プレハブ建築協会 国産材利用拡大へ向け検討会設立
プレハブ建築協会は10月27日、国産材利用に向けた検討会を立ち上げ、今後の取り組みについてまとめ発表した。
立ち上げたのは旭化成ホームズ、積水化学工業、積水ハウス、大成建設ハウジング、大和ハウス工業、トヨタホーム、パナホーム、ミサワホーム、ヤマダ・エスバイエルホームの会員有志による9社で、今年6月と8月の2回の会合を経て今後の取り組みを取りまとめた。
今後の取り組みは、①国産材の価格・質・量を見ながら2×4材、集成材などを中心に国産材利用の拡大を目指す②イニシャルコストの低減に向けて林野庁補助事業の活用を検討③協会内にワーキンググループを立ち上げ、国産材業界との情報交換、連携を行い、利用推進の方策の検討を行う④大学、公的機関、関連団体などと利用技術に関する共同研究を検討する-など。
◇ ◆ ◇
国が「10年後の木材自給率50%以上を目指す」と決めたのは2009年12月だった。当時の自給率は26.0%で、10年間に50%まで引き上げるのは絶望的だと思っていたが、昨年、計画を見直し、全体の供給量を当初計画の3,900万㎥から3,200万㎥に引き下げるとともに達成年度を2025年までと5年先送りした。
現状認識、見通しが甘いと言ってしまえばそれまでだが、森林・林業の再生・活性化は喫緊の課題だ。杜甫は「国破れて山河在り」と詠ったが、その逆はない。美しい日本の自然・文化が荒廃し、破壊され、国が栄えるはずはない。そうならないよう、木材自給率50%以上を目指し頑張っていただきたい。
持続可能な街づくり推進 積水ハウスなど 「江古田の杜プロジェクト」説明会
左から篠崎氏、渡邊氏、田中区長、田中氏(総合東京病院 STR東京ホールで)
積水ハウス、医療法人財団健貢会 総合東京病院、都市再生機構の三者からなる江古田三丁目地区まちづくり協議会は10月25日、「江古田の杜プロジェクト」に関するプレス向け説明会を行った。中野区の田中大輔区長も登壇し、プロジェクトに対する期待について話したほか、関係者が持続可能な街づくりの実現に向けたこれまでの取り組みや今後の展開について説明した。
冒頭に登壇した田中区長は、「区は人口密度が練馬区に次いで高く、住居系用途が8割。4m未満の狭あいな道路が多い。区の北東部に位置するエリアは約6㏊の江古田の森公園があり、広域避難場所にも指定されている。また、保健・福祉・医療施設が集積しており、マスタープランでも緑を生かした街づくりを行うようにしている。プロジェクトに対しては、安全・居住都市づくりの観点から、ファミリー向けの良質住宅の供給、防災機能の整備、小児初期緊急診療などの小児医療、高齢者、子育てコミュニティの支援に期待している」などと述べた。
積水ハウス東京特建支店支店長・篠崎浩士氏は、〝コドモイドコロ〟をテーマにコミュニティを育み、ユニバーサルデザインの取り組みに力を入れ、多世代が交流して循環する街づくりとしての日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community)のモデルにしたいなどと話した。
篠崎氏はまた、現在分譲中のプロジェクトの中核をなすマンション「グランドメゾン江古田の森」(全531戸)の進捗について「これまで270戸を供給して250戸が成約済み。順調に進んでいる」ことも明らかにした。
総合東京病院院長・渡邉貞義氏は、平成22年4月に病院の経営を引き継ぐ形で開院したことなどを紹介し、救急医療に力を入れ、病床を451床に増やし、最新の医療機器を導入するなど、地域の中核病院として使命を果たすと語った。
都市再生機構東日本都市再生本部本部長・田中伸和氏は、平成18年7月に都市再生プロジェクトとして決定されて以降、国有地である公務員宿舎とUR都市機構が所有する東雲地区の土地交換によってプロジェクトをスタートさせ、東京ドームとほぼ同じ広さの約4.4㏊の開発を進めてきたことなど経緯を説明した。
野村不 ホテル新ブランド「NOHGA HOTEL(ノーガホテル)」上野に第一号 来秋開業
「NOHGA HOTEL(ノーガホテル)」完成予想図
野村不動産は10月24日、同社グループが商品開発しサービスを提供するホテル新ブランド「NOHGA HOTEL(ノーガホテル)」を立ち上げ、第1号を2018年秋に上野で開業すると発表した。
ホテルが立地する地域に応じたデザインとするほか、地域の職人やデザイナーと連携したオリジナルの家具・備品・アートなどを配置。日本初の黒の江戸切子を開発した「木本硝子」、家紋をコンセプトにデザインする「京源」、インテリア雑貨店「SyuRo」などのデザイン・備品をホテル内に取り入れる。また、宿泊者と地域が深くつながることを目指すため、ホテルスタッフが宿泊ゲストに地域の魅力を積極的に発信する。
総合的なキュレーターとして黒崎輝男氏を、インテリアデザインには南部昌亮氏、大橋規子氏をそれぞれ起用。
物件は、JR上野駅広小路口から徒歩5分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅3番出口から徒歩3分、台東区東上野2丁目に位置する敷地面積966.57㎡、10階建て延べ床面積4,896.40㎡。客室は130室(ダブル・ツイン・スイート他)。建築主はNREG東芝不動産。運営は野村不動産ホテルズ。
「SyuRo」
「京源」
「木本硝子」
エコ・ファースト推進協 第8回「エコとわざ」コンクール 環境大臣賞など30作品
エコ・ファースト推進協議会(議長:和田勇・積水ハウス会長)は10月23日、第8回「エコとわざ」コンクール審査結果発表した。
同コンクールは、環境省の後援、全国小中学校環境教育研究会の協力を得て、7月1日から9月9日まで全国の小中学生から募集し、最優秀作品には「環境大臣賞」(1点)、その他「エコ・ファースト推進協議会」優秀賞、 日本ことわざ文化学会賞(各1点)、各加盟企業賞(27点)の合計30作品が選ばれた。
■最優秀作品賞 環境大臣賞
「ちきゅうのえ あおとみどりで かきたいな」(大阪市立東小路小学校1年 中田理仁さん)
■エコ・ファースト推進協議会優秀賞
「電気消し 名月愛でる エコな夜」(浦安市立日の出中学校2年 竹田真亜さん)
■日本ことわざ文化学会賞
「物心つく前の エコ心」(神戸海星女子学院小学校4年 藤田あまねさん)
◇ ◆ ◇
全30作品を読んだ。身びいきかもしれないが、記者が一番好きなのはわが業界の積水ハウス賞に選ばれた東近江市立蒲生西小学校1年 和田昂志郎さんの「じいちゃんの むかしのあそびに エコまなぶ」だ。
東急不動産 渋谷駅西口の再開発 外装デザイン決定
「道玄坂一丁目駅前地区第一種市街地再開発事業」
東急不動産は10月18日、道玄坂一丁目駅前地区市街地再開発組合と共に事業を推進している「道玄坂一丁目駅前地区第一種市街地再開発事業」の外装デザインを決定、商業施設のリーシングを開始すると発表した。
同プロジェクトは、旧東急プラザ渋谷と隣接する街区を一体開発するもので、店舗、事務所、駐車場などからなる地下4階地上18階建て延べ床面積58,970㎡。設計は手塚建築研究所(デザインアーキテクト)、 日建設計(マスターアーキテクト)。設計・施工・監理は清水建設。竣工は2019年秋の予定。
多様な文化が混在する渋谷を表す「小さな物語の集積」をコンセプトに、渋谷駅西口の新たな玄関口を目指す。外装デザインは、街のエネルギーが凝縮された結晶体のような建築を軸として表現している。
三井不&青木茂建築工房 築52年の市場性ない共同住宅をリファイニングで再生
「林マンション リファイニング工事」before-and-after(afterはパース)
三井不動産と青木茂建築工房は10月16日、青木茂建築工房のリファイニング建築手法を活用した、旧耐震の老朽化不動産の再生コンサルティングサービスの第二号案件「林マンション リファイニング工事」の解体現場見学会を行った。関係者など約200名が参加した。
林マンションは昭和41年に建てられた築52年の共同住宅。内外装を一新するとともに、耐震補強をするため耐震改修促進法の認定制度を活用し、確認申請、検査済証を再度取得するリファイニング工事を実施。
見学会で三井不動産レッツ資産活用部・宮田敏雄氏は、「オーナーの方が3年前、当社のセミナーに参加されたのがきっかけ。耐震性に問題があり空き家率は約7割。建て替えると既存建物の半分くらいしか建てられないので、青木氏と連携して今回の手法を採用することになった。工事により戸数は、今のニーズに合わせて40戸から30戸に減らし、賃料については新築の90%に設定。30年の融資も受けられるようにした。ワンストップのソリューションが実現できたのか大きい」と話した。
リファイニング建築は、①躯体以外は全て改修し、内外観ともに新築同等の仕上がり。改修箇所も全て履歴を残す②新築の60~70%の予算③構造上、計画上不要な壁などを撤去し建物を軽くすることで、ブレースを使用しない耐震補強④遵法性の確保。確認申請の再提出、検査済み証の再取得を実施⑤提携金融機関で一定の条件をクリアすれば法定対応年数を超えても融資が可能-などが特徴。
既存建物は、東急大井町線、東急池上線旗の台駅から徒歩10分、都営浅草線馬込駅から徒歩10分、大田区北馬込1丁目に位置する環七通りに面した6階建て延べ床面積約1,049㎡(確認申請当初)。昭和41年竣工の共同住宅兼店舗。既存不適格事項は建築基準法第20条:構造耐力、日影規制、高度地区、容積率。施工は三井不動産リフォームで、2018年3月末に竣工する予定(工期は約8カ月)。竣工後は三井不動産レジデンシャルリースがサブリースを担当する。
見学会では、建築工事として初の中性化対策として実施する亜硫酸リチウム圧入工法も公開された。
亜硫酸リチウム圧入工法
◇ ◆ ◇
青木茂氏がただ者でないことを知ったのは2013年の「千駄ヶ谷緑苑ハウス」の解体工事見学会だった。約300名もの見学者が詰めかけ驚嘆した。以来、見学会、講演などで10回くらいはお会いしているだろうか。その都度記事にしているので、「青木茂」と「RBA」で検索していただければ記事は10数本ヒットするはずだ。
建築のことはさっぱりわからないが、リファイニングはリフォームやリノベーションとはまったく次元が異なる、信じられない建築物の再生手法だ。はなはだ失礼だが、青木氏に「建築の魔術師」というあだ名をつけた。
今回の見学会では、1フロアに326本の亜硫酸リチウムを圧入する工事を見てあっけにとられた。工事関係者によると「コンクリートの強度を高めるのではなく、鉄筋の腐食を防ぐ効果がある」工法とのことだ。人間でいえば老化を防ぐ点滴か(内外装、間取りなども一新するから、全体として老いさらばえたおばあちゃんを20歳はともかく30歳くらいに若返りさせるのがリファイニングだ)。
仕事が殺到しているようで、青木氏は「スタッフが足りないのでぜひ応募してください」と茶目っ気も見せた。
青木氏
三井不動産&青木茂建築工房 練馬区のリファイニング見学会に200名(2017/2/27)
日本の残したい環境 一番人気は「里山」 学生とエコ・ファースト企業 対話イベント
積水ハウスのブース
大学生とエコ・ファースト企業との対話イベント「エコ・ファースト サステナブルカフェ2017」が10月14日行われた。学生にとって企業と直接ディスカッションする絶好の機会となり、企業は自社の環境活動が学生の視点でどのように評価されるのかを知る貴重な場であることから企画されたもの。今回が3回目。
参加した企業は、「エコ・ファースト推進協議会」に加入する40社のうち12社、学生は17大学32名。「日本の美しい環境を残すためには?」をテーマに4時間以上、6~7人のグループに分かれラウンドテーブルディスカッションが行なわれ、2050年のわが国の近未来像を描いた。
今回は大学生が主体となって活動するNPO法人エコ・リーグと共催で開催された。大阪でも12月2日に行われる。
戸田建設(左)とアジア航測のブース
◇ ◆ ◇
参加した企業はライオン、積水ハウス、電通、戸田建設、アジア航測、大成建設、ワタミ、クボタ、LIXIL、全日空、キリンビール、ブリヂストン(順不同)で、環境省もオブザーバーとして参加した。
企業が学生に環境活動などを説明する懇談会が始まり、記者は緊張した。各企業・環境省の13のブースに用意された椅子は各3脚。1回につき10分、全6回行われた。学生が企業を自由に選べるもので、学生が集まらない企業も出てくるのではないかと不安になった。
嬉しいことにそれは杞憂に終わった。さすが学生さん。閑古鳥が鳴かないよう忖度したのかまんべんなく各企業を訪ねていた。
話の内容を聞こうと各ブースを回った。しかし、総勢70名近くが一度に話すので声が共鳴して、耳が遠くなった記者はほとんど聞き取れなかった。
1つだけ、環境省のブースはよく聞こえた。理由は簡単。年寄りは高音が聞き取りづらくなるので、バリトンの同省担当者の声はよく聞こえたということに過ぎない。同省の活動を完ぺきに伝えたのではないか。
何とか苦労して聞き取れたものを紹介すると、学生の鋭い質問が飛んだのが戸田建設のブース。同社は国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化、運転を開始し、今後も力を入れることが報じられている。
同社担当者は「風力発電には漁業権などの問題もあるが、設備が漁礁になることも期待したい」と話した。すかさず男子学生は「設備が発する低周波は魚(=人間)への影響はないのか」と質問した。これには記者も絶句した。風力発電は結構だが、情報開示が圧倒的に少ないのも事実だ。
積水ハウスに対しては、「里山や空き家はビジネスになっているのか」の質問があったという。「里山」はともかく、「空き家ビジネス」については同社担当者も返答できなかったのではないか。業界関係者みんな頭を悩ませている。
これら学生さんの鋭い指摘に驚き、安心もした。〝疑ってかかれ〟これが基本だ。この考えを基本にすればわが国の将来は明るい。彼らに未来を託せる。
面白かったのはアジア航測。担当者は「(絶滅危惧種の)サシバはマンション(巣)とレストラン(餌)の近いところを好む」と説明した。なるほど、サシバも人間と一緒〝食住近接〟を好むようだ。
◇ ◆ ◇
企業と学生が情報を共有するためのコミュニケーションタイムが最高に面白かった。最初に主催者から提案されたのは「日本の残したい環境」「よくしたい環境」を参加者全員がカードに記すことだった。
出るわ出るわ。ゴミのない街、治安がいい街、美しい里山、歴史的建造物、森林公園、田園風景、観光資源・景観、生物環境、商店街、門前町、井戸端、あぜ道、農作物の自給、離島、竹林、蛍、海岸林、エアコンいらず、光熱費ゼロ、農業・林業の再生、コンパクトシティ、温泉、清流、鎌倉、食品ロス、保育シェア、紅葉、花火…中にはわが業界に痛烈な皮肉を込めた「庭のある家に住みたい」や「日本酒」まであった。
もっとも多かったのは「里山」で10数枚の支持を集めた。これは積水ハウスが事前運動をし、参加者に鼻薬をかがせたのではないかと思ったが、同社広報マンは「いえいえ、そんなことは一切やっておりません」と完全否定した。
これらのキーワードを整理し、最終課題である2050年のわが国の近未来像を描くことが最終課題として示された。
ここで参加者の手が止まり、口が閉じられた。自らが書き出した「エアコンいらず」「農業・林業の再生」「農作物の自給」など困難な課題にどのような解決策を示すかが問われるわけだから、ハタと困るのは当然だ。
豊かさの中に浸りきっているおじさんが多数派のチームは自家撞着に陥り、「このまま進めばマルクス、レーニン、トロツキーの共産主義ではないか」と自嘲気味につぶやいた。
◇ ◆ ◇
この難問に果敢に挑戦したチームが2つあった。一つは「不要なものを減らし、循環型社会を目指す分かち合い社会」の実現を導き出した。〝過剰包装が多い〟〝不要なものを減らす(罰則を設ける)〟〝多少の不便は我慢する〟などと具体的な提案を行った。
もう一つのチームは、〝分かち合いの社会〟を実現するために都市計画、日々の暮らし、コミュニティの観点から様々な解決策、提案を行った。〝モノが少なくても満足できるミニマリスト〟〝Fun to Share〟を呼び掛けた。都市計画まで踏み込んだのはさすがだ。
双方に共通していたのは、具体的な問題に言及しており、女性が多数派を占めるか主導権を握っていたことだ。生き方や心の問題まで踏み込んでいた。観念的な言辞が目立った、どちらかといえば男性が中心のチームと対照的だった。
各チームとも目立ったのは、「市民」を中心に据えていることだった。何事につけ〝産官学連携〟は必須要件だと考えるが、ここに市民を加えることもこれからの社会には重要なのだろうと実感させられた。
会場となったキリンビール本社会議室(参加者には飲料水が提供された)
◇ ◆ ◇
参加者の「残したい環境」一番人気になった里山について指摘しておきたい。
里山は、積水ハウスが20年近くも前から「5本の樹計画」に力を注ぎ、藻谷浩介・NHK広島取材班「里山資本主義」(角川書店)が2年前、爆発的にヒットした。関心を呼んでいるのは結構なことだ。
記者も里山の再生は喫緊の課題だと思う。しかし、言うは易く行うは難し。全国の里山は危機的な状況にある。電気柵に触れて人間が死亡した事故が報じられたが、里山はサル、イノシシ、シカなどの棲家・楽園と化し、まるで人間が電気柵に保護されているような錯覚に陥る。
彼らが運んでくる山ヒルの恐ろしさは経験しないとわからない。ここでは書かないが、ぜひ古山高麗雄「フーコン戦記」を読んでいただきたい。東南アジアとわが国のヒルは種類が違うだろうが、読むと卒倒しそうな恐怖に襲われる。ついでに丸山健二「田舎暮らしに殺されない法」もどうぞ。
山ヒルだけでない。いま問題になっているマダニ、スズメバチ、マムシなども里山を徘徊している。山頂の風力発電は生態系を狂わせ、低周波は人体への影響も取りざたされている。彼らと共生するのは絵空事と記者は考えている。
さらに言えば、われわれは物質的な豊かさを手に入れるのと引き換えに、生態系を破壊し、都市と農村の格差を増大させ、文化も破壊し、人間性すら狂わそうとしている。そうした一面を考えないといけない。
「不要なものは捨てる」のも結構(記者のような老人は〝不要な〟存在に判定される時代が来ないことを祈るばかりだ)だが、かつての薪炭時代に逆戻りはできない。
誰向けか 一般の人には難しすぎる 埼玉県住まいづくり協議会シンポ
「平成29年度 住生活月間シンポジウム」(埼玉コルソで)
埼玉県住まいづくり協議会は10月13日、「平成29年度 住生活月間シンポジウム」を開催。第一部として東洋大学教授・野澤千絵氏が「老いる家 崩れる街~住宅過剰社会から脱却に向けて~」と題し、第二部として慶應義塾大学教授・伊香賀俊治氏が「幼児から高齢者まで健康に過ごせる暖かな木の住まいの調査速報」をテーマにそれぞれ講演した。約250名の関係者・市民が参加した。
埼玉県住まいづくり協議会は、「埼玉を創る!埼玉で頑張る!」をスローガンに、県内の民間住宅産業関連企業と行政・公共団体とが一体となり、優良な住宅供給を行うことで、県民の生活基盤の安定とその住環境の向上を図ることを目的に平成8年10月に設立された。毎年、この種のシンポジウムを行っている。
◇ ◆ ◇
参加者に感想を聞いた。「マイクの音が聞きづらく、耳が痛かった。内容も難しい」「3411条例は個人的にもテーマ」「空き家問題に関心がある。ビジネスモデルができるといい」「自治体の都市計画担当なので参考になった。私どもも調整区域の規制強化に切り替えられない問題を抱えている」「うちの近くにも空き家があり、壊されているが、その後どうなるのか気になる」「私は50歳。82歳の父親の実家を相続することになったらどうするか心配」などの声が聞かれた。
◇ ◆ ◇
こんなことは書きたくないが、主催者も講演者も考えてほしいから書く。いったい誰向けのシンポジウムなのかということだ。参加者は協議会メンバーが中心だろうが、一般にも開放している。ならば、一般の人でも理解できるような内容にすべきだ。
最初に話された野澤氏のテーマは一般の人でも興味があるはずだ。しかし、その内容はかなり専門的で、「市街化調整区域」「都市計画法第34条11号」「線引き」「空き家トリアージュ」などの文言が入ったパワーポイント・画像が約1時間の間に30点くらい示された。1点につき約2分だ。これらを野澤氏独特の副詞の語尾を上げる話し方で機関銃のようにまくしたてられると理解不能、消化不良になる。都市計画法を一般の人にわかってもらうためには1時間あっても足らないはずだ。
記者は埼玉県の調整区域開発について取材したことがあるが、首都圏では間違いなくもっとも規制が緩やかな県だと思う。なぜそうなのか、深く追究し市民に知らせることも学者の役割ではないか。
野澤氏のフィールドワークを基にした川越市や羽生市などの都市計画、規制緩和に関する問題提起はすごく鋭く参考になったが、リップサービスが過ぎた。遅れた県の都市計画を徹底して掘り下げ、協議会や県や市に遠慮せず話してほしかった。
メディアにも一言。以前は弁当付きの協議会会長との会見に10人を超える記者が集まっていた。この日は片手に余る、参加するのが恥ずかしくなるほどの少数。これは何だ。埼玉県を応援するためにもちゃんと出席して、言うべきことをいうべきだ。
伊香賀氏の講演は、あるいは一般の人向けに話されたのかもしれないが分かりやすかった(記者は取材の関係で途中退席)。参考までに他のイベントで講演されたときの記事を添付する。
「環境振動」「施工検証」「耐力壁」などに高い関心 2×4協会「6階建て報告会」
「ツーバイフォー6階建て実験棟プロジェクト報告会」(発明会館ホールで)
日本ツーバイフォー建築協会は10月12日、「ツーバイフォー6階建て実験棟プロジェクト報告会」を行った。昨年3月、「ツーバイフォー6階建て実験棟」を建設し、その後国立研究開発法人・建築研究所と共同で耐震・耐火構造、施工性などの検証を進めてきており、今回はその成果、課題などを報告するもの。定員200名の会場は関係者らであふれ、関心の高さをうかがわせた。
◇ ◆ ◇
行儀が悪い記者などメディア関係者をくぎ付けにする意図はなかったのだろうが、案内された席は最前列だった。横見、居眠りしたら失礼だと思い、辛抱して話を聞いた。
テーマは、「環境振動」「施工検証」「耐力壁の開発」などそれぞれ魅力的なものだった。しかし、これが実に難解。建築に素人の記者などちんぷんかんぷん。
例えばこうだ。「せっこうボードは3,208枚」「積載重量は1回あたり30枚540キロ」「総施工人工の30%、建物の総重量119トンのうち実に43%がボード」「6階床では、基礎近傍地盤と比べて12.8倍から14.7倍の増幅が発生している」「常時微動記録には数十メートル離れた位置にある道路交通による振動も記録された」「構造的に問題となるレベルとは考えられないが、環境振動レベルでは注意が必要」
つまり、木造建築物でも外壁は「耐火・防火」基準を満たすために大量のせっこうボードが必要で、職人確保に大変であり、道路交通や家電製品などが発する微音・微震は共振するから注意が必要とのことらしい。
参加者にも感想を聞いた。ある戸建ての研究開発を行っている人は「内容は言えない。(環境振動はとても興味深いが)実はそれを研究している」と興味を示した。
別の大手不動産流通会社の方は「欧米と比べ我が国は木造の中層化の流れに大きく立ち遅れている。今後中層化の流れは加速するはず」と木造中層化の進展に注目していた。
また戸建てメーカーの商品開発担当者は「われわれも耐火・防火エリアでの住宅・非住宅の拡大を狙っている。せっこうボードの問題は考えないといけない。報告会は、構造担当の建築士でもよくわからない人が多いのではないか」と話した。
記者の持論である「木造は現しが美しい。耐火・防火の基準を緩和すべき」と質問したが、参加者は「現しはいいが、法律は守らないといけない」と規制緩和には同意しなかった。
なぜ80年間も持続できたのか 奇跡の街 入間市の「ジョンソンタウン」を歩く
「ジョンソンタウン」(ジョンソンタウン提供)
約80年の歴史がある街、埼玉県入間市東町の「ジョンソンタウン」が今年の日本建築学会賞(業績)、第11回キッズデザイン賞優秀賞(少子化対策担当大臣賞)をそれぞれ受賞した。一昨年の平成27年には国土交通省の都市景観大賞で「都市空間部門」大賞(国土交通大臣賞)も受賞している。西武池袋線入間市駅から徒歩18分、敷地面積は約25,000㎡(約7,500坪)。平屋が中心の賃貸・店舗併用住宅79棟が建ち、130世帯210人が暮らす。稼働率が95%にも達する〝奇跡の街〟だ。
この街のどこが素晴らしいのか、どうして80年も生き延びられたのか、大規模ニュータウンの再生・活性化やコミュニティ形成、空き家対策のヒントになるか-これらを自分の目で確かめるのが取材の目的だった。キッズデザイン賞の授賞式で「ジョンソンタウン」を経営する磯野商会の常務・磯野章雄氏(41、以下章雄氏)に取材を申し込み、今回実現した。
「私は昭和51年生まれ。53年に創業者である祖父が82歳で亡くなったので、祖父の記憶はまったくありません。祖父の三男で私の父がいまの社長。父は平成8年、ある大手電機メーカーを58歳で退職し、祖父の長男(伯父)から事業を引き継ぎました。79歳の現在も元気で『お前(章雄氏)にはまだ任せられない。死ぬまで現役だ』と頑張っています。現役で仕事をしていることが元気の源だと思います。私は平成13年入社。この街の繁栄と発展に引き続き取り組んでいきたい」章雄氏はこう話す。
「ジョンソンタウン」イメージ(ジョンソンタウン提供)
少し長くなり繰り返しになるが、この街の歴史をたどる。
創業は昭和11年。製紙会社の農園20万坪を磯野義雄氏(以下義雄氏)が競落し、「磯野農園」を開業したのに始まる。その翌年、日中戦争が勃発。義雄氏の夢であった農園経営は戦争の波に飲み込まれる。昭和13年、陸軍航空士官学校の将校住宅「磯野住宅」50戸を建設して賃貸。
終戦後の農地解放で20万坪あった土地は約7,500坪に縮小。米軍の駐留-朝鮮戦争をきっかけに「磯野住宅」のほかに「米軍ハウス」24棟を建設、日本人と米国軍人が同じ敷地内で暮らす街となる。昭和53年、米軍基地は日本に返還、自衛隊入間基地となり、「米軍ハウス」は日本人向けに賃貸されるようになる。
その後、義雄氏の死去に伴い、その長男が事業を引き継いだが、街は荒廃・スラム化が進行する。平成8年、義雄氏の三男で現社長の磯野達雄氏(79、以下達雄氏)が事業を引き継ぎ、街の復興・活性化に着手。約15年かけて米軍ハウスを改修、「平成ハウス」35棟を建設するなどして現在に至る。平成21年、街の名称もかつての米軍基地の名称にちなみ「磯野住宅」から「ジョンソンタウン」へ変更した。
用途地域は第一種中高層住居専用地域と第二種住居地域。いずれも建蔽率・容積率は60%・200%。
上空からの街なみ(ジョンソンタウン提供)
街並み(ジョンソンタウン提供)
◇ ◆ ◇
街並みは確かにわれわれが日常目にするそれとは異なっている。住宅・店舗のほとんどがトラス構造の平屋の木造で、しかも下見板張り、ペンキ塗り仕上げ、西部劇に出てくるようなウッドデッキ、カラフルな英語表記の看板…このような風景はまずないはずだ。
なぜこのような異質な環境が保持されてきたのか。最大の理由は分譲ではなく賃貸であることだと考えた。章雄氏も否定しなかった。「売ってくださいという方がたくさんいらしたが、全て断ってきた。1区画40数坪から50坪くらいで、不動産活用としての効率は悪いですが、祖父が残してくれた土地。売り払ったらこの環境は守れない。今後も売却するつもりはありません」ときっぱり。
住宅の面積は20~30坪だが、章雄氏が話したように1区画の面積が大きいのも、豊かな緑と環境を保持し続けてきた要因の一つだろう。ミニ区画だったらこうはならない。
低層住宅と店舗が混在する街は他にない。店舗は全部で55店。内訳は飲食が20、物販が20、その他サービスが15。章雄氏は「現在の店舗数は少し過剰ではないか?と考えている。住まいと店舗のバランスを見て、今後調整していきたい」と将来の算盤をはじく。
入居者の属性については、「30~40代が多く、職業はサラリーマンよりも、インターネットがあれば仕事ができるデザイナー、カメラマン、ライターなどが多い」という。「最寄駅からのバス路線がないので、バスの誘致を検討している」だそうだ。
樹木が多く樹種が豊富なのも大きな特徴だ。章雄氏が「父は木を大事にしていて、タウンに生えているどんな木でも『切るな』と言われている」と話したが、それを裏付けるかのように、テラスの真ん中にでんと座り、屋根を突き抜けている大きなヒノキもあった。樹種はスギ、ヒノキ、ヒバ、クリ、シュロ、キリ、ツバキ、マツ、サクラ、モクレン、キンモクセイ、カキ、オリーブ…樹齢は間違いなく数十年から百年以上だ。圧巻というほかない。
飲食店「カフェ&ダイニング ボンボンウェポン」
◇ ◆ ◇
「3年前に都内から引っ越してきたのですが、人工的でない景観が気に入りました。都内ではどこに行っても車などの音がしますが、ここは音が消える。これもいいですね」飲食店「east village OTHER」のオーナー・吉田政憲氏(43)がこう語った。
タバコを吸いたくて、コーヒーを飲みたくてこの店に入ったのは午後3時過ぎ。店内には壁時計が掛かっていたが、時間は9時20分で止っていた。吉田氏は「アメリカ製で電池が動かないんです」と笑ったが、ひょっとしたら時間がゆったり流れる雰囲気を表現する演出かもしれない。
この店をよく利用するという大学生3人組も「(木の)テラスがあって雰囲気がいい」「駅に遠いという不便さより、ほかにない価値がここにはある」「女の子に好かれるんです。犬の散歩もできるしショッピングもできる」と話した。
飲食店「イーストレッジ アザー」(高さ数メートルのキンモクセイが印象的。右の写真の左から3人目が吉田氏、他は利用客)
テラスの屋根を突き抜けるヒノキ
◇ ◆ ◇
章雄氏から祖父や父の話を聞きながら、記者は親-子-孫の3世代を描いた小説を考えた。真っ先に浮かんだのはマルケス「百年の孤独」だ。ケン・フォレット「永遠の始まり」、佐々木譲「警官の血」、さらには歴史的名著パール・バック「大地」、ロマン・ローラン「ジャン・クリストフ」など…。
「ジョンソンタウン」は戦争に翻弄される祖父、その資産を引き継ぐ子、孫の思い入れ、葛藤がお世辞にもきれいと言えない街並みに反映されている。農地解放で20万坪の土地のほとんどを買収されたとき義雄氏は何を考えたのか、同じ敷地で米国軍人と一緒に住んだ日本人は何を考えたのか、「木を切るな」「土地を売るな」という達雄氏の〝家訓〟を章雄氏はどう守っていくのか、入居者のコミュニティは今後どのような方向に向かうのか。興味は尽きない。
今年の春に発刊した16ページ建ての季刊誌「JOHNSON TOWN Style」は実に面白い。数人のライターが入居者をインタビューし、歴史をたどり、当時の建築技術や裏話を引き出し、コミュニティなどについて丹念な取材を行っている。写真がまたきれいだ。これからも80年の歴史の悲喜交々を追いかけてほしい。そして未来につなげてほしい。
一つの街ですべてが完結する-これが理想だ。現在の用途地域規制の限界も感じた。
住民同士のバーベキュー(ジョンソンタウン提供)
冬のOne Dayマーケット(ジョンソンタウン提供)
交差点(車のスピードを出させないための工夫か)
路地が網の目のように走っている(ネコはまるで大家の代理人のよう)