「新国立の図面は1年間に四千数百枚描いた」隈研吾氏 「新しい木の時代」シンポ
隈氏(東京コンベンションホールで)
昨日(12月11日)行われた「新しい木の時代 ~日本の森林再生と利活用~」シンポジウムで、隈研吾氏が約1時間にわたって基調講演した。数えたわけではないが、隈氏は内外の20プロジェクトを写真・画像を交えて話した。
ここで一つひとつ紹介する余裕はないので、隈氏が設計を担当した新国立競技場と新潟県長岡市の「アオーレ長岡」を紹介する。
まず新国立競技場から。隈氏はこの日起工式が行われた新国立競技場について「この1年間で新国立競技場の図面を約4,000数百枚描いた」と話した。
いったい図面を描くのがどのような仕事なのかさっぱりわからないが、一般的に図面はA3用紙を使うようで、重さにして30数キロ、厚さにして40数センチになる。これだけでは仕事量を紹介したことにはならないが、記者の知る限り、作家としては中国のノーベル文学賞作家・莫言氏は超大作「豊乳肥臀」1,200枚を3カ月で書き上げたというのが最近では記録的な多さだろうと思う。4,000数百枚の図面は隈氏だけが担当したわけではないだろうが、ノーベル賞ものの仕事なのかもしれない。
新国立について隈氏はまた、周辺環境と調和し溶け込むように建物の高さを抑えることに苦心し、「ザハ・ハディド案が75メートルだったのに対し、49メートルに抑えることができたので、(選ばれる)手ごたえはあった。剪定がいらない緑化、下から見上げる美しさ、わが国の伝統的な建築技法の採用、ハイブリッドの屋根、木と鉄やコンクリとの混構法、管理費の抑制などにも力を入れた」などと語った。
また、「世界中の木の建築に関わってきたが、やはり木の技術は日本が一番。住林さんはすごい」と住友林業を持ち上げることも忘れなかった。
「アオーレ長岡」外観(写真提供は全て長岡市)
ウェディング(左)と落成式典
次に「アオーレ長岡」について。地方再生・活性化、中心市街地活性化に資する事例として最適と思われるからだ。
同施設は、平成24年4月にオープンした地下1階地上4階建て延べ床面積約35,000㎡のナカドマ(屋根付き広場)、アリーナ、市民交流ホール、市民協働センター、議場、市役所本庁舎などが整備された多目的施設だ。総事業費は約132億円。
詳細は長岡市のホームページなどで調べていただきたいが、オープン以来の来館者は年間約140万人。人口が28万人の市だから驚きだ。単純比較はできないにしろ、従前施設の約4倍の来館者だ。施設は住民主導のイベントが多いのが特徴のようだ。施設がオープンして中心市街地の空き店舗が減少し、施設がある市の東側とその反対側の西との人の流れも生まれたという。
ホームページに掲載されている市民の声の一つに、「市役所機能のまちなか回帰に関する一連の整備が完了した今、まちなかに来る人々は楽しい顔をしている」とあった。
伊勢神宮 外宮(11月撮影)
伊勢市駅前のホテル二つ(左が三交不、右が伊勢外宮参道 伊勢神泉)
対照的な事例としてわが故郷・伊勢市を取り上げるのは心苦しいのだが、少し触れたい。〝日本人の心の故郷〟伊勢神宮に訪れる人は平成25年の遷宮では約1,400万人にも達した。その後、減少はしているが平成27年は約838万人だ。平年でも毎年600万人くらいの参拝者がある。
ところが、伊勢市に宿泊する観光客(だけでないが)は漸減しており平成27年は約40万人に過ぎない。外宮・内宮をお参りしてその足で鳥羽・賢島方面へ向かう観光客が圧倒的に多い。記者もたまに帰省すると、伊勢を通り越して鳥羽まで行って、カキやらサザエやらを食べに行く。伊勢市内ではありきたりの食べ物しかないし、観光客に勧められるホテルなどほとんどなかった。
ずっと空き地になっていた伊勢市駅前の空き地にホテルが数年前にでき、その対面にも三交不動産のビジネスホテルが今年11月にオープンしたが、駅前の一等地にホテル2つだけというのは情けない。伊勢が素通りされる流れは止められそうにない。
神宮の杉の大木
涌井・都市大特別教授 「わが国の自然はかみさんと一緒。美しいが扱いも難しい」(2016/12/11)
涌井・都市大特別教授 「わが国の自然はかみさんと一緒。美しいが扱いも難しい」
「新しい木の時代 ~日本の森林再生と利活 用~」シンポジウム(東京コンベンションホールで)
住友林業が協賛し、読売新聞社が主催するシンポジウム「新しい木の時代 ~日本の森林再生と利活 用~」が12月11日行われ、約400人が会場を埋めた。
この日は、2020東京五輪・パラリンピックのメイン会場になる新国立競技場の起工式が行われた日で、このタイミングを計ったように、シンポジウムでは建築家の隈研吾氏が基調講演をし、競技場の技術提案等審査委員会委員を務めている東京都市大学特別教授・涌井史郎氏、住友林業社長・市川晃氏、女優で戸板女子短期大学客員教授・菊池桃子氏、トヨタ自動車MS製品企画部主幹で「SETSUNA」開発責任者・辻賢治氏による「各分野で期待が高まる木の価値」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。
隈氏
◇ ◆ ◇
感動的なシンポジウムだった。記者は自らの勉強のためもあるが、主に取材のためにシンポジウムを年に数回こなす。だいたいが3~4時間ある。その内容を的確に伝えるのはとても難しい。読者の方々がどのような人なのかわからないからし、聴衆のレベルを無視して持論を一方的に話す学者先生が多いからだ。
この日のシンポジウムは違った。隈氏の特別講演では、20くらいの美しい作品事例が紹介された。シンポジウムでもそれぞれ皆さんの担当する分野の話が分かりやすく伝えられた。
それでもその中身の濃い話をここでは紹介しきれない。この日の模様は読売新聞が来年1月22日(日)付朝刊で発表するそうだから、それを読んでいただきたい。過不足なく伝えるはずだ。(記者はアンチ巨人なので読売新聞はほとんど読まないが、この日だけは買うか図書館でコピーして必ず読む。皆さんもそうしていただきたい。間違いなく料金の数倍の価値があるはずだ)
なので、ここではひょっとしたら読売が書かないと思われる、しかし、これこそが真髄をついた言葉だと記者が感じた涌井氏の話を紹介する。
涌井氏
涌井氏は、わが国の美しい自然とその災害が同居していることに例え、「うちのかみさんと一緒。美しいが扱いを間違えると大変なことになる」と話した。
この言葉を文字通り解釈すれば、上野千鶴子氏あたりから痛烈な反撃を食らうだろうし、読売も女性の読者層の反発=販売部数減を恐れ、この涌井氏の発言部分をカットするかもしれない。
しかし、記者は「かみさん」を「木」に置き換えた。これほど木(女性)と女性(木)の本質を文学的に的確に、男性の側から表現した言葉はないと思う。
これは菊池氏も市川氏も辻氏も話したことと同じだし、隈氏の考えにも通じるものがある。
菊池氏は自宅の椅子が壊れた話をした。椅子に使用されていた釘から木目に沿って木が割れたのだそうだ。市川市は「木の性質をよく知ることが必要」と語った。辻氏は「経年」「想い」「継承」をコンセプトに「SETSUNA」にたどり着いたことを話した。隈氏も、街がどんどん年を重ねるごとに価値を増すと話している。
女性も木も歳(年)に関係なく美しい。その美しさは不変だ。女性の梅干しのようなしわは、酒と同じようにそれだけ美に深みが増したと考えればより一層おいしく、いとおしく思える。そのしわにケチをつけるから険悪な関係に陥るのだ。
それにしても涌井氏の話は面白い。話すのが本業とは言えこれは神業だと思う。涌井氏から「木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩、歩くごとに人生3倍楽しくなる」と教わったのは20数年前だが、今回の「かみさんの美しさ」は5年前にも聞かされている。その記事も参照していただきたい。涌井氏は次のように語った。
「私はもう66歳。美しいが、性格が厳しいかみさんとどうして折り合いをつけるのかという難問の答えを知ったのは20年ぐらい前だ。『いなす』『負けるが勝ち』 これこそが夫婦円満の極意だ」
あれから数え涌井氏は71歳。東京都市大学を「停年」になったそうだが、新たに「特別教授」の肩書がついた。
シンポジウム後、涌井氏に「先生、これは終身教授という意味ですか」と聞いたら「特別教授にしてくれ」ということだった。ノーベル賞を受賞した大隅良典氏の肩書は東京工大栄誉教授だが、「名誉教授」も「栄誉教授」も退役した「教授」に与えられる称号だ。涌井氏の「特別教授」には「死ぬまで現役で続けてほしい」という大学側の強い要請があったからだと受け止めたい。
左から市川氏、菊池氏、辻氏
司会を務めたアナウンサーの渡辺真理氏
今春、ミラノサローネで世界で初めて公開されたトヨタ+住友林業の木の車「SETSUNA(セツナ)」も1階で展示された
緑の都市賞を受賞した多摩グリーン森木会が記念講演会「エゴからエコ 緑の価値を再認識しよう」涌井・東京都市大教授(2011/11/29)
住友不動産 中央区晴海の「ドゥ・トゥール キャナル&スパ」SOHO分譲開始
「ドゥ・トゥール キャナル&スパ」
住友不動産は12月9日、中央区晴海の超高層免震ツインタワーマンション「ドゥ・トゥール キャナル&スパ」(52階建て、住宅1,450戸、SOHO216戸)のSOHOの契約を開始したと発表した。
物件は、都営大江戸線勝どき駅から徒歩9分、中央区晴海三丁目に位置する52階建て2棟全1,450戸(住宅)とSOHO216区画。SOHOの専有面積は32.34~57.05㎡、最多価格帯は6,000万円台。建物は竣工済み。
第一期(25戸)は、EAST棟50~52階部分。サウナ付きスパやビューラウンジ&バーなどの施設が利用できる。
購入者の属性・動機は、①ドゥ・トゥールの住宅を保有しており、自宅とは別に株式投資の部屋(トレードルーム)として購入②地方在住の医療法人代表者が東京の拠点として購入③地方在住の弁護士が東京進出の拠点として購入④不動産鑑定士が住居を兼ねた事務所として購入⑤不動産を多数保有する人が投資と実用の両方の観点で購入-など。
来場者260組の属性は、中央区居住者29%を筆頭に23区内が69%、年齢は40歳代が44%、50歳代が25%、30歳代が18%、職業は経営者が43%、会社員が31%、会社役員が8%など。
◇ ◆ ◇
2020東京オリンピック開催が決まった2013年9月8日から2か月後の11月、同社がこのマンションを分譲すると発表した時点で、SOHOを盛り込むのは大正解だと思った。間違いなくSOHO需要はあると読んだ。
ニュースリリースではいま一つ分譲単価は分からないが、どうやら450万円くらいのようだ。単純比較は難しいが、最近の都心部のコンパクトマンションの分譲単価は軒並み400万円を突破してきている。売れ行きも堅調に推移している。銀座当たりの中古マンションの相場も450万円くらいではないか。リリースには「飲食店舗や不特定多数の人が出入りする業種などに制限があります」とある。
spa
住友不動産 晴海のツインタワー「ドゥ・トゥール」来春分譲へ(2013/11/22)
第2回「マンションいい話コンテスト2016」グランプリに梶原氏 マンション管理協
第2回「マンションいい話コンテスト2016」(すまい・るホールで。左から山根、梶原、成田、高橋、玉野、伊藤、児島、齋藤の各氏)
マンション管理業協会(管理協)は12月9日、マンションでの課題解決に向けた管理組合活動を支援すると共に、マンション活動における成功事例やノウハウなどの共有を目的とした第2回「マンションいい話コンテスト2016」を開催した。
全国から応募のあった806通の中から、グランプリ(賞金50万円)は、梶原洪三郎氏の「あるマンション理事会の情景」が選ばれた。認知症を発症している主人公の80歳の組合員が輪番制により理事に選任されたことから様々な問題が発生するのだが、主人公のぽつりと漏らした一言が行方不明になった子どもを救うストーリー。
受賞した梶原氏は「とてもびっくりしている。マンションが抱えている入居者の高齢化と建物の老朽化の問題解決に少しでも役立てることにつながれば光栄」と喜びを語った。
主催者の山根弘美・管理協理事長は「われわれはマンション居住者のみな様と一緒になって、より豊かで安心・安全なマンションライフが送れるようこれからのマンション活動をサポートしていきたい」とあいさつした。
審査委員長の齋藤広子氏(横浜市立大学教授)は「作品にはたくさん涙した。感動、勇気、希望を頂いた。これからもいい話を広めていきたい」と講評した。
準グランプリ(賞金5万円)は成田耕一氏、特別賞(賞金3万円)は児島秀樹氏、伊藤都氏、玉野鼓太郎氏、高橋恭平氏がそれぞれ受賞した。
表彰式のあと、「マンションにおける認知症高齢者への対応」を題材にしたミニドラマが上映され、大ヒット漫画「ヘルプマン!!介護起業編」で主役のモデルにもなったケアワーク弥生取締役・飯塚裕久氏の「マンションにおける認知症事例とその対応策」をテーマとした講演が行われた。
齋藤氏(左)と梶原氏
マンション管理協 「マンションいい話コンテスト2015」受賞作発表(2015/12/10)
理解できない超高層マンションの価値割合による課税変更
政府与党による平成29年度の税制改正大綱がまとまった。マンションの固定資産税、都市計画税、不動産取得税はこれまで取得する階数に関係なく専有面積割合で課税されていたのを、高さ60m以上の超高層マンションについては階数が高くなるほど課税額を増や「価値割合」を盛り込むことが決まった。税制大綱の具体的な内容に沿って記者の考えを紹介する。
◇ ◆ ◇
高さを60m超としたことについて。この数値については合理的な理由はそれほどない。建築基準法では高さが60m以上の建物については構造計算上、政令による技術基準を満たすことが求められており、これに準じたものと思われる。1層を約3~3.2mとした場合、階数は18~20階建てとなる。
「価値割合」手法を採用するのであれば、超高層だけでなく低層、中層にも適用してもよかったのではないか。
その「価値割合」による専有部の評価額だが、各住戸の価格は階数だけで決まるものではない。一般的に階数が高くなるほど高く設定はされるが、過去の事例では、低・中層マンションでも1層当たり坪単価で数百万円の差があったものもあるし、その逆に武蔵小杉の超高層では階数によってほとんど差異がなかった事例もある。
なぜか。マンションの価格形成の大きな要因は眺望・日照・通風であり、その時々の市況も大きく影響する。低層マンションでも階数が異なれば眺望・日照条件が激変するケースは多く、その逆に、前面に高い建物が建てられないエリアでは眺望が担保されていることから、階層によって価格差を設ける意味がなくなるからだと思われる。
なので、今回のように「1階を100とし、階が一を増すごとに10を39で除した数を加えた」補正率は合理的な説得力を欠くと記者は考える。1層の補正率が10/39=0.26%という数値の理由も全然わからない。富裕層にとって20階建てで5%、40階建てで10%の増税など痛くもかゆくもないのではないか。そうでない層は税金が安い低層階を選好するようになり、上層階が売れないと困るデベロッパーは上層階の価格を下げる逆転現象が起きることはないのか。
もう一つ、価格を形成する大きな要因は専有部の広さであり、設備仕様、デザインなどだ。これを固定資産税評価額に反映させるのは至難の業だと思う。免震や制振構造をどう強化するのかも注目したい。
例えば天井高。具体的な事例を示すと、三井不動産レジデンシャルが2011年に分譲した「パークコート六本木ヒルトップ」では、標準階のリビング天井高は3,400~3,450ミリあり、廊下、キッチンでも2,350ミリ確保されていた。
一般的なマンションのリビング天井高は約2,500ミリであり、廊下、キッチンなどは約2,200ミリだ。この差を評価額に換算すれはいくらになるのか。記者は分からないが、とてつもなく高い評価点になるのではないか。
それでも当時の分譲坪単価は500万円だった。今なら坪800万円以上だろう。価格を形成する要因は、地価や建築費もあるが、その時の市況が大きく左右するという典型的な事例だ。
また、超高層のベントハウスなどの価格は通常階の単価の2~3倍するものが少なくないが、これは前述した眺望の価値に加え、虚栄心を満たす豪華な設備機器を設置し〝唯一無二〟の〝非日常〟を演出する企画を盛り込むからだ。デベロッパーの企画担当者はこの商品企画に力を注ぐ。
せっかく「価値割合」を採用するのなら、このデベロッパーの苦労もきちんと評価すべきだ。
これは失礼だが、固定資産評価額をはじき出す担当者は広さ、設備機器を定量的に測ることはできるかもしれないが、トータルなデザインを評価する目利き力は兼ね備えていないのではないか。
と、ここまで書いて大きな疑問が出てきた。いったい建物の評価は何を基準にするのかという問題だ。先に上げた「パークコート六本木ヒルトップ」は突出したレベルにあると思うが、仮にこのマンションの「質」を100とすれば、今売られている億ションのレベルはせいぜい70しかないと思う。全体の建物評価の整合性はどのようにして担保するのだろうか。
税制大綱では、「区分所有者全員による申出があった場合には、当該申し出た割合により当該居住用超高層建築物に係る固定資産税額をあん分することも可能とする」とあるが、多数決ではなく区分所有者全員というのはかなりハードルが高い。
個人的には、「価値割合」も結構だが、街の景観に配慮した総合設計制度の適用を受けた物件とかCASBEEで高い評価を得た物件などは固定資産税、都市計画税の思い切った減免措置を取るべきだとス考えている。さらに言えば、戸建ても含めて良質な住宅が市場できちんと評価される仕組みを構築してほしい。
防犯ガラスの過信は禁物 旭化成ホームズ・くらしノーベションが衝撃的な調査報告
第15回「くらしノベーションフォーラム」(AP東京丸の内で)
松本氏
知らなかったのは記者だけかもしれないが、防犯ガラスは普通ガラスと比べそれほどガラス割侵入を防ぐことができないことが旭化成ホームズの調査で分かった。同社くらしノーベション研究所所長・松本吉彦氏が12月8日行われた、「科学的根拠に基づいた犯罪予防~防犯環境設計について考える~」をテーマにした第15回「くらしノベーションフォーラム」で明らかにした。
松本氏は、過去10年間の戸建て侵入被害にあった同社施工の事案を様々な角度で分析した結果を報告。
この中で、1階窓の被害があったN=363例のうち、侵入経路について2カ所にロックが付いている防犯ガラス183例ではガラス割侵入が48%、他手段の侵入が29%、ガラス割未遂が16%、他手段の未遂が8%だったと語った。
一方、普通ガラスで被害があった180例では、ガラス割侵入が61%、他手段の侵入が22%、ガラス割未遂が9%、他手段の未遂が7%だったことを明らかにした。
この結果から、松本氏は「防犯ガラスはガラス割侵入防止の効果あり」としながらも、高窓やシャッター付き窓の被害が少ないことなどから、外出時にはシャッター窓を閉め、面格子のある浴室窓を開けたままにしないよう喚起した。
また、死角に侵入させないゾーンディフェンスやハードディフェンス、二世帯住宅や2階リビングなど建て方、さらには「みまもり型防犯設計」など総合的訪販対策を講じれば被害リスクは0.25倍(一般戸建ては0.43倍)に減ると語った。
フォーラムでは、明治大学理工学部建築学科教授・山本俊哉氏が「科学的根拠に基づいた犯罪予防~防犯環境設計の効用と限界~」と題する講演を行った。山本教授は講演の中で「安全教育(Education)」(≒自助)「法制度・システムの執行(Enforcement)」(≒公助)「環境整備(Environment)」(≒共助)の「安全の3Eアプローチ」が重要と力説した。
山本氏はまた、犯罪予防の視点からル・コルビュジエの思想に異論を唱える考えもあると話した。
山本氏
◇ ◆ ◇
皆さんは、防犯ガラスと普通ガラスの被害状況の数字をどう思われるか。記者は防犯ガラスの破砕実験を体験している。大きなハンマーで叩いても割れず、破砕するまでずいぶん時間がかかり、ものすごい音が出る。間違いなく向こう三軒両隣に音が響き渡る。
ところが、松本氏の報告では2枚の合わせガラスでも特殊な工具を使うためか約5分で穴があけられるというではないか。普通ガラスは1分間くらいだから効果があるといえばあるのだろうが、防犯ガラスの値段は普通ガラスの1.5倍くらいする。それほどコストをかけても数値は61%から48%にしかならないのであれば、単に気休めに過ぎないとも思える。過信はできない。むしろ、防犯センサーとか松本氏が強調した電動シャッターなどを取り付けたほうがいい。
なお、同研究所が2011年に発表した調査報告書では「普通ガラスの侵入率を1とすると防犯ガラスは0.39と約4割に減ることが分かりました」とあり、今回の調査データを2011年時と同じ計算式で侵入率を算定すると0.6倍くらいになるという。
これだけでは断定的なことは言えないが、防犯ガラス割りの〝技術〟が進歩しているとも受け取れる。防犯対策と泥棒とのいたちごっこは続いているということか。
松本氏によると、この種のデータはどこにもないようで、衝撃的な調査報告ではないか。
◇ ◆ ◇
松本氏は、報告の中で2013年を前後に「中部三県」(東海三県ともいい、愛知、岐阜、三重)で侵入被害が〝激増〟したと何度も「中部三県」を口にした。
三重県出身の記者は、被害が多かったのは愛知県で三重県ではないと思い、また温厚な人が多い三重県人の名誉のためにも、「松本さん、私は三重県出身。(近江泥棒、伊勢乞食という言葉はぐっとこらえて)三重県は泥棒が多いはずはない」と迫った。松本氏は「確かに(木曽・揖斐)川を渡るとぐっと侵入は少なくなる」と答えた。
してやったり。松本氏から1本取った。しかし、続編がある。取材を終え、ある忘年会に出席して夜中に帰ったのだが、田舎の身内に泥棒が入ったことを知らされた。
みんなが寝静まっている深夜にどこかから侵入され、リビングに置いていた財布から多額ではないが、忘年会の参加メンバー約40人の会費を賄えるくらいのお金を盗まれたそうだ。それだけではない。娘の下着もなくなったという。
犬も寝込んだのか、全然吠えなかったそうだ。駆けつけてきた警察官には大声で吠えたという。犬まで温厚になってしまったのか、それとも権力には拒否反応を示す県民性を反映したものかよくわからない。おそらく鼻薬をかがされたのだろう。袖の下に弱いのは全国共通だ。犬も一緒。なので記者は犬よりネコが好きだ。
それにしても泥棒の主たる目的は下着なのか金なのか。つかまるリスクとそろばんをはじくとどうなるのか。山本教授が話した、人間は損得の合理的計算のもとで行動を選択するという「合理的選択理論」(ロナルド・クラーク)に照らしあわせると、獲得する報酬はどうやって測るのか。私は人間は損得だけでは動かないと思う。女性の下着の価値は泥棒しかわからないはずだ。
インテリックス 一戸建て中古の買い取り再販業に参入
マンション買い取り再販の最大手インテリックスが一戸建ての買い取り再販業に参入する。現段階で詳細は不明だが、不動産仲介会社を通じて中古一戸建ての仕入れを積極化する模様だ。
同社の平成28年5月期の中古マンション再生流通事業「リノヴェックスマンション事業」は、売上高329億円(前期比32.4%増)、営業利益12億円(同37.6%増)で、販売件数は1,393件(同226件増)、平均販売価格が2,342万円(同11.1%増)となっている。
中古住宅再生事業では、カチタス(群馬県桐生市、旧社名:やすらぎ)がトップで、1戸建てを中心に年間3,000戸を突破する。
大京も今年10月、戸建てリノベーション事業に参入すると発表。リノベーションマンションと合わせて、平成33(2021)年3月期に販売戸数を2,500戸超に拡大する目標を掲げている。
◇ ◆ ◇
戸建て買い取り再販についてよくわからないが、当然、旧耐震などは耐震診断・補強を行い、断熱・遮音などの省エネ性向上工事から既存住宅売買かし保険、地盤調査、第三者機関の建物検査などの費用もかさむ。建て替えたほうがいい物件も少なくないし、街並みとの調整も大きな課題になる。
業界大手のインテリックスの戸建て買い取り再販業への参入が業界地図をどう塗り替えるのか注目したい。
モリモトの億ション「ディアナガーデン自由が丘」 モデルなし 会員だけで残り3/14戸
「ディアナガーデン自由が丘」完成予想図
モリモトの自由が丘駅圏の億ション「ディアナガーデン自由が丘」が会員優先分譲だけで、しかもモデルルームなしで全14戸のうち11戸が成約となった。
物件は、東急東横線・東急大井町線自由が丘駅から徒歩6分、目黒区自由が丘2丁目の第一種低層住居専用地域(建蔽率60%、容積率150%)に位置する地下1階地上3階建て全14戸。
全14戸のうち11戸は9月から開始した会員優先で分譲済みとなっており、残りは3戸の第一期(戸数未定)の専有面積は107.15~213.04㎡、価格は未定だが坪単価は550万円。販売予定は平成29年1月中旬。竣工予定は平成29年2月中旬。設計・監理はナチュラル設計企画。デザイン監修はアーキサイトメビウス。施工は東亜建設工業。
〝ディアナガーデン〟は同社の最高級ブランドで、バブル崩壊後の1996年(平成8年)竣工の第1弾「ディアナガーデン麻布」(29戸)、1997年(同9年)竣工の第2弾「ディアナガーデン恵比寿」(73戸)から2006年(同18年)竣工の「ディアナガーデン広尾」(108戸)まで5棟が供給されており、今回が6棟目。
◇ ◆ ◇
同社に見学をお願いしたら、「モデルルームはありません。9月から会員の中から約100人の方にお勧めしており、これまで11戸が成約済み」という答えが返ってきた。
だから、現地ももちろん観ていない。物件ホームページの今井敦氏の考えを紹介するほかない。
「『DIANA GARDEN』として、これからの邸宅の姿を指し示す提案性をもたすこと。緻密な設計、重厚な造形、素材のディテールなど、邸宅を形成するすべてにこだわりを尽くし、風格を放ちながらも、次代の邸宅像を予感させるモダンさとシャープさを持つ建築美を実現する」とある。
そしてインテリアデザインが南部昌亮氏だ。坪単価550万円は決して安くはないが、最強のコンビが揃って自由が丘の〝ディアナガーデン〟ならさもありなんと思ってしまう。
〝ディアナガーデン〟の第2弾「恵比寿」は、バブル崩壊の影響から中堅デベロッパーがばたばたと倒れる一方で、同社はいち早く〝デザイナーズマンション〟に特化して急回復-というよりバブル崩壊前の同社は数多くある中堅の1社にしか過ぎなかったのだが-しているころで、坪単価は400万円しなかったのではないか。森本浩義社長が自画自賛したのを覚えている。その3年前に竣工した「恵比寿ガーデンプレイス」は坪単価700万円だったが、設備仕様はそれほどでもなかった。
以下は今井氏の最近の作品の一つ
大京 戸建て「アリオンテラス北小金」分譲開始
「アリオンテラス北小金」完成予想図
大京は12月8日、同社の戸建てブランド「アリオンテラス(ALION TERRACE)」 シリーズの千葉県で初となる「アリオンテラス北小金」を12月9日から発売すると発表した。駅から徒歩6分の全12戸で、中庭(パティオ)の中にあるような街区構成と、自然エネルギーを活用したパッシブデザインが特徴。
物件は、JR 常磐線北小金駅から徒歩6分、松戸市小金きよしヶ丘1 丁目に位置する全12戸(分譲は10戸)。土地面積は100.07~105.33㎡、建物面積は95.65 ~107.93㎡、価格は4,080万~5,280万円。竣工予定は2016年12月22日。設計・施工は津田産業。
◇ ◆ ◇
同社が戸建て事業に力を入れるというのは先の取材で聞いている。今回も駅から徒歩6分と近く、価格もリーズナブルなものだ。マンションなら坪単価は180万円くらいするのではないか。マンションより戸建てのほうが安いのが最近の市場だ。
施工の津田産業は三井不動産レジデンシャルや東急不動産の物件施工も多く、最近ではフージャースアベニューの施工もある。
「クリマデザインの時代」 首都大学東京・小泉雅生教授 プレ協が環境シンポ
「ZEH元年-その先の住まいとまちづくり」環境シンポジウム(すまい・るホールで)
小泉教授
プレハブ建築協会は12月7日、「ZEH元年-その先の住まいとまちづくり」と題する2016環境シンポジウムを実施した。関係者ら約200名が参加した。
「2020年までに標準的な新築住宅でZEHの実現を目指す」という国の政策目標の達成に沿ったもので、首都大学東京大学院教授・小泉雅生氏(小泉アトリエパートナー)が「新しい環境文化の形-クリマデザイン」と題する特別講演を行った。
「クリマデザイン」とは、小泉教授や工学者の村上周三氏(建築環境・省エネルギー機構理事長)らが提唱する、パッシブデザインを一歩進めた機械設備(アクティブ)も適宜使いながら環境を制御しつつ地域性を背景とした環境文化を創造しようという新しい考えで、「環境の質を上げ、生きものとしての快適な環境を考え、『気候』をデザインする」(小泉氏)というもの。
シンポジウムでは、積水化学工業、パナホーム、サンヨーホームズの最新の事例報告も行われた。
◇ ◆ ◇
小泉氏は、「これまで様々な実践を行ってきた中で、もう一度理念、思想を考え直そう」と、クリマデザインにたどり着いたその経緯などについて話した。
記者は、パッシブデザインとどこが違うのだろうとずっと考えていたが、どうやら高気密・高断熱=アクティブのイメージが強いわが国のプレハブ住宅のいいところと、ややもするとアクティブを否定的に捉えがちなパッシブデザインの良さも取り入れながら、より快適な環境文化を育てようという理念だ。「クリマ」は気候(climate)から取った造語。
なるほどと思った。これからはボタン一つで住宅の温熱環境を自在に操る時代だ。IT技術の進展がそれを可能にする。
しかし、ボタン一つでそれが可能な、均一な住空間が果たして最適な空間かと問われれば「ノー」だ。そのいい例として、小泉氏は、爬虫類の繁殖に成功した札幌市円山動物園の本田直也氏の話を持ち出し、「亀に雨を降り注ぐと交尾が始まる。適度な負荷が必要」などと冗談交じりに話した。
われわれ人間もそうだ。われわれに楽な人生などやってこないかもしれないが、楽しい生活をクリマデザインは実現するのではないか。
興味のある方は、村上周三+小泉雅生+クリマデザイン研究会「 クリマデザイン: 新しい環境文化のかたち」(鹿島出版会)をお読みください。ついでだが、記者が最近読んだ芦原義信「続・街並みの美学」(岩波現代文学)もぜひおすすめだ。小泉氏の考えに近いものがある。