなネタを嗅ぎつける感覚はより研ぎ澄まされており、花粉症とも無縁のわが鼻腔をあの名状しがたい香しいスギの香りが満たした。もうこれだけで、肝心のマンションの取材もうまくいくことを確信した。
早速調べた。これは東急電鉄が2017年11月にニュース・リリースしている「木になるリニューアル」事業の一環で、2016年ウッドデザイン賞、2017年グッドデザイン賞などを受賞した「戸越銀座駅」に続く第2弾。
東京都内の多摩地区で生育、生産される「多摩産材」を使用し、老朽化したホーム屋根を新たな温かみのある木造ホーム屋根として建替えるほか、待合室の改修により快適性の向上を図るプロジェクト。今春には完成する予定だ。
今後の「木になるリニューアル」については検討段階で、具体的に決まっているものはないようだ。
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鉄道各社はいま、駅舎などの改修に木造を多用するケースが目立っている。わが京王線は、建築家隈研吾氏がデザインし、髙尾山薬王院をイメージしたダイナミックな屋根が特徴の「高尾山口駅」が2017年のグッドデザイン賞を受賞している。
また、ご存じのように新駅名が「高輪ゲートウェイ」に決まったJR新駅も隈氏がデザインした。
JR九州もここ数年、上熊本駅、日田駅、六本松駅などで行った6つの木質化事業でウッドデザイン賞を受賞している。
駅舎の木質化は間違いなくその駅・エリアのポテンシャルを引き上げ、マンションの相場形成にも貢献する。
そういえば、東武伊勢崎線は内装が木の車両が1984年(昭和59年)まで走っていた。同社広報で確認できた。復活させれば坪単価400万円近い「北千住」同様、沿線の人気が沸騰するのではないか。この前、東武伊勢崎線のマンション記事を書いたら、そのデベロッパー担当者から「伊勢崎線でなく千代田線にしてほしい。イメージがよくないから」と言われた。記者は伊勢崎線のファンでもある。スカイツリーラインが何だ、これは愛称だ。正式名は伊勢崎線だ。どこが悪い。
トヨタはいくらか知らないし、実用化するかどうかも分からないが、数年前に外装が木の自動車を造ったではないか。
住友林業 「ミャンマー寺子屋応援チーム」校舎建築支援5校目が完成
建て替え後の寺子屋
住友林業は2月19日、「ミャンマー寺子屋応援チーム」校舎建築支援で5校目が完成したと発表した。
2013年から同社が建設の発起人・事務局を務め、毎年1棟ずつ校舎を建築、寄付しているもので、今回、5校目の寺子屋校舎が完成した。
ミャンマーでは公立校の授業料や制服は無料だが、文房具、寄付金などの費用負担があり、経済的な事情や近くに公立校がないなどの理由で学校に通うことができない子どもたちが多く存在するという。そうした子どもたちの教育の受け皿として寺院で僧侶が運営する寺子屋が重要な役割を担っている。
5校目となる寺子屋は、ミャンマー社会の発展に役立ちたいという趣旨に賛同する19社6個人からの寄付により建築された。
建替え前は窮屈な小屋だったのが、鉄筋コンクリート3階建て校舎に生まれ変わり、小学1年生から中学2年生まで約300名の児童、生徒が勉学に勤しんでいる。
オリンピック選手村住民訴訟も佳境に 原告、被告双方 相手を「著しく」非難
閉廷後の原告側の記者会見 左から4人目が淵脇氏(司法記者クラブで)
東京都が晴海オリンピック選手村用地を民間事業者に約130億円で売却したのは不当とし、小池百合子都知事に対し妥当額との差額1,200億円を支払うよう不動産会社11社に請求せよという民事訴訟の第5回審理が2月19日、東京地裁で行われた。
被告側弁護士が、原告側を「全てがありもしないでっち上げ」などと攻撃すれば、原告弁護士・淵脇みどり氏は「被告(小池都知事)は早く火消しをしたいと言わんばかり。われわれはあせって早期に終わらせるつもりはない。傍聴席も満席になり、都民の関心は高まるばかり。都の姿勢を追及していく」と語った。「HARUMI FLAG」の分譲を前にして、こちらのバトルも佳境に入っている。
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都民ら58名による監査請求が棄却されたのを受け、33名が東京地裁に提訴したのが今回の事案。都が売却したとき書いた記事「東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟」は間違っていないと今でも思っているが、その売却価格をめぐって争われている「事件」の顛末を見届けようと傍聴することにした。用意された傍聴席52席は入りきれない人も出るほどの〝盛況〟だった。
原告側でも被告側でも敵でも味方でもないないニュートラルの記者は一瞬たじろいだ。高齢の方が圧倒的に多いのと、ネクタイを締めているのは記者と被告側の弁護士くらいしかいなかったからだ。場違いなところに入り込んでしまったように感じた。国立裁判で一貫して明和地所側についていたときとはまた違った緊張感がある。どちらの側からも胡乱な目で睨め付けられているようでいい気分はしなかった。「愛」のかけらもない相手をやり込める裁判は苦手だ。
◇ ◆ ◇
ここからが肝心な部分。原告側から以下の通り意見陳述書が提出された。やや長いがほぼ全文を紹介する。
1(1)原告らは前回、本件土地の価格について主張する準備書面3を提出し、桝本行男不動産鑑定士による不動産鑑定書を証拠として提出しました。
前回期日、被告は意見陳述で原告提出の不動産鑑定について原告である不動産鑑定士が行っていることについて客観的な独立した第三者である不動産鑑定士でないとして問題にし、手続の中立性を欠くとまで言い、自らは外部委員を含ませた保留床処分委員会に日本不動産研究所の調査結果を審査してもらっていると述べています。
(2)しかし、桝本鑑定士は、原告ではありますが、原告であるから鑑定が客観的でない、正当でないということは言えません。
桝本鑑定士は、長年鑑定士実務に従事した経験があり、法令等に従い、誠実に鑑定を行っています。従って、その鑑定は客観的、正当なものです。
(中略)
(3)なお、被告が価格の正当性の根拠としてあげている保留床等処分委員会における審理は、原告らが今回提出した準備書面4で述べているとおり、正当性の根拠とはなりえません。
なぜなら、同委員会の構成員10名のうち、6名は東京都の都市整備局次長など被告の職員であり、出席委員の過半数が被告東京都の職員でした。さらに委員会の開催時間は1時間で、その間に会長の互選、副会長の指名、定足数の確認、議案の説明がありますから、審議時間は1時間にもみたないものです。さらに、審議内容についても日本不動産研究所の調査報告書に関する説明も詳細、具体的なものであったとは考えられません。さらに、時価公示等は後日事務局で確認とされ、委員会開催の時には明らかにされていませんでした。時価公示等は価格を判断する際に最も重要な資料となりうるものですが、これが委員会の際には資料すら明らかにされていなかったのです。(中略)
このように、保留床等処分委員会の審理を「手続の中立性」や本件土地の価格の正当性の根拠とすることは出来ません。
2(中略)被告の主張によれば、本件は正式な鑑定による価格の判断が出来ない場合であり、価格の唯一の根拠は日本不動産研究所の作成の調査報告書及び今回提出された価格等調査報告書に係る補足意見書ということです。
そうであるならば、その根拠となる調査報告書は早期に黒塗り部分をなくし全面的に明らかにするよう再度求めます。
◇ ◆ ◇
(1)と(2)は不動産鑑定士とは何ぞやという問題だ。原告側の言うとおりであれば、被告はやや勇み足でないか。不動産鑑定士法には「不動産鑑定士は良心に従い、誠実に鑑定評価等を行うとともに、不動産鑑定士の信用を傷つけるような行為をしてならない」(第5条)「故意に、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分」(第40条)」とある。
被告側弁護士の「でっちあげ」発言は、桝本氏の鑑定評価に対してではないようだが、記者が桝本氏なら、名誉棄損で被告側弁護士を訴えるがどうだろう。
だが、しかし、弁護士は白を黒に、黒を白に言いくるめる商売と考えているのと同様、不動産鑑定士もまた依頼者が希望する鑑定を行っているとしか思えない。どっちもどっちだ。
(3)は、保留床等処分委員会の審理のあり方の問題だ。原告の主張する通りだとすれば、問題(注)だと思うが、委員会に都の職員を入れてはいけないという規則はないはずで、手続きに瑕疵はないのではないか。委員を誰にするかも都知事が決めるのだろう。
論議時間も問題にならない。シャンシャンだろうが、喧々囂々の末の結論だろうが、正当な手続きを踏んだ結果であれば問題はないはずだ。よほど重大な証拠をつかめば別だが、原告が手続きの瑕疵を見つけるのはむずかしいのではないか。
(注)「保留床等処分委員会における審査は、学識経験者を中心に客観的な視点や専門的な知見に基づき、算定の前提条件となる投下資本収益率や、分譲事業の長期化に伴う減価率など、詳細な項目・数値について、質疑応答や議論が交わされた」(住民監査請求(その2)監査結果)とある。
◇ ◆ ◇
被告弁護士は、①原告側不動産鑑定士は第三者として具体的説明を行っていない②鑑定報告書などの情報開示は条例に反することなので出来ない③選手村要因の情報…すべてがありもしないでっち上げ④桝本不動産鑑定士は選手村要因を算出できたはずなのにしなかった-などと意見を述べた。
弁護士は「選手村ヨウイン」を何回となく発言した。これが全然理解できなかった。「ヨウ」も「イン」も語尾を下げられたので「用務員」かと思ったが、そんなはずはないと必死で考えているうちに陳述は終わってしまった。
これだけはきちんと確認しようと、弁護士に意味を聞いたら「要因」だった。弁護士先生、発音はしっかりしていただきたい。中国の四音ほどではないが、日本語だって語尾を上げたり下げたりして同音異義語の意味を正確に伝えようとする。「橋と箸と端」「灰と肺」などだ。「要因」は要の語尾を上げて(あるいは平板)発音するのではないか。
公平を図るため、弁護士に読み上げた文書のコピーを頂けないかとお願いした。「検討する」とのことだったので、届いたら紹介する。
◇ ◆ ◇
どう考えても理解できないこともあった。原告側は「(不動産鑑定士が調査した)調査報告書は鑑定評価書ではない」と言っていることだ。
これはあり得ない。仮に報告書が鑑定書でないとすれば、鑑定価格は法律に基づかない、ただの意見に過ぎない。その意見を聞こうが聞くまいが、その判断は保留床等処分委員会=都知事に委ねられることになる。そんなことがありうるのか。
そうであれば、不動産鑑定士は「守秘義務」というアメリカの国境の壁のような強固なガードに守られているわけだから、鑑定の信ぴょう性、公平性は闇の中に葬られてしまう。
◇ ◆ ◇
裁判の構図が面白い。裁判官は女性の方で声は穏やかで美しかった。記者は目も悪いので、顔立ちなどはよくわからず、何を考えているかも全く分からなかった。
原告側弁護士ハ女性が中心で、淵脇氏は饒舌、多弁家だ。記者が「弁護士は黒を白に、白を黒に言いくるめる商売ではないか」と挑発したら、すぐ「異議あり」と返された。「鑑定業界にはクライアントプレッシャーなる業界用語があるが」と聞いたらご存じないようだった。「相手はよく考えている。上手」とつぶやいた。
被告側は全てが男性。10人くらい集まったか。メタボもいたが、屈強なマッチョが目立った。みんな濃紺のスーツで怖い印象も受けた。女性1人くらい加えたらどうか。傍聴人の印象も変わるはず。
「特定建築者募集要領」には、「敷地譲渡契約締結後…特定建築者が応募時に提案した資金計画に比べ著しく収益増となることが明らかとなった場合は、敷地譲渡金額について協議するものとします」とあり、いったい「著しく」とはどの程度か興味があるのだが、双方の弁護士は相手を「著しく」非難した。
一つ言い忘れた。原告側が配布したパンフレットには「晴海オリンピック選手村建設めぐる怪!!」とあった。これは記者の記事とは全く関係がございません。早く「怪」と書いたのは記者のはず。
次回審理は5月16日(木)。争点は、手続きの成否から価格の妥当性に移りそうだ。
東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟(2016/8/4)
怒り心頭 三菱・吉田社長に世界の隈さんに失礼 住宅新報のCLTの記事
今週号の業界紙は待ち遠しかった。14日に発表があった三菱地所の「CLT晴海プロジェクト」だけはきちんと伝えるだろうという確信があったからだ。
ところがどうだ、住宅新報を見てあ然、呆然。見事に期待を裏切ってくれたどころか、扱いは小さく紙面の隅の〝囲み〟に追いやられていた。期待が大きかった分だけ怒りも倍増した。またも批判記事を書かざるをえない。
その記事は3段囲みの扱いで、ページの全スペースの10分の1くらい、紙面トップの「ドレッセWISEたまプラーザ」のエリアマネジメント記事と比較すると5分の1くらいしかない。料理に例えると、小生はもうお腹いっぱいで、カロリーも気になるのでほとんど口にしない最後の水菓子だ。
例えがちょっと過ぎたかもしれないが、こんな失礼なことがどうしてできるのか。これは書いた記者より編集、デスクの責任だ。ニュースの価値判断がまるでできていない。メディア・リテラシーが欠落、欠損している。
エリマネの記事にケチなど付けたくないが、これは旧聞。小生は分譲時の2017年8月に取材し記事にしている。この時は「CASBEE横浜」Sランクに注目し、単価が信じられないほど高いにも関わらず人気になっており、「CO-NIWA」も評価されていると伝えた。
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新報の記事しか読まない読者の方にも知っていただきたいので、「CLT晴海プロジェクト」について少し紹介する。
CLT発表会には、同社の吉田淳一社長、岡山県真庭市の太田昇市長、建築家の隈研吾氏が出席し、それぞれ挨拶・スピーチし、CLTの実物も公開した。いかに力が入ったイベントであったかは出席すればすぐわかる。国会議員の先生4人も応援に駆けつけたほどだ。
言うまでもなく森林林業の活性化、地方創生は喫緊の課題であり国策だ。CLTはその「起爆剤」(隈氏)として期待されている。
小生は木造ファンなので、これはビッグニュースだと判断し、あらかじめ記事を書き、解禁にあわせて12:00にweb記事としてアップした。配布された画像を追加したのは12:30くらいでなかったか。
ニュースは速さが勝負だ。他のメディアはよく分からないが、とにかく第一報では負けなかったはずだ。見出しを「〝美しい〟〝画期的〟隈研吾氏が連発」としたのもその場の雰囲気を伝えられたはずだ。
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とても面白い記事もあった。共同住宅としては唯一環境省のZEH宿泊事業の連携事業者に選定されている積水ハウスの「亀有」に体験宿泊したK記者の体験ルポ記事だ。Kさんとは最近名刺交換したばかりで、新報の記者さんだとは全然知らなかった。
Kさんは築浅の集合住宅(74㎡)に午後5時にチェックインしてから翌日の午前9時のチェックアウトまで、LDK、寝室、居室、玄関などの温度を5回ほど測定。最後に「暖房の効きやすさ、室温の下がりにくさは素晴らしく、1泊2日の体験中に『快適』の言葉を何度も口にした」と締めくくっている。
笑ってしまったのは次のくだりだ。「スーパーから買ってきた食パンを電子レンジでトーストし、ソーセージをIHヒーターで焼き、夕食とした」
食パンが電子レンジでトーストできるのはいまネットで調べて初めて知ったが、トーストとソーセージだけとは…いつもそんな夕食なのかと思うとかわいそうになった。宿泊経費は会社持ちじゃないのか。酒も飲まないのか。元編集長Hさんの居酒屋紹介記事の飲み代は半分くらい会社が負担していると聞いた。えらい差ではないか。
それにしてもKさん、「体験中に『快適』の言葉を何度も口にした」というのはどういうことか。話す相手がいないのに言葉が出るものなのか。小生などは西武が逆転サヨナラ勝ちしても小さくガッツポーズするくらいしかできない。羨ましい。
記事は完ぺきではない。普通のマンションと比べてどうなのかも書いてほしかった。Kさんが住む築30年以上の19㎡のワンルームはおそらく単板ガラスで壁厚も薄い。「快適」などの言葉も隣に筒抜けでないか。そんなレヘルの低いわが家からして宿泊したマンションは「素晴らしく快適」なのは当然ではないか。参考までに。小生のマンションの洗面室は真冬の朝方は13度くらいまで下がる。昔の三重の農家は台所の水がめが凍った。(注)
Kさん、今度は三菱地所ホームの全館空調モデルハウスの体験を申し込むといい。温度を設定すればトイレもロフトもほとんど変わらない。「快適」とはこのような住空間をいう。あっ、ゴメン。ZEHはいいですよ。
(注)積水ハウスの提供資料によると、155㎡の「グリーンファース ゼロ」のモデルプランでは、真冬の深夜、トイレに行くときの温度は主寝室が20.0℃、トイレが15.3℃(旧省エネ基準は9.2℃)で、リビングの温度差は、外気温が-0.5℃のとき、20.0℃~13.9℃と6.1℃の差であるのに対し、旧省エネ基準は20.0℃~6.5℃と13.5℃の差があるとしている。
美しい〟〝画期的〟隈研吾氏が連発 三菱地所「CLT晴海プロジェクト」(2019/2/14)
三菱地所 「中日ビル」建て替えに参画 ロイヤルパークホテルを出店
「中日ビル」完成予想図
三菱地所グループは2月15日、中部日本ビルディングと中日新聞社が計画する名古屋市中区栄の「中部日本ビルディング(中日ビル)」の建て替えをグループでサポートすると発表。三菱地所がプロジェクトマネジメント支援業務を、三菱地所設計がコンストラクションマネジメント業務を手掛け、建て替え後のビルに「ロイヤルパークホテルズ」が出店する。
中部エリアの「ロイヤルパークホテルズ」の出店は、「ザロイヤルパークキャンバス名古屋」(2013年11月開業)に続き2店舗目。中部エリアのフラッグシップホテルとして計画中。宿泊主体型で約250室の予定。
新しいビルは、敷地面積約6,857㎡、延床面積約113,000㎡の事務所、ホテル、商業施設、多目的ホール、駐車場などからなる地上31階地下4階建て。設計・設計監理は竹中工務店。竣工予定は2024年度。
ESGやSDGsに沿った投資環境整備へ 国交省「ESG不動産投資のあり方検討会」初会合
国土交通省は2月14日、「ESG不動産投資のあり方検討会」(座長:中川雅之日本大学経済学部教授)の初会合を開催した。
人口減少・少子高齢化、地球温暖化、防災減災などの我が国の諸課題に対応する不動産形成を進めるとともに、わが国不動産市場へESGやSDGsに沿った中長期的な投資を投資家から呼び込むにはどのような情報開示が必要かなどについて検討するのが目的。
会合は4回程度行い、今年6月ころに中間とりまとめを行う予定。
国産材の利用割合 材積換算で過去最高の45.4% 平成29年度 木住協調査
日本木造住宅産業協会(木住協)は2月12日、第5回「木造軸組工法住宅における国産材利用実態調査報告書」の報告会を行った。平成29年度の住宅供給会社の国産材の利用割合は材積換算で前回の32.3%から45.4%へ増加し、過去最高となった。
調査は、木住協会員を対象に平成18年度から3年毎に行っているもので、報告書はA4判で120ページに上る。
今回、回答があった住宅供給会社は160社(有効回答率35.9%)で供給戸数は62,417戸、プレカット会社は66社(同12.7%)で供給戸数は117,023戸。全国の木造軸組工法住宅戸数に占める割合はそれぞれ15.2%、28.6%。
住宅供給会社の国産材の利用割合は49.9%となり、平成26年度の28.0%から21.9ポイント増加。材積換算では前回の32.3%から45.4%へ増加し、過去最高となった。
樹種別でみると、製材のスギが4.1ポイント、集成材のスギが2.5ポイント、構造用合板のスギが3.1ポイントそれぞれ増加し、全体を引き上げた。
部位別では、通し柱、母屋・棟木の国産材利用割合が大きくなっている。
外国産材は、製材が20.0%から7.6%へ減少した一方で、集成材は38.5%から39.7%へ増加し、樹種ではベイマツが1.2%から7.9%へ増加した。
プレカット会社を対象とした調査では、国産材の利用割合は43.6%で、平成26年度の32.5%から11.1ポイント増加している。
調査結果について、同協会資材・流通委員会主査の東洋大学 理工学部 建築学科教授・浦江真人氏は、「国産材の利用が増加しているとはいえ、使用する理由は『イメージがよい』『補助金が出る』などであるのに対し、使用しない理由として『外国産材に比べて高い』が大きな割合を占めており、楽観はできない」と話した。
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記者は単純に木造・国産材利用率が高まればいいと思っているのだが、気になることもいくつかある。
まず、調査の捕捉率について。全国の木造軸組住宅に占める割合15.2%が高いのか低いのかはさておくとして、平成29年度の軸組工法以外も含む木造分譲住宅着工は全国で135,444戸なのに対し、調査は10,834戸だから8.0%しか捕捉できていない。軸組に限っても10%はないのではないか。捕捉できていない圧倒的多数の住宅がどうなっているのか気になる。調査対象を会員外にも広げたらどうなるのか興味深い。また、注文と建売住宅は似て非なるものだから、これも別けて調査したらどうなるか。
国産材の利用について。利用する理由として調査では「イメージがよい(地球にやさしい…など)」「地産地消の推進」「他の住宅会社との差別化」「品質が良い」「消費者のニーズが高い」などが上位で、「補助金が出る」は平成26年度調査より大きく後退している。これは補助金が出なくなったのか、あるいは他の理由の比重が高くなったためなのか不明。
一方で、国産材を利用しない理由としては、「外国産材に比べて価格が高い」が70%を占めている。この理由もよくわかる。経済原則が貫徹されるのは当たり前だ。
だが、しかし、わが国の森林・林業は危機に瀕している。農山村は営農意欲を失うほど獣害に苦しめられている。森林・林業が死滅したらわが国は立ち行かなくなる。
この窮状を救うには政治の力しかないと考えるが、情けないかな、林野庁の平成31年度の概算予算額3,433億円は防衛予算の6.9%しかない。誰が敵なのか味方なのか、なにも生産しないそんなことより、あるいはまた「安いから」などと目先の利益を優先するより50年、100年先のことを考え、目に見えてやせ衰え死滅しつつある国土を回復させるほうが大事ではないかと思うが…。
浦江氏が作成した「地域別にみた各社の供給住宅数と国産材使用割合の傾向(H23度分)」
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一つ嬉しいニュース。林野庁は先日、平成30年のわが国の木材輸出額は351億円で、前年比7%の増加となり、41年ぶりに350億円を超えたと発表した。
国別では、韓国が32億円(前年比13%減)となっているほかは中国159億円(同9%増)、フィリピン79億円(同8%増)、米国25億円(同32%増)、台湾20億円(同21%増)といずれも増加。
中国向けは主に梱包材や土木用材などに利用される丸太が増加。米国向は、これまで住宅フェンス用材として利用されていた米スギ(ウエスタンレッドシダー)の価格高騰を背景に、代替材として日本のスギ製材の輸出が増加したとしている。