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権代 美重子()
発行:法政大学出版局
四六判 252ページ 並製
価格 2,200+

「百姓や雑兵の携行食から、観劇のお供の幕の内、各地の名産の詰まった駅弁、松花堂や現代のキャラ弁にいたるまで、庶民のエネルギー源であり美意識の表現でもあったお弁当は、どんな歴史を歩んできたのか。だれもが愛する独特の文化を、器や食の作法の伝統にも注目しながら語り下ろした初の書。オールカラー」(帯より)

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〝目から鱗〟とはこのことを指す。小生も「弁当」は後述するように作ったことがあり、取材先や旅行、野球観戦などで「松花堂」をよく食べるのだが、その歴史や文化など考えたこともない。

読者の方も同じではないか。いわゆる料理本ではないから、全252ページの本著には難しい言葉もたくさん出てくる。店頭で手に取りパラパラとめくっただけで投げ出したくもなる。

筆者はそんなことはお見通しなのだろう。「お弁当は文化論的・文化史的な研究文献が極めて少ない」(あとがき)とし、「身近なだけに実用重視になり、その魅力について見過ごしてしまってはいないでしょうか」と現状を分析し、だからこそ「庶民の食文化に光を当ててみたい」と執筆の意図を明かしている。

その極めて少ない文献を吟味し、「『お弁当』の歴史を縦糸に、人々の知恵や工夫を横糸にして織りなされてくる『庶民の食の文化模様』」(はじめに)の世界を描き切った。

「庶民の食文化の魅力が見過ごされない」よう文体やデザインにも多くの工夫が凝らされている。読みだすと止まらないのだ。

まず、文体。「ですます」調でぐいぐいと読み手をリードする。小説の手法でよく使われる〝語り〟に近い。小生の好きな作家でもあるカズオ・イシグロ、ロバート・ゴダード、宮尾登美子の小説を読むようだ。とても読みやすい。

そして、また、小生の好きな作家のひとり、井上ひさしが語ったように、「難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを面白く」書く配慮を忘れない。

例えば「弁当」。弁当の語源は、農作業に向かうとき「メンパ」と呼ばれる容器に麦飯や梅干を詰め、それを「しょいかご」に入れて持って行ったことに由来すると紹介し、十七世紀に編纂された「日葡辞書」には「Bento(ベンタゥ)の記述があり、「充足、豊富」という意味が込められていることを明らかにする。「ご飯をよそう」は「装う」意味があるともいう。なるほど深い。

難しい古文書をそのまま引用するようなことはしない。著作の巻末には140近い参考文献資料が紹介され、文中には5060人の歴史的人物が登場するが、一つひとつ丁寧に注釈を加えている。図版やコラムもたくさん挿入し、小生などの貧しい読解力を補ってくれる。

なぜ、そのような読者を飽きさせず、痒いところに手が届く工夫がこらせるのか考えてみた。著者は日本航空の国際線客室乗務員を務めたことがあるとプロフィールある。ホスピタリティ溢れる言葉が紡げるのは、この客室乗務員の経験と無関係ではないと結論付けたのだかどうだろう。

中身について一つひとつ紹介する余裕はないが、農作業、木挽き、漁業に欠かせない弁当の実用的で理にかなった工夫や、戦国時代の雑兵の携行食「打飼袋」「芋茎縄」について触れた第一章、弁当2千人前・弁当長持15棹という江戸時代特有の師匠の花見における豪華絢爛な「花見弁当」を取り上げた第二章、「松花堂」の考案者・湯木貞一が茶道の精神を取り込み、「おもてなしの料理」へ昇華させたことを詳述した第五章、今日の料理人の心構えの基礎となって道元の「典座教訓」「赴粥飯法」などを紹介した第六章などがとくに面白い。

この本のいいところはまだある。重箱弁当を食べるようにどの章から読んでもいいように組み立てられている。手元に置いて二度、三度読みたくなるはずだ。

読んだ後は、「弁当」を食べる人はまったく別の味わい方を覚え、作る人は一段と心を込めることになること請け合いだ。

本音を明かせば、〝読まなければよかった〟と後悔したことが一つだけある。著者とは数年前、OSI(沖縄観光産業研究会)の勉強会で知己を得て、「和食文化」と「ファッション」の講話を拝聴した。小生より少なくとも1周りは年下だろうと思っていたが、著者プロフィールで年齢が〝暴露〟されている。小生とほとんど同じなのに驚愕した。なにも正直に書かなくともいいのでは…。 

「上げ底」はより美しく見せる弁当のテクニックではないですか、権代さん!

著者プロフィール 1950年生まれ。大阪府出身。日本女子大学卒業、立教大学大学院修了。日本航空㈱国際線客室乗務員・文化事業部講師を経て、ヒューマン・エデュケーション・サービス設立。1997年より(財)日本交通公社嘱託講師、国土交通省・観光庁・自治体の観光振興アドバイザーや委員を務める。2009年より横浜商科大学、文教大学、高崎経済大学の兼任講師(ホスピタリティ論、アーバンツーリズム、ライカビリティの心理と実践、他)。著書:『新現代観光総論』(共著、学文社、2019

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小生も40代の半ば、女房が死んだために約10年間、主夫を務め、小学生の息子2人を育てた。

食事だけはしっかり作ろうと、料理本を頼りに和食、中華、イタリアンは一通り作れるようになった。時間がないので途中でやめたが、昆布と鰹節で出汁をとり、鶏ガラでスープを取った。得意なのはカレーライスやラーメン、親子丼、チンジャオロース、八宝菜、回鍋肉、お好み焼き、リゾットなどだった。

給食のないときは、子どもに恥ずかしい思いをさせたくなかったので、前夜から弁当づくりに精を出した。

「キャラ弁」は作れなかったが、十八番は「松花堂」「幕ノ内」だった。「料理の五色」-つまり「野菜の緑、卵焼きの黄色、にんじんの赤、ご飯の白、豆やゴマの黒」(146ページ)などを必ず盛り込んだ。

フキの煮物、干し椎茸の含め煮、高野豆腐、身欠きにしんなど普通の主婦が作らないものも意識して盛り込んだ。イワシの煮物は骨まで食べられるよう圧力なべで煮た。手間暇がかかる空揚げ、肉団子などはスーパーで買ったものをそのまま入れた。タッパーに果物を入れることも忘れなかった。子どもが残したことは一度もなかった。

そんなに力を入れたのに子育てに失敗した。〝愛〟が欠如していた。母親のようにハグしなかったからだと気が付いたときは遅かった。

カテゴリ: 2020年度

大和ハウス工業は57日、政府から発表された「緊急事態宣言」の延長および「基本的対処方針」の変更を受け、「特定警戒都道府県」に指定されている13都道府県以外の39事業所について、マスク着用の徹底など感染防止措置を実施したうえで59日から業務を再開すると発表した。

 

カテゴリ: 2020年度

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 厚生労働省のデータをもとに、55日現在の新型コロナウイルス感染者数と人口10万人当たり罹患率を都道府県別にまとめた。データの取り方がそれぞれ若干異なるので正確な数値でないことを断っておく。

感染者の数がもっとも多いのは東京都で、全体の31.1%を占めている。以下、大阪府、神奈川県、埼玉県、北海道、千葉県、兵庫県、福岡県、愛知県の順。

感染者が少ないのは、岩手県のゼロを筆頭に鳥取県、徳島県、鹿児島県、秋田県、長崎県、宮崎県、岡山県、島根県、青森県の順。

413日比では約4.4倍の富山県がもっとも多く、3.5倍の佐賀県、3.3倍の北海道、3倍の島根県と鳥取県、2.8倍の広島県、2.6倍の三重県が続く。

罹患率では33.9人の東京都がもっとも高く、以下、石川県、富山県、大阪府、北海道、福井県、千葉県、京都府、福岡県、兵庫県の順。

もっとみも低いのはゼロの岩手県をはじめ、鳥取県、鹿児島県、徳島県、岡山県、長崎県、宮崎県、秋田県、静岡県、青森県の順。

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シャガ

カテゴリ: 2020年度

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 東京都は5月6日、新型コロナウイルス感染者が新たに38人判明し、うち12人(31.6%)が感染経路不明・調査中と発表した。

 感染者数は4日連続して100人を切り、4月27日の39人に次ぐ水準になった。感染経路不明・調査中の比率もこの10日間で5割を切る日が6日となった。70代以上の感染者は18人で、47.4%の高い水準にある。

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 これまで新型コロナウイルスPCR検査の「相談・受診の目安」とされてきた「37.5度以上の発熱が4日以上続いた場合」が見直され、「息苦しさや強いだるさがあればすぐ」に改められるようだ。

 当然の変更だと思う。従来の厚労省の目安は「China CDCによると、2月11日までに中国でコロナウイルス感染症と診断された44000人のデータによると、息苦しい(呼吸困難)などの症状や血中の酸素濃度の低下などを認めない軽症例が80%以上と多くを占めており、呼吸困難が生じる重症や呼吸不全に至る重篤例は20%未満に過ぎないと報告されています」(同省ホームページ)とあるように、新型コロナを甘く見ていたような気がする。

 以前にも書いたが、小生などは37.0度を超えると動けなくなる。37.5度が4日以上続いても自宅で安静することなど全く考えられない。

 しかし、息子の経験からして、子どもは37.5度くらいでは普段と変わりなく動き回る。「寝てろ」と声をかけても全然聞かなかった。

 どんな病気でも「早期発見・早期診断」ではなかったか。ましてや人に移す厄介な病気だ。厚労省は医療崩壊を恐れるあまり、「8割は軽症」のデータを頼りすぎたのではないか。一度決めたことはどんなことがあっても改めない官僚体制は〝健在〟のようだ。

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年代別罹患率グラフ.png

 別表は、東京都の53日現在の新型コロナウイルス感染者4,568人の人口10万人当たり罹患者(率)を年代別・男女別にみたものだ。

都全体の罹患率は32.8人で、年代別では90代以上の72.7人がもっとも高く、20代の46.9人、30代の42.1人の順。罹患率が低いのは10歳未満の6.0人で、10代の6.6人が続く。

罹患率を男女別にみると、90代以上の女性の73.6人と90代以上の男性70.1人が突出しており、次に高いのは20代の女性の48.6人。以下、2080代の男性が40人台で続き、女性は90代以上と20代を除き2030人台となっている。

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 新型コロナが人種、性別、年代、貧富、美醜を問わず〝平等〟に襲い掛かるとすれば、このデータはある意味ではわが国の社会のありようを映し出している。

 根拠が示せないのでいい加減なことは言えないが、90代以上の感染率が高いのは明らかに自己治癒力・再生力が衰えているからと読める。基礎疾患を抱えている人の重症化率・死亡率が高いのもそのためだ。

 一方で、10歳未満、10代の罹患率が極端に低いのはいま一つ理由が分からない。「3密」「8割削減」効果かもしれないが、子どもだって父母、兄弟姉妹、祖父母、友人らとの密接接触は多いはずだ。PCR検査が少ないためか、それとも無症状のまま治癒するケースが多いためか。都の情報開示が少なすぎるのでよく分からない。

 20代の女性の罹患率がなぜ高いのかは容易に理解できる。これも確たる証拠はないが、小池都知事が「3密」の典型例として繁華街の飲食店、バーなどの接客業を真っ先に指摘した。そのことと関連があるはずだ。

 もう一つ、注目したいのは10代の男性の罹患率が4.9人なのに対して10代の女性は8.3人と上回っている点だ。10代といっても小学生から大学生・社会人まで幅は広い。女性の罹患率が高いのは前述した接客業と何らかの関連がありそうだ。

 働き盛りの男性の罹患率が高いのは説明するまでもない。〝働きバチ〟そのものだ。コロナ禍でも強か(しなやか)でたくましい女性像が浮かび上がる。平塚らいてうの「元始女性は太陽であった」の名言を思い出した。コロナ後は、女性があらゆる面で主導権を握るような気がしてならない。

 

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東京都が公表した5月2日の死亡者リスト

新型コロナウイルスに斃れた犠牲者の方々には心からご冥福をお祈りいたします。ご遺族・ご家族の方々にはお悔やみもうします。同時に、われわれはこれでいいのか社会に問いたい。この記事は、すべての犠牲者とご遺族・ご家族への弔意でもあり、暗黒社会そのもののいまの社会に対する怒りの表明だ。

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東京都は昨日(52日)、新型コロナウイルス感染症による死亡者が15人確認されたと別紙の通り発表した。

別紙はA4のペラ紙1枚に死亡者の番号、性別、居住地、診断日、死亡日が記載されている。

ところが、死亡者15人のうち各欄が全て記載されている人は5人しかなく、8人は診断日と死亡日は空欄で、残りの2人は死亡者番号しかない。全て空欄だ。

記者はこのペラ紙に愕然とした。いつ感染したのかもいつ死んだのかも、男か女か、年齢も明らかにされずただ番号だけ振られて死んだ人の尊厳はどうなるのか。人の命が軽んじられていないか。

その理由は聞かなくたって分かる。都は、(データを公表していない理由として「感染による偏見を恐れる遺族もいて理解を得るのが難しい。近所にも伏せていたいのに、公表されてしまうと推測されるのではないかといった心配もある」(53日付朝日新聞)と話しているように、故人や遺族・家族のプライバシー、個人情報に配慮してのことだろうと推測される。

しかし、これは明らかに間違いだ。人の命にかかわる問題だ。どのような法に照らし合わせて、このような人を人として扱わない非情なことができるのか。きちんと説明していただきたい。感染を隠ぺいしようという雰囲気を政治が醸し出しているように思えてならない。

病院に行く途中で倒れて路上で亡くなった事例も報告されている。早期診断、治療を施していれば救われた命かもしれない。情報の非開示は、人の命をないがしろにする姿勢が透けて見える。

この現実は、例えが適当ではないかもしれないが、収容者番号だけ付けられてガス室に送り込まれ闇に葬られたアウシュヴィッツとどこかつながりはしないか。

怖いのは、こうした非常識・無情を許容するわれわれ市民がいるということだ。まるで〝犯人捜し〟をするように、感染者を明らかにするよう集落ぐるみで自治体に迫るところもあることが報じられたし、あろうことか、患者が発生した家に石を投げ、落書きをする人がいたとも聞く。

これはもう完全なファシズムだ。あのヒロシマ・ナガサキ、オキナワも、東日本大震災も犠牲者を徹底して探し出し記録に留め、慰霊碑に名を刻んでいるではないか。その真逆のことがわが国でいま蔓延している。コロナ以上に怖い。

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 同じように考える専門家の方もいるようだ。一人は、三重県出身で元厚生労働相の医師・坂口力氏だ。

坂口氏は、新型コロナの感染が広がる状況について417日付朝日新聞の取材に次のように語っている。

 「新型コロナと、慢性疾患のハンセン病は病気としての性質は異なりますが、今起こっている差別的な状況やその原因は基本的に同根だと思います。

 ハンセン病については、国が『この病気にかかった人は隔離しなくてはいけない』という間違ったメッセージを社会に送り、あれほど大きな人権問題に発展しました。人々は正しい知識を伝えられていないため、『遺伝する』『感染しやすい』などと考えました。患者だけでなく、その家族も何世代にわたって冷たい目で見られ続けました。

 新型コロナに感染しても多くの人は症状が治まり、もとの生活に戻ります。『病気そのものに対して排除の動きをとってはいけない』というメッセージを政府が送り、国民も認識しなければなりません。

新型コロナの感染者に関する国のデータを見ても、症状がある人の多くは軽症で、重症化しても回復している人が少なくありません。国は、病気の特徴を踏まえて「克服すれば正常になり、後に何も残るものではない」ということも伝えてほしい。今は、自分たちがやろうとしている政策の説明に全力をあげている印象を受けます。

 差別や偏見をうまないためにも病状についての説明が大事だと思います。自治体のトップも『不要不急の外出自粛』などを訴えるだけでなく、丁寧に説明する必要があると思います。

 差別や偏見が起こりつつある事態には注意する必要があります。だれもが感染者になり得ることを忘れてはなりません。どんな立場になっても互いが手をさしのべる。『あたたかい社会』をつくるため、苦しんでいる人を現在と今後の社会でどう支えるかを考えることが大切です」

 もう一人は、著書「ファシズムの教室」「愛と欲望のナチズム」などで知られる甲南大学・田野大輔教授だ。

 田野氏はやはり52日付朝日新聞記者の「新型コロナウイルスの感染者が発生した大学に脅迫電話をかけたり、県外ナンバーの車に傷をつけたりする『コロナ自警団』のような人が現われています。なぜだと思いますか」という問いに対して次のように語っている。

 「私は、権威への服従と異端者の排除を通じた共同体形成の仕組みのことをファシズムと呼んでいます。こうした『自警団』的な行動は、今回の『コロナ禍』のように、社会に大きな不安が生じたときに生じやすい。公的な対策が不十分な中で、多くの人が自己防衛の必要にかられ、他人に過度の同調を要求するようになります。政府が『自粛』要請という形で、個々人に辛抱を強いることで問題を解決しようとしていたことが、結果的に人々の不安を増大させ、異端者への激しい非難を引き起こしたともいえるでしょう」

 「(ドイツでは)当初、一部でアジア人への差別的な言動が生じましたが、感染が拡大してからは、そうした動きはありませんね。早い段階で、政府が外出制限・休業補償などの対策を打ち出し、国民の支持を得たからでしょう。テレビや新聞の報道でも、感染を個人的な問題ととらえる視点が全くありません。個々人に責任を押し付けようとする日本とは対照的です。

 日本では、政府が『自粛』要請というあいまいな対策で危機をやり過ごそうとしたために、多くの人々の間で不安が高まっていますが、それが異端者をたたこうとする言動につながっているんだと思います。これを防ぐには、人々の不安を解消できるような明確な対策を打ち出すしかありません」

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オオアマナ(大甘菜)とカタバミの一種

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