港区「景観街づくり賞」受賞 総合地所「ルネ麻布十番ビル」
「ルネ麻布十番ビル」
総合地所は10月11日、ホテルと店舗の複合商業施設「ルネ麻布十番ビル」が「2020年度グッドデザイン賞」受賞に続き、令和3年度港区景観表彰「景観街づくり賞」を受賞したと発表した。
「ルネ麻布十番ビル」は、東京メトロ南北線・都営地下鉄大江戸線麻布十番駅ら徒歩3分、港区麻布十番1丁目に位置する敷地面積740㎡、9階建て延床面積3,365㎡。2019年8月竣工。設計・施工は長谷工コーポレーション。基本設計・デザイン監修はA.A.E.一級建築士事務所。
同社は、麻布十番温泉跡地に建つホテル・店舗の複合商業施設。敷地が面する交差点部は、元麻布から鳥居坂を結ぶ道路と商店街が交わる地域一帯の重要な都市ノード(結節点)として地元の憩いの場所でもあった 地に、活力溢れる商店街の界隈性と地域のランドマーク性を兼ね備えた公共性の高い空間をデザインしました。地域特性を読み解きながら、敷地に接する交差点部を広場のようなオープン空間として創出したとしている。
港区「景観街づくり賞」は平成23年度に創設されたもので、審査委員は次のように評価している。
「暗闇坂に続く通りと麻布十番通りとの交差部に隣接させた低層部の扱い方が、この街への対応として秀逸である。この低層部をテナントスペースとして街に開き、屋上部はテラスラウンジとしてホテル2階のレストランと連絡させている。このテラスラウンジは、オアシスのようにこの街に新たな眺望点と居場所を創出した。テラスラウンジのスラブ線をホテル1階の軒線と意匠的に一貫させているのも小気味良い」
「港区に長く住んでいると、商店街から店舗が消え、賑わいが失われていく様子を幾度となく目の当たりにする。航空写真で見ると建てづまった印象もあるが、グランドレベルからはそれを全く感じさせない清々しさがある。敷地の可能性と建物のデザインが調和し、相乗効果により街の魅力を高めている」
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このホテルは記者も見学している。「素晴らしい」と書いた。「グッドデザイン賞」「景観街づくり賞」を受賞するのもよく分かる。
「心理的瑕疵」「嫌悪施設」とは何か 釈然としない国交省「死の告知ガイドライン」
国土交通省は10月8日、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を発表した。これまで人の死に関する案件の判断基準がなく、取引現場の判断が難しいことから、宅建業者が負うべき義務を示したもの。ガイドラインは次のように定めている。
①宅地建物取引業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対し、過去に生じた人の死について、告知書等に記載を求めることで、通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする
②取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよい
③賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよい
④人の死の発生から経過した期間や死因に関わらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある
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厚生労働省の直近のデータによると、不慮の事故死は38 069件、自殺者は21,081人、殺人は950件などとなっており、死に至らなくともこれらの「事故」件数は少なくとも数倍はあるはずだ。
これらのうち、不慮の事故死については、宅建業者が重要事項説明書で一つひとつ告知しなければならないのはさすがに酷だと判断したのだろう。除外したのは当然だ。
今回のガイドラインの根拠とされるのは次の民法の規定だ。
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
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不動産業界用語でもある「心理的瑕疵」は、アットホームによると次のように定義されている。
「心理的瑕疵とされているのは、不動産物件の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらをいう。自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったこと、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどである。
物件の物理的、機能的な瑕疵ではないが、物件の評価に影響することがあるため、知っていながらその事実を説明しない場合には契約不適合責任を問われることがある。もっとも、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はない」
また、不動産流通促進センターは嫌悪施設として、騒音や振動の発生源となる高速道路等の主要道路、飛行場、鉄道、地下軌道、航空基地、大型車両出入りの物流施設等、煤煙や臭気(悪臭)の発生源となる工場、下水道処理場、ごみ焼却場、養豚・養鶏場、火葬場等、危険を感じさせるものとしてガスタンク、ガソリンスタンド、高圧線鉄塔、危険物取扱工場、危険物貯蔵施設、暴力団組事務所等、心理的に忌避されるものとして墓地、刑務所、風俗店、葬儀場等を例示している。(「等」も曲者)
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これらについてコメントする立場にないが、ガイドラインにも「心理的瑕疵」「嫌悪施設」にも釈然としないものを感じる。
われわれ人間は一つ間違えれば、自死、孤独死、あるいは殺人も含め当事者になる可能性もある脆さ、危うさを抱えている動物だ。その意味では、猛禽類より危険な存在だ。
例示されている嫌悪施設は、われわれ危険な動物が生活するために必要なものだし、そこで働く人はいわゆるエッセンシャルワーカーだ。三井不動産常務執行役員ロジスティクス本部長・三木孝行氏は「われわれは街を造っている。もはや嫌悪施設ではない」と言い切ったのを思い出す。
「心理的に忌避されるものとして墓地、刑務所、風俗店、葬儀場等」と「等」があるように、コロナ禍では「夜の街」がやり玉に挙げられた。われわれは平気で差別的な決めつけを行う。
かといって、騒音・CO2を撒き散らす車の製造責任は問われないし(問われているか)、乗る人も嫌悪・忌避されるわけではない(これも最近問題になっているか)。実に勝手な解釈を行う。こういうのをご都合主義という。最近人気の都心マンションの多くは嫌悪施設と隣り合わせの商業系・工業系立地ではないか。
このように、よくよく考えてみると、われわれ人間そのものが嫌悪・忌避される存在であり、「瑕疵」「心理的」「嫌悪施設」の概念もあいまいであることに全て起因するのではないか。釈然としないのはそのためだ。
「瑕疵」はキズ、欠点、落ち度などと同義語で、法律の概念でもあるが、なにをもって瑕疵とするのかは難しい。住宅で言えば「経年美化」(積水ハウス)の言葉や「経年優化」(三井不動産)の造語もあるように、年と共に価値が向上するものがある半面、賃貸借契約で原状回復をめぐってトラブルが絶えないのは「経年劣化」の定め・考え方があいまいだからだ。
「心理的」という語彙もまた難しい。人の心理、あるいは精神は常に揺れ動き不動ではなく歴史や文化、時代と共に絶えず変化する。これと「瑕疵」を結びつけ、法律などで規制(民法には「隠れた瑕疵」はあっても「心理的瑕疵」の文言は一つもないが)するのは極めて危険なことだと思う。
例えば喫煙。チャーチル、マッカーサー、吉田茂、松本清張、石原裕次郎などみんなそうだ。かつて喫煙は〝かっこいい姿〟としてもてはやされた。記者の小さいころは、学校の先生はタバコを吸いながら教壇に立っていた。
いまはどうか。わが多摩市は「あなたをタバコの煙から守ります」などと横断幕を掲げる。吸う前からきちんと高い税金を払っているというのに、われわれ喫煙者はまるで犯罪者扱いだ。狭い喫煙室に押し込まれるたびにアウシュビッツの「ガス室」を連想するのは記者だけではないはずだ。
公園ですら「飲酒・喫煙禁止」「キャッチボールなど禁止」「大声禁止」「楽器演奏禁止」「火気厳禁」「早朝・夜間の静粛」…とあるように、嫌悪施設に転落しかねない要素をはらむ。保育園の設置に反対する住民行動も多い。
マンション管理規約にも最近はバルコニーでの喫煙を含む「火気厳禁」が盛り込まれており、「新聞配達の音がうるさい」「ハイヒールの音がうるさい」「窓を開けるとうるさい」などの苦情例もある。管理規約に「ペット禁止」が盛り込まれている、今では〝瑕疵〟とも取れる物件も少なくないはずだ。
生き死には人間の尊厳にかかわる問題だ。「心」の問題に国が土足で踏み込んでくる。それに迎合する不動産会社・団体もある。何だか窒息しそうな嫌な世の中になってきた。
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国土交通省は「心理的瑕疵」について、次のような判例を示している。
①「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであつて、右目的物が家屋である場合、家屋として通常有すべき『住み心地の良さ』を欠くときもまた、家屋の有体的欠陥の一種としての瑕疵と解するに妨げない。」(大阪高判昭37.6.21)
②「売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、…目的物に物理的欠陥がある場合だけではなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれる」(大阪高判平18.12.19)
③「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観的事情に属しない事由を持って瑕疵といいうるためには、単に買主において右事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず、さらに進んで、それが、通常一般人において右事由があれば『住み心地の良さ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたつものであることを必要とする」(大阪高判昭37.6.21)
これも難しい。いったい「住み心地の良さ」とは何か。一応、国が定めた健康で文化的な住生活を営むための「都市型誘導居住面積」である3人家族で75㎡(未就学の子の世帯は65㎡)、4人家族で95㎡(同85㎡)はあるが、23区内で取得するのは絶望的になっている。それどころか、郊外部でも最近は66㎡(20坪)の3LDKが堂々とまかり通っているのが現状だ。
世界へ 建築業界に新風 青木茂リファイニング×服部夏子アート 「信濃町」見学会
「Forever」
一昨日(10月6日)のことだ。三井不動産と青木茂建築工房の「(仮称)シャトレ信濃町リファイニング工事」の解体見学会の取材を終え帰ろうとしたとき、解体途中の2階の壁面いっぱいに冒頭の映像が映し出された。
一瞬、草間彌生さんの水玉芸術かと思ったが、そうではないこともすぐわかった。油絵が趣味で、多少は美醜を分けることができると自負している記者はこのアートに魅了された。今まで観たこともないものだった。
アートは、主にアメリカで活躍されている世界に一人しかいない布再生アーティスト・服部夏子さん(34)の「Forever」と題した縦横約3.5mの作品だ。
布をお手玉のように丸め、それをキャンパスに縫い合わせて仕上げたもので、布は服部さんのおばあさんが着ていた和服や洋服を用いており、おばあさんが好んだ藤をイメージしたそうだ。作品にはおばあさんに対する服部さんの思いのたけが込められている。完成させるのに半年くらいかけたという。
会場でもらった資料には、服部さんは福岡県北九州市出身で、2006年の18歳のとき、第15回青木繁記念大賞公募展に最年少で入選。2010年、筑波大学芸術専門学群洋画専攻を卒業後渡米。これまでメトリポリタン美術館、ウォール・ストリート・ジャーナル本社ビル、ニューヨーク日本総領事館令和記帳会場などで展示・個展を開いたなどとあり、作品概要には次のようにある。
「『布』という素材は人にとって、最も身近な素材である。この素材によって伝わる人の暖かさや人間味、繊細な感情や自然な美しさなど、布の持つ無限の可能性を追求しながら、作品を制作している。
例えば、亡くなった人の洋服を見ただけで、沢山の思い出が蘇ってくるように、布は、多くの記憶と思い出を留めることが出来る。
制作過程は、まず、お手玉のような布のボールを作り、それぞれを縫い合わせることによって、完成する。どの作品も、布で『包む』という行程が重要である。『包む』という行為には、様々な苦痛や悲しみ、挫折や憎しみ、愛や希望、そして人の暖かさをも包み、肯定的なエネルギーに換えるパワーがあると感じている。そして、この『包む』という行為を、上述したように、私たちにとって一番身近な素材である布で行うことによって、作品は表現されている。
また、記憶を留める衣類も巡りゆく年月の中、やむをえず処分されることがある。しかし、その布を使って作り直し、作品として生まれ変わることで、新しい命が生まれる。
記憶、環境の視点から見てもその布を使いアートを作ることにより、新たな日々の中にその布と共に生きることが出来る。このように身近な布を使って、作品を作ることによって、アートを通じて想い出を共有し、身近に感じることは豊かな生活に繋がる。
上記からも取れるように私の作品は、環境に配慮されたリファイニング建築と通ずるものである」
皆さん、いかがか。これで服部さんと青木氏の接点が分かる。布再生アートもリファイニングも〝世界に一つ〟〝唯一無二〟だ。
これだけではない。「青木繁」は福岡県出身で、28歳にして早逝した明治時代の著名な画家だ。「青木茂」氏は大分県出身で、現場見学会などを開くと大賑わいになる〝売れっ子〟建築家だ。つまり服部さんは「青木繁」「青木茂」「九州出身」とも連なっている。
服部さんは記者の問いに「『青木繁』の賞は、歴代最年少入選だったこともあり、私にとって特別なスタートをきった存在です。10年以上経って、『青木茂』先生との出会いは、自分でも驚きでした。『九州&青木&再生&世界』は確かにその通りですね」と答えた。
建物は来年3月に完成し、「Forever」はエントランスロビーに飾られる。三井不動産が日本橋再生のコンセプトに掲げる「残しながら、蘇らせながら、創っていく」にもぴったりではないか。
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青木茂建築工房の作品は20件くらい見学しただろうか。素人の記者は何度見てもさっぱり分からないのだが、アルファベッドや記号や線でむき出しのコンクリ壁にマーキングしている図はアートに見えなくはない。
だがしかし、今回だけは服部さんの作品にはかなわない。真っ先に紹介したのはそのためだ。
青木氏は「どうして俺の作品が刺身のつまにされるのか」と怒り狂うタイプではないはずだし、むしろその逆で、してやったりとほくそ笑んでいるのではないか。仕掛け人は青木氏に違いない。
リファイニングと布再生アートの融合は、建設業界に新しい風を巻き起こすのではないか。
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以下が、解体見学会で紹介された概要だ。物件は、JR中央線信濃町駅から徒歩7分、新宿区信濃町3丁目の第一種中高層住宅専用地域に位置する敷地面積968㎡のSRC造10階建て・RC造2階建て延べ床面積2,605㎡。建設年は昭和46年。従前用途は賃貸住宅20戸と店舗。リファイニング後は賃貸住宅32戸と店舗1戸。設計は青木茂建築工房。施工は大末建設。竣工予定は2022年3月。サブリースは三井不動産レッツ資産活用部、三井不動産レジデンシャルリース。
施工にあたって、耐震性能を向上させるため構造耐力に影響のない壁を撤去し、建物全体の軽量化を図り、袖壁補強と炭素繊維補強で耐震補強を行っている。工事に際しては高いせん断耐力と剛性を発揮するアンカー「ディスクシアキー」を使用しているのも特徴の一つという。コンクリートの耐久性を確保するために1フロア約300か所、全体で約3,000か所の補強を行っている。
居住性能では、既存のコンクリートスラブ厚120ミリでは遮音性が不足するため、二重床のほか、新開発の施工がしやすいサイレントドロップを天井に使用することで、遮音等級LH60からLH55へワンランク上げる効果が実証されている。建物全体にサイレントドロップを採用するのはわが国初の事例という。
見学会でオーナーのケーズコート代表取締役社長・木村達央氏(72)は、「マンションは父が50年前に建てた。地震時に大丈夫かと調査してもらったら、あらゆるところに×(ぺけ)が付いた。このままでは貸せないと考え建て替えを検討したら5階建てにしかならず、大幅に採算が悪化することが分かった。困り果てていたところで青木先生のセミナーを聴いて、これはいいと工事を決断した。環境にもやさしくいいことづくし。成功事例として広がってほしい」と語った。
リファイニング建築は、耐震性能上問題のない壁や設備を撤去し、建物全体を軽量化し、独自の補強で現行の建基法基準などを満たし、建て替えと比べ約70%のコストで設備、内外装を一新し工期短縮を実現し、新築並みの価値を生み出すのが特徴。これまで100棟以上の調査、計画、設計を行っており、今回の物件は完成時で93棟目となる。三井不動産との連携は6棟目。
今回のプロジェクトでは、三井不動産と東京大学新領域創成科学研究科清家剛教授との共同研究により、建て替えと比べCO2排出量は全体で約72%削減できることが実証されている。
「ディスクシアキー」
サイレントドロップ
説明する青木氏
補修のためのマーキング
建設現場
デザイン一新 藤沢翔陵高/不可解 防衛省補助金 青木茂建築工房リファイニングPJ(2021/4/3)
I'm fine 桜もハナニラも満開 青木茂建築工房「目黒」リファイニング完成(2021/3/22)
築84年 都内に現存する唯一の木造見番建築物見学会 青木茂建築工房が設計監理(2020/12/15)
築51年の礼拝堂⇒診療所 青木茂氏「リファイニング」解体見学会に満席120人超(2020/10/26)
安藤忠雄氏を超えた? 青木茂氏×三井不 「氷川台」リファイニング見学会に200人超(2020/9/16)
美しい公衆トイレ 発信できた 安藤忠雄氏/世界からオファー 日本財団プロジェクト(2020/9/15)
大和ハウス工業「平和台」 同社初の「ZEH-M Ready」 申し込み殺到 早期完売へ(2020/9/15)
三井不動産×青木茂建築工房 リファイニング「初台」で見学会 過去記事も紹介(2019//12/8)
駅4分の1低層 息をのむほど美しいサペリの建具 三菱地所レジ「代々木上原」(2018/12/14)
省エネ対策に感服 三井不動産+青木茂建築工房 「林マンション」リファイニング完成(2018/3/30)
青木茂建築工房×ミサワホーム 「千代田富士見」のリファイニング見学会に450名(2018/3/1)
リファイニング建築の考案者 首都大学東京特任教授・青木茂氏が退官へ 記念講演会(2018/2/13)
ミサワホーム&青木茂建築工房 千代田区富士見のリファイニング建築見学会に250名(2017/11/9)
三井不&青木茂建築工房 築52年の市場性ない共同住宅をリファイニングで再生(2017/10/16)
三井不動産&青木茂建築工房 練馬区のリファイニング見学会に200名(2017/3/27)
築44年の寄宿舎をリファイニング手法で賃貸に一新 見学者100名超 青木茂建築工房(2016/12/21)
建築の魔術師・青木リファイニングの真髄を見た 「竹本邸」完成見学会(2015/11/17)
「リファイニング」に熱い視線60坪の建物見学に250人殺到 青木茂建築工房(2015/3/11)
リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成(2014/3/24)
全てが腑に落ちる 首都大学東京「リーディングプロジェクト最終成果報告会」(20143/19)
再生建築学の設置を 青木茂氏が三井不動産のセミナーで語る(2013/12/10)
千駄ヶ谷のリファイニング建築に見学者300人(2013/11/12)
出来すぎだ!焼杉! 見どころ多い小田急バス×ブルースタジオ「hocco(ホッコ)」
「hocco(ホッコ)」
小田急バスとブルースタジオは10月5日、なりわい賃貸住宅「hocco(ホッコ)」の関係者向け見学会を行った。小田急バスの貸し駐車場を転用した全13戸で、「なりわい」をテーマに、入居者は教室・習い事、趣味の物販などを通じて近隣住民とゆるやかにつながることができる「土間」「軒下」が設置されているのが特徴。〝地域価値の創造〟の視点から見どころの多い住宅・施設だ。
物件は、JR中央線武蔵境駅からバス12分徒歩1分、武蔵野市桜堤2丁目の第一種低層住居専用地域に位置する敷地面積1,525㎡、木造2階建(長屋建て)延べ床面積811㎡の賃貸住宅13戸。専用面積は52.9~58.99㎡。賃料は住宅専用(8戸)が146,000~167,000円、店舗併用(5戸)が166,788~176,610円。敷金、礼金は各1か月。定期建物賃貸借契約2年(店舗は2か月)。事業主は小田急バス。企画・設計監理はブルースタジオ。施工はジェクト。管理はブルースタジオ。
現地は、昭和34年に竣工したUR都市機構(当時日本住宅公団)の賃貸住宅「桜堤団地」(53棟1,829戸)に隣接。小田急バスが経営するハイヤーの営業所だったところ。昭和49年に営業所が閉鎖された後は貸し駐車場になっていた。
建物は、暮らしの「町あい所」をテーマに、自分の趣味や好きなことを街にひらき、「やってみたい」を実現できるなりわい賃貸住宅になっており、全ての住戸が中庭に開かれたモルタル仕上げの「土間」と「軒下」を持っている。
住宅はHEAT20G2相当、UA値0.41を実現。1階のサッシはドイツ製の金物を使った木製サッシで、ドアを閉めるとサッシ上部と下部の隙間が閉じられるよう工夫が凝らされている。その他の窓は樹脂・アルミ複合サッシを採用。構造柱は一辺18センチの燃え代設計。床はナラ材。外壁は耐久性を増すため、スギ材の表面を燃やして炭化させた「焼杉」を多用している。
隣接する武蔵野市立はなもも公園との一体化を図るため、武蔵野市と協議し、事業主が樹木の剪定などを行うことを条件に〝垣根〟(フェンス)を取り払った。地面は芝ではなく、雑草に強いダイカンドラを張っている。
敷地エントランスの折返場内には降車場を新設し、バス機能を拡充させるとともにシェアカーやシェアサイクルを用意。モビリティの拠点としての機能を設けている。
見学会に臨んだ小田急バス開発プロジェクト推進部長 不動産部長・下村友明氏は、「当社は昨年70周年を迎えた。利益を最優先するのではなく、地域に貢献できる、活性化できるものを造りたいという思いを込めて、これまで2度、協働したことがあるブルースタジオさんとともに施設を完成させた。上質な環境性能を備えた賃貸住宅となった。現在は土地を耕し、種をまき、芽が出た段階だが、今後大きな木に育てたい」と語った。
ブルースタジオを代表して大島芳彦氏は、「ここは路線バスの終着点ということからも分かるように、商店街のような多様多種な世代の生活者たちの暮らしのハブ。昔の『なりわい暮し』をテーマにしたのは、店舗・テナントでは無く生活者その者のチャレンジ精神や表現力、潜在力を引き出せば地域の活性化は可能と考えたから」と説明した。
賃料は近隣相場より10~30%高い設定だが、1か月前の募集開始時から70件の反響があり、5件の申し込みが入っているという。
中庭(中央の樹木はアオハダ)
土間
開閉して見せる大島氏
焼杉
◇ ◆ ◇
現地に着いてすぐ、記者の生まれ育った田舎の黒塗りの蔵の外壁が目に飛び込んできた。まさか本物の杉板ではなく安物のサイディングだろうと触ってみた。めり込むほどではないが、やわらかい感触が手に伝わってきた。その途端、指先に黒いしみがついた。建物が完成したばかりだからペンキの痕かと思ったらそうではなかった。本物のスギ材の表面を焼いて張った「焼杉」だと関係者から説明を受けた。もうこれだけで、この住宅のレベルの高さを確信した。
前段を読んでいただければ、その質の高さは分かっていただけるはずだ。ブルースタジオと小田急の共同作品を見学するのは3度目だが、いいコンビだ。
都市公園との一体化を実現した案件では、フージャースコーポレーションのマンション「デュオヒルズつくばセンチュリー」を今年見学した。この種の取り組みが増えることを期待したい。
公園に芝ではなく「ダイカンドラ」を張っていたのにも驚いた。5年前に見学した総合地所の戸建て「ルネテラス船橋」にはこれが敷き詰められていた。これはスグレモノだ。
もう一つ。見学会で白髪のお年寄り(失礼)から声を掛けられた。マスク越しだったこともありまったく記憶になかった(記者だって同じなのにどうしてわかるのか)。宇野健一氏(アトリエU都市・地域空間計画室)だった。
宇野氏と大島氏は交流があるようで、「双葉駅西側地区災害公営住宅等設計業務委託」公募で勝ち残り、最終選考の決勝戦の末、1票差でブルースタジオに敗れたと話した。今回の作品の出来栄えにも「負けた」と感嘆の声を漏らした。
宇野氏のホームページを検索した。「10/12/10 企画提案に協力していた横浜市脱温暖化モデル住宅推進事業コンペで我々のチームが最優秀賞を受賞」とあるではないか。
宇野さん、これって記者が2011年に見学し記事にした「横浜市の『脱温暖化モデル住宅』見学会に22組」のことでしょうか。宇野さん、大島さんと戦うからいけない。抱き込むか、抱き込まれるか。さもなくば逃げるかだ。また取材させてほしい。
まだある。隣接する「はなもも公園」は9年前、三井不動産レジデンシャルの戸建て「ファインコート武蔵野桜堤ブロッサムレジデンス」で見学しているではないか。すっかり忘れていた。大成有楽不動産の「桜堤庭園フェイシア」もいいマンションだ。
それにしても、みんなよくつながっているものだ。現場取材をずっと続けてきたおかげだ。
おっと、肝心なことを言い忘れた。「店舗併用」だ。バブルのとき、UR都市機構は多摩ニュータウンで多目的に利用できるスペース「αルーム」付きマンションを分譲した。その一つ、多摩センターの「プロムナード多摩中央」では、舗道に面した1階部分に「αルーム」を設け、分譲した。10戸くらいあっただろうか。全て即日完売した。当初は画廊や習い事、染め物工房などとして利用されていたが、いまは利用されている気配はほとんどないない。
何が足りなかったか。運営を指導する人が欠けていたからだ。今回はブルースタジオがそれを担当する。手腕が試される。
関連する記事を以下に添付した。
公園との境界線(かつてはフェンスがあったそうだ)
「ダイカンドラ」
現地近く(左の建物は「桜堤庭園フェイシア」か)
街のシンボルになる」来場者 公園との垣根なくしたフージャース「つくば」に感動(2021/4/28)
小田急電鉄・小田急不 小田急多摩線栗平と黒川駅前にコミュニティ拠点(2019/1/26)
素晴らしい! 代々木公園内に特区活用の民設民営「こども園」竣工 ブルースタジオ(2017/9/30)
地域価値再生プロジェクト第一弾「稜文舘」完成 ブルースタジオ・湘南ユーミー(2017/2/22)
ブルースタジオ 小田急電鉄の社宅再生リノベ「ホシノタニ団地」完成(2015/6/26)
ブルースタジオ 築32年の軽量鉄骨アパートを環境共生型へリノベ(2016/2/29)
ブルースタジオ 築85年のシェアハウス 国交省「寄宿舎」に該当せず(2014/5/23)
ブルースタジオ 木のぬくもりが伝わる「青豆ハウス」完成(2014/3/10)
敷地延長の難点を解消したプラン光る 総合地所「ルネテラス船橋」(2016/10/1)
環境・基本性能優れた有楽・平和不「桜堤庭園フェイシア」(2007/5/1)
桜並木に近接 三井の都市型戸建て「武蔵野桜堤」(2008/3/14)
市街化区域編入から44年 稲城・南山の区画整理で分譲開始(2014/9/25)
「ローカル」の大事さ浮き彫り SUUMO「住み続けたい街ランキング」
リクルートの住まい領域の調査研究機関のSUUMO リサーチセンターは10月5日、「2021 住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」のオンライン記者発表会を行い、60ページにわたるレポートを公表した。
「住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県の夜間人口上位800駅、もしくは乗降客数上位800駅のいずれかに該当する駅と2019年以降に新しく開業した駅の合計1,169駅を対象とし、回答のあった306,948人のデータをレポートにまとめている。
「今のお住まいの街に住み続けたいですか? 」という設問に「全くそう思わない」を0点、「とてもそう思う」を100点として5段階で評価、自治体や駅ごとに平均評価点と偏差値を算出。回答者のうち42,947人に街の魅力を35項目で聴取しレポートに反映させているのも特徴だ。
「住み続けたい自治体ランキング」は、武蔵野市が1位で、2位は中央区、3位が文京区。以下4位・目黒区、5位・逗子市、6位・港区、7位・横浜市西区、8位・渋谷区、9位・葉山町、10位・浦安市。
このほか、鎌倉市、藤沢市、茅ヶ崎市、大磯町などの湘南エリアや、横浜市都筑区、印西市、稲城市、多摩市などのニュータウンや東海村、横瀬町(埼玉県)などの町・村も50位以内にランクインしている。
住み続けたい駅ランキングでは、1位・東銀座、9位・馬喰町をはじめ東日本橋、人形町、三越前、水天宮前など中央区の駅が上位にランクインし、鵠沼・江ノ島エリアからは2位・石上、3位・鵠沼、6位・片瀬江ノ島、7位・鵠沼海岸、8位・湘南海岸公園の5駅がトップ10入りした。
調査の結果、①都心ローカル型=都心利便×ローカルな関係性②郊外中核型 =ワンストップ利便+街への関与③郊外ニュータウン型=緑・公園・安心の評価④郊外自然型=自然豊か×ローカルな関係性⑤遠郊外特異型=ここにしかない何か×可能性など、住み続けたい街の型が見えてきたとしている。
◇ ◆ ◇
オンライン記者発表会の取材を申し込んだ段階では、これまでのランキング調査と五十歩百歩だろうと思い、答えは返ってこないのを承知のうえで、皮肉を込めて次のような質問をした。
「この種のランキングは、御社の『住みたい街ランキング』をはじめ、メジャーセブン『住んでみたい街』、アルヒ『本当に住みやすい街大賞』、東洋経済『住みよさランキング』、大東建託『街の住みここち&住みたい街ランキング』、長谷工アーベスト『住みたい街(駅)ランキング』などたくさんあり、正直に言って食傷気味です。(略)
あの商・住混在の複合日影だらけの雑多な『川口』が『本当に住みやすい』街の1位となり、埼玉県でもっとも高齢化率の高い鳩山町が『幸福度』ナンバーワンです。(略)
どこがどのような調査を行おうと勝手でしょうが、根拠が希薄で、商売に結び付けたいという魂胆も見え隠れします。『住み続けたい街』も同じような気がしますが、いかがでしょうか。どのような人がモニターになっているのかも気になります」
これに対し、同社SUUMO リサーチセンター所長・池本洋一氏はモニターについて「30万人の回答をスクリーニングなどしていないし、恣意的にデータに手など加えていない」と語った。
レポートは、中央区や湘南の各駅が上位を占めるなど、これまでの調査のバイアスがかなりかかっているような気もしたが、中身は興味深いものだった。4万人を超える回答者から35項目について追加質問しているのがいいし、何よりも得心したのは、上位にランクされた自治体や街(駅)は「ローカル」がキーワードになっていることを導き出したことだ。街や駅特有の景観、自然条件、文化、祭りなどを通じて居住者の永住意欲を向上させることが大事であることをレポートは報告している。
永住志向については、各自治体は2~3年おきに住民意識調査などで公表しているが、なぜ永住を希望しているか、どうして永住を希望しないのかを聞いていないものもあるし、数値的に処理されるので、どのような人が永住を希望しているか分からないのも難点だ。
今回のレポートはそれを明らかにしている。個人情報の管理、公平性が担保されれば、すべての自治体は同社に調査を委託してもいいのではないか。そうなれば、住民は各自治体を比較検討することが容易になる。大幅な行政コストの削減も図れるし、自治体間の競争を促し、街の魅力度を向上させる取り組みを劇的に変えるかもしれない。
◇ ◆ ◇
いい機会だ。これまで何度も書いてきたことだが、アルヒの「本当に住みやすい街大賞」についてまた書く。
同社は、「住環境、交通の利便性、教育・文化環境、コストパフォーマンス、発展性の5つの基準を設定し、アルヒの膨大なデータをもとに住宅や不動産の専門家が参画する選定委員会による公平な審査のもと『本当に住みやすい街』を選定している」としている。
記者はアヒルと審査委員の方が「当社と選考委員が選んだ住みやすい街」とでもしたら異存は全くない。誰がどこを推奨しようと勝手だからだ。
問題なのは、膨大なデータとは何かを示さず、住民が必ずしも「住みやすい街」と考えているわけではなく、わずか2人の審査委員の判断で選出していることだ。客観的なデータも大事だが、決めるのは住民だ。住民の意向を無視して、お笑い芸人を起用し、面白おかしく発表するのはいかがなものか。ランキング上位に街が突如現れ、また忽然として消え、デベロッパーが分譲中や予定しているところが目立つのも気になる。恣意的なデータの匂いが芬々とするではないか。
2020年、2021年の2年連続でトップとなった川口市が典型的な例だ。市の令和3年市民意識調査結果からは「住みやすい街」であることは全く読み取れない。
例えば「定住志向」。他の自治体の設問は「ずっと住み続けたい」「できれば住み続けたい」「できれば市外へ転居したい」など選択肢の幅を広げているが、川口市は「住み続けたい」と「住み続けたくない」の設問があるのみだ。その結果、「住み続けたい」は85.0%と高い数値を示している。多摩市は選択肢を5つくらい用意している結果、定住志向は78%となっている。設問によって数値が異なってくることを示すいい例だ。
また、他の自治体は住み続けたい、あるいは転出したい理由をそれぞれ聞いているところが多いのに対し、川口市は「市の良いところ・好きなところ」「良くないところ・嫌いなところ」と並列的に並べているのみだ。核心をはぐらかす質問だ。
結果は、「市の良いところ・好きなところ」は都心へのアクセスのよさ、買い物の利便性が圧倒的多数で、「良くないところ・嫌いなところ」では「治安が悪い」(25.7%)「街並みがきたない」(12.0%)「公園などの憩いの場が乏しい」(13.0%)「医療サービスが不十分である」(13.1%)「自然環境が悪い」(6.0%)「子育ての環境が整っていない」(4.6%)など住環境に対する不満が多く寄せられている。
住環境がよくないのは数字で裏付けられている。市の緑被率は埼玉県でワースト3の0.15だし、一人当たり公園面積も県平均の7.2㎡を大幅に下回る3.22㎡だ(多摩市は11.3㎡)。
また、住環境を決定づける用途地域では、住居専用地域は16%しかなく、建ぺい率、容積率、日影規制が緩い商業系や工業系は全用途の3割に達している。特異なのは、駅周辺の商業系エリアを外れるとすく〝なんでも可〟の準工エリアになることだ。これはかつてキューポラの街だったことの名残だが、この特異性こそが高層マンションの林立を招き、マンション同士の〝お見合い〟や複合日影を招く結果になっている。都市計画など何もない。
川口市の特異性はほかにもある。「ローカル」の視点から見ると、市内には全国で3か所しかないオートレース場があり、隣の戸田市には競艇場、浦和には競馬場、大宮には競輪場がある。ギャンブル場が全て揃っている。こんな街は全国どこにもない。ギャンブル好きにはたまらない街ではある。
記者は、リクルートの「住み続けたい街(自治体/駅)ランキング」で川口と記者の好きな街「仙川」はそれぞれ何位か問い合わせてみた。公表しないということだが、上位ではないようだ。アヒルと審査委員の方は仰天するはずだ。とくに審査委員の方には自ら品性・品格を貶めるこの種のイベントには関わらない方がいいと老婆心ながら申し上げる。
三重と福岡 同じ育児時間で幸福度は47位と1位 積水ハウス「男性育休白書」
この前も書いたが、積水ハウスの「イクメン白書2020」の「イクメン力全国ランキング」でわが故郷・三重県は18位と大健闘し、当時の鈴木英敬・三重県知事は「みえの育児男子プロジェクト」を立ち上げ、自治体の首長として初めて「男性育休100%」に賛同し、第一子、第二子とも育児休暇を取得し、2018年度の男性職員の育休取得率は47都道府県でトップの8.1%となったのに、「2021年白書」では何と最下位に転落したのに衝撃を受けた。その理由が知りたくて三重県に問い合わせた。
三重県子ども・福祉部少子化対策課の森田茂樹氏が次のようにコメントした。
「三重県が男性の家事・育児力で47位となったことは大変残念に思います。なかでも、男性自身が感じる家事・育児参加による幸福度の評価が0.49で47位であることに驚いています。
白書によれば、三重県の男性の家事・育児関与度は0.32で35位、家事・育児時間は10.9時間で44位となる一方で、例えば福岡県においては、関与度は0.16で三重県より下位の45位、家事・育児時間も11.6時間で三重県とそれほど変わらない42位であるにもかかわらず、幸福度において福岡県は1.16で1位になっています。
これほど差が出る理由の分析は難しいですが、三重県の男性が家事や子育てを楽しみ、幸福を感じていただけるよう、男性の育児参画における環境づくり等を進めていく必要があると考えています」
さすがというべきか。担当部署の方の見方は鋭い。三重県と福岡県との男性の家事・育児時間はさほど変わらないのに、男性の「幸福度」はトップと最下位だ。
これは深く研究する価値があると思う。そもそも「幸福」とは何か、OECDなどの客観的な指標は信用できるのか、ブータンのような主観的尺度とどう整合させるのか。難しすぎるのでこれ以上書かないが、究極の「幸福」とは、がんじがらめの「国家」の呪縛からどこまで解き放たれるか、「自立」がポイントだと思う。どうだろうか。
不思議なのは三重県と福岡県だけではない。同社の過去3年間の「男性の家事・育児力」全国ランキングの総合スコアを表にした。3年間ともベスト10に入っているのは北から長野県、鳥取県、沖縄県の3県しかなく、ベスト20でも山形県、栃木県、神奈川県、福井県の7県のみだ。3年間とも37位以下のワースト10はどうかというと岐阜県、山口県のみで、ワースト20は青森県、茨城県、愛知県、大阪府、香川県の7府県しかない。
各都道府県とも年度によって乱高下していることが表から分かるのだが、冒頭の三重県のほか、北海道(2020年10位⇒2021年41位)、岩手県(2019年43位⇒2021年5位)、奈良県(2020年46位⇒2021年3位)、佐賀県(2019年36位⇒2020年1位)などがある。
どうしてこのように変動が著しいか。その理由を同社広報は「各項目の1位~47位に47点→1点を足し上げる方法で算出しておりますため、差が出やすい集計方法である点と、この過渡期の環境下での各県同士の相対評価である点を変動要因として考えております」と答えている。
つまり、評価項目は4つあり、それぞれ1位と47位は46点の差がつくので大差が出るということだ。
記者は、このほかにも要因があるような気がする。回答者は祖父母、両親などから父親像、母親像を刷り込まれており、その色眼鏡で自分自身を、そして配偶者を評価する傾向があることと、各都道府県の歴史的文化的風土が影響しているのではないかと考える。
その代表的な例が「家事・育児力」上位の長野県や鳥取県、沖縄県ではないか。長野県は昔から教育県として知られており、時には国の方針に背を向けるなど独自の文化圏を形成している。「男女平等」は徹底して教えられているのではないか。「資本論」はどこの学校図書館にも収蔵されているそうだ。
驚くのは、県歌を知らない県民はいないといわれることだ。記者などは三重県県歌など存在すら知らないし、東京都歌はヤクルトの「東京音頭」だと思っていたほどだ。
島根県もそうだが、鳥取県はどうか。両県ともエビのように反り返って大陸と対峙し、厳しい日本海の自然条件に耐える日本列島の代表格だ。地域や家族同士で支えあわないと生活できない背景があるのではないか。
鳥取県は女性の有業率も全国トップクラスで、25歳から44歳の育児をしている女性の有業率は平成29年調査で全国7位の78.0%に達している。ちなみに1位は高知県の81.2%、以下、島根県80.7%、福井県80.5%、山形県79.9%、秋田県78.7%となっている。
同県は平成26年、「輝く女性活躍強化とっとり会議」を発足(平成29年に「女星活躍とっとり会議」に改称)し、経済団体、労働団体、行政が連携した取り組みを行っている。
沖縄県は、いうまでもなく米軍基地の7割を背負わされており、3K産業(基地、観光、公共事業)に依存をせざるを得ず、あらゆる社会経済指標も全国最低レベルにある。鳥取や島根に似ているといえば似ている。
2021年の白書で1位に輝いたことについて、玉城デニー沖縄県知事は「家事・育児力を決める4つの指標の中でも、男性の『家事・育児時間』が長いという結果については、沖縄県は子どもの数が多いことや、子育てしながら働く女性が多いことから、必然とも言えるかもしれません」とし、幸福度については「私も4人の子どもがおりますが、第3子、第4子が生まれた頃に子育てを分担し、その大変さと楽しさを実感できました」とコメントしている。
一方で「男性の家事・育児力」が全国最低レベルの岐阜県や山口県はどうか。岐阜県は三重県人とよく似た考え方をするはずだが、いま一つ理由は分からない。
山口県もよく分からないのだが、県民性も影響しているような気がする。県の調査では、「男は仕事、女は家庭」という考え方について「賛成」は35.5%に達しており、その理由として「女性が家庭を守った方が、子供の成長などにとって良いと思うから」(60.8%)、「家事・育児・介護と両立しながら、女性が働き続けることは大変だと思うから」(55.4%)などが挙げられている。
仕事と家庭生活・地域活動の両立についても、「両立が望ましい」は55.3%であるが、現状では「両立させている」が25.9%にとどまっている。
総務省の平成26年調査では、共働き世帯は1,077万世帯なのに対し、いわゆる専業主婦世帯は720万世帯で、昭和50年代の構図と逆転しているにも関わらず、家父長制の残滓でもある「男は仕事、女は家庭」という考え方をする山口県人は少なくないということか。安倍晋三氏をはじめ総理大臣経験者は東京都を除けば断トツなのと関連があるのかどうかは不明。隣県の広島県は2020の18位から2021年には46位に転落したが、これも河井夫妻問題と関係があるのかどうか分からない。広島選挙区の岸田文雄氏が総理になったら再浮上するかどうかも興味はあるが…。
◇ ◆ ◇
以下は、積水ハウスのプロパガンダのために書くのではない。数値をみたら、同社の男性社員の「家事・育児力」が図抜けていることが分かる。
〝主夫〟歴10年の記者は昨年8月行われたライフスタイル型モデルハウス「みんなの暮らし7stories」のメディア向け見学会で、同社の男性社員の実践ぶりに驚愕した。記事を引用する。
「子育てファミリーの家 小林さんち。」がもっとも優れていると思った。(略)そして、何よりもよかったのは、住生活研究所課長・木野村昭彦氏(41)の堂に入る説明だった。開口一番『リアルを表現した』の短い言葉で特徴を言い切った。子どもとの接し方を話したのを聞いて学校の先生経験者かと思ったほどだし、洗濯物を取り込み、アイロン掛けする〝主夫〟を演じて見せたのには絶句した。
(略)『うちは完全フルタイムの共働きなので、家事は妻と出来る限り平等に分担していて、私も妻と同様に料理や洗濯も普通にこなします。アイロンに関しては妻はあまりせず、主に私が担当しています』と話した」
いったい、どのような「家事・育児」をしているのか。同社の「白書」では、女性が認めるめ男性の家事・育児実践個数を28項目示している。すべてが知りたくて同社に問い合わせた。回答は次の通り。①食事作り(朝)②食事作り(昼)③食事作り(夜)④食事後の片付け・洗い物⑤部屋の掃除⑥水回りの掃除(トイレ・お風呂・キッチンなど)⑦玄関やベランダなどの掃除⑧ゴミ出し⑨植物の水やり⑩洗濯⑪アイロン⑫衣類のクリーニング出し⑬食料品・生活用品の買い物⑭家計・資産(住宅ローンや投資など)の管理⑮子どもの入浴⑯子どもの寝かしつけ、起こす⑰子どもの着替え補助⑱子どものおむつ交換、トイレ付き添い⑲子どものミルクや離乳食の世話、食事の介助⑳子どもと遊ぶ(家の中)㉑子どもと遊ぶ(外遊び)㉒子どもに勉強を教える、宿題の採点をする㉓子どもの歯磨き㉔子どもの保育園/幼稚園/学校や習い事への送迎㉕子どもの保育園/幼稚園/学校に行く支度㉖子どもの保育園/幼稚園/学校で必要なものの購入㉗子どもの保育園/幼稚園/学校の保護者会やPTAへの出席㉘子どもが病気の時の看病や病児保育の手配。
未既婚男性読者の皆さん、いかがか。〝主夫〟経験者の記者はほとんど行わなかった⑭㉓とかなり手抜きした⑤以外は全て行った。妻が生きていた時でもおしめのアイロン掛けやミルクを作った。おしめのアイロン掛けはやり出すととても面白い。生乾きがいい。ミルクつくりは大変だった。夜中に起こされると、湯を沸かし粉ミルクを煮沸した哺乳瓶に入れ、人肌まで水道水で冷ます作業はしんどい。
とんでもない大失態もやらかした。妻の実家に帰っていたとき、「見ててね」と言われたのだが、乳児の子どもが寝ていたので近くの喫茶店に行っていた。帰ったらてんやわんやの大騒ぎになっていた。子どもが起き出し、框から20センチくらいあるコンクリの玄関に落ちたことを知らされた。鼻を擦りむいただけで済んだが、落ち方を考えたら背筋が凍った。子どもの頭が悪いのはあの時の落下ではないはずだが…。
家事・育児が「幸福」かそうでないかはモノサシがあいまいなので分からない(設問方法は改めるべき)。ただ、「不幸」であるとすれば、すべてをこなす連れ合いに「不幸」を全て押し付ける権利は男性にはない。これは断言できる。
同社にはこのほかにも質問した。納得できるものもできないものもあったが、同社広報からは次のような回答があった。
「全体の傾向としましては、調査を開始した2019年から比較し、育休取得率や取得日数が全国で向上してきており、男性の家事育児参加に対するポジティブな意識変化が、家庭でも職場でも起きている、まさに過渡期であると考えております。(略)
男性の家事・育児や育休に関して、日本全体で前向きに議論が広がるきっかけになればという思いで、本調査やフォーラムを発表させていただいております。当社としましては、ランキング下位の県を過度にピックアップするのはあまり本意ではありません」
丁寧に回答していただいた同社広報にはお礼いたします。記者だって過度に反応などしたくありませんが、100点満点で落第点の15点と評価されたら三重県の男性も怒ると思いますよ。
〝近江泥棒、伊勢乞食〟と言われる三重県の男性の皆さん頑張れ!三重県の女性は最高に素晴らしいのだから。
従来の総花的提案から脱却 積水ハウス ライフスタイル型モデル「7stories」開設(2020/8/27)
多様な取り組みのトリガーに/三重県 最下位に転落 男性育休フォーラム2021(2021/9/17)
幸福度トップ自治体は鳩山町 根拠希薄・無神経な大東建託ランキングやめるべき(2021/9/8)
不快な臭い芬々 〝住みやすい〟街ランキング調査 無聊をかこつ記者のつぶやき(2020/12/14)
積水ハウス 「イクメンフォーラム2020」視聴 三重県の男性職員 育休取得率日本一(2020/9/20)
積水ハ イクメン白書2020全国ランク 九州男児が上位独占 かかあ天下群馬は最下位(2020/9/19)
三菱地所など5社 ホテルグランドパレス跡地活用で基本協定締結
ホテルグランドパレス、三菱地所、三菱地所レジデンス、阪急阪神不動産、東宝は9月30日、今年6月30日に営業終了したホテルグランドパレス跡地の有効活用計画に関する基本協定書を9月22日付で締結したと発表した。
三菱地所、三菱地所レジデンス、阪急阪神不動産、東宝はホテルグランドパレス跡地の一部を取得し、ホテルグランドパレスとともに複合ビルを建設する予定。
計画地は、地下鉄九段下駅から徒歩1分、JR・地下鉄飯田橋駅から徒歩7分。敷地面積は約6,604㎡。
三菱地所 北海道産木材を使用した国内初の高層ハイブリッドホテル「札幌公園」開業
「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」(ルーバーはカラマツ)
三菱地所とグループのロイヤルパークホテルズアンドリゾーツは9月30日、国内初の高層ハイブリッド木造ホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」を10月1日に開業すると発表した。北海道産木材使用した国内初の高層ハイブリッド木造ホテルで、構造材に使用する木材量は国内最大規模となり、ロイヤルパークホテルズの北海道第一号店舗となる。
施設は、地下鉄大通駅すぐそば、JR札幌駅から徒歩約15分、札幌市中央区大通西1丁目に位置するRC造木造(壁:枠組壁工法・床:CLT)地下1階・地上11階建て延べ床面積延床面積約6,157㎡。客室数は134室。客室面積は19.9 ~47.8㎡。付帯施設:CANVAS LOUNGE「KOKAGE」、レストラン「HOKKAIDO CUISINE KAMUY」、CANVAS ROOFTOP「Outdoor Living SAPPORO」など。建築主は三菱地所。設計・監理は三菱地所設計。施工は清水建設。竣工は2021年8月末。
低中層部(1~7階)は木質化を施したRC造、中層部(8階)1層がRC・木造のハイブリッド造、高層部(9~11階)が純木造。構造躯体に使用する木材量は約1,060㎡となり、そのうち8割がトドマツ・カラマツ・タモなどの北海道産木材。構造躯体に使用する木材量は国内最大規模となる。建物全体をRC造とした場合と比べ約1,380tのCO2発生を抑制する。
フロアは3~8階の「ギャラリーフロア」と9~11階の「キャビンフロア」に分かれており、ギャラリーフロアでは北海道にゆかりがあるアートが楽しめ、キャビンフロアは木造の柱梁のない箱状空間を活かした、木に囲まれた山のキャビンで過ごしているかのような客室となっている。全134室の客室は、北海道の木でつくられた家具やスピーカーを配置するなど、利用者に「北海道を体感する」を提供する「エシカル(=倫理的な)」「サステナブル(=持続可能性)」を念頭に、究極の地産地消を目指す。
外観
レストラン
客室
レコードプレイヤーとスピーカー
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木を多用した高層ホテルでは、三井不動産「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」を見学している。施工は清水建設で、素晴らしいホテルだ。
三菱地所はこの日(9月30日)、地元のメディア向け発表会を行い、動画配信も行っている。画像や動画などでは木の肌触り、ぬくもりが伝わってこないのが残念だが、機会があったらこのホテルと建築家・坂茂さんが手がけた紙と木のホテル「ショウナイホテル スイデンテラス」と合わせて泊まりたい。
フォトセッション
さすが三井不動産 わが国初の本物の木造〝杉乃木〟ホテル「神宮外苑」に誕生(2018/11/13)
積水、旭化成、ケイアイスターが受賞/記者にも見る機会を 第15回キッズデザイン賞
第15回「キッズデザイン賞」記者発表・表彰式(六本木ヒルズ アカデミーヒルズ49で)
キッズデザイン協議会は9月29日、子どもの安全・安心と健やかな成長発達に役立つ優れた製品・空間・サービス・活動・研究などを顕彰する「キッズデザイン賞」の第15回受賞作品234点の中から最優秀賞、優秀賞、奨励賞、特別賞など優秀作品36点を発表した。応募総数は409点だった。
住宅・不動産業界からは積水ハウスの次世代室内環境システム「SMART-ECS(スマートイクス)」が経済産業大臣賞優秀賞「子どもたちの安全・安心に貢献するデザイン」(一般部門)に選ばれたほか、同社の「台の森プロジェクト」がキッズデザイン協議会会長賞奨励賞「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」(リテラシー部門)に、ケイアイスター不動産の「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」が同「子どもたちを生み育てやすいデザイン」(個人・家庭部門)に、旭化成ホームズの「子育て家族のコミュニティ創造型集合住宅〝子育て共感賃貸住宅 母力〟」が同「子どもたちを生み育てやすいデザイン」(男女共同参画部門)にそれぞれ選ばれた。
最優秀賞の内閣総理大臣賞は新渡戸文化学園/ VIVITA JAPAN / tokotodesignの「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」が選ばれた。
同賞は、2007年に創設されてから累計応募数は5,785点、受賞数は3,439点となった。
内閣総理大臣賞を受賞した「VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECT」
◇ ◆ ◇
他の記者の方はどうかわからないが、この記者発表・表彰式の取材は結構疲れる。年を取るごとにそう感じる。開始されるのは午前10:30で、終わるのは12:00だ。この間、主催者のあいさつに始まり、経済産業省、内閣府、東京都のあいさつ、益田文和・審査委員長の講評、各賞の発表・賞状授与が行われる。優秀作品は36点だから、あいさつなどを除けば単純計算しても1作品について1.7分しか割かれていない。マスク越しだし、記者はおまけに耳が遠くなったので、よく聞き取れない。各作品がどのようなものかさっぱりわからない。
なので、広報事務局に「私は過去何度が記者発表・表彰式を取材させていただいておりますが、受賞作そのものを当日見ることができるものはともかく、施設などは実際に見ることはできません。優秀賞を発表されてから、表彰式までの期間を利用して、各受賞者の了解の上で、個別取材・見学を可能にしてはいかがでしょうか」とメールした。
記者の気持ちが通じたか、益田審査委員長は総評で次のように興味深いことを話された。
益田氏
「オリンピック・パラリンピックがやっと終わった。(私は嫌で)見なかったんですけど、すごく気になったことがある。何で勝とうとするんだろう、勝つことばっかり報道されて、それにみんな感動しているが、私は、一人が勝つためにいったいどれだけの人が負けているか、負けていることが普通であることを学ばないといけないと思う。常に勝つこと勝つこと、あげくの果てに震災に勝ったとかコロナに勝ったとか、勝っていないですけど、それを言い出す。これは大きな間違いです。
だって、自然災害や感染症は目の前にあったら『逃げろ!』です。真っ先に逃げないといけない。子どもは知っている。われわれは足を引っ張っちゃいけない。
実は、キッズデザイン賞は別に勝ち負けをうんぬんしていない。うちはこんなのやったから凄く売れたとか、市場を席巻したとか、そんな話していない。みなさんのいいアイデアや素晴らしい着想、実践を持ち寄って、お披露目して、みんなで見て感心して、できれば自分たちもやってみようと考えていくプラットホーム、対話の場です。このことがとても素晴らしいし、そういう機会を作ろうと私は常に考えている。
私はサステナブルデザインが専門ですので、SDGsなどを考えるにつけ、キーワードがあることに気が付いた。それは、小さくてローカルで、つまり分散していて、オープンで、コネクトされているということです。これが未来の姿、サステナブルな社会、経済の姿です。キッズデザイン賞もみんなそう、そのような仕掛けがある。(中略)
この賞を通じて新しい未来の社会が見えてきているような気がする。何よりもこのことを多分子供たちは感づいているし、ちゃんと評価していると思う。子どもたちと一緒に未来を創っていくつもりでデザインに取り組んでいきたい」
記者は、益田先生のオリンピック・パラリンピックについて話されたことには賛成しかねる。野球だってゴルフだってテニスだってあらゆるスポーツは同じ条件(この同じ条件というのがとても大事)で力やスピード、技、頭脳を競うから人に感動を与える。スコアなどどうでもよければ、だれも見向きもしないし、競技などなりたたない。アスリートはみんな「自己との闘い」を最優先しているはずだ。
しかし、キッズデザイン賞やSDGsに触れられたのはその通りだと思う。先に書いたように、記者もまた作品に触れ、見学する機会を与えられるべきだ。ただ単に受賞作を記事にするのはメディア・ライターの仕事ではない。来年からは記者発表・表彰式の前に見学取材できる機会を与えていただきたい。
もう一つ、お願いだ。益田先生が仰ったことと少し違うかもしれないが、内閣支持率が30%にも満たない、しかも任期(人気)があと1週間もないのにどうして10もの総理大臣賞やら経産大臣賞などを設けるのか。小生はさっぱり理解できない。総理や大臣が作品を見ていないことくらい子どもだって知っているはずだ。〝うそつきは泥棒の始まり〟だ。嬉しく思わないのではないか。タイトルも長すぎる。
それより、19人の審査委員賞としたほうがはるかにいい。子どもたちにも記憶として残るはずだ。
明後日は、ケイアイスター不動産の「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」を取材させていただくことになっている。旭化成ホームズの「母力」は住宅も素晴らしいが、ゴーゴリの「母」を連想させるネーミングがとてもいい。積水ハウスの「台の森プロジェクト」は仙台なのでちょっと遠いか。
積水ハウス「SMART-ECS(スマートイクス)」
積水ハウス「台の森プロジェクト」
ケイアイスター不動産「おおきいおうちとちいさいおうちがあるおうち」
旭化成ホームズ「母力」
総理大臣賞に福祉型障がい児入所施設「まごころ学園」 第14回キッズデザイン賞(2020/9/30)
ワンストップで子育て支援 積水ハウス「大網白里市子育て交流センター」(2020/10/3)
続・駅前の限界集落 後期高齢者は4人に1人の割合 〝死中に活〟光明見出す声も
廃屋になっている住宅
「限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地」(平成24年7月27日付)の記事を書いてから9年。この街をまた訪ねた。予測した通りの限界集落に突き進んでいるのか、それとも再生へ方向転換しているのか、不安と期待が入り混じる中での取材だった。高齢化人口割合は44%に達し、75歳以上の後期高齢者は4人に1人の割合というデータからは前者だが、「街は一度死んだほうがいい」と死中に活を求める説得力のあるもあり、結論を出すのはまだ先のようだ。
平成24年1月(左)と令和3年1月の団地人口ピラミッド
前回の記事では、2つの団地の合計世帯数は1,464世帯(昭和44年4月比5.4%減)、人口は3,302人(同46.9%減)と書いた。
その後、住居表示の変更が行われており、現在の人口統計データからは従前団地と正確に比較することはできないが、約9割をカバーしていると思われる数値で比較してみた。
これによると、令和3年1月1日現在の団地世帯数は1,539世帯(前回の平成24年1月1日比1.3%減)、人口は2,890人(同14.4%減)、1世帯当たりの人口は1.8人(同0.4ポイント減)となっている。65歳以上の高齢化率は44.0%(同12.1ポイント増)、75歳以上の後期高齢者の割合は25.6%(同12.9ポイント増)と実に4人に1人の割合に達している一方で、15歳未満の年少人口割合は4.3%(同3.8ポイント減)と大幅に減少している。
人口構成や世帯数などから類推すると、昭和44年比では人口は半減し、空き家・空き地・駐車場の比率も関係者の話からして3割くらいに達しており、独り暮らしの高齢者もかなりの人数に上っていると思われる。
これを人口ピラミッドにした。ピラミッド型でも釣り鐘型でも棺桶型でもない逆三角形型だ。平成24年ではまだ希望のふくらみがあった若年層が激減しているのがよくわかる。例えていえば、もはや地中から水を吸いあげる力もなくなった老木か、あるいは少しでもバランスを崩せば横倒しになりそうな耕作放棄地の破れ案山子のようにも見える。
きちんと整地されている空き地
シャッター商店街
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前回取材したときはなかった駅前のスーパーに寄ってみた。入口近くには薬品や化粧品が並んでおり、線香のコーナーもあり、大人用の紙おむつなど介護品も多くのスペースを占めていた。生鮮食品はコンビニに負けそうな品揃いしかなかった。
商店街は前回と同様、シャッター商店街化しており、居酒屋などはコロナの緊急事態宣言下でもあるからか、ほとんどが9月末まで休業するとのビラが貼られていた。広い表通りには街路樹が1本も植わっていない。
街並みは、「3分の1は空き家、空き地、駐車場」と居住者から聞いていた通り、乱杭歯か歯抜けトウモロコシ状態だった。前回取材と少し違ったのは、2015年2月に施行された「空き家対策特別措置法」(空き家法)の影響か、雑草が生い茂ったままの廃屋は少なく、地面がコンクリで固められたり、雑草が刈り取られたりしている空き地・駐車場が増えたように感じられたことだ。役所によると、老朽建築物の除却・建て替えに最大50万円(国が2分の1負担)の補助制度を利用したのは過去3年間で11件とのことだった。
1本の街路樹も植わっていない広い道路
空き家になっているアパート兼用住宅か
「売地」の看板が掛かっている空き家
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団地に隣接する公園のベンチに座ってタバコを吸いながら談笑していた3人の男性に声を掛けた。( )内は記者。
(タバコが値上げになりますが)87歳の男性は「俺、10万円分買った。一番安い『わかば』や『ラーク』など全部で9万7,800円。値上げされると10万5,500円になる。年金生活じゃやっていけない」(…)
続けて、「俺、団地内に4つ(4軒)持っている。昭和50年に1軒買った」(50万円でしょ)「よく知ってるね。そう。そして1年後に隣の一戸建てを100万円で買い、その後10年くらい経ってから900万円で買い増しした。(バブルのころの値段か)そして今から10年前に更地を400万円で買った。4軒のうち3軒は地続きだから60坪。女房? 昨年亡くなった」(お父さん、職業は何だったんですか)「アブラショッコ。17歳からそれ以外の仕事をやったことない」(アブラショッコって何ですか)「車の修理。組合が強かったから稼げた」
70歳の男性は「以前住んでいたところで親父が93歳で死んで、女房は施設に入っているので、8年前からここに引っ越しして一人でアパートに住んでいる。家賃? 3万7,000円。一戸建ては4万5,000円から5万円が相場」
生まれたときから団地の近くに住んでいるという80歳の男性は「みんな人間的にはいい人ばかりだが、どこか病んでいる。俺? とび職だった。全国歩いてた」
そこに、隣町に住んでいるという昭和13年生まれの男性(83)が加わった。「往復2時間、土手を超えて県道に出て田んぼを通って、歌を歌いながら散歩している。歌? 警察予備隊を経験したので軍歌も歌うが、学校唱歌もよく歌う。歌はいいよ。田んぼで大声を出しても誰からも文句言われない。〝勝ってくるぞと…〟〝君の名は…〟〝京都、大原、三千院…〟知ってるか? 」(もちろん)
さらにまた、白い毛の犬を連れた同年代と思われる女性が現れた。驚いたのはその犬だ。何と里芋のように茶色く膨れ上がっ睾丸が股間からはみ出ているではないか。(どうしたんですか)「これ、病気。年齢は16歳。人間なら90歳近い」
3人組は「こうしてここに集まることを日課にしているから、みんなお友達になれる。朝6時半に来るといいよ。オジンオバンが50人くらい集まって体操している」
団地の近くの広い敷地の住宅が多い住宅地に住む30代の女性にも話を聞いた。
「子どもが生まれるのがきっかけで、夫の実家があるここの分譲住宅を買ったのは6年前。土地が30坪ちょっとで価格は1,500万円。買い物は駅前のスーパーを利用しています。団地の商店街はほとんど閉まっているので利用しません。近くできる大型店舗まで歩いて数分。わたし? 普通のパート」と話した。
大型商業施設は駅から約7分の調整区域。実現までずいぶんもめたそうだが、住民の期待は大きいようだ。
股間にぶら下がっている睾丸
大型商業施設の建設現場
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前回取材したときと同じ不動産会社に取材を申し込んだ。社長(47)が気安く応じてくれた。
社長は「10年前? 覚えていないが多分わたしが応じた。これは私の見解ですが」と前置きしたうえで、「このままでは団地再生は無理。寝たきりだと立ち直れない。一度死んだほうがいい。そうすれば、駅近の地の利が生かせる。2つの敷地を一緒にして、ニーズが高い40~50坪の立派な住宅に再生できる。大型商業施設の工事も始まったし、これをきっかけに光明を見いだし、10年後、20年後には団地は生き返っているかもしれない。当社の業績? 10年前と比べれば地価が下がっているので1件当たりの単価は下がっているが、買い増しニーズを取り込めており、件数は1.5倍くらいに増加し、売上高は堅調に推移している。」と語った。
第三者は口が裂けても口にできない「一度死んだほうがいい」は正鵠を射る言葉ではないか。きれいごとでは済まない現実を見続けている当事者だからこそ言える言葉だ。
先ほど、「人口ピラミッドは破れ案山子」と書いたが、そうではなくてバランスを崩しても倒れない「やじろべえ」と訂正する。死中に活とはこのことをいう。
喫茶店に置かれていたアケビとカボス(利用者の庭で採れたそうだ)
空き家の花にはたくさんチョウが集まっていた
花を植えている空き地も結構あった
美しい庭の家もたくさんあった(白とピンクの花は酔芙蓉、下方は江戸萩)
〝見かけないやつだな、お前は誰だ〟(決して怪しい者ではありません)