リファイニング建築のすごさを見た 「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」完成
完成した「千駄ヶ谷緑苑ハウス」
築43年の旧耐震賃貸住宅(一部事務所)を耐震補強し、内外装や設備を一新するリファイニング手法を用いた分譲マンション「千駄ヶ谷緑苑ハウス」が完成し、3月22日、関係者に公開された。約140人が参加した。
物件は、JR中央線千駄ヶ谷駅から徒歩3分、渋谷区千駄ヶ谷5丁目に位置する7階建て全17戸(事務所3/住戸13)。専有面積は30.50~86.12㎡。建設年は昭和45年(築年数43年)。事業者はハチハウス。設計・監理は青木茂建築工房(意匠設計)、金箱構造設計事務所(構造設計)。施工は山田建設。竣工は平成26年3月。
建物は、道路を挟んだ北側に新宿御苑があり、屋上からは新宿のビル群や神宮外苑花火が眺められる好立地にありながら、旧耐震であるうえ間取り・設備の陳腐化が進んでいた。建物を建て替えずに先代から譲り受けた建物をそのまま残したいという意向を受けてハチハウスが物件を取得。
改修にあたっては、耐震性能を向上させるため構造・計画上不要な部分を撤去して軽量化を図り、使い勝手や意匠を損なわないよう補強をバランスよく行い、北側や南側の開口部を大きく取る工夫を行っている。
外壁は中性化対策としてタイルを使用。屋上は外断熱として緑化も図っている。防音対策としてはスラブ厚が120ミリだったため、遮音性能の高いフローリングを採用。設備計画では縦配管を共用廊下側に設置することでメンテナンス性を向上させた。
建物の価値向上のために1,600ページに及ぶ補修個所の全数を記載した「家歴書」を作成。耐用年数は第三者機関の調査の結果、推定耐用年数は残り50年と診断された。耐震性の確保、建物の長寿命化、適法性の確保、商品競争力を確保したことなどで住宅ローンが借りられるようにもした。
現在まで13戸が全て契約・申し込み済み。坪単価は290万円。
設計・監理を担当した青木茂建築工房・青木茂主宰は、「リファイニングによる住宅の再生は、賃貸の再生、居ながらの再生、分譲の再生、賃貸から分譲への再生をこれまで行ってきた。金融も含めどのようなケースでも対応できるという意味で集合住宅の再生は完成した」と話した。
ハチハウスのオーナー・岡本軍八氏は、「私は74歳。これまで50年間、不動産事業にかかわってきた。最後の仕事として社会に還元したいという思いで取り組んできた。当初予算は坪70万円と想定していたが、耐震補強費などがかさみ結果的には坪100万円になった。しかし、分譲単価は想定していた240万円から290万円に上昇しても、お客さんが商品性を評価してくれた。内覧会でみなさんびっくりしていた。〝死ぬしかない〟と思っていた建物がリファイニングによって生まれ変わり、十分採算に乗ることが実証できた。夢のチャレンジが成功した」と語った。
岡本氏(左)と青木氏
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「千駄ヶ谷 緑苑ハウス」については、工事中の段階でも記事にしているのでそちらも参照して頂きたい。百聞は一見に如かず。青木先生のすごさが分かった。デザイン力も素晴らしい。倉庫だった1階は天井高が4mあったことから、ロフト付きにし、耐震性を確保しながら開口部を大きくしたこと、梁やカーテンレールの部分はライティングを施し、最上階は外廊下部分を専有化するなどの工夫を凝らしている。リフォームや今流行のリノベーションとは全く異なるものだ。
もうひとつ驚いたことがある。岡本軍八氏が登場したことだ。岡本氏については別掲の記事を読んでいただきたい。記者は9年前、岡本氏にお会いし、記事にもしているが、すっかり忘れていた。岡本氏には失礼だが、もう過去の人だと思っていた。岡本氏自身も「浦島太郎になっちゃった」とその時話している。
昨年取材したとき「ハチハウス」はどこかで聞いたような気がしたが、ハチハウス・青木歩実社長が軍八氏の娘さんだとは全然思わなかった。「ハチ」はロッキード事件のハチのひと刺しか連想できなかったし、青木茂氏の娘さんかと思って質問したぐらいだ。軍八の「ハチ」を社名に使うなどやはり岡本氏は只ものでなかった。
岡本氏は、「山田建設の山田社長は長いおつきあい。どこも工事を受けてくれなかったのに意気に感じてやってくれた。近く中堅のデベロッパー向けに説明会をやる」と意気込んでいた。すっかり旬が過ぎた岡本氏がよみがえったのが何よりうれしい。リファイニングは人間再生にも応用できるのか。
梁の部分をライティング処理 屋上の緑化
窓の外は新宿御苑 倉庫だった1階部分の天井高は4mのロフト付き
リファイニング事例のひとつ「清瀬けやきホール」のビフォー(左)とアフター(写真撮影は「イメージグラム」)
調布駅前の一等地で再開発マンション 住友不動産「セントラルレジデンス調布ステーションコート」
「セントラルレジデンス調布ステーションコート」完成予想図
京王線調布駅前の再開発マンション住友不動産「セントラルレジデンス調布ステーションコート」を見学した。整備が進む駅前広場に面した一等地のマンションだ。
物件は、京王線調布駅から徒歩2分、調布市布田4丁目に位置する16階建て全190 戸(事業協力者住戸29 戸含む)。専有面積は41.71~82.47㎡。価格は未定。竣工予定は平成27年1月。施工は清水建設。
マンションは、京王線の地下化に伴う市の駅前広場整備事業を中心とした街づくり方針に沿って建設されるもので、公益施設・商業・業務施設からなる複合開発。地下に市の自転車置場が設置され、3階までは業務・商業施設となる。
建物は、北側コーナーにガラスカーテンウォールを配し、全体的に落ち着いたモノトーンの素材・色調を採用し、白い縦ラインのアクセントを入れることで端正な表情にしているのが特徴。住宅部分は4階からで、70㎡が中心、その他41㎡のコンパクトタイプや54㎡の小家族向けタイプが約4割。一部の住戸は、足元から天井近くまで設置した大型窓「ダイナミックパノラマウインドウ」を採用している。
販売を担当する同社住宅分譲事業本部首都圏営業所主任・長嶋史和氏は、「3月1日から予約で見学を受け付けているが、毎週土日に設けた各日の予約枠18組はほぼ満席。分譲を待ち望んでいた方が多い。私がこれまで15年間担当したマンションの中でこの物件が一番立地がいい。府中?桜上水? 負けません。仙川? 予算的に難しい方は仙川を検討されると思います」と話した。
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調布は、記者が結婚して最初に住んだ街。京王線沿線の中ではもっともポテンシャルの高い街だった。最近は伊勢丹が進出した府中に押され気味だったが、京王線の地下化にともなう整備計画の進行によって再び輝きを取り戻しつつある。線路だったところに京王電鉄が商業・業務ビルを3棟を計画しているが、現段階で詳細は不明。
マンションでもっとも気になるのが価格だ。長嶋氏は「南向きの価格の高いところから分譲する予定で、70㎡台で6,000万円台の後半」としか話さなかったが、府中にも桜上水にも負けないということからおのずと単価は推測される。
徒歩5分圏には大型商業施設や市役所、図書館、コンサートホールが揃っている。単身者・DINCSを含め申し込みが殺到するかもしれない。
外観
菜園・庭園・花台付き東京建物「Brillia 狛江Farm&Garden」
「Brillia 狛江Farm&Garden」完成予想図
東京建物がモデルルームをオープンした「Brillia 狛江Farm&Garden」のモデルルームを見学した。現段階で価格は未定だが、周囲は第一種低層住居専用地域だけに人気を呼ぶ可能性は十分と見た。
物件は、小田急小田原線狛江駅から徒歩8 分、狛江市中和泉3 丁目に位置する5階建て全39戸。専有面積は60.28~90.40㎡、価格は未定。入居予定は平成26 年11 月下旬。設計・監理はコモン・リンク一級建築士事務所。施工は南海辰村建設。
敷地の東側は道路に面しているが、それほど交通量は多くなく、敷地南側も西側も用途地域は第一種低層住居専用地域。典型的な「狛江」の住宅街だ。
39戸という小規模物件の特性を活かし、居住者の顔が分かる「食べられる景観」をテーマにした「コモンファーム(菜園)」や「コモンガーデン(庭園)」を設置しているのが特徴。また、バルコニーには花台とスロップシンクを設けている。
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取材した段階では価格は公表されなかったが、記者の想定内に収まるのではないかとみている。
面白いのは、住戸プランは多くが東向きで、バルコニーに花台を設けていることだ。住戸の外廊下側に花台を設置している例はたくさんあるが、バルコニー側に設置しているのは見たことがない。しかし、バルコニーにプランターを設置するマンション居住者はたくさんいる。これは歓迎されるはずだ。
「コモンガーデン」(左)と「コモンファーム」
「太陽熱戸別給湯システム」を採用した大京「ライオンズ練馬レジデンス」竣工
「ライオンズ練馬レジデンス」(写真提供は同業の岡本郁雄氏。ご本人は「クレジットはいらない」と仰ったが、これは礼儀。岡本氏は精力的にマンションの取材をされている方。以下同じ)
大京は3月11日、日本初の「太陽熱戸別給湯システム」を採用したマンション「ライオンズ練馬レジデンス」が竣工したのに伴い報道陣向けに内覧会を実施した。
「太陽熱戸別給湯システム」は、屋上で集熱された熱を利用して貯湯タンクの湯を沸かし、高効率の熱源機エコージョーズと組み合わせることでバスやキッチンなどに効率よく給湯するシステム。
太陽光パネルのエネルギー変換効率が10~20%であるのに対し、太陽熱のエネルギー変換効率は40~60%と高く、現地は周辺に高い建物が建つ可能性が低い第一種低層住居専用地域に立地し、最大限に屋上を利用できることから同社は採用に踏み切った。 「ソーラー追い炊き」と「風呂熱回収」が行えるシステムは今回が初めて。
システムの採用には1戸当たり約80万円のイニシャルコストが掛かっているが、このうち3分の2は経産省と東京都環境公社の補助事業で賄われている。入居者は3人家族で給湯使用量の約25%を太陽熱で賄うことができ、CO2削減量を約37%削減できるとしている。
マンションは西武池袋線練馬駅から徒歩11分の4階建て全61戸。坪単価は247万円。残りは2戸。
屋上の太陽熱集熱パネル(左)とバルコニーに設置されている貯湯ユニット(寸法は70㎝四方、高さは2mくらいか)
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なかなかいいマンションだ。「太陽光」か「太陽熱」か、記者もまだよく分からない部分もあるが、今回のシステムは触媒を屋上までポンプで揚げるのは12mが限度のようで、低層マンションにしか採用できないのがネックのようだ。
61戸の戸数の割には立派な水盤とミスト散布装置があり、同社独自のパッシブデザインも採用されている。この水盤・ミスト散布・パッシブデザインは大きな威力を発揮するのではないか。
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今回の「太陽熱戸別給湯システム」は「日本初」と同社は謳っているが、「日本初」は=「世界初」だそうだ。先日、記者発表会を行った東急不動産「ブランズ品川勝島」の「マンション戸別エネファーム」は「世界初」と謳っていた。
「日本初」と「世界初」は雲泥の差があるような気がするが、わが業界はこの種の「初」をここのところ連発している。「世界初」はさすがに「品川勝島」だけだが、「日本初」「業界初」「首都圏初」「○○区初」「○○エリア初」「○○駅圏初」などあげたらきりがない。しかも「初」を謳うのは設備機器だけでなく、規模や高さにも用いられるから「初」もの尽くしだ。
だれかが「2番じゃダメなんですか」としゃべり大ひんしゅくを買ったが、1番じゃなきゃダメな場合と2番でも3番でもいいのはケースバイケースだ。日本で2番目に高い「北岳」は記者も含めてほとんどの人は知らないだろうが、知らなくたって問題はないし、北岳に怒られることはない。
先の冬季オリンピックでわれわれは羽生結弦さんの金メダルに沸き返った。しかし、その一方で、メダルが取れなかった高梨沙羅さんや浅田真央さんにも拍手喝采したではないか。
「初」を謳うデベロッパーは根拠を示しているので問題はないのだが、いったいその「価値」はどの程度のものなのか「見せる化」を図らないと、みんな希薄化してしまうだろう。ユーザーはそんな「初」に惹かれてマンションを購入しているとは思えないし、そもそも不動産は〝唯一無二〟の特性を備えている。その土地の魅力を最大限に引き出すのがデベロッパーの役割だ。
1階の水盤(ミスト散布機能付き)
三菱地所レジ「ザ・パークハウス晴海」 モデルルーム分譲3戸に申し込み24件
「ザ・パークハウス晴海タワーズクロノレジデンス」
三菱地所レジデンスと鹿島建設は3月10日、「ザ・パークハウス晴海タワーズクロノレジデンス」で建物内モデルルームとして使用していた3戸が3月8日に抽選分譲した結果、最高倍率14倍、平均倍率8倍で即日完売したと発表した。3戸の価格は6,688万~7,998万円。専有面積は74.39~81.61㎡。
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モデルルームは先日行なわれた記者見学会でも公開された。抽選になるとは思ったが、3戸に対して申し込みが24件。2020年のオリンピック開催が決まったとはいえ、この倍率はすごい。同社は引き続いて分譲する隣接の「ティアロレジデンス」の単価については公表していないが、この調子だと坪300万円近くになるかもしれない。
記者は、このマンションが分譲する前は坪単価320万円とはじき出した。それぐらい価値のあるマンションだと当時は思った(戸数が多いので300万円前後だろうとは予想したが)し、先日、完成した建物を見学してその評価は間違っていないと思う。約50平方メートルある高級ホテル並み仕様のゲストルームの宿泊費(リネン代)が3,500円というのも破格の値段だ。
今回の即日完売にほくそ笑んでいるのは住友不動産かもしれない。「ドゥ・トゥール」は320万円くらいになるか。三菱地所レジデンスの隣接地でタワーマンションを分譲する三井不動産レジデンシャルはどういう戦略に出るか。豊洲の「ららポート」と結ぶ渡し舟は中央区や江東区、地域住民の後押しがあればひょっとしたら実現するか。都は反対する理由がない。
「エコボイド」「ソラテラス」が圧巻 三井不動産レジ「パークタワー東雲」完成
「パークタワー東雲」完成予想図
三井不動産レジデンシャルは3月7日、江東区東雲の大規模タワーマンション「パークタワー東雲」が竣工したのに伴い、報道陣向けに竣工見学会を行った。タワーマンションではほとんど前例がないと思われる躯体に「エコボイド」「ソラテラス」を設置し、上昇気流によって心地よい空気の流れを生み出す工夫を施した物件で、その良さを目の当たりにした。
詳細は、別掲の記事を参照していただきたいが、震災後の逆風をもろともせず早期完売したマンションだ。第1期の販売開始は2012年9月。それから第4期の2013年10月までわずか1年2か月で全585戸を完売した。価格は2,978万~6,960万円(最多価格帯4,500万円)、坪単価は224万円。
東雲エリアでは、第一弾の三菱地所レジデンス「Wコンフォート」が超割安単価だったことも手伝って記録的な売れ行きを見せたが、その他の物件は完成後も残っていたのではないか。近接するマンションなどは完成後1年以上経過しているが完売になっていない。「豊洲」より単価は安いが、生活利便施設やアクセスの差が売れ行きに出ている。
このマンションも、先行する野村不動産の後で、震災による逆風も吹き荒れていたときに分譲開始された。普通だったら苦戦はまぬかれないところだが、商品企画が図抜けていた。「エコボイド」「ソラテラス」は業界の常識を破るものだった。隣接する「キャナルコート」には山本理顕氏、隈研吾氏、伊東豊雄氏など錚々たるメンバーが企画に参画した「ボイド」付きの賃貸があるが、タワーマンションでは初の試みだろうと思う。
実際にこの「エコボイド」も「ソラテラス」も体験したが、キャッチボール、バスケットボール、駆けっこ、体操、ドッグレース(ラン)が建物内のオープンスペースでできるなんて信じられない。(管理規約でスポーツは禁止されるようだが)
免震工法を採用したのは最初からそのようにしていたもので、震災によって変更したのではない。長期優良住宅認定、都の「マンション環境性能評価」制度で満点の星15個も獲得しており、最高レベルのマンションを体験した。1階の茶室は、女性記者から「ここに和服を着て入る勇気がない」という声も聞かれた。なるほど衆人〝監視〟ではそうかもしれない。ただ、同社はなかなか考えている。ボイドに面した廊下手すりの高さは一般的な1110ミリではなく、1350ミリにして眺めるときの恐怖感を軽減しているという。つまり、上からは誰が茶室に入ったかは、背の高い人しか見えないということだ。
もう一つ、なるほどと思ったのはボイドに面した壁面はセラミックコーティングを施しており、反射によって下層階も明るくなる工夫を行っている。
茶室
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取材の帰り際に「シガーバー(喫煙所)」が1階エントランス部分にあることに気が付き利用した。大規模だから設置したのだろうが、喫煙者にはうれしいスペースだ。関係者にそのことを話したら、このシガーバーの設置を提案したのは、見学会で商品企画について説明した同社都市開発部開発室・永田愛理氏だった。
記者は女性だから男性だからと差別する気は全然ないが(知らず知らずのうちに色眼鏡で見ているのだろうが)、おそらく同社も男性優位の社会が形成されているはずだ。嫌煙ムードが蔓延・充満する中で、永田氏が堂々と提案できるのは、いかに顧客満足に応えるかを最優先しているからだろうと思った。本来、商品企画に女も男もない。家事労働について疎い男性に問題があるのだ。
永田氏としばし歓談して気分よく帰ったが、そのあとの積水ハウスの決算発表会で今年2月に設置されたばかりの「ダイバーシティ推進室」室長・伊藤みどり氏とも話ができた。とてもハイな気分になった。
ソラプラザヘルス(左)とソラプラザギャラリー
ソラプラザヒーリング(左)とソラプラザビュー
東急不動産 省CO2推進プロジェクト第一弾「ブランズシティ品川勝島」
「ブランズシティ品川勝島」完成予想図
東急不動産は3月7日、国土交通省「住宅・建築物省CO2先導事業」に採択された「東急グループで取り組む省CO2推進プロジェクト」第一号マンション「ブランズシティ品川勝島」のモデルルームを3月下旬にオープンすると発表した。同日、記者発表会を行った。
物件は、京浜急行本線鮫洲駅から徒歩11分、品川区勝島一丁目に位置する18階建て前356戸(分譲は335戸)。専有面積は71.01~90.23㎡、予定価格は4,400万円台~6,900万円台(最多価格帯5,200万円台)、坪単価は230万円。設計は日建ハウジングシステム。施工は大豊建設。竣工予定は2015年7月下旬。
世界初のマンション向けエネファームを導入するほか、エネルギー、モビリティ、勝島の森、パッシブデザイン、防災、コミュニティの6つを“シェア”することで、省エネ・省CO2の暮らしを実現する「BRANZ SHARE DESIGN」をコンセプトとして採用しているのが特徴。東京都の「マンション環境性能評価」では満点の星15個に1つ欠ける14個を獲得している。
発表会に臨んだ同社広報・CSR推進部長・熊沢基好氏は、「昨年からリブランディングに取り組んでおり、当社のマンションブランド〝ブランズ〟の認知度は高まってきた。今回の物件は、住環境を創造し、トータルで生活をシェアする提案を盛り込んだフラッグシップ物件として位置づけている。CSR活動としても先進的な取り組みができた」と挨拶した。
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単価については、先ごろ行なわれた同社ループの記者懇親会で、担当役員の大滝岩男常務に「230万円ぐらいでしょ」と話したら常務は「いい線だね」と答えた。東京競馬場へは歩いて行ける。競馬場は嫌悪施設では全然ない。厩舎の匂いは風向きもあるだろうが、ここまでくれば匂わないのではないか。
省CO2の取り組みでは、居住者の使用エネルギーやライフスタイルなどの情報を東急住生活研究所と東京都市大学が産学共同で分析・検証し、今後の商品企画などに生かしていく。また、省CO2行動を促進するため東急ストアの買い物優待を行なうほか、国が運営する排出権取引スキーム「J-クレジット」に登録・売却することで年間100万円の収入を見込む。
シェアガーデン
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意欲的な取り組みは理解できるが、記者は「世界初のマンション向けエネファームを全戸に導入」と前面に謳っているのはいかがなものかと正直思う。
今回のエネファームは東京ガスとパナソニックが共同開発したものだが、他のガス会社やメーカーも戸建て向けに取り組んでいる。「世界初」というのはあくまでも「マンション向け」であり、総合地所も同じタイプのものを採用するので。正確には「同時世界初」ではないか。また、この種の機器は日進月歩のはずで、同業他社がもっと優れたものを開発すれば「世界初」の価値は薄れていく。1基200万円とコストもかかるし、約2㎡のスペースを小さくするのも課題だ。
「世界初」を強調すればするほど、他の取り組みの良さ、訴求力が薄れてくるような気がしてならない。
エネファーム
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もう一つ。細かなことだが、モデルルーム提案について。いまマンション業界は、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産の4強がトップ争いを演じている。
記者は判官贔屓だから、この4強のうちどこが抜け出すか脱落するかを注目している。各社とも必至だろう。競えあえばあうほど商品企画はよくなるだろうから、ユーザーにとっては歓迎すべきことだ。一方で、2番手グループの同社や東京建物、大京、新日鉄興和不動産、NTT都市開発などには頑張ってほしい。戸数では勝てなくていい。供給量など何の価値もない。それよりも商品企画であり、それぞれ特徴を打ち出すべきだ。
なぜ、今回のモデルルームの提案を持ち出したかというと、造花の壁掛けが設置されていたのだが、どうして本物の観葉植物にしなかったかだ。同社はどこよりも早く壁面緑化提案(本郷、川口など)を行なっている。同社の本社の玄関や受付などには同社とグループ会社の石勝エクステリアが共同開発した素晴らしい壁面緑化のアートが掲げられている。前日(6日)の三井不動産レジデンシャルの「武蔵小杉」の各エレベータホールには「ミドリエ」が掛かっていた。ユーザーはこうした何でもないようなことに感動するのだ。
さらに言えば環境・ユニバーサルデザインの取り組みだ。記者は、同社こそがもっとも早く環境共生やユニバーサルデザインに取り組んできたデベロッパーだと思う。パッシブの取り組みでも他を圧していた。熊沢氏も言った。「当社にはそのDNAが受け継がれている」と。「世界初のエネファーム」より、こちらのほうがはるかに価値がある。ランドスケープデザインは石勝ではないのか。リリースには載っていないが、建物の設計は日建ハウジングシステムだ。
販売事務所に設けられたシェアガーデン(本物の草木は無理だろうが、もっと工夫できたはず)
三井不動産レジデンシャル 「パークシティ武蔵小杉」3棟目が完成
「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」
三井不動産レジデンシャルは3月6日、東急東横線・目黒線「武蔵小杉」駅前の商住一体開発のマンション「パークシティ武蔵小杉ザ グランドウイングタワー」(506戸)が竣工したのに伴い記者見学会を行なった。
このマンションの特徴は、第一に「武蔵野の森の再生」をテーマに、完成済みの2つのタワーマンションとデザインを統一。既存樹を残したり新たに植樹するなどして緑のネットワークを整備した。第二は、駅前の広場と商業施設の一体開発により、屋根付きの専用デッキで駅と直結したこと。商業施設には「ららテラス武蔵小杉」が近くオープンする。第三は、東日本大震災の教訓から、2013年度グッドデザイン賞を受賞した防災プログラムを盛り込んでいること。
見学会に臨んだ同社横浜支店副支店長・各務徹氏は、「3つの特徴のうち防災にはもっとも力を入れた。このエリアには5,000戸を超えるマンションが完成したが、人気エリアの象徴的な存在のマンション」と自負した。
マンションは506戸が販売開始の2012年4月から20133月までの1年間に完売。価格は3,300万円~1億280万円(専有面積39.77~112.46㎡)、坪単価291万円。
左から2008年竣工の「ステーションフォレストタワー」(643戸、単価238万円)、2009年竣工の「ミッドスカイタワー」(794戸、単価260万円)、2014年竣工の「ザ グランドウイングタワー」(506戸、単価291万円)
左は2層吹き抜けのエントランスホール(壁は堀木エリ子氏の手すき和紙アート)、右は5階スカイゲートブリッジ
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このマンションについては2度見学会が行われており、その都度記事にしているが、完成した物件を見学して改めてレベルの高いマンションであることを認識した。防災システムはとくに素晴らしかった。防災システムの構築に参画したNPO法人プラス・アーツ理事長・永田宏和が「画期的」と話したように、今後のタワーマンションのモデルになるのではないか。
非常時には72時間使用可能の非常用発電機を設置しているほか、1世帯当たり1,000リットルの水を確保。各フロアには防災備蓄倉庫や災害時非常水栓も設置している。トイレ対策としては約3日間、自宅のトイレで使用できる汚水槽を備えている。
記者が注目したのはトイレ対策だ。震災時にはトイレが使用できないのは深刻な問題になるのは新浦安で経験した。男性は庭先や空き地に用を足すこともできるが、若い女性などはなかなかできないそうで、寒くて暗い中、液状化でガタガタになっている道を10分以上も駅まで歩いたという話を何人にも聞いた。
このマンションには、水の要らない「ラップポン」が各フロアに設置されている。ボタンを押すと排泄物がビニール袋に完全に密封されるもので、そのままゴミとして捨てられ、匂いがしないという。値段は約10万円。管理組合に備蓄するのに最適だと思った。
このほか、光井純氏の計算し尽くされた3つの棟のデザイン・ティアラにはただたが感心した。光井氏は少なくとも10年前には現在のデザインが描かれていたのだろう。
われわれ記者(記者だけかもしれないが)は坪単価でしかマンションの価値を計れない習性が見に染み付いている。このようなタワーマンションや大規模マンションの価値は、また別の評価方法を考えないといけない。共用施設や環境・省エネ・防災システム、コミュニティづくりなどを定量的に計算できないものだろうか。記者は分譲開始時に「ホテルなら5つ星」と見出しをつけたが、これは間違っていなかった。
屋上スカイデッキ(左)と各階 床下防災倉庫
水の要らない簡易トイレ「ラップポン」
各エレベータホールの壁に設置されている壁面緑化 サントリー「ミドリエ」(ここまでやるのはおそらく業界初)
田園都市線の最高峰マンション誕生 野村不動産「プラウド美しが丘」
「プラウド美しが丘」完成予想図
野村不動産が3月下旬に分譲する「プラウド美しが丘」を見学した。価格は現段階で未公表だが、バブル崩壊後の田園都市線沿線のマンションで最高単価になる模様だ。デザイン性に優れたマンションだ。
物件は、田園都市線たまプラーザ駅から徒歩8分、横浜市青葉区美しが丘2丁目の第一種中高層住居専用地域に位置する5階建て全69戸の規模。専有面積は75.01~101.66㎡、価格は未定だが坪単価は300万円を突破する模様。竣工予定は平成27年1月下旬。施工は東急建設。
現地は、緩やかな坂を上った高台で、周辺は中層マンションが建ち並ぶ閑静な住宅街の一角。敷地は中日本高速道路の社宅跡地。デザイン監修はプランテック総合計画事務所。
建物外観、専有部のデザインに力を入れているのが特徴。建物は3方道路の敷地を生かし、リングシャッターゲート付き地下駐車場を設置。外観正面にはプロフィリットガラスのルーバーを配置。共用廊下側には木調のルーバーを配し、外壁は細かいレイヤーを重ねることで重厚で繊細な表情に仕上げている。
専有部では、同社の「ラクモア」をフル装備。玄関・廊下は折上げ天井とし、天井部分に竹をイメージしたデザインとしている。システムキッチン、洗面所のカウンタートップは天然御影石。三面鏡はスライドできるものを採用。
企画・販売を担当する同社平野拓也氏は、「容積が150%、高さ規制が15mという厳しいエリアですが、専有面積は平均で80㎡確保したように、プランはめちゃくちゃいいものにしました。単価はまだ公表できませんが、300万円を突破する予定で、手ごたえも十分」と語った。
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平野氏が自信満々に語ったように、「美しが丘」の住所に恥じない美しいマンションだ。この20年間の田園都市線沿線で供給されたマンションの最高峰になるのは間違いない。それだけの中身のあるマンションだ。「プラウド」の真骨頂を見た。
芸が細かい。例えば共用廊下側のルーバー。等間隔にルーバーを配するのではなく、外からの目線を遮る部分は間隔を狭め、そうでない足元や上部は広めている。
玄関・廊下の折上げ天井もそうだ。玄関・ホールを折上げ天井としているものはたくさんあるが、リビングドアまで長さにして7mくらいもあった。デザイン処理も施されていた。竹をイメージした文様のクロスを採用し、ダウンライトも設けることで、廊下の床に映りこむ仕掛けも施している。このようなものは初めて見た。
モデルルームもいい。モデルルームはただ〝魅せる〟だけのものが多いが、ここでは書斎といい、姿見付きのドレッシングスペースといいそのまま採用できるものが提案されていた。
玄関・廊下の折上げ天井(左)とドレッシングスペース提案
三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」完成
「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」
三菱地所レジデンスは3月3日、中央区晴海の大規模タワーマンション「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」が竣工したのに伴い竣工見学会を報道陣向けに行なった。全883戸のうちモデルルームとして使用していた3戸を除く880戸が完売しており、これからは隣接する「ザ・パークハウス晴海タワーズ ティアロレジデンス」(861戸)を本格的に分譲する。
物件概要などについてはこれまで何回も書いてきたのでそちらを参照していただきたいが、予想していた通りレベルの高いマンションだ。
記者がもっとも注目していた世界的な建築家リチャード・マイヤー氏による外構は、まだ完成したばかりだったので完成形にはほど遠かったが、エントランス部分の池などはさすがだ。
プロの料理人の総合監修によるキッチン&パーティースタジオやキッズルーム、フィットネスルーム& ゴルフレンジ、ゲストルームなどの共用部分も充実している。約50㎡のゲストルーム(スイート)は1泊3,500円だが、「宿泊料」として徴収すると旅館業法に抵触するので、リネン料金として徴収するのだという(これまで取材してきたマンションはすべて宿泊料ではなかったか)。防災備蓄倉庫は50㎡くらいある広さで、自転車、リヤカーなども備えられていた。各フロアに防災倉庫も併設されている。
モデルルーム住戸は南向き74㎡で6,688万円(坪単価299万円)。最上階の特別仕様の81㎡が7,998万円(坪単価326万円)。全体の平均坪単価は275万円。
「ティアロレジデンス」は120戸が成約済み。今後分譲する価格については明らかにされなかった。
マンションエントランス部分の外構(左)と隣接する建設中のマンション(その奥が豊洲)
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このマンションが分譲される前、記者は坪単価は300万円をはるかに突破すると見ていたが、2016年のオリンピック招致に失敗、物件のナビゲーターに起用されたプロゴルファー石川遼選手がその直後から勝てなくなり、そして東日本大震災に見舞われたことなどが重なり、単価は結局275万円に落ち着いた。
2020年のオリンピック誘致が決まったことで人気を取り戻すのは必至だが、いったいいくらになるか。同じ晴海地区の大規模ツインタワーマンション住友不動産「ドゥ・トゥールキャナル&スパ」も現段階では価格は公表されていない。
エントランスホール
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三菱地所レジデンスのマンションの隣接地では三井不動産レジデンシャルが大規模マンションを予定しているが、こちらは詳細が決まっていない。対岸の「ららぽーと豊洲」まで直線で500mくらいだそうで、関係者からは「三井さんは橋を造るのではないか」という冗談が飛び交った。
橋はともかく、往復する船の運航はあり得ない話ではないと思う。住民はもちろん、都もそれこそ「渡りに船」ではないか。実現したらマンションの単価を大幅に引き上げる要因になる。
防災備蓄倉庫
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