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 東急リバブルは3月29日、新たな売買仲介店舗株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:太田陽一)は、4月1日(木)に売買 仲介店舗「日本橋センター」(東京都中央区)、「松戸センター」(千葉県松戸市)、「上本町センター」(大阪府大阪市)、「藤が丘センター」(愛知県名古屋市)、「博多センター」(福岡県福岡市)の5店舗を4月1日付で開設すると発表した。

 5店舗はいずれも駅前ロータリーや大通り沿いに面するなど視認性の高い立地に位置する。今回の出店により、同社の売買仲介と賃貸仲介をあわせた全国のリバブルネットワークは202か所となる。


 

カテゴリ: 2020年度

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記者が一番好きな槇文彦氏「恵比寿東公園」トイレ(2020年9月撮影)

 記者がもっとも好きな作家のひとり、宮尾登美子さんが亡くなってから7年が経過する(享年88歳)。1973年の第9回太宰治賞を受賞したデビュー作「櫂」には次のような衝撃的なシーンが描かれている。新潮文庫から引用する。

 喜和が息を詰めている目の前で、そのとき、一軒の門口から病み呆けているらしい老婆がよろよろしながら出て来たが、そこに立っている喜和に目をくれる気力もないのか、真直ぐ便壺の前に進んで行って、足を踏ん張り用便の構えになった。便壺の傍の竈には真黒な鋳物鍋が掛かっており、その下には枯れた小枝が白く枝なりに灰を残して通路にまで燃え退っている。

 老婆は、年寄りらしい力ない小水の音をたてると、大儀そうに竈の下の火を繕ってからまた家の中へ蹌踉ながら入っていった。

 喜和は、裏の姐さんには思わず目を伏せたけれど、今度はその場に釘付けになったまま、きっかり目を瞠いていた。

 蟇痣のいっぱい浮いた、痩せた老婆の足のあいだから滴のように断続して落ちる小水、滴はその下に溢れた便壷から四方に飛び散り、煮物の鍋にも細かいしぶきになって降りかかった。用の終わり、たらたらと老婆の腿から脛を伝わった小水は、便壷から溢れ出た溜りの汚水に流れ込み、狭い通路を大雨の後のように濡らしている。老婆が紙の代わりに尻を振って着物を下したとき、垂れた股の肉が縮緬の袖を振るように小刻みに震えたことや、老婆がそのままの手で小枝を竈の奥へ突っ込み、さらには小水の散りかかった鍋の木蓋を摘んで、その丸い縁で鍋の中の煮物を均したことや、通路を引摺って入る老婆の、べっとりと濡れた着物の裾が和布のように裂け千切れていたことなど、それらのひとつひとつが退引ならぬしたたかさでもって、喜和は自分の目の中に打ち込まれる思いがした。

 このように微に入り細を穿つ女性の放尿シーンを描いた小説を記者は知らない。「4K」と呼ばれた「臭い」「汚い」「暗い」「怖い」不浄な「便所」を見事に活写している。

 糞尿汲取業を描いた小説もある。昭和12年、芥川賞を受賞した火野葦平「糞尿譚」だ。笑えるようで笑えない悲喜劇小説だ。

 主人公・彦太郎は30歳で糞尿汲取業を始めるが、やることなすことことごとく裏目に出て、政治家などの利権争いに翻弄される。ラストシーンは彦太郎の絶望的な悲しみが糞尿と共にぶちまけられる。青空文庫から引用する。

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 リヤカアの横にさしてあった長い糞尿柄杓を抜くと、彦太郎は唖然として見ている男達の中に、貴様たち、貴様たち、と連呼しながら、それを振りまわして躍りこんだ…貴様たち、貴様たち、と彦太郎はなおも連呼し、狂気のごとく、柄杓を壺につけては糞尿を撒き散らした。半纏男達はばらばらとわれ先に逃げ出した。柄杓から飛び出す糞尿は敵を追い払うとともに、彦太郎の頭上からも雨のごとく散乱した。自分の身体を塗りながら、ものともせず、彦太郎は次第に湧き上って来る勝利の気魄に打たれ、憑かれたるもののごとく、糞尿に濡れた唇を動かして絶叫し出した。貴様たち、貴様たち、負けはしないぞ、もう負けはしないぞ、誰でも彼でも恐ろしいことはないぞ、俺は今までどうしてあんなに弱虫で卑屈だったのか、誰でも来い、誰でも来い、彦太郎は初めて知った自分の力に対する信頼のため、次第に胸のふくれ上って来るのを感じた。誰でも来い、もう負けはしないぞ、寄ってたかって俺を馬鹿扱いにした奴ども、もう俺は弱虫ではないぞ、馬鹿ではないぞ、ああ、俺は馬鹿であるものか、…憤怒の形相ものすごく、彦太郎がさんさんと降り来る糞尿の中にすっくと立ちはだかり、昴然と絶叫するさまは、ここに彦太郎は恰も一匹の黄金の鬼と化したごとくであった。折から、佐原山の松林の蔭に没しはじめた夕陽が、赤い光をま横からさしかけ、つっ立っている彦太郎の姿は、燦然と光り輝いた。

 のっけから尾籠な話で申し訳ないが、紹介した「櫂」も「糞尿譚」も虚構の世界ではあるが、まったくの架空の話ではない。小生が小さいころは日常の世界だった。

 「櫂」と同じようなシーンを目撃している。いわゆる女性の〝立ちション〟だ。5~6歳のころだったか。山の端から太陽が昇りかける朝まだき、田んぼの畔に腰を屈めたばあさんが何のためらいもなく着物の裾をからげ、用を足すと、小水は湯気を立てながらキラキラと黄金色に輝き、小さな弧を描いて田んぼに注ぎ込まれた。衝撃を受けたが、男は平気で立ちションしたから、それもありかと。

 若い読者の方はご存じないだろうから、糞尿の肥料化についても触れてみたい。

 江戸時代には「馬糞掻き」という職業があったように、牛馬の糞は肥料として人糞以上に重宝されていた。小生の実家でも牛を飼っており、牛舎から牛糞を集める作業を手伝ったことがある。人糞のような嫌な臭いはしなかった。それどころか、胸いっぱい吸い込みたくなるような芳醇な香りを放った。草や藁ばかり食べているからだろう。糞は敷き藁と混ざり合うことで発酵された。

 発酵といえば、モンゴルの一般の家庭で作っている馬乳酒をもらったことがある。これが実においしい。牛乳や牛乳石鹸とも違う爽やかな香りがする。記者は〝処女の酒〟と名付けた。

 匂いといえば、メジロもツバメも糞はあまり匂わないし、兵庫県相生市の小学生兄弟のカニ研究家によると、カニの糞は全然匂わないそうだ。記者はサザエの糞(内臓の部分)も馬糞ウニも大好きだ。

 牛の話に戻す。ふすまや飼い葉など安上がりの餌(食事)に文句ひとつ言わず、田んぼを耕したわが家の牛は、年頃になると馬喰がやってきて売られていく。牛は屠殺場の匂いをかぎ取るのか、カッと目を見開き、四肢を踏ん張り、梃でも動かないぞと言わんばかりの姿勢を取るのだが、隣で肩を震わせる親父の意図を察したのか観念したのか、やがて尻尾を垂れてトラックに乗り込む姿を丑年の小生は何度も見ている。

 人糞もまた貴重な田畑の肥料となった。便壷・甕から糞尿を桶に入れ、天秤棒を使って田畑に運ぶのはほとんど女性の仕事だった。

 田の畔のあちこちにはその糞尿を一時保管する肥溜めが設けられていた。雑草が生い茂るとその所在は分からなくなり、小生は何度も肥溜めにはまったことがある。2018年に白水社から出版されたリチャード・フラナガン「奥のほそ道」(渡辺佐智江訳)には、虐待を受けたオーストラリア人捕虜が日本軍の強制労働収容所の「ベンジョ」で溺死する場面が描かれている。

 何て人間は罪深い動物か。

◇       ◆     ◇

 トイレを美しく描いた作品もある。今でも建築関係者のバイブルになっている谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」がその一つだろう。

 谷崎は「日本の厠は実に精神が安まるやうに出来てゐる。それらは必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂のしてくるやうな植ゑ込みの陰に設けてあり、廊下を伝はつて行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうづくまつて、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に耽り、又は窓外の庭のけしきを眺める気持ちは、何とも云へない」と記している。

 谷崎が書いた昭和8年当時の「厠」(トイレは和製英語)は、高級旅館や豪邸にしかなかったはずで、庶民のトイレはみんな汲み取り式の4Kそのものだったに違いない。

 とはいえ、谷崎が言うように「精神が安まるやう」な仕掛けは庶民の便所でも施されていた。

 記者の田舎では、母屋と別棟の「便所」は「手水」(ちょうず)と呼ばれ、外には手水鉢が設けられることもあった。その上部に吊り下げられたタンクのひもを引っ張ると水が流れ落ち、手が洗える仕掛けだ。使用済みの水は、手水鉢から小石を敷き詰めた地面に流れ込み、ほどなくして得も言われぬ音を立てた。水琴窟だ。不浄な便所を浄化する装置だったのだろうか。

 美しいといえば、皆さんは吉永小百合さんのレコード「奈良の春日野」をご存じか。〝鹿のフンフンフンフーン 黒豆やフンフンフーン 黒豆やフンフンフンフン〟というもので、確かB面だった。フンフンを連発しても美しく聞こえるのは吉永さんしかいない。

安否確認イベントに過去最多65%参加 三菱地所レジ・コミュニティ 津田沼「奏の杜」(2021/3/14)

「美しい公衆トイレ発信できた」安藤忠雄氏/世界からオファー 日本財団PJ(2020/9/15)

素晴らしい槇文彦氏、田村奈穂氏、片山正通氏 日本財団 渋谷公園トイレPJ(2020/9/21)

〝駅なのか街なのか〟JR東日本最大規模の「グランスタ東京」8/3開業 トイレに注目!(2020/7/30)

マンション・戸建て トイレはTOTO、LIXIL、パナソニックがデッドヒート(2020/3/24)

デベロッパーも取り組んでほしい 「TOTO商品はすべてがユニバーサルデザイン」(2020/2/3)

女性輝けないトイレ 「利用しない」公園90%、駅38%、職場30% 国交省アンケート(2017/1/21)

労働環境改善活動にエール 全国低住協「じゅうたく小町部会」に参加して(2016/11/26)

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 NTT都市開発、公共建物、第一生命保険、帝国ホテル、東京センチュリー、東京電力パワーグリッド、日本電信電話、日本土地建物、東日本電信電話、三井不動産の10社は3月25日、令和元年に国家戦略特別区域会議で都市再生プロジェクトに位置付けられている「内幸町一丁目街区」のまちづくりの方針に合意したと発表した。

 駅・まち・公園一体の都市基盤整備による開かれた街区の形成を図るほか、最先端技術を活用した国際ビジネス交流拠点の整備、高度防災・環境都市づくりを目指す。

 該当するエリアは、それぞれ三井不動産、NTT都市開発、第一生命保険が主導する「北地区」(2.4ha)、「中地区」(2.2ha)、「南地区」(1.9ha)の合計6.5ha。北地区に位置する帝国ホテルは2030年度までにオフィス棟、2036年度まで新本館を整備する。中地区は2029年度までにオフィス、商業、ホテル、産業支援施設等などを、南地区は2028年度までにオフィス、商業、ホテル、ウェルネス促進施設などをそれぞれ整備する。

 開発規模は、「六本木ヒルズ」(11ha)や「ミッドタウン六本木」(7.8ha)などには及ばないが、都心部では屈指の規模となる。

 

 

 


 

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「バスあいのり3丁目テラス」

 昨日(3月26日)、三菱地所が昨年9月に開設した都市と地方と生産者と消費者をダイレクトにつなげる屋外空間「バスあいのり3丁目テラス」を初めて自前で利用した。

 場所は、新宿伊勢丹のすぐ裏。約70坪の敷地はオープンで、東邦レオが植栽を担当しているので緑にあふれ、新型コロナ禍で外食をやめた記者にとって願ってもない店だ。

 これまでは、わざわざそこまで出かけるのもためらわれ利用していなかったのだが、昨日は年に1回の健康診断の日。「バスあいのり3丁目テラス」まで徒歩圏だったので行くことを前日から決めていた。

 健診では頭だけでなく、血の巡りが悪くなる一方なので2度も採血され、聴覚調査では音はほとんど聞こえなかった。嫌なバリウムを飲まされる胃の検査では「ゲップしないで、ハイ、息を吸って、ハイ、止めて、そのままずっと」などと言われたので、ずっと息を止めたらこのまま楽に死ねるのか、そうなったら自死になるのか、検査する人は自殺教唆に問われるのかなどと馬鹿なことばかり考えた。

 結果は昨年とほぼ同じ。糖尿はそのまま治療を続け、視力と難聴は直しようがないことを確認した。

 健診から解放され、バブルのころまでは朝までよく飲んだ「新宿ゴールデン街」を通り「バスあいのり3丁目テラス」に着いた。

 すぐ人気とかいう石巻のクラフトビール「巻風エール」と高知わら焼きカツオのスーパーフードサラダサラダを注文した。とてもおいしい。何しろ前日は一滴の酒も飲んでいない。五臓六腑に染みわたるとはこのことをいう。ビールを飲んでSDGs(いったい17項目の何番に該当するのか)に貢献できるのがいいではないか。

 2杯目のビールを注文したら「SOBA DRY」(天童市)とあるではないか。とっさに「私は蕎麦が嫌い。あなたの傍ならいいが」とスタッフに告げたら、「いえ、蕎麦ではありません」(意味が通じなかったか)とやんわりといなされた。〆て3,000円くらいか。

 課題も見つかった。タバコが吸えないのと、とにかくうるさいのだ。近くを走る新宿通りや花園通りの騒音は気にならないが、すぐ裏手のビルがのべつ幕なし〝ブーンブーンブーン〟とスズメバチのような音を立て、対面のビル工事現場(わがパソコンはビールとビルの区別がつかないのか、その都度スペルチェックを問う。〝ビルを飲む〟〝ビール工事〟などあるわけないではないか)ではキーン、ドドドッ、ガガガッ、バババッ…とこれまた休みなく耳障りな音をがなり立てる。店の中といえば、周囲の騒音を鎮めるのではなく、むしろ煽り立てる増幅するアップテンポの音楽が記者をいらいらさせる。

 音楽など誰も聞いていない。「三菱地所と次にいこう」をエンドレスで流したほうがよっぽどいいと思うがどうだろう。それとも、敷地外の音をシャットダウンし、ウイルスも排除するテクノロジーは開発されないのか。

◇       ◆     ◇

 オーライオーライ、ハイストップ ギギー レディガガー ブキューン ガー ブーン ンギャー ガリガリ…。

 生まれて初めてオフィス建設工事中のコンクリ打設工事を見物した。「バスあいのり3丁目テラス」の隣だ。コンクリートミキサー車から吐き出される生コンはてっきりロボットがホースかなんかで注ぎ込むのかと思っていたがそうではなかった。総勢十数人の人が手作業で生コンをへらやスコップ、とんぼのようなものでかき出し、均していた。

 ミキサー車からベルトコンベアーに移す際にこぼれだす生コンも相当量にのぼり、トレイに受けてそれを型枠にこれまた手作業で流し込む場面もあった。

 この間30分。休む人など一人もいなかった。よくぞ休みなくへらやスコップ、とんぽを動かせるものだ(記者は4キロの鉄アレイを左右それぞれ30回上下させるのが限界)。みんな難聴にならないか心配になった。

 ネットで調べたら、打設工事には清掃・型枠湿し(打設前・打設中)、打継部処理(ケレン・清掃)、打込み、敷き均し、叩き締め、バイブレータ掛け、荒均し、残コンクリート処理(こぼれ程度)、あと片付け・清掃(打設後)、生コン車場内誘導整理、打設工具設置手間(生コン車を除く)、打設後の散水養生…などの作業がある。コンクリート建築物の工事費が下がらないは当然だと思った。

 人の声などほとんど聞こえないくらいうるさいのに、カラスの「バーカー」という鳴き声だけは難聴の記者に届いた。

◇       ◆     ◇

 健診のために1日を棒に振ったが、ただでは起きないのが記者だ。都心の施設は音をどうして制御するか、工事現場の労働環境、労務費、機械化を考えるヒントを得た。

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ヒメツルソバ

三菱地所 生産者-産地-消費者つなげる屋外空間「バスあいのり3丁目テラス」開業(2020/9/5)

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 大和ハウス工業は3月24日、投資用不動産として取得したオフィスビルや賃貸マンションなどの物件名称を新ブランド「D’sVARIE(ディーズバリエ)」とし、再生後売却する事業を展開すると発表した。

 同社グループは2018年1月から、住宅事業ストックブランド「Liveness(リブネス)」を立ち上げ、既存住宅の売買仲介やリノベーション・リフォーム事業を展開しているが、オフィスビルや賃貸マンションなどの老朽化や空室増加、資産価値の減少などの社会課題を解決するため、不動産の選定・取得から建物の検査や品質管理、設計デザイン、工事までを実施。多様な既存不動産を市場ニーズに最適化させ、一棟まるごと投資用不動産として売却する事業を展開するとしている。

 年間10棟、2025年度には売上高300億円を目指す。

◇       ◆     ◇

 今回の新ブランドの立ち上げは、激戦の不動産再生事業に同社が本格的に参入するという宣言ではないかと記者は受け止めた。

 先日(3月18日)、同社はオンラインで「記者レクチャー会」を開催したのだが、そのとき同社マンション事業本部事業統括部部長・角田卓也氏が「投資用の需要は、金融緩和の影響もあり、コロナ禍でも賃貸レジデンスの売買を中心に好調」と話したのに注目した。他のデベロッパーもコロナ禍でもあるにもかかわらず、投資用不動産事業が伸長しているからで、同社も乱戦模様のこの市場に割って入るのではないかと思った。

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「D’sVARIE本郷ビル」

大和ハウス 分譲住宅・物流市況に関する「記者レクチャー会」 質疑応答に1時間15分

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全体では小幅の下落にとどまった 住友不動産・仁島浩順社長

 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、入国規制や緊急事態宣言下の外出自粛等により、昨年前半は経済が停滞、後半は回復の兆候が見えながらも不安定な状況が続いた。

 こうした中、商業地は国内外の来訪客が大幅に減少し、店舗やホテルなどの需要減退により三大都市圏を中心に大きく下落した。

 一方、住宅地は在宅勤務などを機に住宅への関心が高まり、希少性の高い都心部や交通利便性に優れた近郊などで需要が堅調に推移し、全体では小幅の下落に留まった。

ハード&ソフト両面で高付加価値化 東急不動産・岡田正志社長

 今回の地価公示では、全国の全用途平均は6年ぶりに下落に転じるなど、昨年までの地価の上昇傾向が全国的に広がっていた流れからは大きく変化した。用途別では住宅地は5年ぶりに、商業地は7年ぶりに下落に転じている。用途や地域によって変化の程度には差はあるものの、新型コロナウイルスの影響などで全体的に弱含みになっている。コロナ禍で商業施設や観光施設などが営業自粛や短縮営業をしたほか、消費者の外出自粛の影響による需 要の急減、そして外国人観光客の大幅減少による観光需要の激減が地価にも影響している。一方、「WITH コロナ」が続くなかで、テレワークやワーケーションなどの「新しい働き方」が広がるなどして、新たな需要も生まれている。

 住宅地については中心部の希少性の高い立地や、交通利便性等に優れた近郊の地点では地価上昇が継続するなど、根強い需要がある。当社でもテレワークが増加している事実に着目し、共用部に個室型のワークブースを設けた「ブランズタワー所沢」、関西でも仕事場所として在宅ワークにも活用可能な「ユニットスペース」を初めて導入した「ブランズ大阪福島」など独自性の高い物件を展開している。オフィス家具大手のコクヨと連携して在宅勤務用のインテリアオプションの開発を進めるなど、「新しい生活様式」で求められる住まいを検討・導入している。

 商業地では来街者の減少による商業施設やホテルの需要減退、そしてコロナ禍や景気の先行き不透明感などから全体的に弱含みで推移している。特に東京・銀座や大阪・心斎橋などの地価下落はインバウンド需要で地価が過熱気味だった場所がコロナ禍による需要喪失で修正されている一時的な現象と捉えており、「AFTERコロナ」の段階でインバウンドは復活し、これらの地域の地価は回復するとみている。また、近年、住宅地や商業地の地価上昇地点の上位に名を連ねている北海道・倶知安町では、当社グループはリゾート関連事業を展開しており、これまでインバウンド効果で地価が上昇を続けていたが、今回のコロナ禍でインバウンド需要が消失しても大きく地価が上昇した地点があった。これは「ニセコ」というこれまで培ってきた高いブランド力が高い評価を受け続けているためとみている。

 オフィス関連では在宅勤務の広がりを受け、東京都心の代表的なオフィス街にある地点の地価が下落するなど影響が出ている。一部に「オフィス不要論」などの極端な意見も出ているが、組織全体の一体感を生み出す、社内外のあらゆる人と「コミュニケーションの活性化」ができるオフィスの存在は今後も必要不可欠であると考えている。そうした環境下、当社では緑の力に着目し、緑を効果的に取り入れたオフィスビルを開発・運営する「Green Work Style」を 推進しているほか、東京・竹芝に開発した最先端の都市型スマートビル「東京ポートシティ竹芝」ではリアルタイムデータと最新のデータを活用することなどで新しい都市型ワークスタイルを提案していく。また、このビルに本社を置く ソフトバンクとともに、最先端のテクノロジーを竹芝の街全体で活用するスマートシティのモデルケースの構築に取り組んでいる。また、従来型のオフィスに加え、都心オフィスのフレキシブルな利用を可能とする新サービス「QUICK (クイック)」を導入したほか、都内で展開している会員制シェアオフィス「ビジネスエアポート」の15店舗目を東京・田町に新設するなど、働く人のニーズに合わせた全方位型のワークプレイス提供を可能にし、オフィスの幅広い需要 に対応できるようにした。

 当社が本社を置く東京・渋谷については多様な機能を持った街であり、その点を評価してIT関連などの成長企業が集積してきた経緯があり、現状、オフィス需要が極端に縮小するような懸念は抱いていない。2023年度竣工予定の「渋谷駅桜丘口 地区第一種市街地再開発事業」など、渋谷駅周辺を含む「広域渋谷圏」で新たな日常で求められるオフィス空間を提供していく。

 今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因やコロナ禍の今後の動向などを注視する必要があるが、長期的な視点では市況を悲観的には捉えていない。中長期的には少子高齢化による単身世帯の増加や空き家問題、「働き方改革」によるオフィス環境の変化等、環境の変化が続くなか、ハードだけでなく当社グループの持つ幅広い事業領域を生かしたソフトサービスという付加価値を組み合わせて事業展開を進めていく必要があると考えている。

リアルとデジタル一体化街づくり推進 三菱地所・吉田淳一社長

 令和3年地価公示は、全国平均では全用途で6年ぶりに、住宅地で5年ぶりに、商業地は7年ぶりに下落に転じた。国土交通省によれば、新型コロナウイルス感染症の影響等により、全体的に弱含みとなっているが、地価 動向の変化の程度は、用途や地域によって異なるとの見解が示されている。

 先般、一都三県の緊急事態宣言が解除された。依然として先行き不透明な状況が続くが、新型コロナウイルス感染症との共存を踏まえながら、経済活動を着実に回復させていく必要がある。

 当社グループにおいては、新型コロナウイルス感染症がもたらした本質的な変化を見極め、ポスト・コロナ時代のワークスタイルやライフスタイルに向けたまちづくりを推進していく。フレキシブルなワークスタイルに対応する商 品やサービスの拡充、個人や企業の交流が生むイノベーション・価値創造の追求、プライベートな時間を充実させる多様な目的をまちに用意、安心・安全とウェルビーイング(健康・快適・便利)を両立するサービス・技術の推進など、多様化するニーズに応える新たな価値を提案・提供していく。

 また、上記取り組みを加速させる上で、新技術の導入や都市のデータ活用などDX施策を引き続き強化し、スマートシティの実現に向け、リアルとデジタルが一体となったまちづくりを推進していく。加えて、脱炭素などの国際的な課題解決にも積極的に取り組み、サステナブルなまちづくりを通じて、社会に貢献していく。

マーケットインの発想重視 野村不動産・宮嶋誠一社長

 今回の地価公示では、全用途平均で6年ぶりに下落に転じた。ただし、変化の傾向・程度は用途や地域によって違いがある。都心部および近郊の交通利便性の高い住宅地や、地方主要都市では引き続き上昇が見られる一方、とくに国内外の来訪客増に支えられ地価が上昇してきた地域や飲食店が集積する地域では、比較的大きな下落が見られる。

 住宅市場に関しては、新型コロナウイルス感染症拡大を背景とした雇用・賃金情勢等の先行き不透明感による需要者マインドの低下が懸念されたものの、価値観やニーズの多様化による新たな需要の拡がりもあり、新築・中古ともに堅調に推移している。都心・駅前立地への評価は依然として高く、供給量の少なさもあり価格が維持されているなかで、広さ・間数・環境等を求めてより外側のエリアへの動きも見られ、近郊エリアでも交通利便性・生活利便性に優れる 物件、郊外の戸建も非常に好調である。なお中古については好調に成約が進む一方で、今後に向けては在庫の不足が懸念される。引き続き市場環境を注視していく必要があり、より価値観やニーズの変化・多様化などに対応した商品の提案が求められる。

 オフィス市場に関しては、空室率は少しずつ上昇しており、賃料については足元では大きな動きはないものの、コロナ禍による企業業績への影響の検証は継続していく必要がある。働き方の変容が進み、時間と場所を選ばないフレキシ ブルな働き方が可能な多様なオフィスが求められており、こうしたニーズに対応したオフィスの提案およびサービス提供が求められる。商業・ホテル市場に関しては、緊急事態宣言の影響もあり足元では厳しい状況が続くものの体験を伴うコト消費へのニーズは溜まってきており、需要の回復を注視したい。物流市場に関しては、高機能施設へのニーズ拡大継続を背景に、旺盛な投資意欲が継続するものと想定する。

 コロナ禍での働き方の変容は、住まい方へも大きな影響を与えており、住む/働くだけではない新しい「住まい方」「働き方」が可能な場・サービスへのニーズが生まれている。社会や人々の価値観の大きな転換点にあって、当社は顧客や市場との対話を重視したマーケットインの発想で、DXを推進しサービスの高度化を図りながら、変わり続ける社会や顧客のニーズを的確に捉えた独創性の高い商品・サービスを生み出すべく、積極的な事業展開を続ける。

 地価調査は、不動産の取引動向や中期的な展望を反映したものであり、様々なマクロ指標と合わせて今後も重要指標のひとつとして注視していく。

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「ヒルトン沖縄宮古島リゾート」

 三菱地所と鹿島建設は3月22日、両社が事業主となって開発を行う「ヒルトン沖縄宮古島リゾート」の建設工事に着手したと発表した。ホテルはヒルトンが運営し、2023年初夏に開業する予定。

 建設地は、宮古空港から車で約15分(7km)、下地島空港から車で約25分(13km)。宮古ブルーの海に面し、サンセットや伊良部大橋の全景を望むことができる。

 外観は、琉球石灰岩をイメージしたベージュ基調の低層部、水平ラインを強調した高層部、緩やかな弧を描く建物形状とする。

 客室は全329室。ツインルームとキングルームを中心に、カップルからファミリーまで対応。ファミリー向け、キッズ向け、大人向けと3つの屋外プールのほか、屋内プール、フィットネスルーム、200㎡超のボールルーム(宴会場)やミーティングルーム、チャペルも備える。

 三菱地所、鹿島とも国内でのビーチリゾートホテルの開発を行うのは初となり、ヒルトンは沖縄県内6軒目のホテルとなる。

 施設は、沖縄県宮古島市平良字久貝アゲタに位置する敷地面積約53,909㎡、8階建て延床面積約28,368㎡(ホテル棟)。客室数329室。竣工予定は2023年2月末。設計は鹿島建設。設計監修は観光企画設計社。内装デザインはWimberly Interiors。ランドスケープデザインはWATG、ランドスケープデザイン。コンストラクションマネジメントは三菱地所設計。施工は鹿島・國場・大米特定建設工事共同企業体。

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「エコアイランドにふさわしい施設整備」 三菱地所・吉田社長 下地島空港竣工式典(2019/3/17)

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完成した「目黒クリニックビルリファイニングプロジェクト」

 青木茂建築工房は3月22日、同社が設計・監理を担当した「目黒クリニックビルリファイニングプロジェクト」の完成見学会を行った。従前は築52年のRC造4階建ての外に閉じられた礼拝所+事務所だったのを、リファイニング手法により用途の変更、耐震補強、設備更新、内外装を一新し、光と風を取り込んだ付加価値のある診療所に再生したもの。コロナ禍で見学を制限したが、予定の3部構成(各35名)合計105名は全て満席となった。

 プロジェクトは、JR目黒駅から徒歩7分、品川区上大崎3丁目に位置する敷地面積約608㎡、1969年(昭和44年)竣工の鉄筋コンクリート造(地下2階地上2階建て) 延べ床面積約1,234㎡。従前は礼拝所+事務所だったのを診療所とする。設計・監理は青木茂建築工房(意匠)、金箱構造設計事務所(構造)、ZO設計室(設備)。施工は日本建設。監理は青木茂建築工房。2021年2月に竣工した。

 この日、東京のサクラの満開宣言が行われ、可憐なハナニラ(別名、キリスト生誕の星とされるベツレヘムの星)もあちらこちらで咲き誇っていた。I'm REFINING!

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青木氏(左)と取締役福岡事務所副所長・佐藤信氏

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ハナニラ

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タンポポ

◇       ◆     ◇

 このプロジェクトについては昨年10月に行われた解体工事見学会も取材している。そちらの記事も参照していただきたいし、過去の同社のリファイニング建築物についても取材したほとんどすべての記事も添付したので、ぜひ読んでいただきたい。

 今回のプロジェクトは、用途が診療所ということもあるのだろうが、従前は各フロアともほとんど片側しか開口部なかったのを、窓をたくさん設けることで南北に風が抜けるようにし、バルコニーに設置した緑を取り込み、内装にヒノキの突板とジョリパット(塗り壁)をふんだんに用いて〝癒し〟の空間を演出しているのが特徴だ。

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大きな窓と天井までのヒノキの壁(2階部分)

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全てヒノキの男性用トイレ手洗い

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男女兼用のトイレ内部

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 見学者から「全部取り壊して、新しく建設してもコストは同じくらいではないか」という声もあったが、これは全くそうではない。

 記者は、これまでもたくさんリファイニング建築物を見学してきたが、おそらく、今回の診療所を新たに建設したら坪単価は最低でも150~160万円はする。一方で、今回は躯体をそのまま利用しているので、坪単価はほぼ3分の2くらいで収まっているはずだ。

 リファイニングの凄いのは、このようにコストを大幅に削減しながら機能性もデザイン性も一新することだ。この価値をお金に換算したらいったいいくらになるか。目視で唯一従前のものだと判断できたのは、階段室の小さな窓だけだった(コストを抑えるためか、施主の意向か)。

 SDGsにも貢献している。青木氏の説明によると、新築するより83%のCO2削減を実現したという。これまた凄いではないか。この価値はいくらになるか。

築84年 都内に現存する唯一の木造見番建築物見学会 青木茂建築工房が設計監理(2020/12/15)

築51年の礼拝堂⇒診療所 青木茂氏「リファイニング」解体見学会に満席120人超(2020/10/26)

安藤忠雄氏を超えた? 青木茂氏×三井不 「氷川台」リファイニング見学会に200人超(2020/9/16)

美しい公衆トイレ 発信できた 安藤忠雄氏/世界からオファー 日本財団プロジェクト(2020/9/15)

大和ハウス工業「平和台」 同社初の「ZEH-M Ready」 申し込み殺到 早期完売へ(2020/9/15)

三井不動産×青木茂建築工房 リファイニング「初台」で見学会 過去記事も紹介(2019//12/8)

駅4分の1低層 息をのむほど美しいサペリの建具 三菱地所レジ「代々木上原」(2018/12/14)

省エネ対策に感服 三井不動産+青木茂建築工房 「林マンション」リファイニング完成(2018/3/30)

青木茂建築工房×ミサワホーム 「千代田富士見」のリファイニング見学会に450名(2018/3/1)

リファイニング建築の考案者 首都大学東京特任教授・青木茂氏が退官へ 記念講演会(2018/2/13)

ミサワホーム&青木茂建築工房 千代田区富士見のリファイニング建築見学会に250名(2017/11/9)

三井不&青木茂建築工房 築52年の市場性ない共同住宅をリファイニングで再生(2017/10/16)

三井不動産&青木茂建築工房 練馬区のリファイニング見学会に200名(2017/3/27)

築44年の寄宿舎をリファイニング手法で賃貸に一新 見学者100名超 青木茂建築工房(2016/12/21)

建築の魔術師・青木リファイニングの真髄を見た 「竹本邸」完成見学会(2015/11/17)

「リファイニング」に熱い視線60坪の建物見学に250人殺到 青木茂建築工房(2015/3/11)

リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成(2014/3/24)

全てが腑に落ちる 首都大学東京「リーディングプロジェクト最終成果報告会」(20143/19)

再生建築学の設置を 青木茂氏が三井不動産のセミナーで語る(2013/12/10)

千駄ヶ谷のリファイニング建築に見学者300人(2013/11/12)

カテゴリ: 2020年度

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 不動産流通経営協会(FRK)が3月20日行った「第15回FRK住まいと暮らしのセミナー」をオンラインで視聴した。料理研究家・有元葉子さんと長女の建築家・八木このみさんによるトーク「有元葉子 私の住まい考 家と暮らしのこと」がテーマで、ケアリングデザイン代表理事・小野由記子さんがファシリテーターとなり、有元さんと八木さんファミリーの5つの家について約1時間30分にわたって語り合う内容だった。400人以上の人が視聴したもようだ。

 紹介された5つの家とは、「イタリアの家」「自宅」「田園調布のキッチンスタジオ兼用の家」「野尻湖の別荘」「自宅兼事務所の葉山の家」だった。

 まず、イタリアの家。購入したのは1996年で、14世紀に建てられた壁の厚さが1mもある石造りの家だ。

 有元さんは東京の賃貸マンションに住んでいたのだが、旅行が好きで1年の間に3~4カ月は海外で暮らしていた。最初はイタリアのトスカーナがいいと思っていたが、なかなか適当なものが見当たらなかった。旅行中、紹介されたトスカーナの隣の田舎町にあるレストランを利用しようと車から降り立った瞬間、〝ここに住もう〟と直感で決めたそうだ。「そこは敷地の大小に関係なく、値段が同じ。土地代がないのにびっくりしました。空間に価値を見出す考え方がとても面白い」と感じたそうだ。1年かけてリノベーションし、今でも住んでいる。

 「小さい窓から入る光と、そこから見える景色が絵になっているんですね。30年近く経過しても全く変わらない。それがいい」と有元さんは話した。インテリアは古い家具とB&Bを組み合わせたら居心地がよくなったという。

 2つ目に紹介されたのは、キッチンスタジオを構えている田園調布からそう遠くない自宅。築30年の中古マンションで、「ひどい状態でしたが、部屋の窓から見える緑が素敵で、緑があれば大丈夫」と決断した。八木さんがフルスケルトンリノベーションした。躯体のコンクリを巧みに生かしているのが特徴だ。

 3つ目は、キッチンスタジオを兼ねた田園調布の集合住宅の家。敷地の前には緑の空間があり、そこに植わっていた大きなケヤキが伐採されることになったので、周辺の住民と一緒に署名活動を行って残したエピソードも明らかにした。その後、ケヤキが植わっている土地は有元さんが取得し、「欅ガーデン」として近隣住民と管理しているという。有元さんは「植物は力がありますね。街と人を結びつける」と語った。

 4つ目の野尻湖の別荘は66㎡のがけ地に八木さんが設計して建築したもの。暖炉を兼ねた薪の熾火で料理をするととてもおいしいのだそうだ。メンテナンスは大変だが、有元さんは「大変と思ったら住めない。楽しむこと」と語った。

 「葉山」は100坪の敷地に八木さんが持家兼建築事務所として建築したものだ。2年前に竣工した。八木さんは、「最初、土地から探したんですが、予算がなくて無謀にも1,000坪1,000万円で探してくださいと不動産業者さんに頼んだんですが、さすがにそんな土地はなく、何年もかかって予算も上がったので、すぐ裏が山の鳥の鳴き声が聞こえる高台造成地の中古住宅を購入し、それを取り壊して建てました」などと取得の経緯を語った。(八木さん、1,000坪1,000万円なんて、山林ならともかく調整区域でも首都圏では買えるかどうか)

 記者は、話を聞きながらいつものように値段をはじき出した。これは書かないが、新築なら億単位の値段がするはずだ。

 二地域居住どころか多点居住を実践できるのは、もちろん経済的な余裕が最大の理由だろうが、自宅が仕事場にできる職業だからだと思う。有元さんは「私は外食などしませんから、コロナで変わったことは全くありません。家の中に1日中いても平気です」、八木さんは「私は自宅が仕事場ですから」とそれぞれ語った。

 5つの住宅に共通するのは、自然や街とのつながり、緑の借景だった。設計・デザインで参考になるのは、「自宅」の収納は天井までとはせず、数十センチの空間を設け、その部分を鏡張りにしていることだ。限られた空間を広く感じさせる工夫だ。これは新築でも中古でも生かせる。

 有元さんが最後に語った「何事も工夫次第。〝身の丈〟が大事。料理も考えることと、その前に感じることが大切です。調味料でも、例えば醤油。なめてみて感じることです。そして材料は何だろう、どうして運搬されるのだろうと考えることです」というのがとても印象に残った。

◇      ◆     ◇

 記者はFRKがこの種のセミナーを行っているのを全然知らなかった。視聴の案内もFRKではなく、ファシリテーターとして参加している小野さんのケアリングデザイン事務局からだった。小野さんとはしばらくお会いしていないので、どのようなことを話すか、とても興味があり視聴することにした。西武ライオンズのオープン戦を観ながらの視聴だったので、前段の記事は間違っている部分もあるかもしれない。ごめんなさい。

 小野さんに初めてお会いしたのはもう13年も昔だ。当時、圧倒的な人気になった「アクアリーナ」を始め、「パークシティさいたま北」「フォレシアム」などのインテリア仕様、モデルルームデザインを担当されたのが小野意匠計画代表の小野さんだった。

 素晴らしいデザインに記者は驚愕し、お会いしたくて取材を申し込み、快く受けていただいた。その時の記事も添付した。ぜひ読んでいただきたい。当時の基本性能・設備仕様レベルの高さも分かっていただけるはずだ。今の新築より数段優れている。

 小野さんは2013年にケアリングデザインを立ち上げてから、マンションのモデルルームデザインを手掛けなくなったような気がする。残念だ。また戻ってきてほしい。

 有元さんの料理について。前述したように有元さんを全然存じ上げないのだが、オンライン画像に映っている有元さんをかみさんが観て、「シンプルな料理が特徴で、女性で知らない人はいない。わたしがいつも作っている漬けマグロとアボガドの料理もその一つ」と種を明かした…ン? なるほど、とてもおいしい。かみさんのオリジナルだとずっと思っていたが…。

「モデルルームでは 新鮮な暮らし方の提案が要」小野意匠計画 代表・小野由記子さんに聞く(2008/6/2)

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 国土交通省は3月17日、移住や観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な関わりを持つ「関係人口」に関する実態調査の結果をまとめ発表した。

 調査結果から国交省は、全国の18歳以上の居住者約10,615万人のうち推計で三大都市圏居住者の18.4%(約861万人)、その他地域居住者の16.3%(約966万人)を合わせ約1,827万人の人が特定の地域を訪問しており、そのうちの約34%の628万人(三大都市圏約301万人、その他地域約327万人)が、関係先の地域の産業の創出、ボランティア活動、まちおこしの企画などに参画する直接寄与型と規定。さらに、直接寄与型の5~6%の人は関わっている農山漁村部の自然環境に魅力を感じており、移住希望が強いことが判明したとしている。

 調査は昨年9月、インターネットアンケート方式で行われたもので、有効回答数は18歳以上の全国に居住する148,831人から回答があった。アンケート調査結果は60ページ以上にわたる長文だが、同省ホームページに公開されている。

◇      ◆     ◇

 記者は、いま国が進めようとしている二地域居住には興味がないし、田舎暮らしに懐疑的なのだが、インターネットとはいえ18歳以上の人口の0.1%に当たる約15万人から回答を得たのに驚き、その結果から約1,800万余の人を「関係人口」と規定し、移住希望者が多いという結論に導いた大胆さに驚嘆した。

 いうまでもなく、驚いたのは回答者の多さだ。調査は国交省が直接国民に呼びかけたものではなく、調査会社が委託を受けて行ったものだそうだが、新型コロナ感染者は若者中心に再び三度増加傾向を示しており、国や行政は〝若者の心に響く〟情報発信に苦慮しているというのに、よくも15万人の回答を集めたものだ。回答者には何か特典でも与えたのか、心臓をぐっとわしづかみする惹句でもってひき付けたのか。

 (ネットで調べたらアンケートモニター数が1,000万人超の調査会社もあるようだ。各社のモニターを合計すると国民の数を上回るのではないか。つまり、記者のような全く興味がない人も相当数いるはずだから、複数の調査会社のモニターになっている人がかなりいるということだ。インターネットによる調査は、従来型の無作為抽出、訪問面接法と比較して結果に差異が生じ、モニターの属性が高学歴、専門技術職が多く技能・労務職が少ない、正社員が少なく非正規従業員が多いとか、心理的特性の違いにより調査対象の実態を正確に反映していないとかの問題も指摘されている。モニターになっている人を対象としたアンケートをやってほしい。どのような結果となるか)

 驚嘆したのは、推計ではあるが、首都圏都市部からその他地域に関わりを持つ関係人口(訪問系)直接寄与型の推計97万人の64%=約62万人が関係先に「移住したい地域である」と回答していることだ。しかも、移住先は「農山漁村部」(67%)や「市街地部(市街地内農林地等)」(67%)「市街地部(住宅地)」(67%)が平均値の64%を上回っているのには心臓が飛び出すほどの衝撃を受けた。

 記者は、貧しい三重の農村で生まれ育った。曲がりなりにも〝美しい心〟の持ち主になれたのは故郷の美しい自然にあると思うのだが、公共バスはほとんど途絶え、コンビニもなく車なしでは生きられない田舎暮らしなどは絶望的だ。

 「農山漁村部」に移住してもいいと考える人はどのような人なのか。クマに襲われたり、家庭菜園をシカやイノシシに食い荒らされたり、あるいはまたヤマヒルに股間をかまれ、汲み取り式便所に充満したメタンガスが爆発してお尻を焼かれ、酔っぱらって電子柵に触れたとたんに絶命することもありうることを覚悟しているのだろうか。近所づきあいをしないと相手にされなくなるのも分かっているのだろうか。

 海の怖さは言わずもがなだ。津波は最たるものだが、皆さんはクラゲに刺されたことはないだろうか、ウニを踏んづけたことはないだろうか。激痛が走る。触っても食べてもいけない魚もたくさんいる。波にさらわれても助けてくれそうな人などどこにもいない。

 まあ、しかし、時代は変わった。記者が上京した50年くらい前は、3代が江戸っ子という生粋の東京人は10人に1人いたかどうかだが、いまは東京生まれの東京育ちの人は約5割らしい。過酷な自然条件に負けない強靭な体と精神と、移住に失敗しても帰る家があり、生活再建ができるお金持ちはどんどん地方移住していただきたい。

 調査結果を読んだ読者からは、「『ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会』の委員の方々はみんな田舎暮らし推進派? 」との感想が届いた。なるほど、アンケートの読み方の基本だ。

コロナきっかけに「集中へ」から「分散へ」舵取り 隈研吾氏 日経の記事を読んで(2020/12/21)

日本の残したい環境 一番人気は「里山」 学生とエコ・ファースト企業 対話イベント(2017/10/15)

空き家対策 喫緊の課題ではあるが難問も山積(2016/1/18)

セカンドライフは田舎暮らしより都会 三井不販のアンケート(2011/9/8)

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