また怒り沸騰 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(下)
長嶋修氏著の「不動産格差マンションは『駅7分以内』しか買うな!」(日本経済新聞出版社)に対する批判記事を(上)と(中)にわたって書いた。記者の言いたいことは十分伝えられた。今回は付録のようなものだが、(下)として参考になる長嶋氏の指摘について書こうと思い、その予定原稿を最終チェックしている段階で、何か情報はないかネットで「長嶋修」について検索した。
アマゾンの同氏の作品一覧には、「不動産格差」の本にはどういうわけかあの帯が外されていた。帯なしは締まりがないのはともかく、これはこれで結構なのだが、何と、その隣に「マンションは足立区に買いなさい!」の帯付きの「5年後に笑う不動産」(ビジネス社)が紹介されているではないか。
これにはわが目を疑った。仰天した。発行されたのは「不動産格差」の3カ月後の昨年8月25日だ。「駅7分」以内しか買うなと仰った同じ人が、まさに舌の根も乾かないうちに、手のひらを反すように(足立区居住の人には失礼だが)東京23区内でもっともポテンシャルが低い「足立区」のマンションを買えという。
いったい、消費者はどっちを選べばいいのか。二枚舌にもほどがある。参考までに足立区内で分譲されているマンションを情報誌で調べたら5物件ある。うち4物件(1物件を記者は取材している。コスモスイニシアの物件でものすごくいい商品企画だ)が「駅7分」以上だ。やはり買ってはいけないのか。ユーザーはそれこそまた裂き状態になる。
断っておくが、記者は足立区のマンションはダメとは言っていない。これまで伊勢崎線のマンション・戸建ては200件以上取材している。50年代の後半、あの一世を風靡した日本ランデッィクの素晴らしいマンションを取材したことがあるのだが、2,500万円以上だったため大幅に売れ残り、結局は約500万円値下げせざるをえなくなった。残念に思った記者は、東武鉄道からクレームが付くのを覚悟して〝魔の伊勢崎線〟と大見出しで記事を書いたこともある。
しかし、それでも東武伊勢崎線は好きだし(他に理由があるのだが)、厳しいエリアだけに余計にいとおしい。だから応援する意味でたくさん取材してきたのだ。投資・資産性を最優先して伊勢崎線のマンションを買うユーザーがどこにいるか。冗談はやめてほしい。
まだ言い足りない。(上)と(中)では長嶋氏はデベロッパーと消費者の敵だと思っていたのが、今回のあまりにもの変わり身の早さにまた沸々と怒りが湧いてきた。長嶋氏は敵でも味方でもない、売る(儲ける)ためにはどちらにも寝返りする無節操な人だと結論付けた。これ以上、業界と消費者を愚弄しないでいただきたい。「足立区のマンションを買え」というのも似非評論家が言いたそうな言葉だ。(残念なのか喜ぶべきなのか、北千住の「駅近」は坪300万円をはるかに超えてきた)
◇ ◆ ◇
なので、予定を変更してもう「不動産格差」について言及することをやめる。(中)を書いたあと、「記事にしたことで、この本の購入者が増加して長嶋氏の思惑にはまった感が致します」とある方からわざわざご忠告のメールを頂いた。その通りの展開になってきた。わかってはいるが、馬鹿なのは記者だ。
一つだけ最後に敵に塩を送りたい。書籍に誤字脱字はつきものだが、「6刷」を重ねるベストセラーにしては基本的なミスが多すぎる。
まず、冒頭からして「はじめに」のすぐ21行目に「供給を無視した新築住宅建設は続き…」とある。これは明らかに「需要を無視した…」だろう。20ページの「株価の動きはまず、都心の中古マンション、そして外側の地域へ波及していきます」とある。株価とマンションなどの不動産価格は連動していることを言いたいのはわかるが、これは意味不明。
「7刷」の予定があるのなら、これだけは修正したほうがいい。アマゾンの帯なしも具合が悪い。帯はしっかり締めたほうがいい。タイトルに「駅7分」は論外だが、「コンサルの話は聞くな」というのは冗談が過ぎるか。
ついでにもう一つ。ノンフィクション作家の佐野眞一氏はかつて「昭和の終わりと黄昏ニッポン」(文春文庫)で「足立区」をコテンパンにやっつけたため、区が抗議する事態まで発展したが、その佐野氏の「だれが『本』を殺すのか」(新潮文庫)を皆さんにお勧めする。「読書離れ」は結局、著者と出版社など身内にあると、佐野氏は指摘している。同感。
了
住友不も反論「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(中)(2018/1/25)
羊頭狗肉だ「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)(2018/1/24)
タカラレーベン オーナーチェンジに特化した買取再販に参入
タカラレーベンがオーナーチェンジに特化した中古マンション買取再販事業に参入する。進出に伴い、グループ会社のタフコの社名を2月1日付で「レーベンゼストック」に変更し、代表取締役社長に岡部剛氏が就任する。
新会社は、1戸から複数戸まで買い受け、入居者が退去した後にリノベーションを行い、新築マンションブランド「LEBEN」で培った高いデザイン性と住み心地を兼ね備えたリニューアルマンションを供給する。
伊藤忠都市開発×東急リバブル 一棟リノベ「文京千駄木」2戸に申し込み
「ヴィータス文京千駄木」
伊藤忠都市開発と東急リバブルのJVリノベーションマンション「ヴィータス文京千駄木」を見学した。築23年の全24戸の賃貸マンションをフルリノベーションしたもので、2週間で公開できる6戸のうち2戸に申し込みが入るなど順調な立ち上がり。
物件は、東京メトロ南北線本駒込駅から徒歩6分、同千代田線千駄木駅から徒歩7分、文京区千駄木5丁目に位置する6階建て全24戸。建築年月は平成7年3月。現在分譲中の住戸(3戸)の専有面積は50.40~54.00㎡、価格は4,480万~4,780万円。坪単価は300万円の予定。販売代理は東急リバブル。
現地は、団子坂のヒルトップ。近くには「森鴎外記念館」「夏目漱石居宅跡」「青鞜社発祥の跡」などがある。
建物は賃貸だったものを両社が取得したもので、賃貸借契約が終了し、賃借人が退去したあとに順次リノベして分譲していく。エントランスやエントランスホールなど共用部のバリューアップ工事も実施済み。
両社は機会があれば一緒にリノベマンション事業を行うとしているが、今後は未定。
エントランス(左)とモデルルーム
◇ ◆ ◇
この日は取材の帰りに立ち寄った喫茶店の水が温かく感じるほど寒い日だったが、見学してよかった。青鞜社の発祥跡に巡り合えたのがなにより嬉しかった。女性解放運動の先駆者・平塚らいてうが雑誌「青鞜」の創刊号(明治44年9月)に寄せた発刊の辞「元始、女性は太陽であった」がよみがえった。発刊の辞は「青空文庫」でも読めるので、若い人にぜひ読んでいただきたい。跡地は東京建物の「Brillia」のマンションになっていた。
森鴎外が曽祖父という千葉大学予防医学センター長・森千里教授には昨年11月にお目にかかることができた。
この界隈の同じ道を平塚らいてう、野上弥生子、夏目漱石、森鴎外が歩いていたかと想像するだけでハッピーな気持ちになる。そんな地にこのマンションはある。
「青鞜社」発祥の地を示す銘板(左)と「森鴎外記念館」
◇ ◆ ◇
モデルルームを見学して、天井高はリビングが2350ミリだったので、賃貸仕様であることがすぐ分かった。サッシも単板ガラスだった。
分譲単価は予想した通り。新築は400万円前後が相場だから、リーズナブルな価格設定ではないかと思う。
最寄駅からは徒歩7分以内でよかった。戸建てではないが「工夫(リノベ)次第で資産になる」のか。
積水ハウス・千葉大 健康増進につながる空気環境 研究第3段階へ 実験棟完成(2017/11/10)
住友不も反論「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(中)
「不動産格差」(日本経済新聞出版社)
前回、「5年前までは駅から徒歩10分でよかったものがどうして今は7分なのか、7分を超えると極端に買い手が少なくなるのは本当か、長嶋氏は全く説明していない」と書いた。
実際はどうか。「駅から7分以内」(以下、駅7分)と「駅から8分以上」(以下、以遠)でそんなに売れ行きが極端に異なるのか、現在と5年前を比較してみた。データは不動産経済研究所の「不動産経済調査月報」に拠った。(人のふんどしで相撲を取りたくないのだが)
2017年11月のマンション平均月間契約率は67.9%で、「駅7分」は69.8%、「以遠」は64.5%だ。明らかに「以遠」のほうが売れ行きは悪い。しかも、「駅7分」の供給量は2,141戸に対し、「以遠」は1,225戸だから、傾向としては「駅7分」に各社がシフトしていると取れなくもない。しかし、「駅7分」だって、巷間言われる「好調」ラインの70%(このマクロデータを鵜呑みにするな)を割っている。
一方、5年前の2011年10月の平均月間契約率は70.4%で、「駅7分」は71.6%、「以遠」は68.7%(一部修正)だ。供給量は「駅7分」が1,625戸で、「以遠」は1,038戸だ。
この2つの事例だけでは断定できないが、「極端」な差はない。長嶋氏の主張は根底から崩れるといえないか。前回も書いたとおり、ユーザーが物件を選択する際に重視するのは「価格」「間取り・部屋数」「交通アクセス」「広さ」「日当たり・風通し」であるのは今も昔も変わらない。
デベロッパーだって「駅7分」を仕入れようとするのは当然だ。ユーザーがそれを望んでいるからだ。しかし、「価格が安くて、間取りが広くて、交通便が良くて、環境もいい」マンションなんて皆無だ。仮にこれらの条件を満たすとすれば、相場の3~4倍でも売れるはずだ(タワーマンションの下層階と上層階はこれくらい差がある物件は少なくないが)。
ユーザーの希望する条件を満たせないから、「以遠」物件では様々な工夫を凝らす。価格を下げる、設備仕様レベルを上げる、間取りを広くする…などだ。商品企画・販売担当はこれらに需給関係、競合物件の動向などをにらみながら価格を設定する。マンション事業の難しくて面白いところだ。市場は絶えず動いており、一瞬でも判断を間違うと売れ行きに響いてくるから目が離せない。
…と、まあ、ここまで書いてきたが、こんなのは相撲でいえば目くらましか張り手だ。野球なら長嶋さん(修氏じゃありません)の客受けを狙った空振りだ。日経(出版社)さんも長嶋(修)さんもびくともしないだろう。が、次の一撃は両者を叩き潰すに十分な反論になるはずだ。
記者はこの記事を書くにあたって、デベロッパー各社に次の質問をした。①「7分を超えると、極端に買い手が少なくなる」「徒歩7分を超える用地仕入れには非常に慎重」は事実か②この主張には「購入者」の視点が欠落していると思うがどうか。住宅は金融商品ではない③この本の影響はあるか④分譲戸建ては「駅徒歩7分以内」の供給シェアはどれくらいあるか-。
これに対して、「社名出していただいて構いませんので応援演説に加勢いたします」と、3年連続供給トップで、業績も絶好調の住友不動産の広報マンからメールが届いた。メールは個人からだが、同社の公式コメントととれる。
これには①7分以内か否かで土地の仕入れを区別することはない②安定供給を行い、様々なニーズに応えるラインナップを取り揃えている③ある記者から「7分以内でないと売れないんでしょ?」と問われた経験あり④分譲戸建てで7分以内のシェアは極めて低い-とある。
「以遠」でもよく売れている事例として今月末に竣工する「シティテラス小金井公園」(922戸)を上げた。
「これまでに500戸を契約するなど、お客さまから圧倒的な支持を受けています。緑豊かな環境、規模感、共用施設・共用サービスの充実、専用シャトルバス運行など、駅近にはない落ち着いた住環境と、スケールメリットを活かした商品企画の充実によって、30代ファミリーを中心に幅広い世代から評価されています。駅近でなくとも物件の魅力を最大限に高め、利便性の向上を図ることや資産性のあるマンションを創るため、商品企画を日々研究し続けています」とコメントしている。
「小金井公園」は、西武線花小金井駅から徒歩8分(JR武蔵小金井駅からバス6分徒歩4分)の物件だ。一昨年の分譲開始だが、これまたすごい販売スピードだ。「7分を超えると、極端に買い手が少なくなる」とどうしていえるのか(これは冗談だが、8分にしておけば同社の反撃はなかったかも⇒いいかげんなことを言ってはダメということ)。
同社がネットで公表しているマンションを「駅7分」と「以遠」に分けてみた。比率は58(物件):30(物件)だ。広報マンのコメントを裏付けている。「以遠」の仕入れに「非常に慎重」な姿勢をとったら、売り上げ・戸数は激減するはずだ。
他の大手デベロッパーの「駅7分」と「以遠」の比率もネットで調べた。三井不動産レジデンシャルのマンションは39:17で、戸建てを含めると45:43だ。野村不動産はマンション・戸建て合計で25:39(戸建てが多い)と逆転する。最近「駅近」に注力している明和地所のマンションは13:10だ。
ある大手不動産流通会社からもメールが届いた。紹介すると①私が担当しているエリアで見る限り、そのような客観的事実はありません②仰る通りです。お客様は、価格、通勤、通学、子育て環境など、トータルで総合的に判断しております③お客様、当社社員から話題に上がった記憶がありません④正式なデ-タは取っておりませんが、主観的な感覚で言えば10~15%、良くても20%前後-とある。
また、別の方は次のコメントを寄せた。「牧田さんのご指摘はごもっともだと思います。先に申し上げておくと、個人的には長島修氏はキライではないです(業界では希少人種です)。彼の問題意識は業界人はキチンと認識すべきです。ただし、近年はすっかり御意見番的な立ち位置になってしまい、『世の中に必要とされなくなったら、さくら事務所は解体すればよい』と潔く言い切っていた頃の歯切れの良さが影を潜めているのは正直残念ではあります。それと、実務から離れられている影響か、今の現場の状況を的確に掴めているとは思えない意見・主張が目立ちます。一部の偏った人たち(正直現場をご存じない上の方々と新興系企業の方々)の意見ばかりを聞いてアップデートしていくあまり、結果として顧客不在の机上論が展開されるのだと思われます。 今回の著書も、そんな流れの中で書かれたものだと、発売直後、読んだ際に感じました」
あるデベロッパーも「当社としては商品企画で勝負するところもあり、徒歩分数で仕入れをやめるということでもない」としている。
◇ ◆ ◇
これで記者の言いたいこと、目的は達せられた。コメントを寄せられた方々に感謝します。どうしたらマンションが売れるかと頭を絞るデベロッパーと、それこそ飲まず食わず、涙ぐましい節約を行いマイホーム取得の夢を見ているユーザーの声を代弁できたはずだ。
全体として「消費者目線」がこの本には欠落していると思う。〝不動産の9割が下がる〟〝2022年、住宅地バブルの崩壊〟などと危機感をあおり、最後に〝戸建ては手入れ次第で資産になる〟〝空き家は直ちに売却〟せよと誘導・指南する論理の組み立てはどこか宗教団体の勧誘と似ている。自らの立ち位置が不明確で、「第三者」的な頭巾を被っているから余計に怖い。
しかしながら、この記事はためにするために書いたものではない。参考にすべきところもたくさんある。次に紹介する。
続く
羊頭狗肉だ 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)(2018/1/24)
住友不 小金井カントリーを眼下 「シティテラス小金井公園」は坪215万円(2016/7/26)
羊頭狗肉だ 「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」の本は買うな!(上)
「不動産格差」
さて、皆さんは昨年5月、帯に「マンションは『駅7分以内』しか買うな!」という惹句が大書きされた日本経済新聞出版社の新書版「不動産格差」(長嶋修氏著)が発刊されたのをご存じか。これまで6刷を重ね「販売冊数は3万冊。この種の本としては好調」(同出版社)のベストセラーだ。発売当初、書店の店頭に平積みされたその本を見て記者は驚きかつ嫌悪感を覚えた。いかにもぼったくりバーの客引きか年増女のストリップティーズのようなうたい文句ではあるが、読者心理を巧みに読んだ「帯」であるのも確かで〝(この本を)買うなら今でしょ〟と内なる悪魔がささやいた。
しばし逡巡したのち、結局は正義が勝った。無視を決め込んだ。年間100件から200件のマンションや分譲戸建て現場取材を続けてきた記者だ。いくら高価な白粉や口紅で塗りたくり挑発しようと、その裏に透けて見える毛をむしり取られたブロイラーのような、100円ショップのおろし金のような、腐臭すら漂う素肌を一瞬にして見抜く眼力が備わっている(積りだ)。そんな安直な本に誘惑されてたまるか。
もともと記者はこの種のマンション本はほとんど読まない。丹念なフィールドワークが生命線であるはずなのに、それを怠り、大方が国土交通省やら経済産業省やらその他民間の調査機関のデータを寄せ集めつぎはぎし、自分の都合(売るため)に加工しているのが落ちだ。所詮はほとんどが伝聞旧聞のたぐいに過ぎない。
ここ数年、「駅近」マンションが人気になっているのは記者もよく知っている。富裕層・アッパーミドル向けの高額マンションが売れるのは結構なことだ。それを煽る記事もたくさん書いてきた。その一方で、郊外マンションを応援する記事にも心血を注いできた。記者はユーザーの見方ではないかもしれないが、敵でもない。マンション適地の価格・建築費の上昇で、普通のサラリーマンが東京23区でも買えなくなってきたことに心を痛めている。
それから半年。「駅7分」は忘れかけていたが、のどに刺さった小骨のように、奥歯に挟まった焼き鳥の小片のようにずっと心のどこかにわだかまっていた。そして、つい先日、わずか1年4カ月で500戸近くを成約した野村不動産「オハナ淵野辺」の取材をしているときだ。だしぬけに〝お前は駅7分を忘れたのか。誰の味方だ、それでも記者か〟と、今度は内なる天使が呼び掛けた。
今度はためらいがなかった。なるほど。二流三流の出版社や受けだけを狙った名も知れぬ著者だったら無視するのだが、発行者は天下の日経新聞(出版社)だ。著者は国土交通省や経済産業省などの各種委員会委員を務めたこともある業界にはよく知られた不動産コンサルタントの長嶋氏だ。これはもうほっとけない。反論あるのみだと決断した。書かない、書きます、書く、書くとき、書けば、書け、書こう!
すぐ本を買った。代金はタバコ2箱分だが、自腹を切るのは癪に障るので会社に請求することにした。
読んでグリコのようにおいしくはないのだがまた驚いた。件の「駅から7分以内」は、何とたった3行しか書かれていないではないか。次の通りだ。
「売買・賃貸とも、5年前は『駅徒歩10分』で良かったのですが、昨今は『駅徒歩7分』が目安です。7分を超えると、極端に買い手が少なくなります。新築マンションデベロッパーも、昨今は徒歩7分を超える用地仕入れには非常に慎重です」(113~114ページ)
5年前までは駅から徒歩10分でよかったものがどうして今は7分なのか、7分を超えると極端に買い手が少なくなるのは本当か、長嶋氏は全く説明していない。
これでは羊頭狗肉ではないかと怒りがせりあがってきたが、ぐっとこらえた。
「富裕層やアッパーミドル向けが投資や資産性を優先して購入する」という条件付きで、この長嶋氏の主張に同意する。交通利便性は重要な物件選好の要素の一つだし、都心部の高額マンションの値上がりはまだ序の口だ。お金持ちはどんどん都心の「駅近」はもちろん№1マンションを買えといいたい。
しかし、長嶋氏も「不動産の売買価格は株価などと異なり…」(92ページ)と書くように、マンションは金融商品では断じてない。買わずにはいられない事情がみんなある。死ぬまで暮らせるほど賃貸は安くないし、なによりあらゆる居住性能が劣る。
データは少し古いが、アットホームの2012年の住宅購入者に対するアンケート調査を紹介する。アンケートほどあてにならないものはないが、アットホームのそれはとても面白い。記者はいつも腹を抱えながら読む。
このアンケートは非常にまじめなもので、的確に住宅購入者の意識を捉えている。住宅取得層の素顔がよくわかる。調査対象は、この年に住宅を購入した20~40歳代の首都圏に住む男女600人で、世帯年収は平均886万円。
これによると、マンションも戸建ても購入理由は「家賃がもったいない」が50%前後でトップ、以下「金利が低い」「自分の家を持ちたかったから」「税制優遇があるから」と続き、「資産を持ちたかったから」は6番目18%に過ぎない。
購入動機は、トップの「いい物件があったから」はともかく、「結婚」「出産」「賃貸借契約更新」「子供の進学」「親と同居」「転勤」などだ。不動産の資産性を考慮する余裕などないことが分かる。
購入価格は中古マンションの平均2,851万円からもっとも高い新築マンションでも4,479万円だ。親からの援助も平均で682万円。重視するのはもちろん「価格」がトップで、「間取り・部屋数」「交通アクセス」「広さ」「日当たり・風通し」などと続く。
最寄り駅までの所要時間は、マンションは「徒歩3分以内」と「徒歩5分以内」を合わせると41.5%だが、「徒歩10分以内」が20.3%、「徒歩15分以内」が13.4%あり、それ以上も7.7%ある。戸建ては「徒歩10分以内」がもっとも多く20.3%で、「徒歩3分以内」と「徒歩5分以内」「徒歩10分以内」を合わせても35.9%しかない。約64%の人が「徒歩10分以上」になっている。
実につましい購入者像が浮かびあがるではないか。一生に一度の買い物をするためにみんな涙ぐましい努力を行っている。
長嶋氏もこのようなデータを知らないはずがないし、東京23区内の「徒歩7分以内」の子育てファミリー向けなら6,000万円以上ということもご存じのはずだ。知らなければマンションについて語る資格はないし、知っていて「7分以内」と強弁するのであればもう何をかいわんや。
長嶋氏はこの住宅取得層に冷水を浴びせかけた。これが許せないのだ。
続く
(次回は、具体的事実に基づいて「駅7分」に反論を加える)
業界とマンション適齢期に勇気 野村不「オハナ淵野辺ガーデニア」驚異的売れ行き(2018/1/13)
世相の反映か「4人家族が幸せに暮らす住宅の広さは89㎡」アットホーム調査(2017/8/1)
アットホーム、今度は恐ろしくぞっとしない「転勤」の実態アンケート(2016/6/1)
「徒歩圏とは10分以内」 時代を映すアンケート結果に愕然(2012/4/23)
フージャース シニア向け「ちはら台駅前」 入居前に6割が契約・申し込み済み
「デュオセーヌ千葉ちはら台駅前」
フージャースホールディングスグループのCCRC(Continuing Care Retirement Community)事業を展開するフージャースケアデザインは1月18・19日、建物が完成し、近く入居が始まるシニア向け分譲マンション「デュオセーヌ千葉ちはら台駅前」を関係者に公開した。坪単価195万円で、約6割が契約・申し込み済みとなっており、順調に販売は進んでいる。
物件は、京成千原線ちはら台駅から徒歩2分、千葉県市原市ちはら台西二丁目の商業地域に位置する10階建て全208戸(住戸204戸、店舗4戸)、他に管理事務室など。現在分譲中の第三期(30戸)の専有面積は44.27~79.21㎡、価格は2,498万~5,398万円(最多価格帯2800万円台)、坪単価195万円。レンタブル比は約85%。竣工は2017年11月。設計・監理・施工は長谷工コーポレーション。
管理運営費(月額)は38,340円~68,600円。食費は朝食500円、昼食600円、夕食900円で30日/60,000円の予定。入居条件は満50歳以上、自身で身の回りのことができ、共同生活が可能な人(一定の審査があり、原則身元引受人が必要)。駐車場は平置き76台。
同社・佐藤多聞社長は「商業立地なのでラウンジを充実させるなど、これまでの物件(過去3物件)を進化させることができた。今後も都内初の『国立』『豊田』で分譲する予定」などと話した。
◇ ◆ ◇
同社のシニア向けマンションを見学するのは今回で4件目だ。最初に案内されたホール・ラウンジは住戸3戸分の約240㎡。天井高が折り上げ部分で約3.5メートルあり、グランドピアノが置かれ、突板仕上げの床、壁(一部を除く)などとともにグレード感がするものだった。ほとんど瞬時に、これまでの3物件と比べ良くなっていると判断した(「鶴川緑山」もグレードは高い)。廊下も天井高は約2.7m、幅は約2mあり、長さは80mあった。
居室はこれまでの物件と比べそれほど変わっていないが、トイレは「柏の葉」と同様、スイングドアが採用されていた。ゲストルームは2室で、食堂・レストランの床は一部ヘリンボーン仕上げで、一般にも開放されるカフェ付き。
ちはら台駅から写す
高級住宅街の一角に シニア向けフージャース他「デュオセーヌ緑山」(2016/10/11)
「ららぽーと」に隣接 坪単価230万円でも人気 シニア向けフージャース「柏の葉」(2016/5/2)
〝早く家に帰りたくなるマンション〟〝北区に住もう〟三菱地所レジほか「赤羽志茂」
「ザ・パークハウス オイコス 赤羽志茂」完成予想図
三菱地所レジデンス・大栄不動産・三菱倉庫3社JVの「ザ・パークハウス オイコス 赤羽志茂」を見学した。南北線志茂駅から徒歩6分の工場跡地に建つ全500戸の大規模物件。物件名は〝オイコス〟だが、追い越す敵はいない。自らの限界を超えるしかない。キャッチフレーズ〝早く家に帰りたくなるマンション〟も最高に素敵だ。
物件は、東京メトロ南北線志茂駅から徒歩6分、北区志茂3・4丁目に位置する15階建てサードスクエア399戸と11建てフォーススクエア101戸の2棟全500戸(一団地認定取得)。専有面積は65.26~84.52㎡、全体の坪単価は未定だが200万円台の半ばになる模様。竣工予定は2019年1月中旬。施工は長谷工コーポレーション。第1期1次55戸の専有面積は65.26㎡・67.82㎡、価格は3,988万~4,988万円(最多価格帯4,400万円台)。1月19日(金)から20日(土)まで登録受付が行われる。
現地は日本化薬の工場跡地。敷地東側に隅田川、荒川が流れる。建物はサードスクエアとフォーススクエアの2棟で、今回分譲はサードスクエアの西向き住戸の3LDK。
〝早く家に帰りたくなるマンション〟がテーマ。広大な敷地面積約18,000㎡を生かし、カフェラウンジ、ブックラウンジ、DIYルームやエクササイズルームなど多彩な共用施設を整備するのが特徴。
80.38㎡と84.52㎡の4LDKはサードスクエアの角住戸30戸に限定し、そのほかはすべて3LDKとしているように、第一次取得者層をメインターゲットとし、宅配ボックスと「ネットスーパー」がコラボして宅配サービスを行うほか、国産材を用いた木の小部屋「箱の間」(記事参照)を初めてモデルルームで提案しているのが特徴。赤羽駅までシャトル便39本を運行(約8分)する予定。徒歩だと約18分。
◇ ◆ ◇
〝オイコス〟と言えば、三菱地所レジデンスが7年前に分譲した「パークハウス吉祥寺OIKOS(オイコス)」が強烈な印象として残っているが、コンセプトは「時代が求めるニーズに呼応するイノベーティブでデザイン性の高いシリーズとして、ザ・パークハウスの安全性や品質のもとに、自由度の高い、入居者にあった自分らしい住まい方を提供」するというものだ。
これまで首都圏の「八潮」「金沢文庫」の2物件と大阪の1物件を供給しているように、第一次取得者層向けの野村不動産〝オハナ〟に近いのか(同社は「野村さんの〝オハナ〟を〝オイコス〟ということではない」と否定)、それとも三井不動産レジデンシャル・同社他「ザ・ガーデンズ東京王子」864戸を〝オイコス〟のか(これまた同社は否定)よくわからない。
坪単価について。記者は計画が明らかになった時点で同社も事業主として販売した「ザ・ガーデンズ東京王子」と競合すれば、アクセスと街並みで引けを取るので同じ単価では厳しいとみていたが、「東京王子」は圧倒的な人気で完売した。最終期などは坪280万円くらいしたのではないか。
「東京王子」と競合しなくなれば、〝オイコス〟競争相手はいなくなる(大成有楽不動産の「十条」はあるが)。自らがどう物件の特性をアピールするかだ。
北区は一昨年、住みよいまち北区をPRし、子育てファミリー層・若年層の定住化を促進するため、シティプロモーション方針を策定。北区出身の漫画家・清野とおる氏を起用して積極的にPR活動を行っている。これに乗る手はある。
「志茂」は「しもた屋」「下々」「下僕」「ピアニシモ」などを連想させるが、「だれ志茂好きになれる」街でもある。「北区と帰宅を掛けたわけではない」と同社はまたまた否定したが、これくらいのダジャレは飛ばしていい。物件ホームページには、多くの人が18時前に帰宅し、平日でも家族みんなで夕食を楽しんでいるオランダの例を紹介している。
北区が推進するシティプロモーションのポスター
マンションの概念を変えた歴史的な物件 三菱地所「パークハウス吉祥寺OIKOS(オイコス)」(2010/11/12)
三菱地所 〝CSRからCSVへ〟新たな価値創造目指す「3×3 Lab Future」(2016/3/29)
業界とマンション適齢期に勇気 野村不「オハナ淵野辺ガーデニア」驚異的売れ行き
「オハナ淵野辺ガーデニア」
野村不動産は1月12日、第一次取得層をメインターゲットにした〝オハナ〟シリーズで過去最大の「オハナ淵野辺ガーデニア」516戸が竣工したのに伴う報道陣向け見学会・説明会を行った。一昨年9月から分譲開始したマンションで、これまで未供給の16戸を除き484戸を成約するなど、〝郊外不振〟が喧伝される中で驚異的な売れ行きを見せている。
「〝私でも買えるのか〟とナーバスに考えていらっしゃるお客さまが多い。そうした方々に対抗トークを当初は考えていたが、そうではなくて、このマンションを買えばどのような生活ができるか、ベネフィットをしっかり伝えることが肝心」と販売担当者は語った。業界とマンション適齢期に元気と勇気を与えるマンションだ。
物件は、横浜線淵野辺・矢部駅から徒歩10分、相模原市中央区淵野辺2丁目に位置する第一工区298戸と第二工区218戸で構成される全516戸。専有面積は68.46~85.16㎡、全戸南向きで3LDKが2,400万円台~、坪単価148万円。施工は長谷工コーポレーション。敷地は小松建機の工場跡地。
約1万本の中高木を中庭に植樹し、オハナシリーズでは初となるゲストルームを設置、入居者のコミュニティづくりを支援するプログラム「さくらキャンパス」を採用しているのが特徴。入居後の生活を圧迫するランニングコストへの不安を解消するため30年間原則一定の修繕積立金制度を導入している。
契約者属性は、年齢は20代が13%、30代が46%と過半を占めるが、50代、60代も合わせると24%。年収は~500万円が43%、~600万円が22%、~700万円が14%。家族数は1人9%、2人43%、3人33%、4人14%。居住地は相模原市44%、横浜市18%、町田市8%、川崎市7%、その他23%。
「オハナ」シリーズは、主に中堅デベロッパーの分野であった郊外型の第一次取得層向けマンションがリーマン・ショックで激減し、需要者の年収もどんどん下落したのを受けて、同社がその〝間隙〟を埋める形で2011年から分譲しているもので、これまで約6年間で全20棟・約4,000戸以上を供給している。
マンション施工トップの長谷工コーポと連携し、シンプルな配棟・形状とし、プランもシンプルにし、〝ぜい肉〟をそぎ落とした設備仕様、自走式駐車場の採用などを徹底させることで、3LDKで3,000万円台に価格を抑制してきた。今後も年間コンスタントに700~800戸を供給していく意向だ。
以上、マンションホームページから
さくらキャンパス
◇ ◆ ◇
記者はこれまで、〝オハナ〟シリーズを第一弾の「八坂萩山町」など10物件くらい見学している。2014年辺りまでは飛ぶように売れた。ところがマンション適地・建築費の高騰が顕著になりだした2015年ころから雲行きが怪しくなり、「オハナ北習志野」241戸などは完売まで3年近くかかったのではないか。長谷工コーポ・辻範明社長も「もう(価格の安い)オハナは供給できない」などとショッキングな話をした。
今回の「淵野辺」が供給される前に、坪単価は150万円を切ることが業界内に伝わり話題になった。単価の安さには驚いたが、戸数の多さから記者は完売まで数年かかると思っていた(年間150戸契約できても完売まで3年4カ月)。
ところがどうだ。全棟が竣工して残りは32戸(未分譲16戸含む)というではないか。郊外部では〝駅近〟でも年間せいぜい70戸くらい成約できればいいというのが今の市場だ。いくら単価が安くても駅から10分のマンションがわずか1年4カ月で500戸近くが売れるなんて夢にも思わなかった。
同社がわざわざ竣工見学会を行ったのも〝オハナ〟堅調をアピールしたかったからに違いないが、これは同社だけでなく業界全体とユーザーを勇気づける快挙だ。(誰だ「マンションは『駅7分以内』しか買うな」と書いたのは)
見学会では、間取りプランはともかく外構・中庭の植栽が見事だった。同社の記念碑的マンション「桜上水ガーデンズ」やその他の「プラウド」と比べてもそれほど見劣りしない出来だった。
ほぼ同じ時期に竣工した「オハナ町田オークコート」310戸(坪単価173万円)は現在、契約率76%の進捗で好調に推移しているそうだ。
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見学会・説明会で心が痛んだのは、同社から配布された厚労省や第一生命経済研究所などのレポートだった。周知の事実ではあるか、少し紹介する。
2000年以降、30代の平均収入は一貫して下落している。2000年の30代男性の年収は30代後半が580万円なのに対し30代前半は485万円、2008年のリーマン・ショックの年は後半が530万円で前半は453万円に下落し、2013年は後半が499万円で前半は438万円だ。前半と後半とではやや差は縮まっているものの60万円くらいの差がある。その一方で、一都三県のマンション価格はリーマン・ショック時を超え5,101万円(2013年)になっている。
「子育てや教育にお金がかかりすぎる」との理由から子どもを持たない30歳未満の世帯は83.3%で、30~34歳は76.0%に達する。
「老後の生活のための準備をしていない理由」は、「現在の生活だけで精一杯で、老後資金の準備のための余裕資金がない」が64.2%。
子育て世代に必要な50㎡以上の賃貸住宅は約91万戸不足しており、東京23区の50~60㎡の平均賃貸家賃は15.25万円。(記者が問題だと思うのは、このように生活が苦しく、将来不安が大きいのに現在の生活に満足している若年層が多いということだ。ミレニアル世代の研究が進むことを期待したい)
ライブラリー
ラウンジ
第一次取得層向けの郊外マンションは復活するのか(2016/8/30)
野村不動産の新ブランド「オハナ」第一弾「オハナ八坂萩山町」堅調な売れ行き(2011/11/10)
野村不動産〝オハナ〟好調続く「草加谷塚」は1カ月で78戸申し込み 単価は超割安の129万円(2014/4/5)
タカラレーベン コンパクトに参入 業界の革命児 高荒美香氏がコーディネート
「SALON DE NEBEL」
高荒氏(「SALON DE NEBEL」で)
タカラレーベンがコンパクトマンション市場に参入する。年間500戸の供給を目指す。1月12日、銀座7丁目に常設サロン「SALON DE NEBEL」を開設し、関係者に公開した。
サロンは、銀座・中央通りに面した資生堂パーラー銀座本店隣の陽栄銀座ビル4階で、対面にはスワロフスキー銀座があり、GINZA SIXやH&Mにも近接する一等地。
同社取締役執行役員営業統括グループ統括部長・高荒美香氏がコーディネートしたもので、「NEBEL」は「NEAR(近く)」「ENJOY(楽しく)」「BEAUTIFUL(美しく)」「ENTERTAINMENT(多様なスタイル)」「LABORATORY(人生の発見基地)」の頭文字から採ったもの。広さは121坪。
モデルルームは40㎡と50㎡の2タイプ。意表を突く斬新なデザインが特徴で、一部には突板仕様の建具・面材を採用している。
商談ルーム「Experience Room」は「Scandinavian」「Italian」「Japanese」「American」「French」「Belgian」の6つのインテリア・カラーデザインが体験でき、カラーセレクトシミュレーター、VRキットも備えられている。
同社・島田和一社長は、「都心から都心近郊のエリアで中長期的に展開していく。当面は年間約500戸を供給していく。ライフスタイルに新しい常識を提案する」とビデオメッセージでコメントした。高荒氏は「広さは30~50㎡。自分の本当の暮らしたい形を表現し、6カ国のインテリアを提案した」と語った。
モデルルームを見学していたある銀行の(20歳代ですよねと呼び掛けた)30歳代の女性Hさんは「キラキラ輝いていて素晴らしい。こんな非日常の華やかなマンションに私も住みたい」と歓声を上げた。(「これは広尾の物件で、坪700万円はしますから、1億円くらい」と説明したら)「えっ、それじゃ買えない」と肩を落とした。隣にいた上司らしき男性も「銀行マンも買えない」と笑っていた。
銀座・丸の内には、三菱地所レジデンス、フージャースコーポレーション、明和地所のコンパクトマンションサロンがある。モリモトも銀座8丁目で分譲を開始した。顧客の争奪戦が激化する。
モデルルーム(左が50㎡、右が40㎡)
◇ ◆ ◇
高荒氏はマンションモデルルームの革命児-著名人に例えればジャンヌ・ダルクかローザ・ルクセンブルクか、それともマザー・テレサかレディ・ガガか。
その型破り、破天荒な提案は他を圧す。記者が初めてそのモデルルームを見たとき、心臓が飛び出るほど驚愕したのをよく覚えている。その後、高荒氏がコーディネートした物件をいくつか記事にしたので、詳細はそちらを参照していただきたい。〝石橋を叩いても渡らない〟イメージが強い同社を劇的に変えた立役者だ。
一番人気は「Scandinavian」とか
タカラレーベン 「巣鴨」で同社初の高単価マンション(2011/2/7)
タカラレーベン 驚嘆の“非日常”を演出「浅草」(2011/8/16)
タカラレーベン新ブランド「THE LEBEN」第一弾「G/CLASSIC 山の手PJ」(2014/3/28)
三菱地所レジデンス 資産形成用コンパクトマンション「ザ・パークワンズ」分譲へ(2016/12/15)
フージャース コンパクト積極化100億円体制に 銀座に常設モデル(2016/9/29)
記者が選んだ 2017年 話題のマンション 37物件
恒例の記者が選んだ「2017年 話題のマンション」37物件を発表する。昨年1年間にモデルルーム・現地見学した105物件の中から話題性、商品企画を重視して選んだ。必ずしも物件の良否を示すものではないことを断っておく。
「記者が選んだ2017年 ベスト3マンション」は次の3物件。
三井不動産レジデンシャル・丸紅「ザ・タワー横浜北仲」
スターツ「クオン流山おおたかの森」&「QUWON(クオン)新浦安」
東京建物「Brillia大山Park Front」
「横浜北仲」「クオン流山・新浦安」「大山」2017年 ベスト3マンション(2017/12/26)。
●春一番
東京建物・住友商事「Brillia Tower代々木公園CLASSY」
2017年の早春のマンション市場をリードしたのが、東京建物・住友商事「Brillia Tower代々木公園CLASSY」だった。同じころ、三井不動産レジデンシャルの皇居に近い「一番町」と、徳川家の狩場だった「浜離宮」が分譲されており、明治神宮に近いこのマンションがいくらで分譲されるか注目していたが、第1期は坪520万円。あまりにもの安さに肩透かしを食らったような気分になったが、市場を盛り上げるためには抑制気味の価格設定は歓迎すべきだったかも。
春一番〝弱音〟一色の業界に旋風起こせるか 東京建物「Brillia Tower代々木公園」(2017/2/17)
●美人マンション
三井不動産レジデンシャル「パークコート一番町」
かつて昔、〝こんな美しいマンション見たことない〟と直截的な見出しで鹿島建設「加賀ガーデンハイツ」を記事にしたことがあるが、三井不動産レジデンシャル「パークコート一番町」は、華やかさを備えた美人マンションだ。とにかくモデルルームがすばらしかった。坪単価は630万円で超割安だった(分譲開始は一昨年末で、当時は高値マンションの売れ行きが不振だったため、価格を抑制したと思われる)
その美しさに声を失った 商品企画も秀逸 三井不レジ「パークコート一番町」(2017/2/21)
●億ション
野村不動産「プラウド代官山猿楽町」
東急不動産・オリックス不動産・大京「ブランズ六本木 ザ・レジデンス」
サンウッド「サンウッド青山」
都心部の好立地マンションの坪単価が軒並み1,000万円近くになった。野村不動産「プラウド代官山猿楽町」、東急不動産他「ブランズ六本木 ザ・レジデンス」、サンウッド「サンウッド青山」などだ。バブル期では当たり前だった10坪で億ションの時代がやってきた。
これぞ本物の億ション 坪950万円はむしろ安い 東急不動産ほか「六本木」(2017/12/11)
4年前の5割高 坪900万円 野村不「プラウド代官山猿楽町」一般8戸が即完(2017/10/30)
サンウッド 創業20周年の集大成 「青山」の全面ヘリンボーン床に驚愕(2017/12/8)
●高値更新
三井不動産レジデンシャル「パークコート山下公園」
三井不動産レジデンシャル「パークホームズ北千住」
三菱地所レジデンス・小田急不動産「ザ・パークハウス 二子玉川碧の杜」
東急電鉄・商事・地所レジ・大林新星和不「ドレッセWISEたまプラーザ」
各エリアの過去の相場をはるかに超えるマンションもかなり分譲された。圧巻は、坪単価520万円でも圧倒的な人気となった三井不動産レジデンシャル「パークコート山下公園」と、同じ三井不動産レジデンシャルの坪単価330万円の「パークホームズ北千住」だ。
高値更新では、全館空調システム「マンションエアロテック」を搭載した三菱地所レジデンス・小田急不動産「ザ・パークハウス 二子玉川碧の杜」が坪500万円を突破したのには驚いた。
「CASBEE横浜」Sランクを取得した好物件の東急電鉄・三菱商事・三菱地所レジデンス・大林新星和不動産「ドレッセWISEたまプラーザ」も坪400万円近いが、残りはわずかのはずだ。
横浜市内最高単価520万円に納得 三井不レジ「パークコート山下公園」が好調(2017/12/22)
〝4方良し〟足立区最高値 三井不レジ「パークホームズ北千住」1期78戸が即日完売(2017/11/24)
「音がしない」「静か」 三菱地所レジ エリア最高値「二子玉川碧の杜」に高い評価(2017/10/13)
圧倒的人気 「CASBEE横浜」S評価 東急電鉄他「ドレッセWISEたまプラーザ」(2017/8/23)
●コンパクトマンション
三菱地所レジデンス「ザ・パークワンズ」
野村不動産「プラウド日本橋人形町パサージュ」
大京「ライオンズ千代田岩本町ミレス」
三菱地所レジデンスが年初から資産形成用コンパクトマンション「ザ・パークワンズ」の分譲を開始し、全員参加型の市場になった1年だった。このほか大手では、これまでもコンスタントに「パークリュクス」を供給してきた三井不動産レジデンシャル、「シティタワー銀座東」や「ドゥ・トゥール」で「SOHO」を盛り込んで順調な売れ行きを見せた。また、大京も4年ぶりに「ライオンズ千代田岩本町ミレス」を供給し、野村不動産は共働きをメインターゲットにした「プラウド日本橋人形町パサージュ」を分譲して人気になった。
三菱地所レジデンス 資産形成用コンパクトマンション「ザ・パークワンズ」分譲へ(2016/12/15)
〝2Lで60㎡台〟新たな需要喚起するか 野村不「プラウド日本橋人形町パサージュ」(2017/5/9)
大京 久々のコンパクト「ライオンズ千代田岩本町ミレス」 売れ行き好調(2017/7/28)
●湾岸
三井不レジ・近鉄不・JX不・日鉄興和不・住友商事「パークタワー晴海」
住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」
京急電鉄・地所レジ他「プライムパークス品川シーサード」
積水ハウス「グランドメゾン品川シーサイド」
野村不動産「プラウドシティ越中島」
三井不レジ・野村不・地所レジ・伊藤忠都市など7社「幕張ベイパーク」
湾岸マンションが話題を呼んだ。三井不動産・近鉄不動産・JX不動産・日鉄興和不動産・住友商事「パークタワー晴海」と住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」、京浜電鉄・大和ハウス工業・三菱地所レジデンス・総合地所・京急不動産「プライムパークス品川シーサード」、積水ハウス「グランドメゾン品川シーサイド」、野村不動産「プラウドシティ越中島」などのほか、全4,500戸という三井不動産レジデンシャル・野村不動産・三菱地所レジデンス・伊藤忠都市開発・東方地所・富士見地所・袖ケ浦興業の7社JV「幕張ベイパーク」も分譲開始された。
三井レジ他「パークタワー晴海」 「有明」と競合必至 価格はいくらになるか(2017/4/26)
好スタート 第1期は330戸 住友不「シティタワーズ東京ベイ」 プラン秀(2017/8/17)
呉越同舟効果 「5本の樹計画」の本領発揮 積水「品川シーサイド」1期207戸!(2017/3/24)
京急電鉄他「品川シーサイド」 資産性アピール 多様なニーズ取り込む戦略(2017/3/14)
野村不「プラウドシティ越中島」は坪300万円強 激戦の湾岸で優位に立つか(2017/7/21)
三井不レジ他4,500戸「幕張ベイパーク」第一弾分譲へ 価格はさて? (2017/9/14)
●再開発
三井不レジ・旭化成不レジ「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」
旭化成不レジ・首都圏不燃建築公社「アトラス品川中延」
積水ハウス「グランドメゾン江古田の杜」
再開発マンションも強みを発揮した。三井不動産レジデンシャル・旭化成不動産レジデンス「パークシティ武蔵小山 ザ タワー」、旭化成不動産レジデンス・首都圏不燃建築公社「アトラス品川中延」、積水ハウス「グランドメゾン江古田の杜」などだ。
都の「マンション環境性能表示」で満点の☆3つ(5項目で15点)に1点だけ欠ける14点を獲得している「江古田の杜」はまだ見学していないが、今年度末までに完成するので、「5本の樹」計画や両面バルコニーにどのプランなどについて記事にしたい。
三井不レジ他 武蔵小山駅前の再開発タワーは坪単価470万円 第1期は204戸(2017/11/20)
公開空地整備で容積40%緩和 旭化成不レジ・不燃建築公社「アトラス品川中延」(2017/12/14)
持続可能な街づくり推進 積水ハウスなど 「江古田の杜プロジェクト」説明会(2017/10/26)
●がんばれ中堅
コスモスイニシア「イニシア西新井」「イニシア松陰神社前」
明和地所「クリオ レジダンス八王子」
モリモト「アールブラン横浜仲町台」
日本エスコン「グランレ・ジェイド渋谷富ヶ谷」
ポラス「ルピアコート西大宮」
〝うちは中中堅ではない〟と怒られるかもしれないが、中堅デベロッパーも良質マンションをたくさん供給した。
さて、その中堅デベロッパーの昨年の供給物件では、コスモスイニシア「イニシア西新井」「イニシア松陰神社前」、明和地所「クリオ レジダンス八王子」、モリモト「アールブラン横浜仲町台」、日本エスコン「グランレ・ジェイド渋谷富ヶ谷」、ポラス「ルピアコート西大宮」などのプランにほれ込んだ。
コスモスイニシアはここ数年素晴らしい商品企画のマンションを供給している。「西新井」は「東京都子育て支援住宅認定制度」第1号物件で、高いハードルを越えた。「松陰神社前」は緑環境を残したい地主の意向をプランに反映した。このほか、同社は最近「魅せる玄関」に注力している。これは文句なしにいい。
明和地所「八王子」もワイドスパンのプランがいいし、セラミックのキッチンカウンタートップを採用するなど意欲的な商品企画が際立った。企画を担当した同社開発事業本部マンション事業建設二部 建設課課長・大竹佳織氏が「お客さまや営業から喜ばれるのが何よりうれしい」と語ったが、この言葉にほれ込んだ。
モリモト「横浜仲町台」は周囲の緑環境と調和する外観デザインが美しい。「ディアナガーデン西麻布」も素晴らしかった。
日本エスコン「渋谷富ヶ谷」は、エレベータ室を巧みに利用し、各戸専用のホワイエを設けたプランがよかった。
ポラス「西大宮」も、トイレ・収納を含めすべてフローリングとすることで掃除機「ルンバ」が働きやすくするなど、働く主婦、または主夫の家事労働が楽になるようよく考えられたプランだ。
高いハードル越える 「東京都子育て支援住宅認定制度」第1号 「イニシア西新井」(2017/2/28)
地主の意向を反映 古民家の緑を残す 月内完売したコスモスイニシア「松陰神社前」(2017/8/8)
樹影を映し込む外観まるで絵画のようモリモト「アールブラン横浜仲町台」(2017/10/24)
真価を世に問う畢生の高級マンション モリモト「ディアナガーデン西麻布」(2017/1/29)
〝タワマンに負けない〟商品企画光る 明和地所「クリオ レジダンス八王子」(2017/12/11)
全戸にホワイエ(屋内廊下)土地の価値を最大限引き出す日本エスコン「渋谷富ヶ谷」(2017/4/24)
これほど働く主婦の目線に立ったマンションはない ポラス「ルピアコート西大宮」(2017/4/12)
●大激戦
相鉄不動産・伊藤忠都市開発・鹿島建設の「グレーシアタワーズ海老名」
小田急不・地所レジ・小田急電鉄「リーフィアタワー海老名アクロスコート」
小田急・相鉄線「海老名」駅圏が大激戦。相鉄不動産・伊藤忠都市開発・鹿島建設の「グレーシアタワーズ海老名」477戸が分譲開始されたほか、サンケイビル・名鉄不動産「海老名ザ・レジデンス」412戸、三井不動産レジデンシャル「パークホームズ海老名フォレストプレミア」84戸(他にもう1棟計画あり)が発売された。年明けからは小田急不動産・三菱地所レジデンス・小田急電鉄「リーフィアタワー海老名アクロスコート」304戸(他に同規模の2棟)が分譲される。トータルすると2,000戸を超える。
「海老名」は「2017年度の神奈川県民が選んだ住みたい街の第7位に。ランキング内のエリアを神奈川県のみに絞ると県内では第4位」というのには驚いた。
満を持して登場 全3棟900戸の第一弾 小田急不の免震タワー「海老名」304戸(2017/12/6)
大激戦区 鹿島の免震構造の相鉄不他「グレーシアタワーズ海老名」 坪単価は240万円(2017/9/28)
●IoT&AI
大和ハウス工業・神奈川中央交通・長谷工コーポ「プレミスト湘南辻堂」
ウェアラブルデバイスなどを用いたIoT技術やAI(人工知能)と、スポーツクラブが監修する運動メニュー提案も盛り込んだ業界初のマンションが、大和ハウス工業・神奈川中央交通・長谷工コーポレーション「プレミスト湘南辻堂」。記者も体力測定に挑戦し、総合80点(下肢のバランスは最低)を獲得したのに狂喜した。物件の後背地には高齢者がたくさん住んでいる。そうした層のニーズも取り込む戦略だろう。
業界初の体力測定装置に狂喜 大和ハウス「プレミスト湘南辻堂」 同社は販売に自信(2017/9/11)
●駅近&海の傍
伊藤忠都市開発「クレヴィア金沢八景THE BAY」
駅近で海の傍というまるでリゾートマンションのような物件が伊藤忠都市開発「クレヴィア金沢八景THE BAY」だ。こんなマンションをこれまでみたことがない。海好きにはたまらないマンションだ。施工が埋立・浚渫、護岸・防波堤工事を得意とするいわゆるマリコンの若築建設であることからもわかるように、工事費はかなり高いはず。
ベランダから釣りができる? 伊藤忠都市「金沢八景THE BAY」1期33戸販売開始(2017/8/24)
●スマートタウン
野村不動産・関電不動産開発・パナソニック「プラウド綱島SST」
CO2排出量の2005年度比40%削減、新エネルギー利用率30%以上などの先駆的な数値目標を掲げる次世代都市型スマートタウン「Tsunashimaサスティナブル・スマートタウン」内の野村不動産・関電不動産開発・パナソニック「プラウド綱島SST」は、「CASBEE横浜」のSランクを取得した好物件。
平成21年以降「S」ランクを取得した分譲マンションは、22年度の「プラウド綱島」「プラウド横濱中山」、23年度の「Brillia City横浜磯子」、28年度の「ドレッセWISEたまプラーザ」とこのマンションの5物件しかない。野村不はこのうちの3物件を占める。
野村不他「プラウド綱島SST」 次世代スマートタウンにふさわしい高いレベル(2017/6/21)
●隈研吾氏
阪急不動産「ジオグランデ元麻布」
阪急不動産が首都圏での攻勢を強めている。同社の最高峰ブランド〝グランデ〟を冠した首都圏第一号マンション「ジオグランデ元麻布」は隈研吾氏が監修した。隈氏が監修したマンションは、三井不動産レジデンシャル「神宮前」「神楽坂」「赤坂」、東京建物「池袋」に続き5棟目。
隈研吾氏がデザイン 〝グランデ〟首都圏第一号 阪急不動産「ジオグランデ元麻布」(2017/3/6)
●一団地認定
三菱地所レジデンス・野村不動産「ザ・パークハウス 白金二丁目タワー」
三菱地所レジデンス・野村不動産「ザ・パークハウス 白金二丁目タワー」はレベルの高い高級マンションだ。シェラトン都ホテルの対面で、元竹中工務店の福利厚生施設跡地。敷地北側にある三菱商事の迎賓館の建て替えと一体として開発したため、建物の絶対高さ40mを100mに緩和され、容積率も600%(本来なら300%強)確保した。設備仕様レベルも高い。今年5月の竣工まで売れるのは間違いなさそう。
緑が面でつながる一等地 地所レジ・野村不「ザ・パークハウス 白金二丁目タワー」(2017/2/23)
●緑環境
三菱地所レジデンス・東建・大栄不動産「ザ・ パークハウス 国分寺四季の森」
ここ数年、大きな公園に隣接・近接するマンションがたくさん供給された。三菱地所レジデンス・東京建物・大栄不動産「ザ・ パークハウス 国分寺四季の森」は、敷地面積約20.7万㎡のうち約45%が緑地の日立製作所中央研究所に隣接。同研究所の庭園は毎年春と秋に公開されている。国分寺崖線の湧水も見られるそうだ。同時期に竣工見学会をやってほしい。