「女性には体内マーケがある」〝業界のレディ・ガガ〟タカラレーベン高荒氏
当欄既報のタカラレーベンが銀座に開設したコンパクトマンション常設サロン「SALON DE NEBEL」の記事の中で、コーディネートを担当した同社取締役執行役員営業統括グループ統括部長・高荒美香氏を〝業界の革命児〟〝レディ・ガガのよう〟と書いた。
高荒氏からクレームが付くかと思ったら、そのまま通った。記者は音楽などまったく解さない。カラオケで歌えるのは三波春夫か小椋佳の5曲くらいしかない。ひどい音痴だ。
レディ・ガガだって知っているわけではない。あの度肝を抜く衣装と圧倒的な表現力にただただあきれ返るだけだが、一方で社会貢献活動に熱心なのに感服している。
高荒氏に最初に会ったのは7年前だが、強烈なオーラを感じた。そのときの印象を今風に言えばレディ・ガガそのものではないかと。
そこで、記者の記憶に深くとどめるためと、もう一つ、あること(本当はこちらのほうに狙いがあるのだが、いまは言えない)の同意を得るためにインタビューを申し込んだ。高荒氏は快く受けてくれた。以下、高荒氏と記者のやりとり。( )内は記者。
(素敵な洋服ですね。ゼブラ柄の。普通の女性社員は着ませんよね。わたしも、今日はレディ・ガガさんと同じ高荒さんにお会いするので、ほら、このネクタイ、わたしの好きな画家の絹谷幸二さんがデザインしたネクタイです。この前、大阪に行ったときに積水ハウスさんの「絹谷幸二 天空美術館」に寄って買ったんです。昔も同じものを買ってボロボロになるまでいつも身に着けていました)
「素敵ですね!良くお似合いです。わたしのは、そうですね、ゼブラ柄ですね。たしかに普通の女性とは少し違うかもしれないですね」
(高荒さん、最近、御社の真似をするデベロッパーがずいぶん増えてきました)
「承知しています。ただ、伝えたいのが〝好き勝手やってる〟と思われている様ですが、個人的趣味で自由にしている訳ではないです。きちんとリサーチし、ストライクゾーンのど真ん中で勝負しています。女性には、男性にはない体内マーケティング能力があると思います。だから流行は女性から作られると言われるんです。綺麗とか好きとかかわいいとか、これは流行しそうだとか時代の流れを身体で敏感に受け止められるんです。女性の感性を侮っちゃいけない。調整力だってちゃんと持ち合わせています」
(なるほど、わたしも最初に見学した「巣鴨」は〝好き勝手〟やっているとそう思いましたが。あのナイフとフォークのシャンデリアにはびっくりしました)
「あのナイフとフォークだって、当時、あまり話題にもなっていなかったトーヨーキッチンの青山のショールームで見て、これだと思い採用したんです今ではキッチン業界の革命児ですよ!流行るものを世間の5年くらい前にみつけちゃうんです私・・・・・・!」
(そうだったんですか。確かに。トーヨーキッチンはいいですよね。わたしもショールームをみてびっくりしました)
(嫌な言葉ですが、「女性活躍」についてはどうですか)
「女性活躍? できていないと思います。男性と対等に働くとしたら、それこそ腹をくくって5倍、10倍働かないときつい。男性もまた女性がずっと働くことを期待しない、よしとしない雰囲気を漂わせ、それを女性が感じ取ってしまう側面もあります」
◇ ◆ ◇
高荒氏が「男性と対等に働くとしたら、それこそ腹をくくって5倍、10倍働かないときつい」と話したことについては、別の機会に書く。「女性活躍」なる言葉はいつの間にか「一億総活躍」に代わり、問題の所在、核心がぼやけてしまったが、記者も勝間和代氏のように、髪を振り乱して男勝りの八面六臂の四面楚歌の活躍をするのが「女性活躍」だとは思わない。
今回のインタビューの目的も「女性活躍」ではない。同社のマンションの商品企画を劇的に変えた高荒氏とはどのような人で、変わる前はどんな会社だったかを紹介するためだ。
ご存じない方もいらっしゃるはずだから、少し同社のビフォアについて書く。記者は同社が板橋区中板橋に本社を構え、社名が「宝工務店」だったころからずっと取材してきている。30数年前からだ。
創業社長(当時)の村山義男氏(現取締役会長)は、馬主としても知られており、1986年のマイルチャンピオンシップの優勝馬タカラスチールなどたくさん競走馬を所有していた。(不動産業界の馬主は、大京の創業者・横山修二氏、元興和物産社長・梅崎敏則氏、元リテック・コンサルタンツ社長・齋藤敏博氏、富士開発会長・小尾洸氏などがいる)
馬主だから派手な格好をしていると思われがちだが、村山氏は全然そうではない。ごく普通だった(私服のときは、黒い襟のシャツに黒いネクタイなどを締めてダンディな格好をしていたが)。
もう時効だから書く。同社が池袋に本社を移転し、JASDAQに上場したあとだから15年くらい前か。社長室で歓談し、昼食時になったので幕の内弁当をご馳走になり、一緒に食べた。これまたごく普通の弁当だった。内心〝上場会社の社長になったのにこんなものを食べているのか〟と思ったが(意外とデベロッパーの社長は粗食が多い)、何より驚いたのは村山社長がものの5分くらいで平らげたことだ。食べるのが遅い記者は社長にペースを合わさないと失礼だと思って必死に食べたが、それでも20分くらいかかった。
そんな社長だ。〝良きに計らえ〟というタイプかもしれない。今の島田和一社長も、村山氏と苦楽を共にしてきた方だ。全然派手ではない。タカラレーベンのイメージも会長、社長そのものだ。
◇ ◆ ◇
そんな同社のイメージを高荒氏は劇的に変えた。それが7年前の同社初の高額マンション「ディプティエレメンツproject」だった。「全て女性が担当した」と当時の島田副社長に勧められて見学した。その時の記事に次のように書いた。
「責任者は同社に入社9年目の第4営業部次長兼第4営業部1課課長の高荒美香さん」
「販売事務所もモデルルームもかなりこだわりを見せたものだ。カラーリングはシルバー、グレー、黒などで統一。商談の机はステンレスシルバーで、引出しの中底も黒だった。電卓はゴールド。花瓶は中東によくありそうな曲面が美しい黒。壁は「アルハンブラ」の建物をイメージさせるクロス。収納の把手は鋳物製で、ドアの把手も…『スワロフスキー』を思わせる細工がされたものだし、 シャンデリアは、ナイフとフォークをデザイン処理して吊り下げたものだった」
「高荒さんのスーツも黒で『それも意識して着ているのか』と聞いたら、『これは会社の制服ですから。普段は黒ばかり着ているわけではありません』とのことだった。爪にはネイルアートが施されていた」
話が飛ぶ。マンションや一戸建ての販売事務所、モデルルーム・ハウスに観葉植物はつきものだが、なんとフェイク(偽物)が多いことか。せっかくの本物の突板が台なしだ。「画竜点睛を欠く」意味をよく考えてほしい。
高荒氏が100円ショップで買ったナイフとフォークでシャンデリアを作ったら、それはそれで称賛されるかもしれないが、来場者に「これって、トーヨーキッチンのものですよ」と話す場面を考えていただきたい。これだけで来場者は感激するはずだ。マンションも一戸建てもある意味では「感動を売る」商品のはずだ。
話が右往左往して申し訳ないが、〝業界の革命児〟〝レディ・ガガのよう〟と高荒氏を評したのは我ながら的確だと思う。感性は好き勝手で体得できるはずはない。レディ・ガガも大変苦労されたようだ。
タカラレーベン コンパクトに参入 業界の革命児 高荒美香氏がコーディネート(2018/1/13)
タカラレーベン 小金井CCに隣接「レーベンリヴァーレ サレムヴィスタ」(2012/2/24)
タカラレーベン新ブランド「THE LEBEN」第一弾「G/CLASSIC 山の手PJ」(2014/3/28)
タカラレーベン 「巣鴨」で同社初の高単価マンション(2011/2/7)
負けへんぞ横浜北仲に ここは〝北浜〟の一等地 三井レジ他「北浜ミッドタワー」
「北浜ミッドタワー」
先ほど「ザ・パークハウス 中之島タワー」の記事を書いた。片道3時間、高い交通費を掛けてこの1物件だけを見て手ぶらで帰ってくる記者ではない。高さや規模はかなわないが、立地や質では勝るとも劣らないもう一つのマンションを見た。三井不動産レジデンシャル(事業比率45%)・京阪電鉄不動産(同45%)・積和不動産(同10%)3社JVの「北浜ミッドタワー」だ。〝負けへんぞ横浜北仲に〟と言いたげなマンションだ。
物件は、京阪電鉄北浜駅直結、御堂筋線淀屋橋駅から地下直通6分、大阪市中央区北浜2丁目に位置する免震の43階建て311戸(販売戸数306戸、事業協力者戸数5戸)。専有面積は43.12~155.51㎡、坪単価は340万円。竣工予定は2019年1月下旬。施工は竹中工務店。
現地はわが国の証券取引発祥の地「北浜」。一つ道路を隔てた角地には昭和10年に建設されその基壇部を再現した大阪取引所がある。敷地は元銀行跡地。
建物は「中之島」と同様、竹中の免震構造。大阪では少ないという二重床・二重天井で標準階のリビング天井高は2550ミリ(最上階は2700ミリ)。食洗機、ディスポーザー、御影石キッチンカウンタートップなどが標準装備。
販売を担当する首藤太一氏は「2016年12月から販売を開始しており、3億円超の最高価格住戸を含め供給した8割強がほぼ完売。未供給の住戸は面積が狭いタイプが中心で、これから価格を決定する。東京からの富裕層を含め、来場者の評価は高い」と話した。
基壇部
モデルルーム
◇ ◆ ◇
記者は大阪にはうといが、「株」をやっていたので「北浜」が金融街であることは知っていた。小説にもたびたび登場する豪商の街だ。
物件から歩いて数分の目抜き通り「御堂筋」は風格があり、幅43.6mの道路は日本の道100選に選ばれているだけのことはある。イチョウ並木が見事だ。
物件の基本性能、設備仕様は単純比較できないが、億ションタイプは東京にこのまま持ってきても見劣りは決してしない。
まだまだ書きたいことはあるが、シアターのナレーターが「飾る言葉はいらない」と締めくくったのでそうする。明日は広島だ。野球じゃないですよ、マンションの取材。
大阪取引所
御堂筋
京阪中之島駅
負けたらあかんぞ東京に わが国初 免震最高階数55階建て 地所レジ他「中之島」竣工(2018/2/20)
坪260万円はすごく安いと感じたが…東急不他「心斎橋SOUTH」竣工 見学会(2017/12/21)
負けたらあかんぞ東京に わが国初 免震最高階数55階建て 地所レジ他「中之島」竣工
「ザ・パークハウス 中之島タワー」
三菱地所レジデンスは2月19日、免震構造マンションとして日本最高階数の55階建て「ザ・パークハウス 中之島タワー」の竣工見学会をメディア向けに行った。市内で4例目となる「CASBEE大阪みらい」最高Sランクを取得し、火災避難時に非常用エレベーターが利用できるようにしたわが国初のマンションでもある。
物件は、京阪中之島線中之島駅から徒歩2分.大阪市北区中之島6丁目に位置する55階建て全894戸。専有面積は40.77~148.51㎡、坪単価は250万円台。売主は同社のほか住友商事、京阪電鉄不動産、アサヒプロパティズ。設計・施工は竹中工務店。竣工は2017年10月26日。2015年11月、第一期販売開始、2017年12月に完売。
中之島は大阪都心の梅田に近く、ビジネスや文化など多彩な都市機能をそなえた施設が集積。今後も中之島の地権者企業である朝日新聞社、関西電力など30社からなる「中之島まちみらい協議会」が官と連携して文化・国際・業務ゾーンとして街づくりを進めていく。市は2020年までに大阪新美術館を建設する。
見学会に臨んだ同社常務執行役員・森克明氏は大阪圏のマンション市場について、「マーケットは現状が続くとすれば年間1.8万戸くらいの供給。駅近、再開発など魅力のある用地にはホテルも含めデベロッパーが殺到しており、取得環境は厳しい。しかし、都心部も郊外部も需要は底堅いものがあり、今後も引き続き堅調に推移する。当社も積極的に展開していく」と話した。
40階ビューラウンジ
◇ ◆ ◇
大阪は、修学旅行を含めても10回も行っていない。再開発などで都心部の人口は増えているものの東京に圧倒的な差をつけられ、経済は停滞し、財政力が弱く、阪神タイガースも相変わらずで、元気なのはお笑いタレントくらいというイメージしかない。
マンション市場も首都圏と比べ規模は2分の1くらいで、一等地の価格は3分の1くらいのようだ。しかし、東京の市場と比較しても意味がない。率直に坪単価250万円台の894戸の免震タワーが2年間で完売というのはやはりすごいというべきだろう。リビング天井高も2500ミリ確保されていた。
同社関西支店事業企画部長・ 林祐輔氏らによると、中之島は東京でいえば「湾岸エリア」に近いイメージだという。確かに北に堂島川、南に土佐堀川が流れ、今後の発展が期待できるという点では湾岸に似ている。坪単価も数年前の豊洲に近い。
しかし、中之島はそれ以上だ。同世代の作家、宮本輝氏の「泥の河」「道頓堀川」の舞台にもなった。なにより大阪市庁舎があり、ネオ・ルネッサンス様式の日銀大阪支店、国の重要文化財に指定されている大阪市中央公会堂、立派な国際会議場もある。中之島フェスティバルタワーにはコンラッド大阪も昨年開業した。中之島の駅舎はふんだんに天然木が採用されており、ホーム側壁も不燃木材だという。最高に美しい。
そういえば、ニューヨークもシンガポールも香港もストックホルムもみんな島だ。独自の文化・歴史を生かせば東京とはまた違った味が出せるのではないか。地価が安い分競争力もある。「負けたらあかんぞ東京に」中之島にエールも送りたくなる。
3階オーナーズラウンジ
モデルルーム
外観(手前が堂島川。阪神ファンはここには飛び込まないとか)
いでよ 商品企画を世に問うマンション このままでは底這い市場必至
昨日(2月14日)、不動産経済研究所が今年1月の首都圏マンション市場動向調査をまとめ発表した。
新規発売戸数は1,934戸(前年同月比39.7%増)で、月間契約率は65.2%(同3.6ポイントアップ)となった。1戸当たり価格は5,293万円(同23.4%ダウン)、坪単価は260万円(同19.3ポイントダウン)となり、即日完売は三井不動産レジデンシャル「パークホームズ山王二丁目ザ レジデンス」1期4戸の1物件にとどまった。
この数字をどう読むかだが、その前に、この種のマクロデータに一喜一憂してはならず、慎重に読む必要があることを示そう。
同研究所の前月2017年12月の首都圏マンションは6,480戸の供給量に対して月間契約率は72.5%となり、好不調ラインの70%を上回った。しかし、この中には、即日完売した「ザ・タワー横浜北仲」1 期730戸と、大和ハウス工業他「プレミスト湘南辻堂」1 期120戸が含まれており、この2物件を除くと月間契約率は68.3%となり、「マンション市場は不調」となる。
マクロデータをそのまま鵜呑みにすると間違った判断をしてしまう好例だ。
話を戻すと、1月の即完物件が1物件、しかも4戸のみとは情けない。記者もいやな予感をしていたのだが、このままではこの先悲観的な見方をせざるを得ない。年初は株価の上昇で始まり、日経平均は3万円もあるのではといった景気のいい観測も流れ、デフレ脱却宣言も近いと思われたが、世界同時株安に引きずられるように日経平均株価も急落した。
それでもわが国のファンダメンタルズは悪くないので、これ以上マンション市場が悪化するとは考えていないが、目先市場は、安倍総理が経済界に要請している春闘の「3%の賃上げ」が実現するかどうかにかかっている。
実現すれば、3月末に発表される地価公示も上昇・回復基調であるのは間違いなく、過去もそうだったように、市況は活気づく。
逆に賃上げが不調に終われば、期待感は一挙にしぼみ、このままの底這いが続くのではないか。消費増税は再々延期というわけにはいかないだろうが、10%増税が実施されることになれば多少の駆け込み需要は期待できるかもしれないが、その反動のほうが怖い。
そうなると、それはそれで結構なことだが、消費者は価格が安い中古(既存)市場に向かう。不動産流通各社も必死で攻勢をかけている。政府の「流通倍増」の後押しを受け、新規店舗の開設からインスペクションやら買い取り保証、つなぎ融資、ホームステージング、ハウスクリーニング、設備保証などなど至れり尽くせりのサービスメニューを用意。新規需要層への切り崩しを狙う。
そこで、マンションデベロッパーにお願いだ。ビルや商業施設の見学会はたくさん行われているが、マンション見学会は最近減っているような気がしてならない。価格競争ではなく商品企画力を問う見学会を頻繁に行えば、業界は活気づき消費者にも伝わる。需要は創造するものだ。
本牧エリア7年ぶり 明和地所「クリオ横濱本牧」好調スタート 単価は横浜の半値
「クリオ横濱本牧」
明和地所が分譲を開始した「クリオ横濱本牧」のモデルルームを見学した。最寄り駅のJR山手駅まで徒歩19分だが、横浜駅までのバス便もあり、同社は「横浜駅圏」をアピールしている。単価も約215万円前後と安く、第1期20戸がほぼ完売した。同社は早期完売を見込んでいる。同エリアでは7年ぶりの供給。
物件は、JR根岸線山手駅から19分(横浜駅改札口前バス停から急行利用で約16分)、横浜市中区本牧町1丁目に位置する7階建て全66戸。現在、第1期の20戸がほぼ完売。引き続き分譲中の住戸の専有面積は54.72~75.40㎡、価格は3,453.0万円~4,836.4万円。坪単価は約210万円。竣工予定は2019年4月上旬。設計はいしばし設計。施工は南海辰村建設。
現地は、小学校まで徒歩6分、徒歩10分圏に幼稚園、保育園が複数ある住宅地の一角。建物は山手通り面した7階建て。エントランスアプローチに「前庭」、エントランスホールの先に「中庭」、エレベーターへと続く動線に「通り庭」を設けているのが特徴。
◇ ◆ ◇
「駅から徒歩19分」の広告表示なら、まず売れないと判断しがちだが、同社の読みはそうではない。同社はもともと神奈川県が本拠で、これまで465棟22,139戸(同社公表)を供給している№1デベロッパーだ。需要動向は熟知しているはずだ。
担当者は「横浜までバスの本数は1時間に20本以上。山手駅までフラットだが、歩いている間に横浜駅に着く。反響はものすごくいい。マンションや戸建てからの買換えも期待できる。『北仲』の価格をみなさんご存じ。価格の安さがアピールできるはず。竣工までに売れるはず」と自信を見せる。
確かに、横浜やみなとみらい、北仲と比べると単価は半値に近い安さだ。ユーザーがどのような反応を見せるか。
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また怒り沸騰 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(下)
長嶋修氏著の「不動産格差マンションは『駅7分以内』しか買うな!」(日本経済新聞出版社)に対する批判記事を(上)と(中)にわたって書いた。記者の言いたいことは十分伝えられた。今回は付録のようなものだが、(下)として参考になる長嶋氏の指摘について書こうと思い、その予定原稿を最終チェックしている段階で、何か情報はないかネットで「長嶋修」について検索した。
アマゾンの同氏の作品一覧には、「不動産格差」の本にはどういうわけかあの帯が外されていた。帯なしは締まりがないのはともかく、これはこれで結構なのだが、何と、その隣に「マンションは足立区に買いなさい!」の帯付きの「5年後に笑う不動産」(ビジネス社)が紹介されているではないか。
これにはわが目を疑った。仰天した。発行されたのは「不動産格差」の3カ月後の昨年8月25日だ。「駅7分」以内しか買うなと仰った同じ人が、まさに舌の根も乾かないうちに、手のひらを反すように(足立区居住の人には失礼だが)東京23区内でもっともポテンシャルが低い「足立区」のマンションを買えという。
いったい、消費者はどっちを選べばいいのか。二枚舌にもほどがある。参考までに足立区内で分譲されているマンションを情報誌で調べたら5物件ある。うち4物件(1物件を記者は取材している。コスモスイニシアの物件でものすごくいい商品企画だ)が「駅7分」以上だ。やはり買ってはいけないのか。ユーザーはそれこそまた裂き状態になる。
断っておくが、記者は足立区のマンションはダメとは言っていない。これまで伊勢崎線のマンション・戸建ては200件以上取材している。50年代の後半、あの一世を風靡した日本ランデッィクの素晴らしいマンションを取材したことがあるのだが、2,500万円以上だったため大幅に売れ残り、結局は約500万円値下げせざるをえなくなった。残念に思った記者は、東武鉄道からクレームが付くのを覚悟して〝魔の伊勢崎線〟と大見出しで記事を書いたこともある。
しかし、それでも東武伊勢崎線は好きだし(他に理由があるのだが)、厳しいエリアだけに余計にいとおしい。だから応援する意味でたくさん取材してきたのだ。投資・資産性を最優先して伊勢崎線のマンションを買うユーザーがどこにいるか。冗談はやめてほしい。
まだ言い足りない。(上)と(中)では長嶋氏はデベロッパーと消費者の敵だと思っていたのが、今回のあまりにもの変わり身の早さにまた沸々と怒りが湧いてきた。長嶋氏は敵でも味方でもない、売る(儲ける)ためにはどちらにも寝返りする無節操な人だと結論付けた。これ以上、業界と消費者を愚弄しないでいただきたい。「足立区のマンションを買え」というのも似非評論家が言いたそうな言葉だ。(残念なのか喜ぶべきなのか、北千住の「駅近」は坪300万円をはるかに超えてきた)
◇ ◆ ◇
なので、予定を変更してもう「不動産格差」について言及することをやめる。(中)を書いたあと、「記事にしたことで、この本の購入者が増加して長嶋氏の思惑にはまった感が致します」とある方からわざわざご忠告のメールを頂いた。その通りの展開になってきた。わかってはいるが、馬鹿なのは記者だ。
一つだけ最後に敵に塩を送りたい。書籍に誤字脱字はつきものだが、「6刷」を重ねるベストセラーにしては基本的なミスが多すぎる。
まず、冒頭からして「はじめに」のすぐ21行目に「供給を無視した新築住宅建設は続き…」とある。これは明らかに「需要を無視した…」だろう。20ページの「株価の動きはまず、都心の中古マンション、そして外側の地域へ波及していきます」とある。株価とマンションなどの不動産価格は連動していることを言いたいのはわかるが、これは意味不明。
「7刷」の予定があるのなら、これだけは修正したほうがいい。アマゾンの帯なしも具合が悪い。帯はしっかり締めたほうがいい。タイトルに「駅7分」は論外だが、「コンサルの話は聞くな」というのは冗談が過ぎるか。
ついでにもう一つ。ノンフィクション作家の佐野眞一氏はかつて「昭和の終わりと黄昏ニッポン」(文春文庫)で「足立区」をコテンパンにやっつけたため、区が抗議する事態まで発展したが、その佐野氏の「だれが『本』を殺すのか」(新潮文庫)を皆さんにお勧めする。「読書離れ」は結局、著者と出版社など身内にあると、佐野氏は指摘している。同感。
了
住友不も反論「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(中)(2018/1/25)
羊頭狗肉だ「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)(2018/1/24)
タカラレーベン オーナーチェンジに特化した買取再販に参入
タカラレーベンがオーナーチェンジに特化した中古マンション買取再販事業に参入する。進出に伴い、グループ会社のタフコの社名を2月1日付で「レーベンゼストック」に変更し、代表取締役社長に岡部剛氏が就任する。
新会社は、1戸から複数戸まで買い受け、入居者が退去した後にリノベーションを行い、新築マンションブランド「LEBEN」で培った高いデザイン性と住み心地を兼ね備えたリニューアルマンションを供給する。
伊藤忠都市開発×東急リバブル 一棟リノベ「文京千駄木」2戸に申し込み
「ヴィータス文京千駄木」
伊藤忠都市開発と東急リバブルのJVリノベーションマンション「ヴィータス文京千駄木」を見学した。築23年の全24戸の賃貸マンションをフルリノベーションしたもので、2週間で公開できる6戸のうち2戸に申し込みが入るなど順調な立ち上がり。
物件は、東京メトロ南北線本駒込駅から徒歩6分、同千代田線千駄木駅から徒歩7分、文京区千駄木5丁目に位置する6階建て全24戸。建築年月は平成7年3月。現在分譲中の住戸(3戸)の専有面積は50.40~54.00㎡、価格は4,480万~4,780万円。坪単価は300万円の予定。販売代理は東急リバブル。
現地は、団子坂のヒルトップ。近くには「森鴎外記念館」「夏目漱石居宅跡」「青鞜社発祥の跡」などがある。
建物は賃貸だったものを両社が取得したもので、賃貸借契約が終了し、賃借人が退去したあとに順次リノベして分譲していく。エントランスやエントランスホールなど共用部のバリューアップ工事も実施済み。
両社は機会があれば一緒にリノベマンション事業を行うとしているが、今後は未定。
エントランス(左)とモデルルーム
◇ ◆ ◇
この日は取材の帰りに立ち寄った喫茶店の水が温かく感じるほど寒い日だったが、見学してよかった。青鞜社の発祥跡に巡り合えたのがなにより嬉しかった。女性解放運動の先駆者・平塚らいてうが雑誌「青鞜」の創刊号(明治44年9月)に寄せた発刊の辞「元始、女性は太陽であった」がよみがえった。発刊の辞は「青空文庫」でも読めるので、若い人にぜひ読んでいただきたい。跡地は東京建物の「Brillia」のマンションになっていた。
森鴎外が曽祖父という千葉大学予防医学センター長・森千里教授には昨年11月にお目にかかることができた。
この界隈の同じ道を平塚らいてう、野上弥生子、夏目漱石、森鴎外が歩いていたかと想像するだけでハッピーな気持ちになる。そんな地にこのマンションはある。
「青鞜社」発祥の地を示す銘板(左)と「森鴎外記念館」
◇ ◆ ◇
モデルルームを見学して、天井高はリビングが2350ミリだったので、賃貸仕様であることがすぐ分かった。サッシも単板ガラスだった。
分譲単価は予想した通り。新築は400万円前後が相場だから、リーズナブルな価格設定ではないかと思う。
最寄駅からは徒歩7分以内でよかった。戸建てではないが「工夫(リノベ)次第で資産になる」のか。
積水ハウス・千葉大 健康増進につながる空気環境 研究第3段階へ 実験棟完成(2017/11/10)
住友不も反論「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(中)
「不動産格差」(日本経済新聞出版社)
前回、「5年前までは駅から徒歩10分でよかったものがどうして今は7分なのか、7分を超えると極端に買い手が少なくなるのは本当か、長嶋氏は全く説明していない」と書いた。
実際はどうか。「駅から7分以内」(以下、駅7分)と「駅から8分以上」(以下、以遠)でそんなに売れ行きが極端に異なるのか、現在と5年前を比較してみた。データは不動産経済研究所の「不動産経済調査月報」に拠った。(人のふんどしで相撲を取りたくないのだが)
2017年11月のマンション平均月間契約率は67.9%で、「駅7分」は69.8%、「以遠」は64.5%だ。明らかに「以遠」のほうが売れ行きは悪い。しかも、「駅7分」の供給量は2,141戸に対し、「以遠」は1,225戸だから、傾向としては「駅7分」に各社がシフトしていると取れなくもない。しかし、「駅7分」だって、巷間言われる「好調」ラインの70%(このマクロデータを鵜呑みにするな)を割っている。
一方、5年前の2011年10月の平均月間契約率は70.4%で、「駅7分」は71.6%、「以遠」は68.7%(一部修正)だ。供給量は「駅7分」が1,625戸で、「以遠」は1,038戸だ。
この2つの事例だけでは断定できないが、「極端」な差はない。長嶋氏の主張は根底から崩れるといえないか。前回も書いたとおり、ユーザーが物件を選択する際に重視するのは「価格」「間取り・部屋数」「交通アクセス」「広さ」「日当たり・風通し」であるのは今も昔も変わらない。
デベロッパーだって「駅7分」を仕入れようとするのは当然だ。ユーザーがそれを望んでいるからだ。しかし、「価格が安くて、間取りが広くて、交通便が良くて、環境もいい」マンションなんて皆無だ。仮にこれらの条件を満たすとすれば、相場の3~4倍でも売れるはずだ(タワーマンションの下層階と上層階はこれくらい差がある物件は少なくないが)。
ユーザーの希望する条件を満たせないから、「以遠」物件では様々な工夫を凝らす。価格を下げる、設備仕様レベルを上げる、間取りを広くする…などだ。商品企画・販売担当はこれらに需給関係、競合物件の動向などをにらみながら価格を設定する。マンション事業の難しくて面白いところだ。市場は絶えず動いており、一瞬でも判断を間違うと売れ行きに響いてくるから目が離せない。
…と、まあ、ここまで書いてきたが、こんなのは相撲でいえば目くらましか張り手だ。野球なら長嶋さん(修氏じゃありません)の客受けを狙った空振りだ。日経(出版社)さんも長嶋(修)さんもびくともしないだろう。が、次の一撃は両者を叩き潰すに十分な反論になるはずだ。
記者はこの記事を書くにあたって、デベロッパー各社に次の質問をした。①「7分を超えると、極端に買い手が少なくなる」「徒歩7分を超える用地仕入れには非常に慎重」は事実か②この主張には「購入者」の視点が欠落していると思うがどうか。住宅は金融商品ではない③この本の影響はあるか④分譲戸建ては「駅徒歩7分以内」の供給シェアはどれくらいあるか-。
これに対して、「社名出していただいて構いませんので応援演説に加勢いたします」と、3年連続供給トップで、業績も絶好調の住友不動産の広報マンからメールが届いた。メールは個人からだが、同社の公式コメントととれる。
これには①7分以内か否かで土地の仕入れを区別することはない②安定供給を行い、様々なニーズに応えるラインナップを取り揃えている③ある記者から「7分以内でないと売れないんでしょ?」と問われた経験あり④分譲戸建てで7分以内のシェアは極めて低い-とある。
「以遠」でもよく売れている事例として今月末に竣工する「シティテラス小金井公園」(922戸)を上げた。
「これまでに500戸を契約するなど、お客さまから圧倒的な支持を受けています。緑豊かな環境、規模感、共用施設・共用サービスの充実、専用シャトルバス運行など、駅近にはない落ち着いた住環境と、スケールメリットを活かした商品企画の充実によって、30代ファミリーを中心に幅広い世代から評価されています。駅近でなくとも物件の魅力を最大限に高め、利便性の向上を図ることや資産性のあるマンションを創るため、商品企画を日々研究し続けています」とコメントしている。
「小金井公園」は、西武線花小金井駅から徒歩8分(JR武蔵小金井駅からバス6分徒歩4分)の物件だ。一昨年の分譲開始だが、これまたすごい販売スピードだ。「7分を超えると、極端に買い手が少なくなる」とどうしていえるのか(これは冗談だが、8分にしておけば同社の反撃はなかったかも⇒いいかげんなことを言ってはダメということ)。
同社がネットで公表しているマンションを「駅7分」と「以遠」に分けてみた。比率は58(物件):30(物件)だ。広報マンのコメントを裏付けている。「以遠」の仕入れに「非常に慎重」な姿勢をとったら、売り上げ・戸数は激減するはずだ。
他の大手デベロッパーの「駅7分」と「以遠」の比率もネットで調べた。三井不動産レジデンシャルのマンションは39:17で、戸建てを含めると45:43だ。野村不動産はマンション・戸建て合計で25:39(戸建てが多い)と逆転する。最近「駅近」に注力している明和地所のマンションは13:10だ。
ある大手不動産流通会社からもメールが届いた。紹介すると①私が担当しているエリアで見る限り、そのような客観的事実はありません②仰る通りです。お客様は、価格、通勤、通学、子育て環境など、トータルで総合的に判断しております③お客様、当社社員から話題に上がった記憶がありません④正式なデ-タは取っておりませんが、主観的な感覚で言えば10~15%、良くても20%前後-とある。
また、別の方は次のコメントを寄せた。「牧田さんのご指摘はごもっともだと思います。先に申し上げておくと、個人的には長島修氏はキライではないです(業界では希少人種です)。彼の問題意識は業界人はキチンと認識すべきです。ただし、近年はすっかり御意見番的な立ち位置になってしまい、『世の中に必要とされなくなったら、さくら事務所は解体すればよい』と潔く言い切っていた頃の歯切れの良さが影を潜めているのは正直残念ではあります。それと、実務から離れられている影響か、今の現場の状況を的確に掴めているとは思えない意見・主張が目立ちます。一部の偏った人たち(正直現場をご存じない上の方々と新興系企業の方々)の意見ばかりを聞いてアップデートしていくあまり、結果として顧客不在の机上論が展開されるのだと思われます。 今回の著書も、そんな流れの中で書かれたものだと、発売直後、読んだ際に感じました」
あるデベロッパーも「当社としては商品企画で勝負するところもあり、徒歩分数で仕入れをやめるということでもない」としている。
◇ ◆ ◇
これで記者の言いたいこと、目的は達せられた。コメントを寄せられた方々に感謝します。どうしたらマンションが売れるかと頭を絞るデベロッパーと、それこそ飲まず食わず、涙ぐましい節約を行いマイホーム取得の夢を見ているユーザーの声を代弁できたはずだ。
全体として「消費者目線」がこの本には欠落していると思う。〝不動産の9割が下がる〟〝2022年、住宅地バブルの崩壊〟などと危機感をあおり、最後に〝戸建ては手入れ次第で資産になる〟〝空き家は直ちに売却〟せよと誘導・指南する論理の組み立てはどこか宗教団体の勧誘と似ている。自らの立ち位置が不明確で、「第三者」的な頭巾を被っているから余計に怖い。
しかしながら、この記事はためにするために書いたものではない。参考にすべきところもたくさんある。次に紹介する。
続く
羊頭狗肉だ 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)(2018/1/24)
住友不 小金井カントリーを眼下 「シティテラス小金井公園」は坪215万円(2016/7/26)
羊頭狗肉だ 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)
「不動産格差」
さて、皆さんは昨年5月、帯に「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」という惹句が大書きされた日本経済新聞出版社の新書版「不動産格差」(長嶋修氏著)が発刊されたのをご存じか。これまで6刷を重ね「販売冊数は3万冊。この種の本としては好調」(同出版社)のベストセラーだ。発売当初、書店の店頭に平積みされたその本を見て記者は驚きかつ嫌悪感を覚えた。いかにもぼったくりバーの客引きか年増女のストリップティーズのようなうたい文句ではあるが、読者心理を巧みに読んだ「帯」であるのも確かで〝(この本を)買うなら今でしょ〟と内なる悪魔がささやいた。
しばし逡巡したのち、結局は正義が勝った。無視を決め込んだ。年間100件から200件のマンションや分譲戸建て現場取材を続けてきた記者だ。いくら高価な白粉や口紅で塗りたくり挑発しようと、その裏に透けて見える毛をむしり取られたブロイラーのような、100円ショップのおろし金のような、腐臭すら漂う素肌を一瞬にして見抜く眼力が備わっている(積りだ)。そんな安直な本に誘惑されてたまるか。
もともと記者はこの種のマンション本はほとんど読まない。丹念なフィールドワークが生命線であるはずなのに、それを怠り、大方が国土交通省やら経済産業省やらその他民間の調査機関のデータを寄せ集めつぎはぎし、自分の都合(売るため)に加工しているのが落ちだ。所詮はほとんどが伝聞旧聞のたぐいに過ぎない。
ここ数年、「駅近」マンションが人気になっているのは記者もよく知っている。富裕層・アッパーミドル向けの高額マンションが売れるのは結構なことだ。それを煽る記事もたくさん書いてきた。その一方で、郊外マンションを応援する記事にも心血を注いできた。記者はユーザーの見方ではないかもしれないが、敵でもない。マンション適地の価格・建築費の上昇で、普通のサラリーマンが東京23区でも買えなくなってきたことに心を痛めている。
それから半年。「駅7分」は忘れかけていたが、のどに刺さった小骨のように、奥歯に挟まった焼き鳥の小片のようにずっと心のどこかにわだかまっていた。そして、つい先日、わずか1年4カ月で500戸近くを成約した野村不動産「オハナ淵野辺」の取材をしているときだ。だしぬけに〝お前は駅7分を忘れたのか。誰の味方だ、それでも記者か〟と、今度は内なる天使が呼び掛けた。
今度はためらいがなかった。なるほど。二流三流の出版社や受けだけを狙った名も知れぬ著者だったら無視するのだが、発行者は天下の日経新聞(出版社)だ。著者は国土交通省や経済産業省などの各種委員会委員を務めたこともある業界にはよく知られた不動産コンサルタントの長嶋氏だ。これはもうほっとけない。反論あるのみだと決断した。書かない、書きます、書く、書くとき、書けば、書け、書こう!
すぐ本を買った。代金はタバコ2箱分だが、自腹を切るのは癪に障るので会社に請求することにした。
読んでグリコのようにおいしくはないのだがまた驚いた。件の「駅から7分以内」は、何とたった3行しか書かれていないではないか。次の通りだ。
「売買・賃貸とも、5年前は『駅徒歩10分』で良かったのですが、昨今は『駅徒歩7分』が目安です。7分を超えると、極端に買い手が少なくなります。新築マンションデベロッパーも、昨今は徒歩7分を超える用地仕入れには非常に慎重です」(113~114ページ)
5年前までは駅から徒歩10分でよかったものがどうして今は7分なのか、7分を超えると極端に買い手が少なくなるのは本当か、長嶋氏は全く説明していない。
これでは羊頭狗肉ではないかと怒りがせりあがってきたが、ぐっとこらえた。
「富裕層やアッパーミドル向けが投資や資産性を優先して購入する」という条件付きで、この長嶋氏の主張に同意する。交通利便性は重要な物件選好の要素の一つだし、都心部の高額マンションの値上がりはまだ序の口だ。お金持ちはどんどん都心の「駅近」はもちろん№1マンションを買えといいたい。
しかし、長嶋氏も「不動産の売買価格は株価などと異なり…」(92ページ)と書くように、マンションは金融商品では断じてない。買わずにはいられない事情がみんなある。死ぬまで暮らせるほど賃貸は安くないし、なによりあらゆる居住性能が劣る。
データは少し古いが、アットホームの2012年の住宅購入者に対するアンケート調査を紹介する。アンケートほどあてにならないものはないが、アットホームのそれはとても面白い。記者はいつも腹を抱えながら読む。
このアンケートは非常にまじめなもので、的確に住宅購入者の意識を捉えている。住宅取得層の素顔がよくわかる。調査対象は、この年に住宅を購入した20~40歳代の首都圏に住む男女600人で、世帯年収は平均886万円。
これによると、マンションも戸建ても購入理由は「家賃がもったいない」が50%前後でトップ、以下「金利が低い」「自分の家を持ちたかったから」「税制優遇があるから」と続き、「資産を持ちたかったから」は6番目18%に過ぎない。
購入動機は、トップの「いい物件があったから」はともかく、「結婚」「出産」「賃貸借契約更新」「子供の進学」「親と同居」「転勤」などだ。不動産の資産性を考慮する余裕などないことが分かる。
購入価格は中古マンションの平均2,851万円からもっとも高い新築マンションでも4,479万円だ。親からの援助も平均で682万円。重視するのはもちろん「価格」がトップで、「間取り・部屋数」「交通アクセス」「広さ」「日当たり・風通し」などと続く。
最寄り駅までの所要時間は、マンションは「徒歩3分以内」と「徒歩5分以内」を合わせると41.5%だが、「徒歩10分以内」が20.3%、「徒歩15分以内」が13.4%あり、それ以上も7.7%ある。戸建ては「徒歩10分以内」がもっとも多く20.3%で、「徒歩3分以内」と「徒歩5分以内」「徒歩10分以内」を合わせても35.9%しかない。約64%の人が「徒歩10分以上」になっている。
実につましい購入者像が浮かびあがるではないか。一生に一度の買い物をするためにみんな涙ぐましい努力を行っている。
長嶋氏もこのようなデータを知らないはずがないし、東京23区内の「徒歩7分以内」の子育てファミリー向けなら6,000万円以上ということもご存じのはずだ。知らなければマンションについて語る資格はないし、知っていて「7分以内」と強弁するのであればもう何をかいわんや。
長嶋氏はこの住宅取得層に冷水を浴びせかけた。これが許せないのだ。
続く
(次回は、具体的事実に基づいて「駅7分」に反論を加える)
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