体質強化・業務の再構築図る年 ポラス 中内代表 年頭所感
ポラスグループ代表 中内晃次郎
住宅市場は消費税8%の影響を強く受けており、10%への再増税も2017年4月まで延期され、本年の消費者動向は様子見といった状態が続きそうです。こうした景気の踊り場となる本年は、次の成長に向かって根本的体力をしっかりとつけることが必要です。
業務の川上、川下の関連を俯瞰的に再確認した上で、従来の方法を単に繰り返すのではなく、大事な所や良い所は残し、悪い所は切り捨て作り直すアクションをしてまいります。その結果、次々と体質強化策を打ち出し、業務の再構築を図り、生産性の向上を目指してまいります。
また、当社を取り巻く外部環境は、上野東京ラインの3月開業や2017年度を完成予定とする外環自動車道による、千葉方面へのアクセス向上など、当社の事業エリアにとってもプラスに働く要素があります。本年はこれらの環境も活用し、新たな業務にも積極的にチャレンジし、付加価値の高い技術・サービスの提供とお客様の価値観に対応した商品開発や生活提案を推進し、より強い企業体質を構築してまいります。
キーワードは「環境」「ストック」「超高齢社会」 積水ハウス 阿部社長 年頭所感
積水ハウス代表取締役社長兼COO 阿部俊則
新年明けましておめでとうございます。
日銀の追加緩和以降、株式市場も高値を更新するなど、前回の消費増税の反動減の影響は少しずつ和らぎ、住宅受注回復の兆しも見えてきました。また、今年改正された相続税への対策として、都市部を中心に賃貸住宅や二世帯住宅などの需要は引き続き旺盛です。
昨年11 月、当社グループは2016 年度までの「2014 年度中期経営計画」を発表。「住」に特化した成長戦略を展開し、グループシナジーを強化して「請負型」「ストック型」「開発型」の3 つのビジネスの成長を目指しています。
成長のキーワードは「環境(エネルギー)」「ストック」「超高齢社会」です。より環境性能や付加価値の高い住宅提案を通じて、これらの社会課題を解決していくことは、当社の使命だと考えています。
「環境」においては、当社戸建住宅の約60%にまで普及したゼロエネルギー住宅「グリーンファースト ゼロ」を、本年は65%とすることを目指します。このことは2020年にゼロエネルギー住宅を標準的な住宅としようとする国の目標を大きく先取りするものです。
また、昨年、発売30年を機に刷新を図ったストック価値の高い「イズ・シリーズ」や多世帯住宅に対応する3・4 階建てなどの拡販に努めます。
「ストック」では、従来のリフォームに加え、大規模なリノベーションやマンションリフォームなどにグループの事業領域の拡大を図り、住宅ストックの有効活用に貢献します。
「超高齢社会」では、益々ニーズが高まる「サービス付高齢者向け住宅」などの高齢者向けの「プラチナ事業」を積極的に展開し、社会の要請に応えます。
社会問題化している「空き家」の利活用についても、リノベーションをはじめグループを挙げた提案によって、若い世代を高齢化の進む住宅街に還していく新しいビジネスにもチャレンジします。住宅が社会に果たせる役割はまだまだ沢山あります。住宅トップメーカーとして積極的に先陣を切ってまいります。女性活躍の推進も「ダイバーシティ推進室」設置後、さらに加速していきます。
価格競争ではなく、お客様満足につながる価値を誠実にお届けし続けながら、新たな領域、新たなステージでの成長を図る飛躍の年にします。
不退転の決意で住宅事業の改革進める 大和ハウス 大野社長 年頭所感
大和ハウス工業 代表取締役社長 大野直竹
昨年はアベノミクス効果や日本銀行の追加金融緩和等の機動的政策により、景気回復の足がかりとなる年でしたが、その一方で雪害や豪雨など、多くの自然災害に見舞われた年でもありました。また、業界的には消費税増税や再生可能エネルギー買取制度の見直し等の影響を受け、何かと厳しい一年でしたが、当社グループは役職員全員の頑張りにより、過去最高の業績を達成することができました。これは、厳しい環境下にあっても、創業以来培ってきたパイオニア精神のもと、皆さんが何事にもチャレンジしてきたことによるものです。これからも各事業・各エリアで業界ナンバー1を奪取するべく、失敗を恐れず積極果敢に挑戦してください。
本年は当社にとっては創業60周年を迎える節目の年であり、また第4次中期経営計画の最終年度を迎える年でもあります。直近の目標は売上高2兆8,000億円の達成ですが、その先の売上高3兆円の達成も皆さんは通過点と捉え、既存事業の強化はもとより、既存事業に「プラス2の事業」を創出するなど、次のステップへの土台づくりの年にしてください。
そして、当社グループがこれからも持続的発展と更なる成長を図るため、今一度、原点に立ち返り、世の中に必要とされる商品やサービスの提供とお客様目線に立った商品開発を他社に先んじて取り組んでください。特に当社のコア事業である住宅事業は、他社の後塵を拝しており、不退転の決意を持って改革を進めなければいけません。
当社はこれまで新事業・新サービスの創出により業界を切り拓いてきました。私たち役職員全員の夢の達成に向けて、現状に甘んじることなく、行動第一主義のもと、常に先の先を読んで前進し続けてください。
そして、業容が拡大している今が当社グループにとっての最大の危機であることを再認識し、決しておごらず、気を引き締め、謙虚な態度で行動してください。
最後に、東日本大震災の発生から3年9ヶ月が経ちましたが、未だ多くの方が避難生活を余儀なくされており、復興は道半ばです。大和ハウスグループでは、被災地の早期復興に向けて、本年も継続して復興支援活動を継続します。
記者が選んだ2014年 話題のマンション30物件
「勝どきザ・タワー」の借景
記者が選んだ今年(2014年)の「話題のマンション」は30物件。いつものようにモデルルーム・現地見学した95物件の中から選んだもので、必ずしも物件の良否を判断して選定したわけではないことを断っておく。「ベスト3マンション」はこちら。
●湾岸マンション
鹿島建設他「勝どきザ・タワー」
住友不動産「ドゥ・トゥール」
東京建物他「東京ワンダフルプロジェクトBAYZ」
今年も湾岸マンションが話題を集めた。主な新規供給鹿島建設他「勝どきザ・タワー」、住友不動産「ドゥ・トゥール」、東京建物他「東京ワンダフルプロジェクトBAYZ」の3物件。
「勝どき」の売主は鹿島のほか三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友商事、野村不動産の4社。総戸数1,420戸のうち販売戸数は1,318戸。6月に販売開始され、これまで約800戸が供給された。この物件については「ベスト3マンション」でも触れたので、そちらの記事も参照していただきたい。戸数が多く、後続の競合物件が控えているため、価格設定を低く抑えたのだろう。意思決定するのはユーザーだ。極めて品質が高く、割安感があるということにとどめる。
「ドゥ・トゥール」は1,450戸のツインタワー。他にSOHO216区画がある。坪単価は現状では最高値の350万円。同社によると販売は順調に進んでいるようだ。近くには前田建設工業が33階建て350戸の建設を進めているが、自社で売るのか、デベロッパーに卸すのか不明。各社が出揃った段階で決めるのか。
「BAYZ」は、「東京ワンダフルプロジェクト」第一弾の「SKYZ」(1,110戸)に続く第2弾で、戸数は550戸。建物売主は第1弾と同じ東京建物、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、東急不動産、住友不動産、野村不動産の大手6社に、土地売主が東京電力。残りは200戸くらいか。3月末までに完売するはずだ。ここは中央区ではなく江東区なので単価は低いが、今後は信じられない値段になるはずだ。
このほか湾岸では、三菱地所レジデンス・鹿島の「ザ・パークハウス晴海タワーズクロノレジデンス」(883戸)に続き「ティアロレジデンス」(861戸)が供給された。これらを合わせると戸数は約4,300戸。
東京オリンピック村は22棟約6,000戸が建設され、大会終了後に民間に分譲・賃貸として売却される。そのほか50階建てタワーも2棟建設するという。
中央区の12月の世帯数は前年比3.9%、人口は前年比4.1%それぞれ増加している。人口は最少だった平成9年の約72,000人から91.1%増の約138,000とほぼ倍増している。これからも爆発的に増える。空恐ろしい。「地方創生」は大丈夫か。
「驚きの次元が異なる」鹿島建設他「勝どきザ・タワー」(2014/4/18)
住友不動産、晴海のツインタワー「ドゥ・トゥール」分譲へ(2013/11/22)
東建など6社共同「東京ワンダフルプロジェクト」第2弾「BAYZ」分譲へ(2014/5/28)
●高額・億ション
森トラスト「フォレセーヌ赤坂檜坂」
安田不動産「レフィール参宮橋ヒルズ」
高額・億ションでは三井不動産レジデンシャルの「三田綱町」をベスト3マンションにしたが、他では森トラスト「フォレセーヌ赤坂檜坂」、安田不動産「レフィール参宮橋ヒルズ」が好物件。
「赤坂檜坂」は上層階が非分譲になっているが、分譲される可能性もあると見た。坪単価1,000万円でも驚かない。その価値はある。
「参宮橋」は、参宮橋の一等地で、坪単価415万円。極めて割安感がある。12月分譲ですでに35戸が完売。当然だろう。どこかの掲示板に記者の「こだわり記事」が貼り付けられており「提灯記事」だの「広告」だのと書かれていたが、記者はこれまで1銭ももらったことがないし、「広告記事」も一度も書いたことがない。今後もこれは貫く。記事でミスをするかもしれないが、金をもらってユーザーをミスリードするようなことは絶対しない。
本物の億ション 森トラスト「フォレセーヌ赤坂檜坂」(2014/10/22)
安田不動産「レフィール参宮橋ヒルズ」 立地よく割安の単価415万円(2014/12/11)
●御三家の低層マンション
三菱地所レジデンス ザ・パークハウス「上鷺宮」「二子玉川」
住友不動産「インペリアルガーデン」
三井不動産レジデンシャル他「パークコート渋谷大山町」
低層マンションでは三井・三菱・住友の御三家がなかなかいい物件を供給した。タワーもいいが、やはり住むなら低層だ。みんな価格が高くて普通のサラリーマンには手が届かないが、価格の安い郊外型も供給すれば売れるはずだ。
23区最大の第一種低層 三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上鷺宮」(2014/4/4)
国分寺崖線に重なるランドスケープ秀逸 三菱地所レジデンス「二子玉川」(2014/11/25)
用地取得から10年 小石川植物園に隣接 住友不「インペリアルガーデン」(2014/1/16)
三井レジ他「パークコート渋谷大山町」 低層住宅街の大規模単価は470万円(2014/12/3)
●みんなで渡る〝新価格〟
代表格の日本綜合地所「ヴェレーナ木場公園」
記者の好きな魯迅の言葉を紹介する。「思うに希望とは、もともとあるものとも言えぬし、ないものとも言えない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」(竹内好訳「故郷」より)。
この「希望」「道」をそっくり「相場(坪単価)」に置き換えていただきたい。〝新価格、みんなで渡れば怖くない〟-他社の高値待ちで供給を先送りする物件が続出したのも今年の大きな特徴だった。
記者が驚いた新価格は「ベスト3マンション」のトップに取り上げた野村不動産の「立川」だったが、この「木場公園」にも仰天した。「木場」「東陽町」では過去、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスなどが供給しているが、最高値は坪260万円だった。この物件は280万円。それでも売れているからなお驚いた。10年前に分譲された木場駅の駅近マンションは確か坪210万円だった。
日綜「ヴェレーナ木場公園」 木場・東陽町駅圏&同社物件の高値更新(2014/11/26)
●中堅デベロッパーの星
モリモト「ディアナコート本郷弓町」
モリモト「ピアース高田馬場」
記者はモリモトがデザイナーズマンションに転換してからだからもう20年くらい経つか、そのほとんどの供給物件を見学している。歓楽街で分譲されたある物件(これもよく売れたのだが)は評価しなかったが、商品企画は大手と互角かそれ以上だ。「中堅」と呼ぶのが失礼なくらいだ。
「本郷弓町」も「高田馬場」も素晴らしい。どうして業界紙の記者やジャーナリストは同社のマンションを見ないのか。不思議でならない。
あっぱれ!モリモト階数を2層分減らし天井高2.7m確保「本郷弓町」(2014/5/23)
単身者・DINKS向けの最高レベルマンション モリモト「ピアース高田馬場」(2014/2/17)
●大手に負けない商品企画
フージャースコーポレーション「デュオセーヌつくばみらい」
ポラス中央住宅「ルピアコート新小岩」
タカラレーベン「レーベンザTSUKUBA」「レーベン横濱汐見台ソラノテ」
大手の寡占化がどんどん進んでいる。情報収集力や資金力で歯が立たない中堅デベロッパーが生き残るには、大手が供給しないすき間を狙うか地方に転出するかだが、これもまたリスクが伴う。商品企画の差別化以外に方法はない。
その点で、シニア層をターゲットに絞り込んだ「つくばみらい」、〝ピアキッチン〟を進化させたポラス中央住宅、「太陽光」を最大の武器にあえて大手が供給する物件にぶつけるタカラレーベンは示唆に富んでいる。
フージャースコーポ シニア向け「つくばみらい」 新しい選択肢として人気(2014/5/31)
進化するピアキッチン ポラス中央住宅「ルピアコート新小岩」(2014/11/17)
つくばの一等地タカラレーベン「レーベンザTSUKUBA」が人気(2014/4/14)
したたかタカラレーベン 日本最大級「太陽光」に全戸100㎡以上「汐見台」(2014/1/16)
●高齢者施設と複合
NTT都市開発「ウェリス津田沼」
東京都は今年、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に一般住宅及び居住者のふれあいを促進する交流施設を併設した住宅の整備について、民間事業者からの提案を募集し、東急不動産、ナルド・コミュニティネット、NTT都市開発の3事業者を決定した。
「津田沼」は補助事業ではないが、考え方は同じ。サ高住と一体的に開発整備し、リスクを分散させるとともに付加価値をつけて供給しようという差別化戦略だ。サ高住との複合開発はこれから注目される。
併設のサ高住のサービスも受けられるNTT都市開発「ウェリス津田沼」(2014/11/4)
●駅前再開発・市街地開発
野村不動産「プラウド京急蒲田」
大京「ライオンズタワー柏」
新日鉄興和不動産他「武蔵浦和SKY&GARDEN」
三井不動産レジデンシャル他「GLOBAL FRONT TOWER」
近鉄不・京阪神不他「王子飛鳥山ザ・ファーストタワー&レジデンス」
京浜急行・大和ハウス「ザ・タワー横須賀中央」
明和地所「クリオレジダンス新杉田」
相鉄不動産「グレーシア調布」
駅前の再開発の威力をまざまざと見せつけたのは野村不動産「立川」だったが、同社の「プラウド京急蒲田」、大京「ライオンズタワー柏」、近鉄不動産・京阪神不動産・長谷工コーポレーション「王子飛鳥山ザ・ファーストタワー&レジデンス」、京浜急行・大和ハウス「ザ・タワー横須賀中央」、三井不動産レジデンシャル他「GLOBAL FRONT TOWER(グローバルフロントタワー)」など再開発マンションが話題を集めた。長期低迷を続けてきた明和地所も新杉田駅前で複合マンションを供給。順調に売れているという。相鉄不動産は京王線調布駅前の一等地で分譲した。
大京「ライオンズタワー柏」 竹中の免震で坪単価は230万円(2014/6/2)
「立川」に続き「京急蒲田」 駅直結の威力まざまざ野村不動産(2014/9/2)
近鉄不・京阪電鉄不・長谷工コーポ実利を取る戦法か「王子飛鳥山」(2014/4/23)
「武蔵浦和SKY&GARDEN」 販社に長谷工アーベストが選ばれた理由(2014/4/15)
中心市街地の活性化の起爆剤 京急・大和ハウス「ザ・タワー横須賀中央」(2014/4/14)
相鉄不動産 調布駅前の一等地で再開発マンション(2014/10/3)
三井不動産レジデンシャル他「GLOBAL FRONT TOWER」(2014/6/17)
明和地所 新杉田駅前の商住一体「クリオレジダンス新杉田」(2014/4/9)
●〝元気印〟
大成有楽不動産「オーベル志村城山」など
今年元気だったデベロッパーをあげるとすれば、大成有楽不動産を間違いなくその一社に入れる。2012年4月に建物・施設管理事業の大成サービスとマンション開発が中心の有楽土地が合併し、大成有楽不動産が誕生したが、その後着実に前進している。マンションの商品企画は一変した。2カ月で完売した「志村坂上」は立地が抜群だったし、「オーベル浦和レジデンス」、「オーベル金町レジデンス」も早期完売した。
大成有楽不動産「オーベル志村城山」 全67戸が2カ月で完売(2014/9/2)
●〝脱LDK〟〝間取り自由〟
三井不動産レジデンシャル パークホームズ「築地」「駒沢」
将来のマンションライフを見据え、着々と布石を打っているのが三井不動産レジデンシャルだ。〝脱LDK〟の提案を「築地」で行った。「駒沢」では、女性でも簡単に動かせるキャスター付き「カナウシェルフ」を初採用した。単身女性のマンション購入を支援する女性向けサイト「モチイエ女子web」を立ち上げ、将来のマンションコミュニティを考えるイベントも行った。「新三郷」では「三井住空間デザイン賞」の発表会を行った。
三井不動産レジデンシャル “脱LDK”シニア層のニーズ取り込む「築地」(2014/1/14)
三井不レジデンシャル 可動間仕切りで間取り自由自在 「駒沢」に初採用(2014/5/28)
●最後の同潤会建て替え
三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上野」
全部で16あった同潤会アパートのうち最後まで残っていた「上野下アパート」の建て替え、三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上野」が分譲された。ホームページを見たら残りは2戸となっていた。
三菱地所レジデンス 最後の同潤会建て替え「上野」ワイドスパンがいい(2014/4/25)
●わが街
三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス多摩センター」
清水総合開発「ヴィークステージ多摩センター」
最後に、わが街の2物件を選定するのを許していただきたい。多摩センターは断じて〝オールドタウン〟ではない。この数年間で駅周辺に2000数百戸のマンションが分譲され、活気を取り戻しつつある。〝駅近〟で言えば三菱地所レジデンスの物件が最初で最後。多摩センター初の免震で、坪単価は「立川」より100万円以上安い。残りはわずかのはずだ。清水総合開発の物件も立地はいい。URの「わんにゃんワールド」跡地開発が待たれる。
マンション〝新価格〟続出 この1年間を振り返って
今年も残りわずか。この1年間で書いた「こだわり記事」は378本。分野別の内訳はマンションが155本(うち95本がモデルルーム・現地取材)、一戸建てが48本(うち30本がモデルハウス・現地取材)。記事の半数以上は分譲マンション・戸建てだった。コピー&ペーストの記事はあまり書かなかったつもりだ。RBAの野球記事も200本くらい書いた。マンション市場を中心にこの1年間を振り返ってみる。
その前に、誤字脱字だらけの独断と偏見に満ちた記事を読んでいただいた皆さんに紙面ならぬ画面を通じて感謝し、お詫びいたします。
一つだけ言い訳をさせていただくと、記事は〝ラブレター〟であり、スピードが勝負です。私のモノサシで書くので誤りはつきもので、急げば急ぐほどミスも増えます。近眼・老眼が加速度的に進んでおり、集中力が欠けるのは以前からですが、加齢が追い討ちをかけています。どうかこの事情を汲み取っていただき、お許しいただきたいと思います。
◇ ◆ ◇
分譲マンションでは、1年間を通じて価格(単価)の上昇が強く印象に残った。〝新価格〟がとくに後半から続出した。単価予想も外れることが多かった。来年はもう一段高くなるのは間違いない。都心部の一等地では坪700~800万円台が一般化するのではないか。23区内ではよほど立地条件の悪いところでないと坪200万円以下はなくなりそうだ。
サラリーマンの実質賃金は上昇していないので郊外部の価格上昇は懸念材料だ。前半では坪130万円台も供給されたが、後半は最低でも150万円くらいになってきた。第一次取得層の取得限界は坪180万円と見ているが、限界に近づいてきた。設備仕様レベルを落とす物件も増加した。
単価上昇を表面化させないよう専有面積圧縮でグロス価格を抑制する物件も目についた。いつか来た道だ。3~4人家族で30坪(90㎡)というのが記者のデベロッパーに託す夢だが、当分実現しそうにない。
売れ行きは総じて好調だった。ベスト3マンションの記事でも書いたが、野村不動産「立川」と三井不動産レジデンシャル「三田綱町」が瞬く間に売れたのには驚いた。いま売れ残っている物件も、来年は新価格が満遍なく浸透するだろうから根雪のように残ることはなさそうだ。
供給減がマスコミでも報じられたが、年間4~5万戸というのが適正な戸数だとわたしは考えている。レベルの高いリフォーム・リノベーションも増加しており、新築だけでなく中古マンションも取引が活発になるのは間違いない。全体として市場は緩やかに縮小し、大手の寡占が加速する。中小デベロッパーは企画力が勝負になりそうだ。
分譲戸建ては取材回数が少ないので分からない部分も多いが、記者が見学した物件は総じてレベルの高いものばかりだった。積水ハウスの「5本の樹」は他社も見習うべきだ。年末に見たミサワホームの「熊谷」は最高の物件だった。三井不動産レジデンシャルと野村不動産の首位争いもみものだった。野村は戸数の少ない物件もこれからは供給しそうだ。都内に進出したポラスも意欲的な物件を供給した。フージャースアベニューの商品企画も光った。老舗の細田工務店はもっと自社のPRに力を入れてもいい。
いわゆるパワービルダーの取材をここ数年行なっていないが、業界紙記者も物件見学はほとんど行なっていないようだ。マンションと同じくらい供給されているのに、なぜ取材しないのか。
業界団体では、マンション管理業協会の意欲的な活動が目立った。ハウスメーカー・デベロッパーの課題でもあるが、コミュニティの「見える化」をぜひ進めて欲しい。
国交省の取材はあまり行なわなかった。業界紙は宅建取引主任者の「宅建士」の〝昇格〟をずっと記事にしており、重大ニュースの一つにしているようだが、これが解せない。それより「日本らしく美しい景観」とは何ぞやの答申が待ち遠しい。
今年のベスト3マンション 野村・立川 三井不・三田綱町 イニシア・武蔵新城
「プラウドタワー立川」
記者が選んだ今年の首都圏ベスト3マンションは野村不動産「プラウドタワー立川」、三井不動産レジデンシャル「パークマンション三田綱町」、コスモスイニシア「イニシア武蔵新城ハウス」-前職を含め30年以上も記者の独断と偏見で「話題のマンション」「ベスト3マンション」を選んでいるが、今年のベスト3マンションは最後の1物件を選ぶのに悩んだが、商品企画が素晴らしかったコスモスイニシアの創業40周年記念物件「イニシア武蔵新城ハウス」を選んだ。見学したマンションは前年とほぼ同じ95物件だった。
◇ ◆ ◇
野村不動産「プラウドタワー立川」
最初の1物件はすんなり決まった。誰が選んでも野村不動産「プラウドタワー立川」は必ず入るだろう。駅前の再開発タワーマンションは同社が最近力を入れている分野で、最近では「相模大野」「武蔵浦和」「大泉学園」「京急蒲田」などを供給し、ことごとく早期完売している。他のデベロッパーを大きくリードしている。
ベスト3の一つに選んだ最大の理由は、記者の予想をはるかに上回る坪単価342.5万円だ。断っておくが、価格に見合う価値がないと言っているのではない。あの「立川」のポテンシャルを最大限に引き上げる同社の商品企画力には恐れいったし、それがまた売れるのだから言うことなしだ。
物件と駅をペディストリアンデッキで結び、新たに改札口を設置して広場も整備し、階高3.3m、リビングの天井高約2.6m、SI、オーダーメイド、間取り変更無償の「ライフスタイルセレクト」、設備仕様レベルなどは多摩エリアではかつてなかったものだ。
シアター画面では「誰が想像しただろうか」「想像を超える未来」などの文言を用いて意想外の物件であることを強烈に印象づけた。その巧みなイメージ戦略にも脱帽した。多くのマンションシアターには「頂点を極める」だの「邸宅」だの「静謐」だのと手あかにまみれた、見ているほうが恥ずかしくなるような空疎な言葉が氾濫しているが、しっかりと物件の中身の「見せる化」を行っている同社を見習った方がいい。昨年の「TOMIHISA」でも「第九」が登場して仰天した。
野村不動産「プラウドタワー立川」は坪単価342万円早期完売必至(2014/7/10)
◇ ◆ ◇
三井不動産レジデンシャル
「パークマンション三田綱町 ザ フォレスト」
「パークマンション三田綱町ザフォレスト」
もう一つのベスト3もすんなり決まった。三井不動産レジデンシャル「パークマンション三田綱町ザフォレスト」だ。販売戸数97戸で、すべてが億ション。バブル期はともかく、バブル崩壊後でこれほどの規模ですべて億ションとしいのは記憶にない。記者がこれまでの億ションの最高峰と思っている「麻布霞町パークマンション」は92戸で、1戸は1億円を下回っていた。単価も「麻布霞町」は630万円で、今回は725万円(予想)。単純な価格比較などできないし、これより高いマンションは数えきれないほど供給されている。
驚くのはその販売スピードだ。瞬く間に売れた。3カ月くらいしかかかっていないのではないか。こんな芸当は他社ではできない。「完売」のリリースなど出さないのがまた同社らしい。
物件の特性などは別掲の記事を読んでいただきたい。三井倶楽部やイタリア大使館の森などを眺められる都心の借景が素晴らしいはずだ。
いまでもよく分からないのが、モデルルームに使用されていた家具・調度品、冷蔵庫に入っていたビールやミネラルウォーターの銘柄だ。「ヴォルヴィック」でも「エビアン」でも「ペリエ」でもなかった。お金持ちは日本のビールや水を飲まないだろうか。これは謎だ。記者が見学したときも、ヨーロッパ人らしき外国人の女性が見学していた。身なりからして富裕層であることはすぐわかった。大使館関係者は買える値段なのだろうか。日本製はTOTOのトイレくらいしかなかったのではないか。
「麻布霞町」を超えるか三井不動産レジデンシャル「パークマンション三田綱町ザフォレスト」(2014/7/4)
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コスモスイニシア「イニシア武蔵新城ハウス」
「イニシア武蔵新城ハウス」
さて、最後のベスト3。〝鹿島ファン〟の記者が最初に考えたのは「勝どきザ・タワー」だった。これも見学したときの記事を読んでいただきたい。素晴らしいマンションだ。非の打ちどころがない。
なのになぜ選ばなかったか。それは価格設定だ。記事を書いたときは、坪単価は臭わせただけで書かなかったが、予想した単価は坪350万円だった。東側の眺望は劣るが、北側の浜離宮を見下ろせる立地を高く評価した。しかも、浜松町駅も橋ができれば徒歩圏になる。今でも単価予想は間違っていなかったと思う。
ところが、第1期の単価は310~320万円くらいだったようだ。当然のごとくよく売れた。戸数が多いため価格を抑えたようだ。これはこれで嬉しいのだが、やはりこの物件は高値挑戦してほしかった。そうでないと他の物件と釣り合わない。鹿島ファンだからこそ、記者の期待に応えてくれなかったというその理由のみで選外とした。
そこで浮上したのがコスモスイニシアの「イニシア武蔵新城ハウス」だ。これも記事を参照していただきたい。創業40周年記念というだけあって商品企画が秀逸。
リビング、居室、コーナー、天井、壁などの面に一切柱型や梁型が出ていない。カーテンボックスも埋め込み型にし、廊下と居室ドアの引き戸の高さは2400ミリ。下足入れには業界初と思われる窓を設けている。坪単価230万円というのもぴったりの値付けだ。もっと高くしても売れたかもしれない。
売れ行きも好調のようで第1期60戸が即日完売、引き続いて分譲した第1期2次16戸も好調に推移している。
埼玉県住まいづくり協議会 環境住宅賞 最優秀賞に「森林公園の家」
最優秀賞を受賞したHAN環境・建築設計事務所の冨田享祐氏(左)と南澤圭祐氏
埼玉県住まいづくり協議会は12月18日、「第2回埼玉県環境住宅賞」表彰式を行い、最優秀賞に建築部門の「森林公園の家」(HAN環境・建築設計事務所 松田毅紀氏、南澤圭祐氏、冨田享祐氏)を選んだ。
同賞は、「住まい」の視点からも環境を意識することが必要との考えから、新築やリフォームの実践例、住まい方のアイディアなどの提案を募集するもので、一般から建築事業者まで103作品の応募かあった。埼玉県が後援している。
最優秀賞の他では、優秀賞に建築部門の「KUMAGAYA SUMMER HOUSE」(伊藤裕子設計室伊藤裕子氏)、リフォーム部門の「真冬に20度を下回らない家~光と風と断熱のデザイン~」(OKUTA LOHAS Studio 坪野藍氏)、アイディア部門の「長屋が魅せる次世代の暮らし」(桧家住宅伊澤博希氏、島元祐二氏)、特別賞に「涼を呼ぶ熊谷の家」(ミサワホーム・ミサワホーム西関東)と「大宮ヴィジョンシティみはしの杜」(ポラス中央住宅+ポラスタウン開発)がれぞれ選ばれた。
審査委員長の三井所清典氏(日本建築士会連合会会長)は、「私が50年前に考えた環境共生が一般的になってきた。最優秀賞はいかにも埼玉らしい、風土に適した提案。深い庇の提案は和の住文化をどう継承するかの点でも示唆に富む。特別賞は地域全体で気温を下げることが強く訴えられていた。全体的にとても嬉しい楽しい審査だった。埼玉は環境住宅のトップランナーになれる」と講評した。
三井所氏
◇ ◆ ◇
最優秀賞の「森林公園の家」は、タイトル通り埼玉・森林公園の樹木に囲まれた南傾斜地に立地しており、大きな木製サッシ、デッキテラス、薪ストーブ付きの土間空間、スギを多用した壁など、設計者の意図がよく伝わってくる。
「KUMAGAYA SUMMER HOUSE」は、〝夏暑く冬寒い〟熊谷にふさわしい夏の日差しをカットする深い庇の形状、風を取り込む袖壁、OMソーラーパネルの設置など、パッシブ・省エネの工夫が見事。
「真冬に20度を下回らない家}は、断熱性能Q値1.4、気密性能C値0.7を実現したリフォーム事例。夏場の日射遮蔽効果がある外付けブラインドシャッターを設置しているのが特徴。
「長屋が魅せる次世代の暮らし」は、人口減少・高齢化の時代にふさわしい平屋の長屋を提案している。北本団地の建て替えにも有効と提案している。
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記者は初めて取材した。会場には全103作品がパネルで展示されていた。残念なのは、パネルの文字が小さく読みづらく、一つひとつじっくり見る時間もなかった。
県も後援しているのだし、絵画展のように作品がよく見えるように工夫し、応募者からも説明が受けられるような会にしたらもっと盛り上がる。
特別賞を受賞したポラス中央住宅+ポラスタウン開発の関係者
現段階でスマートシティ№1団地 ミサワホーム「エムスマートシティ熊谷」
「エムスマートシティ熊谷」(写真提供:ミサワホーム)
ミサワホームが分譲中の「エムスマートシティ熊谷」を見学した。意欲的なスマートシティの提案が評価され、埼玉県住まいづくり協議会が主催する「第二回環境住宅賞 特別賞」を受賞した全73区画の戸建て団地だ。
物件は、JR高崎線籠原駅から徒歩13分、埼玉県熊谷市別府5丁目に位置する全73区画(建築条件付宅地区画数11区画含む)。現在分譲中の建築条件付き宅地分譲の土地面積は169.71~200.52㎡、価格は1,224万~1,640万円。(1区画)。1戸建ての土地面積は178.66~188.84㎡、建物面積は 113.23㎡~119.97㎡、価格は4,490万~4,980万円。構造・工法は木造2階建(木質パネル接着工法)。主な設備は太陽光発電システム、エネファーム、HEMS、電気自動車用充電用コンセントなど。建物の売主・設計・施工はミサワホーム西関東。土地売主はミサワホーム。
今年6月から分譲開始されており、これまで17区画(宅地分譲含む)が契約済み。購入者は熊谷市内と市外が半々。都内の購入者もいるという。
「足水」(写真提供:ミサワホーム)
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土地は熊谷市が学校用地として所有していたもので、市のコンペで4社が応札、同社の応札価格は最高値ではなかったが、プランが評価されて落札した。
快適な暮らしを提案した「涼を呼ぶ街づくり」「過去と未来をむすぶ」「ゼロエネルギーで明日をひらく」「人と人を育むコミュニティ」の4つのコンセプトがいい。
まず、「涼をよぶ」「むすぶ」取り組み。夏季は東からの風が多いことから、風の入り口に公園を設置。既存樹のサクラの巨木を配して風を遮断するとともに、公園の緑陰と散水によって冷やされた風が道路に沿って流れ、各戸に7か所程度設置されたミストスプレーでさらに冷やされ、街全体を自然の力で冷やそうという仕組みが施されている。道路の一部には地表温度を5度くらい下げる効果がある反射性の高い素材を採用している。
公園には井戸を掘り、自動的に井戸水を撒き、ベンチの足元には「足水(あしみず)」を設置。ゆるやかな曲線を描くように道路を配し、建物は太陽光発電の効率を最大限上げるため全棟を南向きにしている。
「ひらく」では、太陽光発電システム(3kw)、エネファーム、「enecoco(見える化システム)」LED照明、涼風制御システムなどを導入。涼風制御では、外気温と天井付近の室温の差を検知し、自動的にトップライトを開放して室内の熱気を排出。温度差が少なくなるとトップライドが閉じられエアコンが作動する。外気温が低くなったらエアコンが自動的に停止する。これは同社独自のシステムだ。
このほか省エネでは、暑い外気温を遮断するクールルーバー、ミストスプレー、保水性インターロッキングも採用している。
「はぐくむ」では、セキュリティ機能も備えたコミュニティハウス(集会室)を設け、公園に設置した「まちの気象台」を通じてリアルタイムで温度、湿度、降雨量、風速などが測れるようにし、暮らしに役立てる工夫を行う。
門柱に設けられたミストスプレー
クールルーバー
室内の熱だまりを解消するトップライトとシーリングファン
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言うまでもなく、熊谷市は夏の暑さでその名が全国に知られている。夏の暑さ対策は必須だ。同社のシミュレーションでは明らかに街全体の温度は数度低くなっている。
長々とパンフレットの引き写しのような記事を書いたが、特徴を表現しようとするとそうならざるを得ない。スマートシティ、スマートタウンは結構取材してきたが、パッシブデザインとアクティブデザインを巧みに組み合わせているという点では、現段階でこの団地がナンバーワンではないか。夏に取材すればよかったのだろうが、待ちきれずに寒風吹きすさぶ先週の金曜日に取材した。〝冬寒い〟熊谷を初めて体験した。
それにしても現地まで街路樹らしきものが全然ないのはなぜか。理解に苦しむ。
集会室
中央のポールが「まちの気象台」(その奥に井戸水ポンプがある)
団地までのアクセス道路(街路樹は1本もなし)
国交省「日本らしく美しい景観づくり懇談会」 卯月委員長も感動
「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」
「スポーツを使えば景観に貢献できる」トレイルランナー鏑木氏
国土交通省は12月19日、第5回「日本らしく美しい景観づくりに関する懇談会」(委員長:卯月盛夫早大教授・参加のデザイン研究所所長)を開き、東大大学院教授・出口敦氏、静岡県交通基盤部都市局長・石川亨氏、トレイルランナー・鏑木毅氏が「富士山等の広域的景観資源の保全施策をどう展開すべきか」を中心テーマにプレゼンテーションを行い、各委員が話し合った。
今回で大きなテーマに沿って話し合うのは最終で、27年度には第一次の取りまとめを行う予定。
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この「懇談会」にはずっと注目していた。「日本らしくて美しい景観…」というタイトルがいいではないか。「(日本)らしく」という形容詞型の助動詞と「美しい」という形容詞が「景観」に掛かる。いったい「日本らしい景観」「美しい景観」とはなんぞやという悩ましい問いに「懇談会」はどのような答えを示してくれるのだろうかと考えるとわくわくもする。
しかし、その一方で、普遍的で絶対的な美などこの世の中に存在しないし、文化や歴史、個人の審美眼によっても「美」は異なってくる。それこそ十人十色、三者三様、百人百様だ。
わが国の自然を対象にした100選を拾ってみると、「美しい日本のむら景観百選」(農水省)、「日本百名山」(深田久弥の随筆)「日本百名橋」(松村博氏)「日本名水百選」(環境省)「日本の自然100選」(朝日新聞社)「日本街路樹100景」(読売新聞社)「日本の白砂青松100選」(日本の松の緑を守る会)「名木100選」(各都道府県)などほとんど全ての景観がランキングされているが、その基準もいまひとつはっきりしない。記者は生まれ育った田舎の風景・風土が一番美しいと思っている。
だから、懇談会もこれが〝日本らしくて美しい景観〟といったような包括的な答えは出さないだろうし、目的もまた景観法が施行されて10年を振り返り、課題を明らかにし、将来につなげようということのようだ。
とはいえ、今回の懇談会は大収穫だった。卯月委員長はプレゼンターの話とプロジェクターに映し出された画像に「感動した」と話したように会は盛り上がり、予定されていた2時間を30分近くオーバーした。先週傍聴した国交省の会合は予定を大幅に余して終了したのと対照的だった。(最後まで傍聴したのは記者一人だったというのは解せない)
そんなわけで、卯月委員長が感動したトレイルランナー・鏑木毅氏の話を紹介する。
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写真提供・鏑木氏(以下、同じ)
鏑木氏は46歳。わが国のトッププロのトレイルランナーだ。トレイルランニングとは舗装路以外の山野を走る競技。鏑木氏は、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランの周り168㎞、累積標高差9,600mを制限時間46時間以内で走破する大会で2009年には22時間で走破し、わが国最高位の3位に入賞している。つい先日も、香港の大会で100㎞の山道を走ってきたという。
鏑木氏は次のように語った。
「トレイルランニングは欧米がさかんだが、わが国でも3~5年前から盛り上がってきた。ランナー人口は15万人くらい。私は普及させるためにいろいろ活動している。富士山の大会では約2,300人の参加者のうち約450人が外国人。かなり高い比率だ。
〝マウントフジ〟は日本語の固有名詞でもっともよく知られている言葉ではないか。外国人ランナーは一様に日本の山を褒める。わが国は世界で3番目の森林率の高い国。都心から1、2時間くらいでアクセスできる。多様性と繊細性では世界一。〝山を走るなんて〟とネガティブに考える人もいるかもしれないが、苦しい壁を乗り越える感動はスポーツでしか体験できない。3日間走り続けた人を迎えるときは、自分も涙を誘われる。感動の中にエネルギーがある。
その一方で、ごみの量には驚かされる。ボランティアでゴミ拾いも行うが、ひどさに涙が出る。林道などは行政で整備されているのに利用しないから荒廃も進んでいる。
富士山の大会では11市町村を走るので、それぞれの地域の食品・食材などを活用したイベントもできる。スポーツを使えばいろいろな展開ができる。大きな流れの渦を作りたい。文化を育てる社会的意義も大きく、景観づくりにも役立てることができるはず」
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懇談会での各委員の主な意見を紹介する。(順不同)
池邊このみ委員(千葉大大学院教授) 利害関係がからんでくると合意形成が難しい。森林・林業や農業が景観を支えているが、現在の補助金制度は景観の視点が欠落している。この点からもお金が入る制度を考えていい
小浦久子委員(大阪大大学院准教授) 景観計画をどうして作ったかの意味をきちんと伝えないといけない。富士山のように目標がある程度共有されていれば引っ張っていけるが、景観計画の内容や計画に示す基準の意味をつたえる必要がある
西山徳明委員(北海道大教授) 「富士山の姿(景観)をまもる」という目標は明快で共有しやすいが、どこまでが視対象(見る対象)としての「富士山」なのかを明確にすべき。「富士山」の姿のなかに反射するメガソーラーは作るべきではないが、その外側は事情が違う
山畑信博委員(東北芸術工科大教授) 静岡県はメガソーラー規制の面積要件を1,000㎡以上にしているが、その根拠が希薄
卯月盛夫委員長 景観計画は運用段階で「どうして」という説明ができないと利害関係の調整が難しくなる。メガソーラーは何が問題なのかをもっと明確にするべき。エネルギーと公共公益の調整も難しい問題がある。富士と一緒にみんなきれいにしようというのは、景観はお金を生むかもしれないヒントになる。農業と林業の疲弊は景観を保てなくなることにつながる。イベントを活用してもっと利用・活用する必要がある。景観は歴史とつながっているという新しい視点が必要(全体のまとめとして)
オーナー&入居者の双方のニーズ満たす 旭化成ホームズが賃貸住宅見学会
三鷹市牟礼の「母力みたか・むれ」
旭化成ホームズは12月21日、コミュニティ形成型賃貸住宅見学バスツアーを報道陣向けに行った。子育てをテーマにした「母力(BORIKI)」、ペット共生型の「+わん+にゃん」、入居者を女性に限定した「New Safole」で、それぞれコンセプトを明快にし、オーナーと入居者のニーズをマッチングさせているのが特徴。目先の利回りを優先した提案ではなく、中長期的に競争力のある商品企画がいかに大切であるかを再確認させた。
武蔵野市の「母力むさしの」
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最初の2物件は三鷹市牟礼と武蔵野市吉祥寺北町の「母力(BORIKI)」。「母力」については、2年前に竣工した「吉祥寺北町」(22戸)の見学会の記事を参照していただきたいが、母親の声を商品企画に生かしたもので、入居者同士が近所づきあいで子育てを共感し、みんなで子どもを見守りあえるよう仕掛けを施したもの。
居室は居室を細かく区切らず、引き戸を開閉することで使い勝手をよくしており、広い中庭を設けることでコミュニティ形成がスムーズに行えるよう工夫を凝らしている。
企画がヒットしたことは、オーナーや入居状況からよく分かる。「吉祥寺北町」の8代目という賃貸オーナー(58)は、代々受け継がれてきた地域の財産ともいうべき巨木を残し、地域のコミュニティ形成も応援したいという願いを実現できたことを次のように話した。
「平成22年に父をなくし、母親一人が住むには広すぎるので、建て替え・土地活用を考えた。ハウスメーカーなどからいろいろ提案を受けたが、銀行を通じて提案された旭化成ホームズのプランが私の心を動かした。敷地内の樹齢100年はありそうなケヤキ2本と松を残す条件にぴったりだった。良好な環境を作るのは私たちの責任だし、30歳代から40歳代の子育て世代に入居してもらうことで地域貢献にもつながる。兄と弟も快諾してくれた」
入居が始まって2年が経過し、ハロウィン、クリスマス会、雪かき、節分、花見、夏まつりなどが入居者の自発的な発案で行われているという。2年間で3戸の退去があったが、一般募集は行わなくてもウェイティングだけで決まったという。
もう一つの三鷹市牟礼の「母力(BORIKI)」(20戸)も同じコンセプトだ。最寄駅からはかなりあり、建ぺい率40%、容積率80%という厳しい制約の中で、敷地約776坪に大きな中庭を囲むように2階建て2棟が建設されている。11月下旬から入居が始まっており、家賃は相場より数千円高めの設定だそうだが、現在、キャンセル住戸が1戸のみ。
このオーナーはアパートや老人ホームなど多くの賃貸物件を所有しているが、同じものは望んでおらず、社会貢献にも関心があったことから、銀行を介した同社の提案を受け入れたという。
武蔵野市の「母力むさしの」
「母力むさしの」の前でインタビューに答えるオーナー
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ペットマンションも女性専用マンションも、ペットや女性を理解していないと是非を論じられない。65年間も生きてきて女性が理解できない記者が、ましてや物言わぬ犬猫が理解できるはずがない。
同社の説明ビデオで、若い女性が「この子」「本人」と言っているのを見て、どこに子どもがいるのだろうとパワーポイントの画面を凝視した。犬もネコも生まれた環境に慣れれば、外で飛び回らなくてもネズミを食べなくても平気でむしろ外に出るのを怖がるということを聞いて、なるほどとは思ったが、去勢された犬猫は産みの苦しみも育てる喜びも味わえないのは果たして幸せなのか考えてしまった。
よって「+わん+にゃん」(10戸)、女性専用の「New Safole」(11戸)については深入りしない。そのようなニーズは確実にあり、目先の利回りのことしか頭になく、経年劣化による設備の陳腐化、競争力の低下のことなどあまり考えてこなかった貧弱な賃貸市場の反映だ。
双方とも賃料が相場と比較して若干高めであるのに、入居募集がスムーズに進んでいるのは商品企画がオーナーやユーザーに理解されているということだろう。
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今回見学した3つの商品「母力(BORIKI)」、「+わん+にゃん」、「New Safole」に共通するテーマはコミュニティだ。記者はこの1カ月の間にコミュニティに関する記事4回書いている。マンション管理協の報告会が2回、三井不動産レジデンシャルのイベントとニュースリリースに関することだ。そして今回で5回目だ。
それぞれが全部つながっている。ひょっとすると、来年はコミュニティがより重要なテーマになるかもしれない。
ペット共生賃貸住宅「+わん+にゃん」
三井不レジ 良好なマンションコミュニティの価値は250万円!? (2014/12/18)
マンション管理協2年間に全4冊1,630枚の研究調査報告書(2014/12/15)
「へーベルメゾン母力むさしの」 コンセプトがズバリ的中、完成前に満室(2012/9/24)