国土交通省 個人住宅の流通促進にガイドライン示す
「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」
国土交通省は2月28日、第5回目の「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」を開き、「報告書(案)」を取りまとめた。
「検討会」は、全国の空き家が約760万戸(平成20年)に及び、そのうち個人住宅が約270万戸を占め、防犯・防災・衛生・景観など環境面でも地域の大きな問題となっていることから、質の高い既存の住宅ストックを活用した賃貸流通や住み替えの促進を図るため、所有者、利用者、関係事業者、行政などの当事者に向けて、先進的な取り組み事業や契約の枠組み(ガイドライン)を整備する方策を検討するもの。
「報告書(案)」では、一定水準の賃料を得られる都市型と、賃料水準の低い所有者が修繕などの負担を追わずに、貸主が自費で模様替えなどができるDIY型の3パターンが示された。
また、当然のことながら、「単に住宅の視点のみならず、子育てや雇用、福祉等の公共サービスを含め、総合的な地域経営の観点から、地域の活性化に取り組むことが求められる」ともしている。
◇ ◆ ◇
住宅数が世帯数を上回ったと発表されたのは昭和48年だ。その後、空き家は一貫して増え続け、平成10年には10%を超えた。記者は賃貸経営は疎いが、空き家率が10%を超え、その後も増え続けるとすればやがて経営は成り立たなくなり破たんするのは目に見えている。平成20年の賃貸住宅の空き家率は18.8%というから危機的な状況にあるのだろう。
◇ ◆ ◇
「検討会」では、不動産業界の代表側から「物件が出てこない」という声が聞かれた。記者はわが耳を疑った。全国に760万戸も空き家があるのに、どうして民間の不動産業者に物件が出てこない=流通しないのか。そんなはずはない。
「物件が出てこない」のではなく、不動産業者に空き家を流通させる能力、ノウハウがないのだと思う。外国人居住を増やそうというのが国策である現在、いまだに戦前の商行為「礼金」を、「KARAOKE」「TENPURA」「TSUNAMI」のようにそのまま「REIKIN」として通用するとでも考えているのだろうか。まず、このような「前近代的」な姿勢を改めないと、不動産賃貸業の将来はないのではないか。
◇ ◆ ◇
記者は一昨年の夏、限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地を取材した。昭和37年から同44年にかけて東京の開発業者によって開発された2団地合計の開発面積が約17万㎡で、総戸数1740戸。1区画あたりの平均面積は約20坪から約27坪というものだった。
訪れたのは30年ぶりだったが、限界集落になっているという確信があった。最初は実名をあげるつもりで書いたが、直前になって匿名にすることにした。反響が怖かったからだ。
しかし、この団地の例は極端ではあるが、どこの郊外団地でもやがて直面する問題だろうと考えている。空き家問題というよりは、もっと深刻なコミュニティ・街の崩壊の問題だろうと思う。
そうした難問に「検討会」はどのような解決策を打ち出すのだろうと期待していたのだが、「検討会」の主旨はそうではなかった。冒頭の通り、空き家の賃貸借契約のガイドラインを示すことに主眼が置かれていた。
国交省住宅局住宅総合整備課長・里見晋氏が「空き家対策については法制化が検討されており、市町村計画で調査を進めているところもあるが、この検討会は定住促進のために行っているわけではなく、空き家を活用して流通の仕組みを整備することにある。この問題はゼロサム(ゲーム)と一緒だ。市場性のない劣悪なものはシュリンクしていく。一方で、いいものもある。それを発掘し、資金面などで問題を抱えている子育て世代などを支援することで流通するようにしたい。完成形として世に問いたい」と話した通りだ。
空き家問題は喫緊の課題だが、小手先の対策では解決はしない。街を再生するビジョンが必要だ。
積水ハウス 藤井瑛美氏が「建築・住宅技術アイデアコンペ」最優秀賞
積水ハウスは2月27日、建築研究開発コンソーシアム(CBRD)主催の「第11回 建築・住宅技術アイデアコンペ」で同社が提案した「子どもの安全配慮に関する研究」が最優秀賞に選ばれたと発表した。
研究をまとめたのは同社技術部の藤井瑛美氏で、ユニバーサルデザインの視点から、住宅内の子どもの事故防止のためのプラン提案、部材・設備などの提案を行ったのが評価された。
受賞について同社は、「女性ならではの視点も評価されたのでは。2月より『ダイバーシティ推進室』を設け、女性を中心に多様な社員の活躍を目指す中での受賞」とコメントしている。このテーマについて約1年間、社会に還元できる具体的成果を目指して合同研究を行うという。
◇ ◆ ◇
同社のユニバーサルデザインの取り組みは業界では抜きんでており全産業を通じてもトップクラスだろうと思う。しかし、藤井氏も指摘しているように、小さなこどもの事故防止については盲点となっているのも確かだろう。記者も風呂場での溺死が相当あるのに驚いた。研究成果の発表を待ちたい。
◇ ◆ ◇
同社は2月に「ダイバーシティ推進室」を設置したようだが、記者もこれから「ジェンダー」について勉強しようと思う。
2月15日に行われる予定だった日本学術会議のセミナー「法の世界とジェンダー 司法と立法を変えることはできるのか? 」を楽しみにしていたのだが、大雪で急きょ中止になり参加できなかった。32ページにもわたる資料だけは頂いた。
そこには、報告を行うことになっていたお茶の水大学名誉教授・戒能民江氏の「立法は政治的意思の欠落を隠蔽する。政治的意思の欠落と結合した弱い法律は、法の効果そのものを蝕む」(国連女性に対する暴力特別報告書クマラスワミ)「新しい理論形態は『顔面を殴るこぶしという現実に関与する』」(マッキノン2005)などの鋭い文言・語句が満たされていた。
記者が一番注目したのは、ある大学の履修科目「ジェンダーと法」の最終回授業(15回目)では「男らしさと女らしさ」を論じるとあったことだ。男を自覚するようになって60年、記者はこのテーマの解答が分からない。
それを知りたくて、上野千鶴子氏と角田由紀子氏のそれぞれの近著を買った。同世代の作家、小池真理子氏は「私には両性具有の眼がある」と語ったが、やはり小池氏は素敵な女性だと思う。ミミズやカタツムリを研究するほうが手っ取り早いか。
日本綜合地所「ヴェレーナ大宮大門町」全住戸8m以上のワイドスパン
「ヴェレーナ大宮大門町」完成予想図
日本綜合地所が3月に分譲開始する「ヴェレーナ大宮大門町」を見学した。大宮駅から徒歩5分と近く、スーパーマーケットチェーンの㈱マルエツとの共同事業マンションで、単価もリーズナブルだ。
現地は2017年竣工予定の「大門町2丁目中地区再開発エリア」に近接しているのが最大の特徴。再開発計画の詳細は未定だが、ショッピングモール、公共公益施設、大小のホールなどが予定されている。
最寄り駅となる大宮駅は14路線が乗り入れをするビッグターミナル。マンションが立地するエリアは大宮駅前から広がる商業地域だが、現地から先は氷川神社の参道に向けて住宅が増えていく地域。建物は14階建て、1、2階は24時間営業を予定しているマルエツとなり、住居部分は3階以上の全48戸(非分譲4戸含む)。全住戸が間口8m以上のワイドスパンとなる。
物件は、さいたま市大宮区大門町三丁目に位置し、専有面積は65.00~70.15㎡、第1期の価格は3,990万円台からで坪単価は220万円前後になる模様。竣工予定は2015年1月下旬。施工は風越建設。
◇ ◆ ◇
同社の「ヴェレーナシティ千葉ニュータウン中央」を見学したとき、この物件のおおよその概要を聞いて坪単価220万円を予想した。
大宮駅から徒歩5分、中規模物件、商業地域の住環境、このエリアでの同社の知名度などを総合的に判断して予想したが、モデルルーム、現地周辺を見て坪単価250万でもいいのではと思うほど割安感があると思った。
大宮駅東口は駅前から商店街が広がっていて駅から徒歩5分圏内のマンションは希少性がある。
敷地形状は南北軸に長く配棟は東向きとなっていて、中層階以上からは氷川神社の参道も眺められる。商業地域の立地だが、住宅地エリアに向いていることもあり日照も確保されている。専有面積は最大でも約70㎡だが、全住戸8m以上のワイドスパンで廊下面積を圧縮し居住性を高めているのも評価できる。
大宮区を中心に告知を行っているようだが、竣工は1年先であり、現在は同エリアでの競合物件も少なく早期の完売が期待できる。
モデルルーム
三井不動産 日本橋の帰宅困難者対応訓練に180人
「帰宅困難者」受付風景
三井不動産は2月27日、今後予想される首都圏直下型東京湾北部地震(M7.3)を想定した帰宅困難者受け入れ訓練をテナントなどとともに日本橋「江戸桜通り地下歩道」で行った。
訓練は昨年4月に施行された帰宅困難者対策条例に基づき中央区の要請により、江戸桜通りの地下歩道での帰宅困難者の受け入れを決定し、ゾーニングから受け入れ態勢の整備、非常用備品の配布など一連の流れを実施した。
中央区のモデル事業としても実施されたもので、参加者は三井不動産の社員、テナント企業、中央区など。スタッフ20名を含む180名が参加した。
訓練開始時の三井不動産スタッフによる説明
◇ ◆ ◇
この種の訓練を見学するのは初めてだった。地下歩道は三井不動産など事業者が整備し、管理は区が行うもので、広さは約3,000㎡。帰宅困難者約1,800人を収容可能。非常食やトイレを整備、災害時には約450人が3日間利用可能な水槽を設置している。非常用の自家発電も完備しており、停電時でも3日間電源が確保されている。
◇ ◆ ◇
帰宅困難者に扮した若い女性に声をかけたら、「自家発電? 知ってますよ。3日間大丈夫と聞いています」と答えが返ってきた。びっくりしたが、「三井さんの社員でしょ」と聞いたらその通りだった。
帰宅困難者には1人分約1畳分のシート、四角い座布団のような断熱クッション、金銀のアルミシートが配布された。アルミシートはサイズ約210×130で、金色は吸熱、銀色は断熱効果がある。「MADE IN CHINA」だった。
避難場所は禁煙だが、酒については、お巡りさんが「本人の判断に任す」と話した。もちろん参加者は勤務中。酒など飲む人はいなかった。
金銀のアルミシートで体をくるむ参加者「結構あったかいですよ」
災害情報も刻々と伝えられた
「江戸桜通り」の地下歩道
「ティアラ」にふさわしい外観デザイン 住友不動産「スカイティアラ」
「スカイティアラ」完成予想図
住友不動産は2月27日、記者見学会を行い、板橋区・志村坂上の大規模マンション「スカイティアラ」のモデルルームを3月1日にオープンすると発表した。ガラスをふんだんに採用し、白と黒のデザインが美しいマンションだ。
物件は、都営三田線志村坂上駅から徒歩8分、板橋区小豆沢一丁目な位置する敷地面積約16,000㎡の19階建てウエスト棟(456戸)と13階建てイースト棟(165戸)合わせ全621戸の規模。専有面積は57.20~88.40㎡(平均74㎡)、価格は未定だが坪単価は230万円の予定。完成予定は平成27年4月中旬。設計・施工は大林組。敷地はアステラス製薬の工場跡地。
総合設計制度の適用を受け、広大な敷地内に提供公園を含めた4つの公園を配し、約1,000本の樹木を植樹。
外観はモノトーンのタイルとガラス手すりのバルコニー、ガラスカーテンウォールで構成。黒や白のマリオン、サッシ枠を巧みに取り入れることでデザイン意匠に工夫を凝らしているのも大きな特徴。最上階は「ティアラ」にふさわしくガラス貼りとしている。
共用廊下には同社独自のメーターや室外機を外廊下側に設けたシャフトに格納する「S-マルチコア」を採用。天井高は標準階で2,550ミリ。好みの間取りやインテリアカラーが無償で選べるカスタムオーダー対応とする。
昨年11月から告知を開始しており、これまで広域から約2,000件の問い合わせがあるという。
最上階の住戸部分
◇ ◆ ◇
物件名に「TIARA」を冠し、〝光景(シーン)となる象徴(シンボル)〟をうたい文句にしているように外観のデザイン意匠に力を入れている物件だ。特に北側の表情が美しい。
記者の知る限りこれまで物件名に「ティアラ」を付けたマンションは、大成有楽不動産・平和不動産「ティアラシティ」(松戸市、2000年竣工)とタカラレーベン「ティアラの丘」(八王子市、2009年竣工)がある。「ティアラ」が美しいのは何と言ってもオリックス不動産「ダ・タワーズ台場」(港区、2006年竣工)だ。
「ティアラシティ」はオードリー・ヘップバーンをイメージ・キャラクターに採用した最初のマンションで、マンションに「ティアラ」があったわけではなく、「ローマの休日」のティアラ姿が広告の前面に押し出されたものだった。外観はベージュ・アールを多用していた。
今回のマンションは今までの「ティアラ」を冠したマンションと比べてもひけはとらない。むしろ「白と黒」のデザインに記者は惚れ込んだぐらいだ。後姿がとくにいい。シアターでは、商品企画を担当した同社製品企画室シニアエンジニア・山田武仁氏が数分間にわたって物件に込めた「想い」を語っていたのが印象的だった。
◇ ◆ ◇
坪単価は予想していた通りだった。坪250万円を超えてくると準都心部でも販売は苦しくなる。これくらいの単価設定が楽ではないがサラリーマンに手が届く価格帯だ。
山田氏のシアターでのトーク・出演料を単価に置き換えると1万円/坪の価値はあると思うがどうだろう。ご本人は安すぎるというだろうか。山田氏は間違いなく同社の名物男だし、これ以上ない宣伝マンだ。
販売事務所に設けられている模型
新体制で東急不グループに化学反応 三枝新社長は業界最長身の183㎝
三枝氏
東急不動産社長に業界最長身183cmの三枝利行氏-東急不動産ホールディングスは2月26日、東急不動産社長に東急不動産ホールディングス取締役で東急不動産取締役常務執行役員・三枝利行氏が、東急コミュニティーの新社長には同社取締役で東急不動産取締役副社長・岡本潮氏が4月1日付でそれぞれ就任すると発表した。金指潔・東急不動産社長は会長に、中村元宣・東急コミュニティー社長は会長にそれぞれ就任する。
三枝氏は1958年生まれの55歳。東京都出身。青山学院大卒。身長は183cmで、これまでの大手デベロッパーの社長としては断トツの長身社長になりそうだ。
三枝氏(左)と岡本氏
◇ ◆ ◇
社長交代のニュースは、同日、ザ・キャピトルホテル東急で行なわれた恒例の東急不動産ホールディングスグループ記者懇親会でもたらされた。記者は会場をセルリアンタワーだと間違えたために、金指潔・東急不動産ホールディングス社長の話を聞きそびれたが、金指社長は準備万端、ずっと以前からこの日を発表の日と決めていたのではないか。
懇親会の締めで挨拶した東急リバブル・中島美博社長の言葉がそれを裏付けた。中島氏は「わが社の業績は他をしのぐ勢い」と話し、「ホールディングス体制に移行して5カ月、当社グループは化学反応を誘発している」と、経営陣の若返りを「化学反応」に例えた。足し算でも掛け算でもない、さらに高いステージへ止揚する意味と受け取った。
大手デベロッパーの社長就任年齢としては、昨年52歳で就任した住友不動産・仁島浩順氏や、故・安芸哲郎氏が東急不動産の社長に就任したのは53歳だったようなので、両氏には及ばないが、三井不動産・岩沙弘道会長(72)が社長に就任したのは56歳だった。
年齢もさることながら、三枝氏の身長は、同社はもちろん同業他社の歴代社長と比較しても断トツの高さだろう。長身の社長としては三菱地所の元社長・高木丈太郎氏や東京建物の現社長・佐久間一氏などを思い浮かべるが、せいぜい170cm台だろう。他の社長は縦糸より横糸のほうがはるかに目立つ短身メタボの方が多数派を占めている。
三枝氏は圧倒的な背の高さと若さで「化学反応」を進め、業界に旋風を起こすか。金指社長は三枝氏のフットワークの良さにほれ込んだそうだ。
左から金指氏、三枝氏、岡本氏、中村氏
施工会社が決まらなくてもマンション広告は打てるか
建築工事費の上昇、職人不足は深刻の度を増しているが、その影響はマンションの広告にも表れている。施工会社が決まらず、物件概要に「未定」とするものが散見されるようになってきた。そのような「広告」を見るにつけ、デベロッパーの苦悩が伝わってくる。
広告の開始時期の制限を定めた宅地建物取引業法第33条には、「宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建物の建築に関する工事の完了前においては、当該工事に関し必要とされる都市計画法第29条第1項又は第2項の許可、建築基準法第6条第1項の確認その他法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあった後でなければ、当該工事に係る宅地又は建物の売買その他の業務に関する広告をしてはならない」とあるが、この規定には施工会社を明記しなければならないとはなっていない。
つまり、施工会社が決まらなくても広告は打てる。不動産広告の自主規制団体、不動産公正取引協議会では「好ましくはないが違反ではない。施工会社が決まっていないマンションを消費者がどう判断するか」(首都圏)「厳密に言えば違反だが、諸事情があり『予告広告』の段階では未定でも認めている。本広告の段階ではきちんと明記するよう指導している」(近畿地区)としている。
記者はマンションの施工会社も設計・監理会社も極めて重要な選択肢の一つだと思うが、やはり一番重要なのはデベロッパーの姿勢だ。施工がどこであっても、「これが当社のマンション」と自負できるようなブランドを目指すべきだ。
とはいえ、施工会社が分からない(そもそも設計会社も監理会社も管理会社も広告で表示する義務はない)マンションの購入を検討する人はどれくらいいるだろうか。施工や設計、監理、管理がどこであるかも重視されるのが本来の姿であると思う。
福島県最北端の「環境未来都市」新地町 「リタイア」の言葉は死滅するか
新地町のホームページ トップ
北は宮城県山元町に、東は太平洋に接す福島県の最北端の町、相馬郡新地町は人口約8,000人。町のプロフィールには「西部の阿武隈山系からのびる丘陵の間の平地に、市街地や田畑、果樹園が広がり、海は遠浅で澄んだ水と美しい砂浜が続いています」とある。
この「遠浅で澄んだ水と美しい砂浜が続く」町を東日本大震災が襲った。「沿岸部は壊滅的な打撃を受けた」(第一次新地町復興計画)。津波は標高10m 未満の多くの土地に浸水し、浸水面積は町の全面積の5分の1約904haに達し、500 戸を超える住宅が全半壊、JR 常磐線新地駅も全壊した。死者・行方不明者は118人にのぼっている。
町は2012年4月、①命と暮らし最優先のまち②人の絆を育むまち③自然と共生する海のあるまち-の3つを骨子とする復興計画をまとめた。復興計画「『やっぱり新地がいいね』~環境と暮らしの未来(希望)が見えるまち~」は、柏市、横浜市、北九州市などとともに国の「環境未来都市」にも選ばれた。
「環境未来都市」構想は、21世紀の人類共通の課題である環境や超高齢化対応などについて世界に類のない成功事例を創出し、国内外に普及展開することでわが国の持続可能な経済社会を実現するプロジェクトだ。
新地町の計画書では、2050年の将来像を次のように高らかに謳っている。
「木質バイオマスや太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーによる『エネルギーの地産地消』を達成してきました」「地域の基幹産業である農業や水産業などの一次産業は、豊富な再生可能エネルギーを背景に、最先端の生産・貯蔵技術などを活用し新鮮な食品を供給することで、市場の高い評価と信頼を獲得し、今では国内外に通用するブランドを確立するに至っています」「地域の高齢者には、もはや『リタイア』という言葉はありません」「多様なインフラを介して、多様なコミュニティビジネスが生まれ…人の絆が強くなり、生活の利便性においても、大都市圏に劣らないほど充実しています」
◇ ◆ ◇
記者は2050年の新地町が「エネルギーの地産地消」を達成し、一次産業が国内外に通用するブランドを確立し、「リタイア」の言葉は死滅し、「大都市に劣らない」利便性を確保し、そしてこの「成功事例」が全国に波及することを願いたい。
それにしても、この楽観主義はどこから来るのだろう。千葉県柏市の「環境未来都市」計画も未来をバラ色に描いて見せる。「長寿・高齢化社会は手放しで喜ばしいことと歓迎される」(柏市)社会は到来するのか。新地町のように「リタイア」の言葉は本当に死滅するのだろうか。
最近ではベストセラーになった「里山資本主義日本経済は『安心の原理』で動く」(角川oneテーマ21) もそうだ。わが国の「里山」は危機に瀕しているというのに、「マネー資本主義」を補完するサブシステムとして十分機能するという。「国家」もそのうちに死滅するのかと思ってしまう。
◇ ◆ ◇
しかし、現実は厳しい。新地村の平成21年度決算報告によると、一般会計の歳入は44億円、歳出は40億円。歳入のうち町税が21億円(48.5%)で、その他の収入などを含めた自主財源額は28億円(65.4%)だ。歳出で多いのは総務費7億円(19.3%)、民生費8億円(20.4%)、土木費5億円(12.6%)、農林水産費4億円(10.6%)などだ。
地方都市では自主財源比率が1割~3割しかないのが常識であることからすれば、当時の新地町の財政は極めて健全といえなくもない。
これが震災によって一変する。平成24年度の歳入は279億円、歳出は263億円。歳入のうち町税は18億円(6.6%)で、繰入金が35億円(12.8%)となっている。国庫支出金は165億円に達した。
21年度と比較すると予算規模は6.3倍に膨れ上がったが、自主財源比率は65.4%から一挙に22.7%までに低下。震災の影響か、人口は震災前より430人、5.1%減少し、町税も実に14%、3億円も減少した。
◇ ◆ ◇
この新地町の復興事業の目玉となるのが「新地駅周辺被災市街地復興土地区画整理事業」だ。施行面積は約23.6ha。施行後は道路、公園などの公共用地が約8.2ha(34.4%)で、宅地は約12.5ha(52.9%)、保留地は約3.0ha(12.6%)。減歩率は25.4%。事業期間は平成25年から30年度末まで。総事業費約66億円のうち保留地処分金約4億円を除く61億円はほとんど公費で賄う。
被災前の地区内の人口は約190人で、人口密度は8.0人/ha。地価の平均額は7,700円/㎡だ。区画整理後の人口は約370人、人口密度は16人/haとしている。整理後の地価は11,900円/㎡。
平たく言えば、9.6億円(坪25,000円)の土地を15億円(坪39,000円)の宅地にするために61億円を投じ、人口を約150人増やす計画だ。安心・安全の復興まちづくりは途方もないお金がかかるということだ。これが強くしなやかな「国土強靭化」政策なのか。
同じような土地区画整理事業は被災地の50カ所以上で計画・進行している。
東建他「Brillia City横浜磯子」竣工 料理の鉄人「中村孝明 貴賓館」も併設
左から東建・田代氏、中村氏
東京建物は2月25日、東京急行電鉄、オリックス不動産、日本土地建物販売、伊藤忠都市開発とともに開発を進めている横浜市磯子区のプリンスホテル跡地の大規模マンション「Brillia City横浜磯子」(全1,230戸)が完成し、敷地内の歴史的建造物「旧東伏見邦英伯爵邸」(通称:貴賓館)に出店する創作和食レストラン「中村孝明貴賓館」が2 月28 日にオープンすると発表した。同日、報道陣向けに中村氏も出席して試食会も兼ねた内覧会を行った。
物件は、JR京浜東北線・根岸線磯子駅から徒歩4 分(敷地入口/グランドゲートまで)、横浜市磯子区磯子3 丁目に位置する敷地面積約10.2ha、3~10 階・地下1~2 階、住宅棟13 棟、商業棟1 棟からなる全1,230戸の規模。専有面積は61.27~140.13㎡。坪単価は約190万円。設計・施工は大成建設・長谷工コーポレーション。入居開始はⅠ工区が平成25 年8 月22 日、Ⅱ工区が26 年2 月27 日。
タイをさばく中村氏
◇ ◆ ◇
さすが〝料理の鉄人〟中村孝明氏だ。内覧会のメーンはマンションが竣工したのでランドプランや共用施設の見学が中心かと思ったが、そうではなかった。メーンは中村氏だった。報道陣もいつもの記者とは異なる人のほうが多いように感じた。
中村氏の料理は「有明」で食べたことはあるが、ご本人にお会いするのはもちろん初めてだ。中村氏は、「このようなところで開店するのは夢だった。天ぷらはなだ万時代から20年来の友人。1階はカジュアル、2階は懐石。調理人だけでなく接客、洗い場が一緒に力を合わせるから最高の『お・も・て・な・し』となる。地域の方々との交流も行っていきたい」と語った。
試食会で「これを陳建一がばくった」と中村氏が話したフォアグラのムースのようなものはえも言われぬおいしさだった。
「貴賓館」は鉄筋造の3階建て。延べ床面積は約1100㎡。マンションの管理組合が所有するが、建物の価値、賃料などは公表されなかった。都心なら何万円/坪もするはずだ。
貴賓館と正面に新設された滝
◇ ◆ ◇
マンションそのものは素晴らしい出来だった。特徴は、①「貴賓館」に和食レストラン「中村孝明貴賓館」がオープン②横浜プリンスホテル跡地約10haを開発③スーパーマーケットやクリニックモールなどの商業施設を併設④駅から徒歩4分の場所に高低差約60mを解消する高速エレベーターを設置⑤地域のコミュニティ活動を広げるタウンマネジメント倶楽部の発足⑥CASBEE横浜でSランクの評価――などで、記者も最高レベルの「S」評価だ。こんなマンションは他にはない。
唯一納得できないのが売れ行きだ。記者は分譲開始時に見学し、圧倒的な人気を呼ぶと思った。駅につなぐエレベーターを設置し、988台の駐車場の多くを地下化し、大型スーパーに内科・小児科、歯科・耳鼻咽喉科、薬局、認可保育園、美容院、コンビニなどを備えたマンションなどまずないからだ。(分譲開始時は中村氏のレストラン計画はなかったはずだ)
全13棟もあり駅から遠い住棟は10分以上もかかるが、平均で200万円をはるかに突破しても売れると読んでいた。190万円という単価はいまでも信じられない。これほど予想を外した物件はそうない。
冷静に振り返ると、眺望の良さと共用施設の充実ぶりを過大評価し、「坂」のマイナスを過小評価したのかもしれない。ホテルがあったとき一度だけ歩いたことがあるが、息が切れた。生活者の視点が欠けていたのだ。
販売状況については、内覧会に出席した同社プロジェクト開発部部長・田代雅美氏は、「一昨年の初めからこれまで930戸を供給しているがほぼ完売。順調に売れている。お客さまのニーズにあったたくさんの〝売り〟があるマンションだと自負している」と語った。街が完成したことで、販売スピードは加速度的にアップするのではないか。
貴賓館と客室からの眺め
竣工した建物
磯子駅前で咲いていた早咲きの桜
アキュラホーム 「第1 回埼玉県環境住宅賞」アイディア部門で入選
アキュラホームは2月21日、埼玉県住まいづくり協議会が実施した「第1 回埼玉県環境住宅賞」アイディア部門に1 作品が入選、4 作品が佳作、住まい手部門では2 作品が佳作を受賞したと発表した。
アイディア部門で入選したのは「『輪になって暮らすしあわせ』~Common のあるまちづくり~」。わが国の三軒両隣の住文化をヒントに、5~10戸程度のコモンを持つ住宅群をクラスター状に配置した街づくりを提案したもの。
埼玉県環境住宅賞は、環境への負荷が少ない新築やリフォームの実践例、住まい方のアイディアなどを募集したもので、4部門72作品の応募の中から最優秀賞1作品、優秀賞3作品、入選10作品、佳作21作品が選ばれた。審査委員長は三井所清典・日本建築士会連合会会長。
最優秀賞(住まい手部門)は竹田篤史氏による「緑がつなぐ家~街並み・コミュニティ・環境・世代~」(設計者:オーガニックスタジオ)。3世代同居の平屋建て住宅で、パッシブデザインを取り込み、柿、キーウイ、ビワ、ジューンベリーなどの果樹をふんだんに配したもの。講評では「緑を中心に、世代、人、街をつなぐように配慮した家づくりの考え方はとても素敵である」と評価された。
◇ ◆ ◇
アイディア部門で入選した作品に取り入れられている「コモン」は、これまでも多くのデベロッパーやハウスメーカーが提案しているのでやや独創性に欠けるが、風・水・光・土・育・環の仕掛けはすぐにでも実践できる。
受賞について、同社を代表して商品開発部課長・太田雅彦氏が「今後の住まいづくりが、家単体の環境に配慮する自己満足のハイスペック住宅を供給するという考え方でなく、太陽の熱や光・風などの自然の恵みを有効に利用しながらエコに心地よく暮らすとともに、近隣との絆づくりのサポートを住まいやまちが行うことで、『地域の満足』へとつながることを信じている」とコメントした通りだ。