「time flies like an arrow 光陰〝矢野〟如し」 木住協・矢野会長(住林会長)が退任
矢野氏
日本木造住宅産業協会(木住協)の会長を15年間にわたって務めた矢野龍氏(住友林業会長)が退任したことを書いたが、矢野氏は総会後の懇親会で、15年間の会長職を「time flies like an arrow 光陰矢野如し」と絶妙な言い回しで振り返った。
記者は、この矢野氏(76)と大和ハウス工業会長兼CEO・樋口武男氏(78)、積水ハウス会長兼CEO・和田勇氏(75)をハウスメーカーの〝雄弁御三家〟と呼んでいる。三社とも関西が発祥で、三氏とも年齢が近く、〝毒〟を含んだ関西弁を平気で使い、自らの土俵に引き込む話術が巧みというのが共通している。
矢野氏は登壇するといきなり「今まで皆さん大切な話をされていた。やっとわたしの番が回ってきた。自由になった喜びを話せるときがきた」とジャブを放った。(それまで国交省、林野庁など5名の挨拶があった)
そして、すかさず「在任期間を振り返ると『time flies like an arrow 光陰矢野如し』」と、流暢な英語を交えカウンターパンチを繰り出した。会場は一瞬あっけに取られたようだったが、やや間を置いて笑いが漏れた。矢野氏は北九州大学外国語学部卒で、住林では10年間アメリカ勤務経験があり、「僕は通訳の資格も持っている」英語のプロだ。
この飛び切りの「arrow」と「矢野」を掛けた〝親父ギャグ〟に意想外にもたいした反応を示さない参加者に愛想をつかしたのか目を覚まさせようと思ったのか、矢野氏はG7サミット各国の代表者の年齢を紹介した。
「ドイツのメルケル首相とフランス・オランド大統領は61歳、安倍さんも61歳、オバマ氏は54歳、イギリス・キャメロン首相は49歳、カナダ・トルドー首相は44歳、イタリア・レンツィ首相はわたしの娘と一緒の41歳…みんな若い。わたしは76歳。立派な後期高齢者になりました。安田善次郎は『50、60は洟垂れ小僧、70は働き盛り、80、90は男盛り』と言った。その伝で言えばわたしは青春を謳歌する年齢。80、90で男盛りになれるかどうかは嫁さんとよく話し合う」と爆笑を誘った。(故・安藤太郎氏は90歳を超えてもゴルフをされていた。家庭での主導権は奥さんが握っていた)
ここから15年間を振り返って会長職として印象に残る活動を紹介。「住宅税制についてはちゃんとすべき。これは和田さん(住団連)、市川さん(木住協)に何とかしていただきたい」と注文をつけた。
最後は「政治家とは仲良くできなかったが、国交省とは天敵の那珂さんをはじめ亡くなられた山本さん(元山口県知事)などと仲良くさせていただいた。井上さん(前住宅局長)とは戦わない」などとジョークを飛ばす一方で、「(わたしの後任の)市川さんはIQが相当高いし、品格がある。わたしとの比較においてだが。座右の銘は『至誠一貫』です。必ず皆さんのご期待に応えるはず。これからも木住協を支援していただきたい」と締めくくった。
後で聞いたら〝天敵〟の那珂(正)氏(元住宅局長)はゴルフのライバルで、「勝ったり負けたり、百獣(スコア110)の争い」だそうだ。歯が立たない井上俊之氏とは戦わないという。
山林取得については「疲弊している森林・林業の振興のため引き続いて増やしていく。国のためだ」と話した。住友林業は数年前に三井物産を抜き森林保有面積で第三位に上昇している。
〝マネシタ電気〟〝三流電気〟〝早いだけ電気〟など関西企業の地盤沈下が目立つが、「住林」「ダイワ」「積水」がわが国の住宅業界をこれからもリードするのは間違いない。「上方」経済を象徴する〝能弁雄弁御三家〟もまた永遠に不滅だ。
すてきナイス 一戸建てが大幅増 業績に寄与 今期は1,000戸目標
すてきナイスグループは5月27日、2016年3月期決算の業況説明会を開き、日暮清社長は「営業利益が消費税の駆け込み需要があった2014年3月期を除けば過去最高の26億円になったのは、一戸建ての『パワーホーム』が大幅に伸び、建築資材事業にも寄与し、リスクの大きいマンションから一戸建てへ名実とも転換したのも大きい」などと語った。
売上高は2,386億円(前期比101.2%)、営業利益は16億円(同160.8%)、経常利益は11億円(同229.5%)だった。このうち住宅事業の一戸建ての売上高は257億円(前期168億円)、マンションは196億円(同226億円)だった。
2017年3月期は売上高2,450億円、営業利益16億円、経常利益11億円を目指す。このうち一戸建ては売上高340億円、マンション196億円を予定している。
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記者が知らないだけで周知の事実だろうが、同社の日暮清社長の1時間20分にわたる業績説明を聞きながら、わが耳を疑い目からうろこが落ちた。同社は昨年、「マンションは免震しかやらない」と大胆な宣言をしたが、その理由もわかった。
それは、大手の寡占が進む一方のマンション事業では徹底した差別化を行う一方で、納材-資材-プレカット-施工-販売の強みが最大限発揮される一戸建てにシフトしようという戦略だ。前述のように、2016年3月期のマンション事業は196億円(前期226億円)で、一戸建ては257億円(同168億円)となり、売上戸数もマンションが321戸(同443戸)に対して一戸建ては733戸(同458戸)と売上高、戸数とも一戸建てが上回った。
日暮社長は「リスクも大きいマンションから回転率も高い一戸建てへの転換に成功した。今期は900戸が目標だが、社内的には1,000戸を掲げている。注文住宅も前々期が198戸で、前期は293戸と伸びており、ここも伸ばしたい」などと話した。
皆さんもご存じだろうが、デベロッパー各社は戸建て事業に意欲を見せている。今に始まったことではない。もう10年も昔、異業種も含め〝雨後の筍〟のように戸建て事業に参入した。
しかし、記者の知る限り成功したのは数えるくらいしかない。用地の取得競争も激しく、一戸一戸積み上げていく事業は手間がかかり、伸び悩んでいるところがほとんどだ。大手デベロッパーも三井不動産レジデンシャルと野村不動産のみが突出しているだけの状況が続いている。
そうした中、ナイスが戸建てを増やすとは聞いていたが、2012年3月期の299戸から4年間で2.4倍増とは驚異的だ。今期1,000戸とは信じられない。三井の今期分譲戸建ては700戸で、野村は650戸が目標であることからもナイスの数字がすごいことが分かるはずだ。
なぜそれほど伸ばせるのか。日暮社長も話したように「基本性能」はセールストーク、販促にはつながらない。どこも基本性能の良さを掲げているからだ。
ではどこが異なるのか。日暮社長は「1戸、1戸、お客さんが口コミで広げてくれるのが大きい。前期で大幅に伸ばしたのは、こうしたことの積み重ね」と話した。
記者はもう一つ、地域のコミュニティ支援も含めたワンストップの仲介店舗「ナイスカフェ」の貢献もあると思うが、この点について日暮社長は「当社の営業はマンション、戸建て、仲介などで垣根を設けない」と語った。ある仲介店舗の所長は「自分でも本業が何であるかわからない」と話した。それくらい徹底しているからこそ、マンツーマン、フェースツーフェースの営業に徹しているからではないかと記者は勝手に解釈している。
あるいはまた、この驚異的な伸びは同社の社風にもあるような気がしてならない。記者はRBA野球大会の取材を通じて同社チームの選手とはよく話すが、チーム内における上下関係などまったくなく、アットホームな雰囲気であるのが他のチームと異なる。これは試合では弱点になることもある。〝仲良しクラブ〟では野球は勝てない。しかし、選手は動ずることがない。城戸伸一朗監督も「学生サークルの延長みたい」と自らのチームを評す。
同社にはわが国の家族経営的な雰囲気を感じるのだが、それがうまく機能していると思えてならない。同じような会社があった。穴吹工務店だ。かつての穴吹は全国マンション供給トップまで上り詰めた会社だが、成長の要因は「大工さんなど施工関係者がうちのマンションを親戚や友人・知人に勧めてくれるのが大きい」と、故・穴吹夏治社長から聞いたことがある。
ナイスもまた「ナイスグループは、社員および当社に関連するすべての人々の福利増進に努めます」を社是に掲げる。創業者の平田周次氏の経営哲学がしっかりと受け継がれている-今回の説明会で改めて感じた。
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これも知らなかったのだが、同社は日本初のCLT構造とRC構造の混構造を採用した「仙台物流センター」を7月にも着工し、12月に完成させる。延べ床面積100坪で、階段室をRC造にして耐震力を強化し、床と壁は木造、梁は集成材にするそうだ。海外ではこうした混構造は当たり前のように採用されていると聞くが、わが国にはほとんど前例がなく、建築確認に時間がかかったそうだ。
もう一つ。同社は平成26年度の国交省「木造建築技術先導事業」に採択された隈研吾氏と大成建設による提案「栄光学園の新校舎」建設でも、材料の調達、ハイブリッドの構造設計、施工を担当する。構造設計では橋梁の建設に用いられる技術を採用し、規格材で9m超の大スパンを実現する。
住団連・和田勇会長 「消費増税が延期になりそうなのに拍手喝采」
住宅生産団体連合会(住団連)・和田勇会長(積水ハウス会長兼CEO)が消費増税について「いつも駆け込みやその反動で苦い思いをさせられる。今回はどうやら延期になりそうな雲行きで、拍手喝さいしている」と述べた。5月26日に行われた木住協の懇親会で、来賓として挨拶した中で語った。
CO2の削減問題については、「動きを加速させないといけない。そのためにはストック、中古住宅の省エネが重要だ。わたしは『中古住宅』という呼称を改めるべきだと思っているが、いい言葉が見当たらない。『既築』(〝鬼畜〟と記者は理解したが)では具合が悪い」と話した。
安倍総理大臣はG7伊勢志摩サミットで、世界経済の現状について「リーマンショックの前と似た状況にある」という考えを表明したが、宣言には「リーマンショック」の文言は盛り込まれなかったようだ。安倍総理は、消費増税について再三「リーマンショック級の出来事があれば、消費税率の引き上げを延期する可能性がある」考えを示している。
木住協 6代目会長に市川晃氏(住友林業社長) 矢野前会長は退任
市川氏(写真提供:週刊住宅)
日本木造住宅産業協会(木住協)の新しい会長に市川晃氏(住友林業社長)が就任した。5月26日行われた定時総会後に発表した。平成13年度から27年度まで会長を務めた矢野龍氏(住友林業会長)は退任した。
市川氏は、「木住協は今年4月で30周年の節目の年を迎えた。わたしで6代目の会長になるが、わが国の住宅市場で木造住宅の割合は増加しており、期待も大きい。需要の柱としてしっかり社会を支えていきたい。責任の重大さも感じている」と述べた。
28年度の重点項目として、木造耐火建築物、省令準耐火構造の普及に向け2時間耐火を含めた新たな大臣認定や追加承認に努めることや、技術者不足を考慮した生産性向上に向けた調査・研究の実施、国産材の利用促進などを盛り込んだ。
総合地所「ルネ世田谷千歳台AYUMIE」 扁平梁、ハイサッシなど採用
「ルネ世田谷千歳台AYUMIE」完成予想図
総合地所が5月24日、「ルネ世田谷千歳台AYUMIE」のメディア向け見学会を行った。同社が長谷工コーポレーショングループ入りしてから初めて双方で商品企画を練った物件で、「学住近接」が売りの物件だ。
物件は、京王線千歳烏山駅から徒歩17分、世田谷区千歳台6丁目に位置する6階建て全64戸。第1期(13戸)の専有面積は60.70~81.36㎡、価格は4,998万~7,898万円。坪単価は286万円。完成予定は2017年2月中旬。施工は長谷工コーポレーション。「AYUMIE」は「歩みの家」が由来。5月24日から分譲開始されている。
現地はバス便(芦花公園駅バス12分、バス停徒歩3分)で、現地は中層マンションなどが立ち並ぶ一角。保・幼・小・中・高のすべてが500m圏内に揃った“学住近接”立地。敷地・建物は南北に細長い形状で、各住戸は東向き。道路を挟んだ対面は生産緑地とサ高住の建設予定地。
外観デザインは、水平ラインを強調し、タイル、アルミルーバー、ガラスの3素材によって重厚感を演出している。敷地の北側にはケヤキの既存樹を残している。
設備仕様は、二重床・二重天井、7m以上のワイドスパン、食洗機、ディスポーザ、バックカウンターなどが標準装備。扁平梁を採用することでハイサッシも実現した。
現在、資料請求は約300件、来場者数は約100件。来場者の居住地は世田谷区が約75%、年収は500~600万円台(約6割がダブルインカムで世帯年収は1,000万円以上が50%)。予算額は4,000~5,000万円が34%、5,000~6,000万円が35%。
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千歳烏山駅からだと道路が狭いのがネックだが、現地はかつてマンションがたくさん供給されたエリアだ。駅に近い物件の価格・単価差がかなりあったために、一部不振物件もあったが売れ行きはまずまずだった。芦花公園にも近くファミリーにはいい住宅地だ。
今回の同社の坪単価286万円はやはり高いという印象を受ける。しかし、この前、野村不動産「大田六郷」の記事でも書いたように、都内23区で坪単価250万円以下というのは絶望的な状況だ。人気沿線の駅から相当距離のある物件でもことごとくこれくらいの単価になることを覚悟しなければならない。
モデルルームタイプは南側にキッチンが設置されており、扁平梁のよさもよく表現できている。。「AYUMIE」は「三重県」と関係があるのかと思ったが、そうではなかった。
三井ホーム わが国初の5階建て2×4工法による特養が完成
「花畑あすか苑」
三井ホームは5月25日、ツーバイフォー工法(枠組壁工法)では延床面積で国内最大となる5階建て(1階RC造)特別養護老人ホーム「花畑あすか苑」(事業主:社会福祉法人聖風会)が完成したのに伴い、報道陣に公開した。
4層以上の中層木造建築物の地震時の横揺れに有効な新技術としてカナダで開発されたミッドプライウォールシステムを採用した国内初の建物でもあり、建築にあたっては強度を確保するための独自金物を用いたタイダウンシステムを全面的に採用し、個室ユニット組み立てによる施工方法を採用するなどの合理化も図っている。平成26年度の国土交通省木造建築技術先導事業として採択されている。
入居者の募集は4月から始まっており、多床室40床は120件、個室ユニット100床は150~160件の申し込みがあったという。
物件は、足立区花畑4丁目に位置する5階建て(1階:鉄筋コンクリート造 /2~5階:2×4 造)延べ床面積9,773.24 ㎡(2,956.40 坪)。建物用途は特別養護老人ホーム140 室、短期入所生活介護施設20 室、認知症対応型デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、地域交流スペース(防災拠点型)。設計はメドックス。施工は三井ホーム。設備などを含む建築費は約30億円。
エントランス
地域交流スペース(床はシート貼り)
1階部分
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楽しみにしていた見学会だが、予想していた通り外観・内装は放火基準を満たすためにほとんどがケミカル製品で覆われていた。
前回の記事を添付するのでビフォー、アフターを見ていただきたい。
建物の裏側(表情がなかなかよかった)
三井ホーム わが国初のツーバイフォー5階建て(1階はRC)特養が上棟(2015/12/9)
マンション南北戦争勃発 「南」の野村に座布団3枚! 「大田六郷」は坪250万円
「プラウドシティ大田六郷」完成予想図
記者は、三井不動産レジデンシャル、大和ハウス工業、近鉄不動産、三菱地所レジデンス、長谷工コーポレーションの5社連合による北区・東十条が最寄り駅の「ザ・ガーデンズ東京王子」(864戸)と、野村不動産の大田区・雑色が最寄り駅の「プラウドシティ大田六郷」(632戸)をともに大型で、しかも子育て世帯がメインターゲットであり、また東十条から東京駅まで約24分、雑色から東京駅は約30分だが品川駅までは約16分と交通便は互角であることから「南北戦争」として位置づけている。かつてないユーザーの争奪戦が展開されるのは間違いない。
勝敗の分かれ目はやはり価格だ。このところのマンション適地と建設費の上昇で東京23区では一般サラリーマンの取得限界だと記者が考えている坪250万円(24坪で6,000万円)以下は足立区や葛飾区の一部しかなくなってきた。悲劇的なことだと思う。
「東京王子」も「大田六郷」も富裕層が見向きもしない、どちらかといえばマイナーな地域だから、ここで坪250万円を超えてきたら、その規模からしてかなり苦戦ずるのではないかと思っている。ともに疲弊して引き分けに終わる可能性もある。
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前置きが長くなってしまった。本日(5月24日)、「南」の「プラウドシティ大田六郷」を見学した。この物件については昨年、モリモトの雑色のマンションを見学した際に存在を知り、坪単価はひょっとしたら270万円くらいになるのではと予想した。
今回の取材をセットしてくれた同社コーポレートコミュニケーション部のO氏とモデルルームを見ながら、「Oさん、わたしはここで坪250万円だったらお客さんが殺到すると思うが、そうはならないでしょうね。三井さんの『東十条』も取材するが、『北』と『南』の激突は避けられない…」などと話した。
O氏は知ってか知らずか、単価について「あとで営業マンに確認しましょう」と言葉を濁した。
さて、そこで物件担当チーフの頼富龍介氏に「坪いくらですか」と単刀直入に聞いた。その答えに記者は驚嘆した。「坪250万円ちょっとです」
記者は絶句した。ありえない単価だ。
もう一度、どうして記者が坪250万円にこだわるのかについて補足する。皆さんは、リーマン・ショック直後の2010年に野村不動産が分譲した全785戸の「プラウドシティ池袋本町」の単価がいくらだったか覚えていらっしゃるだろうか。250万円の半ばだった。圧倒的な割安感があったため(それだけではないが)瞬く間に売れた。
あの時と今は状況が異なるが、いくら金利がただ同然になっても、坪250万円、グロスで6,000万円の壁は存在すると思う。坪250万円に設定した同社に「座布団3枚!」と叫びたい。
設備仕様は、昨日見た「府中」とは雲泥の差で、〝プラウド・オハナ〟とでも名付けたくなるようなレベルではあるが、共用施設の充実ぶり、ランドスケープデザインは間違いなく〝プラウド〟の域に達している。敷地内には認可保育所(予定)や子育て支援施設のほか、医療施設などを誘致する。
5月20日に第1期100戸を供給しており、約9割の契約がスムーズに進んでいるという。
言うまでもないことだが、記者は高みの見物を決め込んでおり、「北」が勝利することをほのめかしているわけではない。むしろ、先制攻撃で驚嘆すべき坪250万円の手を打った「南」の野村に軍配が上がるのではないかと思い始めた。
先制パンチを食らった「北」はどう対応するのか。ともに施工を担当している長谷工コーポレーションは「北」の売主にも名を連ねている。ニュートラルの立場を貫くことができるのかも気になるところだ。
「大田六郷」の物件は、京浜急行線雑色駅から徒歩12分、大田区西六郷三丁目に位置する14階・15階建て2棟全632戸。専有面積は64.62~86.87㎡、第1期2次(戸数未定)の予定価格は4,400万円台~6,900万円台(最多価格帯5,100万円台)、坪単価は250万円強。竣工予定は平成29年2月中旬・6月下旬。施工は長谷工コーポレーション。敷地はグリコの工場跡地。
キッズルーム
京王線の最高峰(単価) 野村不「プラウド府中ステーション…」第1期91戸が即完
「プラウド府中ステーションアリーナ」
野村不動産が5月20日抽選分譲した「プラウド府中ステーションアリーナ」第1期91戸が約700件の来場者を集め即日完売した。京王線府中駅から徒歩1分の15階建て全138戸(非分譲27戸)の商・公・医・住の複合再開発マンションで、坪単価はバブル崩壊後の京王線最高単価となる360万円強だった。抽選となった住戸は10戸以上にのぼり、最高3倍の競争倍率となったのは大國魂神社とケヤキ並木が見渡せる1億3,500万円の南西角住戸だった。府中市を中心に多摩エリアの富裕層から圧倒的な人気を呼んだ。買い替え・買い増しが過半に達したという。残り第2期20戸は6月上旬に分譲される予定。
物件は、京王線府中駅から徒歩1分、府中市宮町一丁目に位置する地下4階地上15階建て全138戸(非分譲27戸含む)。専有面積は63.01~102.51㎡。第1期(91戸)の価格は5,950万~1億9,390万円。坪単価は360万円強。施工は清水・京王・横沢建設共同企業体。入居予定は平成29年7月下旬。
現地は全体で約3.8ha、3街区ある「府中駅南口再開発事業」の一角にあり、今回の「第一地区」が最終章だ。駅とペディストリアンデッキでつながれており、建物の地階の3層は駐車場など、1階から4階が商業施設、5・6階が公共公益施設、住戸部分は7階以上。
住棟はコの字型の形状で、住戸は東向き、南向き、西向き。ワイドスパンが特徴で、もっとも狭い73㎡のタイプでも7.5mあり、ケヤキ並木に面した西向き住戸は8.6m以上。SIも採用しており、第1期の40戸以上がオーダーメイド対応。キッチン・洗面室カウンタートツプは御影石、食洗機、ミストサウナなどが標準装備。
◇ ◆ ◇
人気になるのは予想されたことで、記者は即日完売にそれほど驚かないが、さすが〝プラウド〟というべきか。建物の外観デザインが風格のあるもので、設備仕様も都心の億ション仕様ではないが、〝プラウド〟のトップクラスであるのは間違いない。ワイドスパンのプランも秀逸だ。
立地・環境が素晴らしい。大國魂神社の緑も見事だが、神社から北に向かって長さ約600m、数にして200本近く植えられているケヤキ並木は国の天然記念物に指定されている。江戸初期に植えられた木もあるそうで、中には〝醜悪〟な姿をさらけ出している樹木もあるが、それがまた美しくもある。
坪単価だが、記者は坪380万円くらいが妥当とはじいたが、それより低かった。それでも坪360万円という単価は、バブル崩壊後の京王線の最高坪単価マンションとなるのは間違いない。これまでの記録は、2年前に住友不動産が調布駅前で分譲した物件が確か坪320万円で、同じ住友が5年前に府中駅北口で分譲した物件が坪340万円だったような気がするが、これは誤っているかもしれない。しかし、いずれにしろ今回の野村の物件が記録を更新した(バブル期は千歳烏山~調布あたりは坪500~600万円だった)。
大手と互角に戦えるフージャース「デュオアベニュー調布つつじヶ丘」
「デュオアベニュー調布つつじヶ丘」
フージャースホールディングスグループの戸建て分譲を展開しているフージャースアベニューの「デュオアベニュー調布つつじヶ丘」を見学した。つつじヶ丘駅圏では最近ほとんど供給がないと思われるフラットで、駅に近い希少性から人気になりそうだ。
物件は、京王線つつじヶ丘駅から徒歩6分、調布市東つつじケ丘二丁目の第一種低層住居専用地域に位置する全12棟。土地面積は118.07~121.02㎡、建物面積は93.13~96.78㎡、予定価格は6,700万円台~8,000万円台。入居予定は平成28年7月中旬、9月中旬。構造は木造・2階建て(2×4工法)。施工はイトーピアホーム。販売は5月下旬。
現地は、戸建て住宅が建ち並ぶ閑静な住宅街。武者小路実篤記念館まで徒歩5分。敷地は駐車場として使われていた空き地。
建物は「オーセンティック」「エレガントシック」「ステイトリーシック」の3種。全体として付梁、付桁、窓柱、ボーダータイルなどを多用して重厚感を演出しているのが特徴。
全グループ社員235名のうち女性社員が約40%という同社らしい「女性ものづくりチーム」が考え出した小物置き付ペーパーホルダーや奥行き13センチのLIXIL製のランドリー収納が標準装備。
小物置き付ペーパーホルダー
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同社の平成28年3月期の戸建て・アパートの売上高は7,635百万円で、売上戸数は183戸・2棟。全体の売上高35,943百万円の21.2%を占める。数年前まではほとんどゼロに近かったことからすればものすごい伸びだ。
戸数183戸も大手デベロッパーの2強、三井不動産レジデンシャル、野村不動産には大きく引き離されているが、おそらく混戦の3位争いの一角にいるはずだ。商品企画は間違いなく三井や野村と互角に戦える。
廣岡哲也社長も先の経営方針発表会で「戸建ては城南城西エリアでの事業をさらに強化する。価格が6,000万円から8,000万円くらいで大手との競合はあるが、きめの細かい対応を行えば戦える」と自信を見せた。
今回の取材ではランドリー収納に驚いた。常識的には奥行きが13㎝しかなければタオルケットなどは置けないが、丸めて縦に収納するようになっている。タオルハンガーはバスタオルが確か5枚くらい掛けられるようになっていた。小物置き付ペーパーホルダーは理解できないが、社内の女性スタッフは「あったらいいな」と評価した。
ランドリー収納
街の価値が評価される「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー」
「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー」完成予想図(左側の住棟は非分譲)
デベロッパー・ハウスメーカーは別にして、これまでマンションや一戸建ての取材で首都圏の駅に降り立ったのは400をくだらないと思うが、ここ10年間でいえば、つくばエクスプレス柏の葉キャンパスは10回以上訪れており、もっとも多い駅の一つだ。
回数が多いだけでなく、わが街・多摩センターを除けばもっとも好きな駅圏の一つでもある。なぜそうなのか。第一は「若い」ということだ。
EXが開業して10年ちょっとだから当然といえば当然だが、どこからこんなに子どもが湧いてくるのだろうと不思議に思うくらい子どもが多い。かつて同じような経験を横浜市都筑区でもしたが、小さい子ども連れの若い女性を見ると、気持ちも湧きたつ。不思議と未来に希望が持てるようになる。最近は少し若返ってきたが、これは多摩センターがかなわないところだ。
もう一つ、「若い」のは街づくりの先進性だ。三井不動産を中心に柏市、東大・千葉大という公・民・学連携による先進のスマートタウンづくりが進められており、そのビジョンが素晴らしい。企業もそうだが、ビジョンが貧しければそれなりのものにしかならない。その意味で、添付した「「柏の葉」の「環境未来都市」 涙が出るほど嬉しい提案書(2012/2/13)」の記事と、その提案書をぜひ読んでいただきたい。感動するはずだ。
今回、改めて「柏の葉」を訪ねることにしたのは、先日取材したフージャースコーポレーションのシニア向けマンション「シニア向け「デュオセーヌ柏の葉キャンパス」を取材したのがきっかけだった。
記事にもしたが、フージャースの物件の坪単価は230万円だった。いま三井不動産レジデンシャルが駅から徒歩3分の36階建て免震タワーマンション「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー」(349戸)は204万円だ。その差は30万円近くもある。。一般の分譲マンションとシニア向けはコンセプトが異なるので単純な比較はできないが、双方ともよく売れているのは「街」がユーザーに支持されているということは共通している。
「ゲートタワー」については詳細には触れないが、三井不動産レジデンシャルが分譲した平成20年竣工の「パークシティ柏の葉キャンパス一番街」(977戸)、平成23年竣工の「パークシティ柏の葉キャンパス 二番街」(880戸)に次ぐ第3弾だ。昨年夏から分譲が始まっており、これまで210戸が販売済みだ。
「一番街」も「二番街」も坪単価は165万円くらいだったから若干上昇しているが、まだまだ第一次取得層に手が届く範囲内だ。記者は郊外部のマンションだけは価格を上げてほしくないと思っているのだが、同社はその期待に応えてくれている。10年くらいの間に3物件トータルで2,206戸にもなる。熟成した街ならともかく、何もなかった場所で「街」をつくりこれほどの住宅を供給できる三井不動産グループの力を見せつけている。
三井不動産レジデンシャル千葉支店営業室主査・河崎竜也氏に話を聞いたのだが、「流山おおたかの森との競合はそれほどなく、それぞれの住み分けができているようだ。むしろ『柏の葉』の既分譲の中古や、当社の『武蔵小杉』『豊洲』『新川崎』、最近では『中央湊』だったり、『街』の比較で物件を検討されている方が目立つ」と語ったのが印象的だった。
都市間・エリア間競争が激化しているということだ。ここに「多摩ニュータウン」が割り込めないのが残念ではある。
建築中の現場
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現地で小さな子どもを連れた「二番街」に住む女性(30)に〝なぜ柏の葉なのか〟を聞いた。「家族は上の子がいるので4人です。ここを選んだのは私の実家・流山に近かったことが第一ですが、おおたかの森より広かったのが決め手。96㎡です。駅の周辺に何でもそろっていて、緑が多いのも魅力です」と話した。
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一昨年オープンした「KOIL」のカフェレストラン「AGORA」で食事をした。店内で水耕栽培している「野菜を食べたい」と話したら野菜サラダにして出してくれた。スーパーの野菜との違いは判らなかったが、「きれいなものを食べた」という満足感はあった。
時間が空いたので、「KOILパーク」の「1 day ユース」プランを利用して約1時間本を読んだ。料金は400円(1日利用は1,500円)。喫茶代と思えば高くない。
水が飲め、インターネット(Wi-Fi)や電源の利用、コピー・出力・スキャンなども利用できる。「KOILパーク」に隣接したオープンスペースでは食事もでき、卓球を楽しんでいる人もいた。喫煙室もある。
カフェレストラン「AGORA」
「KOILパーク」
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