年頭所感 「社員のキャリア自律×ベクトルの一致」 積水ハウス・仲井嘉浩社長
仲井社長
新年、あけましておめでとうございます。
昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ侵攻、資材価格高騰、物価高など社会情勢が目まぐるしく変化した年でした。非常に難局ではありましたが、無事に乗り越えることができ、2022年度は、過去最高の業績と第5次中期経営計画の3ヵ年合計も当初計画を上回る予定です。
現在、日本の住宅ストックは、耐震性や断熱性が低いといった住宅の質の部分で、まだまだ多くの課題を抱えており、国も良質な住宅ストックの形成に本格的に舵を切り始めました。当社グループは今まで黙々と住宅に関する技術研究を重ねてきました。先人たちが築き上げた最高の品質と技術と顧客基盤をベースにし、グループ全体でストックの価値向上に努め、さらに、新しいソフト・サービスを加えることにより、安定成長に繋げていきます。
また、海外においては工業化住宅といったビジネスモデルはありません。今世界が積水ハウスの住宅に関する技術やマーケットインの商品づくりに注目しており、海外戸建て1万戸を供給するビジョンを実現したいと考えています。
成長のためのドライバーは人財価値の向上です。その価値は、「社員のキャリア自律×ベクトルの一致」で計ることができると考えています。これは “かけ算”なので、どんなに自律した優秀な個人であっても、一人だけ違う方向を向いて仕事をしているなど、組織がめざすベクトルと合っていなければ、組織にとっての人財価値は、“ゼロ”にしかなりません。
「ベクトルの一致」のキーパーソンはリーダーです。会社のビジョンや組織・事業の戦略を、伝道師として伝え、波及させていくインテグリティの高いリーダーの存在が不可欠です。
「キャリア自律」とは、各々の社員が積水ハウスグループという資源を利用しながら、自らのキャリアを一つひとつ形成していくことです。社員一人ひとりが、環境変化に適応しながら主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組むことを期待しています。
そして、これからも合言葉として大事にしていきたいのは、「イノベーション&コミュニケーション」です。イノベーションとは、お客様に幸せという価値を提供することだと考えています。そのためには活発なコミュニケーションが必要です。いろいろなアイデアをもとにコミュニケーションをとることで、新たな展開が生まれ、お客様が幸せになり、会社が成長し、社員が素晴らしいキャリアを形成していくと確信しています。
最後に、当社グループを取り巻く社会環境は今まで以上に激しく、かつ労働力不足の時代が到来します。この環境変化に適応するために「DX」は必要不可欠ですが、同時に、相反するようですが、美しいものは美しいと感じることができる「感性」も忘れてはならないと思います。先人たちが培った「信頼」と「技術」に、「DX」と「感性」を加えることでNEXT 積水ハウスを構築していきます。
年頭所感 「ともに、その先の未来へ。」三井不動産リアルティ・遠藤靖社長
年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年、当社は新生三井不動産リアルティ誕生から10周年と節目の年を迎えました。新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも堅調なマーケットに支えられ、各事業の業績は概ね順調に進捗し、2022年3月期には過去最高益、また全国売買仲介取扱件数36年連続No1を達成しました。
日本の景気の現状は、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで持ち直していますが、今後様々なリスク要因により、今後の日本経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。
そうした中、「ともに、その先の未来へ。」をコーポレートステートメントに掲げ、お客さまに提供するサービスにより成り立つ当社にとって、お客さま満足度の向上は恒常的な課題であります。
本年は、お客さまへより質の高いサービスを提供することに全社一丸となって取り組み、「三井のリハウス」「三井のリパーク」「カレコ・カーシェアリングクラブ」を今まで以上に信頼されるブランドに育てていく所存です。
最後になりましたが、本年も皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとって実り多い一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
年頭所感 予測できない時代だからこそ「正射必中」 ポラスグループ・中内晃次郎代表
中内代表
2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、3年が経とうとしています。
新型コロナウイルスはパンデミックを引き起こし、感染防止を目的とした人流抑制策等により、世界経済が停滞するなど現在も大きな影響を受けています。2023年1月現在、収束に向かいつつあるとの説もありますが、国内では第8波といわれる状況になっており、未だにマスクが手放せない状態です。
この間、我々の仕事の環境は大きく変わりました。感染防止対策の一環として、ウェブ会議、テレワーク、お客様とのリモート商談や、展示場やモデルルームへのご来場は事前予約が多くなりました。
住宅の市況においても、外出の自粛や在宅ワーク等の影響により、住まいに対する関心が高まり、住宅購入の需要が顕在化した時期でもありました。
新型コロナウイルスの蔓延やこれに起因する、物流の混乱、資材等の不足や高騰、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化など、予測のできないことが起きています。
弓道の考え方に「正射必中(せいしゃひっちゅう)」という言葉があります。これは、的を狙うに際して、的に中てることばかりに意識を置くのではなく、正しい手続きを踏み、そのことに意識を集中していけば、結果として必ず的に中てることができるという考え方です。
当社には経営理念や経営基本方針があります。それらから外れた業務の進め方は、我々の仕事の進め方ではありません。予測のできない時代だからこそ「正射必中」で、絶えず経営理念や経営基本方針に照らし合わせながら、仕事に取り組んでまいります。
年頭所感 3つの言葉「将来の夢」「旅」「遵」 大和ハウス工業・芳井敬一社長
芳井社長
昨年は、新型コロナウイルス感染症対策とともに社会経済活動が再開し、日本経済における回復の兆しが見えた年となりました。当社では、第7次中期経営計画の初年度となる2023年3月期の第2四半期決算において売上高が過去最高を更新する結果となり、グループ社員全員の底力を実感する一年となりました。心から感謝しています。
一方で昨年から続く資材価格の高止まりをはじめ、エネルギーの供給不安や日銀の金融緩和修正など、国内外には先行き不透明な要素も混在しています。このような2023年の年頭にあたり、皆さんにお伝えしたいことが三点あります。
一つ目は、“将来の夢”です。昨年5月、企業のあるべき姿として、大和ハウスグループのパーパスである“将来の夢”―「生きる歓びを、未来の景色に。」を策定しました。これは「2055年に私たちが創り出したい社会」と「大和ハウスグループの果たすべき役割」を示しています。当社は創業以来3,000万人以上のお客さまと出会ってきましたが、このお客さまとともに生きる歓びを分かち合える世界を実現できるよう、しっかり理解し、自ら実践してください。
二つ目は、「旅」です。私は時間を見つけては、自分で全てを手配して一人旅に出かけていますが、旅での経験は新たな発見や気づき、そして出会いを与えてくれます。当社グループにおいても第7次中期経営計画という5年間の旅路が始まりました。各事業本部や事業所、そして皆さん個人が目標をたて、その達成に向けて努力されていますが、そのなかで経験する様々な出来事は、必ず自分たちの成長へとつながります。この経験を糧として日々業務に邁進してください。
三つ目は、私の今年の一文字「遵」です。改めて襟を正す一年にしたいと思います。当社では近年、コン プライアンス強化に努めており、皆さんにも様々な取り組みを実施いただいていますが、まだ不十分な点も見 受けられます。ルールの遵守なくして企業の成長はありません。法令や会社の規則はもちろん、お客さまとの 約束など、あらゆる決めごとを遵守してください。
最後に、当社を取り巻く事業環境は変化を続けており、年々そのスピードを増しています。しかし、当社において変わらないものは創業の原点である「社会の役に立つ事業の展開」です。この創業者精神を行動の規範とし、皆さんのさらなる飛躍の一年となることを期待しています。
「こだわり記事」本数はコロナ前から半減…でも〝記事はラブレター〟貫く
「静物」(油彩、F6号)
本日(12月28日)のこの記事が、今年最後のRBAタイムズWeb版「こだわり記事」です。独断と偏見に満ちた、時には〝毒〟を含むこのWebサイト「こだわり記事」にお付き合い頂いている皆さまに感謝申し上げます。皆さまは神様です。
さて、今年の「こだわり記事」発信本数は約440本。本数はコロナ前から半減しました。RBA野球大会が3年連続中止になり、さらにわたしの守備範囲である分譲マンション・分譲戸建ての現場取材も例年の半分に激減したことがその主な理由です。
しかし〝記事はラブレター〟。減った分だけ中身を濃くし、各社から発表されるプレス・リリースをそのままコピペするようなことは極力避け、わたしなりの論評を加えたつもりです。
取材不足は否めませんが、新築分譲住宅市場はマンション、戸建てとも用地難・建築費上昇が続き、平均的な住宅購入検討者の取得限界を超えているものの、低金利を背景に新しい生活様式などの浸透もあり、選択肢も増えたことなどから堅調に推移したと実感しております。
中古市場は成約件数の減少が続いている一方で成約単価、在庫単価の上昇が継続しており、先高観を反映していると思われます。中長期的に見て市場が拡大するのは間違いないはずです。
今後の見通しは、日銀が先に大規模金融緩和策を見直し、これまでプラスマイナス0.25%としていた長期金利の変動幅をプラスマイナス0.5%程度に拡大すると発表したことから、住宅ローン金利は上昇基調に転じ、住宅価格下げ圧力も強まると思われますが、この利上げ幅ならば直ちに住宅市場に大きな影響を及ぼすことはないのではないかと考えております。
とはいえ、自然災害と同様、先が全く読めない地政学的なリスク、物価高による消費動向がどう変わるか不確定要素が多く、先行き不透明感は増しています。皆さまの創意と工夫によりこの難局を乗り切り、課題を解決されることを期待しております。
皆さまにとって、来年が輝かしい年であることを祈念いたします。わたしも年々弱っている腕力を筆の力に置き換え、書ける限りの力を振り絞って、少しでも住宅・不動産業界の役に立てるよう記事を発信していくことをお約束いたします。
ブラボー!
今年のマンション №1は「THE YOKOHAMA FRONT TOWER」1年を振り返る(2022/12/26)
暦年の分譲住宅 持家をリード 16年ぶり上回るか 国土交通省 11月の住宅着工
国土交通省は12月27日、令和4年11月の新設住宅着工戸数をまとめ発表。総戸数は72,372戸(前年同月比1.4%減)で2か月連続の減少。内訳は、持家は 21,511戸(同15.1%減)で12か月連続減少、貸家は29,873戸(同11.4%増)で21か月連続の増加、分譲住宅は20,642戸(同0.8%減)で4か月ぶりの減少となった。分譲住宅の内訳は、マンション8,092戸(同1.8%減)で4か月ぶりの減少、一戸建住宅12,370戸(同1.1%減)で19か月ぶりの減少。
首都圏マンションは4,456戸(同46.5%増)で、都県別では東京都2,868戸(同77.0%増)、神奈川県866戸(同-6.7%減)、埼玉県500戸(同53.4%増)、千葉県222戸(同32.9%増)。
1~11月では総数47,580戸(前年同期比3.0%増)で、都県別では東京都27,031戸(同4.7%減)、神奈川県10,340戸(同3.0%減)、埼玉県5,273戸(同41.0%増)、千葉県4,936戸(同44.8%増)となっており、相対的に価格が高い東京都と神奈川県が減少、埼玉、千葉の着工増が目立っている。
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令和4年1月~11月では持家233,519戸(前年同期比11.2%減)で、分譲住宅235,287戸(同5.0%増)となっており、その差1,768戸。残り1か月。分譲住宅が持家を上回れば2006年(平成18年)以来16年ぶりとなるが、僅差だけに果たしてどうなるか。
また、1~11月のマンションでは、近畿圏が21,776戸(同11.6%増)なのに対し、その他地方は22,175戸(同9.5%増)。こちらもデッドヒートを展開している。
東京都の新型コロナ感染に関する記事 12月27日をもって終了
東京都はこの日(27日)、新型コロナによる死亡者は21人確認されたと発表した。都の発表資料には、亡くなった人のデータは番号、年代、性別、居住地(都内)、診断日、死亡日しか記載されていないが、ほとんどは70歳以上の人で、診断日から数日後に亡くなられている人が圧倒的に多いのが特徴だ。
病院に運び込まれたときはすでに手遅れなのか。90代の男性は診断日が12月21日、死亡したのは当日、100歳以上の女性の診断日は12月23日、死亡日は翌日の24日とある。
死亡者に高齢者の方が多いのは、それだれ自然治癒力、抵抗力が弱まっているからだろうが、高齢者だけとは限らない。この日も一人、30代女性の人が亡くなっている。診断日は12月15日、死亡が確認されたのは3日後の25日だ。新型コロナの恐ろしさがここにある。ご本人やご家族、友人、知人など関係者の心中を慮るといたたまれなくなる。
27日現在の累計感染者は都民の人口約138万人(令和4年1月現在)の約28.3%に当たる3,923,593人、累計死亡者は6,685人となった。
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2020年2月26日に丸の内北口ビル地階の喫煙室に掲出された文書
記者が東京都の新型コロナに関する記事を最初に発信したのは、2019年2月26日付の「こだわり記事」だった。見出しは「二・二六事件の日に 社会的弱者=喫煙者に対する全面攻撃「喫煙室」閉鎖!」と打った。当時勤務していた東京・丸の内北口ビル地階の喫煙室に「当分の間閉鎖する」と張り紙が貼られたのを報じたものだ。
その後、4月に入ってからほぼ毎日、東京都のオープンデータから感染者の年齢、男女別、経路不明比率、職業などをチェックし記事として発信してきた。〝記事はラブレター〟-住宅・不動産業界で働く方々に少しでも役に立ちたいと思ったからだ。
あれから2年8か月。当否はともかくそれなりの反響があった。2020年5月11日に記事にした「新型コロナ 感染経路不明者が減らない理由 〝闇社会〟〝二重就業〟も一因」には約7.1万件(本日現在)のアクセスがあるなど、トータルでは20万件くらいにのぼるのではないか。少しは感染拡大防止に注意喚起できたのではないか。
最近は更新するのは2日に1回くらいになった。小生が毎日発信しなくともテレビや新聞が報じているし、書く意味もなんだか分からなくなってきたからだ。なので、本日をもって、とりあえず都の新型コロナ感染に関する記事掲載を終了する。
亡くなられた方々には衷心からご冥福を祈り、ご家族、友人知人など関係者の皆さんには心からお悔やみ申し上げます。
新型コロナは「死に至る病」でなく〝絶望〟とも無縁 若い人の感染者が多い理由(2020/6/24)
新型コロナ直撃 訪日外国人 2月は前年同月比58%減 中国88%、韓国80%減(2020/3/19)
二・二六事件の日に 社会的弱者=喫煙者に対する全面攻撃「喫煙室」閉鎖!(2019/2/26)
今年のマンション №1は「THE YOKOHAMA FRONT TOWER」1年を振り返る
「THE YOKOHAMA FRONT TOWER」
今年も残りわずか。例年なら30年以上続けている記者が選ぶ「首都圏マンションベスト3」「話題のマンション」を発表するころだが、今年1年間に見学・取材したマンションは地方を含めて58物件しかない。例年の半分だ。新型コロナは取材機会を奪った。「ベスト3」「話題のマンション」に代えて印象に残った物件を紹介する。
もっとも印象に残ったのは、相鉄不動産・東急「THE YOKOHAMA FRONT TOWER」(459戸)だ。マンションのほか商業施設、ホテル、サービスアパートメントなどで構成される横浜駅直結の再開発複合物件だ。坪単価は717万円(記者発表会時点)で、都内以外では昨年分譲の東京建物「堂島」の650万円を上回ったが、第1期129戸がほとんど売れたのにも納得した。設備仕様レベルも極めて高い。
この両社の物件では、相鉄不動産「グレーシア湘南平塚海岸」(100戸)と、東急の期間70年の定期借地権付き免震タワーマンション「ドレッセタワー南町田グランベリーパーク」(375戸)が印象に残っている。
前者は海まで徒歩3分で、坪単価は175万円。施工は長谷工コーポレーション。床暖房も浴室タオル掛けもなし。徹底した経済設計に驚いたが、これもありかと思った。海好きにはたまらないマンションだ。
後者は2019年にリニューアルオープンした「町田グランベリーパーク」に隣接。第1期の坪単価は300万円。太陽光追尾採光システムを採用していた。
電鉄(系)会社の不動産事業は、これまで他のデベロッパーの事業にぶら下がったりゼネコンに〝丸投げ〟したりしていたが、主力の鉄道事業の成長は期待できないことから最近は多角化を進めている。本気を出したら怖い存在だ。沿線の顧客とは〝ゆりかごから墓場まで〟関わりあっているからだ。
全国区のJRをはじめ首都圏の小田急、京王、京急、東武、西武、京成、地方の近鉄、阪急阪神、京阪電鉄、名鉄、西鉄…デベロッパーの命運を左右するのは電鉄(系)会社ではないか。
相鉄不・東急 横浜駅直結タワマン 第1期129戸完売 坪717万円(2022/1/26)
床暖房もタオル掛けもなし 経済設計の極み それでも海好き惹きつける 相鉄不「平塚」(2022/4/13)
第1期1次121戸 登録即完に納得 期間70年の定借免震タワー 東急「南町田」(2022/7/22)
いつもなら「ベスト3」はすぐ頭に浮かぶのだが、今年は「THE YOKOHAMA FRONT TOWER」に続く物件がない。(記者の取材不足のせい)
それより、地方に目が移る。レベルの高さではタカラレーベンの会社設立50周年記念の免震フラッグシップ「レーベン福岡天神 ONE TOWER」(153戸)だ。「天神」アドレスは38年ぶりの供給とかで、坪単価(書かないという約束)もエリア最高峰だった。オプションだったが、2,000~3,000万円を掛けたというモデルルームに記者は驚愕した。壁面に大理石を張るマンションなど首都圏にもないはずだ。
この九州圏最高峰の「福岡天神」を瞬く間に抜き去ったのが、坪単価520万円の大和ハウス工業「プレミスト大濠二丁目」(35戸)だ。残りは6戸だ。
しかし、これより凄い地方物件が分譲された。隈研吾氏が設計を担当した坪単価700万円超のプロポライフグループの「プロスタイル札幌 宮の森」だ。市内の高級住宅街・宮の森の第一種低層住居専用地域(建ぺい率40%、容積率60%)に位置する地下2階地上3階建て全20戸。
これらの物件に象徴されるように、今年は大和ハウス、タカラレーベン、日本エスコン、フージャースコーポレーション、野村不動産、住友不動産、大京穴吹工務店などの地方物件の供給増が目立った。着工増も続いており、戸数は関西圏や中部圏より多い。地方の動向から目が離せない。
福岡の最高峰 第1期100戸 圧倒的な人気 タカラレーベン50周年「福岡天神」(2022/3/15)
坪単価520万円でも人気 最終分譲へ 大和ハウス「プレミスト大濠2丁目」(2022/11/1)
隈研吾氏が設計 坪700万円超でも好調スタート プロポライフ「札幌 宮の森」(2022/9/23)
首都圏に目を戻すと、高額物件では三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス グラン 三番町26」(102戸)が販売開始された。坪単価は1,000万円前後。第1期として販売対象の78戸のうち半数以上の40戸が供給された模様だ。
この物件の隣接地では、三井不動産レジデンシャル「パークコート ザ・三番町ハウス」(193戸)が来春に分譲される。「パークコート」に「ザ」が付くのは初めてではないか。〝三菱地所には負けないぞ〟という意思がこの「ザ」に込められていると思う。単価は1,000万円をはるかに超えるか。
8物件目〝グラン〟「三番町26」 高値更新の坪1000万円前後 三菱地所レジ(2022/9/14)
坪1300万円でどうか 旧逓信省庁舎跡地の三井&三菱「三田ガーデンヒルズ」(2022/4/30)
三菱地所レジデンスの物件では、大栄不動産とのJV「ザ・パークハウス 川越タワー」(173戸)が印象深い。駅前免震タワーマンションで、坪単価320万円の高額ながら第1期1次~3次98戸が登録完売して話題になった。設備仕様レベルも水準以上。
三菱地所 駅徒歩1分、免震の「川越タワー」第1期1次~3次98戸に登録申し込み(2022/3/28)
三井不動産レジデンシャルでは、「パークホームズ文京本駒込」(88戸)を見学した。立地特性を踏まえ、入居者の読み終えた本を貸し出す「循環ライブラリ」のほか、ワークスペース、ピアノ・楽器の練習ができる防音室を設けたのが評価され、第1期44戸が完売した。坪単価は560万円。
立地にふさわしい防音室、循環ライブラリ 三井不レジ「文京本駒込」人気(2022/12/6)
三井と三菱でいえば、来春には三井不動産レジデンシャル・三菱地所レジデンス「三田ガーデンヒルズ」(1002戸)の分譲も始まる。記者は坪単価1,300万円と予想しているのだが、果たして当たるかどうか。両社はあるときは手を組み、またあるときは角突き合わせて激烈な競争をし、結果として他社の追随を許さないという戦略なのだろう。
この両社に割って入るのはどこか。その筆頭格の野村不動産や住友不動産は意外と都心の一等地での供給は少ない。坪単価2,000万円でも驚かない「西麻布三丁目北東地区」の再開発マンションの供給はもっと先だろう。住友不動産は好立地物件は分譲しないで賃貸として保有する戦略だ。
それでも、野村不動産「KAMEIDO CLOCK(カメイドクロック)」「プラウドタワー亀戸クロス」(934戸)と、複合免震タワーマンション「プラウドタワー目黒MARC」(301戸)は〝プラウド〟の存在感を示した。
「亀戸」は、全館空調「床快Full」(ワンルームタイプ162戸除く)とLow-E樹脂サッシを採用した。「目黒」では、同社とJVを組んだJR東日本都市開発、施工・竹中工務店の矜持を見た。リビング天井高2700ミリを確保し、デザイン、ワイドスパンのプラン、設備仕様レベルも高い。
同社の常設モデルルーム「プラウドギャラリー武蔵小杉」はなかなかいい。
街のポテンシャル 劇的に変えた 野村不の商業施設「KAMEIDO CLOCK」4月28日開業(2022/4/26)
天井高2700ミリ 全戸ワイドスパンに高い評価 野村不・JR東日本都市開発「目黒」(2022/7/24)
5社ブランドとの連携がいい 野村不の常設「プラウドギャラリー武蔵小杉」(2022/6/25)
メジャー7の物件では、東急不動産(日鉄興和不動産とのJV)「ザ・タワー十条」(578戸)と、東京建物「ブリリア自由が丘」(61戸)を見学できなかったのは残念だ。「十条」の坪単価は470万円と聞いている。これが売れれば、準都心部のマンション市場を劇的に変えるはずだ。
「自由が丘」は、いつも〝住みたい街〟ランキングのトップ争いをしている自由が丘駅から徒歩2分。住みたい人にとっては垂涎ものだ。お金があったらという条件はつくが、小生がもっとも住みたいのは東京駅で、自由が丘クラスなら青山、麻布、六本木、表参道、神楽坂、神田神保町、二子玉川、下北沢なども引けを取らないと思うが…。
垂涎ものといえば、リストグループのリストデベロップメント「リストレジデンス武蔵野御殿山」(45戸)もそうだ。「御殿山」アドレスでは9年ぶりの第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)という希少物件だ。残り1戸とのことだが当然か。敷地南側は道路を挟んで玉川上水。ひよっとしたら太宰治も歩いていたかもしれない。歴史と文化を感じさせる物件だ。坪単価は491万円。敷地形状からして設計にも苦労し、強気な値付けをできなかったのが惜しまれる。何といっても同社は〝サザビーズ〟だ。富裕層を狂喜させるマンションを分譲してほしい。
敷地南側は玉川上水 第1期は約30戸成約見込み1低層のリスト「武蔵野御殿山」(2022/10/2)
このほか、伊藤忠都市開発、大和地所レジデンス、タカラレーベンなどの商品企画が光った。
伊藤忠都市開発は以前からもそうだが、物件ごとにその土地の魅力を最大限に引き出している稀有なデベロッパーだ。今年は「三軒茶屋」「新御徒町」「西馬込」を見学したが、なかでも「三軒茶屋」が出色の出来だった。
退行する商品企画に一石 天井高2700ミリ&ワイドスパン 伊藤忠都市「新御徒町」(2022/6/18)
ディスポーザー、玄関手洗い収納標準、選べる洗面、伊藤忠都市開発「西馬込」(2022/6/19)
料理・風呂好きにはたまらない 設備仕様レベル突出 伊藤忠都市開発「三軒茶屋」(2022/11/23)
大和地所レジデンスは、容積率に算入されない奥行き4m×幅4mの「オープンエアリビング」を開発してヒットしたデベロッパーだが、今年見学した「横濱山手」(JR西日本プロパティーズとのJV)「茅ヶ崎東海岸」「門前仲町」などが早期完売したのも当然だ。
風致地区の高台立地 設備仕様レベルも高い JR西日本プロ・大和地所レジ「横濱山手」(2022/8/11)
希少の海に近い1低層 水準以上の基本性能・設備仕様 大和地所レジ「茅ヶ崎東海岸」(2022/4/12)
最高7倍、平均1.5倍 75戸のうち64戸に申し込み 大和地所レジ「門前仲町」(2022/7/11)
天井高3m超、20畳大の床下収納など 大和地所レジ「赤羽北フロント」竣工見学会
タカラレーベンは、先に紹介した「福岡天神」もそうだが、「東川口」「小田原」は〝駅近〟の特性を最大限に生かした好物件だ。
タカラレーベン 小田原駅徒歩1分「レーベン小田原THE TOWER」完売(2022/8/18)
県初のPPP事業 4か月で全143戸完売 タカラレーベン・埼玉建興「東川口」(2022/7/14)
このところリビング天井高はどんどん低くなっているが、その低さを感じさせない工夫を凝らしていたのが日本エスコン「レ・ジェイド クロス 千代田神保町」(50戸)と、明和地所「クリオ川越大手町」(49戸)だった。
「千代田神保町」は2400ミリだが、リビングに隣接する居室を主寝室とし、調光機能付きダウンライトをLD、キッチン、全居室に30か所以上設置することで難点の解消していた。
「川越大手町」は、地区計画により建築物の絶対高さが16m以下に定められていることからリビング天井高は2350~2400ミリしか確保できていないが、モデルルームは和モダンをテーマに、リビングは床に座って寛げる座卓タイプとし、目線を下げることで空間の広がりを演出していたのが見事だった。
歴史・文化を次代に繋ぐ 企画意図伝わる 日本エスコンの定借「千代田神保町」(2022/10/8)
和モダン見事に表現 出色の出来アクタス・モデルルーム 明和地所「川越大手町」(2022/10/15)
大和ハウス工業・京浜急行電鉄・長谷工不動産「プレミスト王子神谷」(227戸)は、日本製紙の工場跡地で、用途地域は工業地域だが、周辺はマンション化が進んでおり、嫌悪施設はない。物件はマンション群の南側最前線に位置しており、北側は公園。設備仕様レベルも高い。
大和ハウス 販売好調の「プレミスト王子神谷」 2期分譲開始(2022/2/19)
他の都県の主要都市の坪単価は300万円を突破しているのに、千葉県下では東京寄りの船橋や本八幡などほんの一部でしかなく、県都の千葉駅圏も価格下げ圧力が強い。中心市街地の千葉パルコ跡地の新日本建設など5社JV「エクセレント ザ タワー」(397戸)の第1期1次100戸が即日完売したが、坪単価は270万円だった。全国に20ある政令指定都市の中では最安値圏レベルのはずだ。
同駅圏では、三越千葉店跡地で東京建物、野村不動産、中央住宅、ファーストコーポレーションの4社JVのタワーマンション(491戸)が計画されている。坪300万円を突破するのは間違いない。
坪270万円 第1期1次100戸 即完スタート 新日本建設など5社JV「ザ タワー」(2022/4/1)
京王線はこのところの3~4年間、供給ラッシュが続いており、現在でも調布駅~聖蹟桜ヶ丘駅では十数物件2,000戸超が分譲されている激戦区だ。
そんな中で販売が好調に推移しているのが、飯田グループのパラダイスリゾート「調布ワンダーランドプロジェクト」(220戸)だ。調布駅から1駅先の西調布駅圏であることから、坪単価は260万円と抑えられているが、設備仕様レベルは高い。
大激戦地で販売好調 デベロッパーの良心を見た パラダイスリゾート「調布」(2022/5/25)
分譲開始は昨年の6月だが、今年5月の竣工までに完売したポラスグループ中央住宅「ルピアコート津田沼」(53戸)は、コロナ禍の真っ最中であったことから〝さわらない・もちこまない〟ノンタッチをテーマにしたマンション。坪単価215万円。「変身ラウンジ」「まもるんスペース」に記者は目を丸くした。
目からうろこ キッズスペースに一変「変身ラウンジ」 ポラス「津田沼」竣工完売(2022/6/16)
2019年に開業した相鉄・JR直通線羽沢横浜国大駅前の日鉄興和不動産「リビオタワー羽沢横浜国大」が好調なスタートを切った。記者は初めて降り立つ駅で、隣駅の武蔵小杉から1駅なのでものの数分で着くと思っていたら、何と15分もかかった。一駅でこれほど時間がかかる区間は首都圏では他にまずないはずだ。
駅周辺は倉庫だった跡地で、駅前はドラッグストアなどがあるのみで、駅名にもある「横浜国大」は徒歩十数分というのに驚いた。さらに、坪単価360万円にも第1期に100戸以上の申し込みが入ったのにも、申込者の半分以上が県外というのにもまた驚いた。設備仕様は高い。
リッチモンド&CCC 地域と街に開かれたホテル「押上」 リニューアルオープン
「リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ」
ロイヤルホールディングスのホテル事業を展開するアールエヌティーホテルズは12月27日、「リッチモンドホテルプレミア東京押上」を「リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ」に名称変更し、CCCグループがデザインした「SHARE LOUNGE」や「コンセプトフロア」のほかサウナルームなどを備えた同社初の体験型ホテルとしてリニューアルオープンする。オープンに先立つ12月22日、リニューアルした施設をメディアに公開した。今後のホテル展開に一石を投じる画期的な施設になるのではないか。
CCCがデザインした「SHARE LOUNGE 押上」は5階フロアにあり、延床面積は約113坪。102席と約1,300冊の書籍を備え、「シェアオフィス」の利便性と「ラウンジ」の居心地の良さを演出している。
13階の「コンセプトフロア」は、「Club “Culture”」をコンセプトに、廊下にはアートもディレクションするなど、フロア全体で “体験し、楽しむ”ホテルステイを提案。各部屋は、テーマをそれぞれ「BOOK」「映像」「ゲーム」「JAPAN」に設定。
6階の「サウナルーム」は、かつて隅田川沿いには宿場が軒を連ねていたことに発想を得て、“湯屋”をコンセプトに「Saunaルーム」や「Spaルーム」など4つの部屋タイプを用意している。
メディア説明内覧会に臨んだロイヤルホールディングス執行役員 ホテル事業担当 アールエヌティーホテルズ代表取締役・本山浩平氏は、「リッチモンドホテルの客室稼働率は今年3月以降7か月連続して80%を超えており、8月以降から潮目が変わったと実感している。今後の事業展開は、当社にしかできない『人』と『食』の共通プラットホームを根底に、宿泊特化型からインバウンド、レジャー、高効率型など付加価値型を目指す」と語った。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)首都圏カンパニー社長・安田秀敏氏は「『SHARE LOUNGE』は2019年開業の『渋谷』を始めこれまで6エリア21店舗に拡大しており、ホテルに設置するのは今回が初めて。当社ならではの書籍、インテリア、意匠、機器、雑貨などを用いて多層的に演出し、交流型ホテルのトレンドでもある街の歴史や文化、地域との交流が生まれるようにデザインした」と語った。
リッチモンドホテルズグループは、「人を付加価値とする」をコンセプトに全国43ホテルを展開。「スコーレ」は余暇を自分らしく過ごすことを意味するギリシャ語。ホテル名称には、趣味に没頭する、サウナでくつろぐ、心ゆくまでカルチャーを楽しんでほしいという想いが込められている。
「リッチモンドホテルプレミア東京スコーレ」は、東京メトロ押上駅から徒歩1分、墨田区押上1丁目に位置する13階建て延床面積約11,432㎡。客室数は152室(従前は260室)。
本山氏(左)と安田氏
「SHARE LOUNGE」
「SHARE LOUNGE」
◇ ◆ ◇
CCCの「SHARE LOUNGE」を取材・利用するのは今回で5度目。最高に素晴らしい。1時間2,000円前後で飲み放題・食べ放題というこの種の店舗など他にはないはずだ。記者はキーボードとマウスがないとパソコンを操れないので、貸し出しも可能にしてほしい。
13階の「コンセプトフロア」もいい。担当者から墨田区は葛飾北斎が生まれて育った地だったことを聞いた。北斎は「冨嶽三十六景」で知られるが、渓斎英泉、歌川国芳、鈴木春信、歌川国貞などとともに美しくて卑猥な春画もたくさん描いている。一昨年見学した積水ハウスの民泊運用型セカンドハウス「YANAKA SOW」の「愛とエロス」の客室には、これらの絵師が描いた「Shunga」本が置かれていた。リッチモンドも備えたら、真っ先に予約が入ること請け合いだ。
従前は2室だったのを1室にして70㎡を確保した4人利用可能のモダンジャパニーズスタイルのルームチャージは4.2万円~というから、一人当たり1万円だ。
6階の「サウナルーム」も「コンセプトフロア」と甲乙つけがたい出来栄えだ。本物のヒノキがふんだんに用いられており、風呂好きにはたまらないのではないか。71㎡のサウナ+Spaタイプでもルームチャージは30,000円~だ。
記者は、宿泊特化型は言うまでもなく、ラグジュアリーホテルもまた街や地域に背を向けているのが難点だと思っている。店舗付きオフィスビルにも言えることだが、どこかよそ者を受け付けない雰囲気が漂っている。
今回の同社とcccの提案は、そのような難点を解消するものだ。日常づかいでホテルが利用できる。少し気になったのは、6階も13階も豪華すぎて、街に出るよりずっと客室にとじ籠ることになりはしないかということだ。客室に100冊以上の本が置かれていたら、全部読むのに数日かかるではないか。
Spaプレミアツインベッドルーム
Spaプレミアツインベッドルーム
13階「コンセプトフロア」共用部
ザ プレミア ブック ルーム
モダン ジャパニーズ スタイル
三菱地所・丸ビルに「TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHI」代官山超える214坪(2022/12/14)
住宅取得環境の厳しさ反映 アルヒ「本当に住みやすい街大賞」
アルヒ 本当に住みやすい街大賞 | ||||||
順位 | 2023年 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2017年 |
1 | 西八王子 | 辻堂 | 川口 | 川口 | 赤羽 | 南阿佐ヶ谷 |
2 | 流山おおたかの森 | 川口 | 大泉学園 | 赤羽 | 南阿佐ヶ谷 | 勝どき |
3 | 新小岩 | 多摩境 | 辻堂 | たまプラーザ | 日暮里 | 赤羽 |
4 | 保谷 | 大泉学園 | 有明テニスの森 | 柏の葉キャンパス | 川口 | 三郷中央 |
5 | 辻堂 | 海浜幕張 | 大井町 | 入谷 | 柏の葉キャンパス | 戸塚 |
6 | 柏 | たまプラーザ | たまプラーザ | 王子 | 勝どき | 南千住 |
7 | 新川崎 | 花小金井 | 小岩 | 武蔵小金井 | 南千住 | 大泉学園 |
8 | 川越 | 月島 | 花小金井 | 小岩 | 千葉NT中央 | 千葉NT中央 |
9 | 東村山 | 船堀 | 千葉NT中央 | ひばりヶ丘 | 小岩 | 小岩 |
10 | 鶴ケ峰 | 新秋津 | 浦和美園 | 東雲 | 矢向 | 浮間舟渡 |
アルヒ 本当に住みやすい街大賞 シニアランキング | ||||||
1 | 浜町 | ひばりヶ丘 | 武蔵小山 | 木場 | 大泉学園 | |
2 | 西白井 | 稲毛海岸 | 南大沢 | 大泉学園 | 神田 | |
3 | 大泉学園 | 相模大野 | 平塚 | 平塚 | 印西牧の原 |
年末に発表される「流行語大賞」や「今年の漢字」と張り合う意図もあるのか、今年もARUHI(アルヒ)の「本当に住みやすい街大賞2022」(大賞)が先日発表された。ほぼ毎日チェックする不動産流通研究所「R.E.port」は触れず、週刊住宅と住宅新報が報じたばっかりに知ることになった。善と悪も正と邪も、白と黒も右も左も区別がつかなくなった世の中だ。ほっとけばいいのに、頭の片隅にかすかに残っている正義感が頭をもたげたので書くことにする。今回で3度目だ。来年は書かなくて済むようになってほしい。
さて、その大賞。始まったのは2017年だ。アルヒは「理想ではなく、実際にその地域で〝生活する〟という視点から、ARUHIのサービスをご利用のお客さまの膨大なデータを基に、本当に住みやすい街を選定することで、人々の住まい選びの参考になることを目的」とし、「これらのデータを基に、住環境、交通の利便性、教育・文化環境、コストパフォーマンス、発展性の5つの基準を設定し、住宅や不動産の専門家が参画する選定委員会による公平な審査」のもと選定したと発表した。
そのリストをみて記者は驚いた。上位にランクされた「南阿佐ヶ谷」「勝どき」「赤羽」は〝いい街〟だとは思ったが、当時、マンションの売れ行きが最悪だった「三郷中央」が4位に入っており、ほとんど供給がない「浮間舟渡」がベスト10入りしていたからだ。その他ベスト10入りした街のレベルならほかにも数えきれないほどあると思った。
馬鹿馬鹿しくて無視を決め込んだのだが、その後も大賞はお笑いタレントなどを起用して大々的に宣伝され、それを無批判に報じる業界紙の無神経さにいささか腹を立て、一昨年と昨年、批判的な記事を書いた。それぞれ約3,000件のアクセスがあったので、読まれた読者もいるのだろう。ご存じない読者の方もいるだろうから、過去6年間の大賞のベスト10を別表に紹介する。
今年は「西八王子」がトップだ。記者は完全に虚を突かれた。「西八王子」は14年前見学した野村不動産「プラウド西八王子」以後、一回も訪れていない。再開発で街が一変でもしたのだろうかと、選定理由を読んだら、八王子IC付近に次世代型複合商業施設が予定されており、JR八王子駅は生活圏で、3LDKのマンションが4,000万円台で、新築戸建てが3,000万円台で購入可能とあった。
なるほど。その論法が成り立つなら、価格上昇が著しい主要駅の隣駅が〝本当に住みやすい〟駅・街になるということだ。わが京王線でいえば、「調布」の先の「西調布」「京王多摩川」、「聖蹟桜ヶ丘」の先の「百草園」、「京王多摩センター」の先の「京王堀之内」、「南大沢」の先の「多摩境」(この多摩境は昨年ベスト10入りしている)ということか。
これはこれで分かりいい。毎年ベスト10入りする駅は乱高下どころか、月光仮面やスーパーマンのように突如現れ、たちまち消える理由の説明がつく。
今年2位に浮上した「流山おおたかの森」もその一つなのだろうが、小生は異論はない。〝母になるなら〟〝父になるなら〟でヒットした井崎市政のお陰だと思う。ただ、この駅・街はもう10年以上前から人気になっている。いまさらという観は否めない。
このほかの駅・街には触れないが、不思議なのは、「大賞」と「シニアランキング」のいずれかに唯一6年連続ランクインしている「大泉学園」だ。記者もいい街だとは思うが、この程度(失礼)の街は首都圏に100か所も200か所もあると思う。アルヒや選考委員、あるいはその関係者が住んでいるのではないかと勘繰りたくなる。
不思議といえば、西武線は「大泉学園」を含め「ひばりヶ丘」「保谷」「新秋津(秋津)」「東村山」「花小金井」の6駅がランクインしていることだ。これは先に書いたように「石神井公園」や「所沢」の前後の駅で、狭小戸建ての〝メッカ〟の一つであるからだろう。
この伝でいえば、街のポテンシャルは西武線に負けない京王線は過去6年間で「多摩境」「南大沢」2駅しかなく、小田急線も「相模大野」のみというのも納得できる。
大賞の審査委員長を務める住宅ジャーナリスト・櫻井幸雄氏も週刊住宅12月19日号のコラム記事で「ブーイングもあるがインパクトも大」とし、「無名とも言える街が多く選ばれたり、昨年大賞の辻堂が今年5位に下がったりするのが、『本当に住みやすい街大賞』の特徴」とし、「なぜ、そのようなことが起きるかというと、『直近1年間で、フラット35の利用者が多かった街』を選考対象としているから。フラット35だから、利用者は年収500万円前後が多くなる。平均的な方々だ。『普通の人』がマイホームを買いやすい街から、諸条件を勘案して、ベストな街を選ぶ」「ために、マイナーな駅でも再開発によって、一気に大賞に輝くことがある。大賞となったものの、その後人気上昇で価格も上がれば、順位が落ちる」と述べている。
櫻井氏が「ブーイングもあるが」としているのは、小生以外も批判的にみている業界関係者も多いということだろうが、「大賞となったものの、その後人気上昇で価格も上がれば、順位が落ちる」としているのは自己撞着だ。自らマイナーな駅を〝住みやすい〟と持ち上げながら、価格が上昇し〝普通の人〟が買えなくなったらお役御免と切り捨てる。
これはあまりにも消費者を馬鹿にしていないか。フラット35の利用者は〝普通の人〟が多いのは記者もよく分かるが、取得能力からして〝理想の住宅〟購入をあきらめざるを得ず、次善の選択肢として、いくつかの選好要因を捨てることでマイホームを手にするという、普通の人の厳しい住宅取得環境を大賞は浮き彫りにしている。それを笑いの種にする。その神経が分からない。マッチポンプといったら失礼か。
そもそも、同社は調査対象となった物件の数を公表していないし、年間20兆円を超える住宅ローン貸出総額に占める同社のフラット35利用者は微々たるものでしかない。大賞を選考した根拠となる利用者の母数、属性などを公表すべきだ。
だが、しかし、アルヒを通じて住宅を購入された方に罪はない。〝住めば都〟〝痘痕もえくぼ〟だ。どんなマイナーな駅でもいいところはあるものだし、美しいところだけを見るようにすれば、多少の難点など全然気にならなくなる。
普通の人に住宅を勧める業界関係者の方々も同様だ。十全のマンションも戸建てもほとんど存在しない。難点をカバーする企画でもって良質で安価な住宅を供給していただきたい。
◇ ◆ ◇
アルヒの本業は、このところの住宅価格と長期金利の上昇により苦境に立たされているようだ。
住宅金融支援機構のデータによると、2021年度のフラット35の申請戸数は94,705戸(前年度比86.3%)、実績戸数71,788戸(同86.0%)、実績金額22,127億円(同86.4%)となっている。2021年度の住宅ローン新規貸出額は約21兆円で、6年連続20兆円を超えているが、フラット35の利用者は漸減傾向にある。
一方、フラット35の融資実行件数シェアは27%を超え、12年連続シェアNo.1のアルヒの2022年3月期決算の売上高は251億円(前期比6.1%減)、営業利益61億円(同20.6%減)、経常利益42億円(同18.1減)となっており、融資実行業務は121億円(同14.5%減)と大幅に落ち込んだ。融資実行件数は4,691件(同27.1%減)、融資実行金額(累計)は6,580億円(同15.7%減)。
2022年10月27日には通期予想を下方修正し、売上高245億円(期初予想比11.6%減)、営業利益45億円(同28.6%減)、当期利益31億円(同27.96%減)を見込んでいる。期末配当予想も30円から25円に減配する予定。
この業績について、代表取締役社長CEO兼COO・勝屋敏彦氏は「フラット市場は非常に厳しい環境にある。物価高、建築費の上昇を要因とする住宅価格の上昇のほか、長期金利の上昇によって固定金利より変動金利を選択される人が増加したのが要因。今後はSBIグループのTOBにより連結子会社になったが、変動金利にも対応できるよう守備範囲を広げ、シナジー効果の創出に期待している」などと決算説明会で話している。
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