〝夜明け〟はやってくるのか〝再耕〟は可能か 大和ハウス 団地再生勉強会
大和ハウス工業は8月30日、わが国の郊外型住宅団地の現状と課題、今後の展望などを探る「郊外型住宅団地再生」をテーマとした第15回「業界動向勉強会」をオンライン形式で行った。
各地の団地再生プロジェクトに関わっている東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄氏が「郊外型住宅団地再生について」と題した講演を行ったほか、同社上席執行役員 リブネスタウン事業推進部長・原納浩二氏などが登壇し、同社の取り組み姿勢や事例などを紹介した。
大月教授は、全国の先進的な成功事例を紹介するとともに、山万の「ユーカリが丘」は例外としながら、かつての開発手法であった「つくり逃げ」「売り逃げ」「焼き畑」などについても言及。「終わりのない」団地再生の道のりは平たんではないが「夜明け」はやってくると締めくくった。
原納氏は団地再生が急務になっている社会背景について、住宅ストックは世帯数をすでに上回り、世帯数は2023年をピークに減少に転じ、2033年に住宅ストックの約9.4%、約650万戸が活用されないと予測されていることや、地価下落、少子高齢化、都市部への人口集中、空き家空き地の増加などの社会課題が山積していることを指摘した。
同氏はまた、1962年から「ネオ(新しい)+ポリス(都市国家)」を全国で61か所、総開発面積3,114ha、総区画数67,884区画を開発した開発者責任として、ネオポリスを「再生」するのではなく、再び「耕す」ことで社会課題を解決する「リブネスタウンプロジェクト」を同社の重要なSDGs戦略として位置づけており、今年4月1日には「リブネスタウン事業推進部」を立ち上げたと説明。
先行して取り組んでいる「上郷ネオポリス(横浜市)」(1972年開発、700区画)と「緑ケ丘ネオポリス(三木市)」(1971年開発、5,600区画)に加え、「阪急北ネオポリス (兵庫県川西市)」(1974年開発3,950区画)、「阪南ネオポリス(大阪府河南町)」(1972年開発2,360区画)、「豊里ネオポリス(三重県津市)」(1977年開発2,300区画)、「加賀松ヶ丘団地(石川県加賀市)」(1976年開発1,460区画)、「所沢ネオポリス (埼玉県所沢市)」(1970年開発483区画)、「取手北ネオポリス(茨城県つくばみらい市)」(1979年開発382区画)の8か所でまちづくりモデルを展開すると語った。
◇ ◆ ◇
バブルが崩壊するまでは「土地神話」を信じて疑わなかった記者は、バブルをあおった一人として責任を感じており、大規模郊外ニュータウンの再生には大きな関心を持っており、取材も行ってきた。
今回講演された大月教授もそうだが、多くの先生は自らが先頭に立ってフィールドワークを行い、団地再生に取り組んでおられる。東京藝術大学准教授・藤村龍至氏は故郷・埼玉県の疲弊する「鳩山ニュータウン」を見るに見かね、誰も手を挙げなかった鳩山町コミュニティ・マルシェの指定管理者に名乗り出たほどだし、「上郷」再生にもかかわった明治大学教授・園田眞理子氏はそれかあらぬか、生まれ変わったように髪の毛が真っ白になられた。頭が下がる。
原納氏もまた「開発責任」を口にされた。大月氏も指摘したが、デベロッパーの「売り逃げ」「事業離れ」は死語になっていないはずだ。それを実践していたらマンションも戸建て団地もここまでひどくなっていなかったに違いない。
だが、しかし、大月氏と原納氏の話はあまりにも楽観的に過ぎる、というのが記者の率直な感想だった。
再生可能なのは、同社が開発したような当初から良好な住環境が整備された限られた団地で、全国に3,000団地あるといわれる郊外大規模団地はそんな恵まれた条件のものはむしろ少ないのではないか。
極端な例かもしれないが、記者は10年前、昭和40年代半ばに開発された都心から50キロ圏の約1,800戸の団地を見学取材したことがある。1戸当たりの敷地面積は約20坪、建物は15坪だ。前面道路幅は4メートルあるかどうかだ。開発業者はバブル崩壊前に破綻している。
見学する前に恐れていた惨状を目の当たりにして言葉も出なかった。人口は半減し、55~65歳以下の予備軍も含めれば高齢化比率は49%に達し、限界集落そのものだった。空き家(物置)・駐車場だらけで、出来損ないの歯抜けのトウモロコシ状態だった。
あまりにも悲惨な状態だったので、記事は場所・団地名が分からないように書いた。居住者や地域の方に迷惑を掛けたくなかったからだ。記事にはアクセスが殺到し、場所を教えてほしいという問い合わせも相次いだが、小生は沈黙を貫いた。今でもその場所を特定した人はいないはずだ。
そんな経験をしているので、「一部の恵まれた団地以外の再生など絶望的ではないか」と質問した。原納氏は「そうは思わない。国土交通省は本格的に取り組み始めたし、(土地の)所有責任を問う自治体も増えている。時間も体力(資金力)も必要だが、知恵を出し合えばそのような団地でも再生は可能」と語った。
この回答に勇気をもらったような気もする。もう少し涼しくなったら、またこの団地を訪ねレポートしたい。〝楽観的に過ぎる〟という感想が訂正でき、その団地名を公表できればいいのだが…。
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木造戸建て住宅に占める木住協会員シェア20% 飯田グループの加入はないのか
木造軸組工法住宅の普及と健全な発展に寄与することを目的にしている日本木造住宅産業協会(木住協)は8月25日、「木住協 自主統計および着工統計の分析報告書」オンライン報告会を開催した。
令和2年度の新設住宅着工戸数は812,164戸(前年度比8.1%減)で、このうち戸建て住宅は463,350戸(同10.7%減)、木造戸建て住宅は414,072戸(同9.9%減)だった。
これに対し、木住協会員の新設住宅着工戸数は86,652戸(同0.7%増)、戸建て住宅は82,647戸(同1.8%増)となり、住宅着工の木造戸建て住宅に占める木住協のシェアは20.0%となった。20%台になったのは平成28年度以来。木造3階建ては8,650戸(19.2%増)と大幅に増加。全体に占める割合も前年度より10.8ポイントアップの35.5%となった。
「設計評価住宅」は21,785戸で全体の26.4%、「建設評価住宅」は14,748戸で全体の17.8%となり、「設計」は前年度より増加したが、「建設」は戸数、率とも減少した。
「長期優良住宅」は28,318戸で、全国統計100,628戸に占める木住協シェアは28.1%、木住協戸建て住宅に占める割合は34.3%(前年度は38.1%)となった。
「太陽光発電搭載住宅」は20,447戸で、新設戸建て住宅の24.7%を占めたが、前年度の23,251戸、29.5%からそれぞれダウンした。「ZEH適合住宅」は10,877戸で、前年度から1.8%増加した。
オンライン説明会で同協会・越海興一専務理事は「住宅着工が2年連続して減少しているが、木住協会員の戸数は令和2年度は増加に転じるなど逆風の中で頑張っている」と総括した。
「報告書」は、A4判53ページに上るもので、令和2年度の住宅着工戸数、3階建て、品確法に基づく設計・建設評価住宅、長期優良住宅、太陽光搭載住宅、ZEH住宅、増改築、3階建てなど国のデータと木住協会員のシェアなど数値を比較できるようにまとめたもの。調査対象は木造軸組工法住宅事業を展開する465社で、回答は80.4%の374社だった。
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〝木造ファン〟の記者は、越海専務も総括したように健闘していると思う。3階建てが大幅に増加したのは、敷地の狭小化が進んでいる都市部では、鉄筋造の単価が上昇している一方で木造はそれほどでもなく、価格的に優位性を保っているのと、耐火・防火技術の向上、木のよさが消費者にも浸透している当然の結果ではないか。
参考までに令和2年度の他の構造などを紹介すると、非木造の鉄筋は222,123戸(前年度比3.6%減)、鉄骨は117,552戸(同12.5%減)、プレハブ住宅は木造が10,566戸(同10.9%減)、鉄筋が2,404戸(同44.5%減)、鉄骨が94,718戸(同12.6%減)、ツーバイフォー住宅も89,580戸(同16.5%減)とそれぞれ大幅に減少している。
木住協会員会社が「頑張っている」のは嬉しいのだが、いつも不思議に思っていることがある。
木造戸建て住宅に占める木住協会員のシェア20.0%についてだ。このシェアが高いのか低いのかよくは分からないのだが、わが国の木造軸組住宅を先導する業界団体としては少ないように思う。単純比較はできないにしろ、分譲マンション市場では大手デベロッパーで組織する不動産協会会員の首都圏供給シェアは83.5%(平成30年度)に達しているし、全住宅着工に占める割合が11.0%のツーバイフォー住宅も、日本ツーバイフォー建築協会会員シェアは高いはずだ。
よく言えば、軸組工法はそれだけすそ野が広く多様性があるということだが、逆に言えば玉石混交、まとまりが悪い業種・業界ということでもある。会員になることがステイタスとなり、消費者にとっては安心・安全につながる団体にならないといけない。
その〝不思議〟の象徴的な存在が飯田グループホールディングスだ。同社グループ主要6社は木住協の会員ではないが、全体の2021年3月期の分譲戸建て売上棟数は46,620戸だ。全国の分譲戸建て市場の約3割を占める。
この飯田グループ各社が木住協に加入したら、平成2年度の戸数は199,267戸となり、シェアは20.0%⇒31.2%にアップする。
同社はまた、今年度から住宅性能評価制度8項目全て全棟最高等級を取得すると宣言した(「設計」か「建設」が明らかではないが、「設計」だと思われる)。これも加えると、全体に占める「設計」割合は17.8%から一挙に34.3%にアップし、逆に「建設」は17.8%から7.4%へ10ポイント以上減少する。同様に「長期優良」「ZEH」などの数値も大幅に減少するはずだ。
その是非は分からないが、木住協は倫理憲章で「法令遵守と公正・透明な事業活動」「地球環境への貢献」「地域社会への貢献」「安全で快適な居住環境の確保」「人材育成」を掲げている。
飯田グループもこの倫理憲章には賛同できるはずだし、何よりも木造戸建て住宅の現状と課題が消費者にも伝わることになる。
記者は報告会で「分譲戸建ての全国シェア3~4割を占めるガリバー企業は加入していないが、加入したらデータは大幅に変わってくるが…」と質問したら、越海専務理事は「私どもは門戸をいつも開けている。(ガリバー企業に)加入していただいたらありがたい」と答えた。
なので、記者は飯田グルーフHD広報に加入する意向の有無について問い合わせた。回答が得られれば報告したい。
木住協には、積水ハウス、ミサワホーム、住友林業、一条工務店、オープンハウス、ケイアイスター不動産、ポラス、アキュラホーム、ナイスなど主な戸建てハスウメーカー・デベロッパーが加入している。
全27棟にオリジナル樹木 敷地全体では5+1本 大和ハウス「武蔵府中ひかりテラス」
「セキュレア武蔵府中ひかりテラス」
大和ハウス工業は7月2日、「家事シェアハウス」を全戸に盛り込んだ分譲戸建て「セキュレア武蔵府中ひかりテラス」のメディア向け見学会を行った。全戸に「家事シェアハウス」を採用するのは初めてで、6月19日から販売開始した第1期11戸ののうち4戸が成約済み、1戸が申し込み済み。
物件は、JR中央本線国分寺駅からバス約11分、バス停徒歩3分(京王線府中駅から約9分、徒歩3分)、府中市栄町二丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率40%、容積率80%)に位置する開発面積約4,381㎡の全27戸。現在分譲中の住戸(6戸)の土地面積は113.02~123.17㎡、建物面積は88.62~90.36㎡、価格は5,490万~6,190万円(最多価格帯5,900万円台)。建物は完成済み。構造は軽量鉄骨2階建て。全体完成は2021年11月の予定。
現地は、東京農工大が社宅などとして所有・利用していた土地で、同社は約2年前に取得し、開発しているもの。府中市景観条例に基づき緑化を図り、全27戸にオリジナルの樹木を植樹するほか、敷地内の樹木には廃材を活用した樹名板を設置する。
「家事シェアハウス」は2017年から採用しているもので、玄関に家族それぞれの靴、コート、スリッパなどを管理できる「自分専用カタヅケロッカー」、リビングには自分専用の雑誌、美容グッズ、勉強道具などを収納できる「自分専用ボックス」と乱雑に散らかりがちな紙類を収納する「お便り紙蔵庫」、階段室には畳んだか洗濯物を一時的における「階段ポケット」を設けている。
また、昨年10月から販売開始した据え置き型ダストボックス「D’s stocker」を標準装備している。
府中市の開発指導要綱では、開発面積3,000㎡以上の最低敷地面積を110㎡とし、低層住居専用地域の緑地率を15%以上確保するよう求めている。
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記者は今年3月、この物件に近い「セキュレア武蔵府中なごみプレイス」(33区画)を見学しており、記事にもしているのでそちらも参照していただきたい。記事にも書いたのだが、今回の「ひかりテラス」のほうが国分寺駅にも府中駅にも出るのが便利なので、価格は6,500万円くらいが、ひょっとしたららもっと高くなると考えていた。
しかし、見学会で平均価格は約5,900万円と聞き、その安さに驚いたのだが、設備仕様などモデルハウスの全体的なレベルを考慮すれば、この価格帯もありかと考えた。
率直に言えば、完成販売で販売開始後10日間で5戸の成約・申し込みは少ないような気がする。バス便ではあるが、国分寺駅にも府中駅にも近い希少の一低層の住宅地であることを考慮すればもっと売れていいはずで、そうでないのは、若い世代では「家事シェア」は当たり前のことなので、心に響かなかったのか。
「家事シェアハウス」は結構なのだが、それを強調すれば販促に効果があるとすれば、家事労働は夫婦間で平等にシェアされておらず、妻に過大な負担がかかっている情けない現状をさらけ出すようなものだ。
さらに言えば、いまは共働きが多数派を形成しているとはいえ、専業主婦(主夫)も3割くらいあることを考えれば、「家事シェア」は全戸採用ではなく、選択制でもよかったのではないかと思う。
記者は、「イクメン」もそうだが、この専業主婦(主夫)の言葉が嫌いで、主婦あるいは主夫をきちんと職業として認め、家事労働も当然のように労働として評価する社会にすべきだと思う。そうなれば「家事シェア」なる言葉は意味をなさなくなり、死滅すると考えている。
ヤマボウシ(二季咲き)樹名板
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「家事シェア」より、記者が注目したのは全27戸にオリジナルの樹木を植樹することだった。敷地内の他の樹木には「樹名板」を設置するが、オリジナル樹木には設置しないということだったので、その名前を聞いた。シロモジ、ミツバツツジ、リョウブ、マンサク、カツラ、クロモジ、ナツハゼ、ツリバナ、シデコブシ、ヤマツツジ、エゴノキなどだ。今後、残りの16戸についても別の樹木が植えられる。
各敷地内には、オリジナル樹木のほかにもシラカシ、二度咲きヤマボウシなど少なくとも5本の中高木が植えられていた。「5本の樹計画」は積水ハウスの十八番だが、大和ハウス工業はオリジナル樹木を含めると6本だ。これらの中高木が育ったら素晴らしい景観を形成するのは間違いない。これは「家事シェアハウス」よりはるかに価値があると思うが、みなさんはいかが。
〝都心に戸建てを〟オープンハウス 〝一家に1本の樹を〟プロジェクト始動
オープンハウスは6月14日、ユニバーサル園芸社と協働して「ONE TREE MAKE A FOREST PROJEKT」を5月から始動したと発表した。
同プロジェクトを通じ戸建てに住むすべての家庭が一本以上の木を持つことが当たり前になることを最大の目標としており、植栽の品質管理・施工・アフターサービスはユニバーサル園芸社が担当する。植栽に当たっては、単なる戸建ての緑化だけではなく、「アイキャッチ」「目隠し」「シンボルツリー」といった機能を持たせる。初年度の植樹目標は1万本。
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記者は緑が街のポテンシャルを左右する重要な指標の一つであることを信じており、積水ハウスの「5本の樹計画」をほめたたえてきた。10年近く前からはタイトルに「街路樹が泣いている」を付けた記事も書き、マンションや戸建ての植栽についてもその都度優れたものを紹介してきた。モデルルームの観葉植物も〝フェイクをやめろ〟などとしつこいほど記事にしている。
今回のオープンハウスの「家庭に1本以上が目標」というのは、積水ハウスが昨年、植樹累計が1,600万本に達したと発表したのと比べると、売上げ1兆円を目指す企業としてはいかにも少ないとは思うが、いわゆるパワービルダーが分譲する戸建ての猫の額もない庭はコンクリートで固められ、ぺんぺん草も生えないものが圧倒的に多いことを考えると、業界の流れを変えるプロジェクトになることを期待したい。
納得の即日完売 デザイン・設備仕様レベル高い ポラス「市川菅野」16棟(2021/5/2)
積水ハウス 「5本の樹」計画 植樹累計が1,600万本突破(2020/4/14)
またまた「街路樹が泣いている」 千代田区 街路樹伐採で賛否両論(2016/9/8)
外気中の汚染物質を除去 積水ハウス「スマート イクス」半年で年間販売目標達成
積水ハウスは6月3日、黄砂や花粉、PM2.5などを除去する室内環境システム「SMART-ECS (スマート イクス)」を搭載した戸建て住宅が半年で2,400棟の年間販売目標を達成したと発表した。
販売開始は昨年12月14日で、5月31日現在、累計2,489棟を受注。直近の5月契約での採用率は80%を超えている。
同社は、「スマート イクス」は、室温が外気の影響を受けにくく、外気中の汚染物質を除去し、きれいな空気を取り込みながらも省メンテナンスという空気清浄機能を備えているのが好調の要因としている。
「希」に見る設計依頼 1か月で来場100組超 大和ハウス 富裕層向け「MARE」
「Wood Residence MARE-希-(マレ)」
大和ハウス工業が4月29日から発売を開始した富裕層向け戸建て商品「Wood Residence MARE-希-(マレ)」が大ヒット-住宅展示場「DaiwaHouse 駒沢展示場2」に設けた約3億円のモデルハウス来場者は、コロナ禍にもかかわらず1か月間で100組超に達し、設計依頼も通常100件に1、2件の割合なのに対してすでに約15件に上っている。同社は新商品発表会の際、富裕層向けの販売目標を年間100棟(MAREは50棟)と発表したが、目標を大幅に超えそうだ。
1階リビング(ホームページから)
主寝室
キッチン
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発売から1か月経過した5月31日、駒沢ハウジングギャラリーに建設されたモデルハウス「MARE」を見学した。同社の史上最高級であるのはもちろん、業界最高級の商品であると睨んだ実物はいったいどのようなものか、しかとこの目で確認するのが目的だった。
商品概要などについては、添付した記事を参照していただきたい。木造とRC造の混構造とすることで設計の自由度を高め、自然素材をふんだんに採用し、自由自在に造ることができるのが特徴だ。
見学には、先の発表会に三つ揃いのスーツ姿で商品説明を行った同社住宅事業本部事業統括部ZIZAIデザインオフィス室長・櫻井恵三氏から直接〝稀に見る〟特徴などを聞いた。
櫻井氏は開口一番、「私は56歳ですが、これまで他社のも含め40棟超のモデルハウスを造ってきました。とんがったものを造ろうと好き勝手にやってきました。地域・消費者ニーズを取り込み、感動を呼び起こすのは当然のこと。感動は無尽蔵です。そして今回重視したのは『再現可能性』です。建築はどうあるべきかという本質に迫ろう、一番やりたかったことを全て盛り込みました」と語った。
そして、約1時間の見学を終えたとき、「一般的にモデルハウス来場者から設計依頼を受けるのは100人に1人か2人ですが、今回はすでに15件くらい。1割を優に超えています。気に入ってくれた方ともそうでない方とも会話が生まれているのが何よりも嬉しい」と話した。
この言葉にすべてが言い尽くされている。「再現可能性(再現性)」は難しい概念だが、永遠のテーマだ。戸建てモデルハウス、マンションモデルルームに全て当てはまることだ。それにしてもモデルハウス開設から1か月間に通常の10倍を超える15件の設計依頼を受けたとは…。
インナーガーデン
水遣りのタイミングを計る印
櫻井氏
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モデルハウスの玄関内に入った途端、ほとんど瞬時にそのレベルの高さを実感した。もっとも感動したのは、得も言われぬ黒い壁だった。それは「黒」=BLAKではない。櫻井氏によると「青」が混じっている「墨」とのことだった。
その墨色の壁は、「MARE」のホームページにも紹介されている。主寝室は実際に見た「墨」に近いが、室内の空気感は表現できていない。いかに精巧なカメラでもってしても人間の五感を伝えられない。
表現力の乏しい記者も、光の当たる具合や見る角度、周囲の建具家具などによって微妙に表情を変える光と影、陰影を表現できない。
「黒」といえば、隈研吾氏が総合監修を担当した三井不動産レジデンシャル「パークコート神楽坂」ではキッチン天板や他の面材、壁も「黒」が多用されていたが、隈氏は普通の黒ではない「玄(くろ)」をテーマにしたと聞いた。建築家のバイブルとされる谷崎潤一郎「陰影礼賛」は参考になるかどうか。
外と内の連続壁(サッシ部分で水を切るのが難しいとか)
片持ち階段(下部の壁厚は上部より30cm厚い)
2階のトップライトからインナーガーデンに光を取り込んでいる。右側の格子壁の背後の壁には影が映し出される
◇ ◆ ◇
最近見学した富裕層向けモデルハウスでは、「ハウジングステージ新宿」にある旭化成ホームズ「RAUMFREX(ラウムフレックス)」に驚嘆した。2階のLDKは白が基調で広さは50~60帖あった。
今回の「MARE」の1階のLDKも同じくらいの広さか。基調カラーは、旭化成と対照的な「墨」で、2×6mのインナーガーデンの緑と、カシノキの突板にガラスコーティングを施した2×6mのキッチンカウンターに圧倒された。
インナーガーデンに2本植えられているベンジャミンの高いほうの樹高は2階まで届く約5.5m。
同じようなインナーガーデンでは、三菱地所ホームの「浜田山ホームギャラリー」を見学している。自動潅水システムを導入して水遣りの負担を軽減していたが、大和ハウスの「MARE」は深さ60cmの鉢植えに、ウッドチップを表面に敷き詰めたもので、初期投資費用を抑えられ、水遣りのタイミングをチェックできる目印が付いているので、維持管理も楽とのことだった。
カシノキのキッチンカウンターも凄い。これだけの広さがあったら、自分が調理してお客さんや友人をもてなすのもいいし、料理人を呼んで歓談するのもいい。キッチンの概念を変えるのは間違いない。
見学目的の一つでもあった「ボグオーク」も見た。説明を受けなければ普通のオーク材と変わらないが、3000年も昔の北欧の湖底に眠っていたものが偶然に掘り出されて建築材に用いられるというのがいいではないか。
櫻井氏によると、「出土したら買い取るからといくつかの材木問屋に声を掛けていました。値段? 1㎡15万円です。普通の木材と比較すると10倍くらい。高額の部類に入る青森ヒバは1㎡2.5万円です。見学される男性の方には高い評価を頂いていますが、女性の方は難色を示される」とのことだった。これ以上書かないが、男と女のものの考え方の違いを示唆しているようでとても面白い。
見えないところに、素人はよくわからない技が注ぎ込まれているのも見聞した。「片持ち階段」もその一つだ。「片持ち階段」は片方で支えるからどうしても揺れが生じてしまうのが難点だそうだ。それを解消するため、見た目には判別できないが、壁の厚さを約30cm変え、厚いところに鉄骨を埋め込んで支えているとのことだった。階段ステップは20段。
サッシを挟んで外壁と内壁に同じ石張りを採用して連続性を持たせるのも技術的には難しいそうだが、これは説明を聞いてもよくわからなかった。
建具・家具類はB&B製品がたくさん用いられているそうだが、逆に、どこにでもある素材を巧みに取り込んでいる仕上げについても聞いた。主寝室の袖壁には高価そうな「石」が張られていたが、櫻井氏は「これは普通の石」。キッチンカウンターには古伊万里かと思われる食器が置かれていたが、「これは骨董屋で買ったもの。そんなに高くない」とのことだった。
なるほど。櫻井氏の10万円の三つ揃いのスーツがとてつもなく高価に思えたのも同じことか。〝本物〟は何をしてもそう映るということだ。小生などは何を書いても言っても着ても、馬鹿にされるだけだ。しかし、嘘は言わない。類まれな「MARE」を見学されることを勧めたい。
業界最高級 駒沢モデルは87坪・3億円 大和ハウス 富裕層向け「MARE-希-」発売(2021/4/28)
アーチ型天井と列柱の無柱空間に驚嘆 旭化成ホームズ 「新宿」に富裕層向けモデル(2020/6/16)
ボタニカルが最高4つの商品・開発を発表 三菱地所ホーム(2018/5/30)
隈氏のこだわり随所に 三井不動産レジ「パークコート神楽坂」(2009/11/5)
全23棟の3階建て 販売順調 アグレ都市デザイン「アグレシオプラス西新井Ⅳ」
「アグレシオプラス西新井IV」(写真提供は同社、撮影はカメラマン・重松善樹氏)
アグレ都市デザインが分譲中の戸建て「アグレシオプラス西新井IV」を見学した。分譲開始5カ月で全23戸のうち約半数が契約済み。順調な売れ行きを見せている。
物件は、東武スカイツリーライン西新井駅から徒歩15分、足立区島根四丁目の第一種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率200%)・近隣商業地域(同60%・同300%)に位置する全23戸。先着順で分譲中の住戸(8戸)の土地面積は70.05~82.24㎡、建物面積は98.12~125.85㎡、価格は4,180万~5,180万円。完成予定は2021年3月上旬~2021年6月中旬。構造は木造軸組工法3階建て。設計・施工はアグレ都市デザイン。今年1月から販売を開始しており、全棟完成前の建築中のプロジェクトであるが、これまでに約半数が契約済み。
現地は、旧日光街道から一歩入った戸建て住宅街。モデルハウスは建物面積119.83㎡3階建て。1階はフリーウォールで仕切られた5.3帖と6.1帖の居室とトイレなど。2階が19.6帖のLDKと洗面・浴室、トイレ、3階が7.1帖と5.1帖の居室2室。
主な基本性能・設備仕様は、防犯アルミ樹脂複合サッシ、Low-E複層ガラス、食洗機など。
同社東京支店次長・平川正寿氏は、「販売は順調。当社は棟数だけで勝負せず、ミドル、アッパーミドルをメインターゲットにデザイン性と質にこだわっている。最近は完成するまでに完売する物件も多い」と語った。
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同社の分譲戸建てを見学するのは2010年12月以来、実に10年振りだった。間隔が空いた理由はとくにないが、最近の業績がよく、供給戸数を伸ばしているので見学を申し込んだ。
今回の物件は足立区の第一次取得層向けだが、実績からするとアッパーミドル向けの23区の西側、多摩エリアが多いので、また見学をお願いしレポートしたい。
小家族向けに焦点 面積・価格抑え大胆提案 ポラス「Sumi-Ka+空の稔」に注目
「Sumi-Ka+ №.3 空の稔」
ポラスグループ中央住宅が分譲中の「Sumi-Ka+ №.3 空の稔」を見学した。共働き夫婦など小家族向けにターゲットに絞り込み、建物面積を80㎡に抑えることで価格もファミリー向けより500万円くらい低く設定し、プランも1LDKにするなど工夫を凝らしている。分譲戸建ての常識を覆す商品企画が注目される。
物件は、新京成電鉄みのり台駅から徒歩7分、松戸市稔台7丁目の第二種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率200%)に位置する子育てファミリー向けの「HITO-TO-KI」(14棟)と共働き夫婦向けの「Sumi-Ka+」(4棟)からなる全18棟。従前は社宅。現在分譲中の「Sumi-Ka+」(2戸)の土地面積は120.10~120.11㎡、建物面積79.49~83.63㎡、価格は3,780万円。構造は木造在来工法2階建て。施工はポラテック。建物は完成済み。
現地は、分譲済みのファミリー向けの「HITO-TO-KI」との一体開発だが、「Sumi-Ka+」は東西軸が細長い敷地形状で、南西側の前面道路も4~5mしかなく、住宅も道路から約2.6mの擁壁の上に建っており、駅からほぼフラットで全面道路幅も10mの「HITO-TO-KI」と比べ立地条件はやや劣る。
コンセプトは、「共働き夫婦2人の住処」「2~3人家族の住処」「Farst Stage家族」。住戸プランは、2階にグランピングバルコニーを設けたものも2戸あるが、残りの2戸はバルコニーが付いておらず、どちらかといえば外に閉じられたプランだ。小家族の居住を想定しているため、1階は広々としたLDKのほかは2ボウルのパウダールーム、浴室、トイレなどで、2階は寝室にもなるセカンドリビング、主寝室、SOHOルーム、室内物干しスペースなどとしているのが特徴。間取りは1~2LDK。
設計を担当した同社不動産ソリューション事業部不動産開発部のプロジェクトリーダー・村田嵩胤氏は、「コロナ禍でチラシなど広告などを打っておらず、ホームページによる告知のみだが、コンセプトに共感を頂いている。この種のプランに対するニーズが存在することは同じプランの『浦和』でも経験済みで、他のエリアでの展開も考えている」と話した。
住棟配置(右側がファミリー向け「HITO-TO-KI」)
「HITO-TO-KI」
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「Sumi-Ka+」は、従来の分譲戸建てのイメージ・概念の盲点をついた商品だ。これまでの分譲戸建てはほとんど100%子育てファミリーの入居を想定している2~3階建てで、間取りも4~5LDKというのが一般的だ。共働き夫婦二人向けなどは、郊外部でたまに供給される高齢者向け平屋建てくらいしかない。
しかし、「Sumi-Ka+」はDINKS向けにターゲットを絞り込んだ商品のため、難点を逆手に取った大胆な提案を可能にしている。土地・建物面積を小さくする一方で、2人の豊かな居住空間を作り出し、価格は同じ道路付けの「HITO-TO-KI」と比べ500万円くらい低く抑えられている。
こうした大胆な提案ができるのは、不動産ソリューション事業部の仲介部門からもたらされるお客さんの個別情報に基づくニーズがあることを把握しているからだろう。
確かに、個人住宅ならともかく、ファミリー住宅で構成される中大規模住宅地では、コミュニティの輪に入っていけない世帯は少なくないのも事実だ。
例えば、子どもが欲しくてもつくれない、あるいは子どもを欲しくない共働き世帯。そうした世帯にとって、親子が楽しそうに遊ぶ場面など見たくないかもしれない。老夫婦だってそうだ。3~4部屋などいらない。2階を物置にしている世帯も多い。
意表を突いた商品企画ではあるが、潜在的なニーズは間違いなくある。記者は爆発的にヒットしても驚かない。わが国の世帯構成は、高齢化も背景にはあるが、「夫婦のみ」がどんどん増加し、ほぼ3分の1を占めている。
モデルハウス1
モデルハウス2
造作ダイニングキッチン
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価格が安いからといって、基本性能・設備仕様が低いわけではない。リビング天井高は2.7mだし、サッシ高も2.2mある。全棟造作ダイニングキッチン、防犯ガラス・電動シャッター付きだ。2ボウルの洗面室など普通の分譲戸建てにはないはずだ。見学した2戸にはトップライトもついていた。主寝室にはセカンドシンク&冷蔵庫を設けるなど細かな配慮も見られる。
2ボウルパウダールーム
下部は冷蔵庫置き場にもなるシンク
納得の即日完売 デザイン・設備仕様レベル高い ポラス「市川菅野」16棟
「佇美の家~たびのいえ~市川・菅野」
ポラスグループ・ポラスガーデンヒルズの分譲戸建て「佇美の家~たびのいえ~市川・菅野」を見学した。高級住宅街として知られる「市川菅野」に位置しており、2月13日の販売開始の時点で即日完売した。デザイン・設備仕様レベルが高く、納得の即日完売だ。
物件は、京成本線菅野駅から徒歩7分(JR市川駅から徒歩15分)、市川市菅野三丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)に位置する開発面積約2,500㎡の全16棟。土地面積は104.60~110.50㎡、建物面積は95.43~108.90㎡、価格は5,790万~6,690万円。構造は木造在来工法2階建て。施工はポラテック。建物は完成済み。
現地は、古くから別荘地として栄え、「東の鎌倉」として多くの文人などが住んだ「市川菅野」の高級住宅街に位置。良好な住宅地を形成するため、地区計画により最低敷地面積は110㎡以上と定められているエリアの一角。従前敷地はコインパークだが、以前は隣接する日出学園の敷地。
建物外周にイロハモミジ、アオダモ、シマトネリコなどの中高木をふんだんに植え、自然石を採用した門柱、ベンチ、花壇、花台を設置しているのが特徴。樹木は有限会社田主丸緑地建設の協力を得て、九州のGreen Tankから取り寄せた山採り樹形が美しい樹木を選び、門柱は割肌仕上げのブラックの凝灰岩、植え込みの立ち上がり部分は「ランダムサイズ」「凹凸のある表情」がある天然石で仕上げている。
各住棟は、和テイストの「趣」、非日常を提案した「彩」、食を楽しむ「心」を提案。天井化粧梁、突板フローリング、いぐさ畳、エコカラット壁、エンボス仕上げのキッチンカウンター、ミストサウナ、アルミ&樹脂複合サッシなどを装備。リビング天井高2.7m、サッシ高は2.2m。
10月23日から予告広告を出し、2月13日の販売開始まで約380件の反響を集め最高5倍の倍率を集め即日完売。キャンセル住戸が1戸出たため、その後30件の上積みがあった。
設計を担当した同社設計部企画設計課課長・工藤政希氏は、「営業と一体となった空間づくりを行ってきた成果。最近は外構、エクステリア、デザインに力を入れており、街づくりに磨きをかたい」などと語った。
インテリアカラー:ブラックチェリー
インテリアカラー:イタヤカエデ
モデルハウス
モデルハウス
工藤氏
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昨日記事にした「Sumi-Ka №.2 新故郷」(松戸市)にはインパクトの点で負けるが、即日完売は当然と思える出来栄えだ。添付した写真を見ていただきたい。敷地が100坪を優に超える周辺の邸宅にはかなわないが、きちんと街づくりを行っている。外構のカエデモミジなどの樹木は10m以上のものもあった。竣工の段階でここまでの高木を植えるデベロッパーは少ないはずだ。その緑を取り込む窓にも工夫を凝らしている。
天然木のナラ、イタヤカエデ、ブラックチェリーの突板フローリングや、花壇、ベンチ、門柱などに自然石をふんだんに用いているのも目を引く。
花壇
門柱
コミュニティ育む仕掛けに驚嘆従来の常識覆すポラス「Sumi-Ka 新故郷」(2021/5/1)
コミュニティ育む仕掛けに驚嘆 従来の常識覆す ポラス「Sumi-Ka+ 新故郷」
「Sumi-Ka+ №.2 新故郷」PLAN1
ゴールデンウィークに突入し、普段なら心が浮き立つのに、昨年に続き今年も新型コロナが猛威を振るっているせいで現場取材は激減し、心はどんよりと沈んだままのこの日(4月30日)、ポラスの分譲戸建て「佇美の家(たびのいえ)」(市川市)「Sumi-Ka+ №.3 空の稔」(松戸市)「Sumi-Ka+ №.2 新故郷」(松戸市)を見学した。午後の半日を飲まず食わずで丸々費やしたが、取材を終えた後は心が沸き立った。それぞれコンセプトが斬新で、素晴らしい物件だ。
さて、この3物件の中からどこから紹介するか。取材順なら冒頭に書いた通りだが、従来の分譲戸建ての概念を一変させた商品企画の「Sumi-Ka+ №.2 新故郷」を真っ先に取り上げる。
物件は、新京成電鉄みのり台駅より徒歩7分、千葉県松戸市稔台2丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)に位置する全3棟。敷地面積・建物面積・価格はそれぞれPLAN1が132㎡・118㎡・5,480万円、PLAN2が117㎡・98㎡・4,380万円、PLAN3が104㎡・80㎡・3,880万円。企画・設計は中央住宅不動産ソリューション事業部不動産開発部。施工はポラテック。構造は木造在来工法2階建て。建物は完成済み。
最大の特徴は、3棟を異なる個性的なプランとすることで、3家族がお互いの価値観を尊重し、ともに助け合うコミュニティを創造する「『日本の古き良き文化』を現代に置き換えた街創りを提供」(同社)していることだ。
3家族のコミュニティを醸成するための空間デザインとして、近所の人たちと会話できるようにPLAN1の道路に面した庭にはベンチを設置。PLAN1の1階の駐車ガレージと住居部分の間に幅165センチの「Common Space」(エントランスゲート)を設け、PLAN2とPLAN3の居住者が自由に通れるようにし、さらに、それぞれの住棟間にはフェンスを設けず、デッドスペースを家庭菜園や専用庭として利用できるように「協定」を結ぶことにしている。
PLAN1は「Long Life」と名付け、子育てだけでなく将来親との同居を想定。子どもが独立したときは1階と専用庭を両親の空間とし、中2階のリビング繋いで2階は夫婦の寝室として利用できるように設計。PLAN2の子どもが病気になったときは預かり世話ができるスペースも確保している。
「Family」と名付けたPLAN2は、共働きの家族を想定。PLAN3の夫婦と子ども2人が中央広場で遊び、PLAN1の家族と一緒に家庭菜園を楽しめるようにしている。
PLAN3は、「Ko Kazoku」とあるように夫婦の「個」を尊重し、子供はいないが、PLAN2の子どもの面倒を見ることをいとわない夫婦の入居を想定している。
企画・設計を担当した同社不動産ソリューション事業部は、店舗数25店、営業スタッフ150人の仲介事業を中心とする総勢190人の部署で、不動産開発部は年間約150棟の分譲戸建てを販売している。
設計を担当したプロジェクトリーダー・村田嵩胤氏は、「『新故郷』の文字には、住人同士で支えあい信頼関係を気づける街づくりを目指す『信個共』、誰もが持つ心の弱さや孤独を補い合い境界のない関係を築く『心孤境』、震災などの記録・記憶を子どもたちに伝える『震子教』のメッセージを込めました。私は入社14年目で、最初からソリューション事業部所属。最初の3年間は仲介営業を担当し、設計希望だったので1級建築士の資格を取得しました。この種の商品企画は仲介営業を通じて得られるお客さまの様々なニーズから生まれたものです。今月5月12日が34回目の誕生日です」などと語った。
エントランスゲート
村田氏
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夫婦2人の居住を想定しているPLAN3のモデルハウスは実によくできている。建物面積は80㎡だが、1階はLDKとトイレ、2階はセカンドリビングにもなる主寝室、スキップフロア&ベッドスペース、浴室、2ボウルの洗面、トイレ、ウォークインクローゼットの1LDKなので広々としている。リビングドア、サッシは高さ2.4m、リビング天井高は2.7m。
床・壁・天井などに本物の木を多用し、トップライト、セカンドシンク、ミニ冷蔵庫置き場、造作ベンチなどを設置。価格には建具家具も含まれる。
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見学したのは午後5時を過ぎていた。「佇美の家(たびのいえ)」を見学するために昼過ぎに家を出てから何も食べておらず、移動の合間にタバコ一服とミニペットボトルのお茶を飲んだきりだった。早く帰らないと西武ライオンズの応援ができないではないかと焦っていた。同社の戸建ての特徴は見なくても分かる、たかが3棟の戸建てを見てどうするのだと正直思った。
ところが、どうだ。道路に面したPLAN1は立派な建物で、1階中央が通り抜けられるようになっており、しかも、その通路は「協定」、つまり民法で定めた地役権ではなく、紳士協定と村田氏がいうではないか。
これまで共有のコモンスペースを設けたものや、境界線を取り払った戸建て住宅地はたくさん見学してきたが、このような住棟にエントランスゲートを設けたものは初めて見た。それぞれの敷地を家庭菜園や専用庭として使えるというのもまずないはずだ。普通のデベロッパーだったら敷地を四角に切って4棟にするはずだ。
このような分譲戸建ての常識を根底から覆す商品企画を生み出したのは、村田氏も話したように、お客さんの生の声を日常的に聞いている営業と一緒に取り組んでいるからに違いない。記者は、今年のグッドデザイン賞大賞を受賞するのはこの物件ではないかと思う。
取材を終え、帰途についたのは午後6時過ぎだった。みのり台駅近くの酒屋で缶ビールを買って店先で飲んだ。五臓六腑に染みわたるとはこのことを言う。ポラス広報と村田さんに感謝!感謝!西武ライオンズも完勝した。