筑波研究学園と多摩ニュータウン 似ているのか似ていないのか
つくば駅前
市内の一等地ではあるとはいえ、坪単価160万円という決して安くないタカラレーベン「レーベンTHE TSUKUBA」が好調な売れ行きを見せている。つくばエキスプレス線つくば駅から徒歩8分の全322戸で、この半年間で3分の2が売れているという。この記事を書く前に、「つくば」がどのような街であるかを紹介したい。同じような街づくりの多摩ニュータウンや、先iに書いた「柏の葉スマートシティ」と比較して読んでいただきたい。街づくりはいかにあるべきかの参考になるはずだ。
駅から10分程度の公園(人は一人もおらず、「持ち帰りましょう。犬のふん」の看板が立っていた)
◇ ◆ ◇
「レーベンTHE TSUKUBA」の取材を終え、一服しようと街の中心街へ向かった。午後4時過ぎだった。街行く人は信じられないほどまばら。野良犬も野良猫もカラスもスズメもいなかった。広い公園も人はいなかったが、禁煙だった。
最初に入った施設はホテルも入居するビル。1階にはかなりの飲食店があったが、人は皆無。全店舗とも夕方の営業は5時からと表示されていた。
仕方なくあちこちの店舗・施設を探し回ったあげく、ようやく探し当てたのは駅前のチェーン店のドーナツ屋だった。記者はただでもドーナツなど食べないから、コーヒーだけ注文した。270円だった。いつも利用するコーヒー専門店は消費増税に便乗したのかどうかはしらないが、200円から220円に値上げされた。ここはさらに50円も高かった。2本のタバコを吸った。時間は5時近くになっていた。1時間は街をうろついた計算だ。
記事は足で書く、人間は考える〝足〟だ。記者は飲むときと寝るとき以外はほとんど仕事、記事を書くことばかり考えている。歩くときもただでは歩かない。街をうろついた1時間は無駄ではない。どうして「つくば」には人がいないかをずっと考えた。そこで結論付けた結果はこうだ。
公務員・研究者が多い街だから、勤務時間中は外に出ない。人と接触する必要がない。教育日本一の街だから、小中学生は塾通いに忙しく、外で遊ばない。街区構成が大きいから、モーターリゼーションが徹底されている。車で移動しないと暮らせない。高齢者は出不精になる。横並びを旨とするのが公務員の世界だから、その意を汲み抜け駆けして早くから営業しようという店舗もない。学歴が高く、生活も安定しているので、パチンコ屋、アダルト系などのギャンブル・遊興施設を利用しない。タバコが吸えないから、喫煙者は街に近づかない。犬猫やカラス、スズメは人に寄り添う動物だから、人がいないところに住まない-などだ。
駅前一等地の商業ビルの店舗(人がいないところを狙って撮ったわけではない)
◇ ◆ ◇
歩くことは新しい発見をすることだ。1時間の間、途中で寄った駅構内の観光案内所で「つくば市議会だより」を貰った。日付は2月15日。次号は5月15日とある。つまり市議会の動きは年に4回しか市民に紙媒体としては公開されないということだ。これはどこも一緒だろう。
それでもすごく面白い情報をもたらしてくれた。「市政を問う白熱の一般質問」というスポーツ紙並みの刺激的な見出しの記事には市議会議員と市長のやり取りが紹介されていた。主だったものを紹介する。つくば市の置かれている状況がよくわかる。先に書いた記者の仮説が正しいことを裏付けてくれた。( )は議員の質問、「 」は市長の答弁。
(市内における約2500戸の国家公務員宿舎が削減されることが突然発表されてから1年…国策で作られた街『つくば』が、自立できるかどうかが試されている)「駅周辺には多くの公務員宿舎があり、これが一遍に廃止になることにより…まちづくりに与える影響は非常に大きい」
(筑波研究学園都市の建設が閣議了解されて、今年で50周年…今一度、均整のとれた田園都市を目指した…建設当時の理念に思いをはせて…)「都市づくりは百年の計とも言われる長期ビジョンが不可欠であり…次の50年を見据えたまちづくりが極めて重要」「科学技術を活用し、緑豊かな環境に集う人材や知材が未来を先導する自律都市、スマート・ガーデンシティを構築したい」
(平成25年度の県内交通死亡事故は…全国ワースト2位。つくば市内の死者数12人)「11月末現在で交通事故死亡者数が12人で、全員が65歳以上の高齢者」
(韓国系の市民団体が全米で従軍慰安婦像を設置しようとの動きがある…つくば市と姉妹都市を結んでいる市にも同様の動きがある…つくば市は、我が国の立場を堂々と説明し、従軍慰安婦像を設置することのないよう申し入れるべき)
「土浦市と合併しますと、財政規模が1000億円以上になり…中核市になることによって…つくば市が目指す教育日本一の取り組みに、一層の進展につながると期待」
「街路樹や宿舎の植木などの現状を見ると、雑草が生い茂って、管理が十分行き届いておらず、必ずしも良好な環境にあるとは言いがたい」
(先端技術が日々開発される学園都市として、マイクロソフト社の製品から脱却し他自治体に先んじてLinux導入の実績とノウハウの蓄積を図るべき)「全てのコンピュータをLinuxへ切り替えることは現実的ではない」
商業ビルの見事な広場(人の気配はまったくない)
◇ ◆ ◇
つくば市は、多摩ニュータウンと極めてよく似ている街だ。双子か兄弟のような存在かもしれない。開発手法が、UR都市機構が主導した土地区画整理事業と新住宅市街地開発法によるというのが同じだし、規模もほぼ同じ。筑波研究学園都市の区域面積が約2,900ha、計画人口が35万人であり、多摩ニュータウンのそれは約2,800ha、約34万人だ。前者は昭和55年3月までに予定されていた国の試験研究機関、大学などの施設が移転・新設された。後者の入居開始は昭和46年だ。
そして現在。前者の人口は約20万人、後者は22万人。これもほとんど同じ。当初目指した計画人口の6割ぐらいしか達成できていないことも同じだ。様々な問題が噴出し、「百年の計」であるべき都市計画は40~50年でその礎が揺らぎつつある点でも同じだ。
文化の香りがする街でも互角だ。タカラレーベンのマンションのパンフレットにも登場するつくば市在住の毛利衛さんに匹敵する著名人は多摩ニュータウンにはいないかもしれないが、つくば市が標榜する〝教育日本一〟に対しては、多摩市は市職員の給与は日本一と報じられたことがあるし、大学・学生の数では圧倒している。売り場面積では本店に次ぐ広さの丸善もある。
つくばと多摩ニュータウンはこのように酷似している街ではあるが、まったく似ていない部分も多い。例えばパチンコ屋。記者は高校時代にやり方は覚えたが、少なくともこの40年間はやったことがない。時間の無駄だと思ったからだ。そのタバコの是非はともかく、つくばの徒歩圏には1軒もない。多摩センター駅周辺には3カ所はあるはずだ。フーゾクだって駅近にある。10分も歩けば野良猫に会えるし、絶滅危惧種の野草も発見できる。駅周辺の公的場所では禁煙だが、喫煙場所もあるし、公園などでは喫煙を禁止などしていない。つまり、多摩ニュータウンはまだ人が住める、人間らしい街を維持しているということだ。
さらに、これがもっとも重要なことだが、国への依存度の違いだ。つくばは国策でつくられた街だからまずまずの財政力を誇っているが、一般会計の62%を占める市税の多くは公務員が納めているのだろうし、市民税より多い固定資産税も国が立派な街をつくったからだ。地方交付税も26億円ある。国に依存しなければ生きられないことは、紹介した議員と市長のやり取りで理解されるはずだ。多摩市も国に依存していないわけではないが、地方交付税はゼロだ。曲がりなりにも自立しているということだ。
駅近の舗道(見通せる100メートルくらいに人の影は数人ほど)
◇ ◆ ◇
タカラレーベンの「レーベンTHE TSUKUBA」の坪単価は160万円。三菱地所レジデンスが同じく多摩センターの一等地で予定している「ザ・パークハウス多摩センター」はいったいいくらになるのか。街のポテンシャルを計る意味でも興味深い。
三井不動産 新産業を生み出すイノベーション拠点「KOIL」開業
「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」外観
三井不動産は4月10日、柏の葉スマートシティの中核街区として開発を進めている複合施設「ゲートスクエア」に設置した企業や個人が集まり交流を通じて新産業を生み出すクリエイティブなイノベーション拠点「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」を4月14日(月)に開業すると発表した。
「KOIL」は、起業家から生活者まで多様な人々の知識、技術、アイデアを組み合わせることで革新的な新事業や製品・サービスを創造するための場で、国内最大級のコワーキングスペース(会員制共有ワークスペース)のKOILパークや、ベンチャー企業だけでなく大手企業の事業部門が入居するオフィスフロア、一般の方のビジター利用も可能な機能を持つKOILファクトリー(デジタルものづくり工房)、カフェやスタジオなどを併設。これまでにないオープンイノベーション・センターとなる。
広さは3フロア合計で約7,980㎡。KOILパーク会員は「月5プラン」の月額6,000円から、「使い放題プラン(固定席)」の月額27,000円まで。入会金は3,000円。
イノベーションの化学反応を起こすため、起業家のアイデアや技術を事業化につなげ、グローバルな飛躍へと導くメンター(助言・支援者)がKOILに常駐。創業支援プログラムを提供するとともに、大手企業、ベンチャー企業、クリエイターや生活者などと交流できる多彩なイベントを開催していく。
挨拶に立った同社常務執行役員・小野澤康夫氏は、同社のベンチャースピリットについて触れ、三井グループの創業のルーツである「越後家」から、土地をつくる「京葉臨海部の埋め立て事業」、空を開拓する、超高層時代を切り拓く「霞ヶ関ビル」、ライフスタイルを提案する「ららぽーと」「東京ディズニーランド」について語り、街づくりのイノベーション事業として今回の「柏の葉スマートシティ」があることを強調。「わが国にある閉塞感を打破するため、世界の課題解決モデルとなる街を公民学が連携して創造することを企図している」と話した。
さらに、「新産業を生みだす空間としての『KOIL』などのハードと、多様なコミュニティとの融合を図り、プラットホーム事業へと発展させ、イノベーション事業のリーディングカンパニーを目指す」と語った。
また、同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏は、今後1年間の目標としてで「KOILパークは400会員をめざし、稼働率は95%くらいを考えている」と話した。この1年間で300を超える内外の団体が「柏の葉スマートシティ」の見学に訪れたことも明らかにした。
「KOILパーク」
「KOILファクトリー」
◇ ◆ ◇
つくばエクスプレスが開業して9年。まだ駅舎だけだった「柏の葉キャンパス」駅前に広がる「柏の葉スマートシティ」には今回で何度目の取材になるのだろう。10回はくだらないはずだ。開業当初から、「柏の葉」だけは成功すると読んだ。ビジョン、哲学が示されていたからだ。
しかし、他の沿線は20年たっても街は完成しないだろうし、その多くは失敗に終わるだろうと考えた。多摩ニュータウンや千葉ニュータウンと同じ旧来の開発手法とほとんど変わらないからだ。その思いは今も変わらない。
そして今回。同社が目指す街づくり全貌が見えてきた。小野澤常務も同社ベンチャー共創事業室長・松井健氏も街づくりのビジョンを語った。胸に響くものがあった。例えれば、ジグゾーパズルの穴が順々に開くような、難しい方程式を一つひとつ解いていくようなわくわく感、快感だ。
「柏の葉スマートシティ」は、2011年に国の「環境未来都市」「地域活性化総合特別区域」に指定された。ここでは紹介しないが、2050年の「柏の葉」の近未来像を描いた「提案書」には、「石化燃料を一切使用しない世界が広がり、長寿・高齢化社会は手放しで喜ばしいことと歓迎され、子供たちは、語学ばかりでなく国際的なリーダーシップの取れる人材として育ち、臆することなく世界へと飛躍し活躍する者が多いため、そのような環境を求めて、世界各国から移住してくる家庭も多い」と記されている。
それまであと30余年。記者は間違いなく生きていないが、そのような社会が実現していることを祈りたい。間違っても、建築から40~50年にして早くもさまざまな問題が噴出している多摩ニュータウンや筑波研究学園都市のようにならないようにしてほしい。
会見に集まった記者は約50人(通常のマンションなどの2~2.5倍くらい)
左からTXアントレプレナーパートナーズ最高顧問・村井勝氏、三井不動産常務・小野澤氏、同社ベンチャー共創事業室長・松井氏、ロフトワーク社長・諏訪光洋氏
「柏の葉」の「環境未来都市」 涙が出るほど嬉しい提案書(2012/2/13)
ポラス 東上作戦に手ごたえ 城北から西武戦線も視野に
「ヴィル・ボワール板橋-小豆沢-」
埼玉・千葉の分譲戸建ての雄、ポラスグループがいよいよ都内城北の東上沿線から西武線沿線での展開を活発化させてきた。今年初めに分譲開始した第一弾の東上線の「マインドスクェア赤塚Ⅱ」(全12棟)は未着工にもかかわらず、3棟を除き完売。第二弾の「ヴィル・ボワール板橋-小豆沢-」も早期完売は間違いない。
記者が見学した「ヴィル・ボワール板橋-小豆沢-」は、都営三田線本蓮沼駅から徒歩8分、板橋区小豆沢1丁目の準工業地域に位置する全10棟。1戸当たりの土地面積は82~87.31㎡、建物面積は88.81~95.67㎡、価格は未定だが5,000万円台が中心になる模様。建物は木造2階建(2×4工法)。完成予定は平成26年6月下旬。
全体完成に先駆けて完成させたモデルハウスは、1階の玄関ホール・キッチン・リビングなどの天井高が約2.7m。リビングの広さは16.1畳大。2階主寝室は8.8畳大。屋上には多目的に利用できるルーフバルコニーを設けている。
本格的な販売はこれからだが、すでに2棟に申し込みが入っているという。建物は、石張りのエントランス、天井高2.7m、ニッチの多用などは従来の同社の商品企画と同じだ。外壁はサイディング仕上げ。
◇ ◆ ◇
業界関係者なら「小豆沢」がどのような地域かよくご存じのはずだ。多くのエリアが準工地域で、工場街のイメージが強い。現地も工場跡地で、敷地北側には壁のように高層マンションが建ちはだかっている。敷地の先も工場跡地で、住友不動産が全621戸の大規模マンションを分譲する。住環境はいいとは言えない。
ところが、道路を挟んだ対面にはとても「小豆沢」の建物とは思えないお洒落な事務所ビルが建っていた。昨年度の「第26回日経ニューオフィス推進賞」を受賞した「GC R&D Center」だった。この日も、専門誌を抱えた若いグループが見学に訪れていた。
記者はもちろん外観しか見ることができなかったが、4層の建物はガラス張りで、1層の階高は普通のビルの1.5倍ぐらいあった。敷地をセットバックさせ舗道・緑地空間にしているのも目を引いた。
用地取得を担当したマインドスクェア事業部係長・野理剛直氏も「この借景なら立地条件の難点がカバーできる」と判断して入札に参加したという。
「GC R&D Center」
◇ ◆ ◇
見学後、ポラス取締役で同社グループの分譲戸建て事業を展開する中央住宅マインドスクェア事業部長・金児正治氏も加わり、野理氏、同社広報マンと歓談した。
城北エリアでの事業展開では金児氏は、「チャンス到来。当社の商品企画が受け入れられることが分かった。城北エリアでの事業をさらに強化する。三井さんのファインコートを意識したデザインの物件も供給する」と話し、野理氏や広報マンも「都内では当社の知名度は全くないことが分かったが、物件を見てもらえば十分に勝算はある。『赤塚』ではあちこち回遊された方が結局、当社のものがいちばんいいと購入してくれた。『一番高いのがほしい』というお客さんもいた」などと威勢のいい言葉がポンポン飛び出した。
様々な観点から話題がどんどん発展し、サントリー・パフカル、花、青木茂氏のリファイニング、JV、耐火・防火、タブレット、富山の薬売などで話が盛り上がった。記者は「大手デベロッパーと対決しなくちゃ。張り手をくらわす覚悟が必要」と挑発したら、金児氏は「いやいゃ、猫だましか、けたぐりがいいんじゃないか」といなした。
張り手か、けたぐりか、それともいなしか。近く同社は西武線の石神井公園でも2物件25戸を供給する。金児氏のメモには城北・西武エリアの今後の予定物件がぎっしり書き込まれていた。分譲戸建ての激戦地、西武戦線にポラス旋風を巻き起こすか。
モデルハウス1階キッチンからリビング写す
明和地所 新杉田駅前の商住一体「クリオレジダンス新杉田」
「クリオレジダンス横浜新杉田ハマシップ」完成予想図
明和地所が4月下旬に分譲する「クリオレジダンス横浜新杉田ハマシップ」を見学した。JR根岸線・シーサイドライン新杉田駅前の商住一体再開発で、「都市計画提案制度」の適用を受けた横浜市初のマンションだ。
物件は、JR京浜東北線・根岸線新杉田駅から徒歩3分、シーサイドライン新杉田駅から徒歩2分、京浜急行本線杉田駅から徒歩8分、横浜市磯子区新杉田町に位置する15階建て全176戸の規模。専有面積は55.73~100.32㎡、価格は未定だが、坪単価は193万円の予定。竣工予定は平成27年3月下旬。設計・施工は三井住友建設。都市計画提案・デザインはアール・アイ・エー。
現地は、根岸線とシーサイドライン新杉田駅前のバスターミナルに隣接。周辺には平成16年に竣工した横浜市住宅供給公社の30階建て全308戸の「ヨコハマ・シーナリータワー」くらいしかマンションはなく、ほとんど空白区といえるエリア。
最大の特徴は「都市計画提案制度」を利用した横浜市初の物件であること。都市計画提案制度とは、一定規模以上の土地について、土地所有者の3分の2以上の同意があれば、都市計画の決定や変更の提案ができる都市計画制度のこと。同社は、東芝の研修所などだった一帯を平成17年に取得。用途地域は工場専用地域だったが、市は同社の提案を受け近隣商業地域に変更した。
マンション棟の隣接地には4階建ての商業棟が建設されるのも大きな特徴の一つで、商業棟には保育所、飲食店舗、医療施設、事務所などが予定されており、屋上には緑の展望デッキとして開放される。津波災害発生時には避難場所として提供される。
マンションの最上階の9戸はグレードの高いプレミアム住戸として分譲される。同社の大規模マンション「クリオレジダンス」シリーズは2012年に竣工した「クリオレジダンス玉川上水」以来10棟目くらい。
◇ ◆ ◇
同社は今年で創業29周年だそうだが、記者は創業時からずっとマンションを取材してきた。フラッグシップである「クリオレミントン」はもちろん、今回の「クリオレジダンス」も何件かは見学してきた。
「クリオレミントン」は、ディスポーザーを標準装備した業界初のマンション「三鷹」をはじめ、100㎡住宅、低床バスの積極採用など、業界の最先端の商品企画を提案してきた。「クリオレジダンス」では、横浜市内の駅前再開発タワーマンションなども手がけてきた。ところが最近は、「玉川上水」を最後に供給が途絶えていた。
今回の物件は、同社も相当の力が入っていると見た。デザインに著名なアール・アイ・エーを起用したことにもそれが現れている。坪単価は200万円は突破しないだろうと見ていたので、リーズナブルなものではないか。ディスポーザー、食器洗い乾燥機、ミストサウナが標準装備。プレミアム住戸はオプション仕様通りだと1,000万円くらいしそうだが、思い切った提案はどんどんやるべきだ。
面白いのは商業棟だ。商住の一体開発だが、マンションと商業棟の管理組合はそれぞれ設立し、さらに全体としての組合も設立するという。商業棟の所有権は同社が現段階では保有している。
四季の小路
15階相当部分からの眺め
植栽計画がいい 京阪電鉄不・日土地「世田谷千歳台ガーデン&レジデンス」
「世田谷千歳台ガーデン&レジデンス」完成予想図
京阪電鉄不動産・日本土地建物「世田谷千歳台ガーデン&レジデンス」を見学した。駅から徒歩9分の5階建て中層マンション。価格は未定だが、単価設定が悩ましい。
物件は、小田急線祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩9分、世田谷区千歳台1丁目に位置する5階建て全102戸。専有面積は62.47~86.65㎡、価格は未定。施工は長谷工コーポレーション。竣工予定は平成27年3月上旬。販売代理は長谷工アーベスト。
現地はNTT社宅跡地で、指定容積率が200%の第一種中高層専用地域だが、前面道路の幅員が4mのため160%となり中層の5階建てとなった。建物はロの字型で南向きが76%。
植栽計画に力を入れているのが特徴のひとつで、前面道路を6m幅に拡張し、既存樹を含む約3,000本の樹木・草花を施している。都のマンション環境性能評価制度で満点の星15個に1個欠ける14個(建物の長寿命化が星2つ)を獲得している。
3月の3連休からモデルルームを予約制でオープンしており、これまで約150件の来場がある。ゴールデンウィークまでは全て予約で満席だという。
◇ ◆ ◇
ランドスケープデザインがいい。先日見学した第一種低層住居専用地域の4層マンション、三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上鷺宮」は敷地面積が約18,000㎡で、中・高木の植栽計画は約2,400本だった。こちらは敷地面積が約4,800㎡で、草花を含めた植栽計画は約3,000本。敷地西側の道路拡幅と提供公園の緑が見事だ。中庭にはプライベートガーデンも配している。
価格予想が悩ましい。先の「上鷺宮」は坪単価が280万円で、記者は予想を外した。久々に予想を外したためやや自信が揺らいでいるのだが、ここはアッパーで270万円ではないか。建築費が上昇しているので難しいだろうが、早期完売を目指すなら260万円と読んだがどうだろう。
沿線は異なるが、京王線の同じ長谷工コーポ施工の野村不動産「仙川」は270万円していないはずだ。
「BrilliaCity横浜磯子」街びらきイベントに2,000人参加
「中村孝明貴賓館」を背景に街びらきイベント
「BrilliaCity横浜磯子」の管理組合の下部組織「磯子タウンマネジメント倶楽部」は4月5日、街びらきのイベントとして「磯子ペニンシュラマルシェ」を行った。地産地消をテーマに磯子や三浦半島で採れた食材や加工品などを販売する18店が出店。居住者や地域住民など約2,000名が集まり、キックオフイベントを祝った。
「磯子タウンマネジメント倶楽部」は、「BrilliaCity横浜磯子」(全1,230戸)のマンション管理組合からタウンマネジメント業務を受託・運営する会社で、管理組合の下部組織として発足した。運営費は、管理費とは別に毎月1,000円の業務委託費として組合員から徴収するほか、イベントなどの売り上げなどを充当する。
マンション管理組合理事長は、「マルシェは、地域コミュニティの向上、地域との交流をテーマに実施するもので、今後も継続してやっていきたい。街と地域の発展の一助になり、気持ちがいい親しまれるものとして定着させたい」と話した。理事長は都内出身、奥さんが横須賀市出身。子どもが誕生したことがきっかけでこのマンションの購入を決断。初代理事長として自ら手をあげたという。
このほか、磯子区長や町内会・商店街の代表なども駆け付け、「ここは磯子プリンスホテルとして区民にとってはなつかしいところ」「人が増えないと街は発展しない」「磯子はシャッター通りになっているが、マンションの完成によって活性化されることに期待したい」「磯子地区は高齢化が進んでいるが、ものすごく若返った」などと話した。
タウンマネジメント手法によるコミュニティ支援活動は最近増えており、よく知られる事例としては「Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン)」のタウンサービスがある。コミッティ会員は会費(12,760円/月)を負担し、タウンマネジメント会社はFujisawa SSTコミッティ(住民自治会)に様々な支援やサービスの提供を行う。
23区最大の第一種低層 三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス上鷺宮」
「ザ・パークハウス上鷺宮」完成予想図
三菱地所レジデンスは4月4日、都内23区では過去最大級の第一種低層住居専用地域に位置する低層マンション「ザ・パークハウス上鷺宮」モデルルーム内覧会を行った。全261戸で、坪単価280万円。西武線では久々の高額マンションになる。
物件は、西武池袋線富士見台から徒歩4分、中野区上鷺宮3丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率80%)に位置する地下1階地上3階建て(4層)全3棟261戸の規模。専有面積は62.75~108.00㎡、価格は未定だが、坪単価は280万円。完成予定は平成27年2月中旬。設計は三菱地所設計。施工は東亜建設工業。販売開始は5月上旬。
敷地は元東京海上火災の社宅跡地。敷地面積は約18,000㎡、記録がある1997年以降では23区内で最大規模。
敷地内には約800㎡のプライベートガーデンやライブラリーラウンジ、ゲストルーム、パーティルーム、キッズルームを設け、パン・カフェサービスも行う。建物は、街路に面した外階段をタイルと木彫ルーバーの2つの異なる素材を用いることで、建物全体が街並みとなるよう工夫している。天井高は各棟とも2,450~2,480ミリ。
住戸プランは60㎡台から70㎡台、80㎡台、100㎡台をバランスよく配し、地下1階住戸には約8.3畳大の離れ付きも7戸設けている。
挨拶した同社城西事業部長・吉田重郎氏は、「昨年10月に物件ホームページを立ち上げてから問い合わせは約3,000件、2月5日からの事前案内会には約700組の来場がある。第一種低層の住環境、駅4分の利便性のほか、ランドスケープデザイン、共用施設なども高い評価を得ている」と話した。
グランドエントランス
◇ ◆ ◇
単価予想は完全に外れた。当初は坪270~280万円も考えた。ところが、西武線のひばりが丘や石神井公園の物件単価と売れ行きなどを考えると、どうもこの沿線はグロス6,000万円の壁があるような気がしてならないし、22~23坪だと坪270万円あたりに落ち着くのではないかと結論づけた。
西武線を見くびっていた。読みが甘かった。西武線と副都心線・東横線の相互乗り入れ効果を過小評価してしまった。西武ライオンズファンとしても忸怩たる思いだ。恥じ入るばかりだ。
モデルルームはよくできている。玄関の床は大理石、キッチン、洗面のカウンター天板は御影石(シーザーストーンもあり)。食洗機も標準装備。バルコニー手すりとサイクルポート付き住戸には、貼る角度を変えたオリジナルのロートアルミを採用している。
パブリックガーデン(左)とプライベートガーデン
大和ハウス スマートハウス「SMAEco(スマ・エコ)」ブランド展開
「D-HEMS 3」を利用するイメージ
大和ハウス工業は4月3日、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)、太陽光発電システムを標準搭載したスマートハウスブランド「SMAEco(スマ・エコ)」を戸建住宅全商品に4月5日から展開すると発表した。
第一弾として、エネルギーの収支ゼロを目指す「スマ・エコゼロエナジー」と、家庭用リチウムイオン蓄電池を搭載した「スマ・エコチャージ」を発売する。
「SMAEco」には、パナソニックと共同開発した新型HEMS「D-HEMS 3(ディー・ヘムス・スリー)」、太陽光発電システムを標準搭載。「D-HEMS 3」とエネルギー機器や家電機器をつなげることで、宅外から遠隔で施錠やエアコンなど家電の操作ができ、HEMSとしては初のテレビ視聴や録画などの機能も付加している。
「スマ・エコゼロエナジー」では、断熱仕様を次世代省エネルギー基準仕様としたほか、LED照明などの採用により、エネルギー収支がゼロとなる。
「スマ・エコチャージ」では、蓄電池、「D-HEMS 3」、太陽光発電システムを組み合わせることで、新省エネ基準による住宅と比べ、光熱費を年間約26万円削減できるとしている。
「スマ・エコゼロエナジー」は、次世代省エネルギー基準仕様が37.8万円、「D-HEMS 3」が16.2万円、太陽光発電システムが54万円/kW。
「スマ・エコチャージ」は、6.2kWhリチウム蓄電池が225.72万円、「D-HEMS 3」が16.2万円、太陽光発電システムが54万円/kW。
積水ハウス 業界初「字幕付きテレビコマーシャル」開始
テレビCM
積水ハウスは4月3日、住宅業界で初めて「字幕付きテレビコマーシャル」トライアル放送を実施すると発表した。
長年、家づくりで培ったユニバーサルデザインの視点をCMにも反映させるもので、音声情報を字幕で選択表示することで、耳の不自由な人により正確な情報やメッセージの伝達を目指すもの。
BSフジの同社が提供する番組「五木寛之『風のCafe』」内で字幕付きCMのトライアル放送を4月5日(土)から実施する。
わが国の難聴者人口は潜在的な難聴の方も含めると約2000万人と推定されており、デジタル放送への移行に伴って字幕番組は年々増加し、NHK(総合)では83.5%、在京民放テレビ5 社では9 割以上(93.3%)が字幕付きになっている。1週間の総放送時間の約18%を占めるテレビCMへの字幕付与は数社によるトライアル放送が始まっている。
ナイス 常識破りの「住まいるCafe」来館者は前年度比8倍増9.6万人
「住まいるCafe鶴見東」の「キットパス教室」(記念写真は記者が頼んだわけでもないのに集まってくれた。お互いの信頼関係が築けているからできることだ)
店舗はまるで幼稚園・保育所状態
年度末の3月下旬。不動産仲介店舗は目標数字を達成するために追い込みに躍起になっている。営業マンは店長に尻を叩かれ飛び回っているはずだ。通りかかったナイスの仲介店舗「住まいるCafe鶴見東」にはたくさんの人が集まっているように見えたが、様子が変だった。覗いてみようと近づいたら、久保正人所長が手招きした。久保氏とはRBA野球で10年かそれ以上のお付き合いだ。
店に入って驚いた。奥の方には商談か会議か額を突き合わせているグループもあったが、店内はまるで保育所・幼稚園化していた。小さな子どもを連れたお母さんたちで溢れていた。10組くらい集まっていたのではないか。何事かと聞いたら専門家を呼んで「キットパス」の教室を開いているという。キットパスとはつるつるした平板なものなら絵が描けて、ぬれたタオルなどで簡単に消せる新しい絵の具だそうだ。
もともと記者は仲介の取材はほとんど行ってこなかったが、このような光景は他社の店舗ではまずないはずだ。ナイスの店舗では日常化しているというから驚きだ。
スペースは無料で開放。習いごとやサークル活動に利用できるほか、町内会や商店街の特売情報なども発信している。コーヒーが無料で飲めるコーナーもあり、毎日のように訪れるお年寄りや、若い女性が立ち寄ることもあるという。スタッフから物件を紹介することなどは厳禁。久保所長は「私も何をやっているかよくわかりません」と笑う。
「住まいるCafe」
◇ ◆ ◇
同社グループが運営するホームセンター「ライブピア」内に昨年11月にオープンした「住まいるCafe鶴見ライブピア」は、他の「住まいるCafe」とはまた違っている。
車いすなど介護用品やユニバーサルデザイン商品がたくさん展示されており、バリアフリーなども体験することができるほか、耐震、断熱リフォームなど住まいに関するあらゆることが分かる工夫が凝らされている。
すべてのスタッフが福祉用品貸与事業を行なう事業者に義務付けている「福祉用具専門相談員」講習を受けているという。無料の耐震診断・相談が受けられるほか、リフォームに関するセミナーなども頻繁に行なわれている。
「住まいるCafe鶴見ライブピア」
◇ ◆ ◇
同社広報室室長・渡利勝也氏は「住まいるCafe」の事業を開始した経緯、目的などを次のように話した。
「当社はもともと地域に根ざした仲介店舗を展開してきました。最近は他社でもマンション、戸建て、賃貸、仲介などワンストップで対応するところもあります。当社は当社らしい他社にはできない切り口の店舗展開をやろうとそれまでの『住まいの情報館』から社内公募により名称を『住まいるCafe』に昨年4月に変更しました。店舗数は鶴見、川崎を中心に18店舗。不動産情報の提供だけでなく、地域のプラットホーム、地域の交番でありたいというのが理念です。
なぜ、そのようなことができるか。われわれはこのエリア中心に最近はマンションだけでも年間1,000~1,500戸を供給しています。仲介店舗もあります。新規物件を供給する際には公共施設、商業施設、学校などの情報をパンフレットに盛り込みますし、チラシも配布する。地域の情報はみんな知悉しています。
ならば、こうした情報を地元の人に還元しようという取り組みです。仲介店舗は当社もそうですが他社も土曜、日曜日はともかく平日はガラガラです。地域に開放しても不都合は生じない。
『ライブピア』に福祉用品などの情報を提供する新しい形の店舗を提案したのも、『ライブピア』を利用されるお客さんの6~7割の人が60歳以上ということから設置を決めたものです。
地域密着の究極を目指そうというのがわれわれの取り組み。理念の共有も徹底して進めています。
マンション事業で進めている免震や外断熱、戸建て事業で展開している『パワーホーム』も、住宅のトラブルをなくしたい、住宅を通じて家族を守ろうという発想が基本です」
「キットパス教室」
◇ ◆ ◇
同社は経営理念に「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指す」ことを掲げている。〝住まいづくり〟に〝素適な〟〝心を込める〟と2度も強調されると、逆にマイナスにならないかと心配もするが、ここに同社の強いメッセージが込められている。
同社が地盤とする鶴見、川崎エリアは以前からマンションデベロッパーの激戦地となってきた。大手デベロッパーや中堅との競争を余儀なくされてきた。それでも圧倒的なシェアを守り、競争に打ち勝ってきたのは免震であり外断熱であり、〝70㎡の4LDK〟提案だったりする。70㎡の4LDK提案など地域を熟知しているからできることだ。
大切なことは死守し、そうでないことは柔軟に対応するということだ。その姿勢は、今回に限らずマンションや野球大会での取材でも感じることができる。まったく気負いがないのだ。ギラギラとしたものがない。その一方で、野球では勝っても負けても延々と反省会をやる。分譲と仲介の人的交流も積極的に行なうのも同社の特徴だ。
記者は平田恒一郎社長が社長に就任した1988年前に「うちは地域ナンバー一の座は譲らない」と話したのを今も覚えている。1950年に会社が生まれてから64年になるが、社名は2007年に持ち株会社移行に伴い旧「ナイス」が「すてきナイス」に社名変更したのを含め5度も変わった。これほど社名が変わった上場会社はほかにないはずだ。変わらないのは「住宅」を通じて社会に貢献しようという理念だろう。
「住まいるCafe」の来館者は2012年度の1カ月当たり約1,000件(全店合計)から2013年度は約8,000件と実に8倍増だそうだ。年間にすると約9.6万人だ。常識を破る取り組みが今後どのような展開を見せるか注視したい。
「住まいるCafe鶴見ライブピア」 無料耐震診断や同社の「パワーホーム」の構造も見ることができる
◇ ◆ ◇
元三井不動産販売(現三井不動産リアルティ)コンプライアンス室長で、NPO法人日本レジデンシャル・セールスプランナーズ協会理事・谷中健太郎氏と電話で話す機会があった。
このナイスの事例を話すと、谷中氏は「それはすごい。私も多くの仲介会社と付き合って40年になるが、一部を除き売り上げのことばかり。地域密着とはみんな口では言うが、どこまで実践できているか。私は、日本古来の地域の風土記を語れるくらいにならないとダメだと思っている。この業界は本物のプロ集団になれるか、ステップアップできるのか、各社の仲介戦略・戦術の優劣が鮮明になると実感している」と話した。