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 たまたま時間があったので、住宅情報誌に掲載されているマンションのキャッチコピーを読んでみた。これがなかなか面白い。次のようなコピーが目に留まった。

 「購入者からも『デザインが素敵!』との声、多数」

 一般の方はこの文言をどう理解されるか分からないが、業界関係者なら「えっ、こんな表現許されるのか」と思うはずだ。

 不動産業界には、業界の自主規制団体「不動産公正取引協議会連合会」(不動産公取協)があり、「不動産の表示に関する公正競争規約(公取規約)」で広告に関する様々な基準・規制を設けている。とくに消費者に誤解されるような、事実と異なる表示には厳しく、同規約18条(特定用語の使用基準)では、「完全」「完ぺき」「絶対」「万全」「日本一」「日本初」「業界一」「超」「当社だけ」「他に類を見ない」「抜群」「買得」「掘出」「土地値」「格安」「投売り」「破格」「特安」「激安」「バーゲンセール」などは、根拠が示せるものを除き原則禁止されている。

 ここで一つ断っておきたい。記者などが書く記事にはこの規約はまったく適用されない。当然だ。これは憲法によって表現の自由が保障されているからだ。記者が書く記事に規約が適用されたら、ほとんど「不可」になるはずだ。最近書いた「人気必至」などは誘因行為として公取協から厳重注意を受けるはずだ。

 さて、では冒頭の「デザインが素敵!」という文言はどうか。住宅情報誌は記事の体裁を取ってはいるが、これは「記事広告」でもなくチラシ広告と同じ扱いになる。使用する文言には先の厳しい制約があるが、「素敵」そのものは禁止されていないし、発行する側も十分審査しているはずだから問題はないと判断したのだろう。

 しかし、「素敵」も「最高」も意味はほとんど同じで、記者なども連発する。感嘆符(!)も1つどころかダブル(!!)で使うときもあるし、感嘆疑問符(!?)もよく使う。「素敵」の根拠を示さないのは問題がないとはいえないが、購入者の声などをどんどん使用してもいい。手あかのついた文言より効果があるのではないか。

 それにしてもマンションの広告担当者の仕事も大変だ。使用する文言の制約を受け、かつコピーで物件の特徴を表現しなくてはならない。いくつか紹介しよう。( )内は記者のコメント。

 「堂々完成!」「特別事前案内会」(完成して残っているという意味にもとれるが、「特別」とは何か意味不明)

 「足元に緑を纏う」「静謐を纏う邸宅」「東京・城南に住まう」(よくある広告手法。この業界は「静謐」「纏う」「邸宅」「至福」「住まう」などの言葉が好きなようだ)

 「バス停まで徒歩4分」「『東京』駅20分」(松戸からバス便)「柏駅徒歩10分」(ズバリそのもの)

 「1LDK・ゆとりの44㎡台」(44㎡の1LDKが〝ゆとり〟の広さであるかどうかは異論のあるところ)

 「光と風が満ちる」「中枢を自在に使いこなす」「心に響く私邸の品格に出会える」「明るさ・楽しさ・暮らしやすさが集う街」(豊島園)「本当の豊かさと出会い、美しき家族の時をここに刻んでゆく」(これらも不動産広告ではよく使われる。イメージ戦略も重要だ。豊島園はそんなに住みよい街だったか)

 「最大520万円の価格改定!」「返済不安の方に相談会開催」(これから年度末に向かって値引き物件は増える。価格は市場が決めるもの。「返済不安のある」人に相談会とは意味が分からない。きちんと書くべき)

 広告の表現に四苦八苦するのだったら、いっそのこと絵文字はどうか。記者は絵文字をまったく理解できないが、若い人たちはみんな利用しているではないか。「素敵!」と書く代わりに「ヤバイo(^-^)o」などと書いたら、来場が殺到するのか見向きもされないのか。

 もうずいぶん昔だが、公取協は不動産広告の事例集をまとめたことがある。なかなか面白いものだった。記者が印象に残っているものでは、売れない郊外マンションは「駅まで徒歩15分、格好のジョギングコース」と謳った。貧すれば鈍するの見本のような広告だった。

カテゴリ: 2015年度

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「グレイプス大森西」

 東京建物グループは1月8日、東京建物シニアライフサポートが介護サービス(居宅介護支援・訪問介護)を提供する初のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「グレイプス大森西」の現地案内会を開き、1 月17 日から開業すると発表した。12月から募集しており、7区画に申し込みが入っている。

 「グレイプス大森西」の主な特徴は、①24時間365日、介護スタッフが常駐②入居者をサポートする〝もう一人の家族〟のコンシェルジュ③各部屋に設置したセンサーによる最新型の見守りシステム④家庭の味を大切にした現地調理で提供する食事サービス⑤分譲マンション「Brillia」準拠の設備・仕様⑥終身建物賃貸借と入居一時金不要の賃貸方式-など。

 発表会に臨んだ東京建物シニアライフサポート・加藤久利社長は、「2009年にサ高住の第一弾『グレイプス浅草』の営業を開始して以来、やさしい手などの外部オペレーターに依存してきたが、これからは外部オペレーターとコンソーシアムを組んでより質の高いサービスを提供することで顧客満足度を高めていく。当社グループは高齢者向け住宅事業を重点分野と位置付けており、今後、中長期的には50棟(今回の物件で5棟目)を目指す」などと話した。

 物件は、JR 京浜東北線蒲田駅から徒歩13分、大田区大森西七丁目に位置する5階建て全56戸(ほかに訪問介護事業所・居宅介護支援事業所)。専用面積は18.60~53.67㎡、月額賃料は127,000~383,000円。管理費は15,000円(浴室あり)・20,000 円(浴室なし)。基本サービス(税込)は37,800円(1人入居)・54,000円(2人入居)。食費(税込)は朝食:540円昼食:756円夕食:864円、3食30日分:64,800円。事業主は東京建物、貸主は東京建物不動産販売、運営受託は東京建物シニアライフサポート。設計・監理はINA 新建築研究所。施工は古久根建設。

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 同社グループのサ高住事業が軌道に乗り、いよいよ加速度を高めるようだ。サ高住は〝玉石混淆〟と言われるが、同社は「サ高住」「有料老人ホーム」双方を検討している顧客のニーズを幅広く取り込む戦略で、居室面積を広くしたり、サービスを充実させたりして差別化を図っていく。

 今回の物件では、敷地に制約があり、サ高住の適正規模といわれる60~70戸を確保するため約18~21㎡のコンパクト住戸を36戸設けているが、一方でニーズが高い広めの約35~53㎡の住戸も5戸設置しているのが特徴だ。

 有料老人ホーム・サ高住事業は、積水ハウスなどのハウスメーカーが積極的に取り組んでおり、デベロッパーでは東急不動産グループ、オリックス不動産グループ、NTT都市開発グループなどが力を入れている。

 今後は、入居者の資産管理・運営、所有建物の空き家管理・処分、土地の有効活用などの周辺事業も期待される。どこが抜け出すか。

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「グレイプスホール」(左)と共用浴室

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 現地案内会には、やさしい手から出向している東京建物シニアライフサポート取締役介護運営部長の小林新吾氏も同席していた。記者は「外から入ってこられてデベロッパーの印象はどうですか」と聞いた。小林氏はすぐさま「お客さま第一主義を貫かれている点ではデベロッパーらしくないかもしれませんが、すべての事業もこれが一番大切。全然違和感はありません」と答えられた。

 この答えには記者もびっくりしたが、コツンと胸に響くものがあった。東建を30数年間取材してきているが、まさに〝デベロッパーらしくない〟のが同社の特徴だ。みんなおっとりしている。時には他社の後塵を拝することもあるが、長い目でみればこの姿勢がもっとも必要なことかもしれない。

 ついでにもう一つ。見学会は業界紙記者向けだけでなく、証券会社のアナリスト向けにも行っており、こちらのほうは業界紙向けより多い約30人が参加したという。アナリストは机上の計算しかしないと思っていたが、大間違いだ。ごめんなさい。

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25㎡の居室(浴室なし)

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 不動産流通研究所の「R.E.port」が圧勝-今年の住宅・不動産市場がどうなるか、業界各社はどう動くかを探る意味で年初に業界紙各社が報じる「年頭所感」は大きなヒントを与えてくれるが、今年も不動産流通研究所の不動産ニュースサイト「R.E.port」が過不足なく伝え、他者を圧倒した。

 「R.E.port」が紹介した年頭所感は5日と6日で太田国交相の1573字(400字の原稿用紙で4枚)を筆頭に42団体・会社に及んだ。ハスウメーカーはやや少なく、デベロッパーは大手が中心でややもの足りないが、不動産流通業界の団体・会社はほぼ完璧に網羅しているのではないか。

 所感の中身も具体的で、各社のつばぜりあいが手に取るように伝わってくる。いくつかを紹介しよう。

 東急リバブル・中島美博社長のそれは檄文だ。「不動産流通業界は今後も大きく変化していくだろう。その中で当社の取り組みとしては、新規出店を積極的に行うとともに、インナーブランディングである『スピード』『専門性』『サービス』の強化を徹底することで、他社以上の変化と成長を実現していきたい」「今のような変化の激しい時代には、常に新しいことに取り組み、イノベーションしていくことが成長の絶対条件である」と呼びかけている。

 三井不動産リアルティを激しく追う住友不動産販売・田中俊和社長も「既存の直営店舗網を拡充し、当社の強みである『地域密着』を深めつつ…今年は更に発展させていきます。全役職員は『住友ブランド』にふさわしい社員としての行動を日々徹底するよう、心がけてほしい」と更なる飛躍を期した。

 東京建物不動産販売・種橋牧夫社長は「顧客基盤と独自性のある機能をさらに拡充し、差別化戦略を追求する」など三本の矢を掲げ、全社一丸となるよう檄を飛ばした。

 不動産流通業界のトップをひた走る三井不動産リアルティ・竹井英久社長は余裕があるのかないのか分からないが、「行く先に『生い茂っている』不動産流通の旧習や古い常識を打破し、“新しい不動産流通の創出”、“新しい会社への改革”を力強く推し進めてまいる所存です」と、意識改革・人材育成に意欲を見せた。

 ここまで紹介したら、2013年から新ブランド「野村の仲介+(プラス)」を掲げ、〝ただ住まいを探すだけなら、不動産仲介なんていらない。〟などと同業他社に挑戦状を突きつけている野村不動産アーバンネットの宮島青史社長の所感がありそうなものだがそれがない。「R.E.port」は頼んだのか頼まなかったのか、野村不動産アーバンネットが拒んだのかどうか、それは謎だ。

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 「R.E.port」がここまで紹介しているのに、同業他社はまったく掲載なし。週刊紙だから読者には年初に新年号が届いてはいるのだろうが、不動産は生き物。じっくり読ませる記事ももちろん必要だが、その時々の空気を伝えないといけない。ネットは最大の武器の一つだ。コピー&ペーストで済む年頭所感をいくら掲載してもコストはかからないし、一般の読者(ユーザー)をつなぐ大きな役割を担っているはずだ。

 しかし、かくいう記者も紹介できたのは10社のみ。完敗だ。それでも、法人税率の引き下げや岩盤規制の突破に言及した三井不動産・菰田社長、大都市の国際的競争力を高めるのは地方創生にとっても有効と話す不動産協会・木村理事長、女性活躍(ダイバーシティ)をさらに推進するとした積水ハウス・阿部社長と野村不動産ホールディングス・中井社長など、それぞれが考えていることが少し分かった。

 法人税率の引き下げで恩恵を受けるのは誰か、都市と地方の共生は可能か、女性活躍でリードするのはどこか。それぞれが今年の大きな取材テーマになりそうだ。明日は不動産協会の新年賀詞交歓会だ。菰田社長には、法人税はマンション価格に転嫁されているのか、引き下げで価格は下げられるのか是非聞いてみたい。

カテゴリ: 2015年度

 今年も残りわずか。この1年間で書いた「こだわり記事」は378本。分野別の内訳はマンションが155本(うち95本がモデルルーム・現地取材)、一戸建てが48本(うち30本がモデルハウス・現地取材)。記事の半数以上は分譲マンション・戸建てだった。コピー&ペーストの記事はあまり書かなかったつもりだ。RBAの野球記事も200本くらい書いた。マンション市場を中心にこの1年間を振り返ってみる。

 その前に、誤字脱字だらけの独断と偏見に満ちた記事を読んでいただいた皆さんに紙面ならぬ画面を通じて感謝し、お詫びいたします。

 一つだけ言い訳をさせていただくと、記事は〝ラブレター〟であり、スピードが勝負です。私のモノサシで書くので誤りはつきもので、急げば急ぐほどミスも増えます。近眼・老眼が加速度的に進んでおり、集中力が欠けるのは以前からですが、加齢が追い討ちをかけています。どうかこの事情を汲み取っていただき、お許しいただきたいと思います。

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 分譲マンションでは、1年間を通じて価格(単価)の上昇が強く印象に残った。〝新価格〟がとくに後半から続出した。単価予想も外れることが多かった。来年はもう一段高くなるのは間違いない。都心部の一等地では坪700~800万円台が一般化するのではないか。23区内ではよほど立地条件の悪いところでないと坪200万円以下はなくなりそうだ。

 サラリーマンの実質賃金は上昇していないので郊外部の価格上昇は懸念材料だ。前半では坪130万円台も供給されたが、後半は最低でも150万円くらいになってきた。第一次取得層の取得限界は坪180万円と見ているが、限界に近づいてきた。設備仕様レベルを落とす物件も増加した。

 単価上昇を表面化させないよう専有面積圧縮でグロス価格を抑制する物件も目についた。いつか来た道だ。3~4人家族で30坪(90㎡)というのが記者のデベロッパーに託す夢だが、当分実現しそうにない。

 売れ行きは総じて好調だった。ベスト3マンションの記事でも書いたが、野村不動産「立川」と三井不動産レジデンシャル「三田綱町」が瞬く間に売れたのには驚いた。いま売れ残っている物件も、来年は新価格が満遍なく浸透するだろうから根雪のように残ることはなさそうだ。

 供給減がマスコミでも報じられたが、年間4~5万戸というのが適正な戸数だとわたしは考えている。レベルの高いリフォーム・リノベーションも増加しており、新築だけでなく中古マンションも取引が活発になるのは間違いない。全体として市場は緩やかに縮小し、大手の寡占が加速する。中小デベロッパーは企画力が勝負になりそうだ。

 分譲戸建ては取材回数が少ないので分からない部分も多いが、記者が見学した物件は総じてレベルの高いものばかりだった。積水ハウスの「5本の樹」は他社も見習うべきだ。年末に見たミサワホームの「熊谷」は最高の物件だった。三井不動産レジデンシャルと野村不動産の首位争いもみものだった。野村は戸数の少ない物件もこれからは供給しそうだ。都内に進出したポラスも意欲的な物件を供給した。フージャースアベニューの商品企画も光った。老舗の細田工務店はもっと自社のPRに力を入れてもいい。

 いわゆるパワービルダーの取材をここ数年行なっていないが、業界紙記者も物件見学はほとんど行なっていないようだ。マンションと同じくらい供給されているのに、なぜ取材しないのか。

 業界団体では、マンション管理業協会の意欲的な活動が目立った。ハウスメーカー・デベロッパーの課題でもあるが、コミュニティの「見える化」をぜひ進めて欲しい。

 国交省の取材はあまり行なわなかった。業界紙は宅建取引主任者の「宅建士」の〝昇格〟をずっと記事にしており、重大ニュースの一つにしているようだが、これが解せない。それより「日本らしく美しい景観」とは何ぞやの答申が待ち遠しい。

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最優秀賞を受賞したHAN環境・建築設計事務所の冨田享祐氏(左)と南澤圭祐氏

 埼玉県住まいづくり協議会は12月18日、「第2回埼玉県環境住宅賞」表彰式を行い、最優秀賞に建築部門の「森林公園の家」(HAN環境・建築設計事務所 松田毅紀氏、南澤圭祐氏、冨田享祐氏)を選んだ。

 同賞は、「住まい」の視点からも環境を意識することが必要との考えから、新築やリフォームの実践例、住まい方のアイディアなどの提案を募集するもので、一般から建築事業者まで103作品の応募かあった。埼玉県が後援している。

 最優秀賞の他では、優秀賞に建築部門の「KUMAGAYA  SUMMER  HOUSE」(伊藤裕子設計室伊藤裕子氏)、リフォーム部門の「真冬に20度を下回らない家~光と風と断熱のデザイン~」(OKUTA LOHAS Studio 坪野藍氏)、アイディア部門の「長屋が魅せる次世代の暮らし」(桧家住宅伊澤博希氏、島元祐二氏)、特別賞に「涼を呼ぶ熊谷の家」(ミサワホーム・ミサワホーム西関東)と「大宮ヴィジョンシティみはしの杜」(ポラス中央住宅+ポラスタウン開発)がれぞれ選ばれた。

 審査委員長の三井所清典氏(日本建築士会連合会会長)は、「私が50年前に考えた環境共生が一般的になってきた。最優秀賞はいかにも埼玉らしい、風土に適した提案。深い庇の提案は和の住文化をどう継承するかの点でも示唆に富む。特別賞は地域全体で気温を下げることが強く訴えられていた。全体的にとても嬉しい楽しい審査だった。埼玉は環境住宅のトップランナーになれる」と講評した。

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三井所氏

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 最優秀賞の「森林公園の家」は、タイトル通り埼玉・森林公園の樹木に囲まれた南傾斜地に立地しており、大きな木製サッシ、デッキテラス、薪ストーブ付きの土間空間、スギを多用した壁など、設計者の意図がよく伝わってくる。

 「KUMAGAYA  SUMMER  HOUSE」は、〝夏暑く冬寒い〟熊谷にふさわしい夏の日差しをカットする深い庇の形状、風を取り込む袖壁、OMソーラーパネルの設置など、パッシブ・省エネの工夫が見事。

 「真冬に20度を下回らない家}は、断熱性能Q値1.4、気密性能C値0.7を実現したリフォーム事例。夏場の日射遮蔽効果がある外付けブラインドシャッターを設置しているのが特徴。

 「長屋が魅せる次世代の暮らし」は、人口減少・高齢化の時代にふさわしい平屋の長屋を提案している。北本団地の建て替えにも有効と提案している。

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 記者は初めて取材した。会場には全103作品がパネルで展示されていた。残念なのは、パネルの文字が小さく読みづらく、一つひとつじっくり見る時間もなかった。

 県も後援しているのだし、絵画展のように作品がよく見えるように工夫し、応募者からも説明が受けられるような会にしたらもっと盛り上がる。

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特別賞を受賞したポラス中央住宅+ポラスタウン開発の関係者

 

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「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」

「スポーツを使えば景観に貢献できる」トレイルランナー鏑木氏

 国土交通省は12月19日、第5回「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」(委員長:卯月盛夫早大教授・参加のデザイン研究所所長)を開き、東大大学院教授・出口敦氏、静岡県交通基盤部都市局長・石川亨氏、トレイルランナー・鏑木毅氏が「富士山等の広域的景観資源の保全施策をどう展開すべきか」を中心テーマにプレゼンテーションを行い、各委員が話し合った。

 今回で大きなテーマに沿って話し合うのは最終で、27年度には第一次の取りまとめを行う予定。

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 この「懇談会」にはずっと注目していた。「日本らしくて美しい景観…」というタイトルがいいではないか。「(日本)らしく」という形容詞型の助動詞と「美しい」という形容詞が「景観」に掛かる。いったい「日本らしい景観」「美しい景観」とはなんぞやという悩ましい問いに「懇談会」はどのような答えを示してくれるのだろうかと考えるとわくわくもする。

 しかし、その一方で、普遍的で絶対的な美などこの世の中に存在しないし、文化や歴史、個人の審美眼によっても「美」は異なってくる。それこそ十人十色、三者三様、百人百様だ。

 わが国の自然を対象にした100選を拾ってみると、「美しい日本のむら景観百選」(農水省)、「日本百名山」(深田久弥の随筆)「日本百名橋」(松村博氏)「日本名水百選」(環境省)「日本の自然100選」(朝日新聞社)「日本街路樹100景」(読売新聞社)「日本の白砂青松100選」(日本の松の緑を守る会)「名木100選」(各都道府県)などほとんど全ての景観がランキングされているが、その基準もいまひとつはっきりしない。記者は生まれ育った田舎の風景・風土が一番美しいと思っている。

 だから、懇談会もこれが〝日本らしくて美しい景観〟といったような包括的な答えは出さないだろうし、目的もまた景観法が施行されて10年を振り返り、課題を明らかにし、将来につなげようということのようだ。

 とはいえ、今回の懇談会は大収穫だった。卯月委員長はプレゼンターの話とプロジェクターに映し出された画像に「感動した」と話したように会は盛り上がり、予定されていた2時間を30分近くオーバーした。先週傍聴した国交省の会合は予定を大幅に余して終了したのと対照的だった。(最後まで傍聴したのは記者一人だったというのは解せない)

 そんなわけで、卯月委員長が感動したトレイルランナー・鏑木毅氏の話を紹介する。

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写真提供・鏑木氏(以下、同じ)

 鏑木氏は46歳。わが国のトッププロのトレイルランナーだ。トレイルランニングとは舗装路以外の山野を走る競技。鏑木氏は、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランの周り168㎞、累積標高差9,600mを制限時間46時間以内で走破する大会で2009年には22時間で走破し、わが国最高位の3位に入賞している。つい先日も、香港の大会で100㎞の山道を走ってきたという。

 鏑木氏は次のように語った。

 「トレイルランニングは欧米がさかんだが、わが国でも3~5年前から盛り上がってきた。ランナー人口は15万人くらい。私は普及させるためにいろいろ活動している。富士山の大会では約2,300人の参加者のうち約450人が外国人。かなり高い比率だ。

 〝マウントフジ〟は日本語の固有名詞でもっともよく知られている言葉ではないか。外国人ランナーは一様に日本の山を褒める。わが国は世界で3番目の森林率の高い国。都心から1、2時間くらいでアクセスできる。多様性と繊細性では世界一。〝山を走るなんて〟とネガティブに考える人もいるかもしれないが、苦しい壁を乗り越える感動はスポーツでしか体験できない。3日間走り続けた人を迎えるときは、自分も涙を誘われる。感動の中にエネルギーがある。

 その一方で、ごみの量には驚かされる。ボランティアでゴミ拾いも行うが、ひどさに涙が出る。林道などは行政で整備されているのに利用しないから荒廃も進んでいる。

 富士山の大会では11市町村を走るので、それぞれの地域の食品・食材などを活用したイベントもできる。スポーツを使えばいろいろな展開ができる。大きな流れの渦を作りたい。文化を育てる社会的意義も大きく、景観づくりにも役立てることができるはず」

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 懇談会での各委員の主な意見を紹介する。(順不同)

 池邊このみ委員(千葉大大学院教授) 利害関係がからんでくると合意形成が難しい。森林・林業や農業が景観を支えているが、現在の補助金制度は景観の視点が欠落している。この点からもお金が入る制度を考えていい

 小浦久子委員(大阪大大学院准教授) 景観計画をどうして作ったかの意味をきちんと伝えないといけない。富士山のように目標がある程度共有されていれば引っ張っていけるが、景観計画の内容や計画に示す基準の意味をつたえる必要がある

 西山徳明委員(北海道大教授) 「富士山の姿(景観)をまもる」という目標は明快で共有しやすいが、どこまでが視対象(見る対象)としての「富士山」なのかを明確にすべき。「富士山」の姿のなかに反射するメガソーラーは作るべきではないが、その外側は事情が違う

 山畑信博委員(東北芸術工科大教授) 静岡県はメガソーラー規制の面積要件を1,000㎡以上にしているが、その根拠が希薄

 卯月盛夫委員長 景観計画は運用段階で「どうして」という説明ができないと利害関係の調整が難しくなる。メガソーラーは何が問題なのかをもっと明確にするべき。エネルギーと公共公益の調整も難しい問題がある。富士と一緒にみんなきれいにしようというのは、景観はお金を生むかもしれないヒントになる。農業と林業の疲弊は景観を保てなくなることにつながる。イベントを活用してもっと利用・活用する必要がある。景観は歴史とつながっているという新しい視点が必要(全体のまとめとして)

 

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三鷹市牟礼の「母力みたか・むれ」

 旭化成ホームズは12月21日、コミュニティ形成型賃貸住宅見学バスツアーを報道陣向けに行った。子育てをテーマにした「母力(BORIKI)」、ペット共生型の「+わん+にゃん」、入居者を女性に限定した「New Safole」で、それぞれコンセプトを明快にし、オーナーと入居者のニーズをマッチングさせているのが特徴。目先の利回りを優先した提案ではなく、中長期的に競争力のある商品企画がいかに大切であるかを再確認させた。

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武蔵野市の「母力むさしの」

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 最初の2物件は三鷹市牟礼と武蔵野市吉祥寺北町の「母力(BORIKI)」。「母力」については、2年前に竣工した「吉祥寺北町」(22戸)の見学会の記事を参照していただきたいが、母親の声を商品企画に生かしたもので、入居者同士が近所づきあいで子育てを共感し、みんなで子どもを見守りあえるよう仕掛けを施したもの。

 居室は居室を細かく区切らず、引き戸を開閉することで使い勝手をよくしており、広い中庭を設けることでコミュニティ形成がスムーズに行えるよう工夫を凝らしている。

 企画がヒットしたことは、オーナーや入居状況からよく分かる。「吉祥寺北町」の8代目という賃貸オーナー(58)は、代々受け継がれてきた地域の財産ともいうべき巨木を残し、地域のコミュニティ形成も応援したいという願いを実現できたことを次のように話した。

 「平成22年に父をなくし、母親一人が住むには広すぎるので、建て替え・土地活用を考えた。ハウスメーカーなどからいろいろ提案を受けたが、銀行を通じて提案された旭化成ホームズのプランが私の心を動かした。敷地内の樹齢100年はありそうなケヤキ2本と松を残す条件にぴったりだった。良好な環境を作るのは私たちの責任だし、30歳代から40歳代の子育て世代に入居してもらうことで地域貢献にもつながる。兄と弟も快諾してくれた」

 入居が始まって2年が経過し、ハロウィン、クリスマス会、雪かき、節分、花見、夏まつりなどが入居者の自発的な発案で行われているという。2年間で3戸の退去があったが、一般募集は行わなくてもウェイティングだけで決まったという。

 もう一つの三鷹市牟礼の「母力(BORIKI)」(20戸)も同じコンセプトだ。最寄駅からはかなりあり、建ぺい率40%、容積率80%という厳しい制約の中で、敷地約776坪に大きな中庭を囲むように2階建て2棟が建設されている。11月下旬から入居が始まっており、家賃は相場より数千円高めの設定だそうだが、現在、キャンセル住戸が1戸のみ。

 このオーナーはアパートや老人ホームなど多くの賃貸物件を所有しているが、同じものは望んでおらず、社会貢献にも関心があったことから、銀行を介した同社の提案を受け入れたという。

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武蔵野市の「母力むさしの」

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「母力むさしの」の前でインタビューに答えるオーナー

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 ペットマンションも女性専用マンションも、ペットや女性を理解していないと是非を論じられない。65年間も生きてきて女性が理解できない記者が、ましてや物言わぬ犬猫が理解できるはずがない。

 同社の説明ビデオで、若い女性が「この子」「本人」と言っているのを見て、どこに子どもがいるのだろうとパワーポイントの画面を凝視した。犬もネコも生まれた環境に慣れれば、外で飛び回らなくてもネズミを食べなくても平気でむしろ外に出るのを怖がるということを聞いて、なるほどとは思ったが、去勢された犬猫は産みの苦しみも育てる喜びも味わえないのは果たして幸せなのか考えてしまった。

 よって「+わん+にゃん」(10戸)、女性専用の「New Safole」(11戸)については深入りしない。そのようなニーズは確実にあり、目先の利回りのことしか頭になく、経年劣化による設備の陳腐化、競争力の低下のことなどあまり考えてこなかった貧弱な賃貸市場の反映だ。

 双方とも賃料が相場と比較して若干高めであるのに、入居募集がスムーズに進んでいるのは商品企画がオーナーやユーザーに理解されているということだろう。

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 今回見学した3つの商品「母力(BORIKI)」、「+わん+にゃん」、「New Safole」に共通するテーマはコミュニティだ。記者はこの1カ月の間にコミュニティに関する記事4回書いている。マンション管理協の報告会が2回、三井不動産レジデンシャルのイベントとニュースリリースに関することだ。そして今回で5回目だ。

 それぞれが全部つながっている。ひょっとすると、来年はコミュニティがより重要なテーマになるかもしれない。

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ペット共生賃貸住宅「+わん+にゃん」

三井不レジ 良好なマンションコミュニティの価値は250万円!? (2014/12/18)

マンション管理協2年間に全4冊1,630枚の研究調査報告書(2014/12/15)

「へーベルメゾン母力むさしの」 コンセプトがズバリ的中、完成前に満室(2012/9/24)

 

 

 

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名嘉氏

〝うその塊〟を明らかにするのが私の責務

 「2011年3月11日。

 まさかこの日が、この家で生活する最後の日になろうとは、露にも思っていなかった。

 その日は朝から晴れ、春の気配がかすかに漂い始めていた。

 揺れは突然やってきた。大地がうなり声を上げた。

 私は自宅(双葉郡富岡町)で業者と打ち合わせをしていた。まずドンと縦に揺れ、その後、横に揺れだした。それはどんどん大きくなり、立っているのさえ、やっとになった。

 …

 ――ひょっとしたら――。

 不吉な思いが胸をよぎった。

 大きな津波が来襲すれば、第一原発は危うい。

 一番の心配は、海水ポンプが『5円玉』のところにあることだ。『5円玉』とは海抜5メートルをさす、私たちの隠語。5メートル以上の津波がきたら、海水ポンプは間違いなく水没する。そして、確実に機能を失う」

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  冒頭の文章は、福島原発の稼働時から現在までの約40年間、現場の最前線で保守・点検の業務を行ってきた技術者・名嘉幸照氏が書いた「〝福島原発〟ある技術者の証言」(光文社、四六判、本体1400円)のプロローグの書き出し部分だ。

  名嘉氏は1941年生まれの73歳。沖縄県出身。大学時代、米兵が起こした事件に憤り学生運動を起こしたことから石もて追われるように東京に脱出。その後、日本郵船の乗組員として世界を駆け回り、単身渡米。GEに入社。1973年、福島原発スタート時から今日まで約40年間、原発の最前線で保守・点検の業務に携わり、80年には東電の協力会社「東北エンタープライズ」を設立。現場で指揮を執るとともに、若い技術者育成に取り組んでいる。

  本著を読むと、原発を知り尽くしている技術者の危機管理能力が欠如した政府に対するいら立ちがひしひしと伝わってくる。

  以下、11月27日に行われたNPO法人OSI(沖縄環境・観光産業研究会=代表:百瀬恵夫・明治大学名誉教授)の第104回勉強会で名嘉氏が講演した一部を紹介する。

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  あってはならない事故が発生しました。真実を国民の前に示さないといけない。私は技術屋、書くのは苦手で〝なんで俺が〟という思いもありましたが、〝うその塊〟を明らかにする責任を感じ書きました。何とか出版できたのは編集の仕事をしている娘のお蔭でもあり、娘からは「正直な告発本だね」と褒められました。

日本の原発行政 事故は避けられなかったか

  原発にはPWR(加圧水型)とBWR(沸騰水型)の2通りのプラントがあります。PWRは原子炉の中で発生した高温高圧水を蒸気に変えてタービンに送り、発電機を回すもので、BWRは原子炉の中で蒸気を発生させ、それを直接タービンに送る方法です。違いはそれほどありません。産業用として日本が採用したのはBWR型が東京電力、中部電力、北陸電力、中国電力、PWR型が関西電力、四国電力、九州電力、それと北海道電力です。

  福島原発の1号機、2号機、6号機は東電からの発注を受けてGEが直接建設しました。私がGEで教育を受けて任務に就いたのは1973年でした。

 その後、ずっと事故対応を行ってきました。その原因が設計・施工に起因するのか、あるいはメンテナンスの不備から来るものかなどを判断し、報告するのが私の任務でした。

 この間、様々なトラブルを解決してきました。私は「聴診器」を持ち歩いていました。先端が尖った金属の棒で、一方をタービンなどの機器に当て、もう一方は耳に当てて伝わってくる「音」を聞くためです。医者の聴診器と同じです。瞬時に原発の健康状態を診断してきました。(名嘉氏は2年前から激しい難聴に苦しんでいる。激務との関係は不明だが、間違いなく職業病だろう)

 今回の事故を経験して肌で感じたのは、政府が「原発は安全」を繰り返し、そのリスクをきちんと公表してこなかったことに根本原因があるということです。大きな政策の誤りで、それが今回の事故につながった。悔やまれてなりません。

 事故は避けられました。起こした責任をだれが取るか。国民も政府も電力会社もみんな取るべき。原発に国境はない。全世界に対して謝らないといけない。技術先進国としてわれわれ国民は恥ずかしいと思わないといけない。

事故後の東電と政府の危機管理について

  当日の夜、私は社員14名といわき市のビジネスホテルに避難しました。現場から全然情報が入ってこなかった。危機管理がなっていないのに愕然としました。非常にあせった。一方で、GEのOBや国際的なシンクタンクから連絡が次々に入ってきました。アドバイスをもらって12日の夕方、東電と原子力安全・保安院に今後の展開をシミュレーションしてメールとファクスを送りました。

 事態はどんどん悪化していきました。3月16日夜、名前は知らなかったのですが、ある大臣から携帯に連絡が入りました。「状況が名嘉さんのシミュレーション通りになっているが、どうして分かるのか」という内容でした。そのあと専門的なことを秘書の方と話しましたが、大臣は細野さん(豪志氏、当時内閣総理大臣補佐官)でした。

 その時感じたのですが、非常に重大なことであるにも関わらず、東電は適切に情報を伝えていないことを知った。身震いがしました。今でも東電幹部は机上の技術しか知らないのではないかと思うと、腹も立ちます。

 菅総理が13日にヘリで視察したことはマスコミなどで批判されましたが、私は東電から適切な情報がもらえなかったやむに已まれず取った行動であり、現場に飛んだのは正しいと思う。菅さんには私の考えを届けていませんが、選挙に落ちたら慰めてやろうと思っています。

福島原発の現状と今後の課題

 今後、メルトダウンした3基の原子炉を廃炉に向けどう冷やすかですが、不幸中の幸、冷やしているシステムはかろうじて維持されています。

 格納容器(Dry well)は原子力規制法に基づいた施設じゃないといけないが、現状は全て仮設の設備で運用されています。したがって常にリスクがあると考えないといけない。水漏れなどで放射能が飛散する恐れは十分ある。

 廃炉に向けたロードマップが政府、東電から発表されていますが、廃炉までどれくらいかかるのか全く見通しが立っていません。これからも注視しなければなりません。

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 名嘉氏はこのほか、沖縄県の電力行政と危機管理、安謝港⇔読谷村までの自然再生と開発についても講演した。電気料金は東電並みに高く、これが沖縄の経済発展を阻んでいる要因の一つで、火力発電設備の老朽化や危機管理、さらには普天間基地が存在することも認識しなければならないと指摘した。

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 名嘉氏は著書のエピローグでこう綴っている。「私は、あの日米の地上戦で廃墟になった沖縄戦の生き残りである。平和がなによりも大切だと思っている。原子力も、日本が平和で豊かに暮らすための、産業であると思い、自分の生涯を賭けてきた」原発事故には「わが身が引き裂かれるような痛みを感じる」と。

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 OSIは2003年6月設立。沖縄の自然保護、環境保全及び自然と人間との調和が全てに優先することが基本理念で、沖縄県内の諸団体、企業、住民が主体となり、海洋資源、文化資源の開発や新しいシステムを確立することが目的。これまでほぼ毎月1回、東京を中心に勉強会を行っており、今回が104回目。

 百瀬氏は中小企業研究の第一人者で、「泡盛」を全国区に広めた貢献者としても知られる。現在、明大校友会副会長、明大体育会柔道部明柔会(OB会)名誉顧問、明大マンドリンOB倶楽部最高顧問などを務めている。

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百瀬氏

カテゴリ: 2014年度

 国土交通省は12月17日、「第5回住宅団地の再生のあり方に関する検討会」(座長:浅見泰司・東大大学院工学系研究科教授)を開き、住宅団地再生に係る課題と住宅団地の実態調査計画について話し合った。

 団地住宅再生に係る課題については、①合意形成に係る課題②事業資金の確保に係る課題③建築規制上の課題④その他がまとめられ、住宅団地実態調査については、全国的な住宅団地のマクロデータの収集と、東京都内の約500団地程度の旧耐震及び築30年以上の分譲マンションについて詳細な実態調査を行うとしている。

 次回に予定されている2月の会合を経て、3~4月には一定の方向性を示すことになっている。

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  この「検討会」は初めて傍聴した。個人的には16委員の中で紅一点の櫻井敬子・学習院大教授の話が聞きたかったのだが、欠席されたのが残念だった。論議は、これまでの会合で課題がすべて出尽くしたためかあまり活発に行われなかった。

 注目したのは、マンション建て替えや共用部分の変更など特別決議事項で「無反応者」(成年後見人制度とは別で、総会に出席も委任状提出も議決権行使もしない人と思われる)に対しては議決の母数から外すなどの緩和措置をとっていいのではという提案だ。

 記者も考え方としては基本的には賛成だ。しかし、これは問題も多い。そもそも現行の区分所有法では「無反応者」という概念はない。仮に母数に「無反応者」を除外し建て替えなどの特別決議を行ったら間違いなく法律違反になる。「無反応者」を母数にカウントしたら賛否が逆転する場合などは決議そのものが無効となる可能性もありそうだ。これを解消するには区分所有法を改正しないといけない。

 この問題について、提案された委員にメールで聞いた。早速、その返事をいただいた。この委員の提案は、現行区分所有法の改正が必要な事項として提案したもので、具体的には2/3以上の出席により特別集会が成立し、出席者の3/4で決議するという提案だ。現行3/4を2/3に緩和する法改正でもいいのではないかとしている。「無関心で決議に参加しないことは、権利を放棄することであるという意識を拡げることが好ましく、現在は、無関心者は反対票を投じることと同じになっている」と指摘している。

 (国会では「無反応者」=「棄権」をどう判断しているのだろうと思い、事務局に聞いた。憲法では「両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し…」とある。ところが、衆議院本会議では出欠を取らず、採決方法は①起立②記名③異議なしの3種類がある。記名の場合で賛成の白票と反対の青票のいずれも提出しない、あるいは退席した場合は「投票なし」となる。つまり、出席議員をカウントしていないから、結果的に棄権した議員は母数には含まれないことになる。棄権した議員を「出席議員」に含めるか除外するかは憲法学者間で論争があるそうだ。そもそも国会議員は理由なくして本会議を欠席することは基本的にありえず、賛成でも反対でもないという意思表示はありえないということか。記者はこの前の選挙で投票に行き、投票用紙を受け取ったのち「棄権します」と意思表示したら、用紙は没収された。投票率には反映されるのだろうか)

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 もう一つ、提案したいのはマクロの視点は必要だが、いくらデータを収集しても問題の解決にはつながらない。ミクロからのアプローチが絶対欠かせない。

 調査項目には、デベロッパーの開発姿勢、中古市場での評価、空き家の発生率、高齢者人口比率、世帯年収、行政の街づくり方針なども加え、総合的複合的に考えないと展望は開けないだろう。

 委員から出された「郊外の住宅団地の再生を市場原理のみで対応するのは困難であり、政策的な対応がないと困難である」という意見に賛成だ。追加費用が負担できない高齢者などの区分所有者に対しては国や自治体が権利を買い取り、賃貸化すれば合意形成もやりやすくなると思うがどうだろう。

カテゴリ: 2014年度

  旭化成ホームズのくらしノベーション研究所が「食」にまつわる意識と行動の実態について、アンケートと写真日記を交えて調査した結果をまとめた。共働きの増加など家事にかけられる時間は減り食の簡便化が進む一方で、30代を中心に手作り志向や食を通じて暮らしを楽しみたいという意識傾向があること、毎日食事を手作りする家族は暮らしの満足度も高いことなどが明らかになった。

 調査対象は、一般戸建て居住者719件と旭化成ホームズのへーベルハウス居住者380件の既婚女性で、回答者は週5日以上夕食の調理を行っている人。

 食事の支度に対する調査では、「いつでも手料理にはこだわらない」という回答がトップで、「食事はいつも手をかけたい」が続く。

  日常の食事の支度では「毎日夕食を手作りする」人は3割強、「購入した冷凍食品や総菜だけで夕食にすることに抵抗を感じない」人は約3割、40代で「出汁をとって味噌汁を作る」「魚をさばく」人は約2割、「一汁二菜以上が必ずある」人は約1割という結果が出た。

  日常の生活の中で「食生活を大切にしたい」と考える人は約9割に達し、「わが家の伝統料理・母の味」があるのは4割だった。

 また、夕食に手をかけられない日がある人は67%と多数だが、本当は手作りしたいと思っている人とそうでない人、つまり「手作りアンビバレント層」と「中食・外食層」に分かれた。「手作りアンビバレント層」はその手作り志向と、実際にできない時に生まれる感情の間でゆれながら暮らしている実態が浮かび上がった。

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  忙しい主婦・主夫が多いから、夕食に手間をかけられず、レトルト食品に頼らざるを得ない実態が浮かび上がるだろうと予測はついた。しかし、夕食に手が掛けられない日がある人が67ェに達し、「購入した冷凍食品や総菜だけで夕食にすることに抵抗を感じない」人が約3割に達しているのはショックを受けた。わが国の食文化は崩壊しているのではないかと感じた。そこで、記者なりに考えた。いったい「手料理」とは何か、についてだ。

 常識的に考えれば、作る側が食材に手間をかけて作る料理で、スーパー、コンビニなどで買ったものをそのまま食卓に出したものとか出前料理などは該当しないのだろう。レストランなどで食べる料理は「手料理」と呼ばないから、作る側が手間をかけることが重要な要素なのだろう。

 ここで問題になるのは「手間」とは何かだ。例えば刺身。スーパーで買ってきたトレイ付きをそのまま食卓に並べても誰も「手料理」とは呼ばないが、美しい皿に盛りつけてシソやワサビ、季節の草花を添えたらどうなのか。カップラーメンに湯を注いだだけでは手料理とは呼ばないだろうが、袋入りの麺をゆでてチャーシュー、もやし、ワカメ、なると、海苔などを入れたものは手料理にならないのか。固形のふかスープを加えるとふか入りラーメンになる。記者はこれをよく作った。

 問題は食べる側にもありそうだ。作る側が手間をかけて作ってくれたという認識が重要ではないか。もちろんそこには肝心の「味」も重要な要素ではある。しかし、作り手の技量、時間、家計などを食べる側が考えたら、「味」は絶対的な要素ではない。もっとも重要なのは作り手の愛情をその料理に感じられることではないかと記者は結論づけた。

 つまり、作り手と食べる側が相互に理解しあい、愛情を込めたことが双方で知覚できたものこそが極上の「手料理」ということになるのではないかと。手間には双方の人間関係を築く作業=愛情も含めないとそれこそ骨折り損のくたびれもうけになってしまう危険性をはらむ。

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上神田氏と上神田氏が描かれた額「饌」

 料理の専門家は「手料理」をどう考えているのか知りたくて調べた。大学や調理専門の学校などに問い合わせ、ネットでも調べたが答えは得られなかった。本屋でも探した。レシピ本はそれこそ数えきれないほど並んでいた。ところが、料理とは何か、手料理とは何ぞや、食文化はどうあるべきかなどといった本質的な問題について触れている料理本はほとんど皆無だった。

 しょうがないと諦めて立ち去ろうとしたとき、「調理師という人生を目指す君に」(ダイヤモンド社、46上製、224ページ)というタイトルの新刊本が記者の目に飛び込んできた。著者は新宿調理師専門学校学校長上神田梅雄氏とあった。これだ!と思った。

 当たって砕けろだ。早速、インタビューを申し込んだ。いらっしゃったら受けていただけるという確信があった。そしてすぐ、インタビューは実現した。

 上神田氏は次のように語った。

 「『手作り料理』という営業上使っている言葉はあります。わが国の伝統的な食文化がユネスコの無形文化遺産にも登録されました。しかし、外国人に日本の食文化とは何かと聞かれて明確に答えられる人は何人いるでしょう。わが国の食文化の原点は『おふくろの味』、家庭料理なのです。おばあちゃん-おかあさん-子どもへと継承されるべきものなのです。お・も・て・な・しです。今はそれが壊れています。ミシュランなどで多くの星が付けられる営業的料理が最高だといわれています。たしかにそれらはいい食べ物ではあるが、心が込められた、見返りを期待しないおふくろの味とは品格がちがいます」

 上神田氏は調理人を目指す若者ももちろんだが、我々にも通じる〝人間学〟について次のように話した。

 「最初の10年は師に学ぶのです。次の10年は食材に学ぶのです。心の耳で食材に教わるのです。そして次の10年はお客さまに学ぶのです。最終的に人間としてジャッジしてくださるのはお客さまだからです」

 もう一つ、上神田氏のドキリとする短い言葉を紹介する。

 「料理人は学歴が無くてもなれますが、心が綺麗で、賢くなくてはいけません。なぜなら、作り上げた料理に、その全人格が紛れもなく表れてしまうからです」(同著、196ページ)

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 どうして、ここまで長々と「手料理」や上神田氏の話を書いたのか。それはやはり最初の食文化、食育につながるからだ。ハウスメーカーは住宅供給を通じてわが国の住文化を次世代に継承する役割を担っている。そして食文化もまた人格形成に深くかかわっている。「愛」の視点から考えれば、「手作りアンビバレント層」問題は解消されるはずだ。

 住文化と食文化を「愛」のキーワードで繋げ、快適な暮らしを提案してほしい。

カテゴリ: 2014年度
 

 

 

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