間伐材・端材を積極活用 三菱地所ホーム 新オフィス/七夕に愛と死と街路樹を考える
カフェ空間「Ground」
三菱地所ホームは7月7日、本社を国際赤坂ビルから新宿イーストサイドスクエアに移転したのに伴う、様々な機能を実装した新オフィス「TOKYO BASE」をメディアに公開した。
新オフィスは、三菱地所グループとしては初めてABW(Activity Based Working)を採用し、座席は固定席から自由に選択できるフリーアドレスに変更。全ての社員のパフォーマンスを最大化する「MJH10のワークポイント」を設けた。
また、カフェ空間や執務エリアに社員が休息するリチャージスペースを設け、構造材を産出する取引先から提供を受けたスギ、ヒノキ、カラマツの間伐材の原木を設置している。
社会課題への関心・具体的な取り組みを促進できる機能として、国産材、端材を活用したカフェ空間「Ground」、原木5本と人工芝を施し、自然音をハイレゾ音源で再生する音響効果による仮想の外部空間「Mori」、執務エリアと「Ground」を仕切る全面ガラスウォールを採用している。
さらに、オフィス内でカラマツの苗木を育てる「(仮称)苗木の循環プロジェクト構想」をスタートさせた。
新本社は、都営大江戸線・東京メトロ副都心線東新宿駅に直結する新宿イーストサイドスクエア7階の延べ床面積571坪(1,890㎡)。デザイン企画は三菱地所ホーム。設計監理はイトーキ。施工はイトーキ、三菱地所ホーム。
カフェ空間「Ground」受付カウンター
スギの原木
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この日(7月7日)、小生は糖尿病の定期検診があり、取材時間には間に合わなかったが、リリースをコピペしたくなかったので、少しは見せてくれるだろうと若松河田駅近くの病院から隣駅・東新宿駅にある同社新オフィスに電車で駆けつけた。
受付カウンターなどいたるところに木を活用した空間が演出されているのを眺めていたら、広報担当の女性から声を掛けられ、「皆さん、このように願いごとを書かれています。『糖尿が治りますように』とでも書いて下さい」と勧められた。
七夕といえば中学生のころだ。お金持ちの娘の彼女と貧乏百姓の息子の自分が結ばれるはずがないと思いながらも、満天に広がる天の川の星空を見上げながらはらはらと落涙したものだ。
そんな甘くて切ない遠い思い出を呼び覚ませてくれた彼女の勧めを無粋に断るわけにもいかず、治るはずもないのに「糖尿が治りますように」と短冊に書いた。
笹の葉には、「仮想通貨が値上がりしますように」「プードルを飼いたい」「楽しい旅行がしたい」「娘と仲良くしたい」などと、夢も希望も愛の欠片もない我欲に満ちた言葉が書き連ねられていた。書いたのはメディアの方か社員の方か知らないが、七夕はもはや死語だ。東京の空から星が消えてからどれくらい経つのか。
「Mori」
「Mori」に設置されているプロダクト
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彦星と織姫の続き。皆さんは西田佐知子さんの「アカシヤの雨がやむとき」をご存じか。60年安保と同じ1960年にリリースされた歌謡曲で、当時の世相を反映した曲として大ヒットした。70年安保の世代の小生ではあるが、この曲はよく歌った。
なぜ、こんなことを書くのかというと、先日、三菱地所が新国際ビルに設けた「有楽町SLIT PARK(スリット パーク)」を取材したとき、近くの道路の街路樹にアカシヤ(ニセアカシア)が植えられており、そこからこの曲と清岡卓行の1970年の芥川賞受賞作「アカシヤの大連」を思い出した。太平洋戦争前後の青春期に過ごした中国・大連を舞台に描いた私小説だ。その小説の一部を紹介する。
「五月の半ばを過ぎた頃、南山麓の歩道のあちこちに沢山植えられている並木のアカシヤは、一斉に花を開いた。すると、町全体に、あの悩ましく甘美な匂い、あの、純潔のうちに疼く欲望のような、あるいは、逸楽のうちに回想させる清らかな夢のような、どこかしら寂しげな匂いが、いっぱいに溢れたのであった。
夕ぐれどき、彼はいつものように独りで町を散歩しながら、その匂いを、ほとんど全身で吸った。時には、一握りのその花房を取って、一つ一つの小さな花を噛みしめながら、淡い蜜の喜びを味わった…そして彼は、この町こそやはり自分の本当のふるさとなのだと、思考を通じてではなく、肉体を通じてしみじみと感じたのであった」
「彼女の出現は、急激に、彼の心の奥底に眠っている何かを揺さぶり起こしたようであった…あの不定形な女のイメージが、しだいに輪郭をはっきりさせてきて、まさしく彼女の面影と一致するようになってきたのであった。…それは、彼にとって、生まれて何回目に経験する、大連のアカシヤの花盛りの時節であっただろう。彼は、アカシヤの花が、彼の予感の世界においてずっと以前から象徴してきたものは、彼女という存在であったのだと思うようになっていた」
「『彼女と一緒なら、生きて行ける』という思いが、彼の胸をふくらませ、それは、やがて、魅惑の死をときどきはまったく忘れさせるようになっていた」
清岡がこの小説を書いたのは、「アカシヤの雨がやむとき」から9年後の1969年、愛妻(小説に登場する「彼女」、とても美人だったとか)を亡くした47歳のときだった。そして、彼女との別れに踏ん切りがついたのか、その翌年に再婚した。
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アカシヤの並木と「彼女」を重ね合わせた何と美しい詩的な小説であることか。記者はいま、千代田区の神田警察通り道路整備事業で街路樹のイチョウが伐採されることに対する批判記事を書いているのだが、25歳の女性が住民監査請求を行い、その陳述を監査弁護士が絶賛した。その一部を紹介する。
「4月27日の深夜、大林道路の職員は私たちの目の前で無残にもイチョウを切り落としました。私たちはその間、区職員と警察に囲まれ、木に近づくことができませんでした。あの日の光景がトラウマとなり、一ヶ月以上が経った今でも工事車両を見ると手が震えます。伐採の瞬間の動画を見れば、胸が締め付けられ苦しくなります。工事をするはずのない日中でさえ、バイクの音がチェーンソーの音に聞こえ、現場に行って木の無事を確認せずにはいられません。もちろん仕事にも支障をきたしています。先ほど述べた、夏の暑さを感じやすい車椅子利用者の方の意見も然り、『イチョウを伐採しないことによる危険性』だけでなく、『イチョウを伐採することによる危険性』も考慮すべきです。
私は千代田区に生まれ育ち、これまで神田っ子として自分の故郷に誇りを持って生きてきました。神田祭は二年に一度の楽しみであり、生き甲斐でした。しかし、伐採に反対することは同時に、伐採を推進する町会長が治める町会を脱退しなくてはいけないことを意味していました。もちろん神田祭に出ることも許されません。神田っ子にとって神田祭は本当に大切な行事であり、それに出られない、自分の町会の神輿を担げないということを受け入れるには相当な覚悟が必要でした。そもそも町会云々、祭云々以前に、伐採推進派である町会長たちはご近所として私が生まれる何十年も前から家族ぐるみで付き合いのある方たちで、私のことはもちろん赤ん坊の時から知っているような方たちです。私も親のように慕っていたので、このような形で縁を切らざるを得なかったことを非常に残念に思います。これも千代田区が生んだ地域の分断です。千代田区環境まちづくり部は、環境とまちを壊しただけでなく、私たち住民の関係性も、心も全てを壊しました。これ以上大切な故郷を壊されるのは許せません。どうか私たちの声を聴いて頂けないでしょうか。私は一人になっても最後まで闘う覚悟です」
長々と引用したが、アカシヤもイチョウも同じだ。雨にも風にも負けず、車が撒き散らす排気ガスや騒音、高層ビルによる日陰などに屈せず、まっすぐに伸び、老若男女、金持ちも貧乏人も賢者も愚者も別け隔てなく樹陰を降り注いでいる。人間の数倍は生きられる。そんな伸び盛りの街路樹を「枯損木」などと勝手に決めつけ、死刑宣告をし、処分しようとしている。そんなことが許されていいのか。
七夕の今日、皆さんも考えていただきたい。同社が目指す「『TOKYO BASE』を起点に地域とつながり再造林や森林保全の大切さを社会に浸透させていく試み」に通じるものがあるのではないか。
素晴らしいの一語 市民に開放を ナイス 本社ビル木質化リノベ/対照的な歩道の雑草(2022/6/27)
「見事」「素晴らしい」監査員弁護士 女性陳述を絶賛 街路樹伐採 住民監査請求(2022/6/11)
壮大な街づくりの一環501㎡の「新国際ビル」路地裏を多目的空間にリノベ 三菱地所(2022/5/27)
パナソニック工場跡地A街区 「ららぽーと門真」「MOP大阪門真」に決定 三井不
施設外観
三井不動産は7月4日、大阪府門真市のパナソニック工場跡地約164,000㎡で開発を進めているA街区の施設名称を「三井ショッピングパーク ららぽーと門真」(ららぽーと門真)と「三井アウトレットパーク 大阪門真」(MOP 大阪門真)と決定し、2023年春の開業を予定していると発表した。
ファッションや食などの日常的な買い物体験のほか、国内外のブランドショッピングに加え、様々な体験型エンターテインメントを提供し、ワンストップで満喫できる、従来の枠を超えた商業施設を目指すとしている。
「門真」の施設の開業に伴い、1995年3月に開業した「三井アウトレットパーク 大阪鶴見」は2023年3月に閉館する。
施設は、京阪本線・大阪モノレール線門真市駅から徒歩約8分、敷地面積は約116,700㎡(約35,300坪)、店舗棟は鉄骨造地上4階建て、立体駐車場棟は鉄骨造6層7段2棟。延床面積は約196,800㎡(約59,500坪)。店舗数は約250店舗。基本設計は石本建築事務所。実施設計・監理・施工は竹中工務店。
計画では、A街区のほかB街区の分譲マンション約5,600㎡(三井不動産レジデンシャル)、C街区の会員制倉庫型店舗約34,000㎡(コストコホールセールジャパン)、D街区の事業所約7,700㎡(東和薬品)も計画されている。
コロナで市場激変 ポラス商圏 人口流入増2020年1.6万人⇒2021年2.5千人へ
ポラスの先導的モデル街区「浦和美園E-フォレスト」
ポラスグループの2022年3月期決算を先に紹介したが、同社の発表会は十分時間を割き(1時間半)、メディアの質問にも丁寧に答えるのがいい。小生は同社の分譲戸建てやマンションを結構見学しているので、遅行指標の決算数字にはあまり興味はないのだが、配布される40ページくらいの資料はなかなか興味深い。同社グループの商圏の分譲戸建て・注文住宅市場をほぼ完ぺきにとらえているからだ(どうしてそのようなことができるのか不思議)。
その一つ、同社グループ商圏エリアの分譲戸建て市場平均価格(以下、市場)と同社グループの平均価格((以下、同社)の「差」がそうだ。
さいたま地域(上尾市含む)では、市場は4,090万円であるのに対し、同社は4,685万円、その差は595万円だ。越谷地域(春日部、越谷、草加、三郷、吉川、八潮など)の市場は3,589万円なのに対し、同社は4,192万円、その差は603万円。常磐地域(松戸、柏、流山、野田、我孫子、鎌ヶ谷)の市場は3,549万円で、同社は4,242万円、その差は693万円だ。年度によってその差は縮まったり拡大したりしているが、過去4年間でみるとその差は500万円前後で推移している。
一方で、同社商圏エリアでの着工戸数に対する同社のシェアは13.3%(前年比0.6ポイント増)で、本拠の越谷地域は20.3%(同2.4ポイント増)にのぼっている。2022年度予測では、市場着工20,156戸に対し同社着工は2,903戸なので、シェアは14.4%と見込む。
この数字をどう読むか。市場価格より500~600万円、率にして14~20%高くてもなぜ売れるのか、仕入れを強化してシェア拡大を図ったらどうなるかだが、マンションも含めて同業他社と比較して基本性能・設備仕様レベルはまず負けないと記者は思う。戸建てでいえば、1階のリビング天井高を2.7mとしており、マンションでは100万円前後する収納付きピアキッチンを標準装備していることが象徴している。
問題は検討者の取得能力だろう。記者は、マンションも含めて一般的な一次取得者の取得限界価格は6,000万円(マンションも同様)とみている。同社の平均価格4,546万円(前年度比405万円上昇)からしてまだ余力はありそうだが、消費者の可処分所得が伸び悩んでいるのは気になる材料だ。
分譲戸建ての課題の一つでもある質向上では、どこもやっていないZEHレベルに引き上げるべきだと思うが…発表会で中央住宅・品川典久社長は明言を避けた。どこが先陣を切るか。
商圏やターゲットが異なるので単純比較はできないが、参考までに主な会社の分譲戸建ての直近の売上戸数(または契約戸数)と1戸当たり単価を紹介する。
・飯田グループHD 41,534戸 2,866万円
・オープンハウス 5,546戸 4,206万円
・ケイアイスター不動産 3,604戸 3,451万円
・ポラスグループ 3,050戸 4,546万円
・三栄建設設計 1,990戸 4,260万円
・三井不動産 507戸 7,591万円
・野村不動産 451戸 6,650万円
・積水ハウス 2,261戸 8,469万円※
※積水ハウスの「分譲住宅」は、停止条件付き土地分譲も含まれ、建築設計・請負も含まれる。ZEH比率は新築戸建てと同程度(90%以上)となっている。2022年1月期の分譲住宅セグメントの売上高は前期比37.6%増の1,914億円で、優良土地の仕入れや営業体制の強化が奏功し、大幅な増収増益となった。また、注文戸建住宅の1棟単価も4,265万円(前期比127万円増)と突出している。
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同社グループ商圏エリアの住宅着工戸数と人口動向を見た資料がまた面白い。このテータは毎年発表されるのだが、字が小さくてよく読めないし、商圏エリアで人口が増加するのは当たり前だと思っていたので詳細に読むことなどなかった。今年の資料には「ポラス商圏内には、メインターゲットである25~44歳の住宅一次取得層世代が2.5千人流入超過」とあった。
すると、同業の記者の方が「昨年の資料には1.6万人流入超過とあるがこれはどうしたことか」と質問した。これには驚いた。桁が違うではないか。
早速、同社から昨年度の資料を頂いて比べてみた。人口は2020年度の11,222,722人(前年比32,073人増)から11,221,753人(同969人減)へ減少に転じ、25~44歳の第一次取得層の流入出は2020年は16,038人の増加だったのが、2021年度は2,594人増にとどまっている。
エリア別にみると、2020年度は「さいたま」が8,174人、「越谷」が1,558人、「松戸」が6,304人といずれも流入増となっているのに対し、2021年度は「さいたま」は3,601人、「越谷」は944人とそれぞれ増加しているものの、人数は大幅に減少し、「松戸」は1,951人減となっている。
区市町別では、2020年は5,317人増のさいたま市、3,442人増の江東区、2,224人増の流山市など26区市が流入増となっていたのが、2021年度は4,648人増のさいたま市、3,218人増の流山市、1,669人増の江東区など流入増は18区市に減少。逆に、江戸川区、板橋区、浦安市、市川市、船橋市などは1,000人以上が減少している。
「1.6万人増」が「2.5千人増」と激減したのがどのような影響を及ぼすのか。品川社長は「売れるところとそうでないところの二極化が進んでいる。直近4-6月の反響は前年比75%だが、それでもコロナ前を上回っている」と話した。
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首都圏の人口減少が注目されている。2022年1月現在の人口は36,828,661人(前年同月比73,348人減)で、都県別では東京都が13,988,129人(同48,592人減)、神奈川県が9,231,177人(同5,160人減)、埼玉県が7,336,455人(同7,541人減)、千葉県が6,272,900人(同12,055人減)と全ての都県で減少。東京都は26年ぶり、神奈川県と埼玉県は調査を開始して以来初の減少となった。
人口減少の最大の要因は、コロナ禍での外国人の人口流失だ。東京都を例にとると、令和2年1月では577,329人だった外国人は令和4年1月には517,881人へ10.3%減少している。もっとも外国人居住者が多かった新宿区は42,598人から33,907人へ実に20.4%減少し、2番目に多かった江戸川区の35,220人(令和2年1月は38,173人)に抜かれ、3番目に多かった足立区の33,138人(同34,040人)とほとんど並んだ。
総務省のデータによると、在留外国人は2020年6月の約289万人から2021年6月は約283万人へと約6万人減少している。地方都市が一つ消えた数字だ。
もう一つは、テレワークの定着による首都圏脱出者の増加と思われるが、これは詳細な流入出の調査をしないと分からない。
総務省のデータによると、2022年5月の市区町村間移動者数は42万3842人と前年同月に比べ6万6049人(18.5%)増加し、外国人の市区町村間移動者数も5万8217人、前年同月に比べ99.3%増加した。この時期は入社、転勤、入学などで移動・異動が多い時期ではあるが、今後どのように推移するか。
参考までに流入増と流出減の上位10都道府県を紹介する。流入は埼玉県がトップで、流出は千葉県が最多。
ポラスグループ2022年3月期決算 売上高は6期・経常利益は3期連続過去最高(2022/6/30)
街路樹伐採やめて 住民の監査請求棄却 千代田区監査委員 区のアリバイ作り追認
枯損木撤去作業(6月28日撮影、東京駅近くの大名小路で)
完全に枯れていることが分かる
千代田区監査委員は6月17日、千代田区長が大林道路と交わした「神田警察通りII期自転車通行環境整備工事」の請負契約は違法又は不当な契約であり、千代田区長に対し街路樹を伐採、撤去することなく工事を行うことを勧告するよう求めた住民20人による住民監査請求に対して、請求を棄却すると通知、公表した。
請求は4月21日付で提起されたもので、監査委員は代表監査委員(識見委員:税理士・印東大祐氏)、 監査委員(識見委員:弁護士・野本俊輔氏)、監査委員(議員選出:河合良郎氏)から構成されている。
同種の住民監査請求はもう一つ5月16日に行われており、2か月後の7月15日までに通知、公表されることになっている。
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イチョウをバッサリ切り倒すのと同じように、一刀両断に監査請求を棄却した監査結果に、街路樹の味方である小生は唖然とするほかなかった。
唯一納得できたのは、監査請求者が道路整備工事契約の締結が都市計画法第2条の趣旨に反すると主張したことについて、監査委員が「都市計画法第2条は都市計画の基本理念を定めるものであり、本件工事契約の締結は都市計画と直接の関係がない」と退けたことだけだった。住民監査請求制度は憲法や法律の理念について論じる場ではないような気がする。
さらに、「II期工事区間において歩道を有効幅員2メートル以上にすることは区が当然に遵守すべきものである」と監査委員が述べているのは分からないではない。
しかし。区のバリアフリー法に基づく道路整備や都市施設・特定都市施設のユニバーサルデザイン化の取り組みは「遵守すべき」という割には進んでいない。「東京都福祉のまちづくり条例」で原則とされている「セミフラット形式」は平成30年3月時点で、道路幅員11m以上の区道約49㎞のうち整備されている歩道は約11km、約23%にとどまっており、保水性舗装として整備された歩道は約14km、約28%に過ぎない。
神田警察通りに面した税務署、学校などを目視した限りでは都市施設のユニバーサルデザイン化も進んでいるとは思えない。
イチョウを伐採してまで歩道を拡張すべきというのは合理的な考えではない。多少の不便さはあっても、それは受忍責任というものだ。都合のいい時だけ車椅子利用者、障がい者、子ども、ベビーカーを持ち出すのはご都合主義といっては失礼か。
また、東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアルには「沿道の利用状況や道路の交通量等により、歩道の有効幅員2.0m以上を確保することが困難な場合には、少なくとも歩道の有効幅員として1.5mを確保する。この場合、要所に2.0m以上の有効幅員を部分的に確保し、車椅子使用者同士のすれ違いを実現できるようにする」とあるではないか。
ひどい裁定だと感じたのは、「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」に当初盛り込まれていた「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」の「など」を削除したのを、監査委員は「部分的な変更」とさらりとかわしたことだ。「部分的な変更」ではないことは弁護士であるお二人の識見委員の方が一番よくご存じのはずだ。
法律や公文書に使われる「など」は、あれやこれやを例示する副助詞ではなく、その逆だ。脱法行為を排除するため縛りをかけているものが多い。例えば、調整区域内で建築できる都市計画法第34条第1号(店舗等)では、「業種一覧表」に数十種の業種を例示している自治体もあり、コンビニの営業時間を定めている事例もあるほどだ。
最大の論点である道路整備工事に瑕疵があると監査請求者が主張していることに対し、監査委員が下した「工事契約に錯誤による瑕疵があったとはいえない」という判断も納得できない。
監査結果では「契約書に添付された種別内訳書の『種別・細別・内訳』欄には、『枯損木』との記載があるが、これは東京都積算基準(道路編)の施工単価を適用したことからその施工単価名称(枯損木伐採工)を引用したものである。また、同じ契約書に添付された図面には『枯損木』とではなく『高木』と記載されており、本件街路樹が『枯損木』ではないという点については、本件工事契約の発注者である区と請負者である大林道路とが共通認識に立っていたものであって、本件工事契約に錯誤による瑕疵があったとはいえない」としている。
確かに、区も工事を請け負った大林道路にも錯誤はなかったと思う。双方とも「枯損木」でないことを知りながら、道路の「附属物」である街路樹を処分するために体裁を整えたということだ。これは「錯誤」ではなく「確信犯」だ。
問題の本質はここにある。CO2を垂れ流す鉄やコンクリ、その他ケミカル製品ならともかく、街路樹は生き物だ。生活環境保全機能、大気浄化機能、緑陰形成機能、交通安全機能、防災機能はもとより都市のポテンシャルなど街路樹には計り知れない価値がある。それを人間の都合で簡単に死刑・殺処分をしていいのかという問題だ。
ましてや、神田警察通りのイチョウは樹齢約60年(1964年の東京オリンピック時に植えられたという人がいる)だ。人間に例えれば育ち盛りの少年少女だ。しかも、人間と違ってこの先数十年は成長し続ける。100年だって200年だって生きるかもしれない。畏怖すべき存在だ。今伐採してしまったら取り返しがつかない。代替えはきかない。
昨年、93歳で亡くなった生態学者の宮脇昭氏は「木を植えることは命を守ることだ」と語った。その伝でいえば、街路樹伐採は人間の命を奪うこと同じではないか。その是非を今回の問題は投げかけている。人を殺していいのかと。
今回の監査結果は、平成23年に区が発表した〝伐採ありき〟の「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」のシナリオを完結させるために下請け・補助機関化した町内会組織を操り、アリバイ作りに奔走してきたことを監査委員はコピペするように追認したとしか思えない。
監査委員に求められる「(倫理規範)監査委員は、高潔な人格を維持し、誠実に、かつ、本基準に則ってその職務を遂行するものとする」(千代田区監査基準第4条)「(独立性、公正不偏の態度及び正当な注意)監査委員は、独立的かつ客観的な立場で公正不偏の態度を保持し、正当な注意を払ってその職務を遂行するものとする」(第5条)文言がむなしく響く。
◇ ◆ ◇
前段でシナリオと書いた。「ガイドライン」にはイチョウからサクラに植え変えるイメージ図が描かれている。1つ目のイメージ図では、左に葉っぱを落とした冬期のイチョウを配し、右に満開のサクラを図示している。もう一つは歩行空間のイメージ図だ。樹高はイチョウよりサクラのほうが高く、樹形も桜のほうが美しく描かれているのが分かる。協議会でこの図が度々使用されたのは容易に想像できる。町内会関係者に催眠術のようにものすごいバイアスがかかったはずだ。(サクラはだめだとは思っていないが、格が異なる。格でいえば常緑樹のクスノキだし、値段の安いシラカシなどもいい)
そして、このシナリオは、区と当初から業務委託契約を結んでいた街づくりのプロであるUR都市機構が深く関わっているのではないかと仮説をたてた。次のような質問を行った。そのURから以下の回答があった。(質問⇒回答)
1)どのような立場か(報酬も含めて具体的にお聞きします)⇒「神田警察通り沿道まちづくり整備構想」の実現に向けた、神田警察通り沿道整備推進協議会等の運営支援業務を、千代田区から受託しているものです。(区によると委託契約は平成23年度からで、令和3年度の受託費は約300万円)
2)区の道路整備計画を推進する側に立たれているのか⇒千代田区から受託した協議会運営支援業務として実施しております。
3)司会役を務めることのメリットはなにか⇒千代田区から受託した協議会運営支援業務として実施しております。
4)工事強行に対する住民の抗議活動をどう思われるか⇒工事に関しては、多様な意見があることを承知しており、千代田区において適切に対応されるものと思料します。
5)企業市民として声を出すべきだと思いますが、いかがか⇒多様な意見があることを承知しており、千代田区において適切に対応されるものと思料します。
◇ ◆ ◇
住民監査請求の現場取材を5月8日夜に行い、近くのホテルに一泊し、さらにその後2回取材した(ホテル一泊)。住民監査請求の陳述を傍聴するのは初めてだった。
今回の取材を通じて、2012年5月に「街路樹が泣いている ~街路樹と街を考える~」の記事を書いて以来継続して取材してきたことに間違いはなかったことを改めて感じた。
そもそも街路樹に注目するきっかけはもう30年以上も昔だ。涌井史郎氏が自ら立ち上げた造園会社・石勝エクステリアの社長をされていたときだ。涌井氏は「私は『木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩歩くたびに人生三倍楽しくなる』と子どもに話しているんですよ」と語った。
一歩歩くごとに人生が三倍も楽しくなるのなら実践しない手はないと、街を歩くときはいつも街路樹を眺めてきた。
そして、この1週間の間に、涌井氏の考えに通底する千葉大学名誉教授・小林秀樹氏の「複合の視点」と、東京大学卓越教授・藤田誠氏の「様々な目線」がいかに大事かを学んだ。三井不動産と三菱地所のエリアマネジメントの取り組みにも感激した。
最後に、小坂井敏晶氏著「人が人を裁くということ」(岩波新書)の「あとがき」の一部を紹介する。
「どんなに正しい決定であっても、それに異論を唱える市民は必ずいる…どんな秩序であっても、反対する人間が常に社会に存在しなければならない。正しい世界とは全体主義に他ならないからだ」
「国際化の恩恵は、有益な情報の入手などではなく、慣れ親しんだ世界観を見直す契機が与えられることだと私は思う。真の国際化とは、異質な生き方への包容力を高め、世界の多様性を受け留めることではないか。正しいことは、どこにもない。この事実が受け入れられるとき、個性を活かす世界が生まれてくる」
「見事」「素晴らしい」監査員弁護士 女性陳述を絶賛 街路樹伐採 住民監査請求(2022/6/11)
住民監査請求の行方 街路樹の価値の可視化必要 千代田区の「街路樹が泣いている」(2022/5/18)
「苦汁」を飲まされたイチョウ 「苦渋の決定」には瑕疵 続「街路樹が泣いている」(2022/5/14)
民主主義は死滅した 千代田区のイチョウ伐採 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/13)
千代田区の主張は根拠希薄 イチョウの倒木・枯死は少ない 「街路樹が泣いている」(2022/5/12)
ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/11)
なぜだ 千代田区の街路樹伐採強行 またまたさらにまた「街路樹が泣いている」(2022/5/10)
街路樹が泣いている ~街路樹と街を考える~ ①(2012/5/1)
様々な目線でかつてない試み実現 東大・藤田誠卓越教授 「三井リンクラボ柏の葉1」(2022/6/22)
「実践派」の千葉大名誉教授・小林秀樹氏 マンション長寿化フォーラムで講演へ(2022/6/18)
街路樹に溶け込むアート 三菱地所&彫刻の森 第43回「丸の内ストリートギャラリー」
第43回「丸の内ストリートギャラリー(MARUNOUCHI STREET GALLERY)」展示作品
三菱地所と彫刻の森芸術文化財団は6月28日、第43回「丸の内ストリートギャラリー(MARUNOUCHI STREET GALLERY)」を同日から2025年5月まで開催すると発表した。同日、プレスお披露目会(ガイドツアー)を行った。
「丸の内ストリートギャラリー」は、丸の内仲通りを中心に近代彫刻や世界で活躍する現代アーティスト作品を展示するプロジェクトで、今年で50周年を迎えることを記念し、新作5点、継続作品2点、入れ替え作品12点の合計19作品を展示するもの。
プレスお披露目会で三菱地所コンテンツビジネス創造部部長・小林京太氏は、「街にアートをコンセプトに1972年から開始したプロジェクトは、今年で50周年を迎える。街行く人だけでなく、就業者からも高い評価を頂いている。美しい街路樹に溶け込むアートと街の魅力に触れていただきたい」とあいさつ。
プロジェクトに協賛している彫刻の森芸術文化財団 事業推進部部長・坂本浩章氏は、「プロジェクトはパブリックアートとしては先駆的な取り組み。当初は道路が狭かったが、その後はオフィスの1階に商業施設がオープンし、認知度が高まってきた。今回の新作は注目度の高いアーティストの作品を選んだ」と話した。
同日公開した公式サイト(https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/)では、新作を展示したアーティスト4名のインタビュー動画のほか、各作品の詳細が紹介されている。
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全長1.2㎞、幅員21m(車道7m+歩行空間各7m)の仲通りは、わが国でもっとも美しい街並みの一つだろうと思う。50年前までは土曜・日曜となると閑古鳥が鳴いていた。その後、ケヤキなどの街路樹は年々成長し、歩道空間に置かれたベンチで休んだり飲食したりすることもできる。
全国の街づくりのモデルだと思う。仲通りは公道だ(都道・区道)。道路管理者は当然都や千代田区だ。その延長線の公開空地は原則、営利事業は禁止されているはずだ。この歩行者空間にアートを展示し、飲食などを可能にしたのは、2002年に設立された大丸有エリアマネジメント協会(レガーレ)の功績が大きい。
日常的に街角でアート作品に触れられるのはとても気持ちのいいものだ。小生が2年前まで勤務していた「丸の内オアゾ」には展示作品の一つ、三沢厚彦氏の「Amimal 2017-01-B2」があり、ビル内にはピカソの「ゲルニカ」のレプリカもある。
また、コロナ後も時間があると「三菱一号館」の中庭に面したワインバー「マルゴ丸の内」に立ち寄り、アギュスタン・カルデナスの「拡散する水」を眺めながら、ワインを飲む。(奥まったところにヘンリー・ムーアの「羊の形」があることは全然知らなかった)
丸の内仲通り
丸の内仲通り
三菱一号館の中庭(右がワインバー「マルゴ丸の内」。中央に「拡散する水」が見える)
アギュスタン・カルデナスの「拡散する水」
ヘンリー・ムーアの「羊の形」
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お披露目会の見学ツアーは1時間くらいしかなく、じっくり鑑賞できなかったのは残念だったが、登壇された舟越桂氏、松尾高弘氏、中谷ミチコ氏の作品とその説明はとても興味深いものだった。
舟越桂《私は街を飛ぶ》
作品について語る舟越氏
舟越氏は、作品の頭部に本、並木道、教会を配したことについて、協会は自らカトリックであり、並木道は空を飛ぶ夢を見たことがヒントにあるとし、「本は人間が作った一番美しいのは言葉だから」と語った。
記者も同感だ。日本語は何と美しいことか。人間の生と死、怒り、喜び、悲しみ、美醜などを造形する彫刻もまた、手法こそ違え小説と同じではないか。今回の作品は、100人観たら100人とも違った印象を受けるのではないか。
舟越桂《私は街を飛ぶ》舟越桂は、日本を代表する彫刻家のひとりである。人物の頭部には、教会、本、並木道が配され、記憶や思い、自然、個人の心の中にもある距離や空間的広がりを表している。パブリック作品としての希少さもさることながら、着彩されたブロンズ作品としては自身の初作品となる。作品が設置される場所の日の動きまでも考慮し着彩された人物像は、静謐さの中 にも華やかさと上品さを感じ、時間や季節の移り変わりと共に、街の喧騒と静けさに寄り添いながら、通る人々に「記憶」や「想い」を語りかけるであろう。(リリースから)
松尾高弘《Prism“Dahlia+Peony”》
松尾氏と作品の一部
松尾氏は、「光を形にした」と語ったように、ビルの内と外、人の動きによる光の微妙な変化を捉えた作品だ。(記者はサンフロンティア不動産のオフィスビルで、雨上がりのあと、室内に虹が差し込んだのに感動を覚えたことがある。太陽光の角度と屋外の庇状のガラスが演出した自然現象だった)
松尾高弘《Prism“Dahlia+Peony”》大手町ビルのエントランス左右2か所に設置された、光のインスタレーション。花の結晶として形作られたオブジェクト群は、ダリアとピオニーによる連作であり、空間に与える情感を対比的に構築する。透明なルーバー状のアクリルと、そのサーフェイスを群生するように咲くプリズムのフラワーは、風景と交錯しながら、太陽光の変化や人の往来の移り変わりを取り込み、都市とアートが溶けあいながらも、鮮やかな輝きを放ち続けるタイムレスな作品とした。(同)
中谷ミチコ≪小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥≫
作品の背面もアート(小生も写っている。下部は台座が写り込んでいるのが残念)
作品について語る中谷氏
中谷氏は、作品が展示されることについて「とても光栄だが、場違いではないかと驚いている。作品例も多くなく現実味がない」とはにかみながら話した。作品には記者も驚いた。ブロンズの裏面の半円形の円筒に鑑賞者が写り込むからだ。そして、中谷氏自身が「実はわたしはここにはいない。青い鳥も不在」と哲学的な言葉を発したのにぎくりとした。
中谷ミチコ≪小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥≫魚の泳ぐ水をスカートで大事そうに運ぶ女の子は妊婦です。全ての人は胎児だったから、この作品の主は魚です。虚と実を行き来しながら、揺らぎの中で確かなモノを探すためには、やはり物質とそれが作りだす凹凸を手探りすることが自分には大切で、だから私は彫刻を作っているのだろうと思います。凹凸に起こる無数の反転が、見る人の身体を取り込みながら、作品と一人一人の間に結ばれる関係を「唯一のもの」とする場所にしたいと思いました。(同)
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プレスお披露目会ではもう一つ、嬉しいことがあった。小林氏のあと同社コンテンツビジネス創造部主事・谷村真志氏が登壇し、作品展示について説明したのだが、どこかで聞いたことがある名前で、マスク越しではあっても会ったことがあるような気がした。顔写真をカメラに収めた。
谷村氏こそかつての三菱地所の野球部の主砲だった。RBA野球大会でも大活躍した。発表会後に語り掛けたら「5年前に子どもが生まれてから野球は全然やっていない」と話した。
野球がらみでは、先に同社が行った「有楽町『SLIT PARK(スリット パーク)』」記者見学会で、早大応援団長出身で同社の野球部応援団長でもある鈴木崇正氏から声を掛けられた。RBAのホームページで「三菱地所」「谷村」「鈴木」で検索すると結構記事がヒットするはずだ。
谷村氏
お披露目会 発表会場となった三菱ビル1階
壮大な街づくりの一環501㎡の「新国際ビル」路地裏を多目的空間にリノベ 三菱地所(2022/5/27)
アートプロジェクト「ソノ アイダ#有楽町」第3弾 11/29まで期間延長 三菱地所(2020/1/11)
三菱地所「丸の内ストリートギャラリー」 オールナイトニッポンで音声ガイダンス(2021/6/21)
希望の虹を見た 多様な働き方を提案 サンフロンティア「+SHIFT KANDA」(2021/7/28)
三井不レジサービス 接戦を制す 綾部が決勝打 三菱地所 鈴木、青地の猿芝居空し(2018/7/3)
青山メイン逆転勝ち 北野新監督 投打に活躍 三菱地所 早大応援団長出身 葬送歌?(2017/7/23)
〝母になるなら、父になるなら〟流山 記者に付きまとう30羽のハトの群れはなんだ
南流山 駅前広場のハトの群れ
6月20日の続きはまだある。午後4時過ぎだ。売れ行き好調のポラス中央住宅の「ルピアコート南流山」の取材を終え、駅前の喫煙所で一服し、朝食を9時ころに取ったあとは水一滴も飲んでおらず、さすがにお腹が空いたのでどこかで食事でもしようと駅前広場を歩いていた。突然、ムクドリでもカラスでもないハトの群れがわっと押し寄せてきた。その数ざっと30羽。
一瞬ギクリとした。小生と同様、お腹を空かせており、何とか獲物にありつこうと寄ってきたのか、それとも身内の平和を脅かす闖入者を追っ払おうとしたのか、小生との視線を逸らせ、クック、クックと小ばかにしたように距離を詰め、酔っぱらいのようなぎこちない足取りでもって後についてくるではないか。
人畜無害の記者だ。与えるものなどなにもない。糖尿の薬くらいだ。ハトは意外と獰猛とも聞いているので、ひょっとしたらヒッチコックの「鳥」のように小生に襲いかかり、目の玉をえぐり、干からびた肉に武者ぶりつく魂胆ではないかと身構え、睨みつけた。
ところが、記者の威嚇など全然怖くないのか、なおも迫ってくる。交番に駆け込む手もあったが、たかがハト相手にそんなことをしたら気でも狂ったのかとおまわりさんにバカにされるのがおちだと理性を働かせて、駅近くの飲み屋に駆け込んだ。
それにしても、さすが流山だ。〝母になるなら、父になるなら〟のキャッチフレーズの伝道師か、ハトまで街と人にしっくり馴染んでいた。
実に美しいケヤキの剪定 ムクドリ対策 柏の葉キャンパス駅前の街路樹(2022/6/22)
実に美しいケヤキの剪定 ムクドリ対策 柏の葉キャンパス駅前の街路樹
柏の葉キャンバス駅西口のケヤキの剪定工事現場(左のアメリカフウは「ららぽーと柏の葉」の敷地か)
一昨日6月20日のことだ。「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」の取材のために、柏の葉キャンパス駅西口に11時過ぎ降りたら、駅前ロータリーの「ららぽーと柏の葉」前の歩道に植えられている街路樹と思われるケヤキの剪定が行われていた。ケヤキは落葉樹なので、一般的に剪定は落葉後の冬季に行われるはずなので、不思議に思った。
そして、「三井リンクラボ柏の葉1」内覧会の取材を終え駅に午後2時半ころ戻ったら、まだ剪定工事が行われていた。驚いたのはその樹形の美しさだった。写真を見ていただきたい。きれいに箒状にカットされていた。
不思議に思ったので、工事責任者らしき人に声を掛けた。その方は「これはムクドリ対策。通行人や『ららぽーと』の利用客などからフン害(憤慨)の苦情が寄せられているので、三井不動産さんの依頼で工事を行っている」と話した。
驚いたのはそれだけではない。美しい樹形に剪定しているのはこれまた「三井不動産さんの〝自然のままの形にしてほしい〟という要望を受けたもので、カラスも飛んでこられるようにしている。全部を剪定すると、カラスに追われたムクドリは他の近隣の街路樹などに群れ飛んでいくので対策にはならない。程よく剪定している」と、その方は話した。
小生はムクドリとカラスの関係はよく分からないのだが、ネットで調べたらカラスはムクドリを襲うとある。つまり、カラスはムクドリの天敵でもあるのだ。自然はみんなつながっていることを改めて知った。
これが本来のケヤキの姿
駅前ロータリーのバス乗り場
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この工事関係者の方が話したことの裏付けを取るために柏市役所と三井不動産に問い合わせた。市からは柏の葉キャンパス駅前まちづくり協議会(UDCK)に業務委託契約を結んでおり、樹木剪定はその一環との回答があった。
千代田区役所の関係者やイチョウ並木伐採に賛成の人も反対する人もこの記事を読んでいただきたい。街づくりは50年、100年先の将来を見据えて行うものだ。一度植えた街路樹を粗末にしてはいけない。
剪定費用は安くない(樹木にもよるが1本数万円に上るものもあるとか)
西部ガス・東邦レオ「さとづくり48」にほれ込んだ 国交省 「まちづくりアワード」
「さとづくり48」ホームページから
今年度から創設された、都市の種々な課題解決や良好な環境の創造、地域の価値向上を図る先導的な取り組みなどを表彰する国土交通省「まちづくりアワード」の表彰式が6月14日行われた。
国土交通大臣賞は、岐阜県飛騨市の「人口減少先進地の挑戦!地域を越えて支え合う『お互いさま』が広がるプロジェクト『ヒダスケ!』」、まちづくりアワード(実績部門)特別賞は大阪市の大阪市高速電気軌道「Osaka Metro エリアリノベーションプロジェクト」、三重県桑名市のOn-Co「逆転の発想 潜在する空き家を借り手が発掘『さかさま不動産』」、福岡県宗像市のさとづくり48プロジェクト(西部ガス・東邦レオ)「さとづくり48(フォーティーエイト)」~宗像市日の里団地における団地再生プロジェクト~」、ジェイアール東日本都市開発「佐ヶ谷・高円寺プロジェクト(通称:AKP)」、新潟県上越市の「城下町高田の歴史・文化をいかしたコンパクトシティの推進」、群馬県前橋市の「マチスタント~前橋市アーバンデザインにより広がるまちのリノベーション~」、埼玉県朝霞市のリゾン「コミュニティデザインで創るふるさとまちづくり」(リゾン・平成まちづくり研究所2社合同)の6件が選定された。
このほか、まちづくりアワード(構想・計画部門)でも4団体が受賞した。
審査委員会(委員長:奥野信宏・名古屋まちづくり公社名古屋都市センター所長)は、「これまで経験したことない人口減少や高齢化を迎えるなか、持続的な都市・地域経営を実現していくため、まちづくりに携わる関係者が、各々の繋がりや創意工夫のもとに、人、モノ、歴史、自然、などのあらゆる資源を生かし、地域が抱える種々の課題解決、良好な環境の創造、価値の維持・向上を図る取り組みを続けていくことが期待されています。今回受賞された取組は総合的に優れており、全国のモデルとなる」と講評している。
左から東邦レオカルチュラルエンジニアリング事業部 事業部長・の吉田氏、国土交通省・宇野都市局長、西部ガス営業本部 副本部長・今給黎氏
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それぞれの受賞プロジェクトをチェックしたわけではないが、記者は福岡県宗像市の西部ガス・東邦レオ「さとづくり48」にほれ込んだ。
何が素晴らしいかといえば、築50年以上のUR都市機構(当時は日本住宅公団)日の里団地48号棟からネーミングされたという複合生活利便施設「ひのさと48」の外観だ。♪ 咲いた 咲いた チューリップの 花が ならんだ ならんだ 赤 白 黄色 どの花みても きれいだな ♪…チューリップの童謡そのものだ。見るだけで楽しくなってくるではないか。
このようなデザインのマンションを記者は見たことがない。美しい外観の集合住宅はコモンヒルズ安針台、熊本のアートポリスの集合住宅、幕張ベイタウン パティオス、多摩ニュータウン ベルコリーヌ南大沢…などが思い起こせるのだが、「ひのさと48」は異なる。昔の公団の郊外マンションの布団干しの光景に近いか。関係者によると、従前のデザインにペンキを塗っただけという。
それだけではない。「さとづくり48」のホームページには、「『さとのひWONDER BASE』入居セレモニー」「さとのBEER第9弾発売!」「さとの仲間・オーガニックパパ事務所オープン」「102号室:じゃじゃ馬工房再開のお知らせ」「\箱とKITCHEN 利用申し込みスタート/」「【103号室・カフェ】みどりtoゆかりメニュー紹介」…面白そうな活動通信がたくさん開設されている。
国交省の報道資料には、「築約50年が経過した団地群について、既存棟の活用と新築の戸建て販売というハイブリッド型の団地再生事業を行い、既存の48号棟を改修した生活利便施設「ひのさと48」を拠点に、地域コミュニティの形成に貢献している」と紹介され、受賞理由として「空き室には認可保育園や福祉療育施設、ウクレレ工房など多種多様な施設が入居しており、団地住民、学生、地元企業や域外企業、大学、移住者などがつながる取り組みは、団地再生の好例として先導性、多様性が高いと評価された」とある。
施設は、西部ガスと東邦レオが特定目的会社を設立し、その会社が所有し賃貸している。集合住宅は〝専ら居住〟が基本だが、このような多種多様な施設が入居し、それぞれが人や地域と緩やかにつながる-このプロジェクトにはこれからのコミュニティづくり・街づくりに示唆する点は多い。
国交省は、コロナ禍でもあったためか、プロジェクト発表はプレス・リリースのみで、表彰式もメデイアは写真撮影のみ可だったが、来年からは広く公開し、交流できる場を設けてほしい。
以上、「さとづくり48」ホームページから
様々な目線でかつてない試み実現 東大・藤田誠卓越教授 「三井リンクラボ柏の葉1」
「FS CREATION」について説明する藤田誠卓越教授
知らないのは小生だけかもしれないが、皆さんは東京大学の「卓越教授」という称号をご存じか。
同大学ホームページによると、称号は「本学現役教授のうち、専門分野において特に優れた業績を挙げ先導的な役割を果たしている者で、①ノーベル賞の受賞者又は文化勲章の受章者②ノーベル賞・文化勲章に準ずる賞の受賞又は業績を有する者として部局長が推薦した者に対して付与することができる」とあり、これまで2017年3月の梶田隆章教授(ノーベル賞受賞者)と十倉好紀教授、平成31年3月の藤田誠教授、令和3年9月の宮園浩平教授、同4年3月の相田卓三教授の5氏に付与されている。
称号が付与されると、「75歳までの雇用を特例的に認め、定年退職後も本学の教育研究に従事していただくことが可能になるほか、『特別栄誉教授』の称号も付与する」とある。
さて、今回はそのうちの一人、「藤田誠」教授(65)だ。付与の理由として「有機化学・錯体化学。有機分子と金属イオンの間に働く弱い結合力(配位結合)を駆動力とする巨大有機構造体の自己集合構築原理を創出した。このようにしてつくられた中空構造体にはさまざまな小分子が捕捉され、新しい機能や分子構造解析手法の創出につながった。紫綬褒章、ウルフ賞(化学部門)等を受賞している。6月に恩賜賞・日本学士院賞を受賞予定」とある。
読んでも宇宙語のように何のことやらさっぱり分からないが、「ウルフ賞」は1975年、イスラエルのウルフ財団によって設立され、賞金として10万米ドル(1ドル135円として約1,350万円)が贈られる。「ノーベル賞の前哨戦」とウィキペディアにはある。
先生は、難しい専門的な話など(相手によるのだろう)一つもしないで、分かりやすく話した。巷で揶揄される「東大話法」とは真逆だ。
その話とは6月20日、三井不動産が行った「三井リンクラボ柏の葉1」内覧会で、最上階に入居している「FS CREATION」について説明したものだ。
「FS CREATION」は、ライフサイエンス研究の基盤となる「統合分子構造解析」を主軸とする世界唯一のオーブンイノベーション拠点とのことで、藤田先生の研究室のほか、佐藤宗太特任教授の東大社会連携講座「統合分子構造解析講座」、わが国を代表する3大分析装置メーカーの島津製作所、日本電子、リガクが参画している。延べ床面積約1,400㎡、20社が出資している。
ラボ、研究室内は入室をためらったほどで、訳がさっぱり分からないおどろおどろしい機器が所狭しに配置されていた。写真を撮ってもいいか伺ったら、藤田先生は「構わない。見せられないようなものは置いていない」と平然と言い放った(猫に小判だ。何を撮っているのか小生は全然分からなかった)。
以下が肝心な先生の話。先生はプロジェクターを前に15分くらい話されたか。一言一句を伝えられないのが残念(記者は30年以上ワープロとパソコンに頼り切っているので、話し言葉を漢字に変換してメモることができなくなった)だが、先生は当初遊び心で場づくりを始めたそうだが、その後、のめり込み研究者目線、装置メーカー目線、ユーザー目線、不動産会社目線、大学目線、建築家目線からいって全てが新しい、誰も発想しなかった、異次元の「様々な目線で前例のない試みがなされている」と話した。
このことと関連するかどうか分からないが、先日記事にした千葉大学名誉教授・小林秀樹氏も「複合視点」が重要と話された。「様々な目線」「様々な視点」は同じような気がする。
その目線を一つひとつ紹介できないが、記者が目を見張ったのは研究室内のカラーリングがアースカラーの緑に統一されており、オープンラボはとてもシンプルで美しい白が基調になっていたことだ。天井高は約3m。機器などを収納するアルミ製と思われる棚も全て淡いグリーンで塗装されていた。研究に支障をきたさないようにLED照明にも工夫が凝らされていた。これを見て、それぞれのプロが侃々諤々の論議を経て実現したことが理解できた。
先生はもう一つ大事なことを話された。「理論とシナリオを完成させ予算を獲得しても、成功事例としてそれを証明する場がない。大学は定年になると研究室などを明け渡すことになっており、意欲があってもその場が確保できない」と。「FS CREATION」の「FS」は藤田先生と佐藤先生のそれぞれの頭文字をとったのだそうだ。
「三井リンクラボ柏の葉1」
「FS CREATION」内
「三井リンクラボ柏の葉1」は、隣接する国立がん研究センター東病院・先端医療開発センター・橋渡し研究推進センター(NCC)との産学医連携をサポートする施設で、敷地面積約3,611㎡、6階建て延べ床面積約10,978㎡。貸付面積は約8,227㎡。約107㎡から最大約660㎡まで複数区画貸しも可能。カフェ、ラウンジ、会議室を併設している。基本計画は日建設計。設計・監理は清水建設。施工は清水・京成共同企業体。建物は昨年11月に完成。同社は同じエリアで今後3棟のラボを建設する予定。
「三井のラボ&オフィス」事業は、本格的なウェットラボとオフィスが一体化した施設の賃貸事業で、すでにオープン済みの「三井リンクラボ葛西」「三井リンクラボ新木場1」の「都心近接型」と、今回の「三井リンクラボ柏の葉1」のような「シーズ近接型」の2つのコンセプトで展開。同社がもっとも力を入れている事業分野の一つだ。
第6のアセットクラス「三井のラボ&オフィス」 住宅不可の新木場に開業(2021/7/8)
らしき建築物発見!住宅不可の151haの江東区・新木場に88人が住む不思議(2019/6/4)
住宅不可の151ha〝処女地〟新木場にライフサイエンス拠点 三井不の新事業(2019/6/1)
世界トップレベルの診療モデル確立へ 三井不&国立がん研 病院内にホテル開業
「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」
三井不動産、三井不動産ホテルマネジメント、国立がん研究センターは7月1日、国立がん研究センター東病院(NCC東病院)の敷地内に立地する「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」を開業する。双方の知見をもとに共同企画した、がん患者とその家族をサポートするホテルで、病院と連携した人的サービスのほか、デジタル技術を用いた各種のサービス、患者に配慮した食事メニュー、ロボットによる食事配送なども行う。開業を前にした6月20日、メディアに施設内を公開した。
施設は、つくばエクスプレス線柏の葉キャンパス駅から車で約5分、柏市柏の葉6丁目に位置する国立研究開発法人国立がん研究センター東病院(NCC東病院)が所有する敷地面積約ホテル部分約3,972㎡、NCC東病院敷地約11,914㎡、地上7階建て延べ床面積約8,329㎡、客室数145室。客室面積は22.8㎡(60室)と30.0㎡(68室)がメインで、デラックスタイプは45~47㎡、スイートは60.1㎡。設計・施工は東急建設。建物は三井不動産が所有する。
建物の2Fの一部にはNCC東病院が外来拡張エリアを設置。10室の診療室を設け、うち2室はオンライン診療の環境を整え、セカンドオピニオン外来にも対応する。
ホテルの共用部には全82台のAIカメラを設置し、緊急時の対応につなげる試験導入を行なうほか、スタッフはがんに関する専門的な知識を習得し、常駐するケアスタッフが24時間体制で緊急対応する。また、AI 健康アプリ「カロママ プラス」(開発・運営:リンクアンドコミュニケーション)を活用したがん患者向け食事管理機能、「Health Data Bank for Medical」(開発・運営:NTTデータ)を用いたバイタルデータ管理機能の2つのデジタルサービスを提供し、資生堂ジャパンはがんの副作用による外見変化の悩みや不安を軽減する「メイクアップアドバイスセミナー」などを定期開催していく。
発表会に臨んだNCC東病院長・大津敦氏は「当院には毎年国内外から30万人弱のがん患者さんが来院しており、新規がん患者さんは9,000人以上となっている。当院敷地内にホテルが開業することで、がん患者さんとそのご家族の通院時の負担軽減や遠方の方の受診の利便性向上が期待できる。さらに『柏の葉スマートシティ』で進めている最先端のがん医療・研究機関と連携し、世界トップレベルの診療モデルを確立したい」と述べた。
NCC東病院の平成30年1月1日~12月31日のデータによると、年間新入院患者数は11,918人で、425の病床は満床。年間院内死亡患者数は664人。
エントランスロビー
エントランスホール
デラックスツイン(47㎡)
オストメイト対応トイレ
カフェ&レストラン「丁字屋KASHIWA-NO-HA」
配送ロボット(エレベーターに乗れるのはさすがだが、声が美しくないのが難点)
ラウンジのフェイクの観葉植物
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病人を、しかもがん患者とその家族を顧客層に据えた高級ホテルは、米国では当たり前のようだが、わが国には存在しないようだ。永遠のテーマである生と死に真正面から向き合う双方の挑戦に期待したい(地獄の沙汰も金次第の言葉をぐっと飲みこんだ)。「hospitality」も「hospital」も「hospes」も語源は一緒のはずだ。
私事だが、小生の亡妻は43歳で乳がんが発覚した。ステージⅣだった。なぜなぜなぜ、神や仏に祈り呪った。市立病院と大学病院に入退院を繰り返し、最初に医師が予言したとおり4年後に死亡した。
他の病院は知らないが、大学病院の個室は窓が小さいうえに、病室の外には鉄格子のような手摺が設けられていた。ここから羽ばたけたらどんなに素晴らしいか、外の緑豊かな庭を二人で散歩できるか、来年もサクラが見えるのか、身内のゴルフイベントに参加できるか…そんなことばかり考えた。最期のころは、病院の許可を得て寝泊りもした。何かあったら知らせてもらうように手首に紐を付けつないだ。眠ろうとすると、苦痛を伝えるためか、あるいは裏切りばかりしてきた小生へのしっぺ返しか、紐が引っ張られる。意識が朦朧とする。島尾敏雄の「死の棘」の世界だ。当然だ。まんじりともせず死の恐怖と戦っているのに、傍のソファでいびきをかいて眠っている夫を憎たらしく思わないほうがおかしい。
そんなつらい経験をしているからこそ、今回のホテルは患者や家族の悩みを解消してくれる最高にいいホテルだと思う。共用部の廊下幅は2m確保されており、客室はマンションに近い。日常の生活をホテルでも過ごしてもらおうという配慮が伝わってくる。車椅子でも利用可能にするために廊下幅は1.2mくらいあり、天井高も2600ミリ確保している。引き戸を多用、窓も大きい。呼び出しボタントイレもオストメイト対応もある。診療の前泊、後泊はもちろん、中長期滞在もありうると見た。
食事管理機能、バイタルデータ管理機能の2つのデジタルサービスは、がん患者だけでなく健常者の生活習慣病予防にも役立つはずだ。資生堂の「メイクアップアドバイスセミナー」は患者にとってとても重要なことだろうとは思うが、よく分からない。
疑問に思ったのは、がんの進行レベル・ステージが0期からⅡ期くらいならまだしも、Ⅳ期のがん患者とその家族はホテルでどのように過ごすのかということだ。同じような患者と同席して食事はできるのか、会話は弾むのか、きれいに化粧はしていてもその裏の素顔・素肌は透けて見えないのか、その光景はどのように映り、心的影響を及ぼすのか。知りたいようで知りたくない。
ある名声さくさくたる経済紙の記者が「客単価はどれくらいか」とぶしつけな質問をした。ホテル関係者は当然のことのように「公表していません」と話した。(メディア・リテラシーに著しく欠ける。答えが返ってきそうもない質問はしないことだ。取材のイロハだ)
難点も一つ二つ指摘したい。共用施設は「木調」デザインを強調しているように、すべてが本物の木を使ったカフェ&レストラン「丁字屋KASHIWA-NO-HA」やヘリンボーン床のホールはあるが、ラウンジの壁際の緑はくすんだ色のフェイクの観葉植物だった。エレベーターホールの壁面も「木調」ではあったが、シート張りだった。画竜点睛を欠くとはこのことをいう。三井不動産レジデンシャルはタワーマンションの全てのエレベーターホールに本物の観葉植物を飾ったことがある。
道路を挟んだ柏の葉公園から写す(アートは日高頼子氏「曙」)
NCC東病院