管理協が総会 「コミュニティ不在なくそう」山根理事長
マンション管理業協会が総会
「コミュニティ不在は災害時の被害を増大させる」山根理事長
山根理事長(写真提供:不動産流通研究所)
マンション管理業協会(理事長:山根弘美・ダイワサービス社長)は5月22日、第34回定時総会を開き、平成24年度事業報告、同収支決算を承認し、新役員などを選任した。副理事長を退任した池田孝氏(前三井不動産住宅サービス会長)、土橋隆彦氏(前東急コミュニティ会長)の後任には小佐野台氏(日本ハウズイング社長)、関敏昭氏(野村リビングサポート社長)を選任した。
総会後の懇親会で挨拶した山根氏は、「様々な枠を超えたチャレンジ精神こそが住生活総合サービス業を目指す業界の価値・評価を高めていく。そのために第一に法令順守。違反件数は減ってはいるが道半ば。さらに強化していく。第二は安心・安全・快適の取り組みだ。マンションの耐震診断の取り組みを一層強化する。コミュニティ形成については今年に入って2度マンション適正化法の改正について国交省に要望活動を行なった。地域コミュニティとマンションコミュニティが連携することがきわめて重要で、われわれ業界も全面的にサポートしていく。活動を担保するためにもマンション標準管理規約の改正をお願いしたい」などと語った。
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山根氏は自らの住むマンションにもついて触れ、マンションコミュニティ形成の難しさ、重要性について訴えた。山根氏は「私の家族は博多ですが、18年間、単身赴任で東京に住んでいます。500戸の大規模超高層マンションに賃貸で住んでいますが、皆さん、表札、メール受けに名前を出している人は何人いると思いますか」と問いかけ、「一人だけです。山根弘美という男だか女だか分からない名前だけです」と笑わせた。
山根氏は、「マンションのセキュリティはどんどん高まっているが、その結果、誰が住んでいるかも分からないコミュニティ不在という皮肉な状況を招いた。コミュニティ不在は災害時の弱者となる高齢者や乳幼児、子どもたちの被害を増大させる。未来の子どもたちのためにもわれわれは何ができるかを考えないといけない」と呼びかけた。
全国590万戸のマンション居住者の安心と安全を守るための業界の活動が益々重要性を増す。命綱の役割を果たすかもしれない。
愛でる緑から関わる緑へ 多摩NT学会が意見交換会
多摩ニュータウン学会 「みどり」について意見交換会
〝愛でるみどりから関わるみどりへ〟
「次世代にみどりをつなぐ行政と市民の連携、その仕組みづくり検討会」
多摩ニュータウン学会(会長:吉川徹・首都大学東京教授)は5月11日、「次世代にみどりをつなぐ行政と市民の連携、その仕組みづくり検討会」をテーマに例会を開催。学会員や多摩市みどりのあり方懇談会委員、NPO、ボランティア団体、市民など約30人が参加して意見交換を行った。
例会では、多摩市みどりのあり方懇談会委員を務めた大石武朗氏が多摩市のみどりの現状や課題などについて報告。「人の目線で見ると市のみどりは豊かとはいえない。財政難の現状を考えると後継者を育てられない。愛でるみどりから関わるみどりへ政策転換し、市民のネットワークづくりが必要」などと語った。
また、NPOあしたや共働企画・滝口直行氏と市民団体「きりんの会」・松原友子氏がそれぞれ事例紹介を行った。滝口氏は「地域住民・自治会・老人会などによる公園の清掃などを行っている公園愛護会には71団体が参加して活動しているが、横のつながりがない。交流できる場が欲しい」と団体間の連携を訴えた。松原氏は「市と協力して永山南公園の再生に取り組んでいる。公園内の樹林地でボランティアとして樹木の手入れなども行っており、端材で樹名板や案内板、ベンチなどもつくった。今年はキンラン、シュンランなど絶滅危惧種の草花もたくさん咲いた」などと報告した。
参加者からは、「多摩市のみどり率は54%もある。これはすごいこと。貴重な資源」「(みどりの将来を考えると)絶望的だが、孤独な活動を続けている」「重装備で活動している人の姿を見ると、素人は参加しづらい」「活動するにはワクワク感が必要」「ネットワークづくりが重要」「公園のたけのこ掘りがしたい」「遠くから眺めたり高い所から見下ろしたりすみどりは美しいが、隣のみどりは鬱陶しく感じる人が多い」などの意見が出された。
多摩市は先に「みどりの基本計画」を策定し、街路樹などの「みどり」を含めたみどりの質的向上(量から質へ)や愛でるみどりから関わるみどりへ方向を転換し、計画の推進には市民や事業者、市民団体などとの協働の取組みが前提とする考えを打ち出した。
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左から大石氏、滝口氏、松原氏 |
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今回の例会も楽しみにしていた。時間が1時間半しかなく趣旨が「それぞれが意見を出し合うサロン」であったため議論があまり深まらなかったのは残念だったが、今回の例会をきっかけに市と市民団体などの連携が深まり、どこにも負けないみどりのネットワークが構築されることに期待したい。
一つだけ行政に注文をつけるとすれば、立派な「みどりの基本計画」を確実に実行するために情報をどんどん公開して欲しいということだ。
市も打ち出しているように、①大学や市民団体等と連携したみどりのホームページ立ち上げ及び運営支援②市民団体などや事業者、行政などの連携による情報ネットワーク体制の構築③ホームページや広報の活用によるみどりの活動の普及啓発④コンテストや表彰制度の実施-などが望まれる。この点については、これまで市が運営していたグリーンライブセンターを恵泉女学園やNPOなどと協働して運営するように再編したのはいいことで、他にない大きな武器になるはずだ。
もう一つ付け加えれば、多摩市に限ったことではないが、道路法の「道路の付属物」という街路樹の規定を改めて欲しい。多摩市は平成20年に策定した「街路樹よくなるプラン」で「街路樹は単に『道路の付属物』ではなく街路を構成する素材の中で、唯一の生き物である特徴を生かした『うるおいとゆとり』のある快適な道路空間の創出」とうたっていることを実践して欲しい。
情報公開・共有とも関連するが、多摩市のように緑があふれている地域はともかく、一般市民が緑をいちばん身近に感じるのは街路樹だ。その街路樹の維持管理に1本当たり年間1~2万円(多摩市は街路樹1万本に対して年間予算は約1億円。調布市は半分以下の3,860本に対して約8,500万円=平成18年度)の経費を掛け、電信柱のようにぶった切られている実態をみんなで知るべきだ。もちろん、街路樹だけでなく公園の維持管理費を含めると、多摩市の場合は年間で5億円ぐらいの経費がかかっている。街路樹を含めた「みどり」全体では4人家族で年間約16,000円の市税が投入されている勘定だ。それだけ税金を払っているのなら「みどり」に関わろうと考える人も出てくるのではないか。
鹿島・住林 国内初のスギ耐火集成材採用の店舗
鹿島建設・住友林業
国内初のスギ耐火集成材を採用した「oto no ha Cafe」
「野菜倶楽部 oto no ha Cafe」
鹿島建設と住友林業は5月15日、国交省の平成24年度木造建築技術先導事業に採択された、国産スギ材の耐火集成材「FRウッド」を国内で初採用した3階建て耐火建築物「野菜倶楽部-oto no ha Cafe」の完成見学会を行なった。集成材は無処理の荷重支持部分の外側に難燃処理した燃え止まり層、表面に無処理の化粧材を施した3層構造で、都心部の木造耐火建築物のプロトタイプとして普及が見込まれている。
建設地は目白通りに面し、東京カテドラル、講談社野間記念館、椿山荘に隣接した都心の一等地。敷地面積は約677㎡、建物は3階建て延床面積約243㎡。防火地域(道路から20m)に対応した耐火認定軸組工法建築に耐火集成材の柱、梁を組み入れた耐火建築物で、木製サッシ、無垢材フローリング床、スギのルーバー天井などの木質化を図ったのが特徴。事業の提案者は講談社グループの音羽建物グリーン事業本部、設計は鹿島建設、施工は住友林業。補助金額は1,580万円。有機野菜の販売と料理を提供する店舗として5月25日オープンする。
見学会で挨拶した音羽建物ファシリティマネジメント部部長で1級建築士の塚本平一郎氏は、「当初は鉄骨造として企画したが、鹿島さんや住林さんの提案があり、無農薬の野菜を売る店舗にふさわしいと考えてコストはかかっても木造がいいと決断した。防火地域のハードルを乗り越えて立派な建物が出来上がった」と話した。
また、住林の住宅事業本部木化営業部設計チームマネージャー・西出直樹氏は「国産材の自給率を50%に引き上げようという国の目標もあり、今年はそのスタートの年となるよう可能性を追求していく」と語り、鹿島の建築設計統括グループチーフアーキテクト・比留間基晃氏は、「実大加熱実験を行い、個々の耐火認定の組み合わせで耐火性能を有することを確認して耐火建築物の壁を乗り越えることができた。5本のFRウッドの柱・梁を使用し、外壁は塗装仕上げ、内装は木肌がそのまま体感できるよう工夫を施した」と述べた。
スギの木肌が美しい内部
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建物の外観は塗装仕上げなので木造か鉄骨か判別は難しいが、建物内に入ると本物の木の美しさが実感できる。構造材は岩手県産のスギ、床は厚さ20ミリ、幅25センチのナグリ仕上げのナラ材、階段はタモ材、窓はベイマツの木製サッシを採用している。天井にはスギのルーバーを採用し、排煙を兼ねるトップライトを3カ所に設けている。隣接する野間記念館の借景も眺められる。
このような木造の耐火建築物がどんどん建設されることを期待したい。鉄やコンクリートより木が美しいのはいうまでもない。
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天井のルーバー | テラス(左が野間記念館) |
1時間でリンゴ800個 数時間で10万の売上「こだわり商店」
1時間にリンゴ800個、数時間に10万円の農産品が売れる
新宿区西早稲田の「こだわり商店」
安井氏
近江商人の商法の基本とされる「三方良し(さんぽうよし)」という言葉がある。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」を満足させるのが肝要という意味だ。この究極の顧客満足ともいうべき商売を実践している新宿区西早稲田の「こだわり商店」店主・安井浩和氏(35)に話を聞く機会があった。
「こだわり商店」は、早稲田大学に近接した約400の店が加盟する「早稲田大学周辺商店連合会」の一角にある。麻雀屋だった空き店舗を改装した店舗の面積は約7坪。開業は平成19年10月。
屋号にもあるように、商品の安全性、本物志向に徹底してこだわっているのが特徴だ。狭い店には宮城県南三陸町から栃木県茂木町、東京都桧原村などの産直品から米、野菜、魚、肉、調味料、酒、菓子類まで全国のあらゆる農産物や加工品が並べられている。業種としては食料品販売業と呼ぶのだろうが、いわゆるアンテナショップでもある。
特徴はそれだけではない。ものを売るだけではなく、環境問題やバリアフリーの街づくり、地域の活性化などにも積極的に取り組んでいることだ。環境問題は15年前から早大と連携して早稲田商店会が取り組んでいるもので、安井氏もメンバーの一人として参加している。ハワイ旅行券をつけたり地域通貨などを発行したりなどして大ヒット。「街中から空き缶やゴミがなくなりました。子どもたちが旅行券や地域通貨ほしさにゴミ箱をあさる光景もみられました」
バリアフリーの取り組みでは、当時、早大生だった乙武洋匡氏が電動椅子に乗り、いかに街にはバリアが多いかを訴えた。これも話題になった。
修学旅行生の店頭販売・販売体験の手伝いを行なっているのも社会教育・ 地域貢献活動の一環だ。年間に受け入れる修学旅行生は約20校、約1,000人にのぼる。 商品の並べ方、名札の付け方、接客マナーなど販売のイロハを安井氏は手ほどきする。
「ここの商店街はそれほど人通りが多いほうではありません。それでも、この前、青森の修学旅行生がリンゴを売ったら1時間で800個売れました。800個? 尋常じゃない数字。大きなスーパーの1日の売り上げと同じぐらいです。何が嬉しいかといえば、全然ものを売る経験などない子どもたちが最初は戸惑い、声も掛けられない状態から残り30分ともなると大騒ぎになる。その笑顔を見るのが嬉しいんです。学校だから利益を出しちゃまずいから、金額は赤十字などに寄付するんですが、社会貢献にもつながるわけです」
こうした一連の活動がマスコミなどで取り上げられるようになり、いまでは全国から視察団が訪れるようになった。これまで約260団体に達している。
店頭販売する度会中学校の生徒
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店を始めたきっかけが面白い。「父(潤一郎氏)がスーパーを経営しておりまして、私はその手伝いをしていました。3歳ぐらいのときから手伝わされていました。父は早稲田商店会の会長を務めており、その街づくりの活動から小泉チルドレンに走り、衆議院議員になったとき(平成17年の東京ブロック比例区で当選)、私に跡を継げと言ったのですが、スーパーの将来性なども考えて独立してやろうと決めました」「開業するに当たっては全国20~30カ所を見て回りました。自分で食べておいしいと感じたものしか売らないと決めました」
栃木県茂木町の100アイテムを販売したのを皮切りに現在では32都道府県1,200アイテムに増えている。「全て産地直送。90%が無添加です。私が納得するものしか売らないので、食べてばかり。ウエストはこれごらんの通り」と大きな腹を抱えて笑う。
店頭に掲げられたPR看板
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記者が安井氏と出会ったきっかけは次の通りだ。
三菱地所が協力企業となっていた農水省のキックオフイベント「ジャパンフードフェスタ 2012」を昨年11月に取材したとき、わが故郷の三重県度会(わたらい)町が「度会茶」と「鹿のコロッケ」の販売をしており、そのとき町役場の方と話しをした。
その町役場の方から「度会中学校の就学旅行で町の特産品の販売体験を早稲田の『こだわり商店』で行なうので取材してほしい」との連絡を受けた。
正直、〝不動産に全然関係ない修学旅行生を取材して記事など書けない〟と思ったが、安井氏から話しを聞くうちに〝これは地域の活性化、環境問題、バリアフリーの視点から面白い記事になる〟と考え記事にした。
安井氏によると、「度会中学校さんはネットで当店のことを見つけてくれて来られました」とのことで、当日の模様は安井氏がブログで次のように書いている。
「お陰様で、無事に事故もなく度会中学校の修学旅行地元産品PR販売が終了しました!過去最高売上の108,300円を記録しました!!最後に大隈講堂で売上発表してお決まりの一本締め!生徒代表から御礼の言葉を頂きました。『ビラ配りから販売に入り、売れなくても皆で頑張ろうと声を掛け合った結果、全ての椎茸を売り切ることが出来たのは本当に嬉しかったです』 この言葉を目をキラキラしながら皆の前で言ってくれたんです。今まで頂いた言葉の中で一番嬉しかった。販売始めの時間帯はやらされてる感があったのに帰り際にはこう変わるんです。もう見ていてゾクゾクするくらい気持ちのよい瞬間です」
![]() 販売風景 |
![]() 幟や看板で宣伝告知もする生徒 |
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度会中学校の修学旅行生は3年生の82人。その生徒が3時間半ぐらいの間にしいたけ、お茶、あられなど金額にして10万円以上を売ったと地元の人が聞いたら仰天するのではないか。度会町は伊勢市に隣接した人口約8,500人の町。鎌倉時代、伊勢神宮の神官、度会氏が唱えたとされる「度会神道(伊勢神道)」発祥の地とされている。
冒頭に近江商人の「三方良し」を取り上げたが、「近江泥棒、伊勢乞食」という言葉がある。これは県民性を示す言葉で、窮したときに取る行動を対比したものだと言われているが、そうではなくて高飛車な態度を取る近江商人と、手すり足すり低姿勢で臨む伊勢商人の商法の違いを意味する言葉だと記者は考える。数時間で過去最高の10万円の売り上げを達成できたのも「伊勢商法」のお蔭かもしれない。
![]() 全国から寄せられた感謝の手紙類 |
![]() 法被を着て宣伝する生徒 |
生徒と一緒に記念写真に納まる安井氏
一般社団 日米不動産協力機構設立
一般社団法人 日米不動産協力機構(JARECO)設立
一般社団法人 日米不動産協力機構(JARECO)は5月8日、同機構を今年2月22日に日本大学経済学部教授・中川雅之氏を発起人として法人設立登記(本店所在地 千代田区)を完了し、本年3月26日に全米リアルター協会(NAR)と「相互協力・相互サービス提供」の協約を締結したと発表した。
JARECOは、国際的な不動産流通政策の研究・情報交換を産学連携で行う組織として、NARとの相互協力を通じ、世界各地にある NAR 協約国(アジアをはじめとする60カ国)やその国の関連団体・不動産・住宅関連の研究機関・シンクタンク・大学との連携を図り、わが国の不動産流通市場の活性化に貢献することを目的として設立された。設立を記念して5月31日に設立記念シンポジウムを開催する。
JARECO事務局は、当面の間は仮事務局として日本大学経済学部中川雅之研究室に置く。事務局員は今中弘明氏。電話は03-5843-8372。ホームページは http://www.jareco.org
平成24年度の住宅着工 前年度比6.2%増の89万戸
平成24年度の住宅着工 89万戸で前年度比6.2%増加
国交省が4月30日、平成24年度の住宅着工戸数をまとめ発表。総戸数は893,002戸となり、前年度比6.2%、3年連続して増加した。内訳は持家が316,532戸(前年度比3.8%増、前年の減少から再び増加)、貸家が320,891戸(同10.7%増、4年ぶりの増加)、分譲住宅が249,660戸(同4.4%増、3年連続の増加)。分譲住宅の内訳はマンションが124,027戸(同3.3%増,3年連続の増加)、一戸建住宅が124,536戸((同5.6%増、3年連続の増加)。首都圏は持家、貸家、分譲住宅とも増加した。
建築工法別ではプレハブが134,087戸で、3年連続の増加(前年度比4.6%増)、ツーバイフォーは110,459戸で3年連続の増加(同11.9%増)。
首都圏マンションは71,594戸(同3.5%増)。都県別では東京都が45,166戸(同5.4%増)、神奈川県が12,599戸(同16.9%減)、埼玉県が7,349戸(同1.4%減)、千葉県が6,480戸(同74.3%増)。各都県ともサブプライム・リーマンショック前と比較すると1万戸前後減少している。
若年労働者の確保・賃金引上げ 太田国交相が要請
「技能労働者の賃金引上げを」
太田国交相が建設業団体に直接要請
太田大臣直々に要請が行われた(霞山会館で)
太田昭宏・国土交通大臣は4月18日、技能労働者の賃金水準の引き上げや復旧・復興事業及び公共事業の迅速かつ円滑な施工確保を図るため日本建設業連合会など建設業団体トップへ直接の要請を行った。国交相から建設業団体トップに対してこのような要請を直接行うのは例がなく、初めての取り組み。国交相の並々ならぬ意欲を示したものと見られる。
太田大臣は、「先に平成25年度の公共工事設計労務単価を大幅に引き上げたが、若年労働者の確保と技能労働者への適切な賃金水準を確保することは待ったなしの課題。あわせて社会保険への加入を促進することは喫緊の課題。業界が希望と誇りを持てる職場となるよう、発注者、受注者、さらには工事関係者など全ての関係者が危機感を共有して取り組んでいただきたい」と要請した。また、震災復興事業や公共事業の迅速、かつ円滑な施工確保についても、「現地では復興が実感できるようにして欲しいという希望が強い。若年労働者の不足、職人の高齢化など構造的な問題もあるが、社会インフラメンテナンス元年として位置付け復興を加速させたい」と述べた。
これに対して、建設業団体各代表は、「若年労働者の確保、技能労働者への適切な賃金水準の確保は健全な業界の発展のために不可欠」などとして適切に対応していくことを約束した。
国交省からは太田大臣のほか鶴保副大臣、松下政務官などが出席、建設業団体側からは日本建設業連合会、全国建設業協会、全国中小建設業協会、建設産業専門団体連合会の4団体の代表が出席。報道陣も含め約100人が集まった。
国交省は平成25年度の公共工事設計労務単価を前年度比全国平均で約15%増の15,175円、被災三県は約21%増の16,503円に引き上げた。
建設業を取り巻く環境は厳しく、平成24年度の建設投資額はピーク時の平成4年度から約46%減の約45兆円に減少し、就業者数もピーク時から約19%減の503万人に減少するなど、建設労働者不足は構造的な問題とされている。低価格による入札が年々増加していることが労働者にしわ寄せされ、賃金水準も全産業と比較して26%低いとされている。雇用保険、健康保険、厚生年金の加入率はそれぞれ40%以下となっている。若年入植者は平成4年の5分の1に落ち込んでいる。建設技能労働者52万人のうち60歳以上は約18%に上り、10年後には大半が引退することになり、次世代への技能継承が大きな課題となっている。
要請する太田大臣
ゆとり世代の8割が中古住宅を検討 三井リアルティ
ゆとり世代の8割が中古住宅を検討
三井不動産リアルティ調査
ゆとり教育を受けた20歳代の〝ゆとり世代〟の8割が中古住宅を検討-こんな興味深い意識調査を「三井のリハウス」を展開する三井不動産リアルティがまとめ発表した。
住みかえ意識調査の第4弾となるもので、首都圏在住の “ゆとり世代” と呼ばれる22~25歳の社会人男女310名とその世代を子に持ち、住宅購入経験のある50~59歳の男女310名を対象にインターネットで住まいと距離に関する意識調査を実施したもの。
調査によると、結婚後に親との「近居」を望む “ゆとり世代” は約3割にとどまる一方で、子供との「近居」を望む “親世代” は約6割にのぼった。
また、 “ゆとり世代” はマイホーム購入時に約8割が中古住宅を検討し、7割以上は親からの資金援助を期待していないが、 “親世代” は2人に1人が子供のマイホーム購入時に資金援助をすると回答し、「資金援助をするので近くに住んでほしい」という希望を持っていることが分かった。
同社は、この結果について「『失われた20年とともに成長し堅実・安定志向』と言われている “ゆとり世代” の特徴が表れる結果となった」としている。
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ゆとり世代の約8割が中古住宅を検討し、7割以上が親からの資金援助を期待しないという結果は驚きだ。中古住宅が新築より安いというのが最大の理由だろうし、取得能力からいっても中古のほうが取得しやすいからだろう。これは賢明な選択だ。耐震性などに問題のある中古は敬遠したほうがいいが、中古だからといって基本性能が新築より劣るということはない。親に頼らないというのは、自立心が旺盛とも取れるが、親の懐具合をきちんと把握しているからだろう。
その一方で、親世代は資金援助を考えており、近居を望んでいるという結果もやや驚きだ。援助額は平均で約500万円だ。500万円しか援助できないのもまた親世帯の寂しい懐具合を示している。
もう一つ、注目したのはマイホームの購入を将来的に望まないゆとり世代は、「購入したくない」(20.3%)と「あまり購入したくない」(15.2%)と合わせると35.5%にものぼることだ。その理由は明示されていないが、〝飲まず食わず〟でせっせせっせとマイホームの頭金を貯めたわれわれ団塊世代からすると理解できない。
マイホーム取得だけが人生の目標ではないのは確かだが、日本国憲法でいう「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する 」(第25条)生存権は闘い取らないと国は保障してくれないのは確かだ。富裕層は分譲だろうが賃貸だろうが選択肢は多いが、一般的なサラリーマンにとって選択肢は多くない。賃貸はあらゆる面で分譲よりはるかに劣る。中長期的に見ても賃貸は冷遇され続けるのではないかと思う。
劣悪な居住環境だからといって心まで貧相になるとは限らないが、住居は人生を豊にする、心を豊にする生活の基本だ。人格形成に大きな影響を与えるのは間違いない。「健康で文化的な最低限の生活を営む」ことを諦めないでほしい。
国交省「都市再構築戦略検討委員会」に期待
国交省「都市再構築戦略検討委員会」に期待
「都市再構築戦略検討委員会」
国土交通省は4月9日、第1回「都市再構築戦略検討委員会」(委員長:奥野信宏氏)を開催した。地方都市の活力の維持・向上等を目指し、中長期的な視点で都市構造の再構築に向けた戦略を検討するためのもので、6月下旬までに予算要求、税制改革要望としてまとめる予定だ。
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大都市もまた深刻な問題を抱えてはいるが、大都市と地方都市の格差が拡大し、地方都市は人口の減少、高齢化、経済の停滞など危機的な状況にある。地域の再生・活性化は待ったなしだ。「都市再構築戦略検討委員会」といかめしい名称だが、今流行の言葉で言えば「都市再構築戦略」はリノベーションプランだ。委員のメンバーにデベロッパー代表がいないのは残念だが、素晴らしいプランが提案されることを期待したい。
以下に各委員の発言をほぼ発言順に紹介する。記者席はお尻が痛くなる硬い丸椅子のみで、そこにずっと背筋を伸ばし2時間近く座りっぱなし。聞き取りにくい発言もあり、記者のメモる力も退化しているので正確でないこともあることを了承いただきたい。議事概要は国交省からホームページに公表される。
奥野信宏氏(中京大学理事) 私は「アジサイ型集約都市」と呼ばれる人口が2,000人から5,000人ぐらいの単位の一次生活圏を確保するコンパクトシティがテーマになると考える
根本祐二氏(東洋大学大学院教授) これまでの都市計画が成功したのか失敗したのか、何ができて何ができなかったかをきちんと総括することが必要。DID(人口集中地区)についてももう少し分析すべき(この点については国交省は第3回会合で報告すると答えた)
辻琢也氏(一橋大学大学院教授) コンパクトシティを形成する要件を明確にすべき。地方都市は農業もそうだが商業・サービス業の空洞化が著しい。今後民間レベルで自立的な都市を維持できるのか
寺島実郎氏(日本総合研究所理事長) 再構築には三つの〝柔らかな〟視点が必要。一つは高齢化の問題を深く洞察すること。 65歳以上を高齢化人口と呼ぶが、私は高齢化人口を生産人口に組み込むことも必要だと考える。二つ目は技術革新要素を取り入れることだ。コンビニと携帯は都市を劇的に変えた。三つ目は移動という要素だ。リニアは遠い世界でなくなった。固定観念で考えず、柔らかな発想で考えることが必要
若林資典氏(みずほコーポレート銀行産業調査部長) ハード・ソフト両面に分けて考えるべき。ハードでは未利用地の利用などを規制も含めてお金のかからない方法が必要。住宅ローンなどは地域によって異なっていい
村木美貴氏(千葉大学大学院教授) 「身の丈にあった再整備」「規制できるのか」「コンパクトな暮らしやすさ」などについてもっと論議すべき
岸井隆幸氏(日本大学教授) 広域的な視点で地方都市のあり方を考えるべきだし、地方を鼓舞するシステムも必要。車社会の是非も考える必要がある
藤木正和氏(三協立山社長) 人口42万人の富山市はよくやっている。高岡市も学びたい
小澤吉則氏(長野経済研究所調査部長) 人口10万人以下の都市は工場が去り若者がいなくなる構造が深刻。10万人以上の都市はシャッー商店街化が止まらない。中心市街地の空洞化はとめどなく広がっている
正田寛氏(太田商工会議所会頭) 太田の街は人口が若干増えている
藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表) アテンションエコノミーが注目されているように、自治体によってはいろいろチャレンジして成功しているところもある。そういう事例に学びたい
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記者は寺島氏が「もっと柔らかな視点が必要」と発言したことに注目した。今から3年前、国交省の「建築法体系勉強会」で学習院大学教授の櫻井敬子氏が同じような発言をしたのを思い出した。櫻井氏は「建基法も都市計画法も息の詰まる法制度。もっとおおらかにアイデア、仕組みを考えてもいいのではないか」と語っていた。
寺島氏も櫻井氏も専門は都市計画ではないが、専門外の有識者から見ると都市計画法も建築基準法も窮屈な法律に見えるようだ。そのために、寺島氏が語った「全国一律の平板な空間しかできない」という指摘は的を射ていると思う。
この点について、検討委員会の終了後、国交省都市局長・川本正一郎氏が「これまでの都市計画のツールは市街化区域と調整区域に分け、用途地域を決めていく税や金融と切り離した形で進めてきたが、これでいいのかという疑問もある。既存のツールにとらわれず論議していただきたい」と一歩踏み込んだ発言をしたのに注視したい。
また、根本委員が「施設」と「機能」の文言について言及し「論点がクラクラしている」と発言したのにも興味をそそられた。根本委員は、本来街の機能を維持すべき手段である施設が自己目的化していると指摘したと記者は理解した。
門外漢の記者の考えを言わせてもらえば、戦後の都市計画は出発時点で間違っていたと思う。都市計画法の理念にある「都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ」(第2条)というのは名ばかりで、都市と地方、都市と農村を対立軸として考えたことが間違いだったのではないか。「市街化を促進すべき地域」「市街化を抑制すべき地域」という文言にそれが端的に示されている。
職人技は世界に誇る文化財 ジャーブネットがシンポ
職人の技は世界に誇る無形の文化財
「日本ぐらし館 木の文化研究会」第2回シンポ
第2回シンポジウム「庭との関係に学ぶ木造住宅の未来」会場
全国の工務店ネットワーク「ジャーブネット」(主宰:アキュラホーム宮沢俊哉社長)と京都に拠点を置く「日本ぐらし館 木の文化研究会」(委員長:髙田光雄氏)が共催して第2回シンポジウム「庭との関係に学ぶ木造住宅の未来」を先に行った。
同研究会は、日本の伝統と京町家の居住性、そこで育まれた暮らしの文化を現代の「住宅」へ継承フィードバックしていくための産学連合の建築・文化研究を行っており、今回は「家と庭のつくり手」の関連性がテーマ。協賛したアキュラホームのニュースリリースから要旨を紹介する。
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まず、京都大学大学院教授・髙田光雄氏は「庭との関係に学ぶ木造住宅の未来」について解説。庭に関わる現代的課題として「地域居住文化の継承・発展」と「地球環境への配慮」の2点をあげ、作庭のポイントとして、①四季にとどまらない微妙な季節の変化を楽しむ②環境調整機能の確保③領域形成機能の確保④住まい手が働きかけることによって生まれる「住みごたえ」の実現⑤マネジメントとセキュリティの考慮--の5点を指摘した。
「歴史にみる大工と庭師」について基調講演を行った京都工芸繊維大学准教授・矢ケ崎善太郎氏は、「大工は古代からものさしをもって指図をする人であり」「庭師は自然を読み取る優れた能力や吉凶をみる能力など、特殊な能力を持つ者」と紹介。
「日本の建築は寝殿造でも書院造でも、原則として建物の周囲に縁を設ける伝統があった。対して、茶人たちによって作られ始めた数寄屋建築はそれとは正反対のもので、千利休の茶室になると縁は完全になくなり、土間から畳に直接上がる『くぐり木戸』が発明された。このように建物の際まで露地の土間が深く入り込むことによって土庇(つちびさし)がうまれ、ここで大工と庭師の協働が始まった」と語った。
また「数寄屋大工の覚悟を示す言葉として、『見える部分を何気なく、見えない部分をきちんとすることで本質を間違ってはいけない』『日本の建築は常に手を入れながら維持されるものこそ良い建築である』といった言葉が見受けられる。現代の日本の木造建築は、こういった覚悟をもって仕事をしつづけてきた職人たちがいたからこそ世界に誇る伝統的な建築文化になっている。木造建築の伝統をつくってきた日本の職人たちの技は世界に誇る無形の文化財でもある」と強調した。
![]() 高田氏 |
![]() 矢ケ崎氏 |
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引き続いて行われた事例紹介では木村工務店大工棟梁・木村忠紀氏、京都庭園研究所庭師・比地黒義男氏がそれぞれ携わった事例を紹介。パネルディスカッションでは、京都大学大学院教授・鉾井修一氏、京都大学大学院教授・林康裕氏、京都府立大学教授・檜谷美恵子氏が登壇。それぞれ次のように語った。
「コストを抑えながら四季折々の自然を感じられる空間を提案することは可能。庭は生き物であり、建築とは異なる感性に働きかける」(比地黒氏)
「環境工学的にはこれまで、蒸散による冷却効果や通風を促す場として庭の機能を捉えている。最近はさらに、庭や建物下の地盤の熱容量に着目して放熱を促す場としてヒートアイランド対策に積極的な活用ができないかと考えている」(鉾井氏)
「維持管理について施主を教育する必要がある。メンテナンスして初めて 30 年、 50 年と維持できるものであることを今の施主の多くが教育・継承されていない」(木村氏)
「庭を愛でる文化を一部の人だけの領域にするのではなく、一般にも広げられるような取り組みが必要」(檜谷氏)
「木の名前をほとんど知らないといったことが今は普通になっている。文化として育てていく必要がある」(林氏)
「設計士にはもっと勉強して欲しい。木の名前も知らない設計士がいまだにいる」(木村氏)
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矢ケ崎氏は「職人技は世界に誇る無形文化財」と語った。その一方で、林氏や木村氏は「木の名前をほとんど知らないのは普通になっている」「木の名前を知らない設計士がいる」と指摘した。
記者もその通りだと思う。まず前者について。昨年、三井不動産レジデンシャルの「目黒」の建売住宅を取材したときだ。職人さんが水平器と定規とコテだけで高さ1mを超えそうなレンガの門柱を作っていた。記者は聞いた。職人さんは「誤差? 2ミリぐらい。ここまでやれる技術?まあ、5年はかかる」と話した。レンガを一つひとつ積み上げ、縦、横、高さの誤差を2ミリ以内に仕上げる技術に感動した。
平成22年の国勢調査(速報値)によると全国の左官業従事者は87,400人だ。多いか少ないか記者は分からないが、平成12年は152,273人だ。この10年間で42.6%も減少している。平成2年の200,452人と比べると56.4%減少している。それだけ「世界に誇る文化財」が減っていると理解していいのか。マンションも建売住宅も仕上げはサイディング、PC板、クロスなどで、左官が現場仕上げするケースはほとんどなくなった。
次に後者について。記者は昨年、街路樹について取材した。電話口にでた埼玉県戸田市の担当者は、市内の街路樹の名前を3つぐらいしか言えなかった。マンションや建売住宅の取材などで現地はよく訪れるが、開発担当者なども外構の樹木の名前をすらすらと言える人はほとんどいない。樹の名前、特徴を知らずしてどうして植えるのか。不思議でならない。