三井不動産 新株発行と株式売り出しで3245億円調達
三井不動産が1億株の新株発行と野村證券を割当先とする第三者割当による新株発行1,000万の合計1億1,000万株を発行し、概算3,245億円の資金を調達するというニュースが飛び込んできた。
調達する資金は、同社が開発を進めている日本橋・八重洲エリア、日比谷エリアや「飯田橋グラン・ブルーム」、「(仮称)ららぽーと富士見」、「柏の葉キャンパスシティ148駅前街区」などのオフィス・商業施設のほか、物流、賃貸、ホテル・リゾートなどの平成27年3月期の設備資金計画3,760億円の一部に充当する。
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現段階で同社の各事業の業績は絶好調。前期末のオフィス空室率は3.5%(連結)と低い水準で、分譲住宅の完成在庫は235戸と3.1%しかなく、今期計上予定戸数5,900戸のうち約5,200戸を契約済みだ。懸念される建築費の上昇も「すでに今期分についてはほとんど発注済み。発注の平準化も進み、一部は価格に転嫁できる」としている。
同社は今期売上高1兆5,400億円(前期比1.6%増)、営業利益1,830億円(同6.0%増)、当期純利益900億円(同17.1%増)といずれも過去最高を予測している。
今回の新株発行と第三者割当増資によって同社の発行済み株式数は約8.8億株から約9.9億株へ12.5%も増加する。増資による利益希薄化による株価の下落も懸念されるが、現在の株価は3,100円くらいで推移している。上場来最高値は2007年5月10日の4,000円。前期末の有利子負債は約2兆円で、前々期末より約800億円減らしている。
三井不レジ 可動間仕切りで間取り自由自在 「駒沢」に初採用
「パークホームズ駒沢ザレジデンス」完成予想図
三井不動産レジデンシャルは5月27日、「可動間仕切り収納(Kanau Shelf/カナウシェルフ)」を採用することで、住戸内の空間を自由に変更することができる「KANAU PLAN」を開発、その第一弾として「パークホームズ駒沢ザレジデンス」に採用すると発表した。
「KANAU PLAN」は、ライフスタイルが多様化する中で、供給サイドが決めた「LDK」の発想では住まい手のニーズに応えられないという発想から考え出したもの。
水回り部分は固定したままだが、「カナウシェルフ」はキャスター付きなので軽く押すだけで移動が可能で、収納の下部に格納されている昇降ハンドルを回すだけで天井に突っ張ることができる。震度5弱以上で扉の開閉を自動ロックする「耐震ラッチ」機能もついている。クロークユニット、下足入れユニット、建具ユニットなど7種類のユニットを組み合わせ、自由に室内をレイアウトできる。各ユニットの寸法は50ミリ単位でオーダーすることもできる。
物件は、東急田園都市線駒沢大学駅から徒歩2分、世田谷区駒沢二丁目に位置する5階建て全50戸。専有面積は40.63~101.66㎡、坪単価は360万円。設計は日建ハウジングシステム、施工は五洋建設。竣工予定は平成27年7月上旬。
これまで来場者は約220件。立地、利便性に恵まれており、外観意匠に力を入れていることから遠方からの反響もあるという。6月7日からモデルルームを一般公開し、販売は6月下旬。
「KANAU PLAN」概念図(左)とモデルルーム
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記者は他の取材があり遅れて発表会に臨んだ。可動間仕切りの提案はもう20年も前から各社が提案しており、別に珍しいことではない。最近では三菱地所レジデンス、コスモスイニシア、伊藤忠都市開発、大成有楽不動産などの同じ発想の優れた提案を見学しているし、三井不動産レジデンシャルも「武蔵小杉」「八丁堀」「大崎」などで思い切ったプランを提案している。
なので「KANAU PLAN」そのものは真新しいものではない。同社がこれまで提案してきたプランからすると当然の帰結だと思った。SI(スケルトン・インフィル)の提案ともいえるものだ。ただ、同社が特許を申請しているように、ユニットは女性一人で動かせ、ハンドルひとつで天井にぴったり張り付かせることができるのがいい。「駒沢」は15戸で対応するが、13ユニットまでは無料。設置するだけで少なくとも100万円以上の価値があるという。もちろん、好みの間取りに変えられる価値はお金では換算できない。
それよりも、驚いたのは単価だった。坪単価360万円は極めて安いと思った。徒歩2分で設計は日建ハウジングシステムだ。物件は北口から徒歩2分なので、駅の南側よりは安いと思ったが、坪単価は380万円くらいだと弾いた。
早速、現地を見学した。まずまずの住宅地だが、難点もあった。玉川通りと高速道路からは離れてはいるが、うるさいほどではないにしろ、かといって静かではない。この騒音を考慮して下方修正した。それでも坪360万円はこれから供給される駅近マンションと比べたら割安感がある。申し込みが殺到しても驚かない。
「可動間仕切り収納(Kanau Shelf/カナウシェルフ)」(ハンドルが見える)
現地(奥のタワーマンションは玉川通りに面している)
子育てに人気呼ぶか 大和ハウス・伊藤忠都市開発「プレミスト浦和常盤」
「プレミスト浦和常盤」完成予想図
大和ハウス工業(事業比率60%)と伊藤忠都市開発(同40%)のJVマンション「プレミスト浦和常盤」を見学した。駅近の第1種住居地域に立地する子育てファミリーにお勧めの好物件だ。
物件は、JR京浜東北線北浦和駅から徒歩5分、さいたま市浦和区常盤10丁目に位置する6階建て全86戸。専有面積は70.54~86.15㎡、価格は未定。竣工予定は平成27年5月下旬。施工は長谷工コーポレーション。販売代理は伊藤忠ハウジング、日本住宅流通。分譲は7月末の予定。
物件の最大の特徴は、北浦和駅から徒歩5分、賑やかな商業エリアから一歩入った住宅街であることだ。「北浦和」は文教エリアとして知られるところだが、常盤小学校へ徒歩7分、常盤中学校へ徒歩10分。このほか大型商業施設へ徒歩3分。
敷地は伊藤忠商事の社宅跡地。東西軸に細長く4方を道路に囲まれており、建物は南向き住戸が90%以上。全戸70㎡のファミリーマンションだ。
販売担当者は、「先週からモデルルームの事前案内会を開始し、これまで来場は130件。駅から5分の第一種住居地域で、常盤中学校や常盤小学校にも近く、モデルルームタイプのプランが人気」と話している。
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いい物件だ。さいたま市の駅近マンションなら浦和や大宮もいいが、教育熱心のファミリーなら「北浦和」に住みたいと思うはずだ。モデルルームの玄関はクランク・インで、設備仕様レベルも高い。リビングドアはソフトクローズ機能付き、洗面は2ボウル、天井高は2400ミリしかないが、圧迫感を緩和するため小梁が出にくい工法を採用している。
現地販売事務所(この部分がマンションのエントランス部分になる。その奥の建設中が同単価レベルのマンション)
3駅が10分以内の第一種低層 三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス元代々木町」
「ザ・パークハウス元代々木町」完成予想図
三菱地所レジデンスが7月に分譲する予定の「ザ・パークハウス元代々木町」を見学した。3駅が徒歩10分圏内の第一種低層住居専用地域に立地する希少の低層マンションだ。価格は未定だが人気を呼ぶか。
物件は、東京メトロ千代田線代々木上原駅から徒歩9分・代々木公園駅から徒歩7分、小田急線代々木八幡駅から徒歩6分、渋谷区元代々木町に位置する地上3階地下1階建て全24戸(事業協力者住戸4戸含む)。専有面積は42.77~100.05㎡、価格は未定。竣工予定は平成27年2月上旬。施工は東急建設。
現地は、山手通りから比高にして10mくらい坂を上った南傾斜の高台。敷地西側には道路を隔ててベトナム大使館がある。
建物のデザイン監修は建築家の柴田知彦氏。同氏は、同社の〝ザ・パークハウス〟第一号マンション「ザ・パークハウス大崎」などたくさんマンションの設計・監修を手掛けており、グッドデザイン賞も11作品にのぼっている。
建物の地階部分にエントランス、駐車場などを配し、住戸は2階から。プランは約42㎡の1LDKが1戸、約55㎡の2LDKが2戸のほかはすべてファミリー向け。
設備仕様は、玄関・ホール・廊下は天然石張り(一部フローリングとの選択制)。玄関と框に段差がないフルフラットが特徴の一つで、建具・面材はマホガニーの代用としてよく用いられるサペリ。キッチン・洗面のカウンターは御影石。バルコニーの天井は木目調のシート張り。バックカウンター・吊戸棚も標準。
販売担当者は「3駅へ10分以内で渋谷へもタクシーでおよそワンメーターという交通便と、第一種低層住居専用地域という立地を評価していただいている」と話した。
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建物の設備仕様レベルは間違いなく同社のフラッグ・シップブランド〝ザ・パークハウスグラン〟と同等だ。
現段階で単価は公表できないが、最近分譲された近隣物件(とはいっても立地条件は全く異なるが)と比較してももっとも高くなりそうだ。しかし、第一種低層のマンションを考えれば、記者は単価には納得する。
旭化成不レジ 賃貸伸長に伴い賃貸仲介ブランド「ヘーベルROOMS」強化
新たに開設する「ヘーベルROOMS 新宿」
旭化成不動産レジデンスは5月26日、旭化成ホームズの賃貸仲介ブランド「ヘーベルROOMS」の直営アンテナショップ「ヘーベルROOMS 新宿」を6月4日にオープンすると発表した。
「ヘーベルROOMS」は、旭化成ホームズが供給する賃貸住宅「へーベルメゾン」など賃貸住宅の入居者募集強化と入居者サービスの向上を目指すもので、昨年1月に立ち上げた賃貸住宅入居者募集代理店ネットワークのブランド。
今回、アンテナショップを開設するのは、直接入居者募集を行うことで入居希望者のニーズを直接把握するとともに、実際の募集活動を通じて独自のサービスやノウハウの開発をおこない、代理店ネットワークにその成果をフィードバックするため。
ブランド力向上のため、昨年度に引き続き旭化成キャンペーンモデルの久慈暁子さんを採用したポスターなどで広告宣伝活動を行っていく。
アンテナショップは、同社が管理する首都圏のヘーベルメゾン約4.8万戸(常時紹介できるのはうち約1,500戸)を紹介するほか、「プライベートブース」を設け、希望に応じて女性が対応する。定休日なし。仲介経験の豊富な「ニチワ」と店舗スペースをシェアする。店舗はJR新宿駅から徒歩2分、渋谷区代々木2-11-17 ラウンドクロス新宿9階。
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同社の賃貸部門の業績はこのところ飛躍的に伸びている。管理戸数は2008年が約36,000戸だったのに対し2014年度は約64,000に達する見込みで、売上高は334億円が608億円に大幅に増加。空室率は4.0%から3.6%へと減少している。同社は2020年までに売上高1,000億円、管理戸数100,000戸を目指す。
記者は賃貸住宅の管理についてはよく分からないが、同社の「へーベルメゾン」や旭化成不動産レジデンスの分譲マンション「アトラス」の賃貸に特化した管理事業では業界トップクラスのようだ。一般的な賃貸マンションやアパートなどと比べ耐震性や遮音性、その他の基本性能が高いからこそ空室率が3.6%という低い水準を維持できている要因だろうということは容易に想像できる。
ただ、私見を言わせていただければ、大手流通業界もそうであるように、これからはグループの総合力が問われる時代だ。たんに賃貸だけでなく中古の売買から、個人住宅の受注、建て替え・リフォーム、不動産投資・資産管理などワンストップで消費者のニーズに応えていくことがグループ全体の業績アップにつながっていくと思う。「へーベル」は首都圏に限っていえば圧倒的なブランド力があるはずだ。
発表会に臨んだ同社副社長賃貸営業本部長・池谷義明氏も「近い将来はワンストップで対応できるような店舗展開も考えたい」と話した。
「19歳、大学2年です。1年間たくさんPRしていきますのでよろしくお願いいたします」久慈さん(青山学院の2年生。久慈さんの左右には池谷氏のほか同社の担当者も並んでいたので、撮ったのだがピンボケで使いものにならず。同社広報そのことをに話したら、痛いところをつかれた。「最初から撮るつもりなかったんでしょ」当たり!)
ブルースタジオ 築85年のシェアハウス 国交省「寄宿舎」に該当せず
「わが家 千峰」
ブルースタジオは5月23日、築85年の木造平屋をシェアハウスにリノベーションした「わが家 千峰」を関係者に公開した。同社が企画・設計したもので、延べ床面積は約108㎡、部屋数は6室。すでに3室に申し込みが入っているという。建築基準法がない時代の建物であることから、国土交通省が定めた「寄宿舎」には該当しない。
物件は、西武新宿線野方駅から徒歩4分、中野区若宮1丁目に位置する木造平屋建て延べ床面積約108㎡。竣工は昭和4年(その後、増築あり)。浴室、シャワーブース、トイレ2カ所、キッチン、洗濯機付き。専用面積は約9~11㎡。月額賃料は6.5万~6.8万円。共益費は1.5万円。耐震補強など改修費は約15,000万円。
「おばあちゃんやお母さんが大事にしてきた昭和の空気を残したい」というオーナーの希望から、当時の建物や建具を極力残して今回のシェアハウスになった。「千峰」という名称は、オーナーの亡くなったおばあちゃんの雅号。
中庭から撮った居室(左)と共用部分の床の間付き和室
大島氏
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現在、国土交通省はシェアハウスの規制に乗り出しているが、今回のシェアハウスは「寄宿舎」ではない。同社専務取締役クリエイティブディレクター・大島芳彦氏は次のように話した。
「区や消防とも協議したが、建基法がない時代の建物であることから、国交省が定めた『寄宿舎』には該当せず、建基法も遡及適用しないことになった」
記者は法律に疎いが、Wikipediaによると「実行時に合法であった行為を、事後に定めた法令によって遡って違法として処罰することを禁止する」という法律不遡及の原則が適用されたことのようだ。
浴室(左)とキッチン
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悲しい性か誇るべき習性か、分譲であろうと賃貸であろうと、建物を見ると記者は坪単価をはじいてしまう。
古ぼけた民家を見て〝こんな家に誰が入るのか〟と不思議に思った。見学の際に手渡された資料を見てさらに驚いた。賃料は65,000円とあった。「えっ、10㎡で家賃65,000円? 坪いくらですか」とたまらず声を掛けていた。
「シェアハウスは共用部分がありますから、坪単価では計れません」とピシャリと関係者からくぎを刺されてしまった。
キッチンの隣にある冷蔵庫と水屋(高価そうな食器が入っていた。使用するのは自由だそうだ)
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木造のシェアハウスを見学するのは20年ぶりくらいだ。最初に見学したのは、シェアハウスの走りのころで、木造民家に10人以上が住んでおり、まるで〝タコ部屋〟(記者が勝手に想像したもので、記者自身タコ部屋を見たことはない)だった。火災でも起きたら大変だと心配したが、家賃の安さから隠花植物のように世にはびこるのだろうと予感した。
今回見学したシェアハウスはその時のものとは雲泥の差があるが、それでも理解の埒外の建物だ。大島氏が「ターゲットは30歳代。20歳代に味気ないひとり暮らしを経験している人、プラスの発想をする人。コミュニティ活動にも積極的にかかわろうという人だ。昭和の住宅を住こなしてやろうという気迫が必要。すき間風とか隣の声を気にするような人は住めない」と話した。
なるほどそうだ。シェアハウスには共用施設の風呂もあった。レトロな檜風呂だった。風呂を使用するのは自由だが、使用後はしっかり掃除するのがルールだという。
夏はいいが、真冬には小窓から寒風が吹きつけるはずだ。真っ裸で風呂洗いをする光景を思っただけで、記者などは震え上がった。風呂から上がり、掃除をして出ようと思ったら湯冷めしてまた入りたくなる-そんな風呂にだれが入るのか。見学に来ていた若い女性に聞いたら、「毎日入ろうとは思わない」と話した。最近の女性は毎日風呂に入らないのか、それとも銭湯に行くのか。野方に銭湯はあるのか。
そんな建物に、見学者は同業や同社の関係者、オーナー中心に180人にものぼった。昨年の青木茂先生のリファイニング建築には300人集まった。いったい、いつから人はまた群れて住むようになったのか。薄い壁一つ隔てた6畳間に女性が住んでいて安眠などできるのか-こんなことを考えると、今晩は眠れないかもしれない。
玄関(見学者はきちんと揃えていたが、昔見たシェアハウスは乱雑に脱いだままも少なくなかった)
あっぱれ!モリモト 階数を2層分減らし天井高2.7m確保「本郷弓町」
「ディアナコート本郷弓町」完成予想図
モリモトの「ディアナコート本郷弓町」を見学した。高さ規制が46mのエリアで、通常なら15階建てが可能だが、同社は居住性を高めるため13階建てに抑え、各住居の居室の天井高を2,700ミリ確保した。モリモトのマンションが売れるのはこうした商品企画だからだ。あっぱれ!モリモト
物件は、東京メトロ丸ノ内線・都営大江戸線本郷三丁目駅から徒歩4分、文京区本郷2丁目に位置する13階建て全42戸(事業協力者住戸4戸含む)。専有面積は43.05~99.43㎡、価格は未定だが坪単価は400万円前後になる模様。竣工予定は平成27年11月下旬。設計・監理は日本エーコン一級建築士事務所。デザイン監修はアーキサイトメビウス。施工はイチケン。分譲は6月下旬。
現地は、旧町名では「弓町」と表示されていた一角にあり、弓町では過去10年間で10物件が供給されている。うち9物件は三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産の大手デベロッパーの物件だ。春日通りから一歩入ったところで、隣は区立本郷台中学校。
建物は13階建て。内廊下方式で、1フロア2~4戸の全住戸角部屋タイプ。リビング・ダイニング、居室の天井高を2,700ミリ確保(水回り部分は2,300ミリ)。またダブルアウトフレーム逆梁工法を採用することで、リビング側も妻側も梁型を住戸の外に出す工夫も行っている。プランセレクトから設計変更まで全戸オーダーメイド対応する。
同社プロジェクトマネージャー・小檜山晃氏は、「反響は1カ月で約900件。とてつもない数字」と話していた。
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記者はこれまで何度も高さ規制は取っ払うか条件を緩和すべきと書いてきた。今回、同社が15階建てにできるところを13階建てになぜ抑えたのかその理由は知らないが、居住性を高めるための決断だったら拍手喝さいを送りたい。天井の高さが通常の2,500ミリと2,700ミリとではどれほど空間的な広がりが異なってくるかについては言うまでもないことだ。現在の建基法の高さ規制は、居住性や資産性を押し下げる役割しか果たしていないと思う。
デザインも秀逸だ。建物のデザイン監修はいつものアーキサイトメビウス・今井敦氏だが、インテリアデザインはリエゾン・鬼倉めぐみ氏。同社のマンションでは初めてだという。床や建具はチーク材の突板。鬼倉氏は、来週見学会がある三井不動産レジデンシャルの「千代田富士見」でもインテリアデザインを担当している。
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マンションギャラリーの設えも最高だ。同社のギャラリーはこれまで100近く見ているはずだが、おそらく今回がもっとも仕様レベルが高いはずだ。ビルの1フロアを借りているもので、接客スペースは100坪くらいあったのではないか。エントランスを入ると、壁面は天然大理石で張り巡らされ、床はくるぶしまで埋まりそうな限りなく100%ウールに近いジュータンが敷き詰められていた。
大手デベロッパーの大型物件では、完成後のマンションを再現した天然石やら天然木をふんだんに用いたギャラリーは珍しくもないが、分譲戸数が40戸にも満たない物件で、これほど豪華なものは記憶にない。
これまで「弓町」で供給された10物件のうち9物件が大手4社だ。記者は同社だけは大手と互角かそれ以上に戦えるとみているが、今回も圧倒的な人気になるか。坪単価400万円前後は納得だ。坪単価だけなら、4年前に野村不動産が分譲して圧倒的な人気になった「プラウドタワー本郷東大前」の360万円をはるかにしのぐ。
野村の物件は「赤門」の隣だ。記者は当時、「東大を睥睨する」と見出しに付けたが、野村は東大の学長に頭を下げたと聞いている。モリモトは、野村のマンションより〝頭が高い〟と叩かれないかというのが心配といえば心配だ。もしそうなったら〝もっとやれ〟と記者は同社の尻を叩いてやる。
当欄で紹介した同社の「川崎タワー」(159戸)が完売し、「小石川竹早」(75)も残り2戸。絶好調のようだ。
エントランス(完成予想図)
来場者も絶賛 モリモト「ディアナコート小石川竹早」(2014/2/21)
東京都 最新の技術を導入した環境配慮型の施設完成
「新省エネ東京仕様開発提示プロジェクト研究」施設(庇の下に「ライトシェルフ」がある)
首都大学東京リーディングプロジェクト「新省エネ東京仕様開発提示プロジェクト研究」に基づいて建設された都の施設を見学した。
同施設は、東京都と首都大学東京都市環境学部特任教授・山本康友氏らが中心になって4年間にわたり研究を続けてきたもので、IT技術を駆使し、太陽光発電、再生可能エネルギーの導入、地中熱利用ヒートポンプ、木材の利用、壁面緑化など現状で最高水準の省エネと省エネ仕様で整備したもの。
都財務局建築保全部機械技術担当課長・中村圭一氏は、「この施設と同等規模のものと比べ半分以下のエネルギーで運営できるよう試算して建設された。環境配慮のためにコストをかけており、この施設のデータ結果を踏まえ、今後の施設に採用していく」と話している。今後、計測データを蓄積して検証する。
「エコパティオ」(ツタが生長していないのが分かる)
屋上の太陽光パネルと屋上緑化
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この施設について山本教授が「最高レベルの環境配慮型ビルにした」と語ったように、様々な最新技術が導入されている。まず、自然光採光・自然換気装置。自然光採光では、南側外壁に取り付けられた「ライトシェルフ」は太陽光を取り込み、反射させて室内の天井などを明るくする。
自然換気システムは、最低と最高の温度を設定すれば、その温度内で窓が自動的に開閉し、外気と室内の空気や風の入れ替えを行い、快適な執務環境を保つものだ。強風時には、室内の書類などが飛散しないよう自動的に閉じられる。三協立山の製品だった。
南側から取り入れた風は北側の窓から抜け、「エコパティオ」を通じて上空へ流れるようになっている。「エコパティオ」の壁面には緑化も施されている。地中熱利用は大きなスペースが必要でイニシャルコストが掛かることから期待はされているほど普及は進んでいないが、この施設では冷暖房費を大幅に削減できるとしている。
屋上には太陽光発電施設や屋上緑化とともに保水性のタイルが採用されていた。建物の北側壁面には「エコウォール」が採用されており、車の排気ガスや騒音などの環境負荷を軽減する。1階の受付コーナーのカウンターには多摩産材のスギが使用されていた。
自然換気装置の窓が開いている状態(左)とエコウォール(ここもイタビカズラがほとんど生長していない)
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記者が感動した最高レベルの環境配慮型ビル「日土地虎ノ門ビル」との比較にはならないが、立派な施設だ。一つ注文がある。壁面緑化と外構だ。竣工したばかりなのでやむをえない部分もあるが、「ココパティオ」(中庭)」の壁面緑化用のアルミ柵は剥き出しで、カロラインジャスミンなどのつた植物は10センチほどもなく、壁を這い上がるどころか地を這っていた。中村氏は「計画ではもちろん4層まで届くことになっているが、コストもかかるのでどうしても外構にしわ寄せがくる」と申し訳なさそうに話した。外構の樹木も幼木が目立った。
ビルもマンションも価値を大きく左右するのは緑だ。時間が経過すれば立派な樹木に育ち、壁面緑化も完成するのだろうが、都が誇る建物とは対照的な貧弱な緑が気になった。
もうひとつ、これはどうでもいいことで尾篭な話で申し訳ないのだが、面白かったので紹介する。雨水利用のトイレだ。
都心部のオフィスビルほど豪華ではなかったが、女性用トイレはしっかりと気配りされていた。便器は消音・擬音装置付きで、すがすがしいさわやかな軽井沢の小川のせせらぎのような水音がした。
その一方で、男性用の小便器は小型で飛沫が四方八方へ飛散するのではと心配になった。大便器も女性用とは対照的に、糞尿はもちろんだが義憤やら憤怒やらの不条理を一挙に海に放出するかのような九頭竜川の激流の水音そのものに聞こえた。
木村技研の「節水トイレ」が採用されており、同社のホームページには「画期的な商品」「トイレブース内に利用者が滞在する時間を対人センサーで計測し、滞在時間の長さに応じて大用・小用を判断します。それぞれに必要な水量を流し分けることで、ムダな洗浄水をカットすることができます」とある。
しかし、ちょっと待ってほしい。いくら最近は草食系なり絶食系が増えているとはいえ、わざわざ小を足すために大のブースに入り、長く滞在する男性はいるのだろうか。時間センサーでなく臭いセンサーはできないのか。擬音装置は小川のせせらぎがいいのかよく分からないが、華厳の滝は逆効果か。
施設は一般の方が見学に押し掛けられると業務に差し障りがでるのかオープンにされていないが、もちろん拒否ではない。壁面のツタが生い茂る数年後には素晴らしいビルになるはずだ。
男性用トイレ
外構
消費増税後のマンション市場 影響は限定的 新価格市場へ
「新価格 みんなで渡れば怖くない」
「高値待ち 後出しジャンケン一挙駆け」
(以下は、不動産業界の方というより一般の方に読んでいただくように書いた記事です)
言葉は悪いのですが、いまのマンション市場を一言で言い表せれば「新価格みんなで渡れば怖くない」「高値待ち後出しジャンケン一挙駆け」です。いま分譲されている1戸当たりの平均価格も専有面積3.3㎡あたり単価(坪単価)も、昨年の今頃と比べ確実に1割以上値上がりしています。従来相場の〝旧価格〟をどんどん更新する高値の〝新価格〟が登場しています。これは序章、序の口にすぎません。これからは新価格どころか〝新々価格〟も出現するのが必至です。
用地取得費や建築費の上昇が最大の要因ですが、他にも理由があります。市場がアベノミクスによる景気回復や低金利、先高観を誘って極めて好調に推移しているからです。売れ行き好調が価格上昇の大きな要因の一つです。
大手不動産会社などで組織する業界団体・不動産協会の岩沙弘道会長は、先日の同協会総会後の懇親会でも「消費税は8%に引き上げられたが、分譲住宅はローン減税の拡充、すまい給付金などの支援策によって、いまのところ反動減は避けられている」と、消費増税の分譲住宅事業への影響は限定的と語りました。
では、いったいいくらまで上昇するか。都心部は軒並み坪400万円以上となり、リーマン・ショック後の坪単価の最高値800万円を来年あたりは突破し1,000万円くらいになると見ています。これまでは250~260万円が相場と思われていた準都心部(都心を除く概ね23区や横浜方面)では坪単価300万円を超えてくると思われます。一般的なサラリーマンが無理なく買える坪単価が200万円以下(分譲価格が3,500万~4,000万円)の地域は23区内では城東エリアの一部しかなく、郊外部でも最寄り駅からバス便などの遠い物件に限られると予測しています。
とはいえ、消費者の取得能力に限界もあります。強気な価格を設定して売れなければ業績に影響します。だから、同業他社が高値を付けたところで、やや低めの価格にして一挙に売ろうというのがデベロッパーの戦略です。先ごろマンションの供給量が激減したと報じられたのも、売りものがないのではなく様子見です。
売り急ぎをしなくてもいいのです。大手デベロッパーは今期の売上計上予定の6~7割はすでに契約済みです。これから分譲する物件は来期や再来期に計上する物件です。お互い腹の探りあいを演じ、新価格が出揃ってから押っ取り刀で他社を圧倒しようというのが今のマンション業界です。
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さて、このような過熱気味の市場に消費者はどう対応したらいいか。これが難しいのです。消費者と言ってもそれこそ百人百様、みんな考え方も家族構成も異なります。しかも、不動産という商品は唯一無二、世界に同じものが二つとしてないという特性があります。
ですから、一人ひとりに適切なアドバイスなどできません。確実に言えるのは、性懲りもなく繰り返される〝マンション今が買い〟〝分譲か賃貸か〟などの見出しが躍る雑誌記事などは読まないことです。雑誌社も不動産に関する記事は〝売れるから〟取り上げるのであって、決して消費者の味方ではありません。斯く言う筆者も業界紙の記者であり、お客さんの味方ではありません。かといって敵ではありません。劣悪な住宅の取材からすっかり足を洗いました。
そもそも住宅は、金利動向や地価・建築費動向、市況によって買うものではありません。通勤に不便、子どもが成長する、陽が当たらない、家賃が高いなど買わざるをえない動機・理由があります。こうした問題と無縁の富裕層の方は、不動産を金融商品のように買ったり売ったりするのは自由ですが、一般的なサラリーマンの方にとって煉獄の苦しみが到来しないことを望むしかありません。
お勧めは自ら居住する地域の不動産流通会社に相談することです。最近の仲介会社は敷居を低くして、お客さんとの距離を縮めようとしているところが増えています。新築が無理なら中古を買うのも選択肢の一つです。最近流行りのリノベーションもあります。
間違っても猫の額ほどの庭もない、ぺんぺん草も生えないような一戸建てや、安かろう悪かろうのマンションを買わない勇気を持ってほしいものです。とにかく〝見る目〟を養ってください。
フージャースHD マンション単品から戸建て・地方・シニアの4本柱へ大きく転換
廣岡社長
フージャースホールディングスは5月21日、2014年3月期決算説明会を開き、廣岡哲也社長は、急速に進む少子高齢化や都市の成熟化など時代の変化を見据え、安定的な収益構造を構築するため事業戦略を大幅に転換していくことを明らかにした。3月期では72.5%の事業ポートフォリオ構成比を占める首都圏マンション事業を2017年3月期には20.0%に抑制し、地方・再開発を20.0%に、シニアマンションを20.0%に、分譲戸建てを20.0%に、中古再販・リノベーションを5.0%にそれぞれ引き上げる。
今後の事業展開について廣岡社長は、「首都圏の一次取得層向けマンションは、需要はあるが土地や建築費の上昇でやりたくともやれなくなってきた。分譲戸建ては相対取引で用地も取得できており、建築費の上昇もそれほどでない。商品企画を向上させたことで、大手と戦える手ごたえもある。引き続き拡大させ、年間200棟くらいを目標にしていく。地方は駅前の一等地や再開発案件など優位性のある案件を中心に手がけていく。中古再販・リノベーションも事業化が進んでいる。シニア事業は、補助金目当ての25㎡以下の『サ高住』とは一線を画す。70㎡くらいの『住まいを提供する』シニア向けの所有権で新しいニーズを掘り起こしていく。今年度は増収減益を見込んでいるが、事業転換のための端境期で、ネガティブな考えは持っていない」などと語った。
同社の2014年3月期は、売上高369億円(前期比12.1%増)、営業利益67億円(同8.1%増)、経常利益64億円(同6.7%増)、当期純利益38億円(同30.8%減)を計上。マンションの売り上げ増が業績に寄与した。
2015年3月期は売上高390億円(前期比5.6%増)、営業利益51億円(同24.9%減)、経常利益47億円(同26.8%減)、当期純利益28億円(同27.4%減)の増収減益を見込んでいる。
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廣岡社長の話を聞いていて、至極もっともな選択だと思った。首都圏マンションは大手の寡占化が振興している。一次取得層向けは大手があまり手を出さない〝隙間〟ではあるが、用地争奪戦が激化するはずだし、建築費の上昇は当分続く。サラリーマンの取得限界に来ているだけにリスクも大きいと見ている。
一方で、同社の分譲戸建ては数問前と比較してデザイン・外構が劇的に変わった。以前はパワービルダーと対して違わず、〝果たして大丈夫か〟と見ていたが、現在の商品企画なら大手と互角に戦える。
地方はよく分からないが、廣岡社長は「地方は3匹目の土俵はないと思っている。エリアの一等地で展開していく」と慎重な構えも見せた。かつて地価の上昇局面で、首都圏から地方圏へ転戦したデベロッパーはことごとく失敗しているだけに廣岡社長の舵取りに注目したい。
シニア事業について廣岡社長は「第二の柱に育てたい」と話した。「サ高住」は競争が激しいが、「施設」利用権ではなく「住まい」としての所有権分譲は大きな可能性を秘めていると思う。同社は全150戸の中高齢者向け「デュオセーヌ」をつくばで分譲中とのことだ。天然温泉、医療・介護・看護サービス、コミュニティを盛り込んでいるのが特徴だという。機会があったら見学したい。