「自分の創造性を発見する場所」 隈研吾氏&大成建設ハウジング「モクコンの家」
「ノキテラス−2階建て−」(左)と「ハコテラス−3階建て」
大成建設ハウジングは3月16日、建築家・隈研吾氏とのコラボレーションによる壁式鉄筋コンクリート住宅「パルコン」の新たな戸建住宅「モクコンの家」を同日から発売すると発表した。「パルコン」の強さと、木のやさしさとぬくもりのある外観とテラスを併設するのが特徴。発売地域は関東、東海、関西、九州(一部地域を除く)。
以下、同社のプレス・リリースで紹介されているインタビュー記事全文を紹介する。
◇ ◆ ◇
-パルコンについて、どういった印象をお持ちでしょうか。
隈氏「パルコンには、コンクリート住宅の総合的な強さを感じます。」
住まいは人間の生活を守る、そして人間自身を守る非常に大事な器だと思います。そこでは何よりも安心感が求められます。
大成建設ハウジングが手掛けるパルコンは、コンクリート住宅ならではの耐震性が安心感につながり、安らぎという家の基本的な条件を満たしていると考えます。また、よく知られているように耐火性、防音・遮音、断熱・気密など、他にも優れたポイントがたくさんあり、さらに劣化に強く耐久性がある点はまさにサステナビリティという時代の要請にも応えていると思います。
いま、コロナ禍を経て住宅の役割が増えたと感じています。これまで家は社会とは切り離された場、という位置づけでしたが、社会と個人の接点として住宅が意識されるようになりました。仕事をする場所、人と集う場所、クリエイティブな場としての機能が求められます。そうした社会的な役割を果たすためにも、コンクリートという災害に強い素材こそ大切なのではないかと考えています。
-デザインのこだわりについてお聞かせください。
隈氏「木のぬくもりと、半屋外スペースです。」
私が携わる建築では、木のぬくもりが大きなテーマです。人類にとっていちばん古くからの友人として「木」がそばにありました。手触りのあたたかさ、やわらかさをいつも感じられることが大切なのです。
今回のパルコンでも木材をふんだんに使い、見た目にも手触りとしても、自然のやさしさが感じられることを重視しました。「ノキテラス」の大屋根とファザード、「ハコテラス」の木製テラスなど、ぬくもりある木の質感が特色です。
また、屋上の庭園スペースや、室内と屋外をつなぐテラスなど、これまでの一般的なテラスやバルコニーを超えた、空間の豊かさを持った半屋外スペースを設けました。どちらもコンクリートならではの堅牢性によって、半屋外を生活の場として使用することが可能になっています。屋外でも人がゆったりと過ごせることを前提で考え、いろいろなシーンの演出を想定してみました。外気の心地よさを、広がりのあるスペースで感じることができます。特に「ハコテラス」はバルコニー上部の開放感に注目していただきたいと思います。
-玄関から続くミュージアムは、何を目的に作られましたか。
隈氏「住宅と社会をつなげたい、と考えました。」
今回のプランは、アプローチから玄関を入り、そのままミュージアムスペースが連なっているのが大きな特徴です。アフターコロナを見据えてそこにいろいろな人々が集うシーンを思い描きました。仕事をする場、クリエイティブな発想が生まれる場として機能することはもちろん、住宅と社会がつながる際のひとつの形を体験していただけるでしょう。
ミュージアムは住む人の創造性の拠点となると同時に人を招き入れて打ち合わせや交流するスペースにもなる。またその場にいる人がリラックスできることも大切。多目的でフレキシブルに活用できるスペースです。
-ZEHへの対応についてはいかがでしょうか。
隈氏「サステナブルなデザインと技術があります。」
これからの住宅を考える上で、持続可能性は大きなテーマです。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に対応しているかどうか、住む人もそこに集う人も、省エネルギーに関心が集まる部分だと思います。
今回の家はZEH対応設備だけでなく、木材を多用した住み心地の向上、充分な植栽スペースの想定などトータルにサステナブルであることが特徴です。
素材や構造といったエンジニアリングだけでなく、デザインとエンジニアリングが一致している部分をぜひ体験していただきたい。そうした点で、サステナブル住宅のひとつのモデルになるだろうと考えています。
-この新しい邸宅は、一言で表すならどんな家でしょうか。
隈氏「住む人が、自分の創造性を発見する場所です。」
この家は住む人の「自由」を信頼している部分があります。空間はなるべくシンプルに作り、住む人がどんな風にその空間を使いこなしていくのか。住む人の自由、住む人の創造性を活かす場所がたくさんあります。
ぜひクリエイティブに住んでいただければと思います。
半屋外の空間にいろいろな家具を持ち込んで、いかに日常的な場として使いこなすか。屋外を生活空間に組み入れるのは新しいトレンドでもあり、そのトレンドをご自分のセンスで実現できるのです。
そしてミュージアム。自分のコレクション、蔵書などで満たしたクリエイティブなスペースとして、ぜひ自由に使いこなして欲しいと思います。この家がキャンパスだとすると、皆さんがいままで見たことのない絵を描くだろうと期待します。家が、自分自身の新しい創造性を発見する場所になるのです。
新しい創造力がコンクリート住宅という安心感の土台の上で開花し、サステナブルに社会と繋がるでしょう。
◇ ◆ ◇
隈氏が「プレファブ」とコラボするのに驚いた。しかし、隈氏は20年も昔から、「木」と「コンクリ」の〝融合〟を考えていたと思われるふしがある。著書「負ける建築」(岩波書店、2004年)の「Ⅲ-3 コンクリートの時間」の中に次のような記述がある。
「建築という『形』を持つものを用いて、移り行く不確かな状態を固定化し、確実なものにしようという欲求がこの時代(20世紀)を支配した。その意味でこの時代は『形』の時代でもあり、『建築』の時代でもあったのである」
「その欲求に対して、コンクリートほど見事に応えてくれる材料はほかに移り行く流動的なものが、コンクリートにおいては、一瞬にして形を持ち、固定化されるのである」
「しかし、今や、そのような固定化こそ、人々の嫌悪の対象になりつつある。自由を自由のままに楽しみ、移りゆくものを移りゆくままに享受する生活態度を、人々は獲得しつつある。そのような時代には、永遠に固定化されることのない材料、工法が求められるようになるであろう。例えば木造の時間」
「木造はコンクリートのように液体状態の自由を持つこともなければ突然に強くなることもない。いつもそこそこに不自由で、そこそこ弱いのである」
「時間とは永遠にだらだらと続くものだということが木造の本質である。…それは二〇世紀の『工業化』『プレファブ』の時間とも全く異質のものである」
「いかなる形にも固定化されようのないもの。中心も境界もなく、だらしなく、曖昧なもの…あえてそれを建築と呼ぶ必要は、もはやないだろう。形からアプローチするのではなく具体的な工法や材料からアプローチして、その『だらしない』境地に到達できないものかと、今、だらだらと夢想している」
今回の「モクコンの家」は、この夢想を具現化しようという試みのように記者は感じるのだが、みなさんはいかがか。
マンションは1,000戸「昭島」 戸建ては〝3点セット〟注目 大和ハウス レクチャー会
レクチャー会場となった大和ライフネクスト本社1階のスタジオ
大和ハウス工業は3月16日、「記者レクチャー会<2023年公示地価>」を開催。マンション事業について同社マンション事業本部事業統括部部長・角田卓也氏が、分譲戸建ては同社住宅事業本部事業統括部分譲住宅グループ次長・中岡敬典氏が、物流事業は同社建築事業本部営業統括部Dプロジェクト推進室上席主任・藤田渉氏がそれぞれ説明し、質疑応答にも丁寧に答えるなど、とても分かりやすい勉強会だった。
マンション事業について角田氏は、首都圏はウィズコロナでの価値観や、変化した生活スタイルの定着が見受けられ、都心部及び郊外ともに実需層の安定した購入動向となっているとし、特に、都市部での将来資産性が期待できる物件に対し、DINKSやDEWKSなどのアッパーミドル・富裕層の安定的な購入動向が続いていると語った。
近畿圏でも首都圏と同様の市況が続いているが、郊外部では首都圏のような需要は生まれていないと説明。地方圏では、駅直結や商業、病院などを併設した再開発・複合開発による「コンパクトシティ」への期待や関心が高まっていると説明。
首都圏の仕入れについては、用地価格は上昇しており、適地は高値圏での争奪戦となっているとし、新価格の案件の販売が比較的好調であるため、新規買収案件の販売価格設定に強気であることも一因と指摘した。近畿圏でも用地価格は上昇しているが、建築費の上昇に伴い、入札案件では応札者が減少。施工を自社で行う会社が、競争力のある価格を提示しているという。地方圏においては、デベロッパーが計画通りに用地買収できていないことから、地方進出が進んでおり、中核都市の価格が継続上昇。特に、福岡、沖縄は新価格の新規案件も好調であり、各社の積極的な買収が散見されると説明した。(同社の坪単価520万円の「大濠」も好調)
このほか、投資家の取得意欲は依然高く、ホテル投資は回復しつつあり、海外のファンド・機関投資家の積極的な買収姿勢が継続していると話した。
中岡氏は、2022年10月から2023年2月までの契約ベースでの売上高は、前年同期比で建売住宅は+8%、土地は+20%になっており、前回発表時(2022年4月~2022年8月)は建売住宅が-3%、土地が+4%だったことと比較して回復しており、82名からなる用地マネージャーを組成したのが奏功し、土地は4,000区画、建売住宅は1,200棟とそれぞれ前年比2割増の手当てができており、年間で土地は4,000区画、建売住宅は2,000棟を販売できる準備が整ったと話した。
一方で、地価は引き続き上昇傾向にあり、資材・住宅設備も仕入れ価格は再度アップしているが、消費動向などを勘案して価格に転嫁しづらい状況にあることから、内部努力と効率のいい設備を投入して価格を維持する戦略をとると語った。
商品企画については、2016年から開始した「家事シェアハウス」は累計1,467棟、約412億円にのぼり、満足度調査でも高い数値が得られたことから、今後も積極的に採用し、「家事シェアタウン」を2023年度は36か所300棟計画。ZEHの取り組みは、2022年10月から2023年1月の着工ベースでは分譲住宅の95%がZEH対応であることを明らかにした。
また、同社とナスタが共同開発した業界初のスマホに宅配専用ボタンを搭載した24時間防犯カメラ機能付き宅配ボックス「Next-DBox+S」を2023年4月から販売開始するなど、①ZEH②家事シェア③オリジナル設備機器の3点セットで他社との差別化を図り、販売を拡大していくと話した。
藤田氏は、生産の国内回帰に連動する倉庫需要の拡大、建築費の上昇による賃料相場の上昇、過去最大の施設供給による空室率の上昇などの市場変化を紹介した一方で、デベロッパーとゼネコンの二つの顔を持ち多彩なスキームでの対応が可能な同社の強みを強調し、2022年2月竣工までの総開発延床面積約1,243万㎡は業界シェア23.0%、280棟は同33.8%とトップであることを報告した。
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角田氏が首都圏の代表的な物件として紹介した「プレミスト昭島森パークレジデンス」に注目している。JR青梅線昭島駅から徒歩5分の全481戸だが、第2工区、第3工区を含めると約1,000戸の大規模開発だ。
記者は、三井不動産レジデンシャルなどが2021年に販売開始した「パークホームズ昭島中神」313戸の隣接地だと勘違いしており、沿線需要を掘り尽くした後のぺんぺん草も生えそうもないところで1,000戸を売るのは容易ではなく、年間100戸として販売期間は10年かかるのではないかと思っていた。
同社のマンションの最寄り駅は「中神」ではなく「昭島」だと聞いて納得した。なるほど。ここなら売れるかもしれない。住環境がいい。東京まで約1時間。同じ距離圏の大規模開発では〝ちびまる子ちゃん〟のNTT都市開発他「ウエリス八千代村上」967戸が今春に分譲される。坪単価は220万円台に収まるのではないか。
「昭島」は〝ちびまる子ちゃん〟に絶対負けない。ただ、戸数が多い。100戸、200戸だったら坪270万円でも売れると思うが、1,000戸となると強気な価格設定はしないと読んだ。角田氏に「坪単価250万円は厳しい。アッパーで坪240万円はどうか」と聞いたら、「鋭いところ突かれている」と返ってきた。モデルルームがオープンしたら取材したい。坪240万円だったら、同社の「高尾」416戸、「塚田」571戸のように圧倒的な人気を呼ぶ可能性があるとみている。
〝安さ〟売り「ザ・ビッグ」に近接 三井不レジ他「昭島中神」 収穫大の今年初の見学(2021/1/13)
光と風、照明計画、巾木見付…一分の隙もないこだわり ポラス「大宮区大成町」
「B/N大宮区大成町 リミテッドエディション」
ポラスマイホームプラザの「B/N北浦和」、「フォレストレ リミテッドエディション(FORESTLE Limited Edition)南浦和」に次いで「B/N大宮区大成町 リミテッドエディション」について。戸数は1戸で価格は1億円超。物件名に「リミテッドエディション」を付しているように、一分の狂いも許さないぞと言わんばかりの同社設計課営業企画係主任・塚原俊紀氏の徹底したこだわりにあきれ返るほかなかった。注文住宅そのものだ。
物件は、JR大宮駅から徒歩11分、さいたま市大宮区大成町1丁目の第2種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)に位置する敷地面積112.41㎡、建物面積120.69㎡、価格10,280万円。建物は木造2階建て。施工はポラテック。竣工は2023年1月中旬。昨年7月に販売し、同月内に完売している。
さて、塚原氏のこだわり。記者は全然気付かなかったのだが(それが狙いか)、巾木の見付けは7ミリだと説明を受けた。同社の標準は14ミリだそうだから、その半分だ。〝シンプル イズ ベスト〟-余分なものは見せたくないという考えだろう。
光を取り込む高窓・スリット窓を多用したこだわりがまた凄い。数えたわけではないが、通常の窓と合わせば20数か所はあるはずだ(今回見学した他の2物件も数は同じくらいか。他社物件と比較して間違いなく多い)。数が多いだけでなく、窓枠に黒または白を採用し、しかも天井いっぱいまで高さを取るなどしてデザインとして取り込んでいる。
照明計画もしかり。調光機能付きだと思うが、間接照明、ダウンライトを多用し光の演出を行っている。
まだある。1階のLDK(22.0帖)に面した方丈の間くらいの中庭にベンチ付き吹抜け空間を設置し、そこにシンボルツリーのシマトネリコを配することで緑を取り込み、また玄関、玄関手洗い、書斎コーナーから眺められる坪庭を設置し、やはり光と緑を取り込む工夫を凝らしている。限られた空間に意味を持たせる仕掛けが施されている。
このほか、ヘリンボーン柄の壁などへの採用、ストリップ階段・ガラス引き戸、木の格子リビング天井、2.38mのハイドア、ウッドパネル、ミストサウナガス衣類乾燥機(乾太くん)、タンクレストイレなどを装備。家族それぞれが自分の衣類などを片付け・整理できるバックヤードを1階キッチンの裏側に設けているのも目を引いた。
塚原氏は、「シンプルデザインをテーマに、オンとオフが切り替えられる間取り、動線などに力を注ぎました」と語った。
リビング
巾木見付
トイレ(収納は隠れて見えない)
寝室の照明
検眼手洗い(右側が坪庭)
唯一理解できなかったのは浴室ドアにタオル掛けがなかったこと
LDK天井高最大4m 1棟現場にN1手法用い成功 本来そうあるべき ポラス「南浦和」(2023/3/8)
Z世代の声反映 可変性、多様性、シェア…住宅本来の役割具現化 ポラス「北浦和」(2023/3/8)
LDK天井高最大4m 1棟現場にN1手法用い成功 本来そうあるべき ポラス「南浦和」
「フォレストレ リミテッドエディション(FORESTLE Limited Edition)南浦和」
ポラスマイホームプラザの「B/N北浦和」に次いで「フォレストレ リミテッドエディション(FORESTLE Limited Edition)南浦和」を紹介する。1棟現場だから可能にしたのだろうが、分譲住宅の難点である誰でも住めそうな無難なプランではなく、欲しいひと一人にターゲットを絞り込んだ企画が奏功した。これまた住宅分譲の基本だ。
物件は、JR南浦和駅から徒歩9分、さいたま市南区文蔵二丁目の第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)に位置する敷地面積約110.71㎡、建物面積約102.89㎡、価格7,998万円。建物は木造2階建て。施工はポラテック。建物竣工は2022年9月。
同社の7つのブランドの一つ「FORESTLE」は、森を意味する「Forest」と、心地よい、寄り添うの意味を持つ「Nestle」を組み合わせたもので、「Limited Edition」には注文住宅のようにリアルな顧客の声を生かそうという想いが込められている。
現地は、戸建てが建ち並ぶ住宅街の一角で、敷地は東南角地。建物は外からの視線を遮るため高窓にするなど窓の位置にも配慮。2階LDK(20.2帖)はこう配屋根を採用することで最大天井高4000ミリ、二連大開口窓、スキップリビング、大容量の収納、1階と2階をつなぐ吹抜け空間などを実現。
このほか主な基本性能・設備仕様は長期優良住宅認定、挽板の床、ソフトクローズ機能付き開き戸・引き戸、ガス乾燥機(乾太くん)、1.25坪の浴室など。
同社設計課営業企画設計2係主任・金井琢哉氏は、「マーケティング手法の一つであるN1分析により、近隣に居住し、エリア特性も熟知している方のお宅を訪ね、どのような住まい方をしているかなどをヒアリングしました。その結果、1階リビングを2階リビングにし、スキップフロアを止め、キッチンを回遊性にするなど当初プランを3回変更しました。反響が20~30件に達し、昨年4月の販売時には2組の申し込みがあるなど更地の段階で完売しました」と語った。
最大天井高4mのLDK(正面は二連大開口窓)
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この種の手法は、大量供給時代にもあった。分譲住戸全てに異なるプランを提案し、成功した事例もある。最近の事例では、先日記事にもした大和地所レジデンス「ヴェレーナグラン茅ヶ崎東海岸」だ。全111戸に対して63タイプを提案して人気を呼んだ。ましてや戸建てだ。一つひとつ潜在的な顧客ニーズを引き出す企画力が問われている。どんなエリアであろうと敷地形状が異なろうと、経済設計のブロイラーのような「箱」そのもののマンションや分譲戸建てが売れることこそ異常だ。
金井氏は「家を建てる体験ができ、そのまま買ってもいいというビジネスモデルにしたい」と語ったが、ぜひともそうしていただきたい。街づくりは無理としても、このような手間暇をかける手作りの手法は支持されるのではないか。
吹抜け空間
洗面(左)と浴室
Z世代の声反映 可変性、多様性、シェア…住宅本来の役割具現化 ポラス「北浦和」(2023/3/8)
光と風、照明計画、巾木見付…一分の隙もないこだわり ポラス「大宮区大成町」(2023/3/9)
Z世代の声反映 可変性、多様性、シェア…住宅本来の役割具現化 ポラス「北浦和」
「B/N北浦和」
ポラスグループのポラスマイホームプラザは3月6日、いずれも1~2棟の、それぞれコンセプトが異なる分譲戸建て3現場の竣工見学会を行った。Z世代の声を反映させたり、注文住宅を建てるような体験が出来たり、細部まで設計者のこだわりを盛り込んだことなどが評価され、早期完売。分譲戸建てはかくありきの商品企画が光った。
◇ ◆ ◇
まず、記者がもっとも注目した「B/N北浦和」から。「B/N(ビーエヌ)」は、同社の7つ目の最新ブランド。「B」は基本を意味するBASIC、「N」はNATURAL、あるいはNEUTRALの頭文字からとったもので、テーマは「シンプルモダンデザイン」。
事前の説明で、物件は全世代向けだが、同社のZ世代のスタッフの声を企画に盛り込んだのが特徴で、北浦和駅からバス17分の全2棟、価格は4,000万円台の前半であることが紹介された。
今の10代の前半から30歳未満と言われるデジタルネイティブのZ世代のことなどまったく分からない記者は、てっきり〝価格ありき〟のいわゆるパワービルダーと同じ土俵に上がり、消耗戦に参戦するのかと思った。
しかし、現地について外観を眺めた限りではそのような気配はなかった。基本性能・設備仕様レベルをチェックしたが、パワービルダーの物件とは似て非なるものであることも確認できた。それどころか、価格からしてむしろ性能は高く、白と黒を基調としたデザイン・カラーリングセンスが抜群なのに驚いた。
そして、物件の基本設計を担当した同社設計課営業企画設計係係長・高橋健太郎氏氏(47)の話を聞いて、「B/N」のコンセプト、Z世代の声をどうして反映させたか、その意図も分かった。
高橋氏は、「敷地南側は対面の建物の室外機が目に入るので、開口部は北側に設けざるを得なかったが、北側に居室と緩やかにつながる明るい空間を設けることができた。子ども部屋は1つ、居室の扉を設けず、多目的に利用できるオープンな空間を演出することで、空間をシェアし、可変性を持たせたのが特徴」と話した。
Z世代の声の取り込みかたユニークだ。一般的な社内プレゼンは、経験豊富な審査委員(上司)がプレゼンター(部下)の報告を評価・採点するのが普通だろうが、同社はその逆だ。スマホなどZ世代向けの商品が他の世代でも人気になっていることに着目。ベテラン事業担当者4名がZ世代の設計担当4名、営業スタッフ5名に対してプレゼンし、プレゼンターの提案を50点満点、Z世代の提案を50点満点、合計100点満点で採点。最高得点を獲得した高橋氏の基本設計をもとに、Z世代スタッフが全世代向けのプランを共同で商品化したものだ。
実施設計を担当したのはZ世代の同社設計課実施設計係・田上彩水氏(26)で、田上氏は「わたしは姉と一緒に6畳間を寝室にしていました。違和感はありませんでした。勉強はリビング。プレゼンでは自由に提案していいということでしたので、フィットネスルームにも居室にもなる可変性のある空間、必要ない建具は極力少なくし、カラーリングもドアノブを白のドアと統一するなど目立たないようにしました。一つの写真で全て見える〝映える〟にも気を配りました」と、営業担当のZ世代の営業課2課・根本和磨氏(25)は、「フィットネスにも居室にもなるいろんな趣味が生かせる、多様性をアピールしました」とそれぞれ語った。
写真を添付したので、じっくり見ていただきたい。LDKスペースをたっぷり取り、間仕切り壁を取り払った空間、大きめの主寝室と対照的な子ども部屋を想定した4畳大の居室などは、ライフスタイル・ステージに柔軟に対応することが求められる住宅本来の役割・機能を具現化、キーワードである「可変性」「多様性」「シェア」を見事に表現している。ドアノブ一つにこだわった田上氏はZ世代の特性なのか、それとも田上氏自身の感性か。これは分からない。次の作品を見たい。大化けするのではないか。
物件は、JRB北浦和駅からバス17分、バス停から1~2分、さいたま市緑区に位置する全2棟で、土地面積は108.17・104.03㎡、建物面積は100.29・103.08㎡、価格は4,190万・4,290万円。木造2階建て、施工はポラテック。建物完成は2023年1月下旬
2階リビングの1号棟は、LDK(20.6帖)、多目的に利用できるカフェ、ブックシェルフ、主寝室(9.0帖)、居室2室(5.3帖、4.6帖)など。1階リビングの2号棟はLDK(22.3帖、スタディルーム約5.8㎡含む)、主寝室(7.3帖)、居室(4.3帖)、スタディルーム、トレーニングルーム(1.0帖)、芯心1mの階段、ピクチャーレールなどが特徴。
リビング天井高2700ミリ、床は挽板(1号棟除く)、ソフトクローズ機能付き引き戸・開き戸、階段ステップ15段などは標準仕様。
同社部長・森田昌久氏は、「今回の3現場はすべて異なるコンセプト。一つひとつゼロから商品化したのが特徴。この『北浦和』はZ世代をターゲットにしたものではないが、全世代に興味を持っていただけるはず。今後の同様の商品を提供していきたい」と語った。
〝映える〟LDK
アメニティ、ドアノブにまで白にこだわったデザイン
左から根本氏、高橋氏、田上氏
価格上昇、面積圧縮、駅距離…に妥協 現在の住宅市場を反映 アットホーム調査
アットホームは3月1日、過去2年以内に一戸建て・マンションを購入した人を対象に、途中でこだわるのを諦めた条件・設備に関する調査結果をまとめ発表。住まいの基本的条件では、価格は1.3倍妥協、広さは14.0㎡削減、最寄り駅からの徒歩時間は8.6分妥協。設備仕様では5人に1人が「収納スペース」「リビングの広さ」「外観のデザイン」を妥協していることが明らかになった。
調査対象は、過去2年以内(2020年10月以降)に住まいを探し、一戸建て・マンションを購入した18~50歳の男女400名。内訳は新築マンション、中古マンション、新築一戸建て(注文住宅含む)、中古一戸建て各100名。
住まいの条件の住宅価格の妥協ラインは、「実際の住宅価格÷当初の住宅価格」で算出。予算の1.3倍まで妥協していたことが分かった。
築年数を妥協したと答えた人の中で、築年数の妥協ラインを「契約時の築年数-当初希望していた築年数の上限」で算出したところ、当初より11.1年古くても妥協していたことが分かり、その理由として「建物自体は免震構造で、共用部分の清掃・管理もきちんとなされていたため(中古マンション)」といった声があった。広さも同様、当初より14.0㎡狭い物件で妥協したと回答。
最寄り駅までの徒歩時間は当初より8.6分、通勤・通学時間は当初より17.6分遠くても妥協。その理由として、「自転車を使えばすぐだったから(新築一戸建て)」、「以前と同じくらいの時間帯の出勤で済んでいるから(中古一戸建て)」といった声があり、「在宅勤務が増えたので妥協しても問題なかった(新築マンション、中古マンション、中古一戸建て)」という回答も見られた。
このほか、妥協したものは27.0%の「収納スペースの広さ」がトップで、以下、「リビングの広さ」23.5%、「外観のデザイン」22.8%の順。その理由は、収納は「断捨離する良い機会になるから(中古マンション)」、「物を出しっぱなしにしないことで広々使えるから(新築一戸建て)」「住んでしまうと狭さを感じなかったから(中古一戸建て)」、外観のデザインは、「住んでみたら気にならなかったから(中古マンション)」「自分では妥協したと思っていても意外と来客に褒められたから(新築マンション)」など。
住まいの条件で「妥協はしていない」と答えた人は19%。
住まいの設備でもっとも妥協したものは「宅配ボックス」16.8%で、以下、「ウォークインクローゼット」15.5%、「床暖房」15.3%の順。その理由として宅配ボックスは「置き配を利用できるから(新築マンション)」「お互いの休日に上手く受け取ることができているから(新築一戸建て)」などの声があり、ウォークインクローゼットは、「普通のクローゼットで十分、使い勝手に問題はないから(新築マンション)」「和室の収納を工夫して、バッグやベルトなどの保管場所を増やしたから(中古一戸建て)」、床暖房は、「気密性の高い家にしたのでそんなに寒くないから(新築一戸建て)」「他の暖房機器があれば十分だから(中古マンション)」といったコメントがあった。
一方、「妥協はしていない」と回答した人は44.3%だった。
◇ ◆ ◇
とても興味深い結果だ(同社は先に賃貸篇も発表しているが、賃貸はよく分からないので割愛した)。
結果についてコメントする前に、課題を一つ指摘したい。今回の同社のアンケートに限ったことではないが、結果を全部足して、それを割って平均値や傾向を出しても、絵具と一緒、攪拌されて限りなくグレーに近くなる。実態はよく分からない。今回の調査でいえば、マンションと戸建て、新築と中古、そしてもっとも肝心なことだが、購入者の所得(購入価格)、年代によって回答はかなり異なっているはずで、その詳細な分析が必要だということだ。(同社リリースでは回答者の属性を一部紹介はしているが…)
設問項目に注文もある。どうして基本的な条件に住環境、ランドスケープデザイン、断熱・遮音、天井高、サッシ高、廊下・階段幅、その他トイレなどのユニバーサルデザインに関するものはないのか。設備仕様では、同社は宅配ボックス、ウォークインクローゼット、床暖房、オール電化、シーズインクローゼット、食洗機、トイレ内手洗い、ディスポーザー、人感センサー付き照明、TV付き浴室、押入れ、複層ガラス、省エネ給湯器の12項目についても聞いているが、これでも少ないと思う。基本性能とも関連するのだが、間取り(可変性)、収納・引き戸のソフトクローズ機能、ミストサウナ、スロップシンク、キッチン天板仕様、食器棚、浴室タオル掛け、ドアノブ、トイレドア幅、床・壁仕上げ…などだ。
これらをさておき、調査結果について。住まいの条件に対する妥協ラインが予算の1.3倍というのは正直驚いた。これは前述したように、億ションを買える人は1億円が1.3億円になっても買いあがることはできるかもしれないが、当初予算が3,000万円の人は4,000万円近くになっても購入することができるのか。
築年数の妥協ラインは納得だ。基本性能・設備仕様レベルは最近のマンションより10年くらい前の物件のほうが高いものは少なくない。これは消費者が賢明な選択をしているということか。
広さを14㎡(約4.2畳大)妥協したというのは、是非はともかく最近の住宅市場をストレートに反映している。
最寄り駅までの徒歩時間は、デベロッパーが「駅近」(マンションだが)を最大の売りにしていることと全く異なる結果が出た(戸建ての回答が半数であることと無関係ではないが)。記者は、徒歩時間より大事なものがあると消費者は考えていると理解したい。
その他の条件については、人それぞれだからコメントしないが、収納スペースについて一言。仮に住宅の収納率を10%としたら、価格が5,000万円だったら、収納スペースは500万円だ。それほど高価なスペースに後生大事にしまっておく価値のあるものはどれほどあるのか。小生などは本のみ。本は捨てられない。
全体として住まいの条件を妥協しない人が19%というのには、やや驚いた。十全の物件など一つもない。全ての条件を満たした物件を買えるのはほんの一握りのお金持ちしかいないはずだ。
設備仕様に関してはなにも言うことはない。「妥協しない」が44.3%というのは、このようなものか。逆に驚いたのは「複層ガラス」は7.5%、「省エネ給湯器」は6.5%の人が妥協しており、「妥協しても問題なかった」人は前者が56.7%、後者が53.8%にも達していることだ。マンションのサッシは一度付けたらほとんど変更できない。これからは樹脂サッシが当たり前の時代になる。消費者も住宅を見る目を肥やさないといけない。複層ガラスと省エネ給湯器を妥協した人の30%超の人が後悔していると回答しているのに注目すべきだ。
全体として、調査は現在のデベロッパー、ハスウメーカーの供給するマンションや戸建てのレベルを反映していると思う。そして何よりもうれしいのは、5年前に「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本について3回にわたって批判した記事は間違いではなかったことを、消費者の方が証明してくれたことだ。この記事には3回で2万件を超えるアクセスがあった。
マンションと比べ極めて高い基本性能・設備仕様 ポラスの戸建て「朝霞本町」
「フレーべスト朝霞本町 アドバンスト・ヴィラ」
ポラスグループ中央住宅は1月20日、グループで初めてインテリア産業協会の「令和4年度住まいのインテリアコーディネーションコンテスト」(部門優秀賞)を受賞した分譲戸建て「フレーべスト朝霞本町 アドバンスト・ヴィラ」(全9棟)のメディア向け見学会を行った。価格は2年前の同社グループの市内での分譲事例より1,000万円くらい高いにもかかわらず、分譲開始した昨年11月からこれまでに全戸完売。「無垢の木のある暮らし」をテーマに自然素材をふんだんに採用し、太陽光発電、蓄電池、樹脂サッシ、ハイブリッド給湯器、IoT、HEMSなどの技術を取り入れた設備仕様が評価された。
物件は、東武東上線朝霞駅から徒歩14分、朝霞市本町1丁目の第一種住居・第一種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率200%)に位置する敷地面積100.08~118.96㎡、建物面積95.84~115.89㎡、価格は6,390万~7,490万円。建物は木造2階建て在来工法。
主な基本性能・設備仕様は、太陽光発電、蓄電池、樹脂サッシ、Low-Eガラス、ハイブリッド給湯器、IoT、HEMS、桐壁、オーク・チェリー・メープルなどの天然木突板床仕上げ、シナ天井・現し化粧梁、16段階段ステップ、ソフトクローズ機能付き引き戸・開き戸、家具付きなど。長期優良住宅の認定も取得している。
昨年8月から物件ホームページを立ち上げ、11月12日から販売開始。これまで全戸完売している。資料請求は180件で、来場者数は60件。
同社戸建分譲設計本部設計一部営業企画設計課課長・古垣雄一氏は「市内でもっとも人気の高いエリアなので、価格は高くなっても、グレードを上げ、質の高いモデルハウスに仕上げました」と語った。
同社戸建分譲第一事業部朝霞事業所営業課課長・棚澤一生氏は「駅徒歩圏の100㎡、2階建て、省エネの3本柱を売りに、価格に見合う仕様、デザインにしたのが共感を呼びました。都内からの反響もあり、マンションからの住み替えが多く、〝待ってました。マンションは手狭、広い戸建てを探していた〟というお客さまもいらっしゃいました」と話した。
「インテリアコーディネーションコンテスト」で受賞したのは、事例分野 スタイリング部門。インテリアコーディネートを担当した同社インテリア部松戸ショールーム係長・髙島(旧姓:加藤)里実氏は「このようなコンテストに挑戦するのは初めてでしたが、受賞できて大変うれしく思います。設計担当者の協力もあり、自然素材を多用してイメージ通りの空間ができました」とコメントを寄せた。
リビング
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朝霞事業所が分譲する戸建てとして最高値で、同社グループが市内で分譲した物件より1,000万円くらい高かったことを古垣氏も棚澤氏も心配したようだ。至極ごもっとも。記者もそう思う。
だが、しかし、マンションと比べてものすごく安いとも感じた。東上線のこのところのマンション価格(坪単価)は上昇の一途で、埼玉県に入っても坪300万円を突破してきている。コロナ前と比べて2割以上値上がりしているのではないか。
今回の現場でマンションを分譲するなら、記者は230万円(もっと高いか)くらいだろうと予想するが、設備仕様レベルは並かそれ以下だろう。それでも20坪で4,600万円。70㎡台だと5,000万円を突破する。23区なら20坪で7,000~8,000万円だ。
今回の戸建てはどうか。敷地も建物も30坪だ。マンションなら7,000万円近い。確かにグロス価格は取得限界だろうが、基本性能・設備仕様レベルは極めて高い。1階の天井高2700ミリというのに来場者は驚愕するはずで、床の突板仕上げ、桐壁、現し化粧梁…。それと、最近記者は知ったのだが、同社の戸建ての引き戸・開き戸は全てソフトクローズ機能付きだ。おまけに25万円くらいするイチョウのダイニングテーブルなど家具付とは。
今の住宅購入検討者は、マンション、戸建て、さらに中古も含めて選択肢の幅を広げ、賢明な選択をしているのではないか。価格は市場に聞けということだ。
マルチルーム(手前は髙島氏)
金利先高観 消費マインドへの影響は 目が離せない展開へ レインズ 流通動向調査
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は1月13日、2022年12月の首都圏不動産流通市場動向をまとめ発表した。中古マンションの成約件数は2,835件で前年比1.6%減少し、5か月連続で前年同月を下回った。成約㎡単価は69.94万円(230.8万円)で前年比9.0%上昇し、20年5月から32か月連続、成約価格は4,373万円で同6.2%上昇し20年6月から31か月連続で前年同月を上回った。専有面積は62.52㎡で前年比2.5%縮小し、21年6月から19か月連続で前年同月を下回った。
地域別では、成約件数は東京都区部以外の各地域が前年比で減少が続き、横浜・川崎市と埼玉県は12か月連続で前年同月を下回った。成約㎡単価はすべての地域が前年比で上昇が続き、東京都区部は32か月連続、横浜・川崎市と埼玉県は31か月連続、千葉県は29か月連続、神奈川県他は25か月連続、多摩は22か月連続で前年同月を上回った。
中古戸建て成約件数は1,036件で前年比マイナス10.5%の2ケタ減となり、12か月連続で前年同月を下回った。成約価格は3,872万円で前年比8.7%上昇し、20年11月から26か月連続で前年同月を上回った。地域別動向では、成約件数は千葉県以外の各地域が前年比で減少が続き、東京都区部と多摩、埼玉県は12か月連続で前年同月を下回った。成約価格はすべての地域が前年比で上昇し、千葉県は22か月連続、神奈川県他は18か月連続、東京都区部は12か月連続、埼玉県は8か月連続で前年同月を上回った。
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中古マンション、中古戸建とも成約件数は減少を続ける一方で、成約価格と㎡単価は上昇し、新規登録件数、在庫件数が増加し続けている。このデータをどう読むか。
中古マンションの成約件数だが、コロナ前の2019年はほぼ毎月3,000件前後で推移しており、減少が顕著というよりはコロナ前の水準に戻ったと解すべきだろうと思う。
それより注目すべきなのは価格・単価の上昇と面積の縮小だ。2022年12月と2019年12月を比較すると、価格は2019年12月の3,550万円から23.2%、㎡単価は27.4%それぞれ上昇し、逆に専有面積は3.3%減少している。
価格・単価上昇率は異常とは言えないまでもかなり高く、専有面積の縮小と合わせ、市況は高止まり、踊り場に差し掛かっているのではないか。
単価水準は平均的な需要層の取得限界に近付いている。記者は無理なく取得できる坪単価は今も昔も坪250万円とみており、それでも活況を呈してきたのは低金利のお陰だ。
その肝心の金利が転換期を迎えた。日銀の金融緩和政策の軌道修正だ。長期金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に変更したのは、明らかに住宅市場にはマイナスだ。1.5%の変動幅自体は大きくないが、物価高もあり住宅購入検討者のマインドを冷やすことになるのは間違いない。中古マンション価格は4,000万円を超えると鈍くなると言われており、現状でもそれをはるかに超えている。価格を引き下げようにも、専有面積圧縮も限界だ。この先、どう動くか注視が必要だ。
ひとつだけ楽観的な見方をすれば、新築マンション市場は引き続き供給減少が続き、価格も上昇する気配を見せており、その分だけ中古価格の割安感は増すことだ。基本性能・設備仕様レベルも現在分譲されている物件より10年くらいの物件のほうが相対的に高いものも少なくない。一筋縄では計れない市場に突入するのではないか。
中古戸建ても同様のことが言えそうだが、成約価格は中古マンションと約500万円の差がある。これが今後の市場にどのような影響を与えるか。
いずれにしろ、ここ1~2か月の動向から目が離せない。これまでの市場のターニングポイントはカレンダー変わりにあったからだ。年明けとか年度変わり、ゴールデンウイーク、夏休み明けだ。
天然素材ふんだんに用い、大開口×大空間実現 細田工 集大成のモデルハウス開設
「GRAND RESULt (グランリザルト)」
細田工務店は1月7日、総合展示場「小金井・府中ハウジングステージ」にフラッグシップとなるモデルハウス「GRAND RESULt (グランリザルト)」 をオープンした。社歴76年の同社のノウハウを注ぎ込んだ集大成となるもので、2階のリビング天井高を約3.6m確保するなど「大開口×大空間」+「高耐震」の秀作だ。6日、モデルハウスがメディアに公開された。
「GRAND RESULt」とは「大いなる成果」の意で、プランコンセプトは①新〝木〟流②未来の継手③暮らしを軸組む-の3つ。
①では、耐震等級3を実現した構造強度を確保。天然木サッシ、天然無垢床材、ホタテ漆喰壁を多用し、大開口窓と約7mの吹き抜け空間を設けている。
②では、高気密・高断熱のZEH仕様を実現。IoTで快適性を向上し、蓄電池、非常用貯水タンク、かまどベンチなどの防災アイテムを装備。
③では、自分が自分らしく自然体でいられる場所として「Withキッチン」「ダウンリビング」「プライベートリビング」「Nook(ヌック)スペース」「ウォッシュサロン&ワークスペース」「ウォークスルークローク」「コーディネートルーム」、「ソライオ」「グリーンテラス」「プライベートバルコニー」などを採用している。
モデルハウスは、東京都小金井市前原町5丁目に位置する総合展示場「小金井・府中ハウジングステージ」内の軸組工法2階建て延床面積226.21㎡(68.42坪)。
同社は現段階で価格は未定としながら、概ね4,000万円以上を対象に初年度は年間24~25棟の受注を見込んでいる。分譲戸建てでの展開も考えているという。同社の分譲戸建ては年間150戸前後、法人受注は年間200~250棟で推移している。
1階
2階
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同社はモデルハウス仕様でどれくらいの価格になるか公表していないが、最低で坪150万円、アッパーで坪200万円近いと見た。これまで記者が見学した坪345万円の大和ハウス工業「Wood Residence MARE-希-(マレ)」、坪254万円の三菱地所ホーム「新宿ホームギャラリー」などにはかなわないが、軸組工法では最高レベルではないかと思う。
何が素晴らしいかといえば、自然素材をふんだんに用いている点だ。窓は木製サッシで、ガラスはLow-Eを採用し、窓面が大きいのにZEH基準を満たしているのはさすがだ。
また、外構やエントランスには鉄平石を、床や壁にはオーク材を、そして壁の仕上げには消臭効果もあるホタテ漆喰壁を採用しているのが特筆できる。1階リビングの波打つオークの壁は大工仕事で仕上げたのだそうだ。
エントランスホール-ウォッシュサロン&ワークスペース-パウダールーム・バスコードや、天井高3.7mの2階のプライベートゾーンの提案もいい。
1階のオーク材の壁
階段室に設けられた植栽(こちらは本物)
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ただ一つ、難点を指摘すれば、2階の構造梁に巡らせたフェイクの観葉植物だ。床や壁、天井に天然素材をふんだんに用いているのに、どうして一見してまがい物と分かる観葉植物を飾りに使うのか。
記者には理解できないのだが、これは同社に限ったことではなく、マンションも含めたこの業界の宿痾、陋習だ。みんなで渡れば怖くない、右に倣え、以下同文…。
本物の観葉植物は維持管理が大変ということから模造品にしたのだろうが、小生は観葉植物レンタル会社が定期的に点検し、捨てる予定のオフィスのポトスの小枝をもらって自宅に飾っている。5年近くになるが、陽に当たらない玄関や洗面室でも枯れない。たまに水遣りするだけだ。
いまからでも遅くない。ポトスを這わせることを提案する。初期費用は1万円で十分。毎月の管理費は水遣りだけ。労力もほとんどかからない。その効果はフェイクの数十倍であることは間違いない。坪200万円も300万円もする住宅を建てられるお金持ちがフェイクの衣服を身に付けたりカバンを持ったりするはずはない。それと同じだ。
どこもやらないことをするから、人は感動する。同社の「杉並和泉」の記事を添付する。
匠の技を見た 語り尽くせぬ魅力 細田工「グローイングスクエア杉並和泉」(2008/2/6)
「希」に見る設計依頼1か月で来場100組超 大和ハウス 富裕層向け「MARE」(2021/6/2)
アーチ型天井と列柱の無柱空間に驚嘆 旭化成ホームズ 「新宿」に富裕層向けモデル(2020/6/16)
坪254万円 設備仕様は最高レベル 三菱地所ホーム 新宿(新大久保)にモデルハウス(2019/6/5)
「次世代ZEH+」三井不レジ「新百合ヶ丘」1期1次10戸 平均3.2倍で即日完売
「ファインコート新百合ヶ丘グランレガシー」
「次世代ZEH+」をクリアした三井不動産レジデンシャルの都市型戸建て「ファインコート新百合ヶ丘グランレガシー」を見学した。小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩9~10分の全29区画で、第1工区18区画のうち12月17日に抽選分譲した第1期1次10戸が最高6倍、平均3.2倍で即日完売した。1億円前後の高額ながら、住環境に恵まれた希少立地が人気の要因だ。
物件は、小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩9分~10分、川崎市麻生区万福寺4丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率80%)に位置する全29区画(建築確認未取得区画11区画含む)。建築確認済みの第1工区18区画のうち第1期1次10戸の土地面積は土地面積は125.20~132.60㎡、建物面積は97.36~113.28㎡、価格は8,690万~1億2,490万円。建物は2022年10月竣工済。構造・工法は木造2×4工法2階建て。施工は三菱地所ホーム(8区画)、エステーホーム10区画)。
一次エネルギー消費量を25%以上削減(ZEHは20%以上)し、発電設備などにより再生可能エネルギーの自家消費を拡大する「次世代ZEH+」を満たしており、主な省エネ・創エネ設備は太陽光発電、「HEMS」、アルミ樹脂複合サッシ、Low-Eガラス、エネファーム、TES温水式床暖房(キッチン含む)、24時間換気システム、EV充電設備などのほか、一部にV2H(Vehicle to Home)を採用。
物件ホームページを7月に立ち上げて以降の問い合わせは約860件。11月から集客開始してからの来場者は、小田急線沿線を中心に約110組。12月17日に抽選分譲した結果、最高6倍(2住戸)、平均3.2倍で即日完売した。購入者の約63%は地元の麻生区住民、他は地域に地縁のある人など。年代は30代の半ばから40代の半ばが中心。
現地は、土地区画整理事業により開発され、1区画の最低敷地面積が125㎡以上と定められている住宅地の一角。同社の調べによると、過去5年間に新百合ヶ丘駅圏内徒歩10分圏で供給された分譲住宅は8物件あるが、29戸の規模は最大という。
住戸プランは、天井高約2.7mの18〜21畳のリビング・ダイニング・キッチン、DEN、アイランドキッチン、マルチスペース、メーターモジュール階段など。
同社横浜支店営業室主管・水越敏彦氏は「来場者のみなさんに〝ワオッ〟と驚いていただけるようリビング・ダイニングの広さと高さを確保しました。お客さまの評価ポイントがもっともむ高いのは立地環境です」と語った。
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京王線多摩センター居住の記者は、街のポテンシャルは新百合ヶ丘に負けないと思っているのだが、多摩センターだったらまず今回のような価格では売れない。せいぜい8,000万円だろう。
新百合ヶ丘駅に近い中古マンションの価格も新築時価格より高い物件もあると聞いて、これまたびっくりした。三菱地所レジデンスなどが近く分譲する「ザ・グランクロス多摩センター」(289戸)は、新百合ヶ丘の中古よりは高い値が付くはずだが、かといって東京建物「ブリリア聖蹟桜ヶ丘」(773戸)の坪270万円を上回ることができるかどうか。京王プラザホテル多摩も来年1月で閉店となる。新百合ヶ丘との〝格差〟はどんどん広がっている。
「次世代ZEH+」について。記者は窓面の大きさに驚愕したのだが、これこそが「次世代ZEH+」の凄さの象徴だ。「ZEH」のよさは住んでみないと分からない部分も多いが、ZEH-Mを満たしている三井ホームの賃貸木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」の居住者アンケートの記事を添付する。
マンションも分譲戸建てもZEHは必須要件で、これからは加速度的に広まるはずだ。
1号棟(左)と16号棟のモデルハウス