マンションコミュニティを否定するのか 国交省マンション管理検討会
平成24年1月から27年2月まで途中2年半の中断を挟み合計11回の会合を経て国交省「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長:福井秀夫・政策研究大学院大学教授)が終了した。最終とりまとめとして近く発表される。標準管理規約に盛り込まれている「コミュニティ条項」が削除されるのは確実で、その是非をめぐって内外野から議論が巻き起こりそうだ。
この「検討会」について記者は、都合3度だけ傍聴できなかったが、ずっと取材してきた。初回の会合でいきなりビンボールまがいの発言が飛び出し、第三者管理方式、コミュニティ活動、議決権の要件などについて激論が交わされた。意見がまとまらず、第9回以降2年半も会合が開かれなかったので、空中分解、雲散霧消したものとばかり考えていた。しかし、この空白期間に何かがあったのか、最終的には現場サイドの声は全く反映されず、「コミュニティ条項」を削除するという方向が打ち出された。
いま、「コミュニティ」はマンション業界の大きなテーマの一つだ。デベロッパーも管理会社も管理組合も自治体などと連携してこの取り組みを強化している。どうしてこのような時代に逆行する、流れを遮断しようという動きになったのか。振り返ってみた。
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検討会は、機能不全に陥った管理組合をどう救済するかがメインテーマと思われたが、第1回会合から各委員と現場サイドの専門委員・オブサーバーとの間で意見の相違が表面化した。
中でも激しいやり取りが交されたのはコミュニティ形成についてだった。区分所有法にはコミュニティや自治について規定はまったくなく、国交省が作成したマンション標準管理規約の「コミュニティ条項」だけが管理組合の自治・コミュニティ活動に対してお墨付きを与えていた。これが問題視された。
問題を整理しよう。管理組合と自治会の関係については、前者は区分所有法による明確な法的根拠があり、目的、構成員、禁止事項なども定められている。同法は、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」(第3条)「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」(第6条)と規定している。
一方、地方自治法では「(地縁による団体)は、その規約の定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」(第260条の2第1項)とあり、目的は「地域住民の親睦、福祉、防犯、文化等にかかわる諸活動を行う」と自治会などを規定し、構成員は「区域に住所を有する者で加入を希望する者」となっている。
このように両者は明らかに異なる団体だ。双方に関する裁判例でも、「町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項」であり、「この町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はない」(平成19年8月7日、東京簡易裁判所判決)と、代理徴収は無効とされている。
今回の「検討会」でもこの問題が蒸し返された。当然と言えば当然だ。記者も現行の「コミュニティ条項」は法的な担保力が希薄で、やや無理があると思う。しかし、財産管理の組合活動とコミュニティ活動は車の両輪だ。どちらかが機能しなければ、マンションは極めて住みづらい〝ハコ〟に成り下がる。コミュニティはマンションの財産・生命・文化を守り発展させるエンジンでもある。
記者は、堂々巡りの白熱した論議を聞きながら、最終的には両論併記で丸く収められるのではないかと思ったが、そうではなかった。福井座長は第9回目の会合で次のように述べている。
「町内会費の徴集は無効だとまで言われているわけですから、仮に違法な活動に管理費を使っていた場合に、法的紛争が起きて同様の判断が裁判所で相次ぐことにでもなったら、標準管理規約以前のみっともない事態に陥る。そういう意味での安全運転をするという前提で議論いただきたいと思います」
「安全運転をする」-この言葉に福井氏の強い意志が込められている。これを聞き逃したのはミスだった。具体的にはどのようなやり取りがあったか。少し長くなるが、議事録から引用する。
自らマンション居住者だという村辻義信委員(弁護士)は、財産管理団体としての管理組合の本質的な目的を理解していない人が多いとし、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成、これに管理費を充当するんだという、この条項が明記されたことによって、さらに混迷を深めているという状況にある」と、福井座長の考えに概ね賛成であると述べた。
コミュニティ条項を削除すべきという意見の急先鋒、安藤至大委員(日大大学院総合科学研究科准教授)は、「私は村辻委員のご意見よりもさらに厳格にとらえるべきだと考えております。先ほど、防災の取り組みにバーベキューを組み合わせるという話ですが、これに全員が喜んで参加しているのかということが知りたいですし、また全員が喜んで参加するようなイベントであれば、参加費を本人たちから徴集すれば良いと思います。仮に、防災訓練には参加したいがバーベキューには興味がない人、かつ区分所有者の方からしたら、自分たちのお金が目的外に使われている状況なわけですから、これは明確にすべきです。勝手に流用されては困るという考え方もあるのです。
また、防災がそれほどまでに大事なのであれば、防災訓練の参加を現時点で、ちゃんと強制して行っているのかについても気になります。全員参加しているのでしょうか。それをせずに、参加できる、そして参加したい人だけで防災訓練を行い、気の合った人たちだけでバーベキューをやるというようなことにもし管理組合のお金を使っているのであれば、それこそまさに目的外使用であり、この最高裁の判例とかの考え方からすれば、もう完全に逸脱していると考えております」と、バーベキューなどの飲食に管理費を充当するのは目的外使用と主張した。
これらの意見に対して、村裕太専門委員(三井不動産レジデンシャル開発事業本部都市開発二部部長)は、「コミュニティの形成が良好なマンションというものが、よく清掃が行き届いていたりとか、設備の保守、維持がちゃんとできていたりと同等になるぐらい、やっぱり資産価値を高める、もしくは維持するのに必要なソフトだという認識がご購入者の方に強いからだというふうに私ども分譲主としては思っておりまして、逆に、売り主としてはコミュニティの形成に必要ないろいろなイベントなどを企画したりサポートしたりというようなことをむしろ積極的にお勧めしたり、お手伝いをしたりというようなことをやっております」と反論した。
すかさず、安藤氏は、「今、村専門委員がおっしゃったことが仮に正しいのであれば、別に管理組合がお金を出さなくても、住人全員が自分たちで進んで町内会に参加し、町内会の経費でそのような取り組みをするはずですので、まさに管理組合と町内会とを混同する必要がないということを、ご説明されたのではないでしょうか」と再反論した。
こうしたやり取りが続き、結局、議論は平行線のまま散会となった。
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さて、皆さんはこのやり取りと結論をどう理解されるか。ひと言で言えば、コミュニティ削除派が法律を楯に存続派を押し切った形だろう。
いずれにしろ、今回の決定は、これまで国交省が示していた標準管理規約(コメント)の「コミュニティ形成は、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するものであり、マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合にとって、必要な業務である。管理費からの支出が認められるのは、管理組合が居住者間のコミュニティ形成のために実施する催事の開催費用等居住者間のコミュニティ形成や、管理組合役員が地域の町内会に出席する際に支出する経費等の地域コミュニティにも配慮した管理組合活動である」とする見解から180度の転換だ。
しかし、その一方で、検討会は専門委員やオブザーバーの主張を考慮したのか、自治会活動は合意形成や地域の防犯面、資産価値向上につながる効果は否定できないとし、「政策論からコミュニティ活動は展開すべき」という意味がいまひとつ分からない悩ましい文言が盛り込まれた。
この相反する結論を600万人の区分所有者はどう受け取るのだろうか。一方で否定され、他方で奨励されれば、また裂き状態に陥るのではないか。
そもそも、どうしてこんなに議論が紛糾するのかという根本問題について考えないといけない。記者は区分所有法に問題があると思っている。多くの法律には「国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)のように第1条に目的規定がある。ところが、区分所有法の第1条(建物の区分所有)は「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所…は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる」としか規定されていない。この種の規定は趣旨規定というのだそうだが、やはり哲学がない。 ここに根本原因があるのではないか。
一つだけ、聞き捨てならないことがあるので言わせていただく。安藤氏が防災活動とバーベキュー活動を攻撃したことについてだ。ここまで言われると、もう完全な自主的な住民の自治活動、コミュニティ活動に対する敵視だ。悪意すら感じられる。
失礼ながら安藤氏の発言・言葉には険がある。どこか人を小ばかにするもの言いで、喧嘩を売るメディアのディベート番組を観るようで気分が悪くなる。
どこの管理組合も予算の半分以上は恒常的な建物の維持管理費に消える。少ない予算をやりくりしイベントなどの費用を捻出しているのが実情だ。役員はほとんどボランティアだ。企業の交際費や政治家の政務活動費とは訳が違う。コミュニティ活動が違法な活動であるかのように言われるのには腹が立つ。
話は横道にそれるが、安藤氏は第三者管理に御執心のようだが、富裕層向けや投資用マンションはいざ知らず、一般的なマンションや機能不全に陥ったマンションの管理組合は専門家などに支払う報酬をどう捻出するのだろうか。飲食費をそのままフィーに充てても足りないのではないか。
書きだすととまらなくなる。記者の悪い癖だ。もう最後だ。つたない記事に付きあっていただきたい。
記者も町内会が戦前、住民同士が監視し合い、大政翼賛の一翼を担わされていたことを学んだ。今でも行政の下請け的なことをやっているのかもしれない。自治会が毛嫌いされるのはそんな理由からだろう。
しかし、冠婚葬祭に代表されるようにわが国の伝統的な文化を継承し、地域ぐるみで様々な問題を主体的に解決し、行政などに街づくりを提案するなど、自治(町内会)活動は、地域社会の活性化に大きな役割を果している。今後もその役割は増大するはずだ。緊急時には公助は当てにできず、自助・共助こそが生死の鍵となることを3.11でわれわれは学んだのではなかったか。
「自治(self-governance)」とは「自分たちが決めたことは自分たちで守る」という意味ではないのか。安藤氏の主張は、マンション居住者の自治権を奪い、その権限を一部の専門家や富裕層に集中させようという企みではないかと勘繰りたくなる。細かく規制をかけるより、管理組合の創意工夫に任せたほうがマンションの価値はあがる。コミュニティがマンションの価値を計る指標の一つになる時代は必ずやって来る。
「福井先生を連れてきたかった。残念」 管理協理事長、「検討会」を批判(2015?3/13)
三井ホーム 国内初の2×4工法による大規模木造5階建て受注
国土交通省の「平成26年度木造建築技術先導事業」に採択された国内初となる木造(ツーバイフォー工法)による耐火5階建て特別養護老人ホーム「(仮称)第二足立新生苑」の工事を三井ホームが請負うことが決まった。落札価格は約27億4,889万円。応札したのは、辞退者があったため同社のみだった。
建設地は足立区花畑4丁目。敷地面積は約4,551㎡、建物は5階建て延べ床面積約9,016㎡。1階が鉄筋コンクリート、2~5階が木造ツーバイフォー工法。27年度末に竣工する予定。
これまで規模の小さい混構造の木造5階建ての事例はあるが、これほど大きな規模の木造5階建ては国内初となる。
わが国初の木造5階建て特養 国交省が先導モデルとして決定(2014/8/25)
東京建物「Brillia Towers目黒」の坪600万円が意味するもの
東京建物の「Brillia Towers目黒」がヴェールを脱いだ。記者の坪単価予想550万円はものの見事に外れ、600万円になることが分かった。高いか安いか、これは最終的には市場(ユーザー)が決めることだ。
しかし、「目黒」で坪600万円の値が付いたことで、今後の都心のマンションは高値を続々更新してくるのは間違いない。先に住友不動産が竣工見学会を行った「高田馬場」も「池袋」も坪400万円だ。分譲時には「安くない」と思ったが、今となったらこれは安いか。立地、その他総合的な評価ではもちろん「目黒」だが、坪200万円も差があるのか。
さらに、駅力からいったら山手線29駅で「目黒」を上回るのは、東京を筆頭に、品川、新宿、原宿、渋谷、恵比寿、有楽町などがあり、比較感から他の駅も軒並み400万円以上になる。山手線内の高級住宅街は最低でも700万円、800万円以上つけないとバランスが取れない。
他のデベロッパーはこれ、つまり他社物件が高値をつけるのを待っていたのだ。今回の「目黒」がメルクマールとなって、数字が独り歩きし、さらにヒートアップするのではないか。
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もうずいぶん昔のことなので記憶はさだかではないが、「目黒」を見学しながら、バブル発生当時の狂乱人気を思い出した。昭和61年のころだ。東洋製糖の子会社ヨートー開発(平成11年12月に解散)が「ヴェラハイツ目黒ガーデン」(79戸)を分譲開始した。記者は売れ行きを確認するために同社に聞いたら、何とほとんどを一般のユーザーではなくて不動産会社が買い占めたというのだ。販売する前に〝即日完売〟したのだ。
その後、割安感のあるマンションには数日前から現地に申し込み希望者が並び、ホームレスを雇って抽選券を手に入れる人も現れた。デベロッパーは対抗策として、申し込み時に印鑑証明を提出することを求めた。
住宅金融公庫融資付きなどの新築は、抽選分譲しなければならないという縛りがあったため、不動産業者は投資用マンションや中古をターゲットにした。買い取り専門業者は月に数百億円の仕入れを行っていた。戸数にして数百戸だ。転売するごとに価格は跳ね上がり、1回転すると価格は倍になっていたというのはざらだった。
億ションの代名詞「広尾ガーデンヒルズ」は、昭和60年ころの坪550万円くらいだったのが、バブルがはじける平成2年には坪3,000万円を突破した。マンションは株と同じ投機の対象となった。
新築は国土法の規制がありなかなか高値追求はできなかったが、当時、億ションをたくさん手掛けていたドムスは、あとで当局から摘発されることとなったのだが、1戸44億円の億ションを麻布で分譲した。これは今でもマンションの最高価格記録になっているはずだ。
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とりとめのないことを書いてきたが、「バブル」とはいったい何だったのか簡単に振り返ってみたい。
バブルの発生については諸説があり、ミルトン・フリードマンは「日本の『バブル経済』は1987年のルーブル合意がもたらしたものである」と指摘し、野口悠紀雄は1987年11月に「バブルで膨らんだ地価」という論文で「私の知る限り、この時期の地価高騰を『バブル』という言葉で規定したのは、これが最初である」と語っている。
しかし、記者はもっと早い段階で「バブル」は発生していたと思う。「バブル」という言葉は言いえて妙で当時〝なるほど〟と感心したものだが、われわれ業界人は「狂乱地価」という言葉で不動産市場を表現した。
その狂乱地価、バブル経済が顕在化したのは昭和60~61年だ。昭和60年の天皇在位60年記念硬貨と61年秋に分譲された民活マンション第一号の「西戸山タワーホウムズ」、そして62年2月に売り出されたNTT株を称して「3大財テク商品」としてマスコミは報じた。
「西戸山タワーホウムズ」は、モデルルームオープンが真夏でパンフレットも有料だったが、連日、隣の西戸山公園を見学希望者がとぐろを巻いた。来場者、申込者もケタ違いだった。最近のマンションの来場者数は数千人もあれば話題を呼ぶが、「西戸山」は約6万人が押し寄せた。購入希望者は、北は北海道から南は鹿児島までに及び、分譲戸数576戸に対して購入申し込み倍率は実に44.2倍に達した。
NTT株は売り出し初日には値が付かず、売り出し価格1,197,000円に対して初値が付いたのは翌日で1,600,000円だった。1日で約40万円の値上がりだった。まさに濡れ手に泡の狂乱ぶりだった。
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先に書いたヨートー開発のマンションは、「西戸山」や「NTT株」の時期と重なるはずだし、もう一つ、今回の「目黒」が呼び水となって市場を過熱させる機能を果たすのではないかと予測する〝根拠〟がある。
根拠と言っても理論的に証明できないのだが、どういうわけかマンション市場の好不調のターニングポイントが春とか夏休み明けとかに集中しているのだ。
古い話だが、〝不況期の大量供給〟と言われた昭和57年の夏休み明けの9月初めの日曜日、首都圏を台風が襲った。記者はマンションの抽選会を取材するため家を出た。1、2分も経たないうちに、濡れ鼠になり取材を断念した。多くのマンション販売現場が水浸しになり、販売を中止するところが続出した。その後、不況に突入していった。
バブルの発生は五月雨式にやってきたが、決定的な後押しになったのは3月末の春休みに発表される地価公示だった。地価上昇が報じられ〝買い安心〟を誘った。
バブル崩壊も平成2年の夏休み明けの9月上旬だった。株価が暴落し、ほとんどすべての株は売り気配で値が付かなかった。バブル崩壊の予兆とも言うべき1987年10月19日ブラックマンデーも文字通り休み明けだった。
バブル崩壊の痛手からようやく回復しかけた市場に冷水を浴びせかけたのも2007(平成19)年夏のサブプライムローン問題だった。その翌年9月、リーマン・ショックが全世界を襲った。どちらも夏休み中とその直後だった。
そして今日は春爛漫の春休みではないか。これまでのマンション市場と異なるのは、主役が若干異なることだ。かつてのバブルの主役は金融機関と不動産業者だった。
今回は、主役とまではいかないまでも先導役を果たすのはアジアの投資マネーだ。いま、都心マンションの契約者の3割、4割がアジア系企業(個人)というマンションも少なくないはずだ。バブル期もそうだったように、都心部のいわゆるビンテージマンションと呼ばれる中古がターゲットになる。
いったいいくらのお金が不動産投資用に注がれているのか記者はよく分からないが、1兆円くらいではないかと思っていた。
この予想を日経新聞が裏付けてくれた。3月26日付のコラム記事「反転うかがう地価」は、「都市未来総合研究所によると、14年の国内の不動産取引額は約5兆600億円と前年比16%伸びた。とりわけ外資系ファンドなど海外企業の投資は1兆円弱と前年の2.7倍だ」と書いている。
バブルで痛い目に遭い、リーマン・ショックで打ちのめされ、さらに3.11で追い打ちをかけられた記者は、もう2度とつらい目には遭いたくないと思っているのだが、少なくとも2020年の東京オリンピックまでは市場を冷やす材料は見つからない。「国土強靭化」に突き進むのだろうか。普通のサラリーマンはその心構えも基礎体力も回復していないと思うのだが…。
資料請求18,000件 今年前半の目玉マンション 東建「目黒」は坪600万円
「Brillia Towers 目黒」完成予想図
目標の3倍、18,000件の資料請求がある今年上期の最大の注目マンション、東京建物他「Brillia Towers 目黒」の坪単価は600万円-同社は4月2日、4月4日のモデルルームオープンに先駆け報道陣向けの内覧会を行った。記者が予想した坪単価550万円は大幅に外れ、63㎡で1億1,500万円(坪単価602万円)になることが同社から明らかにされた。分譲開始は6月上旬。
物件は、JR山手線・東京メトロ南北線・都営三田線・東急目黒線目黒駅から徒歩1分、品川区上大崎三丁目に位置する40階建てノースレジデンス524戸(分譲320戸)38階建てサウスレジデンス416戸(分譲341戸)の2棟で合計940戸(分譲661戸)。容積率はノースレジデンスが896.51%、サウスレジデンスが550.00%。
専有面積は30.05~150.11㎡、間取りはSTUDIO~3LDK(うち約3割がSTUDIO・1LDK)、価格は5,000万円台~4億円台、坪単価は約600万円。竣工予定は平成29年12月上旬。設計・施工・監理は大成建設・竹中工務店設計共同企業体。売主は同社のほか首都圏不燃建築公社。販売代理は東京建物不動産販売。
森の広場
100㎡モデルルーム
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この物件についてはこれまで2度記事にしているのでそちらを参照していただきたい。
物件の最大の特徴は、内覧会の冒頭で同社執行役員住宅プロジェクト開発部長・田代雅実氏や同部グループリーダー・櫻井晋氏が強調したように、目黒駅から1分の4線が利用できる交通アクセス・利便性のよいこと、総開発面積約2.3haに900本の樹木を植え、約5,300㎡を緑化するなど「駅前に緑を創る」こと、タワーマンションならではの共用施設を整備し、一部自己日影はあるものの東・南側には遮るものがない眺望に恵まれているということに尽きる。
同社が当初目標としていた資料請求件数6,000件の3倍に当たる18,000件を突破したのも、これらの特徴が浸透したものと思われる。資料請求者の年齢は30歳代後半から40代が約5割、50歳代も4割弱。職業は会社経営者、会社役員、医師などが約3割。居住地は品川、目黒区、港区で約3割。
田代氏
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さて、単価予想を外したことについて。記事にも書いたが、ある業界紙の方と「550万円か600万円か」で飲み代の賭けをした。記者の完敗だ。言い訳はしない。30数年間、年間にして100~200件くらいマンションを見学してきたが、坪単価で50万円も予想を外したのはあまり記憶にない。2014年8月の時点でも書いたが、「品川区上大崎」で坪600万円は考えられなかった。富裕層は港区や渋谷の高級住宅街を選択すると考えたし、30㎡台や40㎡台もかなりある商品構成からして億ションのイメージは描きづらかった。
言い訳めくが、資料請求が同社の目標の3倍に達したことでも分かるように、同社も読みを誤ったのではないか。
63㎡で億ションとは複雑な思いだが、この単価にユーザーがどのような反応を示すか注目したい。〝ひょっとしたら手が届くかも〟と考えた人はあきらめることになるのではないか。ただ、一言。これほど緑に恵まれた都心のタワーマンションは今後出るのか出ないのか。記者は出ないほうに賭ける。街もマンションも緑環境が価値を左右する。
設備仕様について。100㎡超は33戸で、天井高が2.8m、建具・家具が突板仕様のプレミアム住戸は44戸しかないことからも分かるように、他の標準的なプランの仕様は億ション仕様ではない。
いずれにしろ、この物件が今後のマンション市場のメルクマール、指標になるのは間違いない。一番喜んでいるのはユーザーではなく、同業のデベロッパーではないか。
賭けに完敗したのは悔しいが、高値挑戦した東建に乾杯!
サウスレジデンス
高さ4mの模型。背後のサントリーパフカル(4m×4mが素晴らしい)
ゲストサロン外観(本物の石積みに水盤を設けるなどこれは立派)
花見の価値9,000円!男女、同年代で極端な差 アットホーム
花見ができる賃貸物件の価値は月9,000円!-いえ・まち・くらしの情報サイト「at home VOX(アットホームボックス)」が全国の20~50代男女500名を対象に「お花見の価値」について調査を実施したところ、花見ができる賃貸物件の価値は月額平均8,928円で、30代男性と50代女性は1万円を超えたという。
このアンケート結果に驚いた。もちろん記者もサクラ、とくに夜桜が好きだが、月額約9,000円だから年額にしたら約11万円だ。11万円も出したら、どれだけ多く酒が飲めるだろう。いくらなんでもこれは高すぎるのではないか。よほど年収の高い賃貸居住者を対象にしているのではないか。
ただ、同社がかつて行ったアンケートで東京タワーの夜景は月額平均9,223円、東京スカイツリーの夜景は月額平均9,042円だったそうで、それらと同等というのは納得だ。桜はせいぜい1週間しか眺められないのに対して、東京タワーもスカイツリーも四六時中眺められるから、その価値の開きは大きい。記者はスカイツリーの価値などほとんど認めない。
それにしても男性と女性、同じ年代の男性と女性では価値評価が大きく異なるのにもびっくりした。
例えばもっとも価値を低くみた30代の女性は7,263円であるのに対し、同じ世代の男性は10,168円だ。30代の女性に次いで低い8,153円の評価をした50代男性に対して、同じ世代の女性は10,409円とこれまた両極端。歳とともに価値観が異なってくるのは分からないではないが、同じ世代間でこんなに断絶があるとは信じられない。夫婦だったらどうなるのだろう。
記者が思うに、30代の女性は子育てに忙しくてサクラどころでなく、同じ30代の男性は構ってくれない奥さんの代わりにサクラを愛でることで自分を慰め、先が見え始めた50代の男性は寂々と散るサクラにわが身を重ねるのが辛く、反対に猩猩たる赤ら顔の夫を見限り、ひらひらと舞うサクラとわが身を重ね合わせている世の奥さん方が浮かび上がってくる。男と女は難しい。同床異夢…。
「at home VOX(アットホームボックス)」は面白い。
住宅・不動産業界トップの入社式での訓示
住宅・不動産業界の入社式の訓示を記者に届いた順に紹介する。
まず、大和ハウス・大野直竹社長。大野氏は、「お客さまとの信頼関係を構築し、皆さん自身が信用される『人財』になることが不可欠」とし、「目先の結果に一喜一憂せずに地道に努力を続け、『人間力』を磨いてください。1年では大きな差は付きませんが、5年経過すると努力の蓄積が如実に表れてきます」と呼びかけた。
「また、皆さんは『当社グループが大企業である』と思い入社されたとしたら、それは大きな勘違いです。当社は仕事の大小に限らず、常にお客さまの気持ちを考えて行動し、その積み上げによって成長してきた会社です。皆さんは『中小企業たれ』という言葉のもと、上司・先輩に指導・協力を仰ぎ、『行動第一主義』で自らを鍛えてください」と慢心を戒めた。
次に、三井不動産・菰田正信社長。菰田社長は、新入社員に心掛けてほしいこととして五点をあげた。最初は、「『自立した個人』になること。『自立した個人』として『会社のビジョン』に『自らの志』を重ね合わせ『自己実現』を果たしてください」と呼びかけ、二つ目は「幅広い視野を持つ」こと、三つ目は「チャレンジスピリット」、四つ目は「健全な心身を保つ」こと、そして五つ目は「社会人としてのコモンセンスを持つ」こととした。
「世の中の不祥事のほとんどは、常識の欠如に起因するものです。『コモンセンス』がしっかりしていれば、ごく自然にコンプライアンスの態勢がとれるはずです」と結んだ。
三井ホーム・市川俊英社長は、「三井ホームは若い社員とほとばしるエネルギー、そしてチャレンジ精神に満ち溢れています。今後さらに皆さんと一緒に努力し、三井ホームブランドを『未来へそして世界へ』輝かせていきましょう」とエールを送った。
野村不動産ホールディングス・中井加明三社長は、「当社グループは、まだまだ成熟していない、これから新たな展開を切り開き更なる成長に向け、動き始めた企業グループ」としたうえ、顧客志向、チャレンジ精神、有機的に連携する総合力を養うことを訴えた。
また、ダイバーシティプロジェクトを推進し、生き生きと働いてワクワクした企業グループをみんなで創り上げよう」と呼びかけた。
三菱地所・杉山博孝社長は、三井・菰田社長を意識したわけではないだろうが、仕事に取り組む姿勢として四点をあげた。
①インテグリティ・コンプライアンス②チャレンジ志向・イノベーティブ③グローバル④アズワンチーム-で、「当社は日本で初めてオフィス街を創った」「当社のグローバル事業は経営の大きな柱である。海外に進出するグローバルだけではなく、日本に海外から人を呼び込むグローバルも重要であり、様々な取り組みを行っている。どんな仕事の中でもグローバルに通じる部分がある」と話した。
不動産流通業トップの三井不動産リアルティ・山代裕彦社長は、「働きながら能力、経験、人格を磨き、自らの力を高めていってほしい」「当社の目指す会社の形は自由闊達、自由闊達は三井の社風」と強調し、「私が勝手に考えたことですが、何事をするにも『必死』になれば、『必至』は実現する。この気概を持って社会生活を送ってください」と「必死」と「必至」の将棋からくる言葉を新入社員に贈った。
宅建士スタート 率直に喜べない 顧客満足度の低さ 業界紙特集から
今週の業界紙「住宅新報」と「週刊住宅」は、4月1日付で「宅地建物取引主任者」が「宅地建物取引士」(宅建士)に呼称が変わったことを受けて特集記事を組んでいる。レイアウトは異なるが、紙面内容はほとんど同じだ。同じ業界紙の「日刊不動産経済通信」と専門紙3紙が共同で企画したそうで、広告ではなく記事として3紙が共同戦線を張るのは初めてではないか。
また、不動産協会、不動産流通経営協会、全国住宅産業協会、全日本不動産協会、全国宅地建物取引業協会連合会の業界5団体の長が一堂に会して座談会を行うのも初めてではないかと思う。国交省土地・建設産業局の毛利信二局長も参加しており、司会役は同省OBの中川雅之・日大教授だ。
晴れの日にケチなどつける気は毛頭ない。毛利氏が述べたように、宅建士が「名称変更にとどまらず、宅地建物取引士にふさわしい公正・誠実な業務遂行や信用失墜の禁止、宅地建物取引業者の従業員教育など…業界全体の一層の信頼性向上に向けた取り組みがさらに強化され、取引のプロである宅地建物取引士が不動産流通市場の活性化に向け、大きな役割を果たしてくれることを期待している」。
しかし、主任者から宅建士への〝昇格〟の経緯、これまでの宅建試験制度を考えると、記者は手放しで喜ぶわけにはいかない。昇格はずいぶん前から一部の業界団体が主張してきたことで、中身についてはそれほど論議されてこなかった。
大学入試ではない。不動産のプロを育成するためなら、試験制度は一定レベル以上の受験者は全て合格にすべきだし、少し足りない人は再チャレンジの機会を与えていいではないか。これまでそのようなことは全く考慮されてこなかった。一定の合格者を確保・抑制することが優先されてきたのではないか。合否の権限は全て実施機関に握られ、受験者はその都度、安全弁のような扱いを受けてきた。
そのいい例が、大量42万人が受験したバブルの絶頂期の平成2年だ。合格者は近年では最多の約4.4万人に上ったのだが、一方で合格率は過去最低の12.9%にとどまり、合格点も過去最低の26点に抑えられた。試験問題は50問で4肢択一だ。約半分の正答率で合格とは何事だと、当時批判も浴びた。
その後、合格者はほぼ3万人前後で推移しており、ここ数年は受験者のレベルが上がったのか下がったのか合格点は35~36点の年が多い。宅建士になっても難易度は変わらないようだが、受験者が安全弁のように扱われることのないようにしていただきたい。
もう一つお願いしたいのは、「宅地建物取引士の名に恥じないよう、魂を入れることが必要」と竹井英久・不動産流通経営協会理事長が強調したように、消費者から信頼される宅建士の育成に力を入れることだ。
業法の改正を先取りする形で全宅連は「不動産キャリアパーソン」制度を一昨年に立ち上げたという。記者は中身を知らないが、専門知識はもちろん社会常識・品性の教育も必要だと感じている。
これに関連することだが、同じ号で住宅新報は不動産業者と取引したことがある消費者500人に対してアンケート調査した結果を報じている。「信頼度」の平均値は65.3%だったという。つまり約3分の2だ。これはいかにも少ない。先日、プレハブ建築協会の会合で発表されたハウスメーカーの顧客満足度は70.6%だった。他の業種でもほとんどが70%を超えているはずだ。
物件そのものの質ではなく、「基本的マナーの不足」「専門知識の不足」など基本的な項目でも問題を指摘されている。これをどう受け止めるのか。
そうした現状にタイムリーというべきか、この4月から呼称が変わる不動産流通近代化センターは見開き広告を業界紙2紙に出しており、不動産流通の新指標として、宅建士の個人の実務レベルを判定できる「不動産流通実務検定」を開始するという。
これも結構なことだが、ずっと前から呼称を変更すべきと主張してきた記者にとっては、前述した住宅新報のアンケート結果をみると、複雑な思いもする。やはり不動産業は前近代的なところが残っており、それが信頼につながってこない要因ではないかということだ。
ここにいたって「近代化」を残せとは言わないが、新しい呼称は「リノベ」「再生」「活性化」「人材」「グローバル」などの手あかにまみれた陳腐化したものではなくて、そしてまたいかにもお役所的な「センター」も取っ払って、不動産流通の「未来」が描けるようなものにしていただきたい。
なぜ京都の高齢者は美しいか 3住研究会で野間光輪子氏が語る
「変わる家族と住まい」シンポジウム(すまい・ホールで)
住宅金融支援機構・JAHBnet・アキュラホームが後援している「住みごこち・住みごたえ・住みこなし推進研究会」(略称:3住研究会、委員長:高田光雄・京大大学院教授)は3月30日、「変わる家族と住まい」をテーマに第1回シンポジウムを行った。200人以上が参加した。
3住研究会とは、住まい手が一方的に受けるサービス価値である「住みごこち」と、住まい手と住まいが双方向に働きかけることで得られる非手段的価値「住みごたえ」を継続的に作り出す住まい方「住みこなし」と呼ぶことから名づけられた。
シンポジウムでは、高田氏が「変わる家族と住まい」について解説し、大久保恭子委員(風代表取締役)、園田眞理子委員(名大教授)、野間光輪子委員(日本暮らし代表取締役)がそれぞれ講演。
大久保氏は、増加する単身世帯の増加で「これからのひとり住まい」はどうなるかを話し、園田氏は多摩地区の郊外戸建て団地を例示しながら「カタツムリ型からヤドカリ型への転換」を訴えた。野間氏は、なぜ京都の高齢者は美しいかについて京都弁で話した。
「パネルディスカッションでは高田氏がモデレーターとなり、この3氏に檜谷美恵子委員(京都府立大教授)、山本理奈委員(東大大学院学術研究員)が加わりパネルディスカッションを行った。
高田氏
◇ ◆ ◇
感動的な講演を行ったのは日本暮らし代表取締役・野間光輪子氏だった。「京都の高齢者はなぜ美しいか」というテーマに偽りはなかった。
言うまでもないことだが、野間氏が「美しい」と語ったのは容姿のことではない。自立した精神的な豊かさ、品性・品格のことだ。京都は夏暑く冬寒い気候的には必ずしも恵まれているわけではなく、京町屋の家屋はバリアだらけだが、祇園祭が行われる鉾町の人たちはいつも背筋をぴんと伸ばし、四季の移ろいを楽しむゆとりを持っているという。異なる意見・考え方に対しては〝それもおもしろいなあ〟と反発するのではなく、受け容れる心の広さを持っているという。
なぜなのか。野間氏が語ったのは「京都には『ハレとケ』が生きているんです。『ハレ』とは「晴れ」、つまり非日常の年中行事であり、『ケ』(褻)は日常なんです。京都は祇園祭りという極晴れと四季折々の行事の晴れを中心に大人も子どももそれぞれの世代が自らの役割を認識し、刺激し合いながら生きていくという文化なのです。高齢者も社会的な役割を担っているという誇りを持っているんです。だから美しいんです。鉾町の人たちは『非行少年とぼけ老人はいない』のが誇りなんです」と話した。
野間氏はまた、「わたしたち日本建築士会連合会の女性委員会が12年前、このような町文化、コンパクト社会が残っている祇園の街を学会で報告したんです。そうしたら、他の会員の方々から『あなたたちは京都を美化しすぎている』と批判を浴びました。『近くに病院がない、高齢者にやさしくない』と。これ、違うんですよね。病院が遠くても梅を眺める、路地を歩くことに喜びを感じる、風景を大事にする街なんです。これが美しいんです」と語った。
「ハレとケ」は、日本人の伝統的な人生観を表す柳田國男の言葉だが、「メリハリ」も同義語だろう。この日常と非日常を使い分けることが美しく生きるヒントになることを教えられた。
しかし、「ハレとケ」の文化は京都だけでなく、かつては日本全国に存在したと思う。冠婚葬祭だ。間違いなくわが国は冠婚葬祭がコミュニティを育んできた。いま、このコミュニティを排除する動きがある。マンションの標準管理規約からコミュニティ条項を削除する動きだ。コミュニティは危機に瀕している。
野間氏
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高田氏はシンポジウムの冒頭、「私以外の委員は全て女性。ものすごく極端なジェンダーバランス」と会場を笑わせたが、春爛漫にふさわしく大久保委員は和服姿で登壇、園田委員は見事な白髪で熱弁をふるった。
大久保氏は普段も和服をよく着るそうで、園田氏は「白くなったのは最近、浦島太郎になっちゃった」と茶目っ気たっぷりに話した。
左から大久保、園田、檜谷の各氏
ポラス 越谷市初の特例子会社へ 障がい者中心の新会社設立
「ポラスシェアード」オフィス内
ポラスグループのポラスが障がいのある人により多くの働く機会を提供するために「ポラスシェアード」を2月6日に設立し、3月16日から事業を開始した。どのような職場で、何を目指すのか興味があったので取材した。責任者のビジネスサポート課課長・加知方真美子氏は「助走段階を経て第一歩を踏み出せた。親(ポラス)から自立し、利益が出る会社にしたい」と語った。
ポラスグループは、これまでも障がい者の雇用促進に努めてきたが、より多くの障がい者の能力が発揮できる環境や安心して働ける場を恒常的に提供するためには、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)に基づく特例子会社を設立することが最善と判断し、新会社を設立した。
新会社は20名(うち17名が障がい者)でスタート。県内からの通勤者が約7割で、残りは東京都と千葉県など。
当面はオフィスサポート業務を中心に、住宅メーカーならではの図面作成補助(色づけや製本など)や設計での通風計算などを考えているが、それぞれが補完し合い多種多様な仕事を確保していきたいとしている。
障害者雇用促進法では、従業員50名以上の会社は、障がいがある従業員を従業員全体の2%以上雇用することが義務付けられているが、障害者のための特別な配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たす場合には、その子会社に雇用されている障害者を親会社や企業グループ全体で雇用されているものとして算定できる特例が設けられている。
平成26年5月末現在、特例子会社は全国で391社あり、住宅・不動産関連では三井不動産、長谷工コーポ、レオパレス、大和ハウスグループなどが設立している。埼玉県は21社で、同社が認可されれば越谷市で初となる。
◇ ◆ ◇
記者もそうだが、ほとんどみんな障がいのある人が身近にいる。厚労省のデータによると、身体障害者は366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者は54.7万人(同4人)、精神障害者は320.1万人(同25人)で、およそ国民の6%が何らかの障がいを有している。
この数字は、法律や制度によるもので、「障害」の定義にも問題がないとは言えず、データに表れない人を含めるとその数倍はあるのではないか。例えばOECDのデータ。「過去6カ月間に健康問題や障害がある」と答えた稼働年齢(20~64歳)の障害者割合は20カ国平均で14%あり、もっとも高いスウェーデンは20.5%に達している。もっとも低いのは韓国で3.0%。わが国にはそんなテータはないが、「あなたは何らかの障害を抱えていますか」と聞かれたら、どれだけの人が「ノー」と答えられるか。そんな疑問を抱きつつ、これからのマンションやその他の取材にも生かそうとも考え、同社の取材に出かけた。大正解であった。
加知方氏は、「代表(中内晃次郎氏)とは30回は話し合った。思いは一緒。障がいを持っている人がそれぞれの技術を生かし、カバーしあい、働き甲斐が持てる職場にしたい。現在、30業務を行っている。下請けではなくパートナーとして評価してもらえる会社に伸ばしたい」と語った。
その加知方氏が「私のパソコンの師匠」という、同社が請負った注文住宅の顧客にプレゼントする図面作成の補助を担当している瀬谷裕太氏(22)は、「工業・情報系の高校を卒業しているので、CADの操作は学んでいたが、建築CADは初めてだった。最近は慣れてきたが、表紙も全て手作りなので1冊作るのに約8時間。将来はデザインの仕事にチャレンジしたい」と話した。昨年、住んでいた吉川市から草加市に移り一人暮らしを始めたそうだ。
もう一人、車椅子利用の社員からも話を聞いた。その社員は、電車を利用する場合、エレベータのない駅もまだ多いこと、あっても遠回りをしないと利用できないなどの現状の改善を訴えた。
瀬谷氏(左)と加知方氏
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「障害」の漢字表記は差別的であることから「がい」とひらがな表記をするところが増えている。記事も双方を使い分けた。
そこで、いろいろ調べてみた。昭和20年に施行された「障害者の雇用の促進等に関する法律」でも「障害者」が用いられているが、「害」が使用されたのは戦後からで、戦前は「障碍」が用いられていたようだ。
「碍」は「さまたげる」という意味があり、1919年に設立された絶縁体メーカー「日本碍子」も「碍」が用いられた。「害子」では具合が悪いのだろう。商号は現在も「碍子」が用いられているが、1989年に社名表記は「日本ガイシ」に変更されている。ホームページでは「碍子」ではなく、ひらがなの「がいし」表記も多い。
「障碍」と「障害」のどちらがいいか分からないが、「障害」と「者」をくっつけて「障害者」とするから問題が生じるようにも思う。「障害」は「持つ」のか「ある」のか「受ける」のか「抱える」のかで微妙に意味も異なってくる。言葉を乱暴に扱ったからこそその反動が表れてきているのではないか。「障害」を英訳すればすぐ浮かぶのは「barrier」だし、「障害者」よりまだ「handicapped person」のほうがすんなり受け入れやすい。中国語では「残疾人」と呼ぶそうだ。
この呼称の問題も含め、健常者と障がい害が共存するインクルージョンの考え方が世の中に浸透するよう企業もわれわれサラリーマンも考えないといけない。同社には、障がい者の立場から戸建てやマンションの商品企画にユニバーサルデザイン(UD)提案がされることを期待したい。
意匠・デザインが秀逸 コスモスイニシア「イニシア大井町」
「イニシア大井町」エントランス(完成予想図)
コスモスイニシアが4月上旬に分譲する「イニシア大井町」を見学した。JRの大井町駅と大森駅、京急立会川駅の3駅が利用可能で、AsMamaとコラボした「子育てシェア」、新しいデザイン提案「next40」、「ホームデコレーションサービス」など商品企画が秀逸だ。
物件は、JR京浜東北線大井町駅から徒歩14分、同線大森駅から徒歩12分、京急本線立会川駅から徒歩8分、品川区南大井五丁目に位置する7階建て全47戸、専有面積は54.29~82.43㎡、価格は未定だが、坪単価は290万円になる模様。竣工予定は平成27年8月下旬。施工は淺沼組。
まず、アクセス。大井町駅を利用するとやや距離はあるが、立会道路(緑道)を通っていけるので、車と出会うことは少ない。大森駅からでも線路沿いの舗道を通っていける。現地は準工エリアだが、嫌悪施設はほとんどない。
商品企画の特徴は、第一に「子育てシェア」を利用できること。これは送迎・託児を顔見知り同士で頼り合うネット「子育てシェア」を運営するAsMamaの協力で、急な残業や電車の遅延など子どもの迎えができない場合、近所の顔見知りに1時間500~700円で代行してもらうサービス。登録料などは不要で、ママサポーターによるバックアップ、入居交流イベントによるサポート、専用コミュニティサイトによる情報交換もできる。
第二の特徴は、アンティークとモダンを調和させた新しいデザインへの意欲的な試みがみられること。モデルルームではリビング床に無垢材を使用しているほか、建具・家具・壁材などは本物と見まがうような質感・手触りがあるものを採用。デザイン意匠も白を基調にしながら黒やその他の色をアクセントカラーとして巧みに処理している。
もう一つは、玄関壁面・クロス、キッチンカウンター、リビングダイニング壁面、洋室壁面など5つのデザインサービスを無償(有償もあり)で選べることだ。
モデルルーム(リビング・キッチン)
リビングと一体利用できる洋室
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このマンションを見学することになったのは、同社の投資用賃貸「向島5丁目」を見学した際、デザインを担当したアクシスの皆川雄一氏らと歓談し「大井町でも新しい試みをしているので見ていただきたい」と勧められたからだ。
その収穫はあった。床材や壁面に本物の無垢材やタイル、レンガが用いられているのだが、クロスなども見た目には本物と見まがうものが使用されていた。ニューヨークのホテルACEのデザインを参考にしたというが、その本物志向のデザイン空間にほれ込んだ。
「子育てシェア」も面白い試みだと思う。マンションでは初めて採用されるということだが、子どもの送迎を頼む人の素性がはっきりしており、保険にも入っているというから安心だ。今後、他社も採用すればもっと広がりを見せるのではないか。
アクセスと価格について。記者は大井町駅から現地に向かった。立会緑道はこれまでもマンション見学で通ったことがある。写真はその際、道端に咲いていた草花をつまんで撮ったものだ。白い花はハナニラとユキヤナギ、黄色はタンポポとノゲシ、紫色はムスカリと写真には写っていないがオオイヌノフグリも採った。このマンションに住むと、春先には数十種の草花をめでることができる。
価格はこのようなものだろう。大井町駅圏なら軽く坪300万円を突破すると思ったが、駅からの距離を考えると坪300万円は厳しいと読んだ。
立て続けにコスモスイニシアのマンションを見たが、今回は47戸の小さな規模だが、しっかり造り込みを行っているのが嬉しかった。いま同社がもっとも輝いているデベロッパーではないか。
記者が緑道で摘んだ草花。同社のプロジェクトマネージャー稲留めぐみさんがモデルルームで撮影(赤い花は名前を知らない)